磁性薄膜メモリ素子およびその記録方法
【目的】 メモリ素子のサイズが小さくなっても、充分に大きな読出し信号がえられる磁性薄膜メモリ素子およびその記録方法を提供する。
【構成】 メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用い、磁性層bの磁化の向きを変えることにより、「0」と「1」の記録を行い、再生は磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいと反平行のばあいとで抵抗が大きく変化することを利用し、メモリ素子の両端の電圧Vを比較することにより、「0」と「1」の記録状態を判別する。
【効果】 記録用の配線と素子の間隔を小さくでき、省電力化、高密度化が達成できると共に、再生の際抵抗の変化率が大きいため、再生信号の検出が容易である。
【構成】 メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用い、磁性層bの磁化の向きを変えることにより、「0」と「1」の記録を行い、再生は磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいと反平行のばあいとで抵抗が大きく変化することを利用し、メモリ素子の両端の電圧Vを比較することにより、「0」と「1」の記録状態を判別する。
【効果】 記録用の配線と素子の間隔を小さくでき、省電力化、高密度化が達成できると共に、再生の際抵抗の変化率が大きいため、再生信号の検出が容易である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁性薄膜を用いたメモリ素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図27は、磁気工学講座5、磁性薄膜工学254頁(1977年丸善(株)発行)に示された従来の磁性薄膜メモリ素子を組み立てた模式図を示したものである。
【0003】まず、作製方法の一例について説明する。平滑なガラス基板上に矩形の孔のあいたマスクを密着させ、真空装置内で約2000Åの厚さにFe,Niの合金の真空蒸着膜を形成させる。このようにして多数のメモリ素子MFを一挙にマトリックス状に製作する。メモリ素子を駆動させるための駆動線は薄いエポキシ樹脂板やマイラ・シートの両面に、互いに直行するように銅線をホトエッチング技術で形成して作製する。シート両面の各線はそれぞれ語線および桁線であり、その交点が各メモリ素子の上に重なるように押しあてて組み立てる。
【0004】つぎに、動作原理について説明する。図の磁化容易軸に平行に配置されている線群は語線(word line)で、それと直行している線群は桁線(digit line)である。メモリ状態を読みだす検出線は桁線と兼用する。
【0005】矢印A、Bはメモリ状態に対応した膜内の磁化の方向を示している。同図において、紙面で上向きの矢印Aは「0」の情報が記録されており、紙面で下向きの矢印Bは「1」の情報が記録されていることとする。また、桁電流Id,語電流Iwによって磁性薄膜に作用する磁界をそれぞれHd,Hwとする。単極性パルスであるIwを語線W1を選択して流すと、その線の下のすべてのメモリ素子にはHwが作用し、磁化の方向は困難軸方向に向く。このときの磁化の方向が「1」の状態から回転したか、「0」の状態から回転したかによって、各桁線にはそれぞれ異なった極性のパルス電圧が誘起され、これが読出し電圧になる。記録時には、Iwのパルスの立ち下がり時に重なるようにIdを流し、磁化の方向が困難軸を向いた状態において情報信号に対応した極性のHdを重畳させることで磁化の向きを決定し、「1」または「0」の状態に情報を記録することができる。Iwは、磁性薄膜の磁化を容易軸から困難軸に回転させるのに充分な磁界Hwを発生させるような電流値であり、Idは磁性薄膜の保磁力Hcの約1/2の磁界Hdを発生させる電流値である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術においては、読出し方法として、磁化の方向の回転によって生じる極めて微少な電磁誘導電圧を用いているため、読出し時のSN比が小さく、読出しが困難であった。さらに、電磁誘導電圧は磁気モーメントの大きさに比例するため、磁性薄膜のサイズを充分に大きくする必要があり、このため、単位面積当りの記録量を大きくすることが不可能であるなどの問題がある。
【0007】本発明は前記問題を解消するためになされたもので、充分に大きな読出し信号がメモリ素子のサイズが小さくなってもえられる磁性薄膜メモリ素子および磁性薄膜メモリを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係わる磁性薄膜メモリ素子は、磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されていることを特徴とするものである。
