説明

硬度測定用引っかき傷生成装置

【課題】たとえ対象物が円柱状のものであっても、常に一定した引っかき操作をもって同じ圧力で安定して対象物の表面を引っかくことができるようにする。
【解決手段】尖頭部31を有する引っかき部材3と、引っかき部材3に対して尖頭部31が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材34と、対象物9の表面に引っかき部材3の尖頭部31が当接するように引っかき部材3に向けて対象物9を支持する支持台20を変位させる変位機構5と、上下方向へ引っかき部材3を移行させる移動機構2とから成る。移動機構2は、引っかき部材3を保持するホルダー8と、ホルダー8の両端部と接してホルダー8を上下方向へ摺動させるガイド機構部40と、ホルダー8を前記ガイド機構部40によってガイドされる方向へ移動させる駆動機構部7とを備えて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建造物や物体の構成材料の硬度を測定するために、測定すべき対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するのに用いられる引っかき傷生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、既存の建造物の耐震診断を行うのに、その建造物を構成するコンクリートの強度を調査することが不可欠である。従来は、耐震診断の対象とする建造物の壁や柱などよりコンクリートを円柱状に切り出し、その採取物をサンプルとして外部の試験機関へ送り、コンクリート強度の測定試験を行っていた。しかし、外部の試験機関へ強度測定を委託するという方法では、現場でのサンプル採取から強度試験結果の報告を受け取るまでにかなりの日数を必要とする。
【0003】
そのような実情から、耐震診断の対象とする建造物のおよそのその強度を現場で推定し得る簡易な装置の出現が要望されていたところ、先般、採取したコンクリートのサンプルの表面を一定圧で引っかいて引っかき傷を一直線状に生成した後、その引っかき傷の溝幅をスケールなどで測定し、その測定値をコンクリートの硬度に換算して建造物の凡その強度を推定するという方法が提案された。
【0004】
上記した方法において、コンクリートのサンプルの表面に引っかき傷を生成するのに、筆記具状のものが用いられていたが、同じ筆圧で引っかき操作を行うのが容易でなく、測定値の信頼性が低いという問題があった。
この問題を解消するために、コイルばねで弾発された引っかき用の圧子を、この圧子とコイルばねとを内蔵する厚板状のボディの下面から先細の先端部が突き出た状態に保持するようにした引っかき傷生成具が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3036067号公報
【0006】
この引っかき傷生成具によると、対象物の表面にボディの下面を押し付けて圧子の先端部を介して被測定面に定荷重を作用させ、この状態でボディを摺動させることで圧子の先端部で対象物の表面に引っかき傷を生成するので、ボディを対象物の表面に押し付けて摺動させる、という簡単な操作により、対象物の表面を引っかくことが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、対象物の表面にボディの下面を押し付けた状態でボディをゆっくりかつ定速度で摺動させないと、同じ圧力で安定して引っかくことができず、そのような引っかき操作は必ずしも容易でなく、操作状態のばらつきにより引っかき傷の溝幅に誤差が生じ、測定値の信頼性を十分に高めることは困難である。しかも、対象物が平板状のものであれば引っかき操作も比較的容易であるが、対象物が円柱状のものでは、円柱の外周面にボディの下面を押し付けた状態で軸方向へ真っ直ぐに摺動させることは容易でなく、引っかき操作に熟練を要する。
【0008】
この発明は、上記の問題に着目してなされたもので、ボディを手に持って対象物の表面を摺動させるような操作を必要とせず、たとえ対象物が円柱状のものであっても、常に一定した引っかき操作をもって同じ圧力で安定して対象物の表面を引っかくことができる硬度測定用引っかき傷生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による硬度測定用引っかき傷生成装置は、対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するためのものであり、尖頭部を有する引っかき部材と、引っかき部材に対して尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材と、対象物の表面に引っかき部材の尖頭部が当接するように尖頭部が向く方向へ引っかき部材を変位させるか又はその逆方向へ対象物を支持する支持台を変位させる変位機構と、尖頭部が向く方向と直交する方向へ引っかき部材を移行させる移動機構とから成る。
