説明

磁性粒子に影響を及ぼし、かつ/又は前記磁性粒子を検出する装置並びに方法

本発明は、磁性粒子を含むエアロゾルが導入された対象物内部の空隙のサイズを決定する−具体的には、磁性粒子を含むエアロゾルを吸入した患者の肺胞のサイズを決定する−装置及び方法に関する。前記肺の構造に関する情報を評価するため、磁性粒子イメージングを利用することが提案される。第1及び第2の検出信号は、前記の磁性粒子を含むエアロゾルが対象物に導入された−具体的には前記の磁性粒子を含むエアロゾルが患者によって吸入された−後、各異なる時期に順次取得される。これらの検出信号は、前記空隙内部での磁性粒子の拡散に関する情報を取得し、かつ、前記の磁性粒子の拡散に関する情報から、前記空隙−具体的には肺胞−のサイズについての情報を得るのに利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子を含むエアロゾルが導入された対象物内部の空隙のサイズを決定する装置及び方法に関する。本発明は特に、磁性粒子を含むエアロゾルを吸入した患者の肺胞のサイズを決定する装置及び方法に関する。さらに本発明は、当該方法をコンピュータ上で実行するコンピュータプログラム及び当該装置を制御するコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子イメージング(MPI)は、発展段階にある医療用イメージングモダリティである。MPIの第1版は、2次元像を生成するものだった。将来の版は3次元(3D)である。非静止対象物が単一の3D像についてのデータ取得の間に大きく変化しない場合、その非静止対象物の時間依存−すなわち4D−像は、3D像の時間的シーケンスと動画とを結合することによって生成することができる。
【0003】
MPIは、コンピュータ断層撮像(CT)又は磁気共鳴イメージング(MRI)のような再構成イメージング法である。従って、対象物の関心体積のMP像は2つの手順で生成される。第1手順−データ取得とも呼ばれる−は、MPIスキャナを用いて実行される。MPIスキャナは、静的な勾配磁場−「選択磁場」とも呼ばれる−を有する。静的な勾配磁場は、スキャナのアイソセンターに単一の磁場がゼロの点(FFP)を有する。それに加えてスキャナは、時間依存する空間的にほぼ均一な磁場を発生させる手段を有する。実際この磁場は、迅速に変化する振幅の小さい磁場−「駆動磁場」と呼ばれる−と、ゆっくり変化する振幅の大きな磁場−「集束磁場」と呼ばれる−とを重ね合わせることによって得られる。時間依存する駆動磁場及び集束磁場を静的な選択磁場に加えることによって、FFRは、アイソセンターを取り囲む走査体積を貫く所定のFFP軌道に沿って移動して良い。スキャナはまた、1つ以上−たとえば3つ−の受信コイルの装置を有し、かつこれらのコイル内で誘起された電圧を記録して良い。データを取得するため、可視化される対象物は、その対象物の関心体積−これは走査体積の一部である−がスキャナの視野によって囲まれるようにそのスキャナ内に設けられる。
【0004】
対象物は、磁性ナノ粒子を含まなければならない。対象物が動物又は患者である場合、係る粒子を含むコントラスト剤が、走査を行う前にその動物又は患者に与えられる。データ取得中、MPIスキャナは、走査体積を描く慎重に選ばれた軌道に沿う、又は少なくとも視野に位置する、FFPを進む。対象物内部の磁性ナノ粒子は、変化する磁場を受け、かつその磁場の磁化の変化に応答する。ナノ粒子の磁化が変化することで、受信コイルの各々には時間依存する電圧が誘起される。この電圧は、受信コイルに係る受信機内でサンプリングされる。受信機によって出力されるサンプルは、記録され、かつ取得されたデータを構成する。データ取得の詳細を制御するパラメータは、走査プロトコルを構成する。
【0005】
像生成の第2手順−像再構成とも呼ばれる−では、像は、第1手順で取得されたデータから計算すなわち再構成される。像は、視野内の磁性ナノ粒子の位置に依存する濃度に対するサンプリングされた近似を表す離散的3Dデータのアレイである。再構成は一般的に、適切なコンピュータプログラムを実行するコンピュータによって実行される。コンピュータ及びコンピュータプログラムは、再構成アルゴリズムを実現する。再構成アルゴリムズは、データ取得の数学的モデルに基づいている。全ての再構成イメージング法同様、このモデルは、取得されたデータに作用する積分作用素である。再構成アルゴリズムは、可能な限り、モデルの作用を無効にしようとする。
【0006】
係るMPI装置及び方法は、非破壊で、損傷を引き起こすことなく、任意の被検体−たとえば人体−を、その被検体表面に近くても離れていても高分解能で検査するのに利用できることである。そのような装置及び方法は、特許文献1及び非特許文献1に最初に記載された。非特許文献1に記載された磁性粒子イメージング(MPI)の装置及び方法は、小さな磁性粒子磁化曲線が非線形であるという利点を有する。
【0007】
肺のイメージングでは、MRI(磁気共鳴イメージング)を利用し、かつ適切なMRIシーケンスを適用することによって、肺の拡散係数が決定されて良い。気体の拡散パラメータは、肺の構造のより深い箇所を明らかにすることで、喘息、肺気腫、及び慢性閉塞性疾患についての重要となる可能性のある情報を示すことができる。明示的な拡散係数は、肺表面への平均距離に関連づけられる。よって大きな拡散は、たとえば拡大した肺胞を示唆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】西独国特許第10151778号明細書
