説明

硫黄系有機化合物の酸化分解方法

【課題】第1に、OHラジカルの必要総モル数等の計算アルゴリズムが確立し、第2に、自動化,制御化,ツール化も実現される、硫黄系有機化合物の酸化分解方法を提案する。
【解決手段】この酸化分解方法では、難分解性の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分を、フェントン処理槽4で生成されたOHラジカルにて酸化分解する。そして、水酸基有の場合、OHラジカルが水素原子を奪って酸化すると共に、酸素原子を二重結合化等する第1プロセスと、水素原子有の場合、OHラジカルが水素原子を奪って酸化すると共に、硫黄原子を不対電子化させる第2プロセスと、不対電子有の原子の場合、原子の不対電子にOHラジカルが付加して、水酸基が生成される第3プロセスと、を有してなる。最終的には第4プロセスにおいて、OHラジカルが水分子から水素原子を奪って酸化して、発生期の水素が生成され、もって還元により硫酸が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄系有機化合物の酸化分解方法に関する。すなわち硫黄系有機化合物について、硫黄原子(S)を含んだ構成成分を処理対象とし、これを連鎖的に発生するOHラジカル(・OH)にて、酸化分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
硫黄は、周知の通り、炭素,水素,酸素等に次いで、各種の有機化合物に含まれているが、硫黄系有機化合物は難分解性のものも多い。医薬品,工業原料,その他各種の用途に用いられた後、環境中に排出された場合は、環境中で分解されにくく、生物体内に蓄積しやすく、環境中を移動する虞もある。
そして、このような難分解性の硫黄系有機化合物は、例えば廃液等に溶存,含有されて自然環境中へと流出し、もって地下水,河川水,湖水,その他の水中に残留,排出されて検出されることも多く、環境汚染の原因となり健康への悪影響も懸念されている。
【0003】
《従来技術》
これに対し、廃液等中に含有された難分解性の硫黄系有機化合物、そしてその硫黄原子を含んだ構成成分について、有効な浄化処理技術,無害化処理技術,水質向上技術は、確立していない。その処理ニーズは、今後ますます高まると予測されるが、その難分解性等に起因して、効果的な処理技術は未だ確立されていない。
この種の処理技術として開発,使用された従来技術は、いずれも設備コスト面やランニングコスト面等に、大きな難点が指摘されていた。
唯一、過酸化水素と鉄塩にてOHラジカルを生成して、酸化分解するフェントン法の処理技術が提案され、注目されている状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
このようなフェントン法による処理技術としては、例えば、次の特許文献1,2に示されたものが挙げられる。
【特許文献1】特開2006−334570号公報
【特許文献2】特開2007−50314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点》
ところで、このような従来のフェントン法による酸化分解,処理技術については、次の課題が指摘されていた。
OHラジカルは、周知のごとく酸化力の強いラジカルであり、強力な酸化力,分解力を備えており、難分解性の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分の処理に、効果的である。
しかしOHラジカルは、ラジカルで反応性に富んでいるだけに、存在時間が瞬間的で寿命が極めて短い化学種であり、生成効率向上や反応効率向上が重要テーマとなる。処理対象の硫黄系有機化合物、そしてその硫黄原子を含んだ構成成分に対し、効率良くアタックしなければ、消滅してしまいロスが多くなる。
これに対し従来のフェントン法は、例えば過酸化水素が途中で水と酸素に分解され易い等、OHラジカルの連鎖的な生成に支障が生じ易く、OHラジカルの生成効率が悪かった。又、所期の酸化分解反応以外の2次的反応が起こり易い等、反応効率も悪かった。OHラジカルが、処理対象の硫黄系有機化合物、そしてその硫黄原子を含んだ構成成分にアタックして酸化分解に用いられることなく、消滅してしまうロスや、不安定な中間生成物を生成してしまうロス、等々の問題が従来より指摘されていた。
【0006】
《その原因について》
従来のフェントン法について指摘されていた上述した問題は、根本的には、次の各点の解明不足,把握不足にあった。
すなわち、処理対象の硫黄原子を含んだ構成成分それぞれについて、a.酸化分解プロセスの分析、→そしてb.これに基づく、化学式の解明、→c.これに基づく、酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数の算出、→d.これに基づく、フェントン法の過酸化水素や鉄イオンの添加量の算出、等々の点についての解明不足が挙げられる。
又、これらの解明が進展したとしても、これらを手計算で行うことの困難性が、特に指摘されていた。すなわちa.処理対象が酸化分解され尽くすまでの煩雑な酸化分解プロセス、そしてb.その化学式を確実にフォローして、c.必要総モル数の算出や、d.添加量の算出等には、膨大な計算そして多大な時間や労力を要し、ミスも多発していた。
そこで、難分解性の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分について、系統立った酸化分解プロセスの解明、最適処理条件の選定、その計算アルゴリズムの確立、その自動化,制御化,ツール化等が、切望されていた。
【0007】
《本発明について》
本発明の硫黄系有機化合物の酸化分解方法は、このような実情に鑑み、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、OHラジカルの必要総モル数等の計算アルゴリズムが確立し、第2に、特にその自動化,制御化,ツール化が実現される、硫黄系有機化合物の酸化分解方法を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、特許請求の範囲にも記載したように、次のとおりである。
まず、請求項1については、次のとおり。
請求項1の硫黄系有機化合物の酸化分解方法は、難分解性の硫黄系有機化合物について、硫黄原子(S)を含んだ構成成分を処理対象とし、水溶液中の該処理対象を、OHラジカル(・OH)にて酸化分解する。そして、次の第1,第2,第3,第4の各プロセスを、有している。
すなわち該処理対象について、水酸基(−OH)の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該水酸基の水素原子(H)を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外遊離すると共に、該水酸基の酸素原子(O)を二重結合化又は不対電子有化させるか、分子化して系外遊離させる第1プロセス。該処理対象について、水素原子の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該水素原子を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、該処理対象の硫黄原子を不対電子化させる第2プロセス。該処理対象について、原子の不対電子の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該原子に付加して水酸基が生成される第3プロセスと、を有してなる。
そして、最終的には第4プロセスにおいて、まず、OHラジカルが水分子から水素原子を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、酸素分子を発生させつつ発生期の水素(H+e-)を生成する。もって該発生期の水素が、該処理対象の残基を還元して、硫酸(HSO)が生成されること、を特徴とする。
【0009】
請求項2については、次のとおり。
請求項2の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項1において、該処理対象は、R−S−型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−SH型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−S−O−型の硫黄原子を含んだ構成成分、又は、R−S(=O)−型の硫黄原子を含んだ構成成分よりなり、それぞれが前記各プロセスを辿ること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。
請求項3の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項1又は2において、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数が、前記各プロセスでの反応式に基づき算出されること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。
請求項4の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項3において、OHラジカルはフェントン法にて生成され、過酸化水素および鉄イオンの添加量が、OHラジカルの該必要総モル数と該フェントン法に基づき算出されること、を特徴とする。
【0010】
請求項5については、次のとおり。
請求項5の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項4において、まず検出手段により、該硫黄系有機化合物の濃度が検出されると共に、入力手段により、該硫黄系有機化合物中の該処理対象の構成成分とそのモル数が入力される。
もって、検出された該濃度、および入力された該処理対象の構成成分とそのモル数に基づき、制御装置により、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数、そして過酸化水素および鉄イオンの該添加量が算出される。
そして、該制御装置からの指示に基づき、過酸化水素添加部および鉄イオン添加部により、該処理対象の水溶液に対し、少なくとも該添加量の過酸化水素および鉄イオンが添加されること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。
