説明

硬質シリコーン樹脂の接着方法

【課題】硬質シリコーン樹脂を接着するための新規な方法を提供する。
【解決手段】硬質シリコーン樹脂10の表面を励起処理した後、該表面と基板12を重ね合わせて押圧することによって、前記硬質シリコーン樹脂と前記基板を接着する方法。好ましくは、前記励起処理は、大気圧プラズマの照射である硬質シリコーン樹脂と前記基板を接着する方法、又は、真空紫外光の照射である硬質シリコーン樹脂と前記基板を接着する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体シリコーン樹脂の接着方法に関し、より詳細には、硬質シリコーン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物スクリーニングやDNA診断などにおいて、貴重な試薬・生体サンプルの節約や化学反応・分析の高効率化のために、微細流路を備えるマイクロ流体デバイスが多く用いられている。マイクロ流体デバイスにおいては、一般に、表面に微細な凹構造(流路溝)が形成された主基板の上に蓋基板を接合して封止することによって、チップ内部に微細流路が形成される。従来、この2つの基板は、熱融着や接着剤によって接合されていたが、基板の熱変形によって微細な流路が潰れてしまったり、接着剤が流路に流れ込んでこれを塞いだりするといった問題があった。
【0003】
一方、シリコーンゴムの表面に酸素プラズマや真空紫外光を照射して励起すると、その表面が改質されることにより接着力を発揮することが知られており、この点に着目した熱・接着剤フリーの接着方法が検討されている。特開2007−130836号公報(特許文献1)は、ポリジメチルシロキサン基板(PDMS)の表面に真空紫外光を照射して励起した後、ガラス基板を重ね合わせることよって基板同士を接着する方法を開示する。
【0004】
しかしながら、PDMSなどに代表されるシリコーンゴムは、ガラスやシリコーンに比較して柔らかい材料であるため、シリコーンゴムを使用して作製したデバイスは変形しやすく、マイクロ流体デバイスの場合には、その内部に形成された微細な流路が潰れてしまうおそれがある。また、シリコーンゴムは、ガス透過性が非常に高いため、気密性を要求されるデバイスに適用することができない。この点に鑑み、高い硬度とガスバリア性を兼ね備えた硬質シリコーン樹脂を基板材料として採用することが望まれるが、シリコーンレジンなどに代表される硬質シリコーン樹脂を表面励起によって接着させることに成功した例は、未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、硬質シリコーン樹脂を接着するための新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、硬質シリコーン樹脂を接着するための新規な方法につき鋭意検討した結果、硬質シリコーン樹脂の表面を大気圧プラズマあるいは真空紫外光で照射することによって、当該表面が大きな接着力を発揮することを初めて実証し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、硬質シリコーン樹脂の表面を励起処理した後、該表面と基板を重ね合わせて押圧することによって、前記硬質シリコーン樹脂と前記基板を接着する方法が提供される。本発明においては、前記硬質シリコーン樹脂をシリコーンレジンまたは有機変性シリコーンとすることができる。また、本発明においては、前記励起処理を大気圧プラズマの照射あるいは真空紫外光の照射によって行うことができる。本発明においては、前記真空紫外光の照射における照射エネルギー量を、200mJ/cm〜1500mJ/cmとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、硬質シリコーン樹脂を接着するための新規な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】マイクロ流体デバイスの製造過程を示す概念図。
【図2】接着力を測定するための装置を示す図。
【図3】照射時間(s)と接着力(N/mm)の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
