説明

磁場測定装置

【課題】空間分解能の高さを生かし、測定対象物もしくは測定器の移動先を自動的に計測し、基準位置と他の測定データの位置情報に自動的にあわせることで、より簡便に広域の計測を可能とする。
【解決手段】測定テーブル上に配置された測定対象物と、該測定対象物の上部空間に配置された磁束計とで構成され、前記測定対象物の磁束分布を前記磁束計で測定し、その測定結果から前記測定対象物の磁束分布を測定する磁場測定装置において、前記測定テーブルと前記測定対象物間の所定位置に座標を測定するための複数個のマーカを配置し、該複数のマーカの座標測定データを自動的に統合する演算手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場測定装置に関し、磁束計の測定範囲が限られている場合において、磁束計若しくは測定対象物を移動させることにより、より広範な磁束の測定を可能とした磁場測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の超伝導デバイス技術の発展に伴い、超電導量子干渉デバイス(superconductive quantum interference device、以下SQUIDという)を利用した磁束測装置が、医療診断装置として応用されつつある。測定磁束から心疾患や脳機能の解明を行うためには、その発生源である電流源の位置を決定する必要がある。そのためには、測定磁束から電流分布を探すための逆問題を解く必要がある。従って、このような逆問題を高速、かつ、高精度に解くことによって、生体内の活動領域を位置推定することができる生体磁場測定装置が望まれている。
【0003】
図5(a〜c)は従来の磁場測定装置の構成を示す概念図である。これらの図において、(a)図は磁場測定装置の構成を示し、測定テーブル20上に測定対象物3が載置され、その測定対象物から所定距離はなれた上方に磁場測定器(磁束計)が配置された状態を示している。(b)図は磁場計測装置の測定エリアを示すものであり、磁束計の測定可能エリア(ハ)を点線で示している。(c)図は測定エリアを移動させたもので矢印イは磁束計を、矢印ロは測定テーブルを移動した場合を示している。
【0004】
図5の構成において広範囲の磁束測定を行う場合は、以下の手順により行う。
a)基準位置となる任意の場所における測定対象物の磁束を測定する。
b)基準位置より測定対象物もしくは磁場測定器(磁束計)を移動させ、移動させた場所における磁束を測定する。この際一定の移動量を正確に動かすか、メジャー等を用い移動距離を計測する。
c)a)、b)で測定した2つのデータを重ね合わせて表示装置(図示省略)に表示する際、手入力によりその移動距離を入力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−253065号公報
【特許文献2】特開平10−272111号公報
【特許文献3】特開2005−270482号公報
【特許文献4】特開2008−29459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては次のような問題があった。
a)測定対象物3を移動させる場合には、正確にその距離を移動させる必要がある。
b)任意の距離を移動させた場合には、その値を正確に計測する必要がある。
c)空間内の磁束計もしくは測定テーブルを移動した場合、それらの移動量を計測するのは難しい。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたもので、
本発明の磁場測定装置では、信号源推定技術を用いることで、測定対象物から発せられる磁場の発生源、もしくは電流ダイポールの発生座標を1mm単位で推定する。
そして、磁場計測システムにおける、空間分解能の高さを生かし、測定対象物もしくは測定器の移動先を自動的に計測し、基準位置と他の測定データの位置情報に自動的に合わせることで、より簡便に広域の計測を可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を達成するための本発明の生体磁場測定装置は、請求項1においては、
測定テーブル上に配置された測定対象物と、該測定対象物の上部空間に配置された磁束計とで構成され、前記測定対象物の磁束分布を前記磁束計で測定し、その測定結果から前記測定対象物の磁束分布を測定する磁場測定装置において、前記測定テーブルと前記測定対象物間の所定位置に座標を測定するための複数個のマーカを配置し、該複数のマーカの座標測定データを自動的に統合する演算手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の磁場測定装置において、
前記複数個のマーカは測定テーブル上に配置したことを特徴とする。
請求項3においては、請求項1または2に記載の磁場測定装置において、
前記複数個のマーカは所定の間隔を隔てて一定間隔に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1〜3によれば、次のような効果がある。