請求項6の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項5において、該制御装置はコンピュータにて構成されている。そして、そのプログラムに基づき、該処理対象の構成成分について、前記第1,第2,第3,第4の各プロセス毎に必要なOHラジカルのモル数を、算出するプロセス処理と、該プロセス処理に基づく、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数の演算処理と、該演算処理に基づく、過酸化水素および鉄イオンの該添加量の演算処理とが、行われることを特徴とする。
請求項7については、次のとおり。
請求項7の硫黄系有機化合物の酸化分解方法では、請求項5において、該制御装置はコンピュータにて構成されておいる。そして、そのプログラムに基づき、予め記憶された各構成成分毎のデータを検索して、該処理対象の構成成分の酸化分解に必要なOHラジカルのモル数を抽出するデータ検索処理と、該データ検索処理に基づく、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数の演算処理と、該演算処理に基づく、過酸化水素および鉄イオンの該添加量の演算処理とが、行われることを特徴とする。
【0011】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)難分解性の硫黄系有機化合物を含有した被処理水は、フェントン処理槽に供給される。
(2)そして、過酸化水素や鉄イオンが添加される。
(3)もって、OHラジカルが連鎖的に生成される。
(4)OHラジカルは、処理対象の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分を、酸化分解する。
(5)すなわち本発明では、処理対象が次の各プロセスにて、酸化分解される。水酸基有の場合の第1プロセス、水素原子有の場合の第2プロセス、不対電子有の場合の第3プロセス、等の各プロセスが、OHラジカル関与のもとで実施される。もって硫黄は酸化され尽くし、最終的には、OHラジカル関与のもと、発生期の水素にて還元する第4プロセスにて、硫酸が生成される。
(6)このように、パターン化された各プロセスにより、酸化分解プロセスや化学式が具体的に解明,把握される。もって、OHラジカルの必要総モル数や、過酸化水素や鉄イオンの添加量が、容易かつ確実に算出可能となる。
(7)このような計算アルゴリズムは、コンピュータ等の制御装置を利用することにより、自動化,制御化,ツール化される。
(8)すなわち、前記第1,第2,第3,第4の各プロセス処理や、記憶データ検索処理、そして必要総モル数演算処理,添加量演算処理等を、プログラム化してコンピュータにて行うことにより、上述したところが、容易かつ確実に自動化,制御化,ツール化される。
(9)なお、OHラジカルの必要総モル数は、必要理論総モル数として算出されたモル数より、多目に算出,設定,準備される。もって、過酸化水素や鉄イオンの添加量についても、これに準じる。
(10)さてそこで、本発明の硫黄系有機化合物の酸化分解方法は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
《第1の効果》
第1に、本発明の酸化分解方法により、OHラジカルの必要総モル数等の計算アルゴリズムが、確立する。
すなわち、パターン化された第1,第2,第3,第4の各プロセスを、処理対象の難分解性の各硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分に対して、共通適用することにより、それぞれの酸化分解プロセスや化学式が、具体的に系統立って解明,把握される。もって、連鎖的に発生するOHラジカルの必要総モル数、そしてフェントン法の過酸化水素や鉄イオンの添加量を、容易かつ確実に算出可能となる。
このように本発明では、処理用のOHラジカルの必要総モル数等の計算アルゴリズムが確立され、最適処理条件が系統だって選定される。もって、過不足ないOHラジカルの生成と反応が可能となり、前述したこの種従来例に比し、OHラジカルの生成効率や反応効率が向上する。
連鎖的に生成され寿命の短いOHラジカルが、処理対象の硫黄系有機化合物そしてその硫黄原子を含んだ構成成分に対し、効率良くアタックするようになり、酸化に用いられずに消滅してしまうロスは防止され、2次的反応による中間生成物の生成ロスも削減される。これらにより、有効な水質向上技術が確立するに至る。
【0013】
《第2の効果》
第2に、特に本発明の酸化分解方法によって、上述した計算アルゴリズムの自動化,制御化,ツール化が、実現される。
本発明では、コンピュータ等の制御装置を利用することにより、処理対象の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含む構成成分の酸化分解に関し、OHラジカルの必要総モル数等の計算アルゴリズムが、自動化,制御化,ツール化される。
すわなち、濃度検出手段や処理対象入力手段を付設すると共に、プログラムソフトに基づき各種演算処理等を行うことにより、容易かつ確実に、OHラジカルの必要総モル数,過酸化水素の添加量,鉄イオンの添加量等が算出される。前述したこの種従来例では、手計算により多大な時間と労力を要し、ミス多発の虞もあったのに比し、このように自動化,制御化,ツール化される意義は大きい。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る硫黄系有機化合物の酸化分解方法について、発明を実施するための形態の説明に供し、全体の構成ブロック図である。
【図2】同発明を実施するための形態の説明に供し、制御装置のコンピュータ等の構成ブロック図である。
【図3】同発明を実施するための形態の説明に供し、制御装置のコンピュータの要部の機能ブロック図である。
【図4】同発明を実施するための形態の説明に供し、処理プロセスの1例のフローチャートである。
【図5】基本部分や残基の処理プロセスを示し、(1)図は、第1’プロセスのフローチャート、(2)図は、第2’プロセスのフローチャートである。
【図6】同基本部分や残基の処理プロセスを示し、(1)図は、第3’プロセスのフローチャート、(2)図は、第4’プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
そして以下、「フェントン法」,「OHラジカルの生成」,「処理対象等」,「本発明の概要」,「酸化分解データ」,「パターン1」,「パターン2」,「パターン3」,「パターン4」,「OHラジカル等の計算アルゴリズム」,「制御装置等」,「制御例(その1)」,「制御例(その2)」,「作用等」,「基本部分等の酸化分解」,「実施例」、等の項目順に説明する。
【0016】
《フェントン法について》
本発明の酸化分解方法は、難分解性の硫黄系有機化合物について、硫黄原子(S)を含んだ構成成分を、処理対象1とする。そして、水溶液中の処理対象1を、OHラジカル(・OH)にて酸化分解する。
さて、OHラジカルの生成法やOHラジカルによる酸化分解法としては、フェントン法が代表的である。そこでまず、本発明の前提となるフェントン法について、図1を参照して、その概要を説明する。
図示したフェントン法の処理装置2は、原水槽3,フェントン処理槽4,後処理槽5を順に備えており、フェントン処理槽4には、過酸化水素槽6,鉄イオン槽7,pH調整手段(図示せず)等が、付設されている。
もって、硫黄原子を含んだ構成成分の硫黄系有機化合物が溶存,含有した被処理水8が、処理対象1として、原水槽3からフェントン処理槽4へと供給される。
【0017】
フェントン処理槽4は、pH調整手段にて常時弱酸性に調整されている。そして、フェントン処理槽4に供給された被処理水8に対し、反応当初において、過酸化水素槽6から過酸化水素(H)の水溶液が、電磁弁やポンプを備えた過酸化水素添加部9を介し、フェントン試薬として全量添加される。
それから、上述により過酸化水素が添加されたフェントン処理槽4の被処理水8に対し、間欠的に複数サイクル繰り返して、鉄イオン槽7から2価の鉄イオン(Fe2+)溶液が、電磁弁やポンプを備えた鉄イオン添加部10を介し、フェントン試薬として分割添加される。
すなわち、液中で2価の鉄イオンを生じる物質、例えば硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が、このような鉄塩として代表的に使用されるが、その他の無水塩や含水塩、例えば塩化鉄(FeCl)やその水和物も使用可能である。なお、鉄イオン槽7から鉄イオン添加部10を介して分割添加される鉄イオンとしては、このように2価の鉄イオン(Fe2+)が代表的であるが、これに代え3価の鉄イオン(Fe3+)も使用可能である(後述する化1や化5の反応式も参照)。
【0018】
フェントン処理槽4内では、このように添加された過酸化水素と鉄イオンにてOHラジカルが生成され、もって、被処理水8中の処理対象1、つまり硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分が、酸化分解される。
すなわち、OHラジカルつまりヒドロキシラジカル(・OH)は、周知のごとく強力な電子奪取力,酸化力,分解力を有すると共に、ラジカルで反応性に富んでおり、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的であり、寿命の短い化学種でもある。そして、水相分散したOHラジカルは、被処理水8中に溶存,含有された硫黄系有機化合物について、処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分を、酸化し遂には分解してしまう。
もって被処理水8は、後処理槽5を経由し、凝集,沈殿,濾過,pH調整された後、外部排水されて放流される。
フェントン法については、以上のとおり。
【0019】
《OHラジカルの生成》
次に、フェントン法におけるOHラジカルの生成反応について、図1を参照して説明しておく。
第1に、フェントン処理槽4内では、まず、添加された過酸化水素が、添加された鉄イオンにて還元されて、OHラジカルが生成される。すなわち、次の化1,化2の反応式に基づき、OHラジカルが生成される。これがフェントン主反応である。なお、化1と化2の反応式を合成すると、化3の反応式となる。
【0020】
【化1】

