磁性材料の加熱のための装置及び方法
本発明は作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料100の加熱のための装置10に関し、該装置は、低磁場強度を持つ第1サブ領域301と高磁場強度を持つ第2サブ領域302が作用領域300内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場211を発生させるための選択手段210と、磁性材料100の磁化が局所的に変化するように駆動磁場221を用いて作用領域300内の2つのサブ領域301,302の空間位置を変化させるための駆動手段220と、内接球の中心領域が加熱されるような期間と周波数で内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って第1サブ領域301の空間位置を変化させるように駆動手段220を制御するための制御手段76とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置及び対応方法に関する。さらに、本発明はコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置はWO2004/018039A1から知られ、これは特に磁性若しくは磁化可能物質の磁化を変化させることによる対象の標的領域の局所加熱のためのシステム及び方法を記載する。磁場が生成され、その磁場強度は、低磁場強度の第1サブ領域と、第1サブ領域を囲み高磁場強度を持つ第2サブ領域とが標的領域(作用領域とも呼ばれる)内に形成されるように空間内で変化する。その後、磁化の頻繁な変動のために粒子が所望温度まで加熱されるような期間にわたって、標的領域内の2つのサブ領域の空間位置が所定周波数で変化する。
【0003】
いわゆる磁性粒子イメージング(MPI)装置及び方法が、Gleich,B.and Weizenecker,J.(2005),"Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles"Nature,vol.435,pp.1214‐1217から知られている。この文献に記載の磁性粒子イメージング(MPI)のための装置及び方法は小さな磁性粒子の非線形磁化曲線を利用する。検査領域内の磁化に依存する信号が記録され、この磁化はサブ領域の空間位置の変化によって影響を受けており、検査領域内の磁性粒子の空間分布に関する情報がこれらの信号から抽出され、検査領域の画像が生成されることができるようになっている。こうした装置は、任意の検査対象、例えば人体を、非破壊的な方法でいかなる損傷も生じることなく、高空間分解能で、検査対象の表面付近及び遠隔の両方において検査するために使用されることができるという利点を持つ。
【0004】
Resovist(登録商標)など、MPIでよい信号を与える多くの材料が利用可能である。磁性粒子がAC磁場に反応するために、異なる機構が関与し得る。(1)単磁区粒子の場合のネール回転、(2)幾何ブラウン回転、及び(3)多磁区粒子の場合の磁壁運動。MPIの場合、磁性粒子はネール回転に最適化され、これは外磁場に対する高速応答を可能にし、非線形磁化応答がかなりの数の高調波で分析されることができるようになっている。
【0005】
磁気温熱療法は局所加熱効果をあらわし、これは局所温度が範囲42‐45℃を超える場合腫瘍細胞のアポトーシスをもたらすことができる(熱焼灼)。小線源療法などの他の癌治療法と組み合わせて、局所中程度加熱は組み合わせ法の効果の増加をもたらし得る。局所加熱は腫瘍細胞中若しくはそのすぐ近傍における磁性ナノ粒子の存在によって実現されることができる。磁性ナノ粒子は通常は腫瘍内投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置及び対応方法を提供することであり、これは加熱される中心領域に高度に集束される最適加熱条件を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様において、以下を有する作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置が提示される。
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるための選択手段、
磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて作用領域内の2つのサブ領域の空間位置を変化させるための駆動手段、及び
上記内接球の中心領域が加熱されるような期間と周波数で、上記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するための制御手段。
【0008】
本発明のさらなる態様において、対応方法が提示される。
【0009】
さらに、本発明の別の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに本発明にかかる方法のステップを実行するよう、コンピュータに本発明にかかる装置を制御させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提示される。
【0010】
本発明の好適な実施形態は従属請求項に規定される。請求される方法は、請求される装置及び従属請求項に規定されるものと同様及び/又は同一の好適な実施形態を持つことが理解されるものとする。
【0011】
本発明は以下の考察及び認識に基づく。
【0012】
磁性ナノ粒子を用いて、磁場周波数及び振幅の関数である比出力損失がP(ν,H)=μ0πχ"(ν)H2ν[W/g]から計算されることができ、χ"(ν)は磁性ナノ粒子の磁化率の複素部分をあらわす。熱発生は2つの異なる現象の結果である。
1.磁性粒子内部の磁化のネール反転(熱緩和駆動)
2.流体懸濁液中の磁性粒子のブラウン回転(環境に対する)
【0013】
温熱療法実験で使用される典型的な値は、粒径10‐25nm、周波数400kHz、振幅10kA/mである。
【0014】
温熱療法の問題は、25kHzの操作基本周波数での磁性粒子イメージングとの互換性である。第1の選択肢は単位時間あたりにより多くの熱を発生させるために高周波数に移動することである。しかしこれはMPIが高周波数にスケールすることを必要とし、これは関連粒子におけるより低い有効異方性の必要のために信号生成の損失をもたらす。第2の選択肢は高振幅に移動することであるが、MPIの周波数域、すなわち25kHzの場合、複素磁化率においてブラウン運動の強い寄与があることが知られており、これは最小磁場振幅閾値を超えてすぐには増加しない。さらに、磁気温熱療法は高過ぎる振幅に対してその局所的技術としての能力を失う。全イメージング体積において想定される全磁場スイングは10mTであることが留意されるべきである。従って磁場値は増加するよりもむしろ減少するべきである。
【0015】
このように1点をより長時間'熱'にさらす可能性がある。その結果は2要素から成る。(1)ワークフローの視点から、治療時間がそれに応じて増加する。(2)隣接組織への熱拡散のために、熱供給の局所的側面は弱まり、これはさらに長い治療時間をもたらす低いデューティサイクルでの操作によってしか克服されることができない。
【0016】
本発明は懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に主に依存する。磁性粒子が腫瘍内に供給されることを考えると、無磁場点(FFP;低磁場強度を持つ第1サブ領域に相当する)の空間位置のシーケンスが時間の関数として規定されることができ、これは累積磁気ベクトルを特定領域において、特に中心領域において、協調的に回転させることができる。かかる基本シーケンスは、磁性粒子が存在し、最終的に加熱効果が集束される規定領域の周囲を回転している。加熱出力は粒子の回転周波数に対応する。
【0017】
数kHz乃至数十kHzのオーダーのブラウン緩和に対するデバイ時定数を考えると、これは流体力学的直径(τ=4πηr3/kT)に依存するが、最大加熱出力は類似回転粒子周波数において生成される。興味深い側面は、MPIの基本周波数が同じオーダー、すなわち25kHzであることである。
【0018】
従って、本発明によれば、回転局所加熱シーケンス群(特にMPIの場合、それによって信号検出のための受信手段及び上記検出信号からの画像生成のための処理手段が必ずしも必要ない)が提案され、これは例えば局所癌治療のための非常に局所的な加熱を可能にする。
【0019】
回転シーケンスは時間の関数として無磁場点の空間位置と定義される。この位置が、磁性材料がその原点にある球上に位置するとする。3D空間において無磁場点は、電子がその核の周りを回転するのと同じように磁性材料の周りを'回転する'。磁性材料はここで、連続的に方向を変えている、すなわち無磁場点と反対の方向である定磁場にさらされるという事実のために、磁化ベクトルはこの磁場に整列(しようと)する。有効磁場強度はMPIにおける傾斜磁場及び回転球の半径の関数である。
【0020】
ネール内部再配置とブラウン粒子回転の競争において、両方の自由度が励起され得る。大きな磁心サイズは、高異方性による格子内の磁化ベクトルのフラストレーションのためにブラウン粒子回転を好む傾向を持ち、測定の時間枠内でネール内部再配置を許さない(超常磁性の消失)。結果として最も効率的な熱発生機構が最大限励起されることができる。
【0021】
好適な実施形態において、磁性粒子分析は、化学合成若しくは物理的分画のいずれかから、ブラウン粒子回転を好むように最適化される。これは好適には熱的にブロックされるナノ粒子によって実現される。これの見方は以下の通りである。超常磁性は例えばMRI造影剤の背後にある基本的効果である。
【0022】
磁心直径及び/又は磁気異方性が増加する場合、これは熱エネルギーk.Tと比較される積K.Vに等しい"エネルギー"の増加に物理的に相当するが、磁化が熱的にブロックされ得る。実際、これはネール内部再配置がもはや不可能であり、ブラウン回転が支配することを意味する(ただし動作周波数域がこの基本周波数〜kHzに一致するとことを条件とする)。酸化鉄粒子の場合、この遷移は通常は約20乃至40nmで起こる。大きな粒子の分析、及びかなりの多分散性、すなわち大きな粒子の重要な画分を伴う分析がもたらされることができる。
【0023】
結果として、本発明によれば、MPIは回転シーケンス設計によって局所的に最適加熱条件を提供及び集束させる優れた方法へと変えられている。これは提供されるべき治療における高度の分画を防ぎ、これは最適ワークフローにとって必須である。
【0024】
好適な実施形態によれば、制御手段は、位置の2次元シーケンスに沿って、特に円に沿って、上記内接球の周りで、第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。
【0025】
代替的な実施形態によれば、制御手段は、位置の3次元シーケンスに沿って、特に球にわたって、上記内接球の周りで、第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。
【0026】
2次元軌道の1つの主な利点は、好適にはMPIシステムの配置に一致する面において、2つの電流のみを伴う単純な制御方式である。3次元軌道の1つの主な利点は、円形回転が3次元にわたって調節されることができることである。結果として、任意の磁性材料が無磁場点の経路に沿って存在する場合(従って関心点、すなわち円/球若しくは腫瘍の原点の外側)、この材料の再配向は効果的にデューティサイクルされ、関心点(=腫瘍)の外側で発生する熱が少なくなるようになっている。
【0027】
好適には、制御手段は定角速度で第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。これは単純な実施を可能にする。加えて、磁化ベクトルは定角速度で連続的に回転しており、これは最適加熱効率につながる。
【0028】
