説明

硫黄セメント前駆組成物および該硫黄セメント前駆組成物の調製方法

本発明は、硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物を提供し、有機チタン酸塩は一般分子式(1)のものであり、


式中、RはC(2n)−SまたはC(2m+1)であり、およびnは1から4の範囲の整数であり、mは1から30の範囲の整数であり、およびaは2から8の範囲の整数であり、RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数であり、XOはアルコキシまたはネオアルコキシ基であり、ならびにRおよびRは独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基である。本発明はさらに、このような硫黄セメント前駆組成物を調製する方法、硫黄セメント製品を調製する方法、硫黄セメント製品、およびこのような硫黄セメント前駆組成物の使用を提供する。本発明はさらに、有機チタン酸塩安定化剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄セメント前駆組成物、および硫黄セメント前駆組成物を調製する方法を提供する。本発明はさらに、硫黄セメント製品を調製する方法、硫黄セメント製品、および硫黄セメント、硫黄モルタル、または硫黄コンクリートにおけるこのような硫黄セメント前駆組成物の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
硫黄セメントとは一般に、少なくとも硫黄および充填剤を含む製品を指す。硫黄セメントの特性を改善するために、硫黄は硫黄改質剤を用いて改質することができる。このような改質剤は当分野で知られている。
【0003】
通常の硫黄セメント充填剤は、粒状無機材料である。
【0004】
硫黄セメント−骨材複合体とは一般に、硫黄セメントおよび骨材の両方を含む複合体を指す。硫黄セメント−骨材複合体の例は、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、および硫黄増量(sulphur−extended)アスファルトである。硫黄増量アスファルトは、アスファルト、即ち、典型的に充填剤および残留炭化水素画分を含有するバインダを含む骨材であって、バインダの一部は硫黄、通常は改質硫黄で置換されている。
【0005】
水安定性を改善するために、硫黄セメントまたは硫黄セメント−骨材組成物に安定化剤として有機シラン化合物を用いることが知られている。例えばUS4,164,428において、少なくとも50重量%の硫黄、硫黄改質剤(しばしば、硫黄可塑剤と称される)、微細粒状鉱物懸濁化剤、および有機シラン安定化剤を含む改質硫黄組成物(しばしば、可塑化硫黄組成物と称される)が開示されている。適切な有機シランは一般分子式R−Si(OR’)(式中、R’は低分子量アルキル基であり、Rは通常アルキル短鎖によってケイ素原子に結合している、少なくとも1つの官能基を有する有機基である)を有することが記載されている。好ましい有機シランとして、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられている。
【0006】
US4,376,830において、硫黄セメント、および膨脹性粘土を含有する骨材を含む硫黄セメント−骨材組成物、ならびにこのような組成物を調製する方法が開示されている。これらの方法、および結果として得られる組成物は、組成物を固化(冷却)する前に、組成物にある種の有機シラン化合物を添加することを特徴とする。適切な有機シランは式Z−Si(R)を有することが記載されており、式中、R、R、およびRは低級アルコキシ基であってよく、Zは炭素原子を介してSiに結合している有機基であり、少なくとも1つの溶融硫黄反応性基を有する。Zは例えばメルカプトアルキルであることができる。好ましい有機シランとして、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられている。γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランは非常に有毒であり、非常に不快な臭気を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,164,428号明細書
【特許文献2】米国特許第4,376,830号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
硫黄セメント製品の水安定性を改善する、さらなる安定化剤が当分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
硫黄セメント製品を調製するために、有機チタン酸塩の群から選択された安定化剤を使用できることがここに見出された。
【0010】
従って本発明は、硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物を提供し、有機チタン酸塩は下記の一般分子式のものであり、
【0011】
【化1】

式中、
はC(2n)−SまたはC(2m+1)であり、およびnは1から4の範囲の整数であり、mは1から30の範囲の整数であり、およびaは2から8の範囲の整数であり、RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数であり、
XOはアルコキシまたはネオアルコキシ基であり、ならびに
およびRは独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基である。
【0012】
本発明はさらなる態様において、硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物を提供し、有機チタン酸塩は下記の一般分子式のものであり、
【0013】
【化2】