【化2】

【化3】

【0021】
第2に、上記第1のようにOHラジカルが生成されると共に、上記化2の過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、上記化1の2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成される。
すなわち、次の化4,化5の反応式によっても、付随的,副次的,連鎖的に、OHラジカルの生成が可能である。
【0022】
【化4】

【化5】

【0023】
第3に、更に前記化3(化1,化2)や上記化4,化5の反応式にて生成されたOHラジカルが、被処理水8等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、次の化6,化7の反応式により、付随的,副次的,連鎖的に繰り返して可能である。
【0024】
【化6】

【化7】

【0025】
第4に、前記化3(化1)の2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、新たにOHラジカル等を生成する反応が、次の化8,化9の反応式により、付随的,副次的,連鎖的に繰り返して可能である。なお、化8と化9の反応式を合成すると、化10の反応式となる。
即ち、被処理水8を、pH調整手段にてアルカリ化し、もって化8の反応式にて、過酸化水素がプロトン(H)を遊離し、3価の鉄イオンが2価の鉄イオンに還元されると共に、酸素分子に電子が付加されているスーパーオキシドアニオン(・O)が生成される。そして、化9の反応式により、このスーパーオキシドアニオンが、過酸化水素と反応して、OHラジカルを生成する。
【0026】
【化8】

【化9】

【化10】

【0027】
フェントン法では、このように、主反応や各付随的,副次的,連鎖的反応によって、OHラジカルが生成される。
OHラジカルの生成については、以上のとおり。
【0028】
《処理対象1等について》
次に、処理対象1等について、説明する。本発明は、難分解性の硫黄系有機化合物について、処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分を、酸化分解する。
まず、難分解性の硫黄系有機化合物としては、各種の物質が存在するが、例えば、フェニトロチオン(C12NPS),チオベンカルブ(C1216ClNOS),チウラム(C12)ペニシリンG(C1618S),メチルジメトン(C15PS)、等が挙げられる。
本発明は、このような難分解性の硫黄系有機化合物について、その硫黄原子を含んだ構成成分を、処理対象1とする。そして、このような処理対象1のパターンとしては、R−S−型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−SH型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−S−O−型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−S(=O)−型の硫黄原子を含んだ構成成分、等が代表的である。
なお本明細書において、Rは、対象となる硫黄系有機化合物において、処理対象1である上記した硫黄原子を含んだ構成成分以外、つまり基本部分,有機本体部分や残基を示す。勿論、アルキル基を示す場合も含まれ、高分子よりなる場合もあり、多くの場合、炭素原子(C),水素原子(H),更には酸素原子(O)、等からなる。
処理対象1等については、以上のとおり。
【0029】
《本発明の概要について》
以下、本発明について説明する。まず、本発明の概要について、図4も参照して説明する。
フェントン処理槽4(図1を参照)内では、前述により生成されたOHラジカルにより、水溶液中の難分解性の硫黄系有機化合物について、処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分が、酸化分解され、もって最終的には硫酸が生成される。
そして、このような酸化分解は、次の第1プロセス,第2プロセス,第3プロセスを、順不同に繰返すことにより行われると共に、最終的には第4プロセスにて完了する。
【0030】
第1プロセスについては、次のとおり。
第1プロセスでは、処理対象1について、硫黄原子(S)に付く水酸基(−OH)の有無が判定される。そして、水酸基有の場合は、OHラジカル(・OH)が水酸基の水素原子(H)を奪って酸化し、自身は水(HO)に回帰して系外に遊離すると共に、水酸基の酸素原子(O)を、二重結合化(=O)又は不対電子有化(−O・)させるか、若しくは分子化して系外に遊離させる。
例えば図4では、ステップS4,S5およびS8,S9のルーチンにおいて、この第1プロセスの処理が実施される。
【0031】
第2プロセスについては、次のとおり。
第2プロセスでは、処理対象1について、硫黄原子に付く水素原子(H)の有無が判定される。そして、水素原子有の場合は、OHラジカルが水素原子を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、硫黄原子を不対電子有化(−S・)させる(例えば、後述する化12の反応式(1)を参照)。
【0032】
第3プロセスについては、次のとおり。
第3プロセスでは、処理対象1について、硫黄原子,酸素原子等の原子の不対電子(・)の有無が、判定される。そして、不対電子有の場合は、OHラジカルがその原子に取り付いて付加し、もって水酸基が生成,再生される。
例えば図4では、ステップS2,S3、およびステップS6,S7のルーチンで、この第3プロセスの処理が実施される。
【0033】
第4プロセスについては、次のとおり。
最終プロセスである第4プロセスでは、まず、OHラジカルが水分子から水素原子を奪って酸化する。もって、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、酸素分子を発生させつつ、発生期の水素(H+e)を生成する。そして、生成された発生期の水素が、処理対象1の残基を還元し、もって硫酸(HSO)が生成される。
例えば図4では、ステップS10,S11,S12のルーチンで、この第4プロセスの処理が実施される。
【0034】
ここで、硫黄原子の原子価について述べておく。
硫黄原子は、有機化合物における共有結合の原子価が、通常は2価である。すなわち、その外殻電子構造(M殻)は、3s軌道について、1組2個の対電子が存し、3p軌道について、1組2個の対電子と2個の不対電子とが存している。
しかし共有結合過程で、例えばOHラジカルにより外部エネルギーを得ると、その外殻電子構造の3s軌道の対電子の昇位が契機となって、3s軌道と3p軌道とがsp混成軌道化する可能性がある。この場合、原子価は4価又は6価となる。外殻6電子のうち2電子が対電子のままだと、4価になり、すべてが不対電子化すると、6価となる。
このように、硫黄原子は2価,4価,6価を取り得る。例えば、図4では、ステップS1までは2価を前提とし、ステップS2,S3は4価を前提とし、ステップS4〜S12は6価を前提としている。
本発明の概要については、以上のとおり。
【0035】
《酸化分解データ》
次に、このような酸化分解データについて、説明する。
難分解性の硫黄系有機化合物について、処理対象1である硫黄原子を含む構成成分は、本発明では、前記第1プロセス,第2プロセス,第3プロセスを辿り、最終的に前記第4プロセスで硫酸が生成されるに至る。付随して、水や酸素が副次的に派生するが、これらは系外へと遊離する。
表1は、処理対象1となる硫黄原子を含む構成成分の代表的な4パターンについて、前記第1〜第4プロセスを辿った結果の酸化分解データである。Rの意味内容については、前述した所を参照。
以下、このような酸化分解データの各パターンについて、説明する。
【0036】
【表1】