さらに、有利な実施形態において、制御手段は1乃至100kHzの範囲、特に10乃至30kHzの範囲の周波数で第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。好適には、システムがイメージングモードから加熱モードへ切り替えられるように、MPIイメージングに適合する周波数が使用される。回転モードの場合、特徴的な時定数は数十マイクロ秒のオーダーであり、これは周波数を数十kHzに制限する。25kHzの範囲の周波数がよい妥協案である。
【0029】
好適な実施形態によれば、磁性粒子の存在は、MPI装置において従来備わっているように、検出信号を取得するための受信手段及び画像を再構成するための処理手段の提供によって、加熱実験の前及び/又は後に画像化されるか若しくは観察されることができる。MPI及び温熱療法における動作周波数、傾斜磁場及び磁場振幅などの機器的側面は、全機能が同じ装置を用いて実行されることができるように、同等になることができる。
【0030】
好適な磁性材料は単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する。さらに好適には、単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子は、リポソーム、ポリマーソーム、又は、疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度の内部体積を持つ小胞の中に包まれ、磁性粒子は内部体積の中に配置される。
【0031】
本発明のこれらの及び他の態様は以下に記載される実施形態を参照して明らかとなり説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】磁性粒子イメージング(MPI)装置の原理レイアウトの略図を示す。
【図2】本発明にかかる装置によって作られる磁力線パターンの一実施例を示す。
【図3】作用領域に存在する磁性粒子の拡大図を示す。
【図4a】かかる粒子の磁化特性を示す。
【図4b】かかる粒子の磁化特性を示す。
【図5】本発明にかかる装置の一実施形態のブロック図を示す。
【図6】2次元シーケンスの一実施例の図を示す。
【図7】3次元シーケンスの一実施例の図を示す。
【図8】3次元シーケンスの別の実施例の図を示す。
【図9】多分散材料のガウス分布を図示する図を示す。
【図10】磁心直径の関数として出力発生を図示する図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1はMPI装置10を用いて検査されるべき任意の対象を示す。図1における参照数字350は、この場合は人若しくは動物の患者である対象をあらわし、患者台351上に配置され、その上端の部分のみが示される。本発明にかかる方法の適用の前に磁性粒子100(図1には示されない)が発明装置10の作用領域300に配置される。特に例えば腫瘍の治療的及び/又は診断的処置の前に、磁性粒子100が、例えば患者350の身体に注入される磁性粒子100を有する液体(図示せず)を用いて、作用領域300に配置される。
【0034】
本発明の一実施形態の一実施例として、その範囲が、処置領域300とも呼ばれる作用領域300の範囲を規定する選択手段210を形成する複数のコイルを有する装置10が図2に示される。例えば、選択手段210は患者350の上及び下に、又はテーブルトップの上及び下に配置される。例えば、選択手段210は第1コイルペア210',210"を有し、各々は2つの同様に構成された巻線210'及び210"を有し、これらは患者350の上及び下に同軸上に配置され、特に逆方向に、等しい電流によって横断される。以下、第1コイルペア210',210"は一緒に選択手段210と呼ばれる。好適にはこの場合は直流が使用される。選択手段210は選択磁場211を発生させ、これは一般に磁力線によって図2にあらわされる傾斜磁場である。これは選択手段210のコイルペアの(例えば垂直)軸の方向に実質的に一定の傾斜を持ち、この軸上の点において値ゼロに達する。この無磁場点(図2には個別に示されない)から始めて、選択磁場211の磁場強度は、距離が無磁場点から増加するので3つの空間方向全てにおいて増加する。第1サブ領域301すなわち無磁場点の周囲の点線で示される領域301において、磁場強度はその第1サブ領域301に存在する粒子100の磁化が飽和しないほど小さく、一方第2サブ領域302(領域301の外側)に存在する粒子100の磁化は飽和状態にある。作用領域300の無磁場点若しくは第1サブ領域301は好適には空間的にコヒーレントな領域である。これはまた点状領域、又は線若しくは平面領域でもあり得る。第2サブ領域302において(すなわち第1サブ領域301の外側の作用領域300の残りの部分において)、磁場強度は粒子100を飽和状態に維持するために十分に強い。作用領域300内の2つのサブ領域301,302の位置を変化させることによって、作用領域300における(全体の)磁化が変化する。作用領域300における磁化若しくは磁化によって影響を受ける物理的パラメータを測定することによって、作用領域内の磁性粒子の空間分布についての情報が得られる。作用領域300における2つのサブ領域301,302の相対空間位置を変化させるために、さらなる磁場、いわゆる駆動磁場221が、作用領域300若しくは少なくとも作用領域300の一部において選択磁場211に重ねられる。
【0035】
図3は本発明の装置10と一緒に使用される種類の磁性粒子100の一実施例を示す。これは例えば、例えばガラスの球状基板101を有し、これは例えば5nmの厚さを持ち例えば鉄‐ニッケル合金(例えばパーマロイ)から成る軟磁性層102を備える。この層は例えば酸などの化学的及び/又は物理的侵食環境に対して粒子100を保護する例えばコーティング層103を用いて覆われ得る。かかる粒子100の磁化の飽和に必要な選択磁場211の磁場強度は、様々なパラメータ、例えば粒子100の直径、磁気層102に対して使用された磁性材料、及び他のパラメータに依存する。
【0036】
例えば10μmの直径の場合、およそ800A/m(1mTの磁束密度に大体対応する)が必要とされ、100μmの直径の場合80A/mの磁場が十分である。さらに小さな値は、低い飽和磁化を持つ材料のコーティング102が選ばれるとき、又は層102の厚さが削減されるときに得られる。
【0037】
好適な磁性粒子のさらなる詳細については、DE10151778の対応部分、特にDE10151778の優先権の利益を主張するEP1304542A2の段落16乃至20及び段落57乃至61が引用によって本明細書に組み込まれる。
【0038】
別の適切な材料は、例えばEP1738773及びEP1738774に記載され、そこにはMPIのために最適化された磁性ナノ粒子、すなわちコロイド酸化鉄ベースのSPIO(すなわち超常磁性ナノ粒子)が記載されている。他の適切な材料は単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する。さらに好適には単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子は、リポソーム、ポリマーソーム、又は疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度を持つ内部体積を持つ小胞の中に包まれ、磁性粒子は内部体積の中に配置される。
【0039】
第1サブ領域301のサイズは一方では選択磁場211の傾斜磁場の強度に、他方では飽和に必要な磁場の磁場強度に依存する。80A/mの磁場強度及び160 103A/m2になる選択磁場211の磁場強度の傾斜磁場(所定空間方向)における磁性粒子100の十分な飽和のために、粒子100の磁化が飽和しない第1サブ領域301は約1mmの寸法を持つ(所定空間方向)。
【0040】
さらなる磁場(以下駆動磁場221と呼ばれる)が作用領域300において選択磁場210(若しくは傾斜磁場210)に重ね合わされると、第1サブ領域301は第2サブ領域302に対してこの駆動磁場221の方向にシフトされる。このシフトの程度は駆動磁場221の強度が増加するにつれて増加する。重ねられた駆動磁場221が時間変化するとき、第1サブ領域301の位置はそれに応じて時間及び空間において変化する。駆動磁場221変動の周波数帯域とは別の周波数帯域(高周波数へシフトされる)において第1サブ領域301に位置する磁性粒子100からの信号を受信若しくは検出することが有利である。これは、駆動磁場221周波数の高調波の周波数成分が、磁化特性の非線形性の結果として作用領域300における磁性粒子100の磁化の変化によって起こるために可能である。
【0041】
空間内の任意の所定方向に対してこれらの駆動磁場221を発生させるために、3つのさらなるコイルペア、すなわち第2コイルペア220'、第3コイルペア220"、及び第4コイルペア220'''が設けられ、以下これらは一緒に駆動手段220と呼ばれる。例えば、第2コイルペア220'は駆動磁場221の成分を発生させ、これは第1コイルペア210',210"すなわち選択手段210のコイル軸の方向に、すなわち例えば垂直にのびる。このため第2コイルペア220'の巻線は同じ方向に等しい電流によって横断される。第2コイルペア220'を用いて得られる効果は、原則的に、電流が一方のコイルにおいて減少し他方のコイルにおいて増加するように、第1コイルペア210',210"における逆向きの等しい電流に対する同じ方向の電流の重ね合わせによっても得られる。しかしながら、特に高い信号対ノイズ比を持つ信号解釈の目的のために、時間的に一定の(若しくは準一定の)選択磁場211(傾斜磁場とも呼ばれる)及び時間的に変化する垂直駆動磁場が、選択手段210及び駆動手段220の個別のコイルペアによって生じるときに有利になり得る。
【0042】
2つのさらなるコイルペア220",220'''は、空間内の異なる方向に、例えば作用領域300(若しくは患者350)の長手方向に水平に、及びそれに垂直な方向にのびる駆動磁場221の成分を発生させるために設けられる。(選択手段210及び駆動手段220のコイルペアのように)ヘルムホルツ型の第3及び第4のコイルペア220",220'''がこの目的のために使用された場合、これらのコイルペアはそれぞれ処置領域の左及び右に、又はこの領域の前及び後ろに配置されなければならない。これは作用領域300すなわち処置領域300のアクセス性に影響を及ぼす。従って、第3及び/又は第4の磁気コイルペア若しくはコイル220",220'''もまた作用領域300の上下に配置され、従ってその巻線構成は第2コイルペア220'のものとは異ならなければならない。しかしながらこの種のコイルは、高周波(RF)コイルペアが処置領域の上下に位置するオープン磁石を持つ磁気共鳴装置(オープンMRI)の分野から知られ、上記RFコイルペアは水平な時間的に変化する磁場を発生させることができる。従って、かかるコイルの構成は本明細書ではさらに詳述される必要がない。
【0043】
本発明にかかる装置10のこの実施形態はさらに、図1に概略的にしか示されていない受信手段230を有する。受信手段230は通常、作用領域300における磁性粒子100の磁化パターンによって誘導される信号を検出することができるコイルを有する。しかしながらこの種のコイルは、例えば信号対ノイズ比をできる限り高くするために作用領域300の周りに高周波(RF)コイルペアが位置する磁気共鳴装置の分野から知られている。従ってかかるコイルの構成は本明細書ではさらに詳述される必要がない。
【0044】
かかる受信手段230は本発明の所望の方法を実行するために必ずしも必要でないことに留意されたい。磁性材料100の加熱に加えてイメージングが望まれる場合のみ、かかる受信手段230が装置に設けられるものとする。
【0045】
