説明

磁性粒子回収装置、磁性粒子回収方法

【課題】磁性粒子の回収を高効率で行うことが可能であって、かつ耐久性も高い磁性粒子回収装置、及び磁性粒子回収方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁性粒子回収装置1は、磁性粒子31を捕獲して回収する磁性粒子回収装置1であって、複数枚の磁性金網15を積層して焼結した焼結金網フィルター11と、焼結金網フィルター11に対して磁気照射のON−OFFが可能な磁気照射手段20とを備える。焼結金網フィルター11は、空隙部が多数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子を回収する磁性粒子回収装置、及び磁性粒子回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子は、機能性粒子として脚光を浴びており、種々の分野において応用展開が図られている。医用分野においては、病巣部を磁場環境下とし、製剤に含有する磁性粒子の集積特性を利用して薬物を送達する薬物送達システム(ドラックデリバリーシステム)が近年注目を集め、種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。また、抗原、又は抗体に磁性粒子を標識した磁性標識体を用いて、検体の検査等を行う技術も提案されている(例えば、特許文献2〜4)。
【0003】
磁性粒子を機能性分子として利用するに際しては、磁性粒子を回収する技術も重要となる。また、磁性粒子と結合している物質と磁性粒子とを分離する技術も必要となる。
【0004】
非特許文献2には、磁性粒子を回収する方法として、チューブの外壁に磁石を当てて、チューブ内壁に磁性粒子を集積させる方法が提案されている。図8A〜図8Fに、非特許文献2に開示された磁性粒子の集積方法の説明図を示す。図8Aに示す初期サンプル100に対し、抗体101を添加してインキュベートし(図8B参照)、次いで、平衡化した磁性粒子(ビーズ)102を添加してインキュベートする(図8C参照)。その後、標的タンパク質と磁性粒子102を磁石103によって集め(図8D参照)、標的タンパク質104を溶出する(図8E参照)。これらの工程を経て、磁性粒子が回収される。
【0005】
図9に、非特許文献3に記載された磁性粒子回収方法の説明図を示す。非特許文献3においては、磁性ファイバー202を詰めたカラム201の外壁に磁石204を当て、磁気勾配を利用して磁性粒子203を集積させる方法が開示されている。
【0006】
非特許文献4においては、磁性粒子を回収する技術ではないが、以下のようなフィルターが提案されている。図10に、非特許文献4に開示された焼結フィルターの模式的説明図を示す。この焼結フィルター301は、指定した孔径より大きい物質302をフィルター301によりトラップし、孔径より小さい物質303だけを通すものであり、粒度を揃えた金属粉をカーボン、又はステンレス鋼の型に充填し、型ごと還元雰囲気中で高温焼結することにより製造されたものである。
【0007】
特許文献5においては、フィルターなどに適した窒化鉄系多孔質焼結体が提案されている。具体的には、鉄粉末、若しくは鉄合金粉末、又はこれらの圧粉末を適宜の方法で窒化し、必要に応じて焼結処理することにより製造するフィルターが提案されている。また、特許文献6においては、軟磁性粉末がお互いに磁気ギャップを形成するように焼結されたフィルター材が提案されている。より詳細には、磁界を印加することによって磁化可能な軟磁性金属粉末をお互いに磁気ギャップを形成するように焼結してフィルターを形成する。このフィルターによれば、通常のフィルターの開口径に依存する粒子のトラップに加えて、磁気的に磁性粉末をトラップすることが可能となり、液体やガスに含まれるフィルターの細孔径以下の磁性粉末も捕捉できる旨が記載されている。
【0008】
また、特許文献7においては、アモルファス合金細線からなる軟磁性材料の金網でフィルターを構成し、この金網を磁化することによって磁性体である金属粉末をトラップする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−215572号公報
【特許文献2】特開昭63−302367号公報
【特許文献3】特開2005−315677号公報
【特許文献4】特開2007−139538号公報
【特許文献5】特開平5−51686号公報
【特許文献6】特開平9−47615号公報
【特許文献7】特開昭56−38116号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Namiki, Y. et al. Nature Nanotechnology, 2009, 4, 598 - 606
【非特許文献2】"磁気ビーズ"、[online]、日本ミリポア株式会社、[平成23年3月22日検索]、インターネット(http://www.millipore.com/catalogue/module/C77625)