【0037】
《パターン1について》
まず、R−S−型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側で結合が切れている場合)は、表1中のパターン1に示したように、酸化分解される。
すなわち、難分解性の硫黄系有機化合物において、処理対象1とされた1モルのR−S−型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側の結合手側の残基は、既に離脱、分離している。その酸化分解等については、後述を参照)は、前記第1プロセスおよび前記第3プロセスを順不同に辿り、最終的に前記第4プロセスに至る。
もって、計10モルのOHラジカルが関与し消費されることにより、1モルの硫酸が生成され、4モルの水と1モルの酸素分子が派生される。
前記第1〜第4プロセスの適用については、次の化11の(1)〜(8)の反応式として、順次把握される。そして、この化11の(1)〜(8)の8式を合成,総括すると、表1中のパターン1の反応式となる。
【0038】
【化11】

【0039】
上記化11の(1)〜(8)の反応式については、次のとおり。まず反応式(1)で、硫黄原子が2価のR−S−に前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。次の反応式(2)では、前記第1プロセスが適用され、OHラジカルによる酸化と共に、酸素原子が二重結合化される。ここでRが切断,分離する(Rは別途、後述等により酸化分解,無機化される)。
そして反応式(3)では、硫黄原子が2価から4価3配位となると共に、前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。続く反応式(4)では、硫黄原子が4価3配位から6価3配位となると共に、前記第1プロセスが適用され、OHラジカルによる酸化と共に、酸素原子が二重結合化される。
そして反応式(5)では、6価の硫黄原子が不安定な3配位から4配位を目指し、もって前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。反応式(6)では、前記第1プロセスが適用され、OHラジカルによる酸化と共に、酸素原子が不対電子有化され、もって硫酸イオンから2電子引き抜かれた状態の残基が生成される。
それから、反応式(7),(8)に進んで、前記第4プロセスが適用される。もって残基が、発生期の水素(H+e)にて還元されて、硫酸(電離した硫酸イオン)が生成されるに至る。
パターン1については、以上のとおり。
【0040】
《パターン2について》
次に、R−SH型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側に水素原子が付加した官能基)は、表1中のパターン2に示したように、酸化分解される。
すなわち、難分解性の硫黄系有機化合物において、処理対象1とされた1モルのR−SH型の硫黄原子を含んだ構成成分は、前記第1プロセス,第2プロセス,第3プロセスを順不同に辿り、最終的に前記第4プロセスに至る。
もって、計11モルのOHラジカルが関与し消費されることにより、1モルの硫酸が生成され、5モルの水と1モルの酸素分子が派生される。
前記第1〜第4プロセスの適用については、次の化12の(1)〜(8)の反応式として順次把握される。そして、この化12の(1)〜(8)の8式を合成,総括すると、表1中のパターン2の反応式となる。
【0041】
【化12】

【0042】
上記化12の(1)〜(8)の反応式については、次のとおり。まず、反応式(1)では、硫黄原子が2価のR−SHに前記第2プロセスが適用されて、OHラジカルによる酸化と共に、硫黄原子が不対電子有化するので、前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。
続く化12の反応式(2)〜(8)については、前記化11の(2)〜(8)について前述した所に準じるので、これを準用し、その説明は省略する。
パターン2については、以上のとおり。
【0043】
《パターン3について》
次に、R−S−O−型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側に、不対電子が残った酸素原子が付加した官能基:その1)は、表1中のパターン3に示したように、酸化分解される。
すなわち、難分解性の硫黄系有機化合物において、処理対象1とされた1モルのR−S−O−型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側の結合手側の残基は、既に離脱、分離している)は、前記第1プロセスおよび前記第3プロセスを順不同に辿り、最終的に前記第4プロセスに至る。
もって、計12モルのOHラジカルが関与し消費されることにより、1モルの硫酸が生成され、5モルの水と2モルの酸素分子が派生される。
前記第1〜第4プロセスの適用については、次の化13の(1)〜(10)の反応式として順次把握される。そして、化13の(1)〜(10)の10式を合成,総括すると、表1中のパターン3の反応式となる。
【0044】
【化13】

