説明

硬貨処理装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、公衆電話機等に適用され、複数枚の硬貨を蓄積する硬貨処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、この種の硬貨処理装置としては、特公平2−28197号公報に開示されたものがある。ここに開示されたものは、硬貨選別軌道で選別された正規硬貨を硬貨の面方向に1枚づつ蓄積する複数の硬貨蓄積室と、これら硬貨蓄積室のそれぞれに備えられ硬貨蓄積室に正規硬貨を導入する回動レバーと、導入された硬貨を硬貨蓄積室内に蓄積するために硬貨蓄積室のそれぞれに備えられた硬貨収納・返却レバーとを備え、収納信号によって複数の硬貨収納・返却レバーのうちの1つを動作させて順次収納するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の硬貨処理装置はベース板上に硬貨蓄積装置の複数の硬貨蓄積室が配設された構造となっているために、左右方向および上下方向に大型化し、そのうえ同じベース板上に硬貨収納軌道および硬貨返却軌道が配設された構造となっているので、装置の小型化に支障をきたしていた。
【0004】本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、装置の小型化を図った硬貨蓄積装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明に係る硬貨処理装置は、正規硬貨を選別する硬貨選別軌道と、この硬貨選別軌道で選別された正規硬貨を一旦蓄積する硬貨蓄積装置と、この硬貨蓄積装置から排出された正規硬貨を硬貨収納口または硬貨返却口に導く硬貨収納兼返却軌道と、前記硬貨選別軌道で選別された疑似硬貨を硬貨返却口に導く硬貨返却軌道とを備えた硬貨処理装置において、前記硬貨選別軌道と硬貨返却軌道とを転動する硬貨の厚み方向において略同一面位置に配設するとともに、前記硬貨収納兼返却軌道をこれら硬貨選別軌道と硬貨返却軌道と転動する硬貨の厚み方向に互いに隣接するようにずらし、かつ前記硬貨蓄積装置で正規硬貨を硬貨の厚み方向に蓄積し、蓄積した硬貨を厚み方向に移動自在としたものである。したがって、貨収納兼返却軌道を硬貨選別軌道と硬貨返却軌道と転動する硬貨の厚み方向に互いに隣接するようにずらしたことにより硬貨の面方向への大型化が防止されるとともに、硬貨蓄積装置の硬貨蓄積室に正規硬貨を硬貨の厚み方向に蓄積したことにより、硬貨蓄積装置の上下、左右方向における占有スペースは、略硬貨1枚分に相当するのみである。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明に係る硬貨処理装置の全体を示す斜視図、図2は同じく硬貨の流れを示す概念図、図3は同じく正断面図、図4は同じく可動ラックの初期動作位置の状態を示す右側面から視た断面図、図5は同じく収納状態を示す右側面から視た断面図、図6は同じく右側面図、図7は硬貨収納動作の状態を示し、(a)は図3におけるVII-VII 線断面図、(b)は図3におけるVIII-VIII 線断面図、図8は硬貨返却動作の状態を示し、(a)は図3におけるVII-VII 線断面図、(b)は図3におけるVIII-VIII 線断面図、図9は本発明に係る硬貨処理装置に適用された硬貨蓄積装置の分解斜視図、図10(a)は可動ラックの初期動作位置の状態を示す硬貨蓄積装置の正面から視た概略の構成図、(b)は平断面図、(c)は右側断面図、図11は可動ラックの動作状態を示す硬貨蓄積装置の平断面図、図12R>2(a)は硬貨蓄積装置の可動ラックの斜視図、(b)はシャッタの斜視図、図13(a)は硬貨の収納前の状態を示す可動ラックの平面図、(b)は正面図、図14(a)は硬貨の収納動作を示す可動ラックの平面図、(b)は正面図、図15は可動ラックの要部を拡大した平面図で、(a)はシャッタを開放した状態を示し、(b)はシャッタを閉じる状態を示す。