【非特許文献3】"焼結フィルター"、[online]、技研パーツ株式会社、[平成23年3月22日検索]、インターネット(http://giken-parts.com/fil.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
磁性粒子を機能性粒子として利用するに際しては、前述したように、磁性標識体をはじめとする磁性粒子を高効率で回収する技術が重要となる。また、抗原や細胞等と磁性粒子とから形成された複合体粒子から、磁性粒子を分離する技術も重要となる。磁性粒子の集積率、及び回収率の両者の高効率化を実現する磁性粒子回収装置を提供できれば、磁性粒子の機能性粒子としての応用展開をさらに促進することが期待できる。また、信頼性の高い磁性粒子回収装置を提供するためには耐久性を高めることも重要となる。
【0012】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、磁性粒子の回収を高効率で行うことが可能であって、かつ耐久性も高い磁性粒子回収装置、及び磁性粒子回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る磁性粒子回収装置は、磁性粒子を捕獲して回収する磁性粒子回収装置であって、複数枚の磁性金網を積層して焼結した焼結金網フィルターと、前記焼結金網フィルターに対して磁気照射のON−OFFが可能な磁気照射手段とを備える。前記焼結金網フィルターは、空隙部が多数形成されている。
【0014】
本発明に係る磁性粒子回収装置によれば、濾過法と磁気照射手段を併用して、磁性粒子を捕獲して回収するので、操作性がよい。しかも、磁気照射手段のON−OFFにより、焼結金網フィルターの空隙部で磁性粒子を捕獲−放出制御できるので、効率よく磁性粒子を回収することができる。また、磁性金網を積層することにより、磁気吸着効率を高めることができる。また、磁性金網を積層しているので、また、これを焼結しているので、積層した磁性金網が外力でずれたり、形状変形したりするのを防止し、耐久性の高い磁性粒子回収装置を提供することができる。
【0015】
本発明に係る磁性粒子回収方法は、磁性粒子を捕獲して回収する磁性粒子回収方法であって、前記磁性粒子を含む流体を、磁性金網を積層して焼結した焼結金網フィルターによって濾過する工程と、前記磁性粒子を回収する工程とを備える。前記濾過する工程は、前記焼結金網フィルターに対して磁気照射しながら行い、前記磁性粒子を回収する工程は、前記磁気照射をオフしながら行うステップを含むものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁性粒子の回収を高効率で行うことが可能であって、かつ耐久性も高い磁性粒子回収装置、及び磁性粒子回収方法を提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】第1実施形態に係る磁性粒子回収装置の模式的上面図。
【図1B】図1AのIB−IB切断部断面図。
【図2A】第1実施形態に係る磁性金網の模式的上面図。
【図2B】第1実施形態に係る焼結金網フィルターの模式的側面図。
【図3A】第1実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図3B】第1実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図3C】第1実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図4A】第2実施形態に係る磁性粒子回収装置の模式的上面図。
【図4B】図4AのIVB−IVB切断部断面図。
【図5A】第2実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図5B】第2実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図6A】第3実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図6B】第3実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図6C】第3実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図6D】第3実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図7A】第4実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図7B】第4実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図7C】第4実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