【0045】
上記化13の(1)〜(10)の反応式については、次のとおり。まず、反応式(1)では、硫黄原子が2価のR−S−O−に前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。次の反応式(2)では、前記第1プロセスが適用され、OHラジカルによる酸化と共に、酸素が分子化して遊離する。そして、不対電子有化した硫黄原子に前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。
続く化13の反応式(4)〜(10)については、前記化11の(2)〜(8)について前述した所に準じるので、これを準用し、その説明は省略する。
パターン3については、以上のとおり。
【0046】
《パターン4について》
まず、R−S(=O)−型の硫黄原子(この硫黄原子は4価)を含んだ構成成分(硫黄原子の片側に、不対電子が残った酸素原子が付加した官能基:その2)は、表1中のパターン4に示したように、酸化分解される。
すなわち、難分解性の硫黄系有機化合物において、処理対象1とされた1モルのR−S(=O)−型の硫黄原子を含んだ構成成分(硫黄原子の片側の結合手側の残基は、既に離脱、分離している。その酸化分解等については、後述を参照)は、前記第1プロセスおよび前記第3プロセスを順不同に辿り、最終的に前記第4プロセスに至る。
もって、計8モルのOHラジカルが関与し消費されることにより、1モルの硫酸が生成され、3モルの水と1モルの酸素分子が派生される。
前記第1〜第4プロセスの適用については、次の化14の(1)〜(6)の反応式として順次把握される。そして、化14の(1)〜(6)の6式を合成,総括すると、表1中のパターン4の反応式となる。
【0047】
【化14】