【0009】また、本発明による磁性薄膜メモリ素子は、前記保持力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶することを特徴とするものである。
【0010】また、本発明による磁性薄膜メモリ素子の記録方法は、磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子の記録方法であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成され、該保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶させることを特徴とするものである。
【0011】
【作用】本発明によれば、メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いているため、膜面に平行で異なる方向の磁界を印加することにより、前記保磁力の小さい磁性層bの磁化の向きを変えて「0」の状態と「1」の状態の記録を行うことができる。また再生は、磁性層aと磁性層bの磁化の向きが同じ方向である平行のばあいと反対方向である反平行のばあいとで抵抗が大きく変化することを利用し、磁化の向きが反平行のばあいの素子の両端の電圧VBと磁化の向きが平行のばあいの素子の両端の電圧VAの大小を比較することにより、「0」と「1」の記録状態を判別できる。
【0012】
【実施例】つぎに、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0013】図1は本発明の一実施例である磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。図1において、1は磁性薄膜メモリ素子で、アドレスを示すために1aa,1ab,・・・・1ccのようにサフィックスを付してあるが、とくに区別の必要のないばあいには単に1を用いる。他の符号についても同様とする。2〜6はいずれもスイッチング用のトランジスタである。I1は電流源、V2は正の電圧源、Vαβは磁性薄膜メモリ素子1acの両端の電圧を示す。図中、実線は再生用の配線、破線は記録用の配線を示す。
【0014】磁性薄膜メモリ素子1には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。この保持力の大きな磁性層aとしては、たとえばNiCoPt、NiCoTa、NiCoCr、NiCoZr、NiCoなどの各合金を用いた磁性層で形成され、保磁力の小さな磁性層bは、たとえばNiFe、NiFeCoなどの各合金を用いた磁性層で形成される。また、非磁性層としては、Cu、Cr、V、W、Al、Al−Taなどの非磁性材料で形成される。この磁性薄膜を作製するには絶縁基板、たとえばSiO2やSiNxなどの絶縁膜で覆われたSi基板やガラス基板に前述の磁性層a、非磁性層c、磁性層b、非磁性層cを各々30〜70Å、好ましくは40〜60Åの厚さで順次成膜し、この組み合せを5〜20周期、好ましくは10〜15周期繰り返し、全体で500〜5000Å、好ましくは1000〜3000Åの厚さに形成する。この成膜の方法としては、スパッタ法、MBE法、超高真空蒸着、電子ビーム蒸着、真空蒸着などにより形成することができる。このうちスパッタ法としては、パワー制御が比較的容易なDCマグネトロンスパッタが便利であるが、RFスパッタなど、他のスパッタ法でも形成できる。
【0015】磁性層aおよび磁性層bの磁化方向は、たとえば、磁性薄膜メモリ素子1の磁気シールドを行う前に、面内の方向で記録用の配線に対して垂直方向のある方向に大きな磁界をメモリ素子の全体に印加するなどして、一定方向、たとえば紙面上で上向きになるように揃えておく。
【0016】まず、記録方法について述べる。記録は各磁性薄膜メモリ素子の磁化の向きによって行われる。磁性薄膜メモリ素子の記録を携わる磁性層bの磁化の向きは面内の方向に存在するので、いま、再生用の配線に流れる電流の方向と同じ磁化方向(紙面上では下向き)を「1」、逆向きの磁化方向(紙面上では上向き)を「0」としてそれぞれ2値的デジタル情報に対応させることとする。たとえば磁性薄膜メモリ素子1acに「1」の記録を行うばあい、すなわち磁化の向きを紙面上で下向きに書き込むばあいについて図1〜2を用いて説明する。