前記移動機構は、引っかき部材を保持するホルダーと、ホルダーの両端部と接してホルダーを引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ摺動させるガイド機構部と、ホルダーを前記ガイド機構部によってガイドされる方向へ移動させる駆動機構部とを備えている。
【0010】
この発明による引っかき傷生成装置により対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するには、まず、ホルダーに引っかき部材を保持させた後、変位機構を動作させて尖頭部が向く方向へ引っかき部材を変位させるか又はその逆方向へ対象物を支持する支持台を変位させる。これにより引っかき部材の尖頭部が対象物の表面にばね部材によるばね圧が作用した状態で当接して食い込み状態となる。
つぎに、移動機構の駆動機構部を駆動すると、ホルダーはその両端部がガイド機構部によりガイドされて摺動し、引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ移動する。このホルダーと一体に引っかき部材が移動し、対象物の表面に引っかき傷が一直線状に生成される。この場合、駆動機構部によってホルダーに保持された引っかき部材をガイド機構部によるガイド方向へゆっくりかつ定速度で移動させることが可能であるから、たとえ対象物が円柱状のものであっても、引っかき部材により同じ圧力で安定して対象物の表面を真っ直ぐに引っかくことができ、引っかき傷の溝幅に誤差が生じるのを防止でき、測定値の信頼性が大幅に高められる。
なお、駆動機構部の駆動源は、手操作のためのハンドルであってもよく、モーターやシリンダのような動力であってもよい。
【0011】
この発明による引っかき傷生成装置は、コンクリート、合成樹脂材、金属材、木材など、種々の材料について、また、円柱状、角柱状、平板状など、種々の形状のサンプルについて、硬度測定のための引っかき傷の生成に用いることができる。また、硬度測定の対象物は、建造物などから採取されたサンプルに限らず、建造物や物体そのものであってもよい。
【0012】
建造物などからの採取物を硬度測定の対象物とする場合は、対象物の表面が前記ガイド機構によるガイド方向と平行となるように対象物を支持することが可能な支持機構をさらに備えたものであることが望ましい。
好ましい実施態様の前記支持機構は、対象物を支持する支持台と、支持台上に対象物の表面が前記ガイド機構によるガイド方向と平行となるように対象物を位置決め固定する位置決め機構部とを備えたものであり、前記支持台に前記変位機構が接続されている。
【0013】
建造物や物体そのものを硬度測定の対象物とする場合、好ましい実施態様の前記変位機構は、ガイド機構部の両端部に先端部を対象物の表面に突き当てることが可能な突き当て部材を備え、各突き当て部材は、引っかき部材を尖頭部が向く方向へ変位させて尖頭部を対象物の表面に当接させることが可能なように長さ調節が可能に構成されている。
この実施態様によると、各突き当て部材の先端部を対象物の表面に突き当てた後、各突き当て部材の長さを調節することにより、引っかき部材を尖頭部が向く方向へ変位させ、ばね部材によるばね圧が作用した状態で尖頭部を対象物の表面に当接させ、食い込み状態とする。つぎに、移動機構の駆動機構部を駆動し、ホルダーと一体に引っかき部材を移動させ、対象物の表面に引っかき傷を一直線状に生成する。
【0014】
好ましい実施態様においては、前記移動機構の駆動機構部にはボールネジが用いられ、ボールネジのナット部にホルダーが一体に設けられるとともに、ナット部が噛み合うネジ軸に回動操作が可能なハンドルが取り付けられている。
この実施態様では、ハンドルの回動操作によりネジ軸が回動し、この回動に伴ってナット部と一体のホルダーがネジ軸に沿って移動する
【0015】
この発明による他の引っかき傷生成装置は、尖頭部を有する引っかき部材と、引っかき部材に対して尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材と、引っかき部材を保持するホルダーと、対象物の表面が尖頭部が向く方向と直交する方向となるように対象物を支持する支持台と、対象物の表面に引っかき部材の尖頭部が当接するように尖頭部が向く方向へホルダーを変位させる変位機構と、尖頭部が向く方向と直交する方向へ支持台を移行させる移動機構とから成る。
前記移動機構は、支持台を引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ摺動させるガイド機構部と、支持台を前記ガイド機構部によってガイドされる方向へ移動させる駆動機構部とを備えている。
【0016】