【0007】これらの図において、全体を符号1で示す硬貨処理装置は、全体が合成樹脂で形成された本体ケース2と、この本体ケース2に着脱自在な硬貨蓄積装置3とで構成されている。本体ケース2には、図4に示すように、わずかに傾斜して立設した平板状のベース板4と、このベース板4の上部にベース板4の表面と同じ面位置を形成するように取り付けられた硬貨選別板5とが備えられている。図3において、6は硬貨選別板5の上部の一端に形成された硬貨投入口、7は硬貨投入口6の下方に斜めに傾斜して硬貨選別板5に一体に突出形成された選別レールである。
【0008】8は平板状のフラッパであって、前記硬貨選別板5に一体に形成された軸9に上部が揺動自在に支持され、ねじりコイルばね10によって常時硬貨選別板5側に付勢され、硬貨選別板5および選別レール7とともに、図示を省略した硬貨判別装置が設けられた硬貨選別軌道11を形成する部材である。硬貨選別軌道11の終端部のベース板4には逆L字状に開口する窓12が穿設され、この窓12には、ベース板4の裏面側に上部が揺動自在に支持された選別レバー13の係止部13aが硬貨選別軌道11内に臨むように構成されている。この選別レバー13には、ベース板4の裏面に取り付けられたロータリマグネット14のピン14aが係合しており、前記硬貨選別軌道11に配設された図示を省略した硬貨判別装置によって、選別レール7上を転動する硬貨CT が正規硬貨と判別されると、係止部13aが硬貨選別軌道11から退出し、一方疑似硬貨と判別されると、硬貨選別軌道11に進出するように、ロータリマグネット14のピン14aが作動するように構成されている。
【0009】疑似硬貨CH は、選別レバー13の係止部13aに係止され、選別レール7から下方の硬貨返却通路18に落下して、ベース板4の下部の一端に形成された返却口18bから返却される。正規硬貨CS は窓12を通過して硬貨選別軌道11の正規硬貨の出口11aから後述する可動ラック80内に蓄積される。15は正規硬貨CS が窓12を通過したことを確認するためのセンサ、16は正規硬貨CS が可動ラック80内に蓄積されたことを確認するためのセンサである。
【0010】硬貨返却通路18の下部には、硬貨返却通路18と連通された硬貨返却軌道19が、ベース板4に一体に突設したレール20によって形成されている。これら硬貨返却軌道19と硬貨返却通路18とは、硬貨転動面が互いに同じ面位置となるようにベース板4の表面上に形成されており、また前記硬貨選別軌道11はベース板4と表面が同じ面位置となるように取り付けられた硬貨選別板5上に形成されている。したがって、これら硬貨選別軌道11、硬貨返却通路18および硬貨返却軌道19とは、それぞれの硬貨転動面が同じ面位置となるように構成されている。硬貨返却通路18と硬貨返却軌道19とは、カバー19bによって覆われている。
【0011】この硬貨返却軌道19と略同一位置で、ベース板4の裏面側には硬貨収納兼返却軌道21が、ベース板4に一体に突設したレール22と図7に示すカバー4aとによって形成されている。したがって、この硬貨収納兼返却軌道21は、前記硬貨選別軌道11、硬貨返却通路18および硬貨返却軌道19と硬貨の厚み方向に略ベース板4の厚みだけずれた位置に、硬貨返却通路18および硬貨返却軌道19と別に設けられている。このように硬貨収納兼返却軌道21が硬貨返却軌道19と硬貨の厚み方向にずらして設けたことにより、両軌道を転動する硬貨が転動中に接触することがないので、硬貨詰まりを防止できるとともに、硬貨の面方向への大型化が防止される。これら硬貨返却軌道19と硬貨収納兼返却軌道21との間を仕切るベース板4は、下端縁4bから下方が切り欠かれ、硬貨返却軌道19と硬貨収納兼返却軌道21とが連通した硬貨の合流部18aが形成されている。
【0012】硬貨収納兼返却軌道21のレール22には、図7に示すように、正規硬貨 CSよりやや大なる切欠き21bが形成され、下方に硬貨収納兼返却軌道21と連通した硬貨収納軌道23が設けられており、この硬貨収納軌道23の下端には、図示を省略した金庫等に連通した硬貨収納口23aが設けられている。この硬貨収納軌道23に対応した硬貨収納兼返却軌道21の裏面側には、ベース板4の裏面に上部の軸24dを揺動中心として揺動自在に支持された硬貨収納・返却レバー24が設けられている。この硬貨収納・返却レバー24の側部には返却阻止部24aが、また下端には収納導入開口部24bと返却導入部24cとが、それぞれ形成されている。