【0017】図1において、記録が行われないときには、スイッチ4a,4b,4c,4dおよびスイッチ5a,5bはすべて開いており、破線で示した記録用の配線には、電流は流れない。磁性薄膜メモリ素子1acに「1」の記録を行うばあい、スイッチ2a,3c,6aを閉じる。このとき、再生用の配線および磁性薄膜メモリ素子1acには、比較的大きな電流I1が流れる。そのときの電流の状態を図2に示す。図2における21は図1R>1における再生用の配線、22は図1において破線で示した記録用の配線である。図2に示すように、この電流I1によって磁性薄膜メモリ素子1acにはバイアス磁界H1が印加され、磁化の向きはバイアス磁界の向きに少し傾く。このあとで、スイッチ4a,5aを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子1acの直上の記録用の配線22には、紙面上で右から左に電流I2が流れ、磁性薄膜メモリ素子1acには紙面上で上から下向きに磁界H2が印加される。磁性薄膜メモリ素子1acにもともと「1」が記録されていたばあいは、この磁界H2によって紙面下向きの磁化の方向に戻され、「1」の記録は保持される。磁性薄膜メモリ素子1acにもともと「0」が記録されていたばあいは、磁性薄膜メモリ素子1の磁性層bにおける紙面で上向きの磁化の方向は、磁界H2だけでは反転しないような保磁力Hcbを有しており、バイアス磁界H1が印加されているばあいのみ紙面で下向きに磁化が反転し、磁性薄膜メモリ素子1acのみを「1」の状態に記録することができる。図中磁性薄膜メモリ素子1ac内の矢印は磁化の面内方向の向きを示している。磁性薄膜メモリ素子1acに「0」の記録を行うばあいは、スイッチ5aの代わりにスイッチ5bを接続し、図2の右側のようにI2を流す以外は全く同じ方法で行う。
【0018】図3には、以上のような「0」および「1」の記録状態のときの磁性薄膜メモリ素子の断面図を示している。磁性薄膜メモリ素子1acの磁性層aの磁化の向きと磁性層bの磁化の向きは「0」では平行(磁化の向きが同じ方向、以下同じ)、「1」では反平行(磁化の向きが逆方向、以下同じ)となっている。
【0019】磁性薄膜メモリ素子1ac以外の他のメモリ素子への記録も同様に行うことができる。
【0020】以上の実施例は記録の際の磁性層aおよび磁性層bの磁化方向が再生電流の方向と同じ方向のばあいを示したが、別の実施例として磁性層aおよび磁性層bの磁化方向が再生電流の方向と垂直なばあいを図4を用いて示す。
【0021】図4において41は磁性薄膜メモリ素子で、アドレスを示すために41aa,41ab,・・・・41ccのようにサフィックスを付してあるが、とくに区別の必要のないばあいには単に41を用いる。他の符号についても同様とする。42〜47はいずれもスイッチング用のトランジスタである。I1は電流源、V2は正の電圧源、Vαβは磁性薄膜メモリ素子41acの両端の電圧を示す。図中、実線は再生用の配線、破線は記録用の配線を示す。
【0022】磁性薄膜メモリ素子41には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。磁性層aおよび磁性層bの磁化方向は、たとえば、磁性薄膜メモリ素子41の磁気シールドを行う前に、面内の方向で再生用の配線に対して垂直方向のある方向に大きな磁界をメモリ素子の全体に印加するなどして、一定方向、たとえば紙面上で左向きに揃えておく。
【0023】記録は各磁性薄膜メモリ素子の磁化の向きによって行われる。磁性薄膜メモリ素子の記録を携わる磁性層bの磁化の向きは面内の方向に存在するので、紙面上で右向きを「1」の状態、左向きを「0」の状態としてそれぞれ2値的デジタル情報に対応させることとする。たとえば磁性薄膜メモリ素子41acに「1」の記録を行うばあい、すなわち磁化の向きを紙面上で右向きに書き込むばあいについて図4〜5を用いて説明する。
【0024】図4において、記録が行われないときには、スイッチ44a,44b,44c,44dおよびスイッチ45a,45b,47a,47b,47c,47dはすべて開いており、破線で示した記録用の配線には、電流は流れない。磁性薄膜メモリ素子41acに「1」の記録を行うばあい、スイッチ44aを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子41acには紙面右から左に比較的大きな電流I3が流れる。そのときの電流の状態を図5に示す。図5における、52、53は図4において破線で示した記録用の配線である。図5に示すように、この電流I3によって磁性薄膜メモリ素子41acにはバイアス磁界H3が印加され、磁化の向きはバイアス磁界の向きに少し傾く。