説明

硬化性樹脂組成物及び光記録媒体。

【課題】 帯電が十分に防止された状態を長期間にわたって維持できる硬化性樹脂組成物を提供すること。また、表面に塵や埃が付着しにくい状態を長期間にわたって維持できる光記録媒体を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるカチオン及びこれの対アニオンを含有する硬化性樹脂組成物。
【化1】


[式(1)中、Y及びYはそれぞれ独立にエチレン性不飽和結合を有する1価の基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Aは非イオン性の2価の有機基を示し、Y、R及びRから選ばれる2つの基、並びにY、R及びRから選ばれる2つの基は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の照射や加熱等によって硬化する硬化性樹脂組成物、及び光の照射により情報の記録が可能な光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク等の光記録媒体は、一般に、傷の防止等のために、硬化性樹脂組成物の硬化物等によって表層部に形成された保護層によって表面が保護されている。硬化性樹脂組成物は、保護層を形成させる際の生産性が高く、その硬化物の透明性及び強度の点でも優れている。ただ、硬化性樹脂組成物の硬化物は絶縁性であるために、光記録媒体の保存中や使用中に保護層における帯電が起こりやすい傾向にある。保護層が帯電すると表面に塵や埃が付着しやすくなる。
【0003】
一方、合成樹脂成形品等の絶縁性材料の帯電を防止するための帯電防止剤として、例えば、3個以上のイオン性基を有するモノマーを構成単位とするポリマー型帯電防止剤が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3047094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光記録媒体の更なる高密度化及び大容量化を図るためには、レンズの開口数(NA)を大きくすることにより、記録光及び再生光を高度に絞り込むことが有効である。そのため、近年、光記録媒体の記録及び再生において、焦点距離の短いレンズが用いられるようになってきている。しかし、レンズの焦点距離が短くなると、光記録媒体の表面に付着した塵や埃の影響を受けやすくなる。そこで、光記録媒体の高密度化及び大容量化にともなって、保護層をより帯電しにくい材料で形成することが求められている。
【0005】
しかしながら、本発明者による検討の結果、上記特許文献1に記載のもの等の従来の帯電防止剤は、光記録媒体の保護層に用いられる硬化性樹脂組成物に添加したときに、初期の帯電防止効果は優れるものの、時間の経過にともなって急速にその効果が減退してしまうことが明らかとなった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、帯電が十分に防止された状態を長期間にわたって維持できる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、表面に塵や埃が付着しにくい状態を長期間にわたって維持できる光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表されるカチオン及びこれの対アニオンを含有する。
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)中、Y及びYはそれぞれ独立にエチレン性不飽和結合を有する1価の基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Aは非イオン性の2価の有機基を示し、Y、R及びRから選ばれる2つの基、並びにY、R及びRから選ばれる2つの基は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記式(1)で表されるような特定の構造を有する2価のカチオンを架橋性のモノマーとして含有していることにより、硬化物となったときに十分に帯電が防止された状態が長期間にわたって維持される。
【0011】
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかでないが、例えば、上記式(1)で表されるカチオンにおいては、イオン性基として2個の4級アンモニウム基を有していることにより、硬化性樹脂組成物中の他の成分との相溶性と、帯電防止効果を発現するための導電性とが、高度にバランスよく両立していることによると考えられる。樹脂中の他の成分との相溶性が良好であると、硬化性樹脂組成物が硬化するときに、カチオンがエチレン性不飽和結合における架橋反応によってポリマーネットワーク中に効率的に取り込まれることが期待される。ポリマーネットワーク中に取り込まれた上記カチオンは、硬化物中で拡散しにくく、ブリードアウト等も生じにくい。このことにより、帯電防止効果が低下しにくくなったと考えられる。
【0012】
上記の対アニオンは、ハロゲンイオンを含んでいることが好ましい。これにより、より顕著な帯電防止の効果が発現する。
【0013】
上記カチオン及び上記対アニオンからなる塩の含有割合は、硬化性樹脂組成物全体に対して1〜10質量%であることが好ましい。これにより、帯電防止効果が特に大きくなり、また、硬化物の耐水性もより優れるものとなる。
【0014】
及びXの少なくとも一方が、アクリル基又はメタクリル基を有する1価の基であることが好ましい。これにより、帯電防止効果の経時変化が更に小さくなる。
【0015】
