説明

硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品およびその製造方法

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品およびその製造方法に関するものである。
「従来の技術]
従来、繊維強化樹脂成形品は、軽量、高強度、種々な形状に成形可能であるなどの利点を生かし、内,外装材,各種設備機器などの建設分野,タンクなどの容器,船舶,自動車,電気機器,スポーツ用品など広範囲な分野で利用されている。これら繊維強化樹脂成形品は、意匠性,耐久性などを向上させるため各種塗料の塗装がされてきている。
また、耐候性の優れた塗料として、硬化反応性部位を有する溶剤可溶性の含フッ素共重合体を必須成分とする塗料組成物が知られている。例えば特開昭57−34107号,特開昭58−136662号など。
この様な含フッ素共重合体を必須成分とする塗料組成物を繊維強化樹脂成形品に塗装することも試みられておるが、一般に成形後、スプレー塗装により塗装するため、塗料の損失が極めて大きいという問題点があった。
[発明の解決しようとする問題点]
また、塗料の損失を少なくし、また均一な塗膜を付与する方法として、あらかじめ塗料を塗布した成形用型を用いて繊維強化樹脂を成形する方法も知られている。しかしながら、この方法を用いて前述の含フッ素共重合体を必須成分とする塗料を塗装した場合には、成形後スプレー塗装した場合に比べて塗膜の密着性が極めて低いという問題点があった。
[問題点を解決するための手段]
本発明は前述の問題点を解決すべくなされたものであり、(1)フルオロオレフィンに基づくフッ素含有量が10重量%以上であり硬化反応性部位を有する溶剤可溶性含フッ素共重合体、スチレンに基づく重合した単位を10重量%以上有するアクリル系共重合体、および硬化剤、に基づく硬化塗膜であって、繊維強化樹脂成形品の成形時に形成された硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品。
(2)フルオロオレンフィンに基づくフッ素含有量が10重量%以上であり硬化反応性部位を有する溶剤可溶性含フッ素共重合体、スチレンに基づく重合した単位を10重量%以上有するアクリル系共重合体、および硬化剤、を含む塗料をあらかじめ内面に塗布した繊維強化樹脂成形用型を用いて繊維強化樹脂材料を成形することを特徴とする、硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品の製造方法。
を提供するものである。
本発明において、硬化反応性部位を有する溶剤可溶性含フッ素共重合体としては、種々の含フッ素重合体が採用されるが、ポリテトラフルオロエチレン,テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体などの溶剤に不溶性の含フッ素重合体は、紫外線吸収剤,硬化剤との均一混合が難しく好ましくない。好ましい溶剤可溶性含フッ素共重合体としては、フルオロオレフィンおよびエチレン性不飽和化合物の共重合体を挙げることができる。ここで、フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン,クロロトリフルオロエチレン,トリフルオロエチレン,フツ化ビニリデン,ヘキサフルオロプロピレン,ペンタフルオロプロピレンなどの炭素数2〜4程度のフルオロオレフィンが好ましい。特に、テトラフルオロエチレン,クロロトリフルオロエチレン,フッ化ビニリデンまたはヘキサフルオロプロピレンが好ましく採用される。エチレン性不飽和化合物としては、上記フルオロオレフィンと共重合体可能なものが採用される。かかるエチレン性不飽和化合物としては、オレフィン類,ビニルエーテル類,ビニルエステル類,アリルエーテル類,アリルエステル類,アクリロイル基含有化合物,メタクリロイル基含有化合物などが例示される。特に、フルオロオレフィン類との共重合性に優れ、また、共重合された共重合体が溶剤に対する溶解性が優れる点から、オレフィン類,ビニルエーテル類,ビニルエステル類,アリルエーテル類,アリルエステル類が好ましく採用される。かかるエチレン性不飽和化合物としては、炭素数1〜15程度の直鎖状,分岐状あるいは脂環状のアルキル基を有する化合物が好ましく採用される。アルキル基の炭素数があまりに大きいものは、硬化物の耐候性を低下させる傾向があり、好ましいとは言えない。また、エチレン性不飽和化合物は、炭素に結合した水素の一部または全部がフッ素に置換されたものであってもよい。