図1に示される選択手段210に対する別の実施形態において、傾斜選択磁場211を発生させるために永久磁石(図示せず)が使用されることができる。かかる(対向する)永久磁石(図示せず)の2つの極の間の空間において、図2のものと同様の磁場が、つまり対向する極が同じ極性を持つときに、形成される。本発明にかかる装置の別の代替的実施形態において、選択手段210は少なくとも1つの永久磁石と、図2に描かれるような少なくとも1つのコイル210',210"の両方を有する。
【0046】
選択手段210、駆動手段220及び受信手段230の異なる要素に対して若しくはそれらにおいて通常使用される周波数域は大体以下の通りである。選択手段210によって生じる磁場は経時的に全く変化しないか又は変化が比較的遅く、好適にはおよそ1Hzとおよそ100Hzの間である。駆動手段220によって生じる磁場は好適にはおよそ25kHzとおよそ100kHzの間で変化する。受信手段が感知するはずである磁場変動は好適にはおよそ50kHz乃至およそ10MHzの周波数域である。
【0047】
図4a及び4bは磁化特性、つまり粒子100(図4a及び4bには示されない)の磁化Mの変化を、かかる粒子を有する分散におけるその粒子100の位置における磁場強度Hの関数として示す。磁化Mは磁場強度+Hcより上に、及び磁場強度−Hcより下にはもう変化しないように見え、これは飽和磁化に達したことを意味する。磁化Mは値+Hc及び−Hcの間では飽和しない。
【0048】
図4aは粒子100の位置における正弦波磁場H(t)の効果を図示し、得られる正弦波磁場H(t)の絶対値(すなわち"粒子100によって見られる")は粒子100を磁気的に飽和させるために必要な、すなわちさらなる磁場が活性でない場合における磁場強度よりも低い。この条件の場合の1つ若しくは複数の粒子100の磁化は、磁場H(t)の周波数のリズムにおいてその飽和値の間で往復運動する。得られる磁化の時間変動は図4aの右側に参照記号M(t)で示される。磁化はまた周期的に変化し、かかる粒子の磁化は周期的に反転されるように見える。
【0049】
曲線の中心における線の点線部分は磁化M(t)のおおよその平均変動を正弦波磁場H(t)の磁場強度の関数として示す。この中心線からの逸脱として、磁場Hが−Hcから+Hcへ増加すると磁化は右へわずかに広がり、磁場Hが+Hcから−Hcへ減少すると左へわずかに広がる。この既知の効果はヒステリシス効果と呼ばれ、熱発生の機構の根底にある。曲線の経路の間に形成されるヒステリシス表面積及びその形状とサイズは材料に依存し、磁化の変動による熱発生に対する測度である。
【0050】
図4bは静磁場H1がその上に重ね合わされる正弦波磁場H(t)の効果を示す。磁化は飽和状態にあるので、これは実質的に正弦波磁場H(t)によって影響されない。磁化M(t)はこの領域において時間的に一定のままである。結果として、磁場H(t)は磁化の状態の変化を生じない。
【0051】
図5は図1に示される装置10のブロック図を示す。選択手段210が図5に概略的に示される。好適には、選択手段210は3つの選択磁場発生手段、特にコイル、永久磁石又はコイルと永久磁石の組み合わせのいずれかを備える。上記3つの選択磁場発生手段は好適には各空間方向に対して1つの選択磁場発生手段が設けられるように配置される。一実施形態においてコイルペアが選択磁場発生手段として設けられる場合、コイルペアは制御可能な電源32からDC電流を供給され、上記電源32は制御手段76によって制御される。選択磁場211の傾斜磁場強度を所望の方向に個別に設定するために、重畳電流がコイルペアの少なくとも1つに重ねられ、対向コイルの重畳電流は逆向きである。好適な実施形態において、制御手段76はさらに選択磁場211の3つの空間画分全ての磁場強度の合計と傾斜磁場強度の合計が所定レベルに維持されるように制御する。
【0052】
一実施形態において永久磁石がコイルペアの代わりに選択磁場発生手段として設けられる場合、電源32は例えば電気モータなどの駆動手段32'によって交換される必要があり、これは制御手段76によって提供される制御信号に従って所望の方向に傾斜磁場強度を設定するために永久磁石を機械的に動かすことができる。
【0053】
そして制御手段76は、検査領域内の磁性粒子の分布を表示するためのモニタ13、及び例えばキーボードなどの入力ユニット14に結合されるコンピュータ12に接続される。従ってユーザは最高解像度の所望方向を設定することができ、そしてモニタ13上で作用領域の各画像を受信する。最高解像度が必要とされる重要な方向がユーザによって最初に設定される方向から逸脱する場合、ユーザはそれでも向上した画像解像度でさらなる画像を生成するために手動で方向を変えることができる。この解像度向上過程は制御手段76とコンピュータ12によって自動的に操作されることもできる。この実施形態における制御手段76は自動的に推定される若しくはユーザによって初期値として設定される第1の方向に傾斜磁場を設定する。そして傾斜磁場の方向は、コンピュータ12によって比較される、それによる受信画像の解像度が最大になり、各々それ以上向上しなくなるまで、段階的に変えられる。従って最も重要な方向は、可能な限り最高解像度を受信するために各々自動的に適応されるのがわかる。
【0054】
コイルペア(第2磁気手段)220',220",220'''は電流増幅器41,51,61に接続され、そこから電流を受信する。そして電流増幅器41,51,61は各場合においてAC電源42,52,62に接続され、これは増幅される電流Ix,Iy,Izの時間的経過を規定する。AC電源42,52,62は制御手段76によって制御される。
【0055】
必ずしも必要でないが、受信コイル(受信手段)もまた図5に概略的に示される。受信コイル230において誘導される信号はフィルタユニット71に与えられ、これを用いて信号がフィルタされる。このフィルタリングの目的は、2つの部分領域(301,302)の位置変化によって影響される検査領域内の磁化によって生じる測定値を他の干渉信号から分離することである。このために、フィルタユニット71は例えばコイルペア220',220",220'''が操作される時間周波数よりも小さい、若しくはこれらの時間周波数の2倍よりも小さい時間周波数を持つ信号がフィルタユニット71を通過しないように設計され得る。そして信号は増幅ユニット72を介してアナログ/デジタル変換器73(ADC)へ送信される。アナログ/デジタル変換器73によって生成されるデジタル化信号は画像処理ユニット(再構成手段とも呼ばれる)74へ与えられ、これはこれらの信号と、画像処理ユニット74が制御手段76から得る、各信号の受信中に検査領域内の第1磁場の第1部分領域301がとっていた各位置とから、磁性粒子の空間分布を再構成する。再構成された磁性粒子の空間分布は最後に制御手段76を介してコンピュータ12へ送信され、これはモニタ13上にこれを表示する。
【0056】
WO2004/018039Aにおいてかかる装置(受信手段なし)が対象の領域の局所加熱の適用のために記載されている。その中には特に、第1サブ領域の空間位置がわずかに変えられるとき、第1サブ領域にある粒子、又は第1から第2サブ領域へ若しくはその逆に移動する粒子の磁化が変化することが記載されている。この磁化の変化のために、例えば粒子における既知のヒステリシス効果若しくはヒステリシス状効果のために、又は粒子運動の開始のために、熱損失が起こり、粒子の周囲の媒体の温度は加熱領域において加熱される。磁場の第1サブ領域が標的領域全体を通してシフトされるとき、加熱領域は標的領域に対応する。第1サブ領域が小さい程、可能な限り最小加熱領域のサイズは小さくなる。
【0057】
磁化が一度しか変化しないとき、比較的少量の熱しか生じないので、磁化は複数回変化しなければならない。必要な変化の数、つまり所定時間間隔内の周波数及び加熱領域内の粒子の周囲の媒体の関連温度上昇は、粒子濃度、変化あたりの熱発生量(これ自体が粒子構造及び磁化反転の速度に依存する)、及び加熱領域の周囲の領域内の熱放散に依存する。
【0058】
加熱の適用の一般的態様のさらなる詳細に関してWO2004/018039Aが参照され、それらの一般的態様の記載は引用により本明細書に組み込まれる。
【0059】
既知の加熱効果は主に上記のネール効果を利用する。対照的に、本発明は主に懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に依存する。従って、本発明によれば駆動手段220を制御するための制御手段76は、第1サブ領域301(FFP)の空間位置を、内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って、上記内接球の中心領域が加熱されるような期間と周波数で、変化させるように構成される。これは図6に概略的に図示され、例えば中に腫瘍が位置し、中に磁性材料100が置かれる、中心領域401の周りのFFP301の位置の2次元連続回転シーケンス400を示す。内接球は好適には円形シーケンス400と同じ直径を持つが、もっと小さな直径を持つこともできる(ただしもっと大きな直径は不可)。
【0060】
回転シーケンス400は、AC磁場を重畳した、その無磁場点が磁性材料内の位置にある選択磁場によって、時間の関数として生成される。AC磁場は直交する(90度位相シフト):Hx=Heff cos(ωt);Hy=Heff cos(ωt+π/2)=Heff sin(ωt)、Heffは傾斜選択磁場と、無磁場点の有効時間発展を視覚化する回転円の半径の積に等しい。
【0061】
周波数と有効磁場Heffの組み合わせは最大熱発生のための特定磁性粒子分析に従って最適化されることができる。周波数と有効磁場は特定磁性粒子分析における最大熱発生のために調整されることができる。反対に、そうした粒子を作るように化学物質を調整することは最も難しい。熱発生は有効磁場と周波数の2乗に対応するが、複素磁化率もまた周波数、及びネール/ブラウン再磁化の時定数の関数である。従って1分析おきに最適パラメータが見つけられることが予測される。
【0062】
有効磁場は、システムにおける傾斜磁場、及び無磁場点がそれに沿って周回する内接球の直径によって設定されることに留意されたい。この有効磁場は可能な限り大きくなければならないが、実際には〜5‐10‐20mTに制限される。
【0063】
別の実施形態において、連続3Dシーケンスが使用される。この実施形態において、回転シーケンスは最終的にその無磁場点を球上に置くが、次式で実現される3Dにおける完全な球をカバーする:Hx=Heff cos(ω1t)cos(ω2t);Hy=Heff cos(ω1t)sin(ω2t);Hz=Heff cos(ω2t)、ω1とω2はわずかだけ、例えば1%だけ異なり、Heffは傾斜選択磁場と回転球の半径の積に等しい。
【0064】
再度、周波数と有効磁場Heffの組み合わせは最大熱発生のための特定磁性粒子に従って最適化されることができる。最適化に関する上記コメントがここでも当てはまる。
【0065】
内接特徴が各々円若しくは球に相当する限り、より複雑なシーケンスが2D若しくは3Dで使用されることができる。2つの実施例は図7及び8に描かれるパラメトリック2D及び3D時間経路410,420を含む。パラメトリック経路に含まれる周波数は好適には、送信及び受信フィルタなどの機器における設計面を複雑にしないよう、わずかだけ異なる(上述のω1及びω2と比較する)2つの基本周波数に制限される。結果として、中心401における磁性粒子100の磁化ベクトルの有効トルク(若しくはより一般的に言えば操作)はその位置における有効磁場における変調によって調節される。この自由度は最大熱発生のための有効磁場及び周波数の最適化のための追加パラメータを与える。もう一度、最大熱発生は磁性材料の局所的存在によって作られている潜在的焦点を維持するために必須であることに留意されたい。
【0066】
本明細書に記載の有効デューティサイクルはMPIイメージングのための特定動作周波数に完全には適合しない磁性粒子分析にとって適切であり得る。
【0067】
従って、上記の通り、全軌道に共通した特徴は、腫瘍の位置の周囲に形成される内接球を有するということである。結果としてその位置における任意の磁性材料の磁化が回転特徴を持つ。