本発明では、測定テーブル上に所定の間隔を隔てて一定間隔にマーカを配置し、複数のマーカの座標測定データを自動的に統合するようにしたので、複数の測定データを自動的に統合することで、測定部位が測定可能な測定範囲が限られていても、広範囲の磁場の測定を容易に行うことができ、簡便に広域の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の磁場測定装置の一例を示す図である。
【図2】本発明における座標の変換を行うための説明図である。
【図3】本発明における測定結果の再構成を行うための説明図である。
【図4】ヘルメットにマーカを配置した場合の人体頭部の測定状態を示す説明図である。
【図5】従来例による測定データの統合を行うための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1(a、b)は本発明の磁場測定装置の実施形態の一例を示す要部構成説明図である。
図1(a)において、10は磁場測定器(磁束計)であり、一点鎖線で示す矢印ハの範囲の測定を行う。4は測定テーブル20上に配置されたマーカ(座標測定補助器、図では9個)であり、測定テーブル上に所定の間隔を隔てて等間隔に矩形状に配置されている。
【0013】
なお、測定器10には測定部1、メモリ2、制御部6が接続されている。
図1(b)はマーカ4上に測定対象物を配置した状態を示している。(測定部1、メモリ2、制御部6は(b)図では省略している。)実施例ではマーカ4はコイル(銅線の巻き線)で、コイルに電流を流すと、磁場が発生する。磁場測定装置はこの磁場を測定し、磁場発生位置を算出する。図はコイルを表示する為に中央部の中抜きを白はで表示している)。
【0014】
そして、測定位置の確認時にはマーカに電源を入れ、マーカ4のそれぞれの位置を計測する。また、測定対象物の磁場を計測する際にはマーカの電源をOFFにして測定対象物からの磁場を計測する。マーカのサイズは直径1cm程度、厚みは4mmに作製されている。
【0015】
図2(a、b)は測定器10とマーカ4の座標の変換を示す説明図である。
図2(a)において、測定器10を測定テーブル上の測定対象物(図示省略)の任意の位置に配置した状態の測定器の座標を(X0、Y0、Z0)と定義する。そして、そのときのマーカAの座標をAx、Ay、Azと定義する。
次に図2(b)に示す様に座標の変換を行い、測定器10の座標を−Ax、−Ay、−Azと変換し、マーカAの座標を(X0、Y0、Z0)と定義する。
本発明においては、いずれかの点を基準点(中心点)とし、その周りにある基準点の位置を知る必要がある。図2は基準点となるマーカの座標をX0、Y0、Z0とし、その周りにあるマーカの位置を示す図である。
【0016】
図3は測定結果の再構成を行う場合を示す図であり、中心(原点)部分から離れた位置にあるマーカ、そしてそのマーカが測定できる測定器の相対位置を示している。
図3において、マーカ0は原点を示している。マーカAと原点との相対位置(A_Mx等)と図2に示したマーカと測定位置の算出方法で示される座標を求め、これらを合わせることで、測定器10が、マーカA測定時の原点に対する測定器の位置を測定することができる。
なお、複数の座標測定データを自動的に統合する演算手段は市販のソフトウエアをインストールしたパソコン(図示省略)などを使用する。
【0017】
次に測定手順について説明する。
1.測定器10、及び測定テーブル20を任意の位置にセットする。
2.各マーカを順番に励起して磁場を発生させ、同時に測定器にてマーカ位置の測定を行う(即ち、マーカに通電し磁場を作る。このとき、測定器は任意箇所にあってよい。測定器は自身の“測定可能範囲内”に通電されたマーカがある時には、原点からの自身の位置を知ることができる)。
【0018】
3.マーカ位置測定においてその座標が測定可能だった(測定可能範囲内に検出可能なマーカの磁場を検出した)場合には、励起したマーカ番号と、マーカ位置の情報を記録する。即ち、マーカは測定器の測定可能範囲内にあるときしかその位置を知ることができない。マーカAを動かしているとき、測定器がその信号を測定できた場合には測定器はマーカAの近くにあり、相対位置の算出が可能となる。その算出方法としては、
a)励起したマーカと測定結果から測定器位置をその場で算出(リアルタイム処理)
b)測定結果に励起したマーカの情報を付加し、解析時に測定器の位置情報を算出する(オフライン処理)の2つの算出方法のうちいずれかを用いる。)
【0019】
4.測定対象物の任意の空間上に測定器を移動させ、測定対象物が発している磁気の強さを測定する。
5.測定対象物(の磁気の強さ)を測定後、測定対象物を(水平「X、Y」方向に)任意の距離移動させる。
【0020】
6.前記作業2−5を繰り返す(マーカを駆動させ、測定器の位置を計算する作業は毎回行う必要がある。信号の発生源を計算する為には対象物の位置、及び配置されているセンサの位置を知る必要がある)。
7.測定可能であったマーカ座標から測定器の相対座標を求める.
