説明

磁場作用を利用した粒界偏析及び偏析脆化の制御方法

【課題】
従来の技術では、鉄鋼材料のリサイクルにおいてSnやCuなどの有害元素は、主に結晶粒界に偏析し、その結果粒界の結合力を著しく弱めることにより材料自体が脆化するという問題があった。本発明は、リサイクル鉄鋼材料において、有害元素の粒界濃度が粒内濃度と同程度まで低減可能な鉄鋼材料リサイクル制御方法を提供する。
【解決手段】
本発明によれば、鉄鋼材料リサイクルにおいて、磁場作用を利用して有害原素の粒界偏析を制御し、偏析脆化を制御したので、純鉄と同等の破壊靱性値を得られるとういう効果がある。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料のリサイクルに関わる有害元素の無害化技術ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源の有効利用,環境保護の面から,使用済み材料,特に鉄鋼材料のリサイクルは国家的および世界的規模で重要な課題となってきている。しかし,市場から回収されるスクラップには,鉄鋼材料で熱間加工性を劣化させるSnやCuなどの不純物が混入し,最近20年間において0.1wt%から0.3wt%と3倍も増加しており、これらの不純物の粒界偏析に起因して著しい脆化が生じる。即ちSnおよびCuのような不純物は、繰り返しリサイクルされることにより材料中に蓄積され、粒界偏析脆化の原因となる。したがって、リサイクルに係わる有害元素の無害化技術の開発が緊急課題となってきている。
【0003】
不純物の粒界偏析は材料の種々の特性に著しく影響を及ぼす。材料特性に及ぼすさまざまな不純物の影響に関する多くの研究が行われてきた。鉄中における錫、銅およびりんのような不純物は、焼戻脆性および低温脆性のようにしばしば深刻な粒界脆性の原因となる。SeachおよびHondrosは、粒界富化率と固溶度との間に密接な関係があることを見出した。「シーア・ホンドロス線図」によれば、鉄中のこれらの有害な元素は粒界富化率が100以上の値をもち、著しい粒界偏析を引き起こす。
【0004】
今日、省資源、省エネルギーの観点から、材料のリサイクルが世界的規模で重要な課題となってきている。実際、使用環境またはリサイクルプロセスの段階で混入し蓄積する有害元素は、しばしば粒界偏析を起こし材料の機械的性質を劣化させる。
【0005】
例えば、錫は再利用された屑ブリキ板から、そして、銅はモーターなどから混入する。鉄鋼スクラップ中のこれらの有害元素の濃度は、今後10年間の間に現在よりも1.2倍から1.5倍になると予測されている。したがって、鉄鋼のリサイクルにおけるこのような特性劣化の課題に対する解決策を構築する必要性が強く社会から要請されている。
【0006】
ホフマンとレーチェックは初めて実験的に粒界偏析線図(それは、1980年に著者(T.W.)のうちの1人が提唱した)を示し、粒界偏析が粒界性格および構造に著しく依存することを示した。この知見は、粒界微細組織制御により偏析脆化を抑制することができることを示唆している。
【0007】
鉄鋼材料に関して、磁場の印加による組織制御について、特許文献1(特開2003−342100)に示されているが、本内容は、磁場印加による結晶方位の制御に関するもので、粒界脆性の改善に関しては示されていない。
【特許文献1】特開2003−342100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来の技術では、鉄鋼材料のリサイクルにおいてSnやCuなどの有害元素は、主に結晶粒界に偏析し、その結果粒界の結合力を著しく弱めることにより材料自体が脆化するという問題があった。本発明は、リサイクル鉄鋼材料において、有害元素の粒界濃度が粒内濃度と同程度まで低減可能な鉄鋼材料リサイクル制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、鉄鋼材料リサイクルにおいて、磁場作用を利用して有害原素の粒界偏析を制御することを特徴とする粒界偏析及び偏析脆化の制御方法が得られる。
【0010】
本発明によれば、磁場作用における印加磁場が、直流磁場であり磁場強度が3T以上である事を特徴とする粒界偏析及び偏析脆化の制御方法が得られる。