式中、
はC(2n)−S−Cn’(2n’)であり、およびnおよびn’はそれぞれ独立して1から4の範囲の整数であり、およびaは2から8の範囲の整数であり、
XOおよびX’Oはそれぞれ独立して、アルコキシまたはネオアルコキシ基であり、ならびに
、R、R、およびRはそれぞれ独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基であり、RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数である。
【0014】
本発明はさらなる態様において、硫黄を総組成物重量に対して少なくとも0.05重量%の量の少なくとも有機チタン酸塩と混合して硫黄セメント前駆組成物を得ることを含む、本発明による硫黄セメント前駆組成物を調製する方法を提供し、この方法において有機チタン酸塩は本明細書において上に定義した一般分子式のものである。
【0015】
本発明はさらなる態様において、硫黄セメント製品を調製する方法であって、以下の
(a)少なくとも硫黄、ならびに本明細書において上に定義した有機チタン酸塩および粒状無機材料を、硫黄が溶融する温度で混合して、溶融硫黄セメント製品を得る段階、ならびに
(b)溶融硫黄セメント製品を固化する段階を含む方法を提供する。
【0016】
本発明はなおさらなる態様において、硫黄セメント製品を調製する方法であって、以下の
(a)少なくとも粒状無機材料および本明細書において上に定義した有機チタン酸塩を混合して、有機チタン酸塩を粒状無機材料と反応させる段階、
(b)段階(a)の後、硫黄が液体である温度で元素硫黄を粒状無機材料と混合して、溶融硫黄および粒状無機材料を含む混合物を得る段階、ならびに
(c)混合物を固化して硫黄セメント製品を得る段階を含む方法を提供する。
【0017】
本発明はなおさらなる態様において、本発明による硫黄セメント製品を調製する方法によって得ることのできる硫黄セメント製品を提供する。
【0018】
本発明は他の態様において、硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、または硫黄増量アスファルトにおける、本明細書において上に定義した有機チタン酸塩の安定化剤としての使用を提供する。
【0019】
本発明はさらに他の態様において、硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、または硫黄増量アスファルトにおける、本発明による硫黄セメント前駆組成物の使用を提供する。
【0020】
本明細書において硫黄セメント前駆組成物への言及は、少なくとも1種の硫黄または粒状無機材料の添加後、硫黄セメント製品、例えば硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、および硫黄増量アスファルトを形成する組成物への言及である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による硫黄セメント前駆組成物は、硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む。有機チタン酸塩は、下記の一般分子式のものであることができ、
【0022】
【化3】

式中、
はC(2n)−SまたはC(2m+1)であり、およびnは1から4の範囲の整数であり、mは1から30の範囲の整数である。Rは硫黄との適切な相互作用を提供することのできる基である。好ましくは、RはC(2n)−S基である。そのとき有機チタン酸塩はポリ硫黄を含む有機チタン酸塩と称することができる。この硫黄基は、硫黄との所望の良好な相互作用を提供し、さらに起こり得る硫化水素の形成を低減する。RがC(2n)−S基である場合、aは2から8、好ましくは2から6の範囲の整数である。RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数であり、好ましくは、RはSである。
【0023】
XOはアルコキシまたはネオアルコキシ基である。
【0024】
本明細書においてネオアルコキシ基への言及は、下記の式(3)による基への言及であり、
【0025】
【化4】