図7D】第4実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図8A】非特許文献2に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図8B】非特許文献2に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図8C】非特許文献2に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図8D】非特許文献2に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図8E】非特許文献2に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図9】非特許文献3に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【図10】非特許文献4に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、以降の実施形態及び実施例において、同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0019】
[第1実施形態]
図1Aは、第1実施形態に係る磁性粒子回収装置の一例を説明するための模式的上面図、図1Bは、図1AのIB−IB切断部断面図である。磁性粒子回収装置1は、同図に示すように焼結金網フィルター11、筺体12、支持部13、プレフィルター17、磁気照射手段20等を備える。筺体12は、底面が開口した円筒体により構成されている。支持部13は、焼結金網フィルター11を保持する機能を担っており、筺体12の内壁に円周状に形成されている。焼結金網フィルター11は、着脱自在に筺体12内の支持部13上に設置されている。なお、筺体12及び支持部13の形状は、任意に変更可能である。焼結金網フィルター11の形状も任意に変更可能である。
【0020】
焼結金網フィルター11は、少なくとも複数枚の磁性金網を積層して焼結したものからなり、空隙部が多数形成されている。磁性金網を積層して焼結した焼結金網フィルター11を用いることにより、剛性、耐久性を高めることができる。また、磁性粒子の捕獲効率を高めることができる。なお、焼結金網フィルター11の洗浄性や焼結金網フィルター11の交換容易性の観点から、焼結金網フィルター11を筺体12に対して着脱自在とする構成が好ましい。また、支持部13を設けずに、筺体12の内壁に焼結金網フィルター11を嵌合させる溝部などを設けてもよい。
【0021】
プレフィルター17は、焼結金網フィルター11の前段、すなわち、焼結金網フィルター11の上方に設置されており、濾過対象流体より粗大粒子を除去する役割を担う。従って、焼結金網フィルター11の空隙部よりも目の粗いフィルターからなる。目詰まりの心配がない場合には、プレフィルター17は省略し、焼結金網フィルター11の表面で粗大粒子をカットしてもよい。プレフィルター17と焼結金網フィルター11とは、図1Bのように離間して配置してもよいし、積層して配置してもよい。
【0022】
図2Aは、1枚の磁性金網15の一例を示す模式的上面図であり、図2Bは、焼結金網フィルター11の模式的側面図である。図2Aの例においては、2次元の網目構造を有する磁性金網15の例を説明しているが、1枚の磁性金網15の形状としては、公知のものを制限なく利用することができる。磁性金網15は、3次元の網目構造であってもよい。空隙部16の径は、例えば、ミリメートルからナノメートルのスケールのオーダーである。また、空隙部16の密度も、用途に応じて任意に設計可能である。磁性金網15の空隙部16の径は、深さ方向に一定の場合の他、深さ方向に径が大きくなる等、任意に設計可能である。
【0023】
焼結金網フィルター11は、少なくとも磁性金網15が複数枚積層されたものからなる。図2Bの例においては、磁性金網15が14枚積層された例を示しているが、積層枚数は、2枚以上であればよく、用途や目的に応じて決定すればよい。焼結金網フィルター11の磁性金網15の積層枚数は、磁気吸着効率の向上の観点からは、10〜50枚の範囲が好ましい。磁性金網15の1枚の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mm〜3mm程度である。
【0024】
焼結金網フィルター11は、適宜、機械的強度を補強するための磁性を有さない層を補強層として磁性金網15の間に挿入してもよい。磁性を有さない金網を積層して強度等を補強することも可能である。また、焼結金網フィルター11とは別体の多孔質のガラスフィルター等の支持体を焼結金網フィルター11の底部に配設し、強度を補強することも可能である。
【0025】