【0068】
好適にはシステムがイメージングモードから加熱モードへ切り替えられることができるようにMPIイメージングに適合する周波数が使用される。回転モードの場合、特徴的時定数は数十マイクロ秒のオーダーであり、これは周波数を数十kHzに制限する。従って25kHzはよい妥協案である。
【0069】
円の2Dの場合は位相オフセット(π/2)である同じ周波数を使用する。
極座標r=r;Θ=2πft 等号 x=r cos(2πf.t);y=r cos(2πf.t+π/2)
【0070】
3Dの場合、システムがイメージング及び加熱モードの間で容易に切り替えられるようにMPIイメージングに適合する周波数が好適には使用される。
【0071】
2Dから3Dになる上でのアイデアへの鍵は、全体の加熱が効果的により中心に集束されるように、(FFP局所切り替えによる)円軌道上の任意の追加加熱効果を球軌道全体に拡げることである。円軌道上のこうした追加加熱効果につながる任意の非意図的な再磁化工程はその結果、かかる特定位置における平均熱発生が小さくなるように効果的にデューティサイクルされる。
【0072】
FFPの位置において(存在する場合に限り、そこの磁性材料のネール回転のために)いくらかの加熱効果があるかもしれないことに留意することが重要である。しかしながら、本発明によればFFPの軌道によって形成される円/球内の加熱(すなわち腫瘍の位置における)は、大いにもっと有効である。後者の加熱効果は粒子のブラウン回転による。追加加熱がFFP位置及び軌道において起こるという事実は、中心腫瘍位置からの熱放散を抑制するので実際に有利である。
【0073】
ここで特定の実施例は2つの造影剤の同時使用であり得る。第1の薬剤は静脈注射されるイメージングモードにおけるMPIのための標準血液プール剤であり、第2の方は治療のために例えば腫瘍内投与される。第1の薬剤は腫瘍の位置を強調するために腫瘍の中若しくは付近に存在し、さらにわずかに蓄積し得るが、第2の方は治療の時間枠内において腫瘍内に固定される。この場合第1の薬剤の材料によるいかなる加熱も最小限に抑えられることが重要である。
【0074】
好適には磁性粒子は基本的に非結合であるべきである。これは例えば細胞(アクティブな標的)に固定される粒子は限られた加熱能力を持ち得ることを意味する。しかしながら、自由運動粒子、又はリポソーム若しくは乳液に含まれる粒子は、中に粒子が位置する媒体の粘度が水の粘度に等しい若しくは同様であるという条件で、優れた加熱力を持つ。
【0075】
操作方法の変化(ネール回転ではなくブラウン回転)による別の重要な効果は、磁性材料の多分散性のために(通常は化学合成後に現れる)、ブラウン回転が効果的な加熱のためのサイズ‐周波数の組み合わせに特異的に制限されないことである。図9及び10に示されるグラフは小さな説明を与える。
【0076】
部分分布対磁心直径を図示する、図9に示される多分散材料のガウス分布が想定され、平均20nm及び標準偏差5nmである。X軸は磁心直径Dをナノメートルで示し、Y軸は分布の強度若しくは分率(cfr%)を示す。この分布の下の積分は1=100%に等しいはずである。
【0077】
図10は磁心直径の関数として出力発生を図示する図を示す。X軸は磁心直径Dを示し、Y軸は、所定磁心直径に対する単位密度あたりの出力損失(W/g)と分布の強度の積から計算される単位密度あたりの分数出力損失Plossを示す。曲線の下の積分は材料に対する単位密度あたりの総出力損失(W/g)を与える。3つの曲線はネールのみ、ブラウンのみ、及びその組み合わせ(平均)に対応する。平均という語は後者の場合ネール及びブラウンに対する時定数の計量に関連する。τeff=τNτB/(τN+τB)
【0078】
これが全材料にわたって積分される場合、ブラウン回転の場合における完全磁性材料に対する積分出力密度は大体ネールの場合より一桁分高い、すなわち76W/g対11W/gで、62W/g平均と比較される[飽和磁化Ms=230kA/m/磁場H=10kA/m]。
【0079】
'Magnetism in Medicine',Chapter 4.6/Rosensweig 2002,JMMM 252,370‐74においても見られる基本方程式は、以下の通りである。
【0080】
材料単位重量あたりの磁性材料の損失出力密度は(線形近似で)PN/B=μ0πχ"H2f/ρで与えられ、これは周波数fと印加磁場Hの関数である。式は材料の密度によってスケールされる。
【0081】
磁化率の虚数部は
によって与えられ、体積Viは磁気トルクがかけられる磁心体積を示す。
【0082】
ネール及びブラウンに対する基本時定数は個別に、
によって各々与えられる。
【0083】
磁気異方性K、粘度η及び流体力学的体積Vhiは磁心及びコーティングの寸法を含んでいることに留意されたい。
【0084】
両モードに対して同時に時定数がτeff=τNτB/(τN+τB)として計算されることができる。他の方程式も有効である。
【0085】
本発明は例えば前立腺、乳房若しくは頭部/頸部における異なる癌の治療のための磁気温熱療法若しくは熱焼灼において有利に適用されることができる。これはまた小線源療法、化学療法、放射線療法などの他の癌治療選択肢と組み合わせて適用されることもできる。
【0086】
文献から、かかる手順は通常数分から数十分続く。最も重要なのは温熱療法としての適用であり、2つの基本モードが存在する。いずれか一方は41°‐43℃の高温での適度な加熱を目指し、その間に温熱療法は主によりよい効果のために他の治療を補助することが意図され、又は一方は45°‐47℃での熱焼灼を目指し、健常組織周辺を加熱するリスクを伴う直接細胞死若しくはアポトーシスをもたらす。従って後者の場合高速温度過渡が最も適切になり得る。'期間はどれくらいか'についての単純な答えは、治療がこの高温を必要とする期間となる。例えば、局所小線源療法(前立腺)を支援するために、1時間の分画が使用され、毎週繰り返される。局所治療は高温になり、従ってより短い期間とおそらくは治療のより多くの分画になることが予想される。治療計画に重要なことは時間を制限し得るSAR(比吸収率)である。SARは磁性材料が変調される場所に制限される。MPI及び特に本発明の使用はこの範囲に有利であり、全身変調磁場と比較してより長い治療時間が可能になるようになっている。
【0087】
要約すると、本発明によればMPIのための回転局所加熱シーケンス群が提案され、これは局所癌治療のための非常に局所的な加熱を可能にする。本発明は主に懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に依存する。磁性粒子が腫瘍内に供給されることを考えると、特定領域における累積磁気ベクトルを協調的に回転させることができるシーケンスが設計されることができる。かかる基本的に3Dのシーケンスは磁性粒子が存在する規定領域の周りを回転しなければならず、ここで最終的に加熱効果が集束される。加熱出力は粒子の回転周波数に対応する。
【0088】
本発明は図面と前述の説明において詳細に図示され記載されているが、かかる図示と記載は例示若しくは説明であって限定とはみなされないものとし、本発明は開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態への他の変更は、図面、開示及び添付の請求項の考察から、請求される発明を実践する上で当業者によって理解されもたらされることができる。
【0089】
請求項において、"有する"という語は他の要素若しくはステップを除外せず、不定冠詞"a"若しくは"an"は複数を除外しない。単数の要素若しくは他のユニットが請求項に列挙される複数の項目の機能を満たしてもよい。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実はこれらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。
【0090】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に若しくはその一部として供給される光記憶媒体若しくは固体媒体などの適切な媒体上に保存/配布され得るが、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムなどを介して他の形式でも配布され得る。
【0091】
請求項における任意の参照符号はその範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【技術分野】
【0001】
本発明は作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置及び対応方法に関する。さらに、本発明はコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置はWO2004/018039A1から知られ、これは特に磁性若しくは磁化可能物質の磁化を変化させることによる対象の標的領域の局所加熱のためのシステム及び方法を記載する。磁場が生成され、その磁場強度は、低磁場強度の第1サブ領域と、第1サブ領域を囲み高磁場強度を持つ第2サブ領域とが標的領域(作用領域とも呼ばれる)内に形成されるように空間内で変化する。その後、磁化の頻繁な変動のために粒子が所望温度まで加熱されるような期間にわたって、標的領域内の2つのサブ領域の空間位置が所定周波数で変化する。
【0003】
いわゆる磁性粒子イメージング(MPI)装置及び方法が、Gleich,B.and Weizenecker,J.(2005),"Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles"Nature,vol.435,pp.1214‐1217から知られている。この文献に記載の磁性粒子イメージング(MPI)のための装置及び方法は小さな磁性粒子の非線形磁化曲線を利用する。検査領域内の磁化に依存する信号が記録され、この磁化はサブ領域の空間位置の変化によって影響を受けており、検査領域内の磁性粒子の空間分布に関する情報がこれらの信号から抽出され、検査領域の画像が生成されることができるようになっている。こうした装置は、任意の検査対象、例えば人体を、非破壊的な方法でいかなる損傷も生じることなく、高空間分解能で、検査対象の表面付近及び遠隔の両方において検査するために使用されることができるという利点を持つ。
【0004】
Resovist(登録商標)など、MPIでよい信号を与える多くの材料が利用可能である。磁性粒子がAC磁場に反応するために、異なる機構が関与し得る。(1)単磁区粒子の場合のネール回転、(2)幾何ブラウン回転、及び(3)多磁区粒子の場合の磁壁運動。MPIの場合、磁性粒子はネール回転に最適化され、これは外磁場に対する高速応答を可能にし、非線形磁化応答がかなりの数の高調波で分析されることができるようになっている。
【0005】
磁気温熱療法は局所加熱効果をあらわし、これは局所温度が範囲42‐45℃を超える場合腫瘍細胞のアポトーシスをもたらすことができる(熱焼灼)。小線源療法などの他の癌治療法と組み合わせて、局所中程度加熱は組み合わせ法の効果の増加をもたらし得る。局所加熱は腫瘍細胞中若しくはそのすぐ近傍における磁性ナノ粒子の存在によって実現されることができる。磁性ナノ粒子は通常は腫瘍内投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置及び対応方法を提供することであり、これは加熱される中心領域に高度に集束される最適加熱条件を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様において、以下を有する作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置が提示される。
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるための選択手段、
磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて作用領域内の2つのサブ領域の空間位置を変化させるための駆動手段、及び
上記内接球の中心領域が加熱されるような期間と周波数で、上記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するための制御手段。
【0008】
本発明のさらなる態様において、対応方法が提示される。
【0009】
さらに、本発明の別の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに本発明にかかる方法のステップを実行するよう、コンピュータに本発明にかかる装置を制御させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提示される。
【0010】
本発明の好適な実施形態は従属請求項に規定される。請求される方法は、請求される装置及び従属請求項に規定されるものと同様及び/又は同一の好適な実施形態を持つことが理解されるものとする。
【0011】
本発明は以下の考察及び認識に基づく。
【0012】
磁性ナノ粒子を用いて、磁場周波数及び振幅の関数である比出力損失がP(ν,H)=μ0πχ"(ν)H2ν[W/g]から計算されることができ、χ"(ν)は磁性ナノ粒子の磁化率の複素部分をあらわす。熱発生は2つの異なる現象の結果である。
1.磁性粒子内部の磁化のネール反転(熱緩和駆動)
2.流体懸濁液中の磁性粒子のブラウン回転(環境に対する)
【0013】
温熱療法実験で使用される典型的な値は、粒径10‐25nm、周波数400kHz、振幅10kA/mである。
【0014】
温熱療法の問題は、25kHzの操作基本周波数での磁性粒子イメージングとの互換性である。第1の選択肢は単位時間あたりにより多くの熱を発生させるために高周波数に移動することである。しかしこれはMPIが高周波数にスケールすることを必要とし、これは関連粒子におけるより低い有効異方性の必要のために信号生成の損失をもたらす。第2の選択肢は高振幅に移動することであるが、MPIの周波数域、すなわち25kHzの場合、複素磁化率においてブラウン運動の強い寄与があることが知られており、これは最小磁場振幅閾値を超えてすぐには増加しない。さらに、磁気温熱療法は高過ぎる振幅に対してその局所的技術としての能力を失う。全イメージング体積において想定される全磁場スイングは10mTであることが留意されるべきである。従って磁場値は増加するよりもむしろ減少するべきである。
【0015】
このように1点をより長時間'熱'にさらす可能性がある。その結果は2要素から成る。(1)ワークフローの視点から、治療時間がそれに応じて増加する。(2)隣接組織への熱拡散のために、熱供給の局所的側面は弱まり、これはさらに長い治療時間をもたらす低いデューティサイクルでの操作によってしか克服されることができない。
【0016】
本発明は懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に主に依存する。磁性粒子が腫瘍内に供給されることを考えると、無磁場点(FFP;低磁場強度を持つ第1サブ領域に相当する)の空間位置のシーケンスが時間の関数として規定されることができ、これは累積磁気ベクトルを特定領域において、特に中心領域において、協調的に回転させることができる。かかる基本シーケンスは、磁性粒子が存在し、最終的に加熱効果が集束される規定領域の周囲を回転している。加熱出力は粒子の回転周波数に対応する。
【0017】
数kHz乃至数十kHzのオーダーのブラウン緩和に対するデバイ時定数を考えると、これは流体力学的直径(τ=4πηr3/kT)に依存するが、最大加熱出力は類似回転粒子周波数において生成される。興味深い側面は、MPIの基本周波数が同じオーダー、すなわち25kHzであることである。
【0018】
従って、本発明によれば、回転局所加熱シーケンス群(特にMPIの場合、それによって信号検出のための受信手段及び上記検出信号からの画像生成のための処理手段が必ずしも必要ない)が提案され、これは例えば局所癌治療のための非常に局所的な加熱を可能にする。
【0019】
回転シーケンスは時間の関数として無磁場点の空間位置と定義される。この位置が、磁性材料がその原点にある球上に位置するとする。3D空間において無磁場点は、電子がその核の周りを回転するのと同じように磁性材料の周りを'回転する'。磁性材料はここで、連続的に方向を変えている、すなわち無磁場点と反対の方向である定磁場にさらされるという事実のために、磁化ベクトルはこの磁場に整列(しようと)する。有効磁場強度はMPIにおける傾斜磁場及び回転球の半径の関数である。
【0020】
ネール内部再配置とブラウン粒子回転の競争において、両方の自由度が励起され得る。大きな磁心サイズは、高異方性による格子内の磁化ベクトルのフラストレーションのためにブラウン粒子回転を好む傾向を持ち、測定の時間枠内でネール内部再配置を許さない(超常磁性の消失)。結果として最も効率的な熱発生機構が最大限励起されることができる。
【0021】
好適な実施形態において、磁性粒子分析は、化学合成若しくは物理的分画のいずれかから、ブラウン粒子回転を好むように最適化される。これは好適には熱的にブロックされるナノ粒子によって実現される。これの見方は以下の通りである。超常磁性は例えばMRI造影剤の背後にある基本的効果である。
【0022】
磁心直径及び/又は磁気異方性が増加する場合、これは熱エネルギーk.Tと比較される積K.Vに等しい"エネルギー"の増加に物理的に相当するが、磁化が熱的にブロックされ得る。実際、これはネール内部再配置がもはや不可能であり、ブラウン回転が支配することを意味する(ただし動作周波数域がこの基本周波数〜kHzに一致するとことを条件とする)。酸化鉄粒子の場合、この遷移は通常は約20乃至40nmで起こる。大きな粒子の分析、及びかなりの多分散性、すなわち大きな粒子の重要な画分を伴う分析がもたらされることができる。
【0023】
結果として、本発明によれば、MPIは回転シーケンス設計によって局所的に最適加熱条件を提供及び集束させる優れた方法へと変えられている。これは提供されるべき治療における高度の分画を防ぎ、これは最適ワークフローにとって必須である。
【0024】
好適な実施形態によれば、制御手段は、位置の2次元シーケンスに沿って、特に円に沿って、上記内接球の周りで、第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。
【0025】
代替的な実施形態によれば、制御手段は、位置の3次元シーケンスに沿って、特に球にわたって、上記内接球の周りで、第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。
【0026】
2次元軌道の1つの主な利点は、好適にはMPIシステムの配置に一致する面において、2つの電流のみを伴う単純な制御方式である。3次元軌道の1つの主な利点は、円形回転が3次元にわたって調節されることができることである。結果として、任意の磁性材料が無磁場点の経路に沿って存在する場合(従って関心点、すなわち円/球若しくは腫瘍の原点の外側)、この材料の再配向は効果的にデューティサイクルされ、関心点(=腫瘍)の外側で発生する熱が少なくなるようになっている。
【0027】
好適には、制御手段は定角速度で第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。これは単純な実施を可能にする。加えて、磁化ベクトルは定角速度で連続的に回転しており、これは最適加熱効率につながる。
【0028】
さらに、有利な実施形態において、制御手段は1乃至100kHzの範囲、特に10乃至30kHzの範囲の周波数で第1サブ領域の空間位置を変化させるように駆動手段を制御するのに適している。好適には、システムがイメージングモードから加熱モードへ切り替えられるように、MPIイメージングに適合する周波数が使用される。回転モードの場合、特徴的な時定数は数十マイクロ秒のオーダーであり、これは周波数を数十kHzに制限する。25kHzの範囲の周波数がよい妥協案である。
【0029】
好適な実施形態によれば、磁性粒子の存在は、MPI装置において従来備わっているように、検出信号を取得するための受信手段及び画像を再構成するための処理手段の提供によって、加熱実験の前及び/又は後に画像化されるか若しくは観察されることができる。MPI及び温熱療法における動作周波数、傾斜磁場及び磁場振幅などの機器的側面は、全機能が同じ装置を用いて実行されることができるように、同等になることができる。
【0030】
好適な磁性材料は単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する。さらに好適には、単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子は、リポソーム、ポリマーソーム、又は、疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度の内部体積を持つ小胞の中に包まれ、磁性粒子は内部体積の中に配置される。
【0031】
本発明のこれらの及び他の態様は以下に記載される実施形態を参照して明らかとなり説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】磁性粒子イメージング(MPI)装置の原理レイアウトの略図を示す。
【図2】本発明にかかる装置によって作られる磁力線パターンの一実施例を示す。
【図3】作用領域に存在する磁性粒子の拡大図を示す。
【図4a】かかる粒子の磁化特性を示す。
【図4b】かかる粒子の磁化特性を示す。
【図5】本発明にかかる装置の一実施形態のブロック図を示す。
【図6】2次元シーケンスの一実施例の図を示す。
【図7】3次元シーケンスの一実施例の図を示す。
【図8】3次元シーケンスの別の実施例の図を示す。
【図9】多分散材料のガウス分布を図示する図を示す。
【図10】磁心直径の関数として出力発生を図示する図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1はMPI装置10を用いて検査されるべき任意の対象を示す。図1における参照数字350は、この場合は人若しくは動物の患者である対象をあらわし、患者台351上に配置され、その上端の部分のみが示される。本発明にかかる方法の適用の前に磁性粒子100(図1には示されない)が発明装置10の作用領域300に配置される。特に例えば腫瘍の治療的及び/又は診断的処置の前に、磁性粒子100が、例えば患者350の身体に注入される磁性粒子100を有する液体(図示せず)を用いて、作用領域300に配置される。
【0034】
本発明の一実施形態の一実施例として、その範囲が、処置領域300とも呼ばれる作用領域300の範囲を規定する選択手段210を形成する複数のコイルを有する装置10が図2に示される。例えば、選択手段210は患者350の上及び下に、又はテーブルトップの上及び下に配置される。例えば、選択手段210は第1コイルペア210',210"を有し、各々は2つの同様に構成された巻線210'及び210"を有し、これらは患者350の上及び下に同軸上に配置され、特に逆方向に、等しい電流によって横断される。以下、第1コイルペア210',210"は一緒に選択手段210と呼ばれる。好適にはこの場合は直流が使用される。選択手段210は選択磁場211を発生させ、これは一般に磁力線によって図2にあらわされる傾斜磁場である。これは選択手段210のコイルペアの(例えば垂直)軸の方向に実質的に一定の傾斜を持ち、この軸上の点において値ゼロに達する。この無磁場点(図2には個別に示されない)から始めて、選択磁場211の磁場強度は、距離が無磁場点から増加するので3つの空間方向全てにおいて増加する。第1サブ領域301すなわち無磁場点の周囲の点線で示される領域301において、磁場強度はその第1サブ領域301に存在する粒子100の磁化が飽和しないほど小さく、一方第2サブ領域302(領域301の外側)に存在する粒子100の磁化は飽和状態にある。作用領域300の無磁場点若しくは第1サブ領域301は好適には空間的にコヒーレントな領域である。これはまた点状領域、又は線若しくは平面領域でもあり得る。第2サブ領域302において(すなわち第1サブ領域301の外側の作用領域300の残りの部分において)、磁場強度は粒子100を飽和状態に維持するために十分に強い。作用領域300内の2つのサブ領域301,302の位置を変化させることによって、作用領域300における(全体の)磁化が変化する。作用領域300における磁化若しくは磁化によって影響を受ける物理的パラメータを測定することによって、作用領域内の磁性粒子の空間分布についての情報が得られる。作用領域300における2つのサブ領域301,302の相対空間位置を変化させるために、さらなる磁場、いわゆる駆動磁場221が、作用領域300若しくは少なくとも作用領域300の一部において選択磁場211に重ねられる。