【0048】
上記化14の(1)〜(6)の反応式については、次のとおり。まず、反応式(1)では、硫黄原子が4価のR−S(=O)−に、前記第3プロセスが適用されて、OHラジカルが付加される。
次の反応式(2)では、前記第1プロセスが適用され、OHラジカルによる酸化と共に、酸素が二重結合化する。ここでRが切断,分離する(Rは別途、後述等により酸化分解,無機化される)。続く反応式(3)では、硫黄原子が4価2配位から6価4配位となると共に、OHラジカルが付加される。
次の化14の反応式(4)〜(6)については、前記化11の(6)〜(8)について前述した所に準じるので、これを準用し、その詳細は省略する。
パターン4については、以上のとおり。
【0049】
《OHラジカル等の計算アルゴリズム》
次に、OHラジカル等の計算アルゴリズムについて、説明する。
本発明の酸化分解方法では、処理対象1となる硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分について、その酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数が、前記第1,第2,第3,第4の各プロセスでの反応式に基づき、算出される。
そしてOHラジカルは、代表的にはフェントン法にて生成されるので、過酸化水素および鉄イオンの添加量が、OHラジカルの算出された必要総モル数と、フェントン法の反応式とに基づき、算出される。
【0050】
この計算アルゴリズムについて、更に詳述する。まず、処理対象1となる難分解性の硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分について、水酸基有の場合の前記第1プロセスと、水素原子有の場合の前記第2プロセスと、不対電子有の場合の前記第3プロセスとが、OHラジカル関与のもとで、順不同に繰り返される。そして最終的には、OHラジカルが関与して生成される発生期の水素(H+e)による、還元パターンの前記第4プロセスに至る。
これらの各プロセスを辿ることにより、処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分は酸化分解され、もって硫酸が生成されると共に、水や酸素が派生する。酸化分解の具体的パターンについては、前記表1等を参照。
そして、これらの各プロセスの化学反応式を辿ることにより、その処理対象1を酸化分解するのに必要なOHラジカルの理論総モル数が、算出される。すなわち、酸化分解の各反応式において、原料側(左側)において関与,使用されるOHラジカルのモル数を合算することにより、必要理論総モル数が算出される。
【0051】
OHラジカルのモル数が算出されると、これに基づき、フェントン法による過酸化水素と鉄イオンの必要添加量も算出される。すなわち、必要総モル数のOHラジカルを生成するのに必要な過酸化水素の添加量と、2価の鉄イオン等の鉄イオンの添加量も、フェントン法の反応式に基づき、算出される。
フェントン法によるOHラジカル生成の反応式については、前記化1,化2,(化3)の主反応や、前記化4,化5や、前記化6,化7や、前記化8,化9,(化10)等の副次的反応を参照。
具体的には、主反応に対する副次的反応のウェート付け次第であるが、実際上、過酸化水素の添加量は、1モルの過酸化水素から例えば1.5モルや2モルのOHラジカルが生成される旨、定量的に算出される。鉄イオンの添加量に関しては、処理対象1次第であるが、実際上は過酸化水素の添加量から係数計算することにより、算出される。
【0052】
なお、実際上の取扱いについては、次のとおり。実際上は、OHラジカルについて前述により算出された必要理論総モル数を基に、より多目の必要総モル数が定量的に算出され、この多目の必要総モル数を基に、過酸化水素や鉄イオンについて、その添加量が算出される。又は、OHラジカルの必要理論総モル数を基に、過酸化水素や鉄イオンの添加量が、定量的に多目に算出される。
すなわち、前述した処理対象1の硫黄系有機化合物そして硫黄原子を含んだ構成成分の酸化分解については、その酸化係数が低い場合は、ロスが多く、より多量のOHラジカルを要することになる。更に、水溶液中に存する他物質による外乱も、これに加わる。
従って、前述した各化学反応式は、外乱がなく、原料系から生成系へと正反応が進み、逆反応がない状態を想定したものであるので、実際上は、上述したように、より多目に算出されることになる。過酸化水素および鉄イオンは、理論的に算出された添加量が、少なくとも添加される。OHラジカルの必要理論総モル数を基に算出された添加量を、最低限として添加される。
OHラジカル等の計算アルゴリズムについては、以上のとおり。
【0053】
《制御装置11等について》
次に、制御装置11等について、図1を参照して説明する。
上述した計算アルゴリズムに基づく酸化分解方法の自動化,制御化,ツール化には、濃度検出手段12,処理対象入力手段13,制御装置11,過酸化水素添加部9,鉄イオン添加部10、等が使用される。
そして、まず濃度検出手段12により、硫黄系有機化合物の濃度が検出されると共に、処理対象入力手段13により、硫黄系有機化合物中の処理対象1、つまり硫黄原子を含んだ構成成分とそのモル数(構成成分当量)が、入力される。このように検出された濃度、および入力された構成成分とそのモル数とに基づき、制御装置11により、処理対象1の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数、そして過酸化水素および2価の鉄イオンの添加量が、算出される。
そして、制御装置11からの指示信号に基づき、過酸化水素添加部9および鉄イオン添加部10により、処理対象1の水溶液つまり被処理水8に対し、その添加量の過酸化水素および2価の鉄イオンが、添加される。
【0054】
これらについて、更に詳述する。濃度検出手段12は、原水槽3に付設されており、例えば、COD−Cr(二クロム酸カリウムによる酸素消費量)測定装置や、COD−Mn(過酸化マンガンカリウムによる酸素消費量)測定装置や、TOC(全有機体炭素)測定装置が使用される。もって、被処理水8中の硫黄系有機化合物の濃度(例えばmg/L)を、分析,測定し、その測定データが制御装置11に入力される。
処理対象入力手段13は、硫黄系有機化合物について、処理対象1となる硫黄原子を含んだ構成成分の化学式(構造式)と、そのモル数(構成成分当量)とを、キーボードを使用して手入力により、又は分析装置を使用して自動入力により、制御装置11に対して入力する。
そして制御装置11は、このように入力された濃度データ、および処理対象1の構成成分とそのモル数とに基づき、処理対象1の酸化分解に必要なOHラジカルの総モル数を、算出する。OHラジカルの必要総モル数が算出されると、これに基づき、過酸化水素および鉄イオンの添加量が、通常、定量的正数,定量的係数を基準として算出される(これらの計算アルゴリズムについては、前述した所を参照)。
もって制御装置11から、過酸化水素添加部9および鉄イオン添加部10に対し、それぞれの添加量指示信号が、駆動回路15を経由して出力される。そこで、過酸化水素添加部9により、過酸化水素槽6の過酸化水素が、所定添加量だけフェントン処理槽4に添加される。又、鉄イオン添加部10により、鉄イオン槽7の代表的には2価の鉄イオンが、所定添加量だけフェントン処理槽4に分割添加される。
制御装置11としては、マイクロコンピュータ14が代表的に使用される。マイクロコンピュータ14は、周知のごとく、図2に示したようにCPU16,RAM17,ROM18,記憶装置19,インプット・ポート20,アウトプット・ポート21等を備えている。
制御装置11等については、以上のとおり。
【0055】
《制御例(その1)について》
次に、このような制御の具体例(その1)について、図1〜図4を参照しつつ、説明する。
この制御例の酸化分解方法において、制御装置11は、マイクロコンピュータ14にて構成されており、順次経時的に、次のプロセス処理,総モル数演算処理,添加量演算処理等を行う。
すなわち、各処理対象1について前記第1,第2,第3,第4の各プロセス処理を行うプログラムに基づき、各プロセス毎に必要なOHラジカルのモル数を算出するプロセス処理と、このプロセス処理に基づく、処理対象1の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数の演算処理と、過酸化水素および鉄イオンの添加量の演算処理とが、順次経時的に行われる。
【0056】
このような制御例(その1)について、更に詳述する。制御装置11として使用されるマイクロコンピュータ14は、そのCPU16が、まず、次のように機能することによってプロセス処理を行う。
すなわち、マイクロコンピュータ14のCPU16は、硫黄原子を含んだ各構成成分毎に予め準備されるプログラムに基づき、図3中に示したように、前記第1プロセスの処理を実行する第1プロセス処理手段22、前記第2プロセスの処理を実行する第2プロセス処理手段23、前記第3プロセスの処理を実行する第3プロセス処理手段24、前記第4プロセスの処理を実行する第4プロセス処理手段25等として、順不同に必要回数だけ機能する。プログラムは、ROM18に書き込まれている。
もって、処理対象入力手段13で入力された処理対象1の1モルやnモルの構成成分を対象に、プロセス処理が行われる。例えば、前述した処理対象1の代表的パターンR−S−,R−SH,R−S−O−,R−S(=O)−のいずれかが、そのモル数と共に、処理対象入力手段13にて入力された後、各プロセス処理手段22,23,24,25が機能する。そして、各プロセスの判断や処理が行われる(前記化11〜化14の反応式を参照)。
【0057】
次に、マイクロコンピュータ14のCPU16は、図3中に示したように、OHラジカルの総モル数演算手段(その1)26として機能し、もって、総モル数演算処理が行われる。
この総モル数演算手段(その1)26では、まず、処理対象1の酸化分解に際し、上記第1,第2,第3,第4プロセスに関与して消費されるOHラジカルのモル数が、合算される(その計算アルゴリズムについては、前述したところを参照)。
これと共に、この総モル数演算手段(その1)26は、検出手段12で検出された硫黄系有機化合物の濃度(例えばmg/L)から、処理対象1となる硫黄原子を含んだ構成成分のモル数を換算する。これらに基づき、処理対象1の酸化分解に必要なOHラジカルの総モル数が、算出される。
それから、マイクロコンピュータ14のCPU16は、図3中に示したように、過酸化水素や鉄イオンの添加量演算手段(その1)27として機能し、もって添加量演算処理が行われる。すなわち、この添加量演算手段(その1)27は、上述により得られたOHラジカルの必要総モル数に基づき、まず、過酸化水素の必要モル数を算出する(その計算アルゴリズムについては、前述したところを参照)。
過酸化水素について、必要モル数が算出されると、その密度,分子量,質量を基に、その必要添加量が算出される。なお、2価の鉄イオン等の鉄イオンの必要添加量は、この過酸化水素の必要添加量から係数計算することにより、算出される。もって、算出された添加量の過酸化水素や鉄イオンが、添加される。
制御例(その1)では、このような制御が実施される。
【0058】
《制御例(その2)について》
次に、制御の具体例(その2)について、図1,図2,図3,表1等を参照して、説明する。
この制御例の酸化分解方法において、制御装置11は、マイクロコンピュータ14にて構成されており、次のデータ検索処理,総モル数演算処理,添加量演算処理等を行う。
すなわち、そのプログラムに基づき、予め記憶されたデータを検索することにより、処理対象1の酸化分解に必要なOHラジカルのモル数を抽出するデータ検索処理と、このデータ検索処理に基づく、処理対象1の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数の演算処理と、これに基づく、過酸化水素および鉄イオンの該添加量の演算処理とが、行われる。
【0059】