【特許文献2】欧州特許第1304542号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/091386号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/091390号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2004/091394号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2004/091395号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2004/091396号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2004/091397号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2004/091398号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2004/091408号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】グレイヒ(Gleich, B.)及びワイゼンネッカー(Weizenecker, J.)、nature誌、第435巻、2005年、pp. 1214-1217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、磁性粒子を含むエアロゾルが導入された対象物内部での空隙のサイズを決定する代替装置及び方法を供することである。
【0011】
本発明の目的とは具体的には、患者の肺胞のサイズを決定する装置及び方法を供することである。当該装置及び方法は、肺構造に関する情報を示すことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1態様では、装置が与えられる。
【0013】
当該装置は:
− 選択磁場信号発生装置と選択磁場を発生させる選択磁場発生素子を有する選択手段であって、前記選択磁場は、該磁場の磁場強度空間内に、低磁場強度を有する第1領域と高磁場強度を有する第2領域が視野内に生成されるようなパターンを有する、選択手段;
− 駆動磁場発生装置と、前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように、駆動磁場によって前記視野内の第1領域と第2領域の空間内での位置を変化させる駆動磁場コイルを有する駆動手段;
− 少なくとも1つの信号受信装置と、検出信号を取得する少なくとも1つの受信コイルを有する受信手段であって、前記検出信号は前記視野内の磁化に依存し、前記磁化は、前記第1領域と第2領域の空間内での位置の変化による影響を受ける、受信手段;並びに、
− 前記エアロゾルの導入後に直接取得される第1検出信号、及び、前記エアロゾル導入後のある期間後に取得された第2検出信号から、前記対象物内部での空隙のサイズを決定する処理手段;
を有する。
【0014】
本発明の他の態様では、対応する方法が与えられる。
【0015】
本発明のさらに他の態様では、コンピュータプログラムが与えられる。当該コンピュータプログラムは、該コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、本発明による方法の工程を実行するように、本発明による装置を、前記コンピュータに制御させるプログラムコード手段を有する。
【0016】
本発明の好適実施例は従属請求項で定義されている。請求項に係る方法とコンピュータプログラムは、請求項に係る装置と同一及び/又は同様な好適実施例並びに従属請求項番号に記載された同一及び/又は同様な好適実施例とを有する。
【0017】
本発明は、MPIが、肺構造−又はより一般的には対象物内部に存在する空隙のサイズ−に関する情報を示す可能性を提供するという考え方に基づいている。そのようなコントラストは、速いブラウン回転機構に起因する大気空間内での信号の発生に基づいて良い。MPIでは、通常ブラウン回転は、液体懸濁物内での信号発生の実効的な機構として排除される。空気の粘性はわずか18μPasなので、水中での磁化速度は50倍よりも大きくなる。従って、異方性があまりに大きくてネール過程が阻止される場合でさえも、大気空間内の磁性粒子を効率的に検出することが可能である。
【0018】
磁性粒子が、肺の表面(より一般的には空隙の壁)に到達するとき、ブラウン回転は阻止され、かつMPI信号(「検出信号」)は消滅する。磁性粒子は、拡散によって肺の表面(空隙の壁)に到達する。拡散の速度は、次式のアインシュタインの式を用いて推定される。
【0019】
【数1】

ここで、xは進行距離で、rは粒径で、ηは媒質の粘性で、kはボルツマン定数で、Tは絶対温度で、tは時間である。たとえば、空気の粘性及び40nmの磁性粒子の直径については、1秒間での平均進行距離xは約50μmである。これは、典型的には50〜250μmの典型的な肺胞の空気の空間と一致する。
【0020】
肺気腫では、空気の空間が拡大する。これはMPIを用いることによって検出可能である。たとえばある実施例では、検出信号の信号減衰時間は、肺胞のサイズに関する情報を得るのに利用される。よってこれは、欠陥が存在するか否かを決定することを可能にする。よって一般的には、ある実施例では、空隙のサイズは、検出信号の信号減衰時間を利用することによって決定されて良い。
【0021】
平均進行距離はかなり短く、かつMPIは非常に迅速に検出信号を検出するので、一般的には、長い時間−たとえば5秒よりも長い時間−呼吸を保持する必要はない。
【0022】
上の議論は、ネール回転が完全に阻止された磁性粒子を仮定した。それでも、わずかな異方性しか有していない磁性粒子が、肺(又は空隙)の表面に付着するとき、検出信号を利用−たとえばある実施例において提案されたように信号形状の変化を利用−することが可能である。従って既存の酸化鉄ナノ粒子(たとえばリゾビスト(Resovist)(登録商標))が、この評価に用いられて良い。磁性粒子は、微細エアロゾルへ噴霧され、かつ本発明による方法の適用前−つまり検出信号を取得するために磁場を印加する前−に患者によって吸入される(より一般的には対象物に導入される)ことが好ましい。
【0023】
前記エアロゾルを生成するため、本発明による装置は、エアロゾル発生装置−より具体的には個々が分かれている複数の磁性粒子を有するエアロゾルを生成する装置−を有する。
【0024】