上記した構成の引っかき傷生成装置により対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するには、まず、ホルダーに引っかき部材を保持させ、一方、支持台上に対象物の表面が尖頭部が向く方向と直交する方向となるように対象物を支持した後、変位機構を動作させて尖頭部が向く方向へホルダーを変位させる。これにより引っかき部材の尖頭部は対象物の表面にばね部材によるばね圧が作用した状態で当接して食い込み状態となる。
つぎに、移動機構の駆動機構部を駆動すると、支持台はガイド機構部によってガイドされて摺動し、引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ移動する。支持台と一体に対象物が移動し、対象物の表面に引っかき傷が一直線状に生成される。この場合、駆動機構部によって支持台をガイド機構によるガイド方向へゆっくりかつ定速度で移動可能であるから、たとえ対象物が円柱状のものであっても、引っかき部材により同じ圧力で安定して対象物の表面を真っ直ぐに引っかくことができ、引っかき傷の溝幅に大きな誤差が生じるのを防止でき、測定値の信頼性が大幅に高められる。
【0017】
前記引っかき部材として、尖頭部を有する軸状の圧子と、前記圧子を摺動自由に支持する支持穴を有するハウジングとから成り、前記支持穴には、尖頭部が支持穴の開口部より突出するよう圧子に尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材が配備されたものを用いることができるが、必ずしもハウジング内にばね部材が組み込まれたものである必要はない。
【0018】
すなわち、他の好ましい実施態様の前記引っかき部材は、尖頭部を有する軸状の圧子と、尖頭部が突出するよう圧子を支持するハウジングとから成るものであり、前記ハウジングに前記尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材が連繋されている。
なお、ばね部材としてコイルばねや板ばねなどを用いることができる他、ゴムなどの弾性体を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、従来例のように、ボディを手に持って対象物の表面を摺動させるような操作は必要とせず、たとえ対象物が円柱状のものであっても、常に一定した引っかき操作をもって同じ圧力で安定して対象物の表面を引っかくことができ、操作状態のばらつきによって引っかき傷の溝幅に誤差が生じるおそれがなく、測定値の信頼性を十分に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜図3は、この発明の一実施例である硬度測定用引っかき傷生成装置の外観および構成を示している。
図示例の引っかき傷生成装置は、図4に示すような円柱形状の対象物9の硬度を測定するのに好適なものであり、対象物9の外周面に軸方向(長さ方向)に沿って引っかき傷91を一直線状に生成するのに用いられる。
既存の建造物の耐震診断を行うに際して、建造物の柱や壁を円柱状にくり抜いてコンクリートを切り出し、その採取物を硬度測定の対象物9として、後述する支持台20上にセットし、引っかき傷91の生成作業を行うものである。
【0021】
引っかき傷91は、対象物9の表面に当接させた引っかき部材3の尖頭部31に所定の荷重をかけた状態で、引っかき部材3を移行させることで生成される。対象物9が硬いものであれば引っかき傷91の溝幅dは小さくなり、柔らかいものであれば引っかき傷91の溝幅dは大きくなるので、引っかき傷91の溝幅dの大小によって対象物9の硬度を推定し得る。
図示例のような円柱状の対象物9では、外周面90の軸方向(長さ方向)に沿って直線状の引っかき傷91を生成することが可能である。対象物が角柱状の場合は外周の平坦な面に、また、対象物が板状の場合は表面の平坦な面に、それぞれ任意の方向へ直線状の引っかき傷を生成し得る。
【0022】
この実施例では、対象物9の外周面90に生成された引っかき傷91の溝幅dを光学的に測定し、その測定値の大小によって対象物9の硬度を推定する。
対象物9の外周面90にはあらかじめ適当な範囲Sにわたって黒色の塗料を塗布し、前記領域Sに引っかき傷生成装置により引っかき傷91を生成した後、引っかき傷91を含む周辺の領域を図示しないカメラで撮像する。撮像して得られた画像は、引っかき傷91の部分は白く、その背景は黒く現れるので、その濃淡画像を適当なしきい値で2値化処理した後、傷の方向と直交する方向に沿って白画素の数を計測することで、引っかき傷91の溝幅dを測定し得る。
【0023】
図示例の引っかき傷生成装置は、全体が金属製であり、平面形状が矩形状の基台1を有している。基台1の下面の4隅には同一高さの脚10が設けられ、基台1の水平な上面には、円柱状の対象物9を縦向きに支持する支持台20と、対象物9の外周面90に引っかき傷を上下方向yに一直線状に生成する尖頭部31を有する引っかき部材3と、引っかき部材3を保持したホルダー8を水平姿勢を保った状態で、ガイド機構部40によってガイドされる上下方向yへ移行させる移動機構4と、支持台20を引っかき部材3の尖頭部31に向けて変位させる変位機構5とが搭載されている。