【0011】
本発明によれば、磁場作用の熱処理適用条件が、鉄鋼の強磁性温度域である事を特徴とする粒界偏析及び偏析脆化の制御方法が得られる。
【0012】
本発明によれば、磁場作用の熱処理適用条件が、6時間以上であることを特徴とする粒界偏析及び偏析脆化の制御方法が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄鋼材料リサイクルにおいて、磁場作用を利用して有害原素の粒界偏析を制御し、偏析脆化を制御したので、純鉄と同等の破壊靱性値を得られるとういう効果がある。
【0014】
磁場作用に着目して、Fe-Sn合金を用いて粒界偏析の制御方法、粒界偏析脆化の制御方法を提案している。超伝導磁場中熱処理システムを用いて、強磁性温度域の973Kにて6時間,6Tまでの直流磁場作用下で焼鈍を行い、FE-TEM局所分析の結果、磁場中焼鈍により粒界におけるSn濃度が粒内と同程度まで低下することを確認した。さらに磁場中焼鈍されたFe-Sn合金(0.02, 0.2, 0.8at%Sn)を用いて液体窒素中にて3点曲げ法により破壊靱性値を測定した結果,磁場強度の増加とともに破壊靱性値が上昇し、磁場強度が3T以上の試料では純鉄の破壊靱性値よりも高くなる効果を得た。また、Fe-0.8at%Sn合金は、室温においても全く塑性変形することなく破壊するのに対して、磁場中焼鈍された試料は、よい延性を示す効果を得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明を実証するための実験装置を図1に示すが、まず、実証のための実験内容を説明する。
【0016】
<試料の準備と磁気的時効>
99.999%の純度を有する真空溶解電解鉄および高純度錫を用いて、Fe-0.02at%、0.2at%および0.8at%
Sn合金を作製した。これらの合金の化学組成は、表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
インゴットを熱間鍛造により10mmの厚さにした後,873Kで熱間圧延し1.2mm厚さの板状試料とした。その後、3点曲げ試験に適したサイズに試験片を切り出し、機械的研磨および3μmのアルミナ粒子を用いたバフ研磨により鏡面仕上げとした。
【0019】
最後に、FE-SEM/EBPS/OIM測定値のために、酢酸、過塩素酸およびメタノールが体積比で9:1:1の混酸を用いて、電圧10V、電流密度1.8A/cm2の条件で電解研磨を行った。10-3Paの真空下、973K(T.Tc=0.95, Tcはキュリー温度)の温度において6時間、無磁場および磁場中焼鈍を行った。
【0020】
磁場中焼鈍は、図1に示した特別に設計された超電導磁場中熱処理システムを用いて、0.5, 3および6Tの磁場中で行われた。印加した磁場の方向は、圧延方向に平行である。超伝導熱処理システムは、ヘリウムフリーの超電導磁石(住友重工業)とモリブデン板をヒーターとする抵抗加熱炉(Futek Furnace inc.)から構成されている。磁場中焼鈍には特別に設計されたカーボン試料ホルダーを用いた。カーボンホルダーからの炭素の拡散を防止するために、試料とホルダーとの間にはタングステン板をはさんだ。
【0021】
<粒界微細組織および局所分析>
磁場中および無磁場焼鈍された試料の粒界微細組織を方位像顕微鏡(OIM)を用いて観察した。用いたOIM装置は、日立S-4200電界放出型走査電子顕微鏡にとりつけたTSL社製のもので、観察は加速電圧30kVで行った。電子ビームをステップサイズ6μmの間隔で試料表面を走査させた。
【0022】
磁場中および無磁場中焼鈍されたFe-Sn合金におけるSnの粒界偏析を調べるために、FEG-TEM/EDS解析を行った。TEM/EDS解析のため、焼鈍された試料を焼く100μmの厚さまで機械研磨により薄くし、その後、ワーヤーソーにより長方形に切り出した。その後、酢酸、過塩素酸およびメタノールが体積比で9:1:1の混酸を用いて、電圧20V、電流0.1Aの条件にてツインジェット電界研磨を行い薄膜化した。TEM/EDS解析の前に、粒界偏析が粒界性格および構造に依存することはよく知られているので、TEM試料に含まれる個々の粒界の性格をOIMで測定した。TEM/EDS解析をTecnai F20またはHITACHI FEG-TEM HF-2000に取り付けられたUTW式のエネルギー分散X線分光装置を用いて行った。これらの測定は、電子ビームを直径ほぼ1ナノメートルまで絞って行われた。TEM/EDS解析は、キャラクタがOIMによって前もって決定されていた各々の粒界に沿った実行された4-7の時間であった。