本発明によると、第1検出信号は、エアロゾルの吸入/導入後直接取得され、かつ、第2検出信号は、エアロゾルの吸入/導入後ある期間後−つまりエアロゾルに含まれる吸入された磁性粒子が、しばらくの間肺胞/空隙内を進行(つまり拡散)した後−に取得される。磁性粒子が、肺の表面/空隙の壁(つまり磁性粒子が進行する肺胞/空隙の表面)にまだ到達しないとき、磁性粒子の粘性は比較的低いため、それらの粒子からは比較的高い検出信号が得られる。しかし磁性粒子が、肺の表面/空隙の壁に到達したときには、磁性粒子の粘性は比較的高いため、それらの粒子からは比較的低い検出信号が得られる。よって、第1検出信号と第2検出信号との間の時間的ギャップが、磁性粒子がある距離を進行するのに十分長い場合には、それらの第1及び第2検出信号から検出信号の差異を決定することができる。
【0025】
本発明は、検出信号の分解能未満のサイズを含む様々なサイズの空隙のサイズを決定するのに用いられて良い。肺胞のサイズの決定に用いられる場合、検出信号の分解能は一般的に、単一の肺胞のサイズよりも大きい。そのような場合、検出信号から再構成された像の単一のボクセルが、一群の肺胞を網羅する。
【0026】
応用領域には、患者の肺胞のサイズを決定する医療用途に加えて、たとえば空隙の平均サイズが所定の閾値未満であること、又は最大サイズを超えていないことを確認するため、試料(たとえば発泡体)内での空隙のサイズを決定する−製造技術も含まれる。他の用途は、バルク製品が如何に小さく包装されているのかを決定する−たとえば包装中に多くの未使用領域が存在するか否かを発見する−ことである。
【0027】
第1検出信号の取得と第2検出信号の取得との間での遅延時間は、空隙内部での媒質の粘性及び空隙のサイズに依存する。肺胞のサイズを測定するための典型的な遅延時間は、1〜5秒である。しかし連続する時間間隔で、3組以上の検出信号を取得することが好ましい。
【0028】
特に肺胞のサイズを決定するには、肺胞の平均サイズが決定されることが好ましい。検査された肺胞の面積に依存して、各対応する肺胞のサイズの閾値は、健康な(小さな)肺胞と不健康な(大きな)肺胞とを差異化するのに用いられる。このようなことは必要である。なぜなら肺胞のサイズ及び存在は肺内部で変化するからである。そのような閾値は一般的に、好適には様々な肺の病気については、前もって得られる。同じことは非医療用途にも当てはまる。非医療用途では、典型的な閾値を決定する上で利用するために典型的な空隙サイズ及び非典型的な空隙サイズに関する情報が得られる。
【0029】
本発明は、検出信号の分解能の未満のサイズを含む様々なサイズの空隙のサイズを決定するのに用いられて良い。肺胞のサイズの決定に用いられる場合、検出信号の分解能は一般的に、単一の肺胞のサイズよりも大きい。そのような場合、検出信号から再構成された像の単一のボクセルが、一群の肺胞を網羅する。ある実施例では、複数の群の肺胞にわたるサイズの平均値を決定することも可能である。好適には、サイズの決定は、肺全体について行われるだけではなく、たとえば欠陥のある肺胞を有する疑いがある場合には、ある領域に限定することも可能である。
【0030】
応用領域には、患者の肺胞のサイズを決定する医療用途に加えて、たとえば空隙の平均サイズが所定の閾値未満であること、又は最大サイズを超えていないことを確認するため、試料(たとえば発泡体)内での空隙のサイズを決定する−製造技術も含まれる。他の用途は、バルク製品が如何に小さく包装されているのかを決定する−たとえば包装中に多くの未使用領域が存在するか否かを発見する−ことである。
【0031】
第1及び第2の検出信号から対象物内部での空隙のサイズ−たとえば患者の肺内部での肺胞のサイズ−を決定するのには様々な可能性がある。一の実施例によると、対象物内部での空隙のサイズは、視野内での所定面積について、第1検出信号と第2検出信号とを比較することによって決定される。たとえば他の実施例で提案されているような信号強度の減衰及び/又は信号減衰時間における所定の差異から、磁性粒子の進行時間に関する情報が得られ、かつ/あるいは、ある期間後の肺(又は対象物)の表面に付着した磁性粒子の割合を推定することができる。それにより、肺胞(又は空隙)のサイズに関する情報、ひいては考えられ得る肺の欠陥に関する情報を得ることが可能となる。
【0032】
処理手段は、決定された信号強度の減衰又は決定された信号減衰時間から、それぞれ強度減衰像及び/又は減衰時間増を生成するように備えられることが好ましい。係る像は、考えられる肺(又は対象物)の欠陥の領域−拡大した肺胞−が存在すること、又は、必要に応じて空隙が大きい(又は小さい)のかについての追加の情報を提供し、かつ視覚的に表示する。
【0033】
他の実施例によると、対象物内部の空隙のサイズは、特に視野内の所定の領域について、第1及び第2の検出信号から第1及び第2の像を生成して、前記第1像と第2像とを比較することによって決定される。よって取得された検出信号は直接的には比較されないが、最初に前記取得された検出信号から像が生成され、その像同士が比較される。第1及び第2の検出信号から生成される像及び/又はそれらの差異の像は表示されることが好ましい。像(又はパターン)認識装置を用いて、像−具体的には差異の像−中の普通ではない領域を自動的に発見することも可能である。
【0034】
一般的には、(最初に像を再構成し、続いてその像を比較し、又は、1つ以上の信号減衰時間若しくは信号強度の減衰から像を生成する)いずれの代替実施例も、同じような価値があり、かつ数学的には等価である。使用者にとっては、最初に像を生成し、続いてその像から重要なパラメータ−たとえば信号減衰時間−を決定することが、より明らかであると考えられる。吸着粒子からも信号を得ることができる場合には、検出信号を利用することがより良いと考えられる。第2(及び他の)信号取得において、吸着する粒子の数は既知なので、検出信号は、(2つのシステム関数−1つはエアロゾル中の粒子についてで、もう1つは吸着粒子についてである−を用いることによって)より良好に適合させることができる。
【0035】
所定の領域−特に肺胞の一部又は全部−のみについてそのような像を決定することも可能である。たとえさらに、他の方法−たとえば他のイメージングモダリティ又は他の診断装置−が使用されることによって、ある領域が欠陥を有している疑いが生じた場合、信号の取得及び/又は信号処理は、時間を節約するため、係る領域に制限されて良い。
【0036】