以下、本発明の硬質シリコーン樹脂の接着方法をマイクロ流体デバイスの製造過程に基づいて説明する。図1は、マイクロ流体デバイスの製造過程を示す概念図である。図1の符号10は、表面に微細な凹構造(流路溝)が形成された主基板を示す。主基板10は、ガスバリア性に優れた硬質シリコーン樹脂によって形成されており、本発明の接着方法が適用される。ここで、本発明の接着方法が適用される硬質シリコーン樹脂とは、架橋密度の高い三次元架橋構造を有するポリマーであって、そのポリマー骨格の少なくとも一部分がシロキサン結合によって形成されている樹脂全般をいう。
【0013】
硬質シリコーン樹脂の代表例として、シリコーンレジンを挙げることができる。シリコーンレジンは、シロキサン結合を主鎖とする架橋密度の高い三次元架橋構造を有し、メチル基を側鎖に持つメチルシリコーンレジンならびにメチル基およびフェニル基を側鎖に持つメチルフェニルシリコーンレジンのほか、変性シリコーンレジン(アルキッド変性、エポキシ変性、アクリル変性、ポリエステル変性等)を含む。その他、骨格の少なくとも一部分がシロキサン結合によって形成されている各種有機変性シリコーンに対しても、本発明の接着方法を適用することができる。
【0014】
本発明の接着方法においては、まず、主基板10の接着面を励起する。本発明におけるこの励起処理は、微細な凹構造が形成されている主基板10の表面に対して、大気圧プラズマを照射することによって行うことができ、また、真空紫外光(VUV)を照射することによっても行うことができる。
【0015】
従来、シリコーンレジンは、表面励起処理によって十分な接着力を発揮しないと考えられていた。この点につき、本発明者は、シリコーンレジンに対し、大気圧プラズマを照射することによって、十分な接着力が発揮されることを発見したのである。
【0016】
さらに、本発明者は、シリコーンレジンに対し、真空紫外光(VUV)を照射することによって、十分な接着力が発揮されることを発見した。さらに、本発明者は、シリコーンレジンに対する真空紫外光(VUV)の照射エネルギー量を、200mJ/cm〜1500mJ/cmとすることが好ましく、350mJ/cm〜1100mJ/cmとすることがより好ましいことを実証した。なお、本発明においては、照射する真空紫外光の波長を172nmにすることが好ましい。
【0017】
最後に、励起処理を施した主基板10の接着面に対して、シリコーンゴムやシリコーンレジン、あるいはSiを含む硬質材料(ガラス、石英、シリコンなど)によって形成された蓋基板12の表面を重ね合わせ、両基板を押圧する。その結果、微細な凹構造が形成された主基板10と蓋基板12の接触面にシロキサン結合が形成され、両基板が強固に接着して、マイクロ流体デバイスが形成される。以上、説明したように、本発明によれば、ガスバリア性に優れた硬質シリコーン樹脂を基板材料に採用した上で、これを熱・接着剤フリーの方法によって接着することによって、図1に例示したようなマイクロ流体デバイスを形成することができる。以上、説明したように、本発明の接着方法を用いてマイクロ流体デバイスを形成すれば、基板を接合する際に熱融着や接着剤を用いないため、熱変形によってチップ内部の微細流路が潰れてしまったり、接着剤が流路に流れ込んでこれを塞いだりすることがない。また、基板材料の剛性が高いため、変形によってチップ内部の微細流路が潰れてしまうことがなく、デバイス全体をガスバリア性の高いものとして構築することができる。
【0018】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の硬質シリコーン樹脂の接着方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0020】
(試験片の作製)
シリコーンレジン(SCR-1016,信越化学工業)を使用して接着力測定実験のための試験片を作製した。具体的には、主剤:硬化剤=1:1の質量比で混ぜ合わせた樹脂を予め用意した型に流し込み、ディシケーターで十分に気泡を抜いた後、100℃で1時間加熱し、さらに150℃で5時間加熱して、図2(a)に示す試験片20を得た。図2(a)に示されるように、試験片20は、接着面が形成された小さい円柱(直径4mm)と、接着力測定試験において保持部として機能する大きい円柱(直径10mm)が重なった形状を備える。併せて、シリコーンゴム(SILPOT 184,東レ・ダウコーニング)を使用して、対照用の試験片を作製した。具体的には、主剤:硬化剤=10:1の質量比で混ぜ合わせた樹脂を型に流し込み、ディシケーターで十分に気泡を抜いた後、135℃で2時間加熱して、図2(a)に示したのと同様の形状の試験片を得た。
【0021】
(接着面の励起および接着)