【0024】
前記支持台20は、平面形状が矩形状のベース板21上に円筒状をなす支持枠22が縦向きに一体形成されたものである。支持枠22はベース板21の上面に対して垂直をなし、支持枠22の引っかき部材3と対向する面が切り欠かれて、対象物9の外周面90を臨ませる開放部23になっている。前記ベース板21は、水平な姿勢の状態で、基台1とその基台1上に固定された左右のガイド板51との間に両端縁が摺動自由に係合しており、これにより支持台20は引っかき部材3に対して進退可能となっている。なお、左右のガイド板51は後述する往復動機構50や止め固定機構52とともに変位機構5を構成するものである。
【0025】
前記支持台20は、位置決め機構部6とともに支持機構2を構成する。位置決め機構部6は、支持枠22の開放部23より臨ませた対象物9の外周面90が前記ガイド機構部40によるガイド方向y(上下方向)と平行となるように、つまり、対象物9の外周面90が垂直となるように、対象物9を支持台20上に位置決め固定するためのものであり、支持枠22の前記開放部23と反対側の部分に上下一対のネジ孔24,25が形成されるとともに、各ネジ孔24,25にネジ軸61,62がネジ込まれて成る。各ネジ軸61,62はネジ送りされるに従って先端部が支持枠22内に突出し、対象物9を開放部23の側へ変位させて押し付ける。対象物9の外周面90が支持枠22に突き当たった状態のとき、円柱状の対象物9はその軸芯並びに外周面90が垂直となる。
【0026】
前記引っかき部材3は、図5に示すように、直方体形状のハウジング32に形成された支持穴33の内部に、尖頭部31を有する軸状の圧子30が摺動自由に配備されたものである。前記支持穴33はハウジング32の前端面32aに開口し、圧子30の尖頭部31が支持穴33の開口部33aよりハウジング32の前端面32aの前方へ突出している。尖頭部31は、円錐形状をなし、その先端部31aには半球状の小さな丸みがつけてある。この実施例では、尖頭部31がなす角度は90度に設定されているが、これに限られるものではない。
【0027】
支持穴33の後端部の内周面にはねじ部35が形成され、そのねじ部35にねじ36がねじ込まれている。支持穴33にはコイルばねより成るばね部材34が挿入されている。ばね部材34の後端部はねじ36に支持され、ばね部材34の前端部は圧子30の基端部に形成されたフランジ部37に当たって圧子30を押す。ばね部34材は、圧縮された状態で支持穴33に挿入されており、フランジ部37が支持穴33に設けられた段部33bに当たるように圧子30を押圧する。この押圧状態で尖頭部31は支持穴33の開口部33aより突出する。ばね部材34は、圧子30に一定のばね圧を作用させるもので、尖頭部31が対象物9の外周面90に当接して押し込まれたとき、ばね部材34によるばね圧に応じた荷重が対象物9に作用する。
なお、引っかき部材3として、ばね部材34のばね圧が異なるものを予め複数個用意しておき、対象物9が硬ければばね圧の大きなものを、対象物9がそれほど硬くなければばね圧の小さなものを、それぞれ選択して使用する。
【0028】
前記変位機構5は、対象物9の外周面90に引っかき部材3の尖頭部31を前記ばね部材34のばね圧が作用した状態で当接させるために、引っかき部材3の尖頭部31に向けて支持台20を変位させるためのものであり、引っかき部材3に対して支持台20のベース板21を往復動自由に支持する左右一対のガイド板51,51と、支持台20をガイド板51に沿って往復動させる往復動機構50と、支持台20を任意の位置に定位させる止め固定機構52とを含んでいる。
【0029】
前記の各ガイド板51は、基台1上に複数個のネジ53によりそれぞれ止め固定されており、下面にガイド溝が全長にわたり形成されている。各ガイド板51のガイド溝上の位置には、上下に貫通するネジ孔が形成され、各ネジ孔に止め固定機構52を構成する止めネジ58がねじ込まれている。各止めネジ58はねじ込まれることで下端がガイド溝内に突出して支持台20のベース板21に当接し、支持台20を止め固定する。
【0030】
変位機構5の往復動機構50は、基端にハンドル55を備えた送りネジ54と、送りネジ54と噛み合い送りネジ54をネジ送りするネジ受け部56とで構成されている。ネジ受け部56は基台1上に設けられており、送りネジ54が貫通する貫通孔の内周面にネジが切られている。送りネジ54の先端部は支持台20のベース板21上に設けられた連結部57に連結されている。連結部57は送りネジ54の先端部を回動自由に支持する。ハンドル55を回すと、送りネジ54が一体に回動し、ネジ受け部56によりネジ送されることにより、支持台20は引っかき部材3に向けて進む。ハンドル55を前記と逆方向へ回すと、送りネジ54はネジ受け部56により前記と逆方向へネジ送りされ、支持台20は引っかき部材3から離れる。なお、駆動源として、ハンドル55に代えて正逆回転が可能なモーターを用いることもできる。
