説明

碍子取替工具

【課題】簡易な構成で作業効率を向上することができる碍子取替工具を提供する。
【解決手段】吊架線を懸垂している碍子を交換する際に用いる碍子取替工具10において、作業床に支持可能に構成された支持底部11と、支持底部から延設された支持棒13と、支持棒の先端に形成された吊架線支持部15と、を備え、支持棒が伸縮自在に構成されるとともに、支持棒が支持底部に対して可動できるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、碍子取替工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、線路上方(列車上方)には吊架線が線路に沿って配設されており、該吊架線は碍子により支持されている。この碍子は一般的に外観が陶器で形成されているため、経年的に劣化したり、何らかの障害物により割れてしまうということがある。したがって、碍子は定期的に交換をする必要がある。これまで、碍子を交換する際には、木製のつっかえ棒を作業床と吊架線との間に配し、作業床を上昇させることにより吊架線を持ち上げ、碍子に作用している吊架線の張力を小さくして、古い碍子を取り外し、新しい碍子を取り付けていた。
【0003】
しかしながら、木製のつっかえ棒では長尺であるために持ち運びが困難であったり、吊架線を支持する際に微調整が困難であったりした。そこで、このような問題を解消するために、安全かつ簡易に吊架線懸垂碍子を交換する碍子交換器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−164776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1の碍子交換器は、ビームに碍子とともに碍子の直近に碍子支持金具を取り付け、該碍子支持金具に碍子交換器のフックを引っ掛けた後に吊架線を持ち上げる必要があった。したがって、部品点数も多く高価になり、また、作業に手間がかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、簡易な構成で作業効率を向上することができる碍子取替工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、吊架線を懸垂している碍子を交換する際に用いる碍子取替工具において、作業床に支持可能に構成された支持底部と、該支持底部から延設された支持棒と、該支持棒の先端に形成された吊架線支持部と、を備え、前記支持棒が伸縮自在に構成されるとともに、前記支持棒が前記支持底部に対して可動できるように構成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載した発明は、前記支持棒に、前記支持棒を伸縮させることができるハンドル部が設けられていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載した発明は、前記支持底部を前記作業床に載置したときに、前記支持棒が、鉛直方向に対して0°〜15°の範囲で傾斜可能に構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載した発明は、前記吊架線支持部が着脱可能に構成され、該吊架線支持部には隣接する吊架線の間隔に対応した支持凹部が形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載した発明は、前記吊架線支持部には前記支持凹部が並行して奇数箇所形成され、該支持凹部の内、真ん中に位置する支持凹部が前記支持棒の直上に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載した発明によれば、支持底部を作業床に支持した状態で作業床を上昇させることにより吊架線を持ち上げることができ、さらに支持棒を伸縮させることにより微調整することができる。したがって、碍子にかかる吊架線の張力を容易にゆるめることができ、碍子を容易に取り外すことができる。したがって、部品点数も増えることがなく、簡易な構成で碍子取替の作業効率を向上することができる。また、支持棒を伸縮できるように構成したため、持ち運び時には支持棒を短くすることができ、容易に運搬することができる。
【0013】
請求項2に記載した発明によれば、ハンドル部を回転させるだけで支持棒を伸縮させることができるため、より確実に支持棒の長さを微調整することができる。したがって、短時間の作業で効率よく碍子を取り外すことができる。
【0014】
請求項3に記載した発明によれば、碍子の直下で碍子取替工具を用いる必要がなく、碍子に対して斜め下から碍子の直近の吊架線を支持することができる。したがって、碍子の取替時に碍子取替工具が邪魔にならず、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0015】
請求項4に記載した発明によれば、隣接する吊架線の配設間隔にはいくつかのパターンがあるが、吊架線支持部を着脱可能にすることにより、吊架線支持部を交換するだけでいずれのパターンにも容易に対応することができる。したがって、吊架線支持部で吊架線を確実に支持することができ、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0016】
請求項5に記載した発明によれば、碍子を交換する対象の吊架線が1本の場合は、支持棒の直上に形成された支持凹部で吊架線を支持することにより、碍子取替工具のバランスを保持しやすい。また、碍子を交換する対象の吊架線が2本近接している場合は、支持棒の直上に形成された支持凹部の両側に形成されている支持凹部でそれぞれ吊架線を支持することにより、碍子取替工具のバランスを保持しやすい。したがって、このように吊架線支持部を形成することにより、碍子取替工具のバランスを確実に保持しながら、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態における碍子取替工具の正面図である。