【0013】この硬貨収納・返却レバー24には、ベース板4の裏面側に取り付けられたロータリマグネット25のピン25aが係合しており、通常は図8(a)に示すように返却導入部24cが硬貨収納兼返却軌道21内に進出して切欠き21bを閉塞し、硬貨収納兼返却軌道21を転動する正規硬貨CS を前記合流部18aに導き硬貨返却口18bから返却するように構成されている。硬貨収納信号がロータリマグネット25に送られると、図7に示すように返却阻止部24aと収納開口部24bとが硬貨収納兼返却軌道21内に進出する。こうすることにより、返却阻止部24aによって、硬貨収納兼返却軌道21を転動する正規硬貨CS が合流部18aに転動するのを阻止するとともに、正規硬貨CS を収納開口部24bおよび切欠き21bから硬貨収納軌道23に導き、硬貨収納口23aから図示を省略した金庫等に収納するように構成されている。26は硬貨収納兼返却軌道21に設けられたセンサであって、硬貨が硬貨蓄積室84から排出されたことを確認するためのものである。
【0014】図1および図6において、ベース板4の硬貨選別軌道11の終端に位置する側部には、先端に爪が形成された一対の対向する弾性係合片27が突設されている。ベース板4の下端に形成された一対の脚部4cの前記弾性係合片27が形成された側には、断面L字状のガイド突起28が突設されている。ベース板4の硬貨選別軌道11の終端部の下方で、前記硬貨返却軌道19および硬貨収納兼返却軌道21の入口19a,21aの側方には、正面視略矩形状の切欠き29が設けられている。
【0015】次に、主に図9に基づいて硬貨蓄積装置3の詳細な構成を説明する。同図において、35は正面および上面が開口し全体が合成樹脂で形成された固定ラックであって、底面板36,両側面板37,37および背面板38で構成されている。底面板36には、前記ガイド突起28と略同一の断面形状で形成され、前後方向に延設された嵌合凹部39が凹設されている。背面板38の上端縁には、前記弾性係合片27と係合する矩形状の係合孔40aが穿設された突片40が形成されている。
【0016】41は両側面板37,37の下端および上部に前後方向に延設され二対のねじ孔が形成されたスタッド、42は両側面板37,37および背面板38の上下方向の略中央部に凹設された溝である。45は背面板38に内側に向かって突出形成された基台であって、モータ軸にウォーム47が軸着されたモータ46と、ウォーム47に噛合しピニオン49が一体に形成されたウォームホイール48とが仮止めされているとともに、受光素子50が固定されている。51は上端に発光素子52が取付られた固定ブロックで、基台45にねじ止めすることによって、発光素子52が前記受光素子50に対向するとともに、モータ46が固定され、かつウォームホイール48が回転自在に軸承される。
【0017】54は側面視略L字状に形成された上面板であって、上部の略中央に正規硬貨CS よりもやや大なる外形の細長い矩形状に形成された硬貨導入口55が穿設されているとともに、前部の略中央に切欠き56が設けられている。この上面板54の下面には、硬貨導入口55と切欠き56との間に、図10および図14に示すように、左右方向に延設されたシャッタ保持用の凸条体54aが突設されている。この凸条体54aの略中央には、平面視はの字状のガイド部54bが形成されている。57は前記溝42に嵌合する略平板状に形成された中板であって、前後方向の中央に左右長手方向に延在する細長い矩形状の貫通孔58が穿設されているとともに、前部側の略中央に窓59が穿設されている。60は貫通孔58を挟んで平行に突出形成された一対のガイド壁、61はガイド壁60の内側に平行にガイド壁60よりも低く突出形成された一対のレールである。