式中、
、Z、およびZはそれぞれ、20個までの炭素原子を有する一価のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリール、またはアルカリール基、またはこのハロゲンまたはエーテル置換誘導体である。さらに、Z、Z、またはZは、前記基のオキシ誘導体であることもできる。様々なZ、Z、およびZはそれぞれ、置換基部分に含有される炭素原子を含めて、このような各Zの炭素原子の総数が20を超えないならば、3個までのエーテル、酸素、またはハロゲン置換基を含有することができる。
【0026】
、Z、およびZ基の特に好ましい例は、1から8個の炭素原子を有するアルキル;ベンジルなどの6から10個の炭素原子を有するアラルキル;フェニル、ナフチル、トリル、キシリルを含む6から10個の炭素原子を有するアリールおよびアルカリール基;およびハロゲン置換ブロモフェニル;および4から20個の炭素原子を有するアリルオキシ置換アルキル、および9から20個の炭素原子を有するアリルオキシ置換アリールである。Zがオキシ誘導体である場合、もっとも好ましい化合物は、1から3個の炭素原子を有するアルコキシ誘導体、およびフェノキシ基である。ネオアルコキシ基の適切な例は、(ビス2−エテノラトメチル)プロパノラトおよび(ビス2−プロペノラトメチル)ブタノラトである。ネオアルコキシ基の使用は、安定化剤の温度安定性を高める可能性がある。
【0027】
ネオアルキル基は、ネオアルコキシ基から結合酸素を引いたものである。
【0028】
およびRは独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基である。RおよびRがアルキルまたはネオアルキルであるとき、ROおよびROは本明細書において上に定義したアルコキシまたはネオアルコキシ基である。その場合、RおよびRはXと等しい。
【0029】
好ましくは、RおよびRは、これらが独立してRまたはXと等しくなるように選択される。より好ましくは、これにより安定化剤と無機材料との間の最大数のカップリングが提供されるため、RおよびRはXと等しい。
【0030】
有機チタン酸塩は、下記の一般分子式のポリ硫黄を含む有機チタン酸塩であることができ、
【0031】
【化5】