異なる条件で焼鈍されたそれぞれの試料につて、10以上の粒界についてEDS分析を行った。
【0023】
<粒界エネルギーの測定>
粒界エネルギーが不純物/溶質偏析の量に影響を受けるので、原子間力顕微鏡検査(AFM)を用いて磁場中および無磁場焼鈍された試料表面に形成される粒界溝の形状を測定し、粒界エネルギーを評価した。AFM測定は、SHIMADZU SPM-9500を使用して行われた。粒界溝の二面角の測定から、表面エネルギーに対する粒界エネルギーの相対値を評価した。粒界エネルギー測定のために、二面角は粒界に沿った4つの異なる位置で測定された。このような測定を各々の試料に対して10以上の粒界について行った。厳密に言って、表面エネルギーは表面方位に依存する。しかしながら、表面エネルギーの方位依存性に関して信頼性ある測定結果が無いので、本測定では、表面エネルギーの方位依存性は小さいと仮定した。実際、粒界溝の形状の測定において、ファセット形状をもつ表面は必ずしも測定されるとは限らない。
【0024】
<破壊靭性の測定>
偏析脆化に対する磁場中焼鈍の効果は、三点曲げ破壊試験法を用いて調査した。磁場中および無磁場焼鈍の後、幅約150μm、長さ約0.5mmのノッチをワイヤーソーを用いて試料に導入した。三点曲試験は、破壊に対する塑性変形の効果を避けるために、77K(液体窒素の)で、クロスヘッド速度0.25mm/minで行われた。
【0025】
<粒界微細組織>
磁場中および無磁場焼鈍されたFe-0.02、0.2および0.8at%Sn合金試料の粒界微細組織の定量評価結果を表2に示す。表2の平均結晶粒径の誤差は、標準誤差によって示されている。
【0026】
【表2】

【0027】
平均結晶粒径は、Fe-0.02Snで68μm、0.2Snで25μm、0.08Snで36μmと、錫濃度の増加と共に減少する傾向がある。
磁場は、錫濃度にかかわらず、粒成長および粒界性格分布(GBCD)に対して顕著な影響を及ぼさない。
焼鈍された試料における粒界性格分布は、低角度粒界の頻度がランダム多結晶体から理論的に予測されるものより3−4倍高いが、その他はランダム多結晶に対する値とほぼ等しい。焼鈍された試料における高エネルギーランダム粒界の頻度は、78%から82%程度であり、Σ3からΣ29までの対応粒界の頻度は、18-22%である。
【0028】
<粒界エネルギーに及ぼす磁場中焼鈍の効果>
図2は、Fe-0.8at%Sn合金の粒界エネルギーと磁場強度との関係を示したものである。粒界エネルギーの平均値が磁場強度の増加と共に増加したという結果は、特に重要である。図2に示される結果は、磁場の印加により錫の粒界偏析量が減少することを示唆している。一方、Fe-0.02at%、0.2のat% Sn合金においては粒界エネルギーの磁場強度依存性は小さかった。
【0029】
<FEG-TEM/EDSによる粒界における局所分析>
粒界への錫の偏析は、FEG-TEM/EDS法によって測定された。
粒界偏析は粒界性格に依存するので、TEM/EDS測定の前にOIM測定を行い、個々の粒界の性格を決定した。図3は、973Kで6時間、3Tの磁場中および無磁場焼鈍されたFe-0.8at%Sn合金試料中のランダム粒界について、粒界に垂直な方向に沿って測定されたSnの濃度を示している。粒界偏析が粒界性格に依存することがわかる。ランダム粒界における錫の濃度は粒内よりも1.5倍程度高いのに対し、低角度粒界における錫濃度は粒内と相違ない。図3に示されるTEM/EDS解析結果から、ランダム粒界における錫濃度が磁場中焼鈍により、粒内の錫濃度とほぼ等しいレベルまで低下することがわかる。したがって、磁場がFe-Sn合金におけるSn粒界偏析量を減らすことができることが明らかになった。
【0030】
<磁気自由エネルギー>
粒界偏析に対する磁場の有益な効果を磁気自由エネルギーの観点から説明する。