このあとで、スイッチ45a,47cを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子41acの直上の記録用の配線52には紙面上で上から下に電流I2が流れ、磁性薄膜メモリ素子41acには紙面上で左から右向きに磁界H2が印加される。磁性薄膜メモリ素子41acにもともと「1」が記録されていたばあいは、この磁界H2によって紙面で右向きの磁化の方向に戻され、「1」の記録は保持される。磁性薄膜メモリ素子41acにもともと「0」が記録されていたばあいは、磁性薄膜メモリ素子41の磁性層bの紙面で左向きの磁化の方向は、磁界H2だけでは反転しないような保磁力Hcbを有しており、バイアス磁界H3が印加されているばあいのみ紙面で右向きに磁化が反転し、磁性薄膜メモリ素子41acのみを「1」の状態に記録することができる。図中磁性薄膜メモリ素子41ac内の矢印は磁化の面内方向の向きを示している。磁性薄膜メモリ素子41acに「0」の記録を行うばあいは、スイッチ45aの代わりにスイッチ45bを接続し、図5の右側のようにI2を流す以外は全く同じ方法で行う。
【0025】図6には、以上のような「0」および「1」の記録状態のときの磁性薄膜メモリ素子の断面図を示している。磁性薄膜メモリ素子41acの磁性層aの磁化の向きと磁性層bの磁化の向きは「0」では平行、「1」では反平行となっている。
【0026】磁性薄膜メモリ素子41ac以外の他のメモリ素子への記録も同様に行うことができる。
【0027】以上のようにして記録できるので、記録用の配線と磁性薄膜メモリ素子とのあいだを2000〜5000Å程度にまで狭めることができ、また、記録用の配線を磁性薄膜メモリ素子の直上もしくは直下に配置でき、垂直方向の磁界で記録を行うようなメモリデバイスに必要となる記録用の配線のためのスペースをとくにとる必要がなく、省スペース化が行え、高密度化が達成できる。
【0028】再生方法の説明の前に、本発明における磁性薄膜メモリ素子に用いた磁性薄膜について簡単に説明する。磁性薄膜には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。
【0029】図7には磁性層aおよび磁性層bの外部印加磁界Hexに対する磁化Mの変化と前記人工格子膜の外部印加磁界に対する抵抗MRの変化を対比させて示してある。図7においてポイント■まで磁界を印加すると磁性層aと磁性層bの磁化の向きは平行、たとえば図7の下部に示すように左向きに揃う。この状態からポイント■を経て0まで磁界を戻しても磁性層aと磁性層bの磁化の向きは左向きに揃った状態を維持する。さらに磁界を逆向きにポイント■まで印加すると磁性層bのみ磁化反転し、磁性層aと磁性層bの磁化の向きは反平行となり、同時に抵抗も増加する。この状態から磁界を0まで戻しても磁性層aと磁性層bの磁化の向きは反平行を維持する。こののち、磁界をポイント■まで印加すれば、磁性層bの磁化は再度反転し、再び、磁性層aと磁性層bの磁化の向きは平行状態となり、同時に抵抗も減少し、元に戻る。
【0030】以上のようにポイント■とポイント■のあいだで磁界を変化させることで、磁界が0の状態で磁性層aと磁性層bの磁化の向きを平行にしたり、反平行にしたりすることができる。磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のときを「0」、反平行のときを「1」とすることで2値的デジタル情報を記憶させることができる。さらに、磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行、反平行によって抵抗が異なるので、これを電圧に変換すれば、外部磁界が0の状態のままで「0」と「1」の判別をすることができる。
【0031】つぎに、この人工格子薄膜を用いた再生方法について述べる。たとえば、図1における磁性薄膜メモリ素子1acの情報を読みたいとき、スイッチ2a、3c、6a、6bを閉じる。これにより、磁性薄膜メモリ素子1acにのみ図1の上から下に電流が流れる。この状態でαとβのあいだの電圧を測定することにより、磁性薄膜メモリ素子1acの磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいの電圧VAと反平行のばあいの電圧VBとを再生出力として検出できる。電圧VAと電圧VBは配線の抵抗を考慮してもなお、5%以上の差が生じるので、適当な大きさの臨界電圧を定めておけば、再生出力が臨界電圧より大きいか小さいかで磁化の向きが平行(「0」)か反平行(「1」)かを判別できる。