磁性金網15の材料としては、磁気照射手段20により磁気特性を発揮する材料であれば特に限定されない。例えば、マグネタイト(Fe)、マグヘマイト(Fe)、一酸化鉄(FeO)、窒化鉄、鉄(Fe)、ニッケル、コバルト、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等が挙げられる。高い磁気誘導特性を有する磁気異方性の高い材料が好ましい。好ましい材料としては、耐食性の高い、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレスなど磁性をもつステンレス、FePtなどを挙げることができる。磁性金網15の材料としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、磁性特性を有さない材料が含まれていてもよい。
【0026】
磁性粒子回収装置1は、焼結金網フィルター11の空隙部により磁気照射手段20の磁力を利用して磁性粒子を捕獲する。従って、捕獲する磁性粒子に応じて、適切な空隙部のサイズを選定する。磁性金網15の積層方法は、空隙部16が互いに一致するように積層してもよいし、空隙部16の位置をずらして3次元の網目構造を形成するようにしてもよい。空隙部16のサイズを任意に変更した磁性金網15を積層してもよい。具体例としては、上部ほど空隙部16のサイズが大きくなるように磁性金網15を積層する焼結金網フィルターや、空隙部16のサイズの大きい磁性金網15と小さい磁性金網15を交互に積層する焼結金網フィルターなどが挙げられる。なお、焼結金網フィルター11の空隙部は、磁性金網15を積層して焼結することによって得られるので、通常、磁性金網15の空隙部16より若干開口径が小さくなる。
【0027】
磁性金網を2枚以上積層して焼結した焼結金網フィルター11のセットを複数用意して、これを重ねて筺体12に設置することも可能である。焼結金網フィルター11のセットを複数重ねることによって、目詰まりしてしまった場合に、容易に分解して洗浄することが可能となる。
【0028】
磁性金網15の製造方法は、公知のものを制限なく利用することができる。例えば、磁性細線を編み込んで磁性金網を製造したり、コイル状の細線同士を熱融着することにより製造することができる。コイル状の細線同士を熱融着することにより磁性金網を製造する場合には、接触面積を大きくすることができるので、磁性粒子の吸着面を大きくすることができるという優れた効果がある。
【0029】
磁性金網15の精度(寸法安定性)、形状安定性を考慮すると、金型により製造することが好ましい。金型成型の場合、空隙部、空隙部の密度、磁性金網の厚み等を自在に設計可能であるというメリットがある。金型を用いる場合、例えば、磁性粒子、若しくは溶融した磁性粒子を金型に入れて成型加工し、固化した後に金型から取り出すことにより製造することができる。固化処理は、溶融や焼結後に冷却することによって得られる。なお、磁性金網15を製造後に、熱融着工程、圧入工程、焼結工程等を追加してもよい。
【0030】
焼結金網フィルター11は、前述している通り、焼結することにより得ることができる。例えば、複数枚の磁性金網15を積層し、真空中で高温焼結することにより得られる。これにより、磁性金網が完全に溶けず、空隙部16の少なくとも一部を保ちつつ、一部を熱融着させることができる。焼結することにより、積層した磁性金網15の外力によるずれや、形状変形を防止できる。すなわち、焼結工程を施すことによって、焼結金網フィルター11の剛性を高めることができる。
【0031】
磁気照射手段20は、筺体12の外部側壁において焼結金網フィルター11と対向する領域に形成されている。第1実施形態においては、枠体状に磁気照射手段20を設ける構成としているが、焼結金網フィルター11に対して磁気を照射可能であれば、その形状や設置位置は問わない。磁気照射手段20は、磁石、シールド手段を有する。シールド手段は、磁力遮蔽部材により構成する。これにより、磁石の磁力線に指向性を付与させることが可能となる。なお、磁気照射手段20としては、磁石を有していればよく、シールド手段を具備していなくてもよい。
【0032】
磁石は、その種類や形状は特に限定されない。例えば、電磁石、超電導磁石、永久磁石を用いることができる。電磁石を用いて電圧、若しくは電流を可変させることにより磁場を変化させてもよい。さらに、磁気勾配を付与する工夫を施してもよい。磁気照射手段20の小型化を実現する観点からは、永久磁石を用いることが好ましい。永久磁石の種類は、特に限定されるものではないが、一例として、フェライト、Ne−Fe−B合金、サマリウム−コバルト合金を挙げることができる。また、抗原抗体反応検出プレート自体の少なくとも一部をゴム磁石などの磁石で構成してもよい。強力な磁力を要する場合には、Ne−Fe−B合金が好ましい。
【0033】