一般に、単位体積あたりの強磁性材料の磁気自由エネルギーは、次式で与えられる。ここで、μは真空の透磁率、χは飽和磁化、Hは磁場強度、Nは反磁場係数である。
【0031】
(1)式
【0032】
【数1】

【0033】
一方、常磁性体および反磁性体の単位体積あたりの磁気自由エネルギーは(2)式で与えられる。
【0034】
(2)式
【0035】
【数2】

【0036】
もし、常磁性物質である錫が粒界に偏析し、あたかも他相のように偏在するとすれば、局所的に形成された錫の偏在領域は、外部磁場作用下において系全体の自由エネルギーに影響を及ぼす可能性がある。そのような局所領域の存在は、粒内部よりも高い磁気自由エネルギーをもつと予想されるので、その結果、系全体の自由エネルギーを増加させるであろう。これは、錫の磁化率が極めて小さいという理由からである。式(1)および(2)より、錫が偏析した局所領域と粒内との磁気自由エネルギーの相違は、反磁場係数を0と仮定すると、−6×10E6 J/m3と評価される。鉄における錫の粒界偏析の自由エネルギーの温度依存性によれば、973Kの偏析自由エネルギーは、ほぼ-6.5×10E5 J/m3である。即ち、磁気エネルギーの相違は、粒界偏析エネルギーより1桁低い。従って、磁場が印加されると、系の磁気自由エネルギーを低下させるために錫原子の粒界偏析が抑制されると考えられる。一方、粒界偏析した錫の局所領域の反磁場係数は、磁場が粒界に対して垂直に印加されるときよりも平行に印加されるときに小さくなる。
【0037】
したがって、粒界偏析抑制に対する磁場の効果は、粒界が磁場方向に対して垂直であるときに最も顕著になると期待される。図4(a)と(b)は、それぞれ磁場印加方向に対して平行および垂直なランダム粒界についてEDS測定を行った結果から、鉄に対する錫の特性X線の強度比を、印加磁場強度の関数として示したものである。粒界偏析上の磁界の効果が、磁界の方向に依存しているのが見られる。磁場方向に対して垂直なランダム粒界では、0.5T以上の磁場強度の印加により、粒内部と同レベルまでSn/Fe強度比が低下する。磁場方向に平行なランダム粒界においても、同様に磁場の印加によって、SnとFeのX線強度比が減少した。しかしながら、その強度比は粒内レベルに比べ1.25倍高い。上述したように、粒界が磁場に対して垂直なときに、磁場中焼鈍による錫の粒界偏析の抑制効果はより顕著である。
【0038】
<磁場印加による粒界偏析脆性の制御>
以上のように、磁場中焼鈍により,鉄に対して有害な元素である錫の粒界偏析を抑制することができることを明らかにした。さらにFe-Sn合金の粒界偏析脆性が磁場中焼鈍により抑制される事を示す。磁場中焼鈍されたFe-Sn合金の温度77Kにおける破壊靭性値を焼鈍中に印加した磁場の強度に対してプロットしたものを図6に示す。比較のために、図6には異なる粒径をもつ純鉄の破壊靭性をグラフの右側縦軸に矢印で示した。なお、これらの純鉄の値は、破壊靭性値もHall-Petchの関係が成り立つと仮定して求められたものである。
【0039】
また、図6に示された各々の合金の結晶粒径は、異なる条件で焼鈍された試料の平均値である。いずれのFe-Sn合金においても、破壊靭性値が磁場強度の増加とともに大きくなることがわかる。3T以上の磁場中において焼鈍されたFe-Sn合金は、純鉄の破壊靭性値よりも大きくなる。磁場中焼鈍による脆性の制御は、Fe-0.2at%Sn合金においてより顕著であった。
【0040】
一般的に言って、破壊靭性は結晶粒系および粒界性格分布に依存する。磁場中および無磁場焼鈍された試料の粒径および粒界性格分布には大きな相違はないので、磁場中焼鈍による破壊靭性値の増加は、磁場印加によって粒界偏析が抑制された結果であると結論される。
【0041】
6Tの磁場中で焼鈍されたFe-0.8at%Sn合金では、図4に示したように錫の偏析濃度は減少しているにもかかわらず、破壊靭性値が低下した。粒界現象に対する最も有効な磁場効果が、ある最適な磁場強度において現れることがある。
【0042】
クラック伝播の観察から、Fe-Sn合金の77Kにおける破壊は、磁場中焼鈍された試料においても主に粒界破壊によって起こっていることがわかった。bcc合金においては、溶質原子のまわりのひずみ場が転位のキンク対形成に対して有効に作用するために、低温において固溶軟化が起こる場合がある。