たとえ本発明が、これまでのところ第1及び第2の検出信号の取得を参照しながら説明されてきたとしても、時間的に連続する瞬間にエアロゾルを吸入した後に取得される複数の検出信号から、対象物内部での空隙のサイズを決定することも可能である。これにより、取得された情報の精度が改善され、かつ検出信号が取得される様々な領域での空隙のサイズのさらなる詳細が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】MPI装置の第1実施例を図示している。
【図2】図1に図示された装置によって生成された選択磁場のパターンの例を図示している。
【図3】MPI装置の第2実施例を図示している。
【図4】本発明によるMPI装置のブロック図を表している。
【図5】健康な肺胞と肺気腫の肺胞を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の詳細について説明する前に、図1乃至4を詳細に参照して磁性粒子イメージングの基礎について説明する。具体的には、医療診断用MPIスキャナに係る2つの実施例について説明する。データ取得に関する簡単な説明も与えられる。2つの実施例の相似性と差異について指摘する。
【0039】
図1に図示されたMPIスキャナの第1実施例は、同軸である複数の平行な環状コイルからなる3つの重要な対12,14,16を有する。各対は、図1に図示されているように配置されている。これらのコイル対12,14,16は、駆動及び集束磁場のみならず選択磁場としても機能する。3つのコイル対12,14,16の軸18,20,22は、相互に直交し、かつMPIスキャナ10のアイソセンター24とも呼ばれる単一の点で交わる。それに加えて、これらの軸18,20,22は、アイソセンター24に係る3Dのx-y-z座標系の軸としての役割を果たす。垂直軸20はy軸で、x軸とz軸は水平軸である。コイル対12,14,16もまた軸にちなんで名付けられる。たとえばyコイル対14は、スキャナの上部及び底部でコイルによって形成される。しかも正(負)のy座標を有するコイルはy+コイル(y-コイル)と呼ばれる。他のコイルも同様である。
【0040】
スキャナ10は、これらのコイル12,14,16の各々に、所定の時間依存する電流をいずれかの方向に流す。電流が、コイルの周りを、このコイルの軸に沿って見たときに時計回りに流れる場合、その電流は正であり、さもなければ負である。静的な選択磁場を生成するため、一定の正の電流ISがz+コイルを流れ、かつ、電流-ISがz-コイルを流れる。よってzコイル対16は、反平行環状コイル対として機能する。
【0041】
一般には勾配磁場である選択磁場が、図2において磁力線50によって表されている。選択磁場は、選択磁場を発生させるzコイル対16の(垂直)z軸22の方向にほぼ一定の勾配を有し、かつ、この軸22上のアイソセンター24でゼロの値に到達する。この磁場の存在しない地点(図2では個別的に図示されていない)から開始すると、磁場の存在しない地点からの距離が増大することで、選択磁場50の磁場強度は、全空間方向において増大する。アイソセンター24の周辺の破線によって表される第1領域52では、磁場強度は小さすぎるので、第1領域52内に存在する粒子の磁化は飽和しない一方で、(領域52の外側である)第2領域54内に存在する粒子の磁化は飽和状態となる。スキャナの視野28の磁場の存在しない地点すなわち第1領域52は、空間的にコヒーレントな領域であることが好ましい。スキャナの視野28の磁場の存在しない地点すなわち第1領域52は、点状領域、線、又は平坦領域であっても良い。第2領域54(つまり第1領域52の外部であるスキャナの視野28の残りの部分)では、選択磁場の磁場強度は、磁性粒子を飽和状態に維持するのに十分な程度に強い。
【0042】
視野28内部で2つの領域52,54の位置を変化させることによって、視野28での(全体的な)磁化は変化する。視野28での磁化又は該磁化によって影響を受ける物理パラメータを測定することによって、視野28での磁性粒子の空間分布についての情報を得ることができる。視野28での2つの領域52,54の相対空間位置を変化させるため、さらなる磁場−つまり駆動磁場−及び印加可能であれば集束磁場が、視野28(の少なくとも一部)内の選択磁場50に重ね合わせられる。
【0043】
駆動磁場を発生させるため、時間依存電流ID1は両方のxコイル12を流れ、時間依存電流ID2は両方のyコイル14を流れ、かつ、時間依存電流ID3は両方のzコイル16を流れる。よって3つのコイル対の各々は、平行な環状コイル対として機能する。同様に、集束磁場を発生させるため、時間依存電流IF1は両方のxコイル12を流れ、時間依存電流IF2は両方のyコイル14を流れ、かつ、時間依存電流IF3は両方のzコイル16を流れる。
【0044】
zコイル対16は特別であることに留意して欲しい。その理由は、zコイル対16は、駆動磁場と集束磁場だけではなく、選択磁場も共有するからである。z±コイルを流れる電流は、ID3+IF3+ISである。残り2つのコイル対12,14を流れる電流は、IDk+IFk, k=1,2である。幾何学形状及び対称性に起因して、3つのコイル対12,14,16は十分に分離している。これは望ましいことである。
【0045】
反平行の環状コイル対によって生成されることで、選択磁場はz軸の周りで回転対称性を有し、かつz成分は、アイソセンター24の周囲の相当な大きさの体積内で、x方向及びy方向とは独立に、z方向においてほぼ線形である。特に選択磁場は、アイソセンターに磁場の存在しない地点(FFP)を有する。対照的に、平行の環状コイル対によって発生する駆動磁場及び集束磁場への寄与は、アイソセンター24の周辺の相当な大きさの体積内で空間的にほぼ均一であり、かつ各対応するコイル対の軸に対して平行である。3つの平行な環状コイル対のすべてによって一つになった状態で発生する駆動磁場及び集束磁場は、空間的にほぼ均一であり、かつ任意の方向及びある最大強度が与えられて良い。駆動磁場及び集束磁場はまた時間依存性を有する。集束磁場と駆動磁場との間の差異は、集束磁場は時間に対してゆっくり変化し、かつ大きな振幅を有する一方で、駆動磁場は、急激に変化し、かつ小さな振幅を有することである。これらの磁場についてそれぞれ異なる足す会をするのには物理的及び生物医学的な理由がある。大きな振幅を有する急激に変化する磁場は、発生させるのが難しく、かつ患者にとって有害である。