【0018】65は平板状に形成された前面板であって、略中央の上部に前記上面板54の切欠き56と同形状の突出部66が形成され、この突出部66には、前記硬貨導入口55と同形状の硬貨導出口67および硬貨返却用導出口68が並設されている。69は前面板65の裏面に取り付けられ後述するシャッタ92を駆動するロータリマグネットであって、揺動する駆動ピン70を備えている。図13において、71は一端が駆動ピン70に枢着された第1のリンク部材であって、他端が前面板65に形成された軸支持部74に支持されたピン75を回動中心として回動自在に支持された第2のリンク部材73に作動ピン72を介して枢着されている。作動ピン72は第1のリンク部材71に軸方向の抜けを規制されて、上端部が第2のリンク部材73から突出して前記硬貨導出口67の近傍に位置しており、駆動ピン70を駆動して揺動させることによりピン75を揺動中心として揺動する。
【0019】次に、図12に基づいて硬貨蓄積装置3を構成する可動ラック80の構成を詳細に説明する。可動ラック80は、上部と前部が開口した箱状に形成され、9つの仕切板82によって両端の2個の硬貨返却室83(831,832)と8個の硬貨蓄積室84(841〜848)とが形成されている。これら硬貨返却室83および硬貨蓄積室84は、同形状に形成され、高さおよび奥行きがともに正規硬貨CSの外径よりも大きく、かつ幅が正規硬貨CSの厚みよりも大きく形成されている。また、これら硬貨返却室83および硬貨蓄積室84の上部には、硬貨受け入れ口83a,84aが、前部には、硬貨排出口83b,84bがそれぞれ設けられており、底部83c,84cは図10(c)に示すように硬貨排出口83b,84b側に傾斜するように形成されている。
【0020】硬貨排出口83b,84bの上下端には、孔85a,86aが穿設された支承部85,86が水平に突設されている。可動ラック80の下端には、左右両端にまで延在するラック88が突設され、両端には、ころ90を回転自在に支持する半円筒状の支持部89が形成され、ころ90は図示を省略した抜け止め片により支持部89からの抜けが規制されている。図10(a)に示すように、前記ラック88には、前記硬貨返却室83および硬貨蓄積室84間の間隔と同じ間隔に形成された10個の小径の透孔88aと、前記一方の硬貨返却室831側の一端に位置する2個の透孔88a間に透孔88a間の間隔よりも狭い間隔の2個の透孔88bとが穿設されている。
【0021】92は前記硬貨蓄積室84の幅および高さと略同じ外形を有する薄肉平板状に形成された弾性変形可能なシャッタであって、硬貨蓄積室84に対応して8個備えられている。これらシャッタ92の上下端には厚肉状の軸支承部93,95が形成されており、これら軸支承部93,95には互いに対向するダボ94,96が突設され、下方の軸支承部95の一方の側部には、段状に形成された係合部97が凹設されている。
【0022】次に、このように構成された硬貨蓄積装置3の組立方法を説明する。まず、図12において、可動ラック80の8個の硬貨蓄積室84の上下の支承部85,86の孔85a,86aに8個のシャッタ92のダボ94,96をシャッタ92を弾性変形させて係入させて、シャッタ92を支承部85,86に揺動自在に支持させて、シャッタ92によって硬貨蓄積室84の硬貨排出口84bを開閉自在とする。
【0023】図9において、中板57を固定ラック35の溝42に係入させて中板57を固定ラック35に組み付ける。前記可動ラック80のころ90を中板57の一対のガイド壁60,60間に係入させてレール61上に載置して、可動ラック80を中板57上に載置する。載置された可動ラック80は、ころ90が一対のガイド壁60,60に挟まれて前後方向への移動を規制され、レール61によって左右方向に移動自在に支持される。また、可動ラック80のラック88は、中板57の貫通孔58を貫通して、前記ピニオン49に噛合するとともに、ラック88の小孔88a,88bが発光素子50と受光素子52との間に位置する。