本発明の光記録媒体は、光の照射により情報が記録される記録層と、当該記録層の少なくとも一面側に設けられ上記本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでいる保護層とを備えるものである。ここで、保護層は、記録層の少なくとも一面側に設けられていればよく、必ずしも記録層と接している必要はない。
【0016】
この本発明の光記録媒体は、上記本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物によって表面が保護されていることによって、表面に塵や埃が付着しにくい状態を長期間にわたって維持できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性樹脂組成物によれば、帯電が十分に防止された状態を長期間にわたって維持できる。また、本発明の光記録媒体は、表面に塵や埃が付着しにくい状態を長期間にわたって維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、必要により図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線の照射、又は加熱による架橋反応によって硬化する樹脂組成物である。本発明の硬化性樹脂組成物は、特に、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化樹脂であることが好ましい。紫外線硬化樹脂であれば、後述する光記録媒体の保護層を高い生産性で容易に形成させることができる。また、紫外線硬化樹脂の場合、紫外線の照射後、加熱により更に硬化を進行させてもよい。
【0020】
この硬化性樹脂組成物は、上記一般式(1)で表されるカチオン(以下「アンモニウムカチオン」という。)を含有する。
【0021】
及びYはそれぞれ独立にエチレン性不飽和結合を有する1価の基を示す。Y及びYは、アクリル基又はメタクリル基を有する1価の基であることが好ましい。アクリル基を有する1価の基としてはアクリロイルオキシアルキル基及びアクリロイルアミノアルキル基等が挙げられ、メタクリル基を有する1価の基としてはメタクリロイルオキシアルキル基及びメタクリロイルアミノアルキル基等が挙げられる。また、Y及びYの総炭素数は4〜8であることが好ましい。Y及びYの好適な具体例としては、アクリロイルオキシエチル基、アクリロイルオキシプロピル基、メタクリロイルオキシエチル基、メタクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。
【0022】
、R、R及びRは、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R、R、R及びRの総炭素数は1〜5であることが好ましい。R、R、R及びRの好適な具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基等が挙げられる。
【0023】
Aは非イオン性の2価の有機基を示す。Aとしては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ポリオキシアルキレン基、アリーレン基及びアルキレン基を有する2価の基(アラルキレン基)、オキシ基及びアルキレン基を有する2価の基、並びにチオ基及びアルキレン基を有する2価の基が挙げられる。これらの中でも、アルキレン基及びびアラルキレン基が好ましい。なお、上記アリーレン基は複素環を有していてもよい。
Aがアルキレン基である場合、総炭素数が1〜20であることが好ましい。また、Aがアラルキレン基である場合、下記一般式(21)で表される2価の基が好ましい。式(21)において、R11及びR12はそれぞれ独立にアルキレン基を示し、Arはフェニレン基等のアリーレン基を示す。R11及びR12は総炭素数1〜4のアルキレン基であることが好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
Aの他の具体例としては、下記一般式(22)又は(23)で表される2価の基が挙げられる。式(22)及び(23)中、R13、R14、R15、R16及びR17はそれぞれ独立にアルキレン基を示し、Z、Z及びZはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を示す。R13、R14、R15、R16及びR17は、総炭素数1〜4のアルキレン基であることが好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(1)において、Y、R及びRから選ばれる2つの基、並びにY、R及びRから選ばれる2つの基は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。ただし、このような環は形成されていないことが好ましい。
【0028】
アンモニウムカチオンとしては、帯電防止効果が特に優れている点から、下記一般式(1a)又は(1b)で表されるものが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
式(1a)及び(1b)において、R、R、R及びRは式(1)におけるものと、その好適な態様も含めて同義のものである。また、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、m1、m2及びnはそれぞれ独立に2〜18の整数を示す。合成が容易である点から、R及びRは互いに同一であることが好ましく、m1及びm2も互いに同一であることが好ましい。
【0031】