【0046】
MPIスキャナの実施例10は、繰り返しになるがx, y, z軸に沿って配向する平行な環状コイルからなる少なくとも1つの別な対−好適には3つの別な対−を有する。図1には図示されていないこれらのコイル対は、受信コイルとして機能する。駆動磁場及び集束磁場についてのコイル対12,14,16と同様に、これらの受信コイル対を流れる一定電流によって発生する磁場は、視野内で空間的にほぼ均一で、かつ各対応するコイル対の軸に対して平行である。受信コイルは、十分分離していると考えられる。受信コイル内に誘起される時間依存電圧は、このコイルに取り付けられた受信機によって増幅及びサンプリングされる。より厳密には、この信号の非常に大きなダイナミックレンジに応えるため、受信機は、受信信号と参照信号との間の差異をサンプリングする。受信機の伝達関数は、CDから、予想された信号レベルが雑音レベル未満に落ち込む地点までゼロではない。
【0047】
図1に図示されたMPIスキャナの実施例10は、z軸22に沿った−つまり選択磁場の軸に沿った−円筒形ボア26を有する。すべてのコイルは、このボアの外側に設けられている。データ取得のため、イメージング(又は処置)される患者(又は対象物)は、ボア26内に設けられることで、患者の関心体積−イメージング(又は処置)される患者(又は対象物)の体積−は、スキャナの視野28−スキャナがイメージングすることが可能なスキャナの内容物の体積−内に収まっている。患者(又は対象物)はたとえば、患者台上に設けられている。視野28は、ボア26の内部で、幾何学的に単純な等中心の体積−たとえば立方体、球体、又は円筒−である。立方体の視野28が図1に図示されている。
【0048】
第1領域52のサイズが選択磁場の勾配強度に依存する一方で、飽和に必要な磁場の磁場強度にも依存する。80A/mの磁場強度で磁性粒子を十分に飽和させ、かつ50×103A/m2に達する選択磁場の磁場強度の(所与の空間方向での)勾配のため、粒子の磁化が飽和しない第1領域52は、(所与の空間方向で)約1mmの寸法を有する。
【0049】
患者の関心体積は、磁性ナノ粒子を含んでいると考えられる。特にたとえば腫瘍の診療上の処置を行う前に、磁性粒子は、たとえばその磁性粒子を有する液体を、患者(対象物)の体に注入するか、さもなければたとえば口を通じて患者に与えることによって、関心体積内に設けられる。
【0050】
磁性粒子の実施例はたとえば、厚さ5nmの鉄−ニッケル合金(たとえばパーマロイ)で構成される軟磁性層が供されたガラス製の球状基板を有する。この層はたとえば、化学的及び/又は物理的に侵襲性の環境−たとえば酸−から粒子を保護するコーティング層によって覆われて良い。磁性粒子の磁化の飽和に必要な選択磁場50の磁場強度は、様々なパラメータに依存する。様々なパラメータとはたとえば、粒径、磁性層に用いられた磁性材料、及び他のパラメータである。たとえば粒径が10μmの場合では、約800A/mの磁場(ほぼ1mTの磁束密度に相当する)が必要となる。他方、粒径が100μmの場合では、低飽和磁化を有する材料のコーティングが選ばれるとき、又は層の厚さが減少するときに、さらに小さな値が得られる。一般的に使用可能な磁性粒子は、リゾビスト(Resovist)(登録商標)の名前で市販されている。
【0051】
一般的に使用可能な磁性粒子及び粒子の組成物に関するさらなる詳細については、特許文献2乃至10を参照のこと。
【0052】
データ取得は、時間tsで始まって時間teで終了する。データ取得中、xコイル対12、yコイル対14、及びzコイル対16は、位置と時間に依存する磁場、印加磁場を発生させる。これは、コイルに適切な電流を流すことによって実現される。効果として、駆動磁場及び集束磁場は選択磁場を周囲から押し、それによりFFPは、走査体積−視野の上位集合−を描く事前に選択されたFFP軌道に沿って移動する。印加磁場は、患者内の磁性ナノ粒子を配向させる。印加磁場が変化することで、その結果として生じる磁化も変化する。ただし磁化は印加磁場に対して非線形の応答を示す。変化した印加磁場及び変化した磁化の総和は、xk軸に沿って、受信コイル対の端部にわたって時間依存電圧Vkを誘起する。前記受信コイル対に係る受信機は、この電圧を信号Sk(t)に変換する。信号Sk(t)はサンプリングされて出力される。
【0053】
駆動磁場変化の周波数帯域以外の(より高い周波数へシフトする)別な周波数帯域において、第1領域52内に位置する磁性粒子からの信号を検出することは有利である。これは可能である。その理由は、駆動磁場周波数の高調波成分が、磁化特性が非線形である結果として、スキャナの視野28内での磁性粒子の磁化の変化に起因して生じるためである。
【0054】
図1に図示された第1実施例10と同様に、図3に図示されたMPIスキャナの第2実施例30は、環状でかつ互いに直交する3つのコイル対32,34,36を有する。しかしこれらのコイル対32,34,36は、選択磁場と集束磁場しか発生させない。繰り返しになるが選択磁場を発生させるzコイル36は強磁性材料37で充填されている。この実施例30のz軸42が垂直に配向する一方で、x軸38とy軸40は水平方向に配向する。スキャナのボア46は、x軸38に平行であるため、選択磁場の軸42に対して垂直である。駆動磁場は、x軸38に沿ったソレノイド(図示されていない)及び残り2つの軸40,42に沿ったサドルコイルの対(図示されていない)によって発生する。これらのコイルは、ボアを構成する管の周囲で巻かれている。駆動磁場コイルもまた受信コイルとして機能する。受信コイルが拾う信号は、印加磁場によって生じる寄与を抑制する高パスフィルタを介して送られる。
【0055】
係る実施例の典型的なパラメータをいくつか与えるため、選択磁場Gのz方向での勾配の強度G/μ0は2.5T/mである。ここでμ0は真空での透磁率である。発生した選択磁場は、時間が経過しても全く変化しないし、その変化は比較的ゆっくり−好適には約1Hz〜約100Hz−している。駆動磁場の周波数の時間変化スペクトルは、約25kHz(最大で約100kHz)周辺の狭い帯域に集中する。受信された信号の有用な周波数スペクトルは、50kHz〜1MHz(最大でも約10MHz)に存在する。ボアは120mmの直径を有する。ボア46に適合する最大の立方体48は、120mm/√2≒84mmの端部長さを有する。
