説明

硬化性樹脂組成物

【課題】有機錫化合物を使用せず、保存安定性を有する湿気硬化型の硬化性樹脂組成物を可能にする。
【解決手段】(A)〜(C)成分を含む硬化性樹脂組成物。(A)成分:分子中に加水分解性シリル基を2以上有する化合物(B)成分:一般式1で示される化合物


(Rは水素原子、フッ素原子または塩素原子を示し、5のRの中に少なくとも1のフッ素原子が含まれる)(C)成分:(A)成分および(B)成分を除いたアミン化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機錫化合物を使用することなく、有機錫化合物を使用した時と同等以上の湿気硬化性を有すると共に、安定した保存安定性を有する湿気硬化性を有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化物が弾性を発現する湿気硬化型の組成物がしられている。(以下、弾性接着剤と呼ぶ。)その硬化触媒には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート等が汎用的に触媒として使用されている。近年、一部の有機錫化合物に関して法律および企業による自主規制により使用に規制がかかり始めている。そのため、弾性接着剤に非有機錫化合物を使用する出願が増加している。特許文献1は、その流れのなかで初期の段階で出願された発明である。しかしながら、フッ化ホウ素塩は毒物・劇物に該当する化合物が多く、一般消費者にも使用される可能性がある弾性接着剤には適していない。
【0003】
特許文献2では、有機錫化合物の代替としてフッ素化剤を使用している。一般的に、フッ化ナトリウムなどは歯の質を強くする効果や、むし歯の原因菌が酸を出すのを抑えるという作用があると知られて汎用されている。しかしながら、フッ素化剤は化学的な還元作用が強く、場合によってはフッ化水素が発生する恐れがあり人体に対する悪影響も恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−054174号公報
【特許文献2】特開2008−260932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、有機錫化合物を使用せず、保存安定性が安定した湿気硬化型の硬化性樹脂組成物が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、湿気硬化性樹脂、特定のフッ素化合物、アミン化合物からなる樹脂組成物に関する本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)〜(C)成分を含む硬化性樹脂組成物である。
(A)成分:分子中に加水分解性シリル基を2以上有する化合物
(B)成分:一般式1で示される化合物
(C)成分:(A)成分および(B)成分を除いたアミン化合物
【0008】
本発明の第二の実施態様は、(A)成分の加水分解性シリル基が一般式2の化合物であり、(C)成分のアミン化合物が3級アミン化合物である第一実施形態に記載の硬化性樹脂組成物。
【0009】
本発明の第三の実施形態は、(A)成分の加水分解性シリル基が一般式3の化合物であり、(C)成分のアミン化合物が1〜3級アミン化合物である第一の実施形態に記載の硬化性樹脂組成物である。
(Xはアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基またはアミノ基のいずれかを示す)である。
【0010】
本発明の第四の実施形態は、加水分解性シリル基のXがアルコキシ基である硬化性樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第五の実施形態は、(A)成分の主鎖が、(メタ)アクリルモノマー重合体および/またはオキシアルキレン重合体からなる硬化性樹脂組成物である。
【0012】
本発明の第六の実施形態は、第二の実施形態に記載される3級アミン化合物が、アミジン骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、ジアザビシクロ骨格を有する化合物、イミダゾール骨格を有する化合物から少なくとも1選択される硬化性樹脂組成物である。
【0013】
本発明の第七の実施形態は、第三の実施形態に記載の1〜3級アミン化合物が、アミノ基と加水分解性シリル基を有する化合物、アミジン骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、ジアザビシクロ骨格を有する化合物、イミダゾール骨格を有する化合物から少なくとも1選択される硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では有機錫化合物を使用せず、保存安定性を有する湿気硬化型の硬化性樹脂組成物を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、湿気により架橋反応が開始される加水分解性シリル基を2以上有する化合物である。当該加水分解性シリル基が主鎖に付加している部位は特に限定されるものではない。特に好ましくは、湿気硬化性と硬化物の弾性を両立する観点から、分子中に一般式2および/または一般式3の加水分解性シリル基を両末端に有する化合物である。また、当該加水分解性シリル基の数は、(A)成分中の平均値であっても良い。一般式2または一般式3のXは、アルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基またはアミノ基のものを使用することができる。また、一般式2のRは炭素数1〜20の炭化水素基または置換基を有する炭化水素基を示す。(以下、加水分解性シリル基と総称する。)特に好ましくは、アルコキシ基であり具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【化1】