アンモニウムカチオンの分子量は、650以下であることが好ましく、370〜650であることがより好ましい。この分子量が650を超えると保護層においてブリードアウトを生じやすくなる傾向にある。
【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物は、アンモニウムカチオンの対アニオンも含有する。すなわち、硬化性樹脂組成物中には、これらアンモニウムカチオン及びこれの対アニオンからなるアンモニウム塩が含まれている。この対アニオンは、単独種又は複数種のアニオンからなる。
【0033】
この対アニオンとしては、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)及びヨウ素イオン(I)等のハロゲンイオンが好ましい。ハロゲンイオンの中でも、塩素イオン及び臭素イオンが特に好ましく、塩素イオンが最も好ましい。
【0034】
アンモニウムカチオンは、例えば、下記一般式(2a)で表される3級アミン化合物及び下記一般式(2b)で表される3級アミン化合物と、下記一般式(3)で表されるジハロゲン化合物との反応によって、式(3)におけるXに由来する対アニオンとの塩として合成することができる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
式(2a)、(2b)及び(3)において、R、R、R、R、Y、Y及びAは、その好適な態様も含めて、式(1)におけるものと同義のものである。但し、R、R、R及びRが同一で、且つ、Y及びYが同一であることが好ましい。すなわち、3級アミン化合物として単一種のものを用いることが好ましい。また、式(3)において、Xはハロゲン原子を示し、通常、これに由来するアニオンがアンモニウムカチオンの対アニオンとなる。
【0038】
上記反応は、上記3級アミン化合物の比率を、上記ジハロゲン化合物1.0モルに対して2.0モル以上、好ましくは2.0〜3.0モルとして行うことができる。この反応は、例えば、アセトニトリル、ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒等の反応溶媒に、上記3級アミン化合物及びジハロゲン化合物を溶解した反応液を、50〜60℃程度に加熱しながら数日間攪拌することにより進行させることができる。反応溶媒は、エステル交換反応等の副反応を防止するため、アルコール系溶媒を含まないことが好ましい。反応終了後、反応液にアセトン等を加えてアンモニウムカチオンの塩を含有する沈殿物を析出させ、これをろ別してアセトン等で洗浄することにより、目的とする塩が得られる。
【0039】
上記3級アミン化合物としては、アクリル酸若しくはメタクリル酸のジアルキルアミノアルキルエステル、又はアクリル酸若しくはメタクリル酸のジアルキルアミノアルキルアミドが好ましい。アクリル酸若しくはメタクリル酸のジアルキルアミノアルキルエステルとしては、アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノペンチルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノヘキシルエステル及びメタクリル酸ジメチルアミノオクチルエステル等が挙げられる。アクリル酸若しくはメタクリル酸のジアルキルアミノアルキルアミドとしては、アクリル酸ジメチルアミノプロピルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノプロピルアミド及びメタクリル酸ジメチルアミノオクチルアミド等が挙げられる。
【0040】
上記ジハロゲン化合物の具体例としては、1,3−ジクロロプロパン、1,4−ジクロロブタン、1,5−ジクロロペンタン、1,6−ジクロロヘキサン、1,8−ジクロロオクタン、1,10−ジクロロデカン、1,12−ジクロロドデカン、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,8−ジブロモオクタン、1,10−ジブロモデカン、1,12−ジブロモドデカン、1,2−ビス(2−クロロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(2−クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2−クロロメチル)ベンゼン、ビス(2−クロロエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−クロロエチルチオ)エタン、1,3−ビス(2−クロロエチルチオ)プロパン、1,4−ビス(2−クロロエチルチオ)ブタン、ビス(2−クロロエチルチオ)メタン、ビス(2−クロロエチルチオエチル)エーテル、及びビス(2−クロロエチルチオメチル)エーテル等が挙げられる。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物は、通常、アンモニウムカチオン及びこれの対アニオンの他にも、紫外線の照射等によってこのアンモニウムカチオンと共重合する架橋性モノマー、又はこの架橋性モノマー及び架橋性オリゴマーを含有する。これにより、アンモニウムカチオンが他の架橋性モノマーと共重合して形成される3次元架橋構造中に取り込まれる。架橋構造中に取り込まれたアンモニウムカチオンは、いわゆる主鎖型であるアイオネン構造となっているため、ペンダント型構造等と比較して自由度の低い状態となっている。このことも、優れた帯電防止効果や、小さい経時変化といった効果の発現に寄与していると考えられる。
【0042】