【0032】図4における磁性薄膜メモリ素子41acの情報を読みたいときも同様で、スイッチ42a、43c、46a、46bを閉じる。これにより、磁性薄膜メモリ素子41acにのみ図4の上から下に電流が流れる。この状態でαとβのあいだの電圧を測定することにより、磁性薄膜メモリ素子41acの磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいの電圧VAと反平行のばあいの電圧VBとを再生出力として検出できる。電圧VAと電圧VBは配線の抵抗を考慮してもなお、5%以上の差が生じるので適当な大きさの臨界電圧を定めておけば、再生出力が臨界電圧より大きいか小さいかで磁化の向きが平行(「0」)か反平行(「1」)かを判別できる。
【0033】また、別の再生方法として、再生時に磁化の変化を利用して読む方法もある。図8は図1における磁性薄膜メモリ素子1acの記録状態を読むときのスイッチの開閉動作のタイムチャートである。チャートに示していないスイッチはすべて開いた状態にある。まず、t0〜t3においてはスイッチ2a,3c,6aは閉じ、磁性薄膜メモリ素子1acは再生状態にあり、また、紙面左右方向にバイアス磁界が印加される。t1〜t2においては、スイッチ4a,5a,6bはいずれも閉じており、これにより、磁性薄膜メモリ素子1acには面内方向で紙面下向きに磁界が印加される。
【0034】もし、素子の磁化の方向の初期状態が紙面で下向きであれば、磁界により磁化方向は変化せず、したがって「1」が再生される。他方、初期状態が紙面で上向きのときは、保磁力Hcb以上の磁界が印加されるt1〜t2において磁化は紙面下向きに反転する。この反転は、再生信号として検出され、「0」が再生されたことになる。しかし、「0」が再生されたときは、再生以前の紙面上向きの磁化方向が失われているため、もう一度再生以前の磁化状態に戻す必要がある。t1〜t3において再生信号の変化が観測されたときには、t4〜t5においてスイッチ4a、5bを閉じるのは以上に述べた理由による。図4においても同様の再生方法をとることができる。
【0035】[実施例1]このような磁性薄膜の具体的な例を作成方法と共にのべる。
【0036】磁性薄膜メモリ素子となる磁性薄膜には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を作製した。たとえば磁性層aにはNiCoPt合金(以下、NiCoPtという)を用い、磁性層bにはNiFe合金(以下、NiFeという)を用いた。また、非磁性層cにはCuを用いた。成膜方法としては、DCマグネトロンスパッタ法を用いた。スパッタ装置にはNiFe、NiCoPt、Cuの3つのターゲットを1つのチャンバー内に配置した。基板には表面をSiO2の絶縁膜で覆われたSi基板を用いた。スパッタ時の圧力は1〜8mTorrで成膜速度は毎分約30Åで行った。(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)を15周期繰り返し、トータル膜厚約3000Åの人工格子膜を作製した。
【0037】以上のようにして作製された磁性薄膜の典型的な磁化曲線とMR曲線を図9〜10に示す。図9は面内の方向で外部より磁界を印加したときの磁化曲線で、横軸に印加磁界Hexの強さ(Oe)、縦軸に磁化Mの変化を表わしている。図10は面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁気抵抗MRの変化を示す曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示している。磁化曲線は2段階の変化を示し、1段目の6(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の850(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。1段目の変化は10(Oe)で飽和している。MR曲線より抵抗も6(Oe)付近から大きくなり始め、10(Oe)付近で飽和している。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、10(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は12%を示した。これにより(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、10(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかる。図11および図12にはNiFe層とNiCoPt層の磁化曲線の変化を独立に調べるためにNiFe/CuおよびNiCoPt/Cuの人工格子膜を作製して、横軸に外部磁界Hex、縦軸に磁化Mをとり磁化曲線を描いた。磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために、Cu層厚は約300Åと充分厚くした。磁化曲線の立ち上がりの磁界(磁化が反転しはじめる磁界)、保磁力、飽和磁界をそれぞれHn、Hc、Hsとして図13に示すように定義した。図11および図12より求めたHn、Hc、Hsを表1にまとめた。