【0016】
(A)成分は、取扱いの観点より25℃において液状であることが好ましく、一般式2を有する(A)成分と一般式3を有する(A)成分を混合することもできる。(A)成分の主鎖骨格としては、ポリエーテル骨格、オキシアルキレン骨格、(メタ)アクリル重合骨格、(メタ)アクリル共重合骨格、ポリオルガノシロキサン骨格などが挙げられる。特に好ましくは、変性シリコーンと一般的に呼ばれてる(メタ)アクリルモノマー重合体および/またはオキシアルキレン重合体(共重合体を含む。)が主骨格に有する(A)成分が好ましい。
【0017】
また、主骨格は同じでも、前記Xはそれぞれ独立して反応するため、一般式2と一般式3では硬化後の架橋密度が異なる。そのため、一般式2を有する(A)成分は、架橋密度を上げるため、塩基性の強い3級アミンが含まれることが好ましい。
【0018】
(A)成分の具体例としては、株式会社カネカ製のサイリルシリーズ、カネカMSポリマーシリーズ、MAシリーズ、EPシリーズ、SAシリーズ、ORシリーズ、旭硝子株式会社製のエクセスターシリーズ等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0019】
本発明で使用することができる(B)成分としては、一般式1の構造を有するフッ素化合物である。Rは水素原子、フッ素原子または塩素原子を示し、5のRの中で少なくとも1のフッ素原子が含まれる。(以下、(B)成分をピリジン誘導体と呼ぶ。)明確な理由は判明していないが、ピリジン誘導体が(C)成分と共に存在することによって、湿気硬化に関する触媒性能が特異的に発現する。また、一般的な塩は室温において固体であり、樹脂成分との溶解性が問題になるため、取扱いの観点から25℃で液体であることが好ましい。
【化2】

【0020】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分の添加量は0.01〜5.0質量部である事が好ましい、0.01質量部未満では湿気硬化性が充分発現せず、5.0質量部以上では、保存安定性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明で使用することができる(C)成分としては、(A)成分および(B)成分以外のアミン化合物である。(A)成分の加水分解性シリル基の構造により、必須とされる(C)成分が異なってくる。加水分解性シリル基が一般式2の場合は2価の架橋を形成するため、促進性能が高い3級アミン化合物を必須とすることが好ましい。一方、加水分解性シリル基が一般式3の場合は3価の架橋を形成するため、促進性能が低い1級または2級アミン化合物を含んでいれば良く、3級アミン化合物でも保存安定性が劣化しない程度に少量使用しても良い。
【0022】
本発明における(C)成分では、1〜3級アミノ基がそれぞれ存在する化合物を使用することはもちろんのこと、1〜3級アミノ基が混在する化合物を使用することもできる。本発明においては、1〜3級アミノ基が混在する化合物は、最も大きい級のアミノ基を有する化合物を示すものとする。
【0023】
(C)成分の具体例としては、1級アミン化合物として、ヘキシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン等が、2級アミン化合物として、ジn−ブチルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ピペリジン等が、3級アミン化合物として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、アミノ基と加水分解性シリル基を有する化合物(通称、アミノシラン)としては、特に限定されず、たとえば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−[2−(2−アミノエチル)アミノエチル]アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−エチルアミノ)−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、(2−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどがあげられる。
【0024】
特定の骨格を有する(C)成分として、アミジン、グアニジン、ビグアニド、イミダゾール、ジアザビシクロ、ピリジンなどの骨格を有する化合物が挙げられる。アミジン骨格を有する化合物の具体例としては、アセトアミジン、アミノアセトアミジン、2,2−ジメチルプロピオンアミジンなど、グアニジン骨格を有する化合物の具体例としては、グアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、1−ブチルグアニジン、1−フェニルグアニジン、1−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、N,N’−ジフェニルグアニジンなど、ビグアニド骨格を有する化合物の具体例としては、ブチルビグアニド、1−o−トリルビグアニドや1−フェニルビグアニドなど、イミダゾール骨格を有する化合物の具体例としては、イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなど、イミダゾリン骨格を有する化合物としては、2−メチルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、4,4−ジメチル−2−イミダゾリンなど、ジアザビシクロ骨格を有する化合物としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU:ジアザビシクロウンデセン)、6−(ジブチルアミノ)−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBA−DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN:ジアザビシクロノネン)等が挙げられる。(これらをジアザビシクロ骨格を有する化合物と総称する。)その他の具体例として、ピリジン、1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミドピリジン、1,4,5,6−テトラヒドロピジミジン、1,2−ジメチルテトラヒドロピリミジンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分は0.01〜10質量部が好ましい。(C)成分と(B)成分の添加量は、その比率によっても湿気硬化性と保存安定性に影響を与えるため、(B)成分と(C)成分の比率は1:1〜1:20が最も好ましい。
【0026】
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アモルファスシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・作業性・保存安定性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
[実施例1〜15および比較例1〜8]
硬化性樹脂組成物を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:分子中に一般式2または一般式3の加水分解性シリル基を2以上有する化合物
・分子中に一般式2の加水分解性シリル基を2有して、Xがアルコキシ基であり、主鎖がオキシアルキレン骨格と(メタ)アクリル共重合骨格の混合物である化合物(カネカサイリルMA440 株式会社カネカ製)
・分子中に一般式3の加水分解性シリル基を2有して、Xがアルコキシ基であり、主鎖がオキシアルキレン骨格と(メタ)アクリル共重合骨格の混合物である化合物(カネカサイリルMA451 株式会社カネカ製)
(B)成分:ピリジン誘導体
ペンタフルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
2−フルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
2,6−ジフルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
2,3,5,6−テトラフルオロピリジン(東京化成工業株式会社製)
(B’)成分:(B)成分以外のフッ素化合物
ヘキサフルオロプロペンジエチルアミン(東京化成工業株式会社製)
テトラブチルアンモニウムフルオリド(東京化成工業株式会社製)
ペンタフルオロフェノール(東京化成工業株式会社製)
(C)成分:1〜3級アミン化合物
テトラメチルグアニジン(2級アミンと3級アミンを有する化合物)(東京化成工業株式会社製)
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(3級アミンを有する化合物)(DBU サンアプロ株式会社製)
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(1級アミンを有する化合物)(A−1100 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0029】
製造方法は、プラスチック容器中に(A)成分に(B)成分を計量し、自転・公転真空ミキサーを用いて1分間混錬した。さらに(C)成分を計量し、前記ミキサーを用いて更に1分間混錬して硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物は、それぞれ密閉容器に充填して23℃で24時間静置した。詳細な調製量は表1および表2に従い、数値は全て質量部で表記する。
【表1】