【0024】上面板54を固定ラック35の上部開口に被せ、前面板65の突出部66を上面板54の切欠き56に嵌合させるとともに、ロータリマグネット69の駆動ピン72の上端部を中板57の切欠き59から上方に突出させるようにして、前面板65を固定ラック35の前部開口に覆い、ねじ100をスタッド41にねじ込み、上面板54を前面板65と共締めによって固定ラック35に取り付ける。このようにして組み立てられた硬貨蓄積装置3においては、上面板54の硬貨導入口55と前面板65の硬貨返却用導出口68とが対応して位置するとともに、硬貨導入口55に、硬貨返却室83および硬貨蓄積室84の硬貨受け入れ口83a,84aとが対応して位置し、硬貨返却用導出口68および硬貨導出口67に、硬貨返却室83および硬貨蓄積室84の硬貨排出口83b,84bとが対応して位置する。
【0025】また、図13に示すように、ロータリマグネット69の作動ピン72の上端が、シャッタ92の係合部97に近接して位置する。また、図15に示すように、上面板54の凸条体54aがシャッタ92の背面部に係合してシャッタ95の揺動を規制するように位置する。さらに、凸条体54aのガイド部54bは、前面板65の硬貨導出口67に対応して位置する。したがって、硬貨導出口67に対応して位置した硬貨蓄積室843のシャッタ92は凸条体54aの規制が解除されて揺動可能な状態となる。
【0026】図1に示すように、このようにして組み立てた硬貨蓄積室3の嵌合凹部39をベース板4のガイド突起28に係入させるとともに、突片40の係合孔40aをベース板4の弾性係合片27に係合させることによって、硬貨蓄積室3を本体ケース2の切欠き29に位置するように本体ケース2に取り付ける。取付られた硬貨蓄積室3の硬貨導入口55が硬貨選別軌道11の正規硬貨の出口11aに対応して位置するとともに、硬貨導出口67が硬貨収納兼返却軌道21の入口21aに、硬貨返却用導出口68が硬貨返却軌道19の入口19aにそれぞれ対応して位置する。
【0027】次に、このように組み立てられた硬貨処理装置1の動作を説明する。図3において、硬貨投入口6から硬貨CT が投入されると、投入された硬貨CT は選別レール7上を転動し、硬貨選別軌道11内で正規硬貨か疑似硬貨かの判別がなされ、疑似硬貨と判別されると、選別レバー13の係止部13aが窓12から硬貨選別軌道11内に突出したままの状態を保持し、疑似硬貨CH はこの係止部13aに当接して選別レール7から硬貨返却通路18に落下して硬貨返却口18bから返却される。
【0028】硬貨選別軌道11で正規硬貨と判別されると、ロータリマグネット14が動作してピン14aを介して返却レバー13を作動させて係止部13aを硬貨選別軌道11から退出させるので、正規硬貨CS は窓12を通過して硬貨選別軌道11の出口11aから硬貨蓄積装置3の硬貨導入口55に導かれる。正規硬貨CS がセンサ15を通過すると、ロータリマグネット14が動作して返却レバー13の係止部13aが硬貨選別軌道11に進出する。
【0029】硬貨導入口55には、硬貨蓄積装置3の可動ラック80の初期動作位置として、図10(b)に示すように、可動ラック80の一方の硬貨返却室83が対応して位置している。図示を省略した制御部からの軌道信号によって硬貨処理装置1が起動すると、モータ46が動作してウォーム47、ウォームホイール48、ピニオン49およびラック88を介して可動ラック80を矢印A方向に移動させる。このとき、発光素子52と受光素子50との間に、硬貨蓄積室84間の間隔と同じ間隔で可動ラック80のラック88に設けられた透孔88aが位置しているので、これら透孔88aを通過する光を検出することによって、モータ46の動作を停止制御し、これによって可動ラック80が硬貨蓄積室84の1個宛の幅だけ移動し、硬貨導入口55には、図11(a)に示すように、硬貨蓄積室841が対応して位置する。
【0030】したがって、1枚目の正規硬貨CS はこの硬貨蓄積室841に導入され、シャッタ92によって硬貨排出口84bからの排出が規制されて蓄積される。正規硬貨CS が硬貨蓄積室841に蓄積されると、これをセンサ16が確認し、このセンサ16の確認によってモータ46が動作して、再び可動ラック80が硬貨蓄積室84の1個宛の幅だけA方向に移動し、硬貨導入口55には、硬貨蓄積室842が対応して位置するので、硬貨選別軌道11の出口11aから硬貨導入口55に導入された2枚目の正規硬貨CS は硬貨蓄積室842に蓄積され、3枚目以降8枚目の正規硬貨CS は順次硬貨蓄積室843から硬貨蓄積室848に蓄積され、可動ラック80は図11(b)に示すように位置する。各硬貨蓄積室841から848に蓄積された正規硬貨CS は、前記硬貨選別軌道11において金種が判別され、図示を省略したCPUによってその金種が記憶される。