このような制御例(その2)について、更に詳述する。制御装置11として使用されるマイクロコンピュータ14のCPU16は、ROM18に書き込まれたプログラムに基づき、図3中に示したように、データ検索処理手段28,総モル数演算手段(その2)29,添加量演算手段(その2)30、等として順次経時的に機能する。
これと共に、マイクロコンピュータ14の記憶装置19には、前述した表1のデータが、酸化分解データテーブル31として格納されている。つまり、硫黄原子を含む各構成成分毎に、その酸化分解に必要なOHラジカルのモル数が、対応づけて記憶されている。
【0060】
そしてまず、データ検索処理手段28は、処理対象入力手段13で入力された処理対象1の硫黄系有機化合物の硫黄を含んだ構成成分を、検索キーとして、酸化分解データテーブル31から読み出されたデータを検索する。もって、検索キーとされた構成成分の酸化分解に必要なOHラジカルのモル数を、抽出する。
次に、総モル数演算手段(その2)29では、まず、濃度検出手段12で検出された硫黄系有機化合物の濃度(例えばmg/L)から、処理対象1となる硫黄原子を含んだ構成成分のモル数を換算する。そして、この構成成分の換算モル数と、上記OHラジカルの抽出モル数とに基づき、処理対象1を酸化分解するのに必要なOHラジカルのモル数が、算出される。
後は、添加量演算手段(その2)30が、過酸化水素および鉄イオンの添加量を演算することになるが、添加量演算手段(その1)27等において述べた所に準じるので、その説明は省略する。もって、算出された添加量の過酸化水素および鉄イオンが、添加されることになる。
制御例(その2)では、このような制御が実施される。
【0061】
《作用等》
本発明の硫黄系有機化合物の酸化分解方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)難分解性の硫黄系有機化合物を溶存,含有した被処理水8が、原水槽3からフェントン処理槽4へと、供給される(図1を参照)。
【0062】
(2)フェントン処理槽4に供給された被処理水8は、まず反応当初に、過酸化水素添加部9から過酸化水素槽6の過酸化水素溶液が、全量添加される。しかる後、鉄イオン添加部10から鉄イオン槽7の鉄イオン溶液が、複数回に分けて分割添加される。この間、被処理水8は、pH調整手段(図示せず)により弱酸性に維持されている。
【0063】
(3)さてそこで、フェントン処理槽4内の被処理水8について、OHラジカルが生成される。すなわち過酸化水素が、添加された例えば2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成するフェントン主反応(前記化1〜3の反応式を参照)を始め、付随的,副次的,連鎖的反応により、OHラジカルが連鎖的に生成される(前記化4〜10の反応式を参照)。
【0064】
(4)このように生成されたOHラジカルは、極めて強力な酸化力,分解力を備えている。もって、被処理水8中に溶存,含有されていた硫黄系有機化合物中の処理対象1、つまり硫黄原子を含んだ構成成分は、このOHラジカルにて酸化分解される。
被処理水8は、このように溶存,含有していた硫黄系有機化合物の硫黄原子を含んだ構成成分が、処理対象1として酸化分解されて外部排出される。なお、Rつまり有機化合物の基本部分,有機本体部分や残基等の酸化分解,無機化については、後述を参照。
【0065】
(5)さて、本発明の酸化分解方法では、硫黄系有機化合物中の処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分が、次の各プロセスを辿ることにより、酸化分解される(図4も参照)。
すなわち、水酸基有の場合の第1プロセス、水素原子有の場合の第2プロセス、不対電子有の場合の第3プロセスの酸化分解パターンが、OHラジカル関与のもとで、順不同に必要回数だけ実施される。もって硫黄は酸化され尽くし、OHラジカル関与のもと、発生期の水素による第4プロセスの還元パターンが最終的に実施されて、硫酸が生成されるに至る。
勿論、硫黄系有機化合物中に、硫黄原子を含んだ構成成分が複数存在する場合、例えば複数パターンが存在する場合は、そのそれぞれについて、上述した酸化分解が行われる。
【0066】
(6)本発明では、このような第1,第2,第3,第4の各プロセスを、処理対象1の硫黄原子を含んだ構成成分に対して適用することにより、各構成成分毎の酸化分解プロセス,化学式プロセスが、それぞれ個別かつ具体的に解明,把握される(前記化11〜化14の反応式を参照)。
もって、処理対象1の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数、そして、そのOHラジカルの生成に必要なフェントン法の過酸化水素や鉄イオンの添加量が、容易かつ確実に算出可能となり、その計算アルゴリズムが確立される。
【0067】
(7)そして本発明は、マイクロコンピュータ14等の制御装置11を利用することにより、このような計算アルゴリズムが、自動化,制御化,ツール化される。
すなわち、濃度検出手段12にて、硫黄系有機化合物の被処理水8中での濃度を検出すると共に、処理対象入力手段13にて、その硫黄原子を含んだ構成成分とそのモル数(構成成分当量)とを入力するだけで、OHラジカルの必要総モル数と、過酸化水素や鉄イオンの添加量が、容易かつ確実に算出される(図1,図2を参照)。
【0068】
(8)例えば、前述した制御例(その1)のように、前記第1,第2,第3,第4の各プロセス処理や、所定の総モル数演算処理,添加量演算処理を、プログラムに基づきマイクロコンピュータ14にて行うことにより、上述したモル数や添加量が算出される(図3等を参照)。
又、前述した制御例(その2)のように、例えば、予め記憶されたデータの検索処理や、所定の総モル数演算処理,添加量演算処理を、プログラムに基づきマイクロコンピュータ14にて行うことによっても、上述したモル数や添加量が算出される(表1,図3等を参照)。
【0069】
(9)なお、OHラジカルの実際使用量(必要総モル数)は、反応理論値(必要理論総モル数)より多目とされる。すなわち実際上、OHラジカルは、反応理論値として算出されたモル数を下限値としつつ、より多目に算出,設定,準備される。
従って、OHラジカルフェントン法による生成物質である過酸化水素や鉄イオンの添加量についても、これに準じる。
本発明の作用等については、以上のとおり。
【0070】
《参考:基本部分等の酸化分解について》
ここで、硫黄系有機化合物において、以上説明した処理対象1以外、つまり硫黄原子を含んだ構成成分以外の基本部分等の酸化分解,無機化について、説明しておく。
すなわち、前述したところにおいて、Rの符号を付して示した基本部分,有機本体部分の構成成分や残基の構成成分は、多くの場合、炭素原子(C),水素原子(H)からなり、更には酸素原子(O)等がこれに加わることもある。そして、このような基本部分等も、以上説明した硫黄原子を含んだ構成成分に準じて酸化分解され、もって無機化される。
【0071】
これらについて更に詳述する。このような基本部分等も、以上説明した第1〜第4プロセスに準じた第1’〜第3’プロセス、更には第4’プロセスを辿って、酸化分解されて,無機化される。
その際、処理装置2,原水槽3,フェントン処理槽4,後処理槽5,過酸化水素槽6,鉄イオン槽7,被処理水8等も、前述と共通に使用される。更に、過酸化水素添加部9,鉄イオン添加部10,制御装置11,濃度検出手段12,処理対象入力手段13,マイクロコンピュータ14等も、前述と共通に使用される。
マイクロコンピュータ14は、前記第1〜第4プロセス処理手段22〜25に準じたプロセス処理手段として機能し、第1’〜第4’プロセスを実行する。総モル数演算手段26,29や、添加量演算手段27,30や、酸化分解データテーブル31等についても、前述に準じて機能する。
結局、難分解性の硫黄系有機化合物に関し、処理対象1となる硫黄原子を含んだ構成成分の酸化分解と共に、その他の基本部分,有機本体部分や残基の構成成分の酸化分解,無機化が、同時併行的に実施可能である。もって硫黄系有機化合物は、全体的に酸化分解,無機化され尽くしてしまう。
【0072】
このような基本部分等を対象とした酸化分解,無機化について、そのポイントを、図5,図6を参照して説明しておく。
フェントン処理槽4(図1を参照)内では、前述により生成されたOHラジカルにより、硫黄系有機化合物について、炭素,水素,酸素等の元素よりなる基本部分,有機本体部分や残基が、酸化分解されて無機化される。そして、この酸化分解,無機化は、次の第1’プロセス,第2’プロセス,第3’プロセス,更には第4’プロセスを、順次繰返すことにより行われる。
【0073】
まず、図5の(1)図は、第1’プロセスに関する。
まず前提として、ステップS101で対象となる硫黄系有機化合物の基本部分,有機本体部分や残基の化学式、具体的には構成成分を示した構造式が、入力される(処理対象入力手段13を参照)。
そして、この第1’プロセスのルーチンでは、そのステップS102で、対象について、まず水酸基(−OH)の有無が判定される。そして、水酸基有の場合は、ステップS103,S104へと進み、OHラジカル(・OH)が水酸基の水素原子(H)を奪って酸化し、水酸基の酸素原子(O)を二重結合化(=O)すると共に、ステップS105で自身は水(HO)に回帰して系外に遊離する。そしてステップS106により、水酸基が無となるまで、上述した所が繰返される。
なお、水酸基の酸素原子について、図示例のように二重結合化によらず、不対電子有化や、分子化して系外遊離させる場合もある。
【0074】
次に、図5の(2)図は、第2’プロセスに関する。
第1’プロセスの次のルーチンである第2’プロセスでは、まず、そのステップS107で、第1’プロセス後の対象について、炭素原子(C)や酸素原子(O)に付く水素原子(H)の有無が、判定される。そして、水素原子有の場合は、ステップS108,S109へと進み、OHラジカルが水素原子を奪って酸化し、ステップS110で、自身は水に回帰して系外に遊離する。なおステップS111により、炭素原子や酸素原子に付く水素原子が無となるまで、上述した所が繰返される。
図6の(1)図は、第3’プロセスに関する。
上述した第2’プロセスの次のルーチンである第3’プロセスでは、まず、そのステップS112で、第2’プロセス後の対象について、第2’プロセスにて生成された炭素原子(C)の不対電子(−)の有無や、酸素原子(O)の不対電子の有無が、判定される。そして不対電子有の場合は、ステップS113へと進んで、不対電子に対し引続くOHラジカルが付加して、水酸基が再生される。そこでフローは、ステップS114を経て、前述した図5の(1)図の第1’プロセスにリターンして、第1’プロセスを繰返すことになる。
【0075】
図6の(2)図は、第4’プロセスに関する。
上述した第1’,第2’,第3’プロセスで、対象について、水酸基,炭素原子,酸素原子等の水素原子が、奪い尽くされ酸化し尽くされた場合、通常は、対象が所期の通り水,炭酸ガス,酸素等に分解され、無機化されてしまったことになる。
これに対し、第1’,第2’,第3’プロセスを経ても、対象が、未だすべて無機化され尽くされていない場合は、次のルーチンである第4’プロセスへと進む。第4’プロセスでは、まずステップS116で、引続くOHラジカルが、水分子から水素原子を奪って酸化する。もって、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、酸素分子を発生させつつ、発生期の水素(H+e)を生成する。
そして、生成されたステップS117の発生期の水素が、ステップS115の水素原子が奪い尽くされた対象を、ステップS118で還元,水素化する。そこでフローは、ステップS119を経て終了するが、更に、前述した図5の(2)図の第2’プロセスへとリターンする場合もある。
基本部分等の酸化分解については、以上のとおり。
【実施例】
【0076】
難分解性の硫黄系有機化合物の1例であるチウラム(C12)について、前記各プロセスを適宜適用して、酸化分解,無機化した所、所期のとおり、次の化15の反応式そして硫酸が得られた。
【0077】
【化15】