【表2】

【0030】
実施例1〜15および比較例1〜8に対して、外観、表面硬化性および深部硬化性について試験項目を実施した。また、初期の試験項目を測定した後、保存安定性を確認するため70℃雰囲気にて5日間放置した後の各試験項目を測定した。その結果を表3に示す。
【0031】
[外観確認]
硬化性樹脂組成物を幅10mm×長50mmのビート状にポリエチレンシート上へ塗布した時の粘性を以下の通り三段階評価を行い、「性状」として示す。外観確認における性状は、「低粘度」であることが好ましい。
低粘度:塗布しやすい程度に粘度が低い
高粘度:塗布しにくい程度の高粘度であるが塗布はできる
ゲル状:ゲル化が進行して半固体状態になっているため塗布できない
【0032】
[表面硬化性確認]
23℃×50%RH雰囲気下で、硬化性樹脂組成物をポリエチレンシート上に幅10mm×厚1mm×長50mmのビートを塗布し、爪楊枝で組成物の表面を軽く触れる。組成物を塗布してから、爪楊枝に付着せずに表面が硬化したと判断されるまでの時間を「皮張り時間(分)」として表面硬化性を評価した。24時間以上放置しても硬化しない場合は、「未硬化」と表記する。皮張り時間は、20分以内であることが好ましい。
【0033】
[深部硬化性確認]
表面硬化性確認で塗布した硬化性樹脂組成物を更に24時間放置した後、深部硬化性の硬化状態を評価した。硬化状態は以下の通り三段階評価を行い、その結果を「深部硬化状態」とする。深部硬化状態は、「硬化」の状態であることが好ましい。
硬化:硬化物が表面から深部まで均一に硬化している
ゲル化:硬化物の状態が表面よりも深部の方が硬化が不十分である
未硬化:表面及び深部が硬化していない
【0034】
[保存安定性確認]
硬化性樹脂組成物の調整後の初期特性を確認した後、保存安定性を確認するために容器を70℃雰囲気にて5日間放置する。放置後に、硬化性樹脂組成物における外観、表面硬化性、深部硬化性について再確認を行った。
【表3】

