説明

碍子キャップカバーならびにその製造方法

【課題】コンパクトで軽量な碍子保護具を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる碍子キャップカバーの代表的な構成は、略円盤状の磁器の一方に鉄製のキャップ107を有し、他方にキャップと連結するピン204を有して、複数連結して使用される碍子200のキャップ107に取り付けられる碍子キャップカバー201であって、弾性を有する材質にてキャップ107を覆うカップ形状に形成され、カップ形状の底面に碍子同士を連結するピン204を挿通するための開口部206を有し、カップ形状の側面に該側面を開いてキャップ107に被せるための切れ込み202を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線に用いられる絶縁碍子の取替時に有用な碍子保護具の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の碍子保護具は、図8に示すように、碍子の磁器の外側105を綿入り布104で覆って保護し、運搬や作業の際に磁器の外側105に物が当たっても破損しないよう防護している。
【0003】
しかし、この綿入り布104は磁器の外側105のみを防護するものであり磁器の襞部106を保護する物ではない。ここで、送電鉄塔上での碍子取替作業は、不良碍子103の前後の碍子を碍子取替器101で固定して不良碍子103にかかる張力を緩めて行う。この作業において、不良碍子103を正常碍子102から取り外した時、自重により不良碍子103が下がり鉄製のキャップ107が正常碍子102の磁器の襞部106に接触し、この襞部106を破損させてしまうおそれがあった。
【0004】
そのため、不良碍子103を慎重に支えながら作業する必要があり、手間がかかった。また、正常碍子102の磁器の襞部106を破損させた場合破損した碍子も交換しなければならず、余分な作業時間および取替碍子が必要となった。
【0005】
この問題を解決するための技術としては、「工事用碍子カバー」(特許文献1)がある。この工事用碍子カバーは、二分割構造で分割部の一方側でピン接合して開閉構造となし、開閉側にロック手段を有してなるものである。またカバーは、碍子の磁器部における周縁部及び裏(襞)側部分を覆うような形状であって、周縁部を覆う部分に切り欠きを設けて碍子マークを露出可能にすると良いと説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−67671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の「工事用碍子カバー」は、碍子磁器全体を覆うものであり、大きいものでは直径40cm、厚さ10cmにもなる。そのため、かさばって重く、送電鉄塔の上へ運搬するが不便であった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、コンパクトで軽量な碍子保護具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる碍子キャップカバーの代表的な構成は、略円盤状の磁器の一方に鉄製のキャップを有し、他方にキャップと連結するピンを有して、複数連結して使用される碍子のキャップに取り付けられる碍子キャップカバーであって、弾性を有する材質にてキャップを覆うカップ形状に形成され、カップ形状の底面に碍子同士を連結するピンを挿通するための開口部を有し、カップ形状の側面に該側面を開いてキャップに被せるための切れ込みを有することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、碍子のキャップを弾性を有するカバーで覆うことにより、キャップが隣接する碍子の襞部に衝突してもこれを損傷させるおそれがない。したがって、コンパクトで軽量な碍子保護具を提供することができる。
【0011】
弾性を有する材質とは、付加型液状シリコーンゴムを固化して形成していることが好ましい。なお付加型液状シリコーンゴムとは、白金触媒が混入されており、付加反応によって硬化するタイプのシリコーンゴムである。白金触媒の量を調節することによって常温で硬化することができ、また加熱することによって硬化速度を促進することができる。
【0012】
本発明にかかる碍子キャップカバーの代表的な製造方法は、固定された型枠に付加型液状シリコーンゴムを注入し、その後前記型枠に碍子のキャップを挿入、固定し、前記付加型液状シリコーンゴムを硬化させて碍子の鉄製のキャップを覆うカップ形状に形成し、碍子同士を連結するピンを挿通するための開口部と、前記カップ形状の側面を開くための切れ込みを形成することを特徴とする。
【0013】