式中、
はC(2n)−S−Cn’(2n’)であり、およびnおよびn’はそれぞれ独立して1から4の範囲の整数であり、aは2から8、好ましくは2から6の範囲の整数である。
【0032】
XOおよびX’Oはそれぞれ独立して、アルコキシまたはネオアルコキシ基である。好ましくは、X’OはXOと同じである。
【0033】
、R、R、およびRはそれぞれ独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基である。RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数であり、好ましくは、RはSである。R、R、R、およびRがアルキルまたはネオアルキルであるとき、RO、RO、RO、およびROは本明細書において上に定義したアルコキシまたはネオアルコキシ基である。その場合、R、R、R、およびRはXと等しい。好ましくは、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、XまたはC(2n)−Sと等しく、より好ましくは、これにより安定化剤と無機材料との間の最大数のカップリングが提供されるため、R、R、R、およびRはXと等しい。
【0034】
好ましくは、R、R、R、およびRは同じである。
【0035】
用いられる有機チタン酸塩にかかわりなく、XOおよびX’Oはそれぞれ独立して、アルコキシまたはネオアルコキシ基、より好ましくは低級アルコキシ基、さらに好ましくは1から4個の炭素原子を有するアルコキシ基、例えばメトキシまたはエトキシである。
【0036】
好ましくは、nはn’と同じ値を有する。
【0037】
有機チタン酸塩の調製、特にネオアルコキシ基を含む有機チタン酸塩の調製に関して、US4,623,738に言及されている。適切なポリ硫黄を含む基に関して、US4,164,428にも言及されている。
【0038】
硫黄セメント前駆組成物は、所望の任意の量の有機チタン酸塩を含むことができる。好ましくは、硫黄セメント前駆組成物は、総組成物重量に対して少なくとも0.05重量%の有機チタン酸塩を含む。より好ましくは、硫黄セメント前駆組成物は、総組成物重量に対して0.05から25重量%、好ましくは0.5から10重量%、より好ましくは1から10重量%の範囲の有機チタン酸塩を含む。このような硫黄セメント前駆組成物は、例えば有利にはオフサイトで製造し、オンサイトで少量で用いることができる。硫黄セメント前駆組成物は、典型的に硫黄セメント製品の調製方法において用いられる濃度より高い、ある濃度の有機チタン酸塩を含有することができる。例えば硫黄セメント製品を調製するためにオンサイトで用いられるとき、このような硫黄セメント前駆組成物は、適切には安定化剤の必要性を満たす量で無機材料に添加することができる。硫黄セメント製品は、硫黄セメント前駆組成物に十分に存在していない場合、追加の硫黄および他の成分を添加することによって完成させることができる。硫黄セメント前駆組成物の使用は、有機チタン酸塩の輸送およびオンサイトでの貯蔵の必要性を排除する。
【0039】
さらに、本発明による硫黄セメント前駆組成物は、硫黄改質剤を含むことができる。典型的に、硫黄セメント前駆組成物は、硫黄の重量に対して0.1から10重量%の範囲の量の硫黄改質剤を含むことができる。このような改質剤は当分野で知られている。このような改質剤の例は、脂肪族または芳香族ポリスルフィド、または硫黄との反応でポリスルフィドを形成する化合物である。ポリスルフィドを形成する化合物の例は、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)もしくは5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB)、ジシクロペンタジエン、リモネン、またはスチレンなどの、ナフタレンまたはオレフィン化合物である。
【0040】
存在するとき、有機チタン酸塩のポリスルフィド基と硫黄は相互作用する可能性のあることが理解される。しかしながら、このような相互作用は有機チタン酸塩のチタン基に影響しない。
【0041】
本発明による硫黄セメント前駆組成物は、例えば硫黄セメント製品を調製するために、固体または溶融状態で用いることができる。
【0042】
本発明はまた、本発明による硫黄セメント前駆組成物を調製する方法を提供する。この方法では、硫黄を総組成物重量に対して少なくとも0.05重量%の量の少なくとも有機チタン酸塩と混合して、硫黄セメント前駆組成物を得る。有機チタン酸塩は、当分野で知られている任意の手段で硫黄と混合することができる。硫黄との混合を促進するために、有機チタン酸塩を最初に、少量の溶媒、例えばアルコールまたは炭化水素に溶解することができる。溶媒は、好ましくは混合段階中に蒸発するような沸点を有する。
【0043】
好ましくは、硫黄および有機チタン酸塩は、硫黄が溶融する温度で混合する。または、得られた硫黄セメント前駆組成物を加熱し、硫黄が溶融する温度で混合する。硫黄が溶融する温度は、典型的に120℃超、好ましくは120から150℃の範囲、より好ましくは125から140℃の範囲である。
【0044】
硫黄が溶融する温度で混合することによって、硫黄中に有機チタン酸塩の均一な分布を提供することができる。
【0045】
硫黄が溶融する温度で硫黄と有機チタン酸塩を混合するか、または得られた硫黄セメント前駆組成物を加熱し、硫黄が溶融する温度で混合する場合、得られた硫黄セメント前駆組成物を硫黄が固化する温度に冷却することができる。固体硫黄セメント前駆組成物は、容易に貯蔵または輸送できる。
【0046】
本明細書において上に定義した有機チタン酸塩は、硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、または硫黄増量アスファルトに安定化剤として適切に用いることができる。具体的には、有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物は、硫黄セメント製品を調製するために適切に用いることができる。本明細書において硫黄セメント製品への言及は、硫黄セメントまたは硫黄セメント−骨材複合体への言及である。