大気圧プラズマ照射装置(ST-7000,KEYENCE社)を使用して試験片(シリコーンレジン/シリコーンゴム)を照射することによって(照射距離6mm)、その接着面を励起した後、速やかにガラス基板に密着させた。その後、30分間押圧することによって試験片とガラス基板を接着した。
【0022】
また、真空紫外光照射装置(UVS-1000SM,ウシオ電機)を使用して試験片(シリコーンレジン)を照射強度18mW/cmで照射することによって(照射距離3mm)、同じく、その接着面を励起した後、速やかにガラス基板に密着させ。その後、30分間押圧することによって試験片とガラス基板を接着した。なお、上述した励起処理は、いずれも照射時間について複数の条件を設けて行った。
【0023】
(接着力の測定)
上述した手順でガラス基板に接着した各試験片につき、図2(b)に示す装置を使用して引っ張り試験を実施した。具体的には、ガラス基板22を固定した状態で、試験片20の保持部をデジタルフォースゲージ24(Z2-20N,IMADA社)の取手部26に引っかけて引っ張り力(=接着力)を測定した。
【0024】
図3(a)は、接着面を大気圧プラズマによって励起した場合における、シリコーンレジン試験片およびシリコーンゴム試験片のそれぞれについて、照射時間(s)と接着力(N/mm)の関係を示した図である。なお、図3(a)において、破線で囲んで示す部分は、接着力が試料の強度を上回ったために接着面が剥がれるより前に試験片が破断したケースを示す。したがって、破線で囲んで示す部分については、実用上要求される十分な接着力が得られたものとして評価する(以下、図3(b)についても同様)。
【0025】
大気圧プラズマ照射によって励起した場合、シリコーンゴムについては、照射時間が0.3〜2.5秒の場合に十分な接着力を示したが、照射時間が3秒以上になると接着力を示さなくなった。一方、シリコーンレジンについては、図3(a)に示されるように、照射時間が0.5〜3秒の場合に十分な接着力を示した。その後、照射時間が3秒以上になると徐々に接着力が低下し、照射時間が60秒以上になると接着力を示さなくなった。
【0026】
図3(b)は、接着面を真空紫外光によって励起した場合における、シリコーンレジン試験片およびシリコーンゴム試験片のそれぞれについて、照射時間(s)と接着力(N/mm)の関係を示した図である。図3(b)に示されるように、真空紫外光の場合、シリコーンゴムについては、照射時間が1〜2秒の場合に十分な接着力を示したが、照射時間が2秒を超えると徐々に接着力が低下し、照射時間が10秒以上になると接着力を示さなくなった。一方、シリコーンレジンについては、シリコーンゴムが接着力を示した照射時間の範囲では、全く接着力を示さなかったものの、照射時間が20〜60秒の範囲で十分な接着力を示した。このときの総照射エネルギー量の範囲について、装置の照射強度18mW/cmに基づいて計算した結果、360mJ/cm〜1080mJ/cmであった。
【符号の説明】
【0027】
10…主基板
12…蓋基板
20…試験片
22…ガラス基板
24…デジタルフォースゲージ
26…取手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質シリコーン樹脂の表面を励起処理した後、該表面と基板を重ね合わせて押圧することによって、前記硬質シリコーン樹脂と前記基板を接着する方法。
【請求項2】
前記硬質シリコーン樹脂は、シリコーンレジンまたは有機変性シリコーンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記励起処理は、大気圧プラズマの照射である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記励起処理は、真空紫外光の照射である、請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25853(P2012−25853A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165916(P2010−165916)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけタイプ)、ナノ界面空間での電気二重層制御を利用した一分子電気インピーダンス計測法の創成、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】