シールド手段は、前述したように、磁石の磁界発生方向に指向性を付与するためのシールド機能を有する。シールド手段は、例えば、ヨーク(継鉄)により構成する。無論、シールド機能を有する材料であればこれに限定されるものではない。シールド手段を設けることにより、磁石の焼結金網フィルター11に対する磁力を増強し、他の部分の磁力の大幅な減衰を実現することができる。焼結金網フィルター11に磁力が付与されるように、シールド手段を配設することによって、焼結金網フィルター11に対して効率的に磁力を付与することができる。
【0034】
また、筺体12と磁石の間に、着脱自在なシールド板を取り付け可能なように設置してもよい。これにより、焼結金網フィルター11への磁気照射のオン、オフを制御することが可能となる。また、電磁石からなる磁石を筺体12に固設させ、電気のオン、オフにより、磁力線の発生をオン、オフ可能なように構成してもよい。
【0035】
次に、第1実施形態に係る磁性粒子回収方法について説明する。まず、回収したい磁性粒子が含有された濾過対象流体を用意する。濾過対象流体は、磁性粒子を含む液体、ガス等の流体とする。磁性粒子は、その名称の如く、磁性を有する粒子を含有する粒子であれば特に限定されない。磁性粒子と磁性を有さない粒子が結合した複合体粒子であってもよい。捕獲する磁性粒子の粒径に応じて、最適な空隙部16を有する焼結金網フィルター11を適宜選定する。
【0036】
図3A〜図3Cは、第1実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図である。まず、濾過工程を行う。磁気照射手段20により焼結金網フィルター11に対して磁気照射しつつ、濾過対象流体30を筺体12内に供給する(図3A参照)。分散液が焼結金網フィルター11を浸透しやすくするために、例えば0.01〜1.0MPa程度に加圧してもよい。濾過対象流体30は、磁性金網フィルター11に浸透し、空隙部サイズよりも小さい非磁性粒子33及び溶媒が濾液34として得られる(図3B参照)。一方、空隙部サイズよりも小さい磁性粒子31は、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされる。また、空隙部よりも大きな粒子32は、プレフィルター17によりカットオフされる。
【0037】
次いで、磁性粒子の回収を行う。まず、濾液34の入った容器41を、別の容器42に取り換える。そして、磁気照射手段20の磁気照射をオフすることにより、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされた磁性粒子31を回収する(図3C参照)。この際、必要に応じて、溶媒を流したり、圧力をかけたりして磁性粒子31の回収を促してもよい。また、後述する第2実施形態のように、フィルター吸着物剥離手段を印加してもよい。なお、回収する磁性粒子31は、単独の磁性粒子の他、脂質、高分子、非磁性金属粒子等と磁性粒子との複合体粒子であってもよい。
【0038】
上記非特許文献3のような磁性ファイバーをフィルターとして用いる場合、強度、耐圧性、磁性体密度の均一性が劣るという問題があった。また、磁性ファイバーをフィルターとして用いる場合には、隙間にばらつきがあって、精度の観点から不安定となるという問題もあった。また、磁性粉体を焼結させた焼結金属フィルターを用いる場合、温度変化による熱膨張、熱収縮、超音波処理などにより破砕しやすいという問題がある。一方、第1実施形態に係る焼結金網フィルター11によれば、磁性金網を積層して焼結しているので、温度変化による熱膨張、熱収縮や超音波処理などにより破砕しにくいというメリットがある。
【0039】
第1実施形態によれば、濾過法と磁気照射手段20を併用して、磁性粒子31を捕獲して回収するので、操作性がよい。しかも、磁気照射手段20のON−OFFにより、焼結金網フィルター11の空隙部で磁性粒子31を捕獲−放出制御できるので、効率よく磁性粒子31を回収することができる。また、磁性金網15を積層することにより、磁気吸着効率を高めることができる。また、磁性金網15を積層しているので、また、これを焼結しているので、積層した磁性金網15が外力でずれたり、形状変形したりするのを防止し、耐久性の高い磁性粒子回収装置1を提供することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、上記実施形態とは異なる磁性粒子回収装置の一例について説明する。以降の図において、上記第1実施形態と同一の要素部材には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0041】
第2実施形態に係る磁性粒子回収装置は、以下の点を除く基本的な構成は上記第1実施形態と同様である。すなわち、第2実施形態に係る磁性粒子回収装置は、フィルター吸着物剥離手段を具備している点において、これを有しない第1実施形態とは相違する。また、第2実施形態においては、プレフィルター17を設置しない点において上記第1実施形態とは相違する。
【0042】