【図2】図1のA部拡大斜視図である。
【図3】図1のB部拡大斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における碍子取替方法の説明図(1)である。
【図5】本発明の実施形態における碍子取替方法の説明図(2)である。
【図6】本発明の実施形態における碍子取替方法の説明図(3)である。
【図7】本発明の実施形態における碍子取替工具の別の態様を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
図1に示すように、碍子取替工具10は、作業床に支持可能に構成された支持底部11と、支持底部11から延設された支持棒13と、支持棒13の先端に形成された吊架線支持部15と、支持棒13を伸縮させるためのハンドル17と、を備えている。
【0019】
支持底部11は、例えばポリアミドなどの強化ガラス繊維で形成された部材であり、底面11aが平坦面に形成されている。つまり、底面11aは作業床F(図4参照)に当接させたときに滑りにくい素材が採用されている。支持底部11の上方には支持棒13が配設されるが、支持底部11と支持棒13との間には転動部材19が配設されている。また、転動部材19には、アジャストネジ13aが一体形成され、このアジャストネジ13aを支持棒13の下端にネジ込んで、支持棒13と支持底部11とが連結されている。
【0020】
図2に示すように、転動部材19は、支持底部11の上面に形成された凹部11bに配されており、支持底部11に対して転動可能に構成されている。転動部材19に一体形成されたアジャストネジ13aには支持棒13が螺合されており、転動部材19の転動に合わせて支持棒13が鉛直方向に対して傾斜可能に構成されている。なお、支持底部11を作業床Fに載置したときに、支持棒13が鉛直方向に対して0°〜15°の範囲で傾斜できるように構成されている。
【0021】
支持棒13は、例えばアルミ合金で形成された棒状部材である。支持棒13は、伸縮部21において伸縮できるように構成されている。図3に示すように、伸縮部21は例えばネジ21aが軸方向に沿って形成されており、このネジ21aに螺合するネジ部21bを備えたハンドル17を回すことにより伸縮部21が支持棒13内に収納されるように構成されている。したがって、碍子取替工具10の長さを伸縮できるようになっている。例えば、碍子取替工具10の長さは1650mm〜2250mmの長さに調節可能に構成されている。また、伸縮部21には蛇腹25が覆われている。
【0022】
また、支持棒13の先端には吊架線50を支持するための吊架線支持部15が設けられている。この吊架線支持部15は、例えばステンレスで形成されており、支持棒13に対して着脱自在に構成されている。吊架線支持部15には、例えば吊架線50を保持する凹部23が3箇所形成されている。3つの凹部23A,23B,23Cは互いに平行に形成されている。また、真ん中の凹部23Bは支持棒13の直上に形成されている。このように構成することで、吊架線50が3本平行して配設されている箇所においても確実に吊架線50を支持することができる。なお、このように凹部23を3箇所形成することにより、例えば吊架線50が1本だけ配設されている場合には、真ん中の凹部23Bで吊架線50を支持することにより碍子取替工具10のバランスを保持しやすい。また、吊架線50が2本平行して配設されている場合には、両側の凹部23A,23Cで吊架線50をそれぞれ支持することにより碍子取替工具10のバランスを保持しやすい。つまり、碍子取替工具10のバランスを確実に保持しながら、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
さらに、両側の凹部23Aと凹部23Cとの距離が異なる吊架線支持部を用意することにより複数の吊架線50の配設パターンに対応することができる。つまり、吊架線支持部15で吊架線50を確実に支持することができ、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0023】
また、支持棒13には、該支持棒13を伸縮させるためのハンドル17が形成されている。ハンドル17は、水平方向に略十字形状に4本の取っ手17aが形成されており。取っ手17aを水平方向に回転させることにより支持棒13が伸縮できるようになっている。
【0024】
(碍子取替方法)
次に、碍子70の取替方法について説明する。
まず、図4、図5に示すように、取り替える碍子70の下方に作業床Fが上下動する軌陸車31を配置する。そして、碍子取替工具10の支持底部11を作業床Fに当接した状態で作業床Fを上昇させて、吊架線支持部15に吊架線50を支持する。なお、このとき支持底部11に対して転動部材19を傾け、支持棒13を鉛直方向に対して若干傾斜させて吊架線50を支持するように配置すると、その後の碍子70の取替時に支持棒13が作業員の邪魔にならず、効率良く取替作業を行うことができる。また、碍子70を取り替える吊架線50が1本の場合は、吊架線支持部15の真ん中の支持凹部23Bで吊架線50を支持する。
【0025】
さらに、作業床Fを上昇させて、碍子70に吊架線50の張力がかからない程度の状態にする。なお、このとき最後の微調整にはハンドル17を回転させて支持棒13の長さを調整しながら行うとよい。
【0026】