【0056】
上の実施例で示したように、同一コイル対のコイル及びこれらのコイルに適切に発生した電流を供することによって、様々な磁場を発生させることが可能である。しかし、特に高S/N比の信号の解釈が目的であれば、時間的に一定(又は擬似的に一定)の選択磁場及び時間的に変化する駆動磁場と集束磁場が、各分離したコイル対によって発生するときに有利となりうる。一般的には、ヘルムホルツ型のコイル対がこれらのコイルに用いられて良い。ヘルムホルツ型のコイル対は、たとえば開磁石(オープンMRI)を備える磁気共鳴装置の分野では既知である。オープンMRIでは、高周波(RF)コイル対が関心領域の上下に設けられ、かつ、前記RFコイルは、時間変化する磁場を発生させることができる。従って係るコイルの構成について、これ以上ここでは説明する必要はない。
【0057】
選択磁場の発生に係る代替実施例では、永久磁石(図示されていない)が用いられて良い。そのような(対向した)永久磁石(図示されていない)の2つの極間の空間内では、図2に図示された磁場−つまり対向する極が同一の極性を有するとき−と同様の磁場が形成される。他の代替実施例では、選択磁場は、少なくとも1つの永久磁石と少なくとも1つのコイルの結合体によって生成されて良い。
【0058】
図4は、本発明によるMPI装置10の一般的なブロック図を表している。上述した磁性粒子イメージング及び磁気共鳴イメージングの一般的原理は有効で、かつ、特に特定されない限り、この実施例にも同様に適用可能である。
【0059】
図4に図示された装置100の実施例は、所望の磁場を発生させる一組の様々なコイルを有する。最初に、コイル及びMPIにおけるコイルの機能について説明する。
【0060】
上で説明した選択(勾配)磁場を発生させるため、一組の選択磁場(SF)コイル116−好適には少なくとも一対のコイル素子−を有する選択手段が供される。選択手段は、選択磁場信号発生装置110をさらに有する。選択磁場コイルの組116の各コイル素子(又はコイル素子の各対)に別個の発生装置が供される。前記選択磁場発生装置110は、制御可能な選択磁場電流源112(一般的には増幅器を含む)、及び、選択磁場電流を各対応する部分の磁場コイル素子に供することで、所望の方向において選択磁場の勾配強度を個別的に設定するフィルタ装置114を有する。DC電流が供されることが好ましい。選択磁場コイル素子が対向するコイルとして−たとえば対向する視野に−配置される場合、対向するコイルの選択磁場電流は対向するように流れることが好ましい。
【0061】
選択磁場信号発生装置110は、制御装置150によって制御される。制御ユニット150は、選択磁場電流の発生110を制御することで、磁場強度の総和と選択磁場の全ての空間部分の勾配強度が、所定のレベルに維持されることが好ましい。
【0062】
集束磁場を発生させるため、装置100は、一組の集束磁場(FF)コイル−好適には対向するように配置された集束磁場コイル素子126a,126b,126cの3つの対−を有する集束手段をさらに有する。集束磁場コイルは、集束磁場信号発生装置120によって制御される。好適には集束磁場信号発生装置120は、前記一組の集束磁場コイルの各コイル素子(又は少なくともコイル素子の各対)についての各独立した集束磁場信号発生装置を有する。前記集束磁場信号発生装置120は、集束磁場電流源122(好適には電流増幅器を有する)、及び、集束磁場を発生させるのに用いられるコイル126a,126b,126cの組の各対応するコイルに集束磁場電流を供するフィルタ装置124を有する。集束磁場信号発生装置120も制御装置150によって制御される。
【0063】
駆動磁場を発生させるため、装置100は、駆動磁場(DF)コイルの組を有する駆動手段をさらに有する。好適には駆動磁場(DF)コイルの組は、3つの対向するように配置された駆動磁場コイル素子の対136a,136b,136cを有する。駆動磁場コイルは駆動磁場信号発生装置130によって制御される。好適には駆動磁場信号発生装置130は、前記一組の駆動磁場コイルの各コイル素子(又は少なくともコイル素子の各対)についての各独立した駆動磁場信号発生装置を有する。駆動磁場信号発生装置130は、駆動磁場電流源41(好適には電流増幅器を有する)、及び、各対応する駆動磁場コイルに駆動磁場電流を供するフィルタ装置42を有する。駆動磁場電流源41も制御装置150によって制御される。
【0064】
信号を検出するため、受信手段148−具体的には受信コイル−、及び、前記受信手段148によって検出される信号を受信する信号受信装置140が供される。前記信号受信装置140は、受信された検出信号をフィルタリングするフィルタ装置142を有する。このフィルタリングの目的は、他の干渉信号から、検査領域内での磁化によって生じ、かつ2つの部分領域(52,54)の位置変化によって影響を受ける測定値を分離することである。この目的のため、フィルタ装置142の設計はたとえば、受信コイル148が動作する時間周波数又はこれらの時間周波数の2倍よりも低い時間周波数を有する信号が、フィルタ装置142を通過しないようなものであって良い。続いて信号は、増幅器144を介して、アナログ/デジタル変換器146(ADC)へ伝送される。アナログ/デジタル変換器146によって生成されたデジタル化された信号は、像処理装置(再構成手段とも呼ばれる)152へ供給される。像処理装置152は、これらの信号及びこれらの信号に対応する位置から磁性粒子の空間分布を再構成する。これらの信号に対応する位置は、各対応する信号を受信する間には、検査領域内において、第1磁場の第1領域52内に存在すると推定され、かつ、像処理装置152が、制御装置150から得る位置である。磁性粒子の再構成された空間分布は最終的には、制御手段150を介してコンピュータ154へ伝送される。コンピュータ154は、前記空間分布をモニタ156上に表示する。よって、検査領域の視野内の磁性粒子の分布を示す像を表示することができる。
【0065】