【0031】
前記移動機構4は、引っかき部材3の尖頭部31が向く方向と直交する方向、すなわち、上下方向に引っかき部材3を移行させるもので、これにより対象物9の外周面90に当接した尖頭部31により引っかき傷を一直線状に生成する。引っかき部材3はホルダー8により保持されるもので、このホルダー8と、ホルダー8を上下方向へ摺動させるガイド機構部40と、ホルダー8を上下方向へ移動させる駆動機構部7とで移動機構4が構成される。
【0032】
ホルダー8は、平面形状がともに矩形状をなす上部保持板81と下部保持板82とで構成されており、上下の両保持板81,82間で引っかき部材3のハウジング32を挟み、複数箇所をネジ83によって保持板81,82間を締め付けるものである。なお、各保持板81,82の外周の端面は上面および下面に対して直角をなしている。
【0033】
前記ガイド機構部40は、基台1上に垂直に縦設された左右一対の側板41,42を備え、両側板41,42の上端間および下端間には側板41,42間が全長のわたって均一の間隔となるように上板43および下板44が設けられている。
各側板41,42の対向する内面は第1のガイド面41a,42aとなし、各側板41,42の対象物9の側の端面は第2のガイド面41b,42bとなしている。第1のガイド面41a,42aおよび第2のガイド面41b,42bは鉛直面であり、第1のガイド面41a,42aにはホルダー8の下部保持板82の外側の端面82a、82bが、第2のガイド面41b,42bにはホルダー8の上部保持板81の後側の端面81aが、それぞれ摺動する。したがって、ホルダー8の下部保持板82は側板41,42の内面間の距離に一致する幅に形成され、一方、上部保持板81は側板41,42の外面間の距離に一致するかそれ以上の幅に形成されるとともに、下部保持板82は上部保持板81より大きな長さに形成される。
【0034】
前記移動機構4の駆動機構部7にはボールネジ70が用いられている。ボールネジ70を構成するネジ軸71は、鉛直となるようにその上端部および下端部が上板43および下板44に設けられた軸受(図示せず。)により回動自由に支持されている。ネジ軸71の上端は上板43の上方へ突出し、ハンドル73が取り付けられている。ボールネジ70を構成するナット部72とホルダー8の下部保持板82とは一体になっており、ナット部72がネジ軸71に噛み合っている。なお、駆動源として、ハンドル73に代えて正逆回転が可能なモーターを用いることもできる。
ハンドル73によりネジ軸71を回動させると、ネジ軸71に噛み合うナット部72が上方へ移動し、ナット部72と一体のホルダー8およびホルダー8と一体の引っかき部材3がナット部72とともに上方へ移動する。ネジ軸72を逆方向へ回動させると、ネジ軸71に噛み合うナット部72、ナット部72と一体のホルダー8、およびホルダー8と一体の引っかき部材3がともに下方へ移動する。
【0035】
なお、上記した図1〜図3の実施例は、対象物9の外周面90に引っかき部材3の尖頭部31が当接するように引っかき部材3に向けて対象物9を支持する支持台20を変位させているが、これに限らず、図6に示す他の実施例のように、引っかき部材3の方をホルダー8により対象物9に向けて変位させるようにしてもよい。
また、図1〜図3の実施例は、対象物9を定位させた状態で引っかき部材3を尖頭部31が向く方向と直交する方向(上下方向)へ移行させているが、これに限らず、図6に示す実施例のように、引っかき部材3を定位させた状態で対象物9を支持する支持台20を尖頭部31が向く方向と直交する方向(図示例では紙面と直交する方向)へ移行させるようにしてもよい。
また、図1〜図3の実施例では、円柱状の対象物9を支持台20上に縦向きに支持して、引っかき部材3を上下方向に移行させているが、これに限らず、図6に示す実施例のように、円柱状の対象物9を支持台20に横向きに支持して、支持台20を水平方向に移行させるようにしてもよい。
なお、図6に示す実施例において、40は断面L字形状の支持台20を水平方向(図の紙面と直交する方向)へ摺動させるガイド機構部、7は支持台20をガイド機構部40によってガイドされる方向へハンドル73の操作によって移動させる駆動機構部(例えばボールネジ)である。
【0036】
上記の各実施例は、建造物から採取したコンクリートのサンプルを硬度測定の対象物9としているが、図7に示す実施例は、建造物そのものを硬度測定の対象物9とするものである。