【0047】
硫黄セメントとは典型的に、硫黄または改質硫黄、および充填剤を含む組成物を指す。通常の硫黄セメント充填剤は、0.1μmから0.1mmの範囲の平均粒径を有する粒状無機材料である。硫黄セメントの充填剤含量は広く多様であってよいが、典型的にセメントの総重量に対して1から50重量%の範囲である。
【0048】
硫黄セメント−骨材複合体とは一般に、硫黄セメントと粒状無機材料骨材の両方を含む複合体を指す。硫黄セメント−骨材複合体の例は、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、および硫黄増量アスファルトである。モルタルは、典型的に0.1から5mmの平均径を有する粒子、例えば砂を伴う細骨材を含む。コンクリートは、典型的に5から40mmの平均径を有する粒子を伴う粗骨材を含む。硫黄増量アスファルトは、アスファルト、即ち、典型的に充填剤および残留炭化水素画分を含有するバインダを含む骨材であって、バインダの一部は硫黄、通常は改質硫黄で置換されている。
【0049】
本発明による硫黄セメント製品を調製する第1の方法において、硫黄セメント製品は、段階(a)で少なくとも硫黄、本明細書において上に定義した有機チタン酸塩、および粒状無機材料を、硫黄が溶融する温度で混合して、溶融硫黄セメント製品を得ることによって調製される。段階(b)では、混合段階(a)の後、溶融硫黄セメント製品を固化させる。典型的に、固化は溶融硫黄セメント製品を硫黄の溶融温度より低い温度に冷ますことによって行われる。
【0050】
好ましくは、段階(a)で混合される有機チタン酸塩および少なくとも硫黄の一部は本発明による硫黄セメント前駆組成物に含まれる。より好ましくは、ポリ硫黄を含む有機チタン酸塩を含む本発明による硫黄セメント前駆組成物、さらに好ましくは一般式(2)によるポリ硫黄を含む有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物が混合される。安定化剤としての機能に加えて、一般式(2)によるポリ硫黄を含む有機チタン酸塩安定化剤は、さらなる改質効果を提供する可能性がある。結果として、硫黄セメント製品の調製中に、添加を必要とする改質剤がより少ないか、またはまったく必要としない。
【0051】
段階(a)は、硫黄が溶融する温度、即ち、典型的に120℃超、好ましくは120から150℃の範囲、より好ましくは125から140℃の範囲で実行される。粒状無機材料を、好ましくは硫黄セメント前駆組成物に含まれる有機チタン酸塩と混合する条件は、好ましくは、好ましくは硫黄セメント前駆組成物に含まれる有機チタン酸塩が無機材料と反応するような条件である。反応時間は、典型的に20分から3時間、好ましくは30分から2時間の範囲である。
【0052】
硫黄、および場合により硫黄改質剤または粒状無機材料などのさらなる成分を、段階(a)において硫黄セメント前駆組成物および粒状無機材料と混合することができる。好ましくは、硫黄セメント製品のすべての成分は、硫黄が液体である温度で混合される。
【0053】
好ましくは硫黄セメント前駆組成物に含まれる有機チタン酸塩は、溶融硫黄セメント製品が粒状無機材料の重量に対して0.01から0.2重量%、好ましくは0.02から0.1重量%の範囲の有機チタン酸塩を含むような量で粒状無機材料と混合される。硫黄セメント前駆組成物の調製中に有機チタン酸塩が反応している場合、硫黄セメント前駆組成物は同等数のチタニア基が存在するような量で混合される。
【0054】
本発明による硫黄セメント製品を調製する第2の方法において、硫黄セメント製品は、段階(a)で少なくとも粒状無機材料および本明細書において上に定義した有機チタン酸塩を混合して、有機チタン酸塩を粒状無機材料と反応させることによって調製される。段階(b)では、混合段階(a)の後、硫黄が液体である温度で元素硫黄を粒状無機材料と混合して、溶融硫黄および粒状無機材料を含む混合物を得る。段階(c)では、溶融硫黄セメント製品を固化させる。この実施形態において、有機チタン酸塩は硫黄セメント前駆組成物に含まれないが、硫黄と混合される前に、粒状無機材料と混合される。有機チタン酸塩は粒状無機材料と反応する。反応時間は、好ましくは20分から3時間、より好ましくは30分から2時間の範囲である。有機チタン酸塩は、例えば粒状無機材料に噴霧することによって、これ自体を粒状無機材料と混合することができる。または、粒状無機材料との混合を促進するために、有機チタン酸塩を少量の溶媒、例えばアルコールまたは炭化水素に溶解することができる。溶媒が混合中に蒸発するように、溶媒は、好ましくは段階(a)が行われる温度より低い沸点を有する。
【0055】
本発明による方法において、粒状無機材料を有機チタン酸塩と混合する。硫黄セメントを調製する方法の場合、無機材料は無機充填剤である。硫黄セメント製品を調製する方法が硫黄セメント−骨材複合体を調製するために用いられる場合、粒状無機材料は充填剤および骨材であることができる。有機チタン酸塩と混合される粒状無機材料は、硫黄セメント充填剤または骨材として適切であることが知られている任意の粒状無機材料であることができる。適切な粒状無機材料の例は、金属炭酸塩、例えば炭酸カルシウム、アスベスト、シリカ、フライアッシュ、石灰岩、石英、酸化鉄、アルミナ、チタニア、カーボンブラック、石膏、タルクもしくはマイカ、砂、砂利、岩、または金属ケイ酸塩である。このような金属ケイ酸塩は、例えば金属を固定化するために、スラッジを含有する重金属を加熱することによって形成される。より好ましくは、粒状無機材料は炭酸カルシウム、シリカ、またはケイ酸塩である。
【0056】
重金属の固定化のためにスラッジを加熱することによって形成された金属ケイ酸塩が粒状無機材料として用いられる場合、加熱スラッジ中の利用可能な熱を、有利には本発明による硫黄セメント製品の調製方法において用いることができる。これは例えば、本発明による方法の硫黄または成分を加熱するために金属ケイ酸塩の冷却中に生じる蒸気を用いることによって行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物であって、有機チタン酸塩は下記の一般分子式のものであり、
【化1】