図4Aは、第2実施形態に係る磁性粒子回収装置2の一例を説明するための模式的上面図、図4Bは、図4AのIVB−IVB切断部断面図である。磁性粒子回収装置2は、同図に示すように焼結金網フィルター11、筺体12、支持部13、磁気照射手段20、フィルター吸着物剥離手段である超音波印加手段50等を備える。
【0043】
超音波印加手段50は、磁気照射手段20を取り囲むように、筺体12の外周部に設けられている。換言すると、焼結金網フィルター11のサイドに超音波印加手段50が設置されている。超音波印加手段50の位置や設置形状は、限定されるものではない。
【0044】
フィルター吸着物剥離手段は、超音波印加手段50に限定されるものではなく、焼結金網フィルター11に物理的エネルギーを印加するものであり、本発明の目的が達成できるものであれば特に限定されない。超音波印加手段以外の例としては、加熱手段、超音波よりも周波数の小さな機械的振動印加手段、衝撃波印加手段が挙げられる。また、圧力調整手段の利用も挙げられる。さらに、貴金属微粒子のナノプラズモンを適用した光から熱への光熱効果を利用した活性光線照射手段、酸化チタンなどの光触媒を利用した可視光等の活性光線照射手段、酸化反応を利用した紫外線・電離放射線等による活性光線照射手段が挙げられる。フィルター吸着物剥離手段は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。これらのうち、簡便性の観点から、加熱手段あるいは超音波照射手段、圧力調整手段の利用が特に好ましい。
【0045】
図5A及び図5Bは、第2実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図である。磁性粒子回収装置2の磁気照射手段20により磁気照射しつつ、濾過対象流体30を筺体12内に供給する(図5A参照)。濾過対象流体30は、磁性金網フィルター11に浸透し、空隙部サイズよりも小さい非磁性粒子33及び溶媒が濾液34として得られる(図5B参照)。一方、空隙部サイズよりも小さい磁性粒子31は、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされる。また、磁性粒子以外の空隙部よりも大きな粒子32は、磁性金網フィルター11の表面でカットオフされる。なお、粗大粒子の量が多い場合には、濾過対象流体30から粗大粒子を除去するために予め別のフィルターにより除去することが好ましい。
【0046】
次いで、磁気照射手段20をオフし、かつ超音波印加手段50を用いて超音波を照射する。これにより、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされた磁性粒子31を回収する。この際、必要に応じて、溶媒を流したり、圧力をかけたりして磁性粒子の回収を促してもよい。
【0047】
第2実施形態に係る磁性粒子回収装置2によれば、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、第2実施形態においては、磁性粒子31の回収の際に超音波印加手段50を加えているので、より効率的に磁性粒子を回収することができる。
【0048】
なお、フィルター吸着物剥離手段は、筺体と一体的なものに限定されず、別体のものであってもよい。例えば、加熱手段を用いる場合には、加熱装置を取り付けてもよいし、筺体12とは別体の加温機を用いてもよい。
【0049】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る磁性粒子回収装置は、以下の点を除く基本的な構成は上記第2実施形態と同様である。すなわち、第3実施形態に係る磁性粒子回収装置は、フィルター吸着物剥離手段の稼働タイミングが第2実施形態と相違する。
【0050】
図6A〜図6Dは、第3実施形態に係る磁性粒子回収方法を説明するための模式的説明図である。第3実施形態においては、濾過対象流体30b中に、磁性粒子31と標的タンパク質36からなる複合体粒子35が含有されている。磁性粒子回収装置3の磁気照射手段20により磁気照射しつつ、濾過対象流体30bを筺体12内に供給する。濾過対象流体30bは、磁性金網フィルター11に浸透し、空隙部サイズよりも小さい非磁性粒子33及び溶媒が濾液34として得られる(図6A参照)。一方、空隙部サイズよりも小さい磁性粒子31を含む複合体粒子35は、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされる。また、磁性粒子以外の空隙部よりも大きな粒子32は、磁性金網フィルター11の表面でカットオフされる。これにより、磁性粒子31と複合体粒子35を形成している標的タンパク質36と、非標的タンパク質とを分離することができる(図6B参照)。
【0051】