【0031】各硬貨蓄積室841から848に正規硬貨CS が蓄積されると、前記ロータリマグネット14が動作して硬貨返却レバー13が作動し、係止部13aが硬貨選別軌道11に進出した状態が保持され、以降の正規硬貨は疑似硬貨と同様に硬貨返却通路18に落下して、硬貨蓄積装置3には導かれずに、硬貨返却口18bから返却される。同時に、モータ46が動作して可動ラック80がB方向に移動し、固定ラック35の硬貨導出口67に、中央に位置する硬貨蓄積室844が対応して位置し、硬貨収納の準備状態となる。
【0032】前述したように、あらかじめCPUに各硬貨蓄積室841から848に蓄積された正規硬貨の金種が記憶されているので、前記準備状態から収納硬貨の金種が選択されて硬貨収納信号が送出されると、その金種の正規硬貨が蓄積され、硬貨蓄積室844に一番近接した硬貨蓄積室の蓄積硬貨を収納する。例えば、硬貨蓄積室843の正規硬貨を収納する時には、可動ラック80を図11(c)の状態から硬貨蓄積室1個宛B方向に移動させて、図13に示すように固定ラック35の硬貨導出口67に硬貨蓄積室843を対応させて位置させる。硬貨導出口67に対応した硬貨蓄積室843のシャッタ92は、固定ラック35の凸条体54aのガイド部54bに位置するので、ダボ94を回動中心として開閉可能状態となる。
【0033】このような状態において、ロータリマグネット69を動作させて駆動ピン70を図13(a)中時計方向に略90°回動させると、駆動ピン72がピン75を回動中心として反時計方向に回動する。回動した駆動ピン72は、図14に示すように硬貨蓄積室843のシャッタ92の係合部97に係合して、シャッタ97をダボ94を回動中心として時計方向に回動させ、硬貨蓄積室843の硬貨排出口84bを開放する。したがって、硬貨蓄積室843内の正規硬貨CS は、傾斜した底部84cに沿って転動して、硬貨導出口67から硬貨収納兼返却軌道21に導かれる。
【0034】正規硬貨CS がセンサ26を通過すると、可動ラック80が図15(b)に示すように、B方向に硬貨蓄積室1個宛移動し、空になった硬貨蓄積室844が固定ラック35の硬貨導入口55に対応するように移動する。このとき、凸条体54aのガイド部54bにシャッタ92の背面部が係合して、シャッタ92がダボ94を回動中心として図中反時計方向に回動し、硬貨蓄積室843の硬貨排出口84bを閉塞し、その状態は凸条体54aによって保持される。
【0035】前述した硬貨収納信号によって硬貨蓄積室843のシャッタ92が開放されると同時に、ロータリマグネット25が動作して、図7に示すように硬貨収納・返却レバー24を軸24dを中心として反時計方向に回動させる。この硬貨収納・返却レバー24の回動によって、返却阻止部24aが同図(b)に示すように、硬貨収納兼返却軌道21を閉塞するとともに、同図(a)に示すように、収納導入開口部24bが硬貨収納兼返却軌道21の切欠き21bを開放するので、正規硬貨CS は硬貨収納軌道23を落下して硬貨収納口23aから図示を省略した金庫等に収納される。
【0036】一方、通話等が終了して、硬貨蓄積室84に蓄積されている正規硬貨CS を返却するときには、可動ラック80をA−B方向に移動させて、正規硬貨CS が蓄積されている硬貨蓄積室84を、固定ラック35の硬貨導出口67に順次対応させて位置させる。そして、ロータリマグネット69を動作させて硬貨導出口67に対応した硬貨蓄積室84のシャッタ92を開放して、順次正規硬貨CSを硬貨収納兼返却軌道21に導入する。