図6に示すように、碍子70に吊架線50の張力がかからない状態になったら、碍子70を締結しているボルト71およびナット73を取り外して古い(現在取り付けられている)碍子70を取り外すとともに、新しい碍子70を取り付ける。新しい碍子70を取り付けたらハンドル17を回転させて支持棒13の長さを少しずつ短くしながら、碍子70に対して吊架線50の張力をゆっくりとかけていく。
【0027】
吊架線50の通常の張力がかかった状態で碍子70の取付状態に問題がなければ碍子取替作業は終了する。なお、作業終了後は支持棒13を一番短い状態にしておくと、運搬を容易にすることができる。
【0028】
本実施形態によれば、支持底部11を作業床Fに支持した状態で作業床Fを上昇させることにより吊架線50を持ち上げることができ、さらに支持棒13を伸縮させることにより碍子70にかかる吊架線50の張力を微調整することができる。したがって、碍子70にかかる吊架線50の張力を簡易な構成で容易にゆるめることができ、碍子70を容易に取り外すことができる。したがって、碍子取替工具10の部品点数が増えることなく、簡易な構成で碍子取替の作業効率を向上することができる。また、支持棒13を伸縮できるように構成したため、持ち運び時には支持棒13を短くすることができ、容易に運搬することができる。
【0029】
また、ハンドル17を回転させるだけで支持棒13を伸縮させることができるため、より確実に支持棒13の長さを微調整することができる。したがって、短時間の作業で効率よく碍子70を取り外すことができる。
【0030】
また、支持底部11を作業床Fに載置したときに、支持棒13が鉛直方向に対して0°〜15°の範囲で傾斜できるように構成したため、碍子70の直下で碍子取替工具10を用いる必要がなく、碍子70に対して斜め下から碍子70の直近の吊架線50を支持することができる。したがって、碍子70の取替時に碍子取替工具10が作業員の邪魔にならず、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0031】
さらに、隣接する吊架線50の配設間隔にはいくつかのパターンがあるが、吊架線支持部15を着脱可能にしたため、吊架線支持部15を交換するだけでいずれのパターンにも容易に対応することができる。したがって、吊架線支持部15で吊架線50を確実に支持することができ、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0032】
そして、碍子70を交換する対象の吊架線50が1本の場合は、支持棒13の直上に形成された支持凹部23Bで吊架線50を支持することにより、碍子取替工具10のバランスを保持しやすい。また、碍子70を交換する対象の吊架線50が2本近接している場合は、支持棒13の直上に形成された支持凹部23Bの両側に形成されている支持凹部23A,23Cでそれぞれ吊架線50を支持することにより、碍子取替工具10のバランスを保持しやすい。したがって、吊架線支持部15の支持凹部23を奇数箇所形成することにより、碍子取替工具10のバランスを確実に保持しながら、効率よく碍子取替作業を実施することができる。
【0033】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、吊架線支持部に支持凹部が3箇所形成されたものを用いて説明したが、図7に示すように、支持凹部は2箇所のものでもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…碍子取替工具 11…支持底部 13…支持棒 15…吊架線支持部 17…ハンドル部(ハンドル) 23…支持凹部 50…吊架線 70…碍子 F…作業床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊架線を懸垂している碍子を交換する際に用いる碍子取替工具において、
作業床に支持可能に構成された支持底部と、
該支持底部から延設された支持棒と、
該支持棒の先端に形成された吊架線支持部と、を備え、
前記支持棒が伸縮自在に構成されるとともに、
前記支持棒が前記支持底部に対して可動できるように構成されていることを特徴とする碍子取替工具。
【請求項2】
前記支持棒に、前記支持棒を伸縮させることができるハンドル部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の碍子取替工具。
【請求項3】
前記支持底部を前記作業床に載置したときに、前記支持棒が、鉛直方向に対して0°〜15°の範囲で傾斜可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の碍子取替工具。
【請求項4】
前記吊架線支持部が着脱可能に構成され、該吊架線支持部には隣接する吊架線の間隔に対応した支持凹部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の碍子取替工具。
【請求項5】
前記吊架線支持部には前記支持凹部が並行して奇数箇所形成され、
該支持凹部の内、真ん中に位置する支持凹部が前記支持棒の直上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の碍子取替工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208423(P2010−208423A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55186(P2009−55186)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(399039719)東日本電気エンジニアリング株式会社 (30)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)