アンモニウムカチオン及びこれの対アニオンからなる塩の含有割合は、硬化性樹脂組成物全体に対して1〜10質量%であることが好ましく、3〜9質量%であることが好ましく、5〜8質量%であることが更に好ましい。この含有割合が1質量%以下であると帯電防止効果が低下する傾向にあり、10質量%を超えると吸湿性が高まって、信頼性が低下する傾向にある。
【0043】
上記架橋性モノマーは、架橋構造を効率的に形成させるため、架橋性官能基を2個以上有することが好ましい。架橋性官能基としては、ラジカル重合が可能なエチレン性不飽和結合を有する官能基が好ましい。架橋性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸塩、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸塩、メタクリル酸エステル及びメタクリル酸アミド等のアクリル化合物、スチレン及びα−ビニルスチレン等のスチレン化合物、架橋性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシメタクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、あるいはこれらオリゴマーのアクリレート基若しくはメタクリレート基がアクリル酸若しくはメタクリル酸、アクリル酸塩若しくはメタクリル酸塩、アクリル酸アミド若しくはメタクリル酸アミド等に誘導されたものが挙げられる。
【0044】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線の照射による硬化性を高めるため、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤としては、一般に光重合開始剤として用いられているものから、その反応性等を考慮して適宜選択して用いることができる。光重合開始剤の具体例としては、ベンゾインアルキルエーテル、ベンゾフェノン、ジアルコキシアセトフェノン、ベンゾイルホスフィンオキシド、ベンゾインオキシムケトン、ベンジルジアルキルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(イルガキュア184)、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア907)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(イルガキュア819)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173)、[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(イルガキュア2959)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369)、およびこれらの混合物、例えば、イルガキュア184とベンゾフェノンの混合物(イルガキュア500)、ダロキュア1173とイルガキュア184の混合物(イルガキュア1000)などが挙げられる。なお、上記の「イルガキュア」及び「ダロキュア」は登録商標である。
【0045】
本発明の硬化性樹脂は、更に、熱重合禁止剤、接着性付与剤、界面活性剤、酸化防止剤、顔料、染料、ガラス粒子等の微粒子を含有していてもよい。これにより、安定となり、基板や反射膜との密着性が向上し、また、表面の硬度が高められて、傷の発生がより生じにくくなる。
【0046】
以上説明したような硬化性樹脂組成物の硬化物からなる保護層は、帯電が長期間にわたって十分に防止される。また、上記のアンモニウムカチオンは少ない添加量で十分な帯電防止効果が得られるため、大量の添加に起因するブリードアウトの発生も防止される。また、この硬化性樹脂組成物の硬化物は耐水性にも優れるため、高湿度環境下においても帯電防止効果を維持することが可能である。
【0047】
図1は、本発明による光記録媒体の一実施形態を示す断面図である。図1に示す光記録媒体10は、基板1と、記録層2と、反射層3と、保護層5とがこの順で積層された構成を有している。記録層2に対して基板1の側から記録光及び再生光が照射されることにより、記録層2への情報の記録及び記録層2からの情報の読み出しが行われる。
【0048】
基板1は、直径が64〜200mm程度、厚さが0.6mm程度のディスク状のものである。基板1は記録光及び再生光に対して実質的に透明であることが好ましい。より具体的には、基板1の記録光及び再生光に対する透過率が88%以上であることが好ましい。基板1は、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アモルファスポリエチレン、TPX、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂の射出成形により得られる。
【0049】
基板1の記録層2と接する面にはグルーブ(図示せず)が形成されており、このグルーブに沿って記録層2に記録ピットが形成される。このグルーブは、スパイラル状の連続型グルーブであることが好ましく、深さが60〜200nmであり、幅が0.2〜0.5μmであり、グルーブピッチが0.6〜1.0μmであることが好ましい。
【0050】
記録層2には、記録光が照射されたときに熱分解等により記録ピットを形成する色素、または相変化材料を含有している。この色素としては有機色素が好適に用いられる。有機色素としては、光記録媒体の記録層において通常用いられるものを用いることができる。具体的には、例えば、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アゾ金属錯体系色素、スクワリリウム系色素、ホルマザン系色素などが挙げられる。記録層3の厚さは50〜200nmであり、記録光に対する複素屈折率がn=1.8〜2.6、k=0.02〜0.20であることが好ましい。記録層2は、例えば、色素及びこれを溶解する溶剤を含有する塗布液を基板1上に塗布した後、塗布液から溶剤を除去する方法によって形成させることができる。