また、本発明における含フッ素共重合体はフルオロオレフィンおよびエチレン性不飽和化合物がそれぞれ単独で、または二種類以上の混合で共重合されているものであってもよい。
本発明における含フッ素共重合体は、硬化反応性部位を有する。ここで、硬化反応性部位とは、それ自身同志または、硬化剤あるいは紫外線吸収剤と反応して、含フッ素共重合体間に橋かけ構造を形成し、組成物を硬化体に転化させることの可能な部位である。かかる硬化反応性部位としては、水酸基,カルボン酸基,酸アミド基,アミノ基,メルカプト基などの活性水素含有基、エポキシ基,不飽和基,ヨウ素,臭素などの活性ハロゲン含有基,加水分解可能なシリル基などが例示される。中でも、後述する硬化剤との反応性が優れる点から活性水素基含有基またはエポキシ基が好ましく採用される。
かかる硬化反応性部位の導入方法としては、硬化反応性部位を有するモノマーを共重合させる、含フッ素共重合体の一部を硬化反応性部位に変換させる、含フッ素共重合体に硬化反応性部位を有するまたは硬化反応性部位を与える化合物を反応させるなどの方法が例示される。ここで、硬化反応性部位を有するモノマーとしては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル,ヒドロキシアルキルアリルエーテル,グリシジルビニルエーテル,グリシジルアリルエーテル,アミノアルキルビニルエーテル,アミノアルキルアリルエーテル,アミノアルキルビニルエステル,アミノアルキルアリルエステル,アクリル酸,メタクリル酸,アリルビニルエーテルなどが例示される。含フッ素共重合体の一部を硬化反応性部位に変換させる方法としては、重合後加水分解可能なエステル結合を有するモノマーを共重合させた後、加水分解してカルボン酸基または水酸基に変換せしめる方法などがある。また、含フッ素共重合体に化合物を反応させて硬化部位を導入する方法としては、水酸基を有する含フッ素共重合体に多価カルボン酸無水物を反応させてカルボン酸基を導入する方法、水酸基を有する含フッ素共重合体にイソシアナート基含有アクリロイル化合物またはメタクリロイル化合物あるいは、アクリル酸クロライドなどの化合物を反応させて不飽和基を導入する方法、エポキシ基を有する含フッ素共重合体に、多価カルボン酸無水物を反応させて水酸基とカルボン酸基を、フェノールを反応させて水酸基を導入する方法などが例示される。
本発明における含フッ素共重合体は、フルオロオレフィン単位に基づくフッ素含有量が10重量%以上のものである。フッ素含有量が低いものは、それ自身の耐候性が低いため、硬化物の表面部分の耐候性が悪くなることがあり、好ましくない。特に、フルオロオレフィンが30〜70モル%の割合で共重合された含フッ素共重合体が好ましい。フルオロオレフィンの共重合割合があまりに多くなると溶剤に対する溶解性が低下し、塗料用として組成物を用いる場合に作業性が低下する、また硬化剤および紫外線吸収剤の混合作業性が低下することがあり、好ましいとはいえなくなる。また、硬化反応性部位を有する繰り返し単位が2〜40モル%程度の割合で含まれていることが好ましい。硬化反応性部位の量が少なすぎると好適な機械的性質を示す硬化体を与えることができず、また、多すぎると、硬化体が硬くなって可撓性がなく、脆いものとなってしまい、塗料用などの用途に適さなくなるため好ましくない。
また、本発明における含フッ素共重合体は、テトラヒドロフラン中30℃で測定される固有粘度(以下、単に[η]ということがある)が、0.02〜4.0dl/gであるものが、塗料用など被覆用に用いる場合に作業性、硬化物の物性が優れることから好ましい。