図7に示す実施例は、前記変位機構5を、移動機構4のガイド機構部40の両端部に先端部が対象物9の表面に突き当てることが可能な突き当て部材100,100を備えたものとして構成したものである。各突き当て部材100は、引っかき部材3を尖頭部31が向く方向へ変位させて尖頭部31をばね部材(図示せず。)のばね圧が作用した状態で対象物9の表面に当接させることが可能なように伸縮可能な構成となっている。なお、図中、101は回動操作により突き当て部材100を伸縮させるためのリング状の操作具であり、102は手持ち操作のためのグリップである。
また、移動機構4や引っかき部材3の構成は、図1〜図3に示した実施例と同様であり、ここでは対応する構成に同じ符号そ付することで説明を省略する。
【0037】
なお、上記の各実施例の引っかき部材3は、ハウジング32の内部にばね部材34を組み込んだ構成のものであるが、必ずしもそのような構成である必要はなく、図8に示すように、尖頭部31を有する圧子30と、尖頭部31が突出するよう圧子30を固定的に支持するハウジング32とで引っかき部材3を構成し、ハウジング32に対して尖頭部31が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材34を連繋するようにしてもよい。この場合、引っかき部材3は、ホルダー8に摺動変位可能な状態で支持される。
【0038】
図1〜図3に示した引っかき傷生成装置により対象物9の外周面90に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するには、まず、ホルダー8に引っかき部材3を保持させる。この場合、上下の保持板81,82は水平状態となるようにネジ固定される。つぎに、変位機構5を動作させて引っかき部材3の尖頭部31に向けて対象物9を支持する支持台20を変位させる。これにより引っかき部材3の尖頭部31が対象物9の外周面90にばね部材34によるばね圧が作用した状態で当接して食い込み状態となる。
【0039】
つぎに、ハンドル73の回動操作によりボールネジ70のネジ軸71を回動させると、ナット部72の移動と一体にホルダー8はその両端部がガイド機構部40の側板41,42によりガイドされて第1、第2の各ガイド面41a,42a、41b、42bを摺動し、引っかき部材3の尖頭部31が向く方向と直交する方向、すなわち、上下方向へ移動する。このホルダー8と一体に引っかき部材3が移動し、対象物9の外周面90の軸方向に引っかき傷が一直線状に生成される。この場合、ハンドル操作によりホルダー8をガイド機構部40によるガイド方向へゆっくりかつ定速度で移動させることが可能であるから、円柱状の対象物9であっても、引っかき部材3により同じ圧力で安定して対象物9の外周面90の軸方向に真っ直ぐに引っかくことができる。
【0040】
図6に示した実施例の引っかき傷生成装置により対象物9の外周面90に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するには、支持台20上に対象物9を横向きに支持した後、引っかき部材3を保持したホルダー8を対象物9に向けて変位させ、尖頭部31を対象物9の表面にばね圧が作用した状態で当接させて食い込み状態とする。
つぎに、移動機構4の駆動機構部7を駆動すると、支持台20はガイド機構部40によりガイドされて摺動し、水平方向へ移動する。支持台20と一体に対象物9が移動し、対象物9の外周面90の軸方向に引っかき傷が一直線状に生成される。
【0041】
図7に示した実施例の引っかき傷生成装置により対象物9の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するには、グリップ102を把持して装置全体を支えながら各突き当て部材100の先端部を対象物9の表面に突き当てた後、操作具101を回動操作して各突き当て部材100の長さを調節することにより、引っかき部材3を対象物9に向けて変位させ、ばね圧が作用した状態で尖頭部31を対象物9の表面に当接させて食い込み状態とする。つぎに、移動機構4の駆動機構部7を駆動し、ホルダー8と一体に引っかき部材3を対象物9の表面に沿って移動させ、対象物9の表面に引っかき傷を一直線状に生成する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一実施例である引っかき傷生成装置を示す側面図である。
【図2】この発明の一実施例である引っかき傷生成装置を示す平面図である。
【図3】この発明の一実施例である引っかき傷生成装置を示す正面図である。
【図4】引っかき傷が生成された対象物の斜視図である。
【図5】引っかき部材の構成を示す断面図である。
【図6】他の実施例を示す側面図である。
【図7】他の実施例を示す側面図である。
【図8】引っかき部材の他の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
2 支持機構
3 引っかき部材
4 移動機構
5 変位機構
6 位置決め機構
7 駆動機構部
8 ホルダー