【0051】
反射層3は、高反射率の金属又は合金を用いて蒸着、スパッタ等を行うことにより形成される。金属及び合金としては、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)及びこれらの合金が挙げられる。反射層3の厚さは50〜120nmであることが好ましい。
【0052】
保護層5は、上記本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、記録層2の記録光及び再生光が入射する面と反対側における最外層に設けられている。保護層5の厚さは、3〜100μmであることが好ましい。
【0053】
保護層5は、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物及び必要に応じて溶剤を含有する塗布液を反射層3上に塗布した後、塗布液中の溶剤を除去し、紫外線の照射により硬化性樹脂組成物を硬化することにより、形成させることができる。
【0054】
本発明の光記録媒体は、上記のような実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、図1の光記録媒体10においては、保護層5は反射層3に隣接して設けられているが、保護層5と反射層3との間に、更に、保護層5とは別の保護層が設けられていてもよいし、保護層5と反対側(記録層2に記録光及び再生光が照射される側)の最外層に保護層が設けられていてもよい。また、光記録媒体10においては記録層が1層設けられているが、記録層が2層以上設けられていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
メタクリル酸2−ジメチルアミノエチルエステル11.82g(75.2mmol)と、1,3−ジクロロプロパン4.23g(37.4mmol)を21.04gのアセトニトリルに溶解し、更に、重合禁止剤として4−メトキシフェノールを0.27g添加して、反応液を調製した。反応液を60℃で120時間加熱して反応を進行させた後、アセトン1000mLを加えて、沈殿物を生成させた。沈殿物をろ別し、アセトンで洗浄後、乾燥して、下記式(1c)で表されるアンモニウムカチオン及び塩素イオンで形成された塩17.52gを得た(収率90%)。
【0057】
【化7】

【0058】
上記塩2gを少量のメタノールに溶解し、これを光ディスク保護用紫外線硬化樹脂(「ダイキュアSD−2200」(商品名)、大日本インキ社製)38gに添加して均一に溶解させて、紫外線硬化樹脂を含有する保護層形成用の塗布液を調製した。次いで、この塗布液をDVD−R用のディスク基板上にスピン塗布し、乾燥後に形成された紫外線硬化樹脂層に紫外線を照射してこれを硬化させることにより、ディスク基板上に保護層を形成させた。
【0059】
ディスク基板上の保護層をコロナ放電により帯電し、帯電直後からの帯電電圧の半減期を測定したところ、2分であった。また、保護層が形成されたディスク基板を80℃、85%RHの環境下で1000時間保存後、上記と同様にして帯電電圧の半減期を測定したところ、初期と同等の2分程度の値を維持していた。
【0060】
(実施例2)
アクリル酸2−ジメチルアミノエチルエステル9.63g(67.2mmol)と1,3−ジクロロプロパン3.79g(33.6mmol)を20mLのアセトニトリルに溶解し、更に、重合禁止剤として4−メトキシフェノールを0.35g添加して、反応液を調製した。反応液をマグネチックスターラーで攪拌しながら60℃で5日間(128時間)加熱して反応を進行させた。3日後の時点では反応液の外観に変化は認められなかったが、5日後には白色の沈殿物の析出が認められた。加熱を停止後、メタノールを加えて沈殿物の大部分を一旦溶解させた。溶液中に残った不溶物(0.112g)をろ別した後、ろ液にアセトン500mLを加えて、再び沈殿物を析出させた。この沈殿物をろ別し、真空圧下で乾燥して、下記化学式(1d)で表されるアンモニウムカチオン及び塩素イオンからなる塩5.131gを得た。
【0061】
【化8】

【0062】
上記塩を用いて、実施例1と同様にしてディスク基板上に保護層を形成させた。この保護層の初期の帯電電圧の半減期は2分以内であった。また、80℃、85%RHの環境下で1000時間保存後の帯電電圧の半減期も、初期と同等の2分以内を維持していた。
【0063】
(実施例3)
メタクリル酸2−ジメチルアミノエチルエステル11.82g(75.2mmol)と、1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン6.55g(37.4mmol)を21.04gのアセトニトリルに溶解し、更に、重合禁止剤として4−メトキシフェノールを0.27g添加して、反応液を調製した。反応液をマグネチックスターラーで攪拌しながら60℃で120時間加熱して反応を進行させた後、アセトン1000mLを加えて、沈殿物を析出させた。沈殿物をろ別し、アセトンで洗浄後、乾燥して、下記化学式(1e)で表されるアンモニウムカチオン及び塩素イオンで形成された塩16.8gを得た(収率92%)。
【0064】
【化9】

【0065】
上記塩を用いて、実施例1と同様にしてディスク基板上に保護層を形成させた。この保護層の初期の帯電電圧の半減期は2分であった。また、80℃、85%RHの環境下で1000時間保存後の帯電電圧の半減期も、初期と同等の2分程度を維持していた。