【0035】
[実施例16]
実施例15に対して充填剤として重質炭酸カルシウムを加えた組成物について、粘度、表面硬化性、引張剪断接着強さ1および引張剪断接着強さ2について測定を行った。さらに、保存安定性を確認するため70℃雰囲気にて5日間放置した後の各試験項目を測定した。その結果を表4に示す。
【0036】
製造方法は、プラスチック容器中に(A)成分と充填剤を計量し、自転・公転真空ミキサーを用いて1分間混錬した。次に(C)成分の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7を計量して1分間混錬後、(B)成分を計量して1分間混錬した。さらに(C)成分の3−アミノプロピルトリエトキシシランを計量して前記ミキサーを用いて更に1分間混錬して硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物は、密閉容器に充填して23℃で24時間静置した。詳細な調製量は表4に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0037】
[粘度測定]
コーンプレート型回転粘度計を用いて、25℃で3分後の粘度を測定した。測定結果を「粘度(Pa・s)」とする。粘度は充填剤の添加量により適宜設定されるため、特に好ましい範囲は無い。
【0038】
[引張剪断接着強さ測定]
長100mm×幅25mm×厚1mmの寸法のテストピースを使用し、接着面積が25mm×10mmになる様に実施例16を塗布して貼り合わせて固定治具で固定する。その後、25℃×50%RH雰囲気にて7日間放置する。JIS K 6850に準拠して最大の剪断強度を測定し、接着面積より「剪断接着強さ(MPa)」を計算した。テストピースとして、アルミニウムを使用した場合を「剪断接着強さ1」とし、ポリカーボネートを使用した場合を「剪断接着強さ2」とする。剪断接着強さ1に関しては3.0MPa以上、剪断接着強さ2に関しては2.0MPa以上の数値を発現していれば、接着用途でも使用することができる。
【表4】

【0039】
実施例7、比較例1および2を比較すると、(B)成分が含まれない場合や(C)成分が含まれない場合には、湿気硬化性が非常に遅く、(B)成分と(C)成分を両方添加した組成物が特異的に早い湿気硬化性を有すると共に、保存安定性を有する。また、実施例2と比較例3〜5を比較すると、比較例3〜5は(B)成分の代わりになるハロゲン化合物を添加している。比較例3においては表面硬化性が低下し、比較例4では性状が悪化し、比較例5では表面硬化性及び深部硬化性が低下している。この様に、ハロゲン化合物と(C)成分を組み合わせるだけでは、本発明の湿気硬化性および保存安定性を両立することは困難である。一般的に、充填剤を添加した湿気硬化性は湿度の浸透が遅くなるため表面硬化性および深部硬化性が低下する傾向が有るが、実施例15と実施例16では、表面硬化性の低下が若干見られるものの、充分な硬化性が確保されている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
電気業界では、環境対策の一環として部材に於ける錫含有率を低下させる規制が進みつつある。湿気硬化性を有する硬化性樹脂には有機錫化合物が長年汎用されているため、有機錫を使用せずに、同等の湿気硬化性を発現するためには技術的なハードルが高い。本発明は、有機錫化合物を使用しない有力な技術であり、電気分野にとらわれず自動車分野などの他分野にも展開することが出来る。また、本発明の(B)成分添加量は触媒量であり、ハロゲン問題に対しても有用な技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(C)成分を含む硬化性樹脂組成物。
(A)成分:分子中に加水分解性シリル基を2以上有する化合物
(B)成分:一般式1で示される化合物

(Rは水素原子、フッ素原子または塩素原子を示し、5のRの中に少なくとも1のフッ素原子が含まれる)
(C)成分:(A)成分および(B)成分を除いたアミン化合物
【請求項2】
(A)成分の加水分解性シリル基が一般式2の化合物であり、(C)成分のアミン化合物が3級アミン化合物である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。

(Rは炭素数1〜20の炭化水素基または置換基を有する炭化水素基を示し、Xはアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基またはアミノ基のいずれかを示す)
【請求項3】
(A)成分の加水分解性シリル基が一般式3の化合物であり、(C)成分のアミン化合物が1〜3級アミン化合物である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。

(Xはアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基またはアミノ基のいずれかを示す)
【請求項4】
加水分解性シリル基のXがアルコキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物
【請求項5】
(A)成分の主鎖が、(メタ)アクリルモノマー重合体および/またはオキシアルキレン重合体からなる請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2に記載される3級アミン化合物が、アミジン骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、ジアザビシクロ骨格を有する化合物から少なくとも1選択される請求項2、4または5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項3に記載の1〜3級アミン化合物が、アミノ基と加水分解性シリル基を有する化合物、アミジン骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、ジアザビシクロ骨格を有する化合物から少なくとも1選択される請求項3〜5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−82360(P2012−82360A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231201(P2010−231201)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】