次いで、磁気照射手段20によって焼結金網フィルターに磁気を照射しながら、超音波印加手段50を用いて超音波を照射する。これにより、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされた複合体粒子35が振動により磁性粒子31と標的タンパク質36に分離される。そして、標的タンパク質36が焼結金網フィルター11から除去されて容器42に回収される(図6C参照)。この際、必要に応じて、溶媒を流したり、圧力をかけたりして標的タンパク質36の回収を促進させてもよい。
【0052】
その後、容器42から容器43に変えて、磁気照射手段をオフし、かつ超音波印加手段50を用いて超音波を照射する。これにより、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされた磁性粒子31を回収する(図6D参照)。この際、必要に応じて、溶媒を流したり、圧力をかけたりして磁性粒子の回収を促してもよい。上記工程を経ることにより、標的タンパク質36と磁性粒子31を分離して回収することができる。
【0053】
第3実施形態に係る磁性粒子回収装置3によれば、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、第3実施形態においては、標的タンパク質36と磁性粒子31を簡便に分離することができる。なお、上記においては、超音波印加手段を用いる例を説明したが、他のフィルター吸着物剥離手段を用いてもよい。例えば、加熱手段等によって、粒子の分子運動を活性化させ、標的タンパク質36と磁性粒子31を分離してもよい。また、上記例においては、標的タンパク質と磁性粒子が複合体粒子を形成している例を挙げたが、磁性粒子と複合体粒子を形成する対象はタンパク質に限定されるものではなく、任意である。
【0054】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る磁性粒子回収装置は、以下の点を除く基本的な構成は上記第3実施形態と同様である。すなわち、第4実施形態に係る磁性粒子回収装置は、焼結金網フィルターに酸化チタンが含有されている点において第3実施形態と相違する。また、フィルター吸着物剥離手段として超音波印加手段に加えて、活性光線照射手段を備えている点において上記第3実施形態と相違する。
【0055】
第4実施形態に係る焼結金網フィルター11cには、酸化チタンが含有されている。酸化チタンに代えて、他の光触媒であってもよい。焼結金網フィルター11cに酸化チタン等の光触媒を含有させる方法は、特に限定されず、公知の方法を制限なく利用することができる。例えば、酸化チタン粉末と磁性粉末を混合して磁性金網を製造し、それを積層して焼結する方法がある。また、焼結金網フィルター11cを形成後に、酸化チタンで表面をコーティングする方法等が挙げられる。
【0056】
第4実施形態に係る磁性粒子回収装置4においては、フィルター吸着物剥離手段として超音波印加手段50の他に活性光線照射手段51を有する。活性光線照射手段51は、光触媒に対する活性光線であり、例えば、可視光、紫外光である。
【0057】
第4実施形態においては、濾過対象流体30c中に、磁性粒子31が脂質やポリマー等の有機層39によって被覆されている複合体粒子38が含有されている。磁気照射手段20により焼結金網フィルター11に対して磁気照射しつつ、濾過対象流体30cを筺体12内に供給して(図7A参照)、濾過を行う(図7B参照)。そして、磁気照射手段をオンしながら、フィルター吸着物剥離手段である活性光線照射手段51により活性光線を照射する(図7C参照)。活性光線は、例えば、可視光である。これにより、焼結金網フィルター11の空隙部にトラップされた複合体粒子38中の磁性粒子31を被覆している有機層39が磁性粒子31から剥離、若しくは分解される。
【0058】
剥離や分解した有機層39は、磁気照射手段20をオンにした状態で、圧力を加えたり溶媒を注いだりすることによって、簡便に除去することができる。これにより、複合体粒子から磁性粒子31を容易に回収することが可能となる。なお、磁性粒子と複合体粒子を形成している有機物として脂質とポリマーの例を挙げたが、一例であって、任意の有機物に適用することができる。また、任意の無機物に対しても剥離作用を利用できる。
【0059】
その後、磁気照射手段20をオフし、かつフィルター吸着物剥離手段である超音波印加手段50をオンとする。これにより、焼結金網フィルター11cの空隙部にトラップされた磁性粒子31を回収する。この際、必要に応じて、溶媒を流したり、圧力をかけたりして磁性粒子の回収を促してもよい。
【0060】
第4実施形態に係る磁性粒子回収装置4によれば、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、第4実施形態においては、複合体粒子38から磁性粒子31を簡便かつ高効率で回収することができる。
【0061】