【0066】
(比較例1)
アンモニウムカチオンの塩を添加せず、光ディスク保護用紫外線硬化樹脂(「ダイキュアSD−661」(商品名)、大日本インキ社製)のみを用いて、実施例1と同様にしてディスク基板上に保護層を形成させた。この保護層について、初期及び80℃、85%RHの環境下で1000時間後の帯電電圧の半減期を測定しようとしたが、いずれにおいても帯電後の電圧低下が認められなかった。
【0067】
(比較例2)
アンモニウムカチオンの塩に代えて、乾燥後の濃度が1質量%となるような量の塩化リチウムを添加して塗布液を調製した他は実施例1と同様にして、ディスク基板上に保護層を形成させた。この保護層の初期の帯電電圧の半減期は1分以内であった。しかし、80℃、85%RHの環境下で1000時間保存後は、帯電電圧が一定の電圧以下には低下しなくなり、帯電電圧の半減期を求めることができなかった。
【0068】
(比較例3)
下記化学式(4)で表されるN,N,N’,N’−テトラメチル−1,12−ドデカンジアミン3.62g(21.0mmol)と下記化学式(5)で表される1,12−ジブロモドデカン6.92g(21.1mmol)を、20.2gのメタノール中で110℃で48時間加熱することにより反応させ、アセトンの添加による再沈殿により下記一般式(6)で表されるジブロモ化合物からなる白色沈殿9.04gを得た。続いて、このジブロモ化合物6.92gとジメチルアミノプロピルメタクリルアミド3.54gをメタノール中90℃で24時間反応させ、アセトン中の逆再沈操作により、下記化学式(7)で表されるアンモニウム塩からなる淡黄色沈殿を5.47g得た。得られたアンモニウム塩の数平均分子量は約5000であった。なお、式(6)及び(7)中、kは1以上の整数を示す。
【0069】
【化10】

式(1c)で表されるアンモニウムカチオンの塩に代えて、上記式(7)で表され、4級アンモニウム基を3個以上有するポリマー型のアンモニウムカチオンと塩素イオンとの塩を用いた他は実施例1と同様にして、ディスク基板上に保護層を形成させた。この保護層の初期の帯電電圧の半減期は3分以内であった。しかし、80℃、85%RHの環境下で1000時間保存後は、保護層表面に上記塩のブリードアウトによる白濁が認められた。そして、表面の付着物をふき取った後の帯電電圧の半減期は30分以上となり、帯電防止効果が失われた。このようなブリードアウトが生じたのは、ポリマー型のアンモニウムカチオンにおいては、架橋点となるエチレン性不飽和結合同士が離れていることや、4級アンモニウム基を多数有しているため樹脂中の他の成分との相溶性が低いことによると考えられる。
【0070】
実施例1、2及び3に示されるように、上記一般式(1)で表されるカチオン及びこれの対アニオンを含有する硬化性樹脂組成物を用いて形成された保護層は、高い帯電防止効果を、高温高湿環境下であっても長期間にわたって維持できることが確認された。また、これら実施例においては、4級アンモニウムを2個だけ有しているために樹脂中の他の成分との相溶性が良好であることや、架橋点であるエチレン不飽和結合同士の距離が比較的短いことにより、ブリードアウトも生じなかったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による光記録媒体の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1…基板、2…記録層、3…反射層、5…保護層、10…光記録媒体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカチオン及びこれの対アニオンを含有する硬化性樹脂組成物。
【化1】

[式中、Y及びYはそれぞれ独立にエチレン性不飽和結合を有する1価の基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Aは非イオン性の2価の有機基を示し、Y、R及びRから選ばれる2つの基、並びにY、R及びRから選ばれる2つの基は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。]
【請求項2】
前記対アニオンがハロゲンイオンを含んでいる、請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カチオン及び前記対アニオンからなる塩の含有割合が、硬化性樹脂組成物全体に対して1〜10質量%である、請求項1又は2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
及びYの少なくとも一方が、アクリル基又はメタクリル基を有する1価の基である、請求項1〜3の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
光の照射により情報が記録される記録層と、
当該記録層の少なくとも一面側に設けられ請求項1〜4の何れか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでいる保護層と、
を備える光記録媒体。




【図1】
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【公開番号】特開2006−206838(P2006−206838A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24266(P2005−24266)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】