さらに入力装置158−たとえばキーボード−が供される。従って使用者は、最高分解能の所望の方向を設定することが可能で、その設定後モニタ156上での作用領域の像を受信する。最高分解能が必要な重要な方向が、使用者によって設定された方向からずれている場合、その使用者は、分解能が改善された別な像を生成するため、方向を手動で変化させて良い。この分解能の改善処理もまた、制御装置150及びコンピュータ154によって自動的に行われて良い。本実施例の制御装置150は、勾配磁場を、自動的に推定され、又は使用者によって開始値として設定された第1方向に設定する。受信像の分解能−これはコンピュータ154によって比較される−が最大となり、これ以上改善されなくなるまで、勾配磁場の方向はステップ状に変化する。従って最高の可能な分解能を受信するため、最も重要な方向が発見され、自動的に適用することができる。
【0066】
以降では、患者の肺の中の肺胞のサイズ(又は少なくとも平均サイズ)を決定(又は少なくとも推定)する実施例に基づいて、本発明の詳細を説明する。しかし本発明は、その実施例に限定されないし、肺胞のサイズの決定にも限定されない。
【0067】
磁性粒子を含むエアロゾルを吸入した患者の肺胞のサイズを決定するため、コンピュータ(又はより一般的には処理手段)154が、エアロゾルの吸入後直接取得される第1検出信号及びエアロゾルの吸入後のある期間後に取得された第2検出信号から、肺胞のサイズを決定するように構成される。よって制御装置150は、様々な信号発生手段110,120,130を制御して、各対応するコイル116,126,136へ適切な制御電流を生成及び提供する。それによりコイル116,126,136は磁場を発生させ、その磁場によって、磁場の存在しない地点(FFP)52(つまり第1領域)は、視野28内の関心領域を貫通する所定の軌道に沿って移動する。このようにFFP52が移動する間、後でコンピュータ154によって処理される検出信号が取得される。このFFPの移動は少なくとも2回、好適には同一の軌道に沿って行われる。検出信号は、同一の関心領域(及び好適には関心領域内の同一の位置)から少なくとも2回取得される。それにより、第1FFPの移動及び信号取得は、エアロゾルの吸入後直ちに又は短時間で行われ、かつ、第2FFPの移動及び信号取得は、第1FFPの移動及び信号取得後、短時間(たとえば1〜5秒)行われる。好適には、信号取得は吸入中に開始され、かつ、第1データ組(又はその第1データ組から再構成された像)は、第1(参照)データ組として用いられる。肺の検出信号の全データ組を取得するためには、0.5〜1秒で十分である。
【0068】
本発明は、吸入されたエアロゾルが、吸入後に肺胞内部で拡散することが可能な非常に小さな磁性ナノ粒子を含むという考え方に基づいている。磁性ナノ粒子が肺胞の表面に到達する場合、その磁性ナノ粒子は、表面に付着したままで、以前の肺胞内部で拡散する状態よりも低い粘性を有する。しかしこのことは、高い検出信号を得ることができる肺胞内部で自由に拡散する磁性粒子と比較して、肺胞の表面に付着する磁性粒子からは、低い検出信号が放出(及び受信コイル148によって検出)されることを意味する。
【0069】
この知識は、磁性粒子の吸入後すぐに様々な瞬間で取得される少なくとも2組の検出信号を評価することにより、本発明で利用される。磁性粒子の少なくとも一部が既に肺胞表面に付着しているときには、第2検出信号が必要とされるので、低い信号強度が予想される。しかし信号強度及び/又は信号減衰時間の減少量は、肺胞のサイズに依存する。特に、肺気腫のように肺胞が拡大する場合、磁性粒子が肺胞表面にまで拡散するまでの時間は長くなる。一方この時間は小さな(健康な)肺胞では短い。換言すれば、大きな拡散と遅い信号遅延時間が存在する場合、これは、肺胞の拡大、つまり肺気腫の示唆である。
【0070】
よってコンピュータ154は、たとえば検出信号−具体的には信号減衰時間及び/又は信号強度−を比較することによって、取得された検出信号を適切に評価するように構成される。2組の検出信号から別個に像を決定し、その後欠陥の存在する肺胞を有する領域に関する情報を与えることのできる差異像を生成することが可能である。
【0071】
前述したように、本発明は、肺気腫が存在するか否かを決定するのに用いられて良い。図5に図示されているように、肺気腫の肺胞(図5b)は、健康な肺胞(図5a)と比較して拡大している。
【0072】
本発明はさらに、肺気道が炎症を起こす(腫れる)喘息、又は、気道及び気嚢が弾性的を失い、多くの気嚢間の壁が傷つき、気道の壁が厚くなり、かつ炎症を起こし(腫れ)、かつ/あるいは、気道が通常よりも粘液を作り、気道を妨げようとする、慢性閉塞性疾患(COPD)に患者が苦しんでいるのか否かを判断するのに用いられて良い。
【0073】
本発明を用いることによって、COPDの示唆を与える中空構造−たとえば肺胞−の平均サイズに関する情報を得ることが可能となる。肺胞の増大を示すことができなかった、換気しない又は換気が遅れる領域、又は、他の方法によって得られる−硬化を参照のこと−肺の移動プロファイルに関するさらなる情報と共に、改善された診断又は診療の制御が可能となる。よって本発明の主な効果は、肺胞−又はより一般的には対象物中の空隙−の(平均)サイズを決定する能力を供することである。
【0074】
最も単純な実施例において二組の検出信号が、エアロゾルの吸入後に連続して必要とされる(各組は軌道に沿ったFFPの移動中に取得される)一方で、連続してより多くの組の検出信号を取得する−たとえば10の検出信号を200ms毎に取得する−ことも可能である。これにより、より多くの情報が供され、かつ到達する結果の精度が改善される。
【0075】
(非常に)細かい磁性粒子を含むエアロゾルは、噴霧処理によって生成されて良い。理想的には、各独立した粒子しか存在しない。従って、高圧装置又は電子噴霧機構が用いられて良い。細かい粒子の生成を支援するため、1つの液滴に1つの粒子しか存在しないように十分低い初期圧力が用いられる場合には有利となる。水は、乾燥気体と混合させて、体温にまで加熱することによって蒸発される。細かい噴霧を実現するため、多量の空気が蒸発に必要となる結果、粒子濃度が非常に低くなる恐れがある。この問題は、向心力によって回転する空気の渦内にエアロゾル粒子を集中させることによって解決することができる。
【0076】