【0043】
耐固溶軟化効果は、磁場中焼鈍されたFe-Sn合金のへき開破壊を抑制する。したがって、Fe-Sn合金における破壊靭性の向上は、磁場中焼鈍による粒界偏析の抑制と固溶軟化効果の重畳効果によるものと考えられる。
【0044】
偏析脆化の抑制に対する磁場中焼鈍の有用性を図7に示す。図7は、磁場中および無磁場中焼鈍されたFe-0.8at%Sn合金を室温において3点曲げ試験を行った際の応力ーひずみ曲線である。無磁場焼鈍された試料は室温においてもほとんど塑性変形をすることなく破壊している。これに対して、磁場中焼鈍された試料は明らかに塑性変形することがわかる。これらの結果から、磁場中焼鈍がFe-Sn合金の粒界偏析脆化の抑制に有効であることを示した。
【0045】
以上の如くFe-Sn合金の粒界偏析および偏析脆化の抑制に対する磁場中焼鈍の効果について明らかにした。得られた主な結果を以下に示す:
(1) Fe-Sn合金の粒界エネルギーが、焼鈍中に作用する磁場の強度の増加とともに低下した。
(2) TEM/EDS解析から、ランダム粒界における錫の濃度が磁場強度の増加とともに低下することが明らかとなった。粒界が磁場印加方向に対して垂直な場合に、磁場による錫の粒界偏析抑制効果が最も顕著になった。
(3) 鉄-錫合金の破壊靭性値が焼鈍中の磁場強度の増加とともに大きくなった。
3T以上の磁場強度作用下で焼鈍されたFe-Sn合金の破壊靭性値が純鉄の破壊靭性値よりも大きくなった。
(4) 磁場中焼鈍は粒界偏析および偏析脆化の抑制たいして有効な手段となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
資源の有効利用、環境保護の観点から使用済み鉄鋼材料のリサイクルは世界的規模で重要な課題である。しかし回収スクラップには粒界に偏析して熱間加工性を劣化させるSnやCuが蓄積混入し、その量は過去20年間で0.1%から0.3%に増加している。不純物の粒界偏析は、高エネルギーのランダム粒界で顕著なことから、本発明は、超伝導の強磁場を利用し、粒界工学手法で不純物の粒界偏析を防止し、粒界偏析脆化を制御するリサイクル鉄鋼材料の熱処理に幅広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を実証するための実験装置図である。
【図2】Fe-0.8at%Sn合金の粒界エネルギーと磁場強度との関係を示した図である。
【図3】973Kで6時間、3Tの磁場中および無磁場焼鈍されたFe-0.8at%Sn合金試料中のランダム粒界について、粒界に垂直な方向に沿って測定されたSnの濃度を示した図である。
【図4】磁場印加方向に対して平行および垂直なランダム粒界についてEDS測定を行った結果から、鉄に対する錫の特性X線の強度比を、印加磁場強度の関数として示した図である。
【図6】磁場中焼鈍されたFe-Sn合金の温度77Kにおける破壊靭性値を焼鈍中に印加した磁場の強度に対してプロットした図である。
【図7】偏析脆化の抑制に対する磁場中焼鈍の有用性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料リサイクルにおいて、磁場作用を利用して有害原素の粒界偏析を制御することを特徴とする粒界偏析及び偏析脆化の制御方法。
【請求項2】
前記磁場作用における印加磁場が、磁場強度が3T以上の直流磁場である事を特徴とする請求項1記載の粒界偏析及び偏析脆化の制御方法。
【請求項3】
前記磁場作用の熱処理温度が、鉄鋼の強磁性温度域である事を特徴とする請求項1あるいは2記載の粒界偏析及び偏析脆化の制御方法。
【請求項4】
前記磁場作用の熱処理時間が、6時間以上であることを特徴とする請求項3記載の粒界偏析及び偏析脆化の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−124822(P2006−124822A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318575(P2004−318575)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)