かかる製造方法によれば、碍子のキャップの形状を忠実に再現した碍子キャップカバーを容易に製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、碍子のキャップを付加型液状シリコーンゴムよりなるカバーで覆うことにより、コンパクトで軽量な碍子保護具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの装着図である。
【図2】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの開口平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の工程図である。
【図8】碍子取替器による碍子取替の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーについて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの装着図、図2は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの正面図、図3は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの平面図、図4は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの開口平面図である。
【0019】
図1に示すように、碍子200は本体である円盤状の磁器205の一方に鉄製のキャップ107を有し、他方にキャップ107と連結するピン204を有している。キャップ107にはピン孔203が形成されている。このピン204とピン孔203を組み合わせることにより、複数の碍子200を連結して使用することができる。
【0020】
碍子キャップカバー201は、碍子200を着脱する際に、碍子のキャップ107に装着して使用する。ここで、碍子の磁器205は大きいもので直径40cm、高さ10cmとなるのに対し、碍子のキャップ107は直径10cm、高さ10cmとコンパクトであるため、碍子キャップカバー201もコンパクトとなる。
【0021】
図2〜4に示す碍子キャップカバー201は厚さ1cm〜2cmの弾性を有する材質にてキャップ107を覆うカップ形状に形成されている。本実施形態では弾性を有する材質として、付加型液状シリコーンゴムを固化して形成されている。これより、不良碍子103(図8参照)のキャップに装着した碍子キャップカバー201が正常碍子102の磁器の襞部106(図8参照)に接触してもこの襞部を破損させない程度の衝撃吸収力を有し、かつコンパクトで軽い。
【0022】
なお、厚さは1cm〜2cmに限られず、不良碍子103(図8参照)のキャップ107に装着した碍子キャップカバー201が正常碍子102の磁器の襞部106(図8参照)に接触してもこの襞部を破損させない程度の衝撃吸収力を有し、かつ送電鉄塔の上へ運搬するのに不便でなければよい。
【0023】
碍子キャップカバー201は、カップ形状の底面にピン204を挿通するための開口部206を有している。またカップ形状の側面に、該側面を開いてキャップ107に被せるための切れ込み202を有する。これより、この切れ込み202を手で広げることにより、碍子同士を連結した状態においてワンタッチで碍子キャップカバー201の装着、着脱ができる。装着後、碍子キャップカバー201の周囲をテープで巻くなどして固定することにより、碍子キャップカバー201が碍子のキャップ107から脱落しない。
【0024】
このように、碍子のキャップ107を付加型液状シリコーンゴムにて形成されたカバーで覆うことにより、コンパクトで、かつ、軽い碍子保護具を提供できる。碍子の磁器205が破損するおそれが無いため、送電鉄塔上での碍子取替時に不良碍子103(図8参照)を支える必要がない。これより、余分な作業時間および取替碍子が不要となる。また、取り外した碍子キャップカバー201は再利用できる。
【0025】
次に、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバーの製造方法を説明する。
【0026】
図5は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の斜視図、図6は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の断面図、図7は、本発明の実施形態に係る碍子キャップカバー製造方法の工程図である。
【0027】
まず、予備手順としてステップST1において、23℃における硬化前の粘度の代表値が20,000mPa・sであり、23℃における厚み1cmの標準硬化時間が12時間である付加型液状シリコーンゴムのペール缶またはドラム缶を用意する。
【0028】
ステップST2において、型枠303を缶304の内部に設置する。型枠303を缶304の内部に設置することにより、型枠303を固定できる。