明示的な拡散係数は、取得された検出信号−たとえば大気空間中での検出信号の減衰及び変化−を評価するコンピュータプログラムを用いて計算されることが好ましい。あるいはその代わりに、信号減衰の時定数が直接プロットされても良い。
【0077】
上で示したように、本発明は、換気測定に用いられることを提案している。磁性ナノ粒子の懸濁物のエアロゾル−具体的にはナノスプレー−は、肺中での拡散を評価するため、患者によって吸入されなければならない。適切な磁性粒子を用いることによって、エアロゾル及び吸着粒子の符号変化を可視化することができる。明示的な拡散係数は、エアロゾル吸入後順次取得される検出信号を評価することによって計算される。たとえば肺組織内で粒子が吸着する毎の時定数が決定されて良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を含むエアロゾルが導入された対象物内部の空隙のサイズを決定する装置であって:
選択磁場信号発生装置と選択磁場を発生させる選択磁場発生素子を有する選択手段であって、前記選択磁場は、該磁場の磁場強度空間内に、低磁場強度を有する第1領域と高磁場強度を有する第2領域が視野内に生成されるようなパターンを有する、選択手段;
駆動磁場発生装置と、前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように、駆動磁場によって前記視野内の第1領域と第2領域の空間内での位置を変化させる駆動磁場コイルを有する駆動手段;
少なくとも1つの信号受信装置と、検出信号を取得する少なくとも1つの受信コイルを有する受信手段であって、前記検出信号は前記視野内の磁化に依存し、前記磁化は、前記第1領域と第2領域の空間内での位置の変化による影響を受ける、受信手段;並びに、
前記エアロゾルの導入後に直接取得される第1検出信号、及び、前記エアロゾル導入後のある期間後に取得された第2検出信号から、前記対象物内部での空隙のサイズを決定する処理手段;
を有する装置。
【請求項2】
前記処理手段が、特に前記視野内の所定領域について、前記第1検出信号と前記第2検出信号とを比較することによって、前記対象物内部の空隙のサイズを決定するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記処理手段が、特に前記視野内の所定領域について、前記第1検出信号と前記第2検出信号との比較から、前記信号強度の減衰を決定することによって、前記対象物内部の空隙のサイズを決定するように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理手段が、特に前記視野内の所定領域について、前記第1検出信号と前記第2検出信号との比較から、前記信号の減衰時間を決定することによって、前記対象物内部の空隙のサイズを決定するように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記処理手段が、前記の決定された信号強度の減衰若しくは信号の減衰時間から、それぞれ強度の減衰像及び/又は減衰時間像を生成するように構成される、請求項3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記処理手段が、特に前記視野内の所定領域について、前記第1検出信号と前記第2検出信号から第1像と第2像を生成することによって、前記対象物内部の空隙のサイズを決定し、かつ、前記第1像と前記第2像とを比較するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記処理手段が、特に前記視野内の所定領域について、前記第1像と前記第2像との間での位置に依存する差から差異像を生成するように構成される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記所定領域が単一の空隙又は空隙の群である、請求項2乃至7のうちいずれか1つに記載の装置。
【請求項9】
前記処理手段が、前記エアロゾルの導入後、時間的に連続する瞬間に取得された複数の検出信号から、前記対象物内部の空隙のサイズを決定するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
磁性粒子を含むエアロゾルを生成するエアロゾル生成装置をさらに有する請求項1に記載の装置であって、前記磁性粒子は、特に前記エアロゾル内で個々に分かれている装置。
【請求項11】
磁性粒子を含むエアロゾルが導入された対象物内部の空隙のサイズを決定する方法であって:
選択磁場発生装置と選択磁場発生素子を有する選択手段によって選択磁場を発生させる手順であって、前記選択磁場は、該磁場の磁場強度空間内に、低磁場強度を有する第1領域と高磁場強度を有する第2領域が視野内に生成されるようなパターンを有する、手順;
駆動磁場発生装置と駆動磁場コイルを有する駆動手段によって、前記磁性材料の磁化が局所的に変化するように、駆動磁場によって前記視野内の第1領域と第2領域の空間内での位置を変化させる手順;
少なくとも1つの信号受信装置と、検出信号を取得する少なくとも1つの受信コイルを有する受信手段によって検出信号を取得する手順であって、前記検出信号は前記視野内の磁化に依存し、前記磁化は、前記第1領域と第2領域の空間内での位置の変化による影響を受ける、手順;並びに、
前記エアロゾルの導入後に直接取得される第1検出信号、及び、前記エアロゾル導入後のある期間後に取得された第2検出信号から、前記対象物内部での空隙のサイズを決定する手順;
を有する方法。
【請求項12】
コンピュータ上で実行されるときに、前記コンピュータに、請求項1に記載の装置を制御させることで、請求項11に記載の方法を実行するプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2012−533387(P2012−533387A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521127(P2012−521127)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053182
【国際公開番号】WO2011/010243
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】