20 支持台
31 尖頭部
34 ばね部材
40 ガイド機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するための引っかき傷生成装置であって、尖頭部を有する引っかき部材と、引っかき部材に対して尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材と、対象物の表面に引っかき部材の尖頭部が当接するように尖頭部が向く方向へ引っかき部材を変位させるか又はその逆方向へ対象物を支持する支持台を変位させる変位機構と、尖頭部が向く方向と直交する方向へ引っかき部材を移行させる移動機構とから成り、前記移動機構は、引っかき部材を保持するホルダーと、ホルダーの両端部と接してホルダーを引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ摺動させるガイド機構部と、ホルダーを前記ガイド機構部によってガイドされる方向へ移動させる駆動機構部とを備えて成る硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、対象物の表面が前記ガイド機構によるガイド方向と平行となるように対象物を支持することが可能な支持機構をさらに備えている硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、前記支持機構は、対象物を支持する支持台と、支持台上に対象物の表面が前記ガイド機構によるガイド方向と平行となるように対象物を位置決め固定する位置決め機構部とを備え、前記支持台に前記変位機構が接続されている硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項4】
請求項1に記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、前記変位機構は、ガイド機構部の両端部に先端部を対象物の表面に突き当てることが可能な突き当て部材を備え、各突き当て部材は、引っかき部材を尖頭部が向く方向へ変位させて尖頭部を対象物の表面に当接させることが可能なように長さ調節が可能に構成されて成る硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、前記移動機構の駆動機構部にはボールネジが用いられ、ボールネジのナット部にホルダーが一体に設けられるとともに、ナット部が噛み合うネジ軸に回動操作が可能なハンドルが取り付けられている硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項6】
対象物の表面に硬度測定用の引っかき傷を一直線状に生成するための引っかき傷生成装置であって、尖頭部を有する引っかき部材と、引っかき部材に対して尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材と、引っかき部材を保持するホルダーと、対象物の表面が尖頭部が向く方向と直交する方向となるように対象物を支持する支持台と、対象物の表面に引っかき部材の尖頭部が当接するように尖頭部が向く方向へホルダーを変位させる変位機構と、尖頭部が向く方向と直交する方向へ支持台を移行させる移動機構とから成り、前記移動機構は、支持台を引っかき部材の尖頭部が向く方向と直交する方向へ摺動させるガイド機構部と、支持台を前記ガイド機構部によってガイドされる方向へ移動させる駆動機構部とを備えて成る硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、前記引っかき部材は、尖頭部を有する軸状の圧子と、前記圧子を摺動自由に支持する支持穴を有するハウジングとから成り、前記支持穴には、尖頭部が支持穴の開口部より突出するよう圧子に尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材が配備されている硬度測定用引っかき傷生成装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載された硬度測定用引っかき傷生成装置であって、前記引っかき部材は、尖頭部を有する軸状の圧子と、尖頭部が突出するよう圧子を支持するハウジングとから成り、前記ハウジングには前記尖頭部が向く方向へ一定のばね圧を作用させるばね部材が連繋されている硬度測定用引っかき傷生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−292293(P2008−292293A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137960(P2007−137960)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(307012344)株式会社構造総研 (6)