【符号の説明】
【0078】
1 処理対象(硫黄原子を含んだ構成成分)
2 処理装置
3 原水槽
4 フェントン処理槽
5 後処理槽
6 過酸化水素槽
7 鉄イオン槽
8 被処理水
9 過酸化水素添加部
10 鉄イオン添加部
11 制御装置
12 濃度検出手段
13 処理対象入力手段
14 マイクロコンピュータ
15 駆動回路
16 CPU
17 RAM
18 ROM
19 記憶装置
20 インプット・ポート
21 アウトプット・ポート
22 第1プロセス処理手段
23 第2プロセス処理手段
24 第3ロセス処理手段
25 第4プロセス処理手段
26 総モル数演算手段(その1)
27 添加量演算手段(その1)
28 データ検索処理手段
29 総モル数演算手段(その2)
30 添加量演算手段(その2)
31 酸化分解データテーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性の硫黄系有機化合物について、硫黄原子(S)を含んだ構成成分を処理対象とし、水溶液中の該処理対象を、OHラジカル(・OH)にて酸化分解する方法であって、
該処理対象について、水酸基(−OH)の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該水酸基の水素原子(H)を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外遊離すると共に、該水酸基の酸素原子(O)を二重結合化又は不対電子有化させるか、分子化して系外遊離させる第1プロセスと、
該処理対象について、水素原子の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該水素原子を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、該処理対象の硫黄原子を不対電子有化させる第2プロセスと、
該処理対象について、原子の不対電子の有無を判定し、有の場合、OHラジカルが該原子に付加して水酸基が生成される第3プロセスと、を有してなると共に、
最終的には第4プロセスにおいて、まず、OHラジカルが水分子から水素原子を奪って酸化し、自身は水に回帰して系外に遊離すると共に、酸素分子を発生させつつ発生期の水素(H+e-)を生成し、該発生期の水素が該処理対象の残基を還元して、硫酸(HSO)が生成されること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項2】
請求項1において、該処理対象は、R−S−型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−SH型の硫黄原子を含んだ構成成分、R−S−O−型の硫黄原子を含んだ構成成分、又は、R−S(=O)−型の硫黄原子を含んだ構成成分よりなり、それぞれが前記各プロセスを辿ること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの必要総モル数が、前記各プロセスでの反応式に基づき算出されること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項4】
請求項3において、OHラジカルはフェントン法にて生成され、過酸化水素および鉄イオンの添加量が、OHラジカルの該必要総モル数と該フェントン法に基づき算出されること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項5】
請求項4において、まず検出手段により、該硫黄系有機化合物の濃度が検出されると共に、入力手段により、該硫黄系有機化合物中の該処理対象の構成成分とそのモル数が入力され、
もって、検出された該濃度、および入力された該処理対象の構成成分とそのモル数に基づき、制御装置により、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数、そして過酸化水素および鉄イオンの該添加量が算出され、
そして、該制御装置からの指示に基づき、過酸化水素添加部および鉄イオン添加部により、該処理対象の水溶液に対し、少なくとも該添加量の過酸化水素および鉄イオンが添加されること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項6】
請求項5において、該制御装置はコンピュータにて構成されており、そのプログラムに基づき、該処理対象の構成成分について、前記第1,第2,第3,第4の各プロセス毎に必要なOHラジカルのモル数を、算出するプロセス処理と、
該プロセス処理に基づく、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数の演算処理と、
該演算処理に基づく、過酸化水素および鉄イオンの該添加量の演算処理とが、行われること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。
【請求項7】
請求項5において、該制御装置はコンピュータにて構成されており、そのプログラムに基づき、予め記憶された各構成成分毎のデータを検索して、該処理対象の構成成分の酸化分解に必要なOHラジカルのモル数を抽出するデータ検索処理と、
該データ検索処理に基づく、該処理対象の構成成分の酸化分解に要するOHラジカルの該必要総モル数の演算処理と、
該演算処理に基づく、過酸化水素および鉄イオンの該添加量の演算処理とが、行われること、を特徴とする硫黄系有機化合物の酸化分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−210563(P2012−210563A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77043(P2011−77043)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【Fターム(参考)】