本発明におけるアクリル系共重合体は、スチレンに基づく重合した単位を10重量%以上含有する。スチレンに基づく重合した単位を含有しないあるいは少なすぎる場合には、塗膜の密着性が低下し好ましくない。好ましくはスチレンに基づく重合した単位を30重量%以上含有するものであるが、あまり、スチレンに基づく重合した単位の大きなアクリル系共重合体を採用すると、成形品の耐候性が低くなり好ましくない。好ましくは50重量%以下程度含有するアクリル系共重合体である。また、アクリル系共重合体は、スチレンの他に、アクリロイル化合物またはメタアクリロイル化合物が共重合したものである。かかるアクリロイル化合物またはメタアクリロイル化合物としては、アクリル酸アルキルエステル,メタアクリル酸アルキルエステルなどが例示される。また、アクリル系共重合体としては、前記含フッ素共重合体と同様の硬化反応性部位を有しているものが強靭な塗膜が得られるため好ましい。かかる硬化反応性部位の導入方法としては、含フッ素共重合体に硬化部位を導入した時と同様に、硬化反応性部位を有するモノマーを共重合させる,アクリル系共重合体の一部を硬化反応性部位に変換させる,アクリル系共重合体に硬化反応性部位を有するまたは硬化反応性部位を与える化合物を反応させるなどの方法が採用可能である。
本発明において、硬化剤としては、前記含フッ素共重合体の硬化反応性部位と反応し得る基を有する化合物であって、含フッ素共重合体と反応して良好な硬化体を与えるものが採用される。かかる硬化剤としてはポリイソシアナート系,アミノプラスト,多塩基酸無水物金属アルコキシドなどを挙げることができる。ポリイソシアナート系としては、ヘキサメチレンジイソシアナートなどのポリイソシアナート化合物,メチルシリルトリイソシアナートなどのシリルイソシアナート化合物や、これらの部分縮合物,多量体や、イソシアナート基をフェノールなどのブロック化剤でブロックしたブロックポリイソシアナート化合物などが例示される。特に無黄変タイプのものが好ましく採用される。アミノプラストとしては、メラミン樹脂,グアナミン樹脂,尿素樹脂などが採用される。中でもメタノール,エタノール,プロパノール,ブタノールなどの低級アルコールの一種または二種以上により少なくとも部分的にエーテル化されたメラミンが好ましく採用される。多塩基酸無水物としては、無水フタル酸,無水ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸無水物や無水マレイン酸,無水コハク酸などの脂肪族多価カルボン酸無水物などが例示される。
本発明において、含フッ素共重合体,アクリル系共重合体および硬化剤の配合量は、特に限定されず、目的,用途に応じて適宜選定可能であるが、塗膜形成成分中含フッ素共重合体が10重量%以上,アクリル系共重合体が20重量%以上含まれていることが耐候性および塗膜の密着性の優れた繊維強化樹脂成形品が得られるため好ましい。特に、含フッ素共重合体が50重量%以上含まれるものが耐候性に優れ、また、アクリル系共重合体が30重量%以上含まれるものが塗膜の密着性が優れるため好ましい。また、硬化剤は、含フッ素共重合体とアクリル系共重合体の合計量に対して5〜200重量%程度の量が通常採用される。
本発明における塗料組成物は、上記含フッ素共重合体,アクリル系共重合体および硬化剤の他に溶剤,光安定剤,着色剤,硬化触媒,レベリング剤,滑剤,粘度調整剤,分散安定剤,ゲル化防止剤などが添加されていてもよい。本発明において、繊維強化樹脂成形品は、前述の塗料組成物をあらかじめ内面に塗布した成形用型を用いて成形される。成形用型に塗料用組成物を塗布するに当り、成形用型からの離脱を容易ならしめるために離型剤が塗布されていることが好ましい。離型剤としては、フッ素系離型剤,シリコーン系離型剤,ポリビニルアルコール系離型剤,金属石けん,酸アミドなどを利用することができる。
また、本発明において、塗料用組成物を繊維強化樹脂成形用型内面に塗布するに際しては、スプレー塗装など従来一般に用いられる方法が採用可能である。また、成形用型内面に塗布された塗料を乾燥あるいは硬化せしめた後、繊維強化樹脂の成形を行うことが好ましい。乾燥あるいは硬化を行わずに繊維強化樹脂の成形を行うと、塗膜のむらが生じ、耐候性が低下することがあり好ましくない。また硬化を行う場合には、完全に硬化させてしまわない方が塗膜の密着性の優れた成形品が得られるため好ましい。
繊維強化樹脂の成形に当っては、従来周知の成形法、例えば、射出成形,トランスファー成形,圧縮成形,引き抜き成形,フィラメントワインディング成形,ハンドレイアップ成形,インジェクションモールド成形などの方法が採用可能である。