【0037】同時に、ロータリマグネット25を動作させて、硬貨収納・返却レバー24を図8に示すように軸24dを回動中心として時計方向に回動させ、硬貨収納兼返却軌道21を閉塞していた返却阻止部24aを退出させて硬貨収納兼返却軌道21を開放する。また、返却導入部24cを硬貨収納兼返却軌道21の切欠き21bに進出させて、正規硬貨CS を硬貨収納兼返却軌道21を転動させ、合流部18aに導き返却口18bから返却する。
【0038】蓄積されていた正規硬貨の返却をすべて終了したことがセンサ26で検出されると、モータ46が動作して、図10(a)に示すように、可動ラック80をA−B方向に移動させ、一方の硬貨返却室831が固定ラック35の硬貨導入口55に対応して位置する初期動作位置に復帰する。このように硬貨返却室831が固定ラック35の硬貨返却用導出口68にも対応した初期動作位置に復帰するので、停電等によって硬貨収納・返却レバー13の係止部13aが硬貨選別軌道11から退出した状態となって、疑似硬貨が誤って窓12を通過しても、硬貨返却室831から硬貨返却軌道19に導かれ、硬貨返却口18bから返却される。この初期動作位置の復帰にあたっては、受光素子50と発光素子52とにより、ラック88の間隔の狭い透孔88bを検出することによって、モータ46を停止制御することによって行われる。
【0039】上述したように、硬貨蓄積装置3は硬貨の厚み方向に正規硬貨を蓄積する構造としたので、複数の硬貨蓄積室84を備えた可動ラック80は、高さ方向および幅方向がおおよそ正規硬貨1枚に相当する外形に形成される。したがって、図3に示すように、硬貨蓄積装置3は正面視において、硬貨選別軌道11の出口11aの下方および硬貨収納兼返却軌道21の入口21aの側方に設けた硬貨の通過スペースである切欠き29内に収納することができる。このため、硬貨処理装置1は、特別に硬貨蓄積装置3を収納するためのスペースを設ける必要がないので、小型化を図ることができる。
【0040】また、図6に示すように、側面視おいて、硬貨蓄積装置3の全長Lに相当するスペースを必要とするが、本体ケース2が傾斜しているために従来から前後に長さlなるデッドスペースが生じており、また、本体ケース2の前後は、従来からダイヤル制御用基板等のプリント基板類を配設するのに必要なスペースである。また、カード公衆電話機としての機能を併せ持つ公衆電話機に本体ケース2を採用した場合には、本体ケース2の前方は、カード処理装置を配設するスペースとして活用される。したがって、本発明の硬貨蓄積装置3を設置するのに、前後方向に特別なスペースを必要としないので、装置の大型化を防止できる。
【0041】なお、本実施の形態では可動ラック80の移動方向を固定ラック35の長手方向に直動させたが、これに限定されず、例えば固定ラック35を平面視扇形として、可動ラック80を円弧の軌道で移動させてもよく、要は水平方向、すなわち硬貨の厚み方向に移動させる構造とすれば、直動としなくてもよいことは勿論である。
【0042】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、硬貨選別軌道と硬貨返却軌道とを転動する硬貨の厚み方向において略同一面位置に配設するとともに、硬貨収納兼返却軌道をこれら硬貨選別軌道と硬貨返却軌道と転動する硬貨の厚み方向に互いに隣接するようにずらしたことにより、硬貨詰まりを防止できるとともに、装置の左右方向および上下方向の大型化を防止できる。また、硬貨蓄積装置で正規硬貨を硬貨の厚み方向に蓄積し、蓄積した硬貨を厚み方向に移動自在としたことにより、硬貨蓄積装置は高さ方向において硬貨1枚分のスペースがあればよく、このため複数枚の硬貨が蓄積可能であるにもかかわらず、従来と比較して高さ方向の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る硬貨処理装置の全体を示す斜視図である。
【図2】 本発明に係る硬貨処理装置における硬貨の流れを示す概念図である。
【図3】 本発明に係る硬貨処理装置の正断面図である。
【図4】 本発明に係る硬貨処理装置における可動ラックの初期動作位置の状態を示す右側面から視た断面図である。
【図5】 本発明に係る硬貨処理装置における硬貨収納の状態を示す右側面から視た断面図である。