式中、
はC(2n)−SまたはC(2m+1)であり、およびnは1から4の範囲の整数であり、mは1から30の範囲の整数であり、およびaは2から8の範囲の整数であり、RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数であり、
XOはアルコキシまたはネオアルコキシ基であり、ならびに
およびRは独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基である硫黄セメント前駆組成物。
【請求項2】
硫黄および少なくとも有機チタン酸塩を含む硫黄セメント前駆組成物であって、有機チタン酸塩は下記の一般分子式のものであり、
【化2】

式中、
はC(2n)−S−Cn’(2n’)であり、およびnおよびn’はそれぞれ独立して1から4の範囲の整数であり、およびaは2から8の範囲の整数であり、
XOおよびX’Oはそれぞれ独立して、アルコキシまたはネオアルコキシ基であり、ならびに
、R、R、およびRはそれぞれ独立して、C(2n)−S、アルキル、ネオアルキル、アシル、またはアリール基であり、RはS、H、またはC(2p+1)であり、およびpは1から8の範囲の整数である硫黄セメント前駆組成物。
【請求項3】
総組成物重量に対して0.05から25重量%、好ましくは0.5から10重量%、より好ましくは1から10重量%の範囲の有機チタン酸塩を含む、請求項1または2に記載の硫黄セメント前駆組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の硫黄セメント前駆組成物を調製する方法であって、硫黄を総組成物重量に対して少なくとも0.05重量%の量の少なくとも有機チタン酸塩と混合して、硫黄セメント前駆組成物を得ることを含み、該方法において有機チタン酸塩は請求項1および2に定義された一般分子式のものである方法。
【請求項5】
硫黄セメント製品を調製する方法であって、以下の
(a)少なくとも硫黄、ならびに請求項1または2に定義された有機チタン酸塩および粒状無機材料を、硫黄が溶融する温度で混合して、溶融硫黄セメント製品を得る段階、ならびに
(b)溶融硫黄セメント製品を固化する段階を含む方法。
【請求項6】
有機チタン酸塩および少なくとも硫黄の一部が、請求項1から3のいずれか一項に記載の硫黄セメント前駆組成物の形態で混合される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
硫黄セメント製品を調製する方法であって、以下の
(a)少なくとも粒状無機材料および請求項1または2に定義された有機チタン酸塩を混合して、有機チタン酸塩を粒状無機材料と反応させる段階、
(b)段階(a)の後、硫黄が液体である温度で元素硫黄を粒状無機材料と混合して、溶融硫黄および粒状無機材料を含む混合物を得る段階、ならびに
(c)混合物を固化して硫黄セメント製品を得る段階を含む方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の方法によって得ることのできる硫黄セメント製品。
【請求項9】
硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、または硫黄増量アスファルトにおける、請求項1または2に定義された有機チタン酸塩の安定化剤としての使用。
【請求項10】
硫黄セメント、硫黄モルタル、硫黄コンクリート、または硫黄増量アスファルトにおける、請求項1から3のいずれか一項に記載の硫黄セメント前駆組成物の使用。

【公表番号】特表2010−528977(P2010−528977A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511625(P2010−511625)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057277
【国際公開番号】WO2008/152054
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】