また、本発明において使用される繊維強化樹脂も従来周知のものを採用することができる。例えば、強化繊維として、炭素繊維,ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維などを含む不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル,エポキシ樹脂など広範なものが、採用可能である。
また、本発明の繊維強化樹脂成形品は、特定の含フッ素共重合体,アクリル系共重合体および硬化剤に基づく硬化樹脂が一体的に形成されているため、極めて耐候性が優れ、美粧性が長期にわたって持続されるという優れたものである。
[実施例]
実施例1〜4,比較例1 第1表に示す配合の組成物を、キシレン,イソブチルケトン混合溶媒200重量部,ミネラルスピリット40重量部に溶かした塗料組成物を、シリコーン系離型剤を塗布した金型に塗布し、80℃で10分間乾燥,予備硬化を行なった。この金型を用いて、ガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂を常圧,温度120℃にて30分間で熱硬化させた後、冷却して、金型から成形品をとり出した。
この成形品の塗膜の密着性(セロテープゴバン目剥離試験),耐候性(サンシャインウェザーオーメーター2000時間後の光沢保持率),型からの脱型性を第2表に示した。


なお硬化剤は、ヘキサメチレンジイソシアナート環状三量体,硬化触媒は、ジブチル錫ジラウレート,紫外線吸収剤1は、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン,紫外線吸収剤2は、2−ヒロドキシ−4−ヒドロキシエチルベンゾフェノン,着色剤は、ルチル型酸化チタン粉末であり、含フッ素共重合体A−1〜A−4,アクリル系共重合体B−1,B−2は、次に示す共重合体組成を有するものである。


なお、A−4は、ヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく水酸基の10%を無水コハク酸を反応させてカルボン酸基に変性したものである。




[発明の効果]
本発明によれば、耐候性に優れ、塗膜の密着性の優れた繊維樹脂成形品を、塗料の損失なく、効率的に製造することができる。また、かかる繊維強化樹脂成形品は、耐候性に優れ、長期にわたって美粧性が保持されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】フルオロオレフィンに基づくフッ素含有量が10重量%以上であり硬化反応性部位を有する溶剤可溶性含フッ素共重合体、スチレンに基づく重合した単位を10重量%以上有するアクリル系共重合体、および硬化剤、に基づく硬化塗膜であって、繊維強化樹脂成形品の成形時に形成された硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品。
【請求項2】フルオロオレフィンに基づくフッ素含有量が10重量%以上であり硬化反応性部位を有する溶剤可溶性フッ素共重合体、スチレンに基づく重合した単位を10重量%以上有するアクリル系共重合体、および硬化剤、を含む塗料をあらかじめ内面に塗布した繊維強化樹脂成形用型を用いて繊維強化樹脂材料を成形することを特徴とする、硬化塗膜を有する繊維強化樹脂成形品の製造方法。

【特許番号】第2858415号
【登録日】平成10年(1998)12月4日
【発行日】平成11年(1999)2月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−138498
【出願日】昭和63年(1988)6月7日
【公開番号】特開平1−308433
【公開日】平成1年(1989)12月13日
【審査請求日】平成7年(1995)5月31日
【出願人】(999999999)旭硝子株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭62−212471(JP,A)
【文献】特開 昭62−45635(JP,A)
【文献】特開 昭59−101359(JP,A)