【図6】 本発明に係る硬貨処理装置の右側面図である。
【図7】 本発明に係る硬貨処理装置における硬貨収納の状態を示したもので、(a)は図3におけるVII-VII 線断面図、(b)は図3におけるVIII-VIII線断面図である。
【図8】 本発明に係る硬貨処理装置における硬貨返却の状態を示したもので、(a)は図3におけるVII-VII 線断面図、(b)は図3におけるVIII-VIII線断面図である。
【図9】 本発明に係る硬貨処理装置に適用した硬貨蓄積装置の分解斜視図である。
【図10】 (a)は可動ラックの初期動作位置の状態を示す硬貨蓄積装置の正面から視た概略の構成図、(b)は平断面図、(c)は右側断面図である。
【図11】 本発明に係る硬貨処理装置の硬貨蓄積装置における可動ラックの動作状態を示す平断面図で、(a)は1枚目の正規硬貨を蓄積する状態を示し、(b)は8枚目の正規硬貨を蓄積する状態を示し、(c)は収納する直前の状態を示す。
【図12】 (a)は本発明に係る硬貨処理装置の硬貨蓄積装置の分解斜視図、(b)はシャッタの斜視図である。
【図13】 (a)は本発明に係る硬貨処理装置の硬貨蓄積装置における硬貨の収納前の状態を示す可動ラックの平面図、(b)は正面図である。
【図14】 (a)は本発明に係る硬貨処理装置の硬貨蓄積装置における硬貨の収納動作を示す可動ラックの平面図、(b)は正面図である。
【図15】 本発明に係る硬貨処理装置の硬貨蓄積装置における可動ラックの要部を拡大した平面図で、(a)はシャッタを開放した状態を示し、(b)はシャッタを閉じる状態を示す。
【符号の説明】
1…硬貨処理装置、3…硬貨蓄積装置、11…硬貨選別軌道、18…硬貨返却通路、19…硬貨返却軌道、21…硬貨収納兼返却軌道、23…硬貨収納軌道、35…固定ラック、80…可動ラック、84…硬貨蓄積室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 正規硬貨を選別する硬貨選別軌道と、この硬貨選別軌道で選別された正規硬貨を一旦蓄積する硬貨蓄積装置と、この硬貨蓄積装置から排出された正規硬貨を硬貨収納口または硬貨返却口に導く硬貨収納兼返却軌道と、前記硬貨選別軌道で選別された疑似硬貨を硬貨返却口に導く硬貨返却軌道とを備えた硬貨処理装置において、前記硬貨選別軌道と硬貨返却軌道とを転動する硬貨の厚み方向において略同一面位置に配設するとともに、前記硬貨収納兼返却軌道をこれら硬貨選別軌道と硬貨返却軌道と転動する硬貨の厚み方向に互いに隣接するようにずらし、かつ前記硬貨蓄積装置で正規硬貨を硬貨の厚み方向に蓄積し、蓄積した硬貨を厚み方向に移動自在としたことを特徴とする硬貨処理装置。
【請求項2】 請求項1記載の硬貨処理装置において、前記硬貨収納兼返却軌道と前記硬貨返却軌道とが連通され、返却される硬貨が合流する合流部を設けるとともに、この合流部の下方に硬貨を返却する硬貨返却口を設けたことを特徴とする硬貨処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図6】
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【図11】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【特許番号】特許第3028764号(P3028764)
【登録日】平成12年2月4日(2000.2.4)
【発行日】平成12年4月4日(2000.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−332114
【出願日】平成7年12月20日(1995.12.20)
【公開番号】特開平9−171580
【公開日】平成9年6月30日(1997.6.30)
【審査請求日】平成9年10月8日(1997.10.8)
【出願人】(000003632)株式会社田村電機製作所 (18)
【参考文献】
【文献】実開 昭56−39766(JP,U)
【文献】特表 平6−511336(JP,A)
【文献】特表 平5−501318(JP,A)