8.各マーカの位置から、各測定における測定器の相対位置を考慮し、測定器を配置する。
測定器の位置は実際に測定器を配置するわけではなく、手順7にて求められた移動後の測定器の位置を、他の測定データに加え、測定結果として使うことが目的である。
正確に信号の発生源を計算する為に、なるべく多くの角度から多くのセンサにて測定を行うことで精度の高い計測が可能となる。
ここで、本発明のメリットは
a)計測するセンサの数が限られている場合、センサをずらし仮想的に計測点数を増やせる。
b)計測器の位置を自由に動かせ、計測対象物に対して自由な位置での計測ができる。
という2点である。
【0021】
磁場はその距離の3乗で減衰するため、測定対象物に対してなるべく近い位置で計測を行った方がよりよい結果が得られる。
しかし、測定器の位置がある程度決まっている場合にはすべての測定器が、測定対象物の近くで計測できる訳ではない。
例えばヘルメット型の脳磁計(頭全体をカバーするようにセンサが配置された脳磁計)においては、ヘルメットの周りにセンサが配置されているが、ヘルメットのサイズを変えることができない為、子供のように頭が小さいと測定部と測定対象物(頭)との距離が離れ、また頭が大きい人の場合にはヘルメットそのものに頭が入らないという問題がある。
本発明では、測定対象物の大きさに関係なくよりよい測定が可能である。
【0022】
9.以下の手順により各測定データを統合することであたかも広範囲の測定が可能な測定器により磁場測定を行ったような測定結果を得ることができる。
1)測定器10にて測定対象物3からの信号を測定し、同時にマーカ4の位置を測定する。
2)メモリ2へは.測定対象物3から得られた信号、及びマーカ4の位置情報が保存される。
3)制御部は複数回の測定をデータ統合を行う。
【0023】
データ統合の計算式は以下のとおりである。
1回目の計測において、計測器の位置に対して、マーカが(X1,Y1,Z1)の位置にあり、2回目の計測において、計測器の位置に対して、マーカが(X2,Y2,Z2)の位置にあったとすると、測定器は、マーカを原点として測定物に対して(−X1,−Y1,−Z1)及び(−X2,−Y2,−Z2)の位置で測定を行った事と同じこととなる。
【0024】
また測定器の測定可能範囲がマーカを含まない場合、他のマーカとの位置関係を用いるが他のマーカを用いる場合には原点となったマーカと、測定可能であったマーカとの相対位置を考慮する。
基準位置となるマーカ(以下、マーカA)とは異なるマーカ(以下、マーカーB)にて測定を行った時、測定器に対するマーカBの位置は(X3,Y3,Z3)とする。
マーカBはマーカAに対してX軸方向にXm、Y軸方向にYm、Z軸方向にZmずらした位置に配置されているならば、本測定における測定器の位置は(−X3+Xm,−Y3+Ym,−Z3+Zm)となる。
【0025】
上述のように、複数の測定データを自動的に統合することで、測定部位が測定可能な測定範囲が限られていても、広範囲の測定を容易に行うことができる。
一般的には測定の原点が測定器とされているが、本発明では測定対象物、もしくは測定テーブル上に配置されたマーカを測定の原点とすること、また測定器と測定対象物の位置関係の算出にマーカを用いる事で、測定器を移動した際の重ね合わせを容易にしている。
【0026】
また、マーカを複数配置し、且つその位置関係を予め計測しておき、位置関係を磁場測定の計算に用いることで、測定器の測定範囲が限られ、基準位置となるマーカ信号を測定できなくとも相対位置の計算が可能となる。
【0027】
図4(a、b)はマーカ4を等間隔にヘルメット(ヘッドギア)に配置した場合を示すもので、このヘルメットを人体頭部6に装着することにより、測定器10を頭部に沿って矢印イ、ロ方向に移動させることにより同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0029】
1 測定部
2 メモリ
3 測定対象物
4 マーカ
6 制御部
10 測定器(磁束計)
20 測定テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定テーブル上に配置された測定対象物と、該測定対象物の上部空間に配置された磁束計とで構成され、前記測定対象物の磁束分布を前記磁束計で測定し、その測定結果から前記測定対象物の磁束分布を測定する磁場測定装置において、前記測定テーブルと前記測定対象物間の所定位置に座標を測定するための複数個のマーカを配置し、該複数のマーカの座標測定データを自動的に統合する演算手段を設けたことを特徴とする磁場測定装置。
【請求項2】
前記複数個のマーカは測定テーブル上に配置したことを特徴とする請求項1に記載の磁場測定装置。
【請求項3】
前記複数個のマーカは所定の間隔を隔てて一定間隔に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁場測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−162210(P2010−162210A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7894(P2009−7894)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】