【0035】
図3は本発明の装置10と一緒に使用される種類の磁性粒子100の一実施例を示す。これは例えば、例えばガラスの球状基板101を有し、これは例えば5nmの厚さを持ち例えば鉄‐ニッケル合金(例えばパーマロイ)から成る軟磁性層102を備える。この層は例えば酸などの化学的及び/又は物理的侵食環境に対して粒子100を保護する例えばコーティング層103を用いて覆われ得る。かかる粒子100の磁化の飽和に必要な選択磁場211の磁場強度は、様々なパラメータ、例えば粒子100の直径、磁気層102に対して使用された磁性材料、及び他のパラメータに依存する。
【0036】
例えば10μmの直径の場合、およそ800A/m(1mTの磁束密度に大体対応する)が必要とされ、100μmの直径の場合80A/mの磁場が十分である。さらに小さな値は、低い飽和磁化を持つ材料のコーティング102が選ばれるとき、又は層102の厚さが削減されるときに得られる。
【0037】
好適な磁性粒子のさらなる詳細については、DE10151778の対応部分、特にDE10151778の優先権の利益を主張するEP1304542A2の段落16乃至20及び段落57乃至61が引用によって本明細書に組み込まれる。
【0038】
別の適切な材料は、例えばEP1738773及びEP1738774に記載され、そこにはMPIのために最適化された磁性ナノ粒子、すなわちコロイド酸化鉄ベースのSPIO(すなわち超常磁性ナノ粒子)が記載されている。他の適切な材料は単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する。さらに好適には単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子は、リポソーム、ポリマーソーム、又は疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度を持つ内部体積を持つ小胞の中に包まれ、磁性粒子は内部体積の中に配置される。
【0039】
第1サブ領域301のサイズは一方では選択磁場211の傾斜磁場の強度に、他方では飽和に必要な磁場の磁場強度に依存する。80A/mの磁場強度及び160 103A/m2になる選択磁場211の磁場強度の傾斜磁場(所定空間方向)における磁性粒子100の十分な飽和のために、粒子100の磁化が飽和しない第1サブ領域301は約1mmの寸法を持つ(所定空間方向)。
【0040】
さらなる磁場(以下駆動磁場221と呼ばれる)が作用領域300において選択磁場210(若しくは傾斜磁場210)に重ね合わされると、第1サブ領域301は第2サブ領域302に対してこの駆動磁場221の方向にシフトされる。このシフトの程度は駆動磁場221の強度が増加するにつれて増加する。重ねられた駆動磁場221が時間変化するとき、第1サブ領域301の位置はそれに応じて時間及び空間において変化する。駆動磁場221変動の周波数帯域とは別の周波数帯域(高周波数へシフトされる)において第1サブ領域301に位置する磁性粒子100からの信号を受信若しくは検出することが有利である。これは、駆動磁場221周波数の高調波の周波数成分が、磁化特性の非線形性の結果として作用領域300における磁性粒子100の磁化の変化によって起こるために可能である。
【0041】
空間内の任意の所定方向に対してこれらの駆動磁場221を発生させるために、3つのさらなるコイルペア、すなわち第2コイルペア220'、第3コイルペア220"、及び第4コイルペア220'''が設けられ、以下これらは一緒に駆動手段220と呼ばれる。例えば、第2コイルペア220'は駆動磁場221の成分を発生させ、これは第1コイルペア210',210"すなわち選択手段210のコイル軸の方向に、すなわち例えば垂直にのびる。このため第2コイルペア220'の巻線は同じ方向に等しい電流によって横断される。第2コイルペア220'を用いて得られる効果は、原則的に、電流が一方のコイルにおいて減少し他方のコイルにおいて増加するように、第1コイルペア210',210"における逆向きの等しい電流に対する同じ方向の電流の重ね合わせによっても得られる。しかしながら、特に高い信号対ノイズ比を持つ信号解釈の目的のために、時間的に一定の(若しくは準一定の)選択磁場211(傾斜磁場とも呼ばれる)及び時間的に変化する垂直駆動磁場が、選択手段210及び駆動手段220の個別のコイルペアによって生じるときに有利になり得る。
【0042】
2つのさらなるコイルペア220",220'''は、空間内の異なる方向に、例えば作用領域300(若しくは患者350)の長手方向に水平に、及びそれに垂直な方向にのびる駆動磁場221の成分を発生させるために設けられる。(選択手段210及び駆動手段220のコイルペアのように)ヘルムホルツ型の第3及び第4のコイルペア220",220'''がこの目的のために使用された場合、これらのコイルペアはそれぞれ処置領域の左及び右に、又はこの領域の前及び後ろに配置されなければならない。これは作用領域300すなわち処置領域300のアクセス性に影響を及ぼす。従って、第3及び/又は第4の磁気コイルペア若しくはコイル220",220'''もまた作用領域300の上下に配置され、従ってその巻線構成は第2コイルペア220'のものとは異ならなければならない。しかしながらこの種のコイルは、高周波(RF)コイルペアが処置領域の上下に位置するオープン磁石を持つ磁気共鳴装置(オープンMRI)の分野から知られ、上記RFコイルペアは水平な時間的に変化する磁場を発生させることができる。従って、かかるコイルの構成は本明細書ではさらに詳述される必要がない。
【0043】
本発明にかかる装置10のこの実施形態はさらに、図1に概略的にしか示されていない受信手段230を有する。受信手段230は通常、作用領域300における磁性粒子100の磁化パターンによって誘導される信号を検出することができるコイルを有する。しかしながらこの種のコイルは、例えば信号対ノイズ比をできる限り高くするために作用領域300の周りに高周波(RF)コイルペアが位置する磁気共鳴装置の分野から知られている。従ってかかるコイルの構成は本明細書ではさらに詳述される必要がない。
【0044】
かかる受信手段230は本発明の所望の方法を実行するために必ずしも必要でないことに留意されたい。磁性材料100の加熱に加えてイメージングが望まれる場合のみ、かかる受信手段230が装置に設けられるものとする。
【0045】
図1に示される選択手段210に対する別の実施形態において、傾斜選択磁場211を発生させるために永久磁石(図示せず)が使用されることができる。かかる(対向する)永久磁石(図示せず)の2つの極の間の空間において、図2のものと同様の磁場が、つまり対向する極が同じ極性を持つときに、形成される。本発明にかかる装置の別の代替的実施形態において、選択手段210は少なくとも1つの永久磁石と、図2に描かれるような少なくとも1つのコイル210',210"の両方を有する。
【0046】
選択手段210、駆動手段220及び受信手段230の異なる要素に対して若しくはそれらにおいて通常使用される周波数域は大体以下の通りである。選択手段210によって生じる磁場は経時的に全く変化しないか又は変化が比較的遅く、好適にはおよそ1Hzとおよそ100Hzの間である。駆動手段220によって生じる磁場は好適にはおよそ25kHzとおよそ100kHzの間で変化する。受信手段が感知するはずである磁場変動は好適にはおよそ50kHz乃至およそ10MHzの周波数域である。
【0047】
図4a及び4bは磁化特性、つまり粒子100(図4a及び4bには示されない)の磁化Mの変化を、かかる粒子を有する分散におけるその粒子100の位置における磁場強度Hの関数として示す。磁化Mは磁場強度+Hcより上に、及び磁場強度−Hcより下にはもう変化しないように見え、これは飽和磁化に達したことを意味する。磁化Mは値+Hc及び−Hcの間では飽和しない。
【0048】
図4aは粒子100の位置における正弦波磁場H(t)の効果を図示し、得られる正弦波磁場H(t)の絶対値(すなわち"粒子100によって見られる")は粒子100を磁気的に飽和させるために必要な、すなわちさらなる磁場が活性でない場合における磁場強度よりも低い。この条件の場合の1つ若しくは複数の粒子100の磁化は、磁場H(t)の周波数のリズムにおいてその飽和値の間で往復運動する。得られる磁化の時間変動は図4aの右側に参照記号M(t)で示される。磁化はまた周期的に変化し、かかる粒子の磁化は周期的に反転されるように見える。
【0049】
曲線の中心における線の点線部分は磁化M(t)のおおよその平均変動を正弦波磁場H(t)の磁場強度の関数として示す。この中心線からの逸脱として、磁場Hが−Hcから+Hcへ増加すると磁化は右へわずかに広がり、磁場Hが+Hcから−Hcへ減少すると左へわずかに広がる。この既知の効果はヒステリシス効果と呼ばれ、熱発生の機構の根底にある。曲線の経路の間に形成されるヒステリシス表面積及びその形状とサイズは材料に依存し、磁化の変動による熱発生に対する測度である。
【0050】
図4bは静磁場H1がその上に重ね合わされる正弦波磁場H(t)の効果を示す。磁化は飽和状態にあるので、これは実質的に正弦波磁場H(t)によって影響されない。磁化M(t)はこの領域において時間的に一定のままである。結果として、磁場H(t)は磁化の状態の変化を生じない。
【0051】
図5は図1に示される装置10のブロック図を示す。選択手段210が図5に概略的に示される。好適には、選択手段210は3つの選択磁場発生手段、特にコイル、永久磁石又はコイルと永久磁石の組み合わせのいずれかを備える。上記3つの選択磁場発生手段は好適には各空間方向に対して1つの選択磁場発生手段が設けられるように配置される。一実施形態においてコイルペアが選択磁場発生手段として設けられる場合、コイルペアは制御可能な電源32からDC電流を供給され、上記電源32は制御手段76によって制御される。選択磁場211の傾斜磁場強度を所望の方向に個別に設定するために、重畳電流がコイルペアの少なくとも1つに重ねられ、対向コイルの重畳電流は逆向きである。好適な実施形態において、制御手段76はさらに選択磁場211の3つの空間画分全ての磁場強度の合計と傾斜磁場強度の合計が所定レベルに維持されるように制御する。
【0052】
一実施形態において永久磁石がコイルペアの代わりに選択磁場発生手段として設けられる場合、電源32は例えば電気モータなどの駆動手段32'によって交換される必要があり、これは制御手段76によって提供される制御信号に従って所望の方向に傾斜磁場強度を設定するために永久磁石を機械的に動かすことができる。
【0053】