なお、第4実施形態においては、フィルター吸着物剥離手段として、光触媒を利用した活性光線照射手段51を用いる例を挙げたが、これに代えて、若しくは併用して有機物の酸化を利用した紫外線・電離放射線等の活性光線照射手段を用いてもよい。これらの活性光線照射により、フィルターに吸着した磁性ナノ粒子表面を構成する脂質・ポリマーなどの高分子を酸化分解できる。焼結金網フィルターの厚みが大きく、活性光線として透過性の低い光線を利用する場合には、必要に応じて、焼結金網フィルターとして、積層枚数の比較的少ない焼結金網フィルターのセットを複数積層させたものを用い、セットを分解して、酸化反応等を内部まで促進させることも可能である。透過性の観点からは、透過性の高いガンマ線等の利用も有効である。
【0062】
また、フィルター吸着物剥離手段として、ナノプラズモンによる光熱効果を利用した活性光線照射手段を用いてもよい。磁性粒子の構成成分に温度感受性高分子、及び貴金属微粒子が含まれる場合、貴金属微粒子に特定波長を照射することにより、ナノプラズモンによる光から熱への反応を利用できる。これにより、温度感受性高分子を分解することができる。そのため、磁性粒子を効率よく回収することができる。
【0063】
なお、上記実施形態は、一例であって本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態1〜4を組み合わせた実施形態も好適な例として挙げられる。また、上述した複合体粒子の例は、一例であって、種々の態様の複合体粒子に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3、4 磁性粒子回収装置
11 焼結金網フィルター
12 筺体
15 磁性金網
16 空隙部
17 プレフィルター
20 磁気照射手段
30 濾過対象流体
31 磁性粒子
32 粗大粒子
33 非磁性粒子
34 濾液
35、38 複合体粒子
36 標的タンパク質
38 複合体粒子
39 有機層
41、42、43 容器
50 超音波照射手段
51 活性光線照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を捕獲して回収する磁性粒子回収装置であって、
複数枚の磁性金網を積層して焼結した焼結金網フィルターと、
前記焼結金網フィルターに対して磁気照射のON−OFFが可能な磁気照射手段と、
を備え、
前記焼結金網フィルターは、空隙部が多数形成されている磁性粒子回収装置。
【請求項2】
さらに、前記焼結金網フィルターの吸着物剥離のためのON−OFF制御が可能なフィルター吸着物剥離手段を備え、
前記磁気照射手段は、磁石を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁性粒子回収装置。
【請求項3】
さらに、前記焼結金網フィルターの吸着物剥離のためのON−OFF制御が可能なフィルター吸着物剥離手段を備え、
前記フィルター吸着物剥離手段は、加熱手段、超音波印加手段、超音波よりも周波数の小さな機械的振動印加手段、衝撃波印加手段、圧力調整手段、活性光線照射手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粒子回収装置。
【請求項4】
前記焼結金網フィルターの前段に、粗大粒子を除去するフィルターを配設していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性粒子回収装置。
【請求項5】
磁性粒子を捕獲して回収する磁性粒子回収方法であって、
前記磁性粒子を含む流体を、磁性金網を積層して焼結した焼結金網フィルターによって濾過する工程と、
前記磁性粒子を回収する工程と、を備え、
前記濾過する工程は、前記焼結金網フィルターに対して磁気照射しながら行い、
前記磁性粒子を回収する工程は、前記磁気照射をオフしながら行うステップを含む磁性粒子回収方法。
【請求項6】
前記磁性粒子を回収する工程は、さらに、前記焼結金網フィルター吸着物剥離のための物理的エネルギーを加えながら行うステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の磁性粒子回収方法。
【請求項7】
前記濾過する工程は、
前記焼結金網フィルターに対して磁気照射を行うステップと、
前記磁気照射と物理的エネルギーを加えながら行うステップとを具備することを特徴とする請求項5又は6に記載の磁性粒子回収方法。
【請求項8】
前記物理的エネルギーは、加熱手段、超音波印加手段、超音波よりも周波数の小さな機械的振動印加手段、衝撃波印加手段、圧力調整手段、活性光線照射手段の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の磁性粒子回収方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−217880(P2012−217880A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83367(P2011−83367)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】