【0029】
次にステップST3において、型枠303に付加型液状シリコーンゴム305を注入する。付加型液状シリコーンゴム305は、室温硬化では収縮が非常に小さく、優れた離型効果を発揮し、原形の形状を忠実に再現する。実施形態に係る付加型液状シリコーンゴム305は、23℃における硬化前の粘度の代表値が20,000mPa・sと低粘度で高流動性を有する。これより、型枠303に流し込むことにより、忠実に型をとれる。
【0030】
なお、付加型液状シリコーンゴムの23℃における硬化前の粘度の代表値は20,000mPa・sに限られず、碍子のキャップ107の型を忠実にとれるものであればよい。
【0031】
次にステップST4において、型枠303の上に碍子のキャップ107と同一形状の孔302の開いた板301を被せる。これにより、碍子のキャップ107を固定できる。そして、この孔302にピン孔203(図1参照)をテープで覆った碍子のキャップ107を挿入して固定する。これにより、ピン孔203(図1参照)に付加型液状シリコーンゴム305が流れ込むのを防ぐ。
【0032】
次にステップST5において、付加型液状シリコーンゴム305を室温または加熱により硬化させる。付加型液状シリコーンゴム305の23℃における厚み1cmの標準硬化時間が12時間であり、これを灯光器などで加熱し硬化を促進することにより、35℃において3時間、70℃において60分で硬化させることができる。これより、短時間に生産ができる。
【0033】
なお、時間的制約を考慮しなければ、付加型液状シリコーンゴム305の23℃における厚み1cmの標準硬化時間は12時間に限られない。
【0034】
次にステップST6において、硬化した付加型液状シリコーンゴム305を型枠303および碍子のキャップ107から取り外した後、開口部206および切れ込み202(図1〜4参照)を形成し、バリを取り成形し、完成品を得る。
【0035】
上記のように、缶304、型枠303、板301を用いることにより、容易に碍子キャップカバー201(図1〜4参照)を製造できる。23℃における硬化前の粘度の代表値が20,000mPa・sと低粘度で高流動性を有するため、碍子のキャップ107の型を忠実にとれる。23℃における厚み1cmの標準硬化時間が12時間であり、加熱し硬化を促進することにより生産性がよくなる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0037】
付加型液状シリコーンゴム305として旭化成の型取り用RTV−2シリコーンゴム ELASTOSIL M4648を用いた。このゴムは、23℃における硬化前の粘度の代表値が20,000mPa・sで、厚み1cmの標準硬化時間が12時間である。これを灯光器で加熱することにより、硬化を促進させて碍子キャップカバー201(図1〜4参照)を製造した。試作した碍子キャップカバー201(図1〜4参照)を実際の送電鉄塔上での碍子取替作業に用いたところ、正常碍子102の磁器の襞部106(図8参照)を破損することがなくなった。
【符号の説明】
【0038】
101 碍子取替器
102 正常碍子
103 不良碍子
104 綿入り布
105 磁器の外側
106 磁器の襞部
107 キャップ
200 碍子
201 碍子キャップカバー
202 切れ込み
203 ピン孔
204 ピン
205 磁器
206 開口部
301 板
302 孔
303 型枠
304 缶
305 付加型液状シリコーンゴム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円盤状の磁器の一方に鉄製のキャップを有し、他方に前記キャップと連結するピンを有して、複数連結して使用される碍子の前記キャップに取り付けられる碍子キャップカバーであって、
弾性を有する材質にて前記キャップを覆うカップ形状に形成され、前記カップ形状の底面に前記碍子同士を連結するピンを挿通するための開口部を有し、前記カップ形状の側面に該側面を開いて前記キャップに被せるための切れ込みを有することを特徴とする碍子キャップカバー。
【請求項2】
前記弾性を有する材質とは、付加型液状シリコーンゴムを固化して形成していることを特徴とする請求項1に記載の碍子キャップカバー。
【請求項3】
固定された型枠に付加型液状シリコーンゴムを注入し、その後前記型枠に碍子のキャップを挿入、固定し、前記付加型液状シリコーンゴムを硬化させて碍子の鉄製のキャップを覆うカップ形状に形成し、碍子同士を連結するピンを挿通するための開口部と、前記カップ形状の側面を開くための切れ込みを形成することを特徴とする碍子キャップカバーの製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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