そして制御手段76は、検査領域内の磁性粒子の分布を表示するためのモニタ13、及び例えばキーボードなどの入力ユニット14に結合されるコンピュータ12に接続される。従ってユーザは最高解像度の所望方向を設定することができ、そしてモニタ13上で作用領域の各画像を受信する。最高解像度が必要とされる重要な方向がユーザによって最初に設定される方向から逸脱する場合、ユーザはそれでも向上した画像解像度でさらなる画像を生成するために手動で方向を変えることができる。この解像度向上過程は制御手段76とコンピュータ12によって自動的に操作されることもできる。この実施形態における制御手段76は自動的に推定される若しくはユーザによって初期値として設定される第1の方向に傾斜磁場を設定する。そして傾斜磁場の方向は、コンピュータ12によって比較される、それによる受信画像の解像度が最大になり、各々それ以上向上しなくなるまで、段階的に変えられる。従って最も重要な方向は、可能な限り最高解像度を受信するために各々自動的に適応されるのがわかる。
【0054】
コイルペア(第2磁気手段)220',220",220'''は電流増幅器41,51,61に接続され、そこから電流を受信する。そして電流増幅器41,51,61は各場合においてAC電源42,52,62に接続され、これは増幅される電流Ix,Iy,Izの時間的経過を規定する。AC電源42,52,62は制御手段76によって制御される。
【0055】
必ずしも必要でないが、受信コイル(受信手段)もまた図5に概略的に示される。受信コイル230において誘導される信号はフィルタユニット71に与えられ、これを用いて信号がフィルタされる。このフィルタリングの目的は、2つの部分領域(301,302)の位置変化によって影響される検査領域内の磁化によって生じる測定値を他の干渉信号から分離することである。このために、フィルタユニット71は例えばコイルペア220',220",220'''が操作される時間周波数よりも小さい、若しくはこれらの時間周波数の2倍よりも小さい時間周波数を持つ信号がフィルタユニット71を通過しないように設計され得る。そして信号は増幅ユニット72を介してアナログ/デジタル変換器73(ADC)へ送信される。アナログ/デジタル変換器73によって生成されるデジタル化信号は画像処理ユニット(再構成手段とも呼ばれる)74へ与えられ、これはこれらの信号と、画像処理ユニット74が制御手段76から得る、各信号の受信中に検査領域内の第1磁場の第1部分領域301がとっていた各位置とから、磁性粒子の空間分布を再構成する。再構成された磁性粒子の空間分布は最後に制御手段76を介してコンピュータ12へ送信され、これはモニタ13上にこれを表示する。
【0056】
WO2004/018039Aにおいてかかる装置(受信手段なし)が対象の領域の局所加熱の適用のために記載されている。その中には特に、第1サブ領域の空間位置がわずかに変えられるとき、第1サブ領域にある粒子、又は第1から第2サブ領域へ若しくはその逆に移動する粒子の磁化が変化することが記載されている。この磁化の変化のために、例えば粒子における既知のヒステリシス効果若しくはヒステリシス状効果のために、又は粒子運動の開始のために、熱損失が起こり、粒子の周囲の媒体の温度は加熱領域において加熱される。磁場の第1サブ領域が標的領域全体を通してシフトされるとき、加熱領域は標的領域に対応する。第1サブ領域が小さい程、可能な限り最小加熱領域のサイズは小さくなる。
【0057】
磁化が一度しか変化しないとき、比較的少量の熱しか生じないので、磁化は複数回変化しなければならない。必要な変化の数、つまり所定時間間隔内の周波数及び加熱領域内の粒子の周囲の媒体の関連温度上昇は、粒子濃度、変化あたりの熱発生量(これ自体が粒子構造及び磁化反転の速度に依存する)、及び加熱領域の周囲の領域内の熱放散に依存する。
【0058】
加熱の適用の一般的態様のさらなる詳細に関してWO2004/018039Aが参照され、それらの一般的態様の記載は引用により本明細書に組み込まれる。
【0059】
既知の加熱効果は主に上記のネール効果を利用する。対照的に、本発明は主に懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に依存する。従って、本発明によれば駆動手段220を制御するための制御手段76は、第1サブ領域301(FFP)の空間位置を、内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って、上記内接球の中心領域が加熱されるような期間と周波数で、変化させるように構成される。これは図6に概略的に図示され、例えば中に腫瘍が位置し、中に磁性材料100が置かれる、中心領域401の周りのFFP301の位置の2次元連続回転シーケンス400を示す。内接球は好適には円形シーケンス400と同じ直径を持つが、もっと小さな直径を持つこともできる(ただしもっと大きな直径は不可)。
【0060】
回転シーケンス400は、AC磁場を重畳した、その無磁場点が磁性材料内の位置にある選択磁場によって、時間の関数として生成される。AC磁場は直交する(90度位相シフト):Hx=Heff cos(ωt);Hy=Heff cos(ωt+π/2)=Heff sin(ωt)、Heffは傾斜選択磁場と、無磁場点の有効時間発展を視覚化する回転円の半径の積に等しい。
【0061】
周波数と有効磁場Heffの組み合わせは最大熱発生のための特定磁性粒子分析に従って最適化されることができる。周波数と有効磁場は特定磁性粒子分析における最大熱発生のために調整されることができる。反対に、そうした粒子を作るように化学物質を調整することは最も難しい。熱発生は有効磁場と周波数の2乗に対応するが、複素磁化率もまた周波数、及びネール/ブラウン再磁化の時定数の関数である。従って1分析おきに最適パラメータが見つけられることが予測される。
【0062】
有効磁場は、システムにおける傾斜磁場、及び無磁場点がそれに沿って周回する内接球の直径によって設定されることに留意されたい。この有効磁場は可能な限り大きくなければならないが、実際には〜5‐10‐20mTに制限される。
【0063】
別の実施形態において、連続3Dシーケンスが使用される。この実施形態において、回転シーケンスは最終的にその無磁場点を球上に置くが、次式で実現される3Dにおける完全な球をカバーする:Hx=Heff cos(ω1t)cos(ω2t);Hy=Heff cos(ω1t)sin(ω2t);Hz=Heff cos(ω2t)、ω1とω2はわずかだけ、例えば1%だけ異なり、Heffは傾斜選択磁場と回転球の半径の積に等しい。
【0064】
再度、周波数と有効磁場Heffの組み合わせは最大熱発生のための特定磁性粒子に従って最適化されることができる。最適化に関する上記コメントがここでも当てはまる。
【0065】
内接特徴が各々円若しくは球に相当する限り、より複雑なシーケンスが2D若しくは3Dで使用されることができる。2つの実施例は図7及び8に描かれるパラメトリック2D及び3D時間経路410,420を含む。パラメトリック経路に含まれる周波数は好適には、送信及び受信フィルタなどの機器における設計面を複雑にしないよう、わずかだけ異なる(上述のω1及びω2と比較する)2つの基本周波数に制限される。結果として、中心401における磁性粒子100の磁化ベクトルの有効トルク(若しくはより一般的に言えば操作)はその位置における有効磁場における変調によって調節される。この自由度は最大熱発生のための有効磁場及び周波数の最適化のための追加パラメータを与える。もう一度、最大熱発生は磁性材料の局所的存在によって作られている潜在的焦点を維持するために必須であることに留意されたい。
【0066】
本明細書に記載の有効デューティサイクルはMPIイメージングのための特定動作周波数に完全には適合しない磁性粒子分析にとって適切であり得る。
【0067】
従って、上記の通り、全軌道に共通した特徴は、腫瘍の位置の周囲に形成される内接球を有するということである。結果としてその位置における任意の磁性材料の磁化が回転特徴を持つ。
【0068】
好適にはシステムがイメージングモードから加熱モードへ切り替えられることができるようにMPIイメージングに適合する周波数が使用される。回転モードの場合、特徴的時定数は数十マイクロ秒のオーダーであり、これは周波数を数十kHzに制限する。従って25kHzはよい妥協案である。
【0069】
円の2Dの場合は位相オフセット(π/2)である同じ周波数を使用する。
極座標r=r;Θ=2πft 等号 x=r cos(2πf.t);y=r cos(2πf.t+π/2)
【0070】
3Dの場合、システムがイメージング及び加熱モードの間で容易に切り替えられるようにMPIイメージングに適合する周波数が好適には使用される。
【0071】
2Dから3Dになる上でのアイデアへの鍵は、全体の加熱が効果的により中心に集束されるように、(FFP局所切り替えによる)円軌道上の任意の追加加熱効果を球軌道全体に拡げることである。円軌道上のこうした追加加熱効果につながる任意の非意図的な再磁化工程はその結果、かかる特定位置における平均熱発生が小さくなるように効果的にデューティサイクルされる。
【0072】
FFPの位置において(存在する場合に限り、そこの磁性材料のネール回転のために)いくらかの加熱効果があるかもしれないことに留意することが重要である。しかしながら、本発明によればFFPの軌道によって形成される円/球内の加熱(すなわち腫瘍の位置における)は、大いにもっと有効である。後者の加熱効果は粒子のブラウン回転による。追加加熱がFFP位置及び軌道において起こるという事実は、中心腫瘍位置からの熱放散を抑制するので実際に有利である。
【0073】
ここで特定の実施例は2つの造影剤の同時使用であり得る。第1の薬剤は静脈注射されるイメージングモードにおけるMPIのための標準血液プール剤であり、第2の方は治療のために例えば腫瘍内投与される。第1の薬剤は腫瘍の位置を強調するために腫瘍の中若しくは付近に存在し、さらにわずかに蓄積し得るが、第2の方は治療の時間枠内において腫瘍内に固定される。この場合第1の薬剤の材料によるいかなる加熱も最小限に抑えられることが重要である。
【0074】
好適には磁性粒子は基本的に非結合であるべきである。これは例えば細胞(アクティブな標的)に固定される粒子は限られた加熱能力を持ち得ることを意味する。しかしながら、自由運動粒子、又はリポソーム若しくは乳液に含まれる粒子は、中に粒子が位置する媒体の粘度が水の粘度に等しい若しくは同様であるという条件で、優れた加熱力を持つ。
【0075】
操作方法の変化(ネール回転ではなくブラウン回転)による別の重要な効果は、磁性材料の多分散性のために(通常は化学合成後に現れる)、ブラウン回転が効果的な加熱のためのサイズ‐周波数の組み合わせに特異的に制限されないことである。図9及び10に示されるグラフは小さな説明を与える。
【0076】
部分分布対磁心直径を図示する、図9に示される多分散材料のガウス分布が想定され、平均20nm及び標準偏差5nmである。X軸は磁心直径Dをナノメートルで示し、Y軸は分布の強度若しくは分率(cfr%)を示す。この分布の下の積分は1=100%に等しいはずである。
【0077】
図10は磁心直径の関数として出力発生を図示する図を示す。X軸は磁心直径Dを示し、Y軸は、所定磁心直径に対する単位密度あたりの出力損失(W/g)と分布の強度の積から計算される単位密度あたりの分数出力損失Plossを示す。曲線の下の積分は材料に対する単位密度あたりの総出力損失(W/g)を与える。3つの曲線はネールのみ、ブラウンのみ、及びその組み合わせ(平均)に対応する。平均という語は後者の場合ネール及びブラウンに対する時定数の計量に関連する。τeff=τNτB/(τN+τB)
【0078】
これが全材料にわたって積分される場合、ブラウン回転の場合における完全磁性材料に対する積分出力密度は大体ネールの場合より一桁分高い、すなわち76W/g対11W/gで、62W/g平均と比較される[飽和磁化Ms=230kA/m/磁場H=10kA/m]。
【0079】
'Magnetism in Medicine',Chapter 4.6/Rosensweig 2002,JMMM 252,370‐74においても見られる基本方程式は、以下の通りである。
【0080】
材料単位重量あたりの磁性材料の損失出力密度は(線形近似で)PN/B=μ0πχ"H2f/ρで与えられ、これは周波数fと印加磁場Hの関数である。式は材料の密度によってスケールされる。
【0081】
磁化率の虚数部は
によって与えられ、体積Viは磁気トルクがかけられる磁心体積を示す。
【0082】
ネール及びブラウンに対する基本時定数は個別に、
によって各々与えられる。
【0083】
磁気異方性K、粘度η及び流体力学的体積Vhiは磁心及びコーティングの寸法を含んでいることに留意されたい。
【0084】
両モードに対して同時に時定数がτeff=τNτB/(τN+τB)として計算されることができる。他の方程式も有効である。
【0085】
本発明は例えば前立腺、乳房若しくは頭部/頸部における異なる癌の治療のための磁気温熱療法若しくは熱焼灼において有利に適用されることができる。これはまた小線源療法、化学療法、放射線療法などの他の癌治療選択肢と組み合わせて適用されることもできる。
【0086】
文献から、かかる手順は通常数分から数十分続く。最も重要なのは温熱療法としての適用であり、2つの基本モードが存在する。いずれか一方は41°‐43℃の高温での適度な加熱を目指し、その間に温熱療法は主によりよい効果のために他の治療を補助することが意図され、又は一方は45°‐47℃での熱焼灼を目指し、健常組織周辺を加熱するリスクを伴う直接細胞死若しくはアポトーシスをもたらす。従って後者の場合高速温度過渡が最も適切になり得る。'期間はどれくらいか'についての単純な答えは、治療がこの高温を必要とする期間となる。例えば、局所小線源療法(前立腺)を支援するために、1時間の分画が使用され、毎週繰り返される。局所治療は高温になり、従ってより短い期間とおそらくは治療のより多くの分画になることが予想される。治療計画に重要なことは時間を制限し得るSAR(比吸収率)である。SARは磁性材料が変調される場所に制限される。MPI及び特に本発明の使用はこの範囲に有利であり、全身変調磁場と比較してより長い治療時間が可能になるようになっている。
【0087】
要約すると、本発明によればMPIのための回転局所加熱シーケンス群が提案され、これは局所癌治療のための非常に局所的な加熱を可能にする。本発明は主に懸濁磁性粒子のブラウン回転自由度に依存する。磁性粒子が腫瘍内に供給されることを考えると、特定領域における累積磁気ベクトルを協調的に回転させることができるシーケンスが設計されることができる。かかる基本的に3Dのシーケンスは磁性粒子が存在する規定領域の周りを回転しなければならず、ここで最終的に加熱効果が集束される。加熱出力は粒子の回転周波数に対応する。
【0088】
本発明は図面と前述の説明において詳細に図示され記載されているが、かかる図示と記載は例示若しくは説明であって限定とはみなされないものとし、本発明は開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態への他の変更は、図面、開示及び添付の請求項の考察から、請求される発明を実践する上で当業者によって理解されもたらされることができる。
【0089】
請求項において、"有する"という語は他の要素若しくはステップを除外せず、不定冠詞"a"若しくは"an"は複数を除外しない。単数の要素若しくは他のユニットが請求項に列挙される複数の項目の機能を満たしてもよい。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実はこれらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。
【0090】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に若しくはその一部として供給される光記憶媒体若しくは固体媒体などの適切な媒体上に保存/配布され得るが、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムなどを介して他の形式でも配布され得る。
【0091】
請求項における任意の参照符号はその範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置であって、
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が前記作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるための選択手段と、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて前記作用領域内の前記2つのサブ領域の空間位置を変化させるための駆動手段と、
前記内接球の前記中心領域が加熱されるような期間と周波数で、前記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御するための制御手段とを有する、装置。
【請求項2】
前記制御手段が、前記内接球の周囲の位置の2次元シーケンスに沿って、特に円に沿って、前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記内接球の周囲の位置の3次元シーケンスに沿って、特に球にわたって、前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御手段が、定角速度で前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御手段が、1乃至100kHzの範囲、特に10乃至30kHzの範囲の周波数で前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記作用領域内の前記磁化に依存する検出信号を取得するための受信手段であって、該磁化は前記第1及び第2サブ領域の前記空間位置の変化によって影響される、受信手段と、
前記取得された検出信号から少なくとも前記中心領域の画像を再構成するための処理手段とをさらに有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
磁性材料が単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
磁性材料が、リポソーム、ポリマーソーム、又は、疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度の内部体積を持つ小胞に包まれる、単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有し、前記磁性粒子は前記内部体積内に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための方法であって、
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるステップと、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて前記作用領域内の前記2つのサブ領域の前記空間位置を変化させるステップと、
前記内接球の前記中心領域が加熱されるような期間と周波数で、前記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように駆動手段を制御するステップとを有する、方法。
【請求項10】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項9に記載の方法のステップを実行するようにコンピュータに請求項1に記載の装置を制御させるためのプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【請求項1】
作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための装置であって、
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が前記作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるための選択手段と、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて前記作用領域内の前記2つのサブ領域の空間位置を変化させるための駆動手段と、
前記内接球の前記中心領域が加熱されるような期間と周波数で、前記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御するための制御手段とを有する、装置。
【請求項2】
前記制御手段が、前記内接球の周囲の位置の2次元シーケンスに沿って、特に円に沿って、前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記内接球の周囲の位置の3次元シーケンスに沿って、特に球にわたって、前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御手段が、定角速度で前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御手段が、1乃至100kHzの範囲、特に10乃至30kHzの範囲の周波数で前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記作用領域内の前記磁化に依存する検出信号を取得するための受信手段であって、該磁化は前記第1及び第2サブ領域の前記空間位置の変化によって影響される、受信手段と、
前記取得された検出信号から少なくとも前記中心領域の画像を再構成するための処理手段とをさらに有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
磁性材料が単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
磁性材料が、リポソーム、ポリマーソーム、又は、疎水性膜によって分離される水の粘度と等しい若しくは同様の粘度の内部体積を持つ小胞に包まれる、単磁区磁性ナノ粒子、特にコロイド的に安定化された単磁区磁性ナノ粒子を有し、前記磁性粒子は前記内部体積内に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
作用領域内の内接球の中心領域に位置する磁性材料の加熱のための方法であって、
低磁場強度を持つ第1サブ領域と高磁場強度を持つ第2サブ領域が作用領域内に形成されるような、その磁場強度の空間内パターンを持つ選択磁場を発生させるステップと、
前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように駆動磁場を用いて前記作用領域内の前記2つのサブ領域の前記空間位置を変化させるステップと、
前記内接球の前記中心領域が加熱されるような期間と周波数で、前記内接球の周囲の位置のシーケンスに沿って前記第1サブ領域の前記空間位置を変化させるように駆動手段を制御するステップとを有する、方法。
【請求項10】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項9に記載の方法のステップを実行するようにコンピュータに請求項1に記載の装置を制御させるためのプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2012−525900(P2012−525900A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509119(P2012−509119)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051699
【国際公開番号】WO2010/128418
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051699
【国際公開番号】WO2010/128418
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
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