【0038】
【表1】
表1よりわかるようにNiCoPt層のHnはNiFe層のHsより充分に大きく、その差は700(Oe)以上ある。このように、NiFe層が磁化反転する磁界領域ではNiCoPt層の磁化の方向がほとんど動いていないためにMR曲線の変化が急峻なものになっている。
【0039】図14はこの人工格子膜±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化を示す磁化曲線で、図15はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に6(Oe)の一定磁界を印加したまま図14と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化の磁化曲線を示す。図14では磁化反転に10(Oe)の外部磁界を必要としたが、図15では5(Oe)の磁界で磁化が反転している。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を6(Oe)に制御しておけば、記録用の配線により発生される磁界を5〜6(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみに記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行うことによりできる。以上のように、この(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いることにより図1に示すようなメモリデバイスを作製できた。
【0040】[比較例1]このような磁性薄膜の別の例をのべる。
【0041】磁性薄膜メモリ素子となる磁性薄膜に、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていた。この磁性層aのNiCoPtの代わりにCoを用いたばあいの磁化曲線とMR曲線を図16〜17に示す。図16は図9と同様に面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化の曲線で、図17は図10と同様に面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁気抵抗MRの変化のMR曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示している。成膜方法は実施例1と同様に行った。磁化曲線は2段階の変化を示し、最初の5(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の300(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。どちらの変化もなだらかで1段目が終了する磁界は10(Oe)に達し、2段目が飽和する磁界は500(Oe)に達する。図17のMR曲線より抵抗は10(Oe)付近で大きくなるが、すぐ減少をはじめ500(Oe)付近で飽和する。このことは磁性層aおよびbの磁化反転とよい一致を示している。また、10(Oe)付近で大きくなった抵抗は、磁界をゼロに戻しても維持されず少し減少するが、磁界印加前との変化率は4%にとどまる。これにより(Co/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、記録を行うのに10(Oe)の印加磁界が必要であることがわかる。NiFe層とCo層の磁化曲線の変化を独立して調べるため、NiFe/CuおよびCo/Cu人工格子膜を作製し、外部磁界Hexに対する磁化Mの変化の磁化曲線を図18および図19にそれぞれ示した。磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために、Cu層の厚さは約300Åと充分厚くした。図13に示すように、磁化曲線の立ち上がりの磁界、保磁力、飽和磁界をそれぞれHn、Hc、Hsとして、図18および図19より求めたHn、Hc、Hsを表2にまとめた。
【0042】
【表2】
表2よりわかるように、Co層のHnはNiFe層のHsより40(Oe)しか大きくない。また、図19からわかるように、Co層の磁化はHnより小さな磁界からすでに反転し始めており、NiFe層が磁化反転する磁界でCo層の磁化が徐々に動いているためにMR曲線の変化が鈍くなっている。このように保磁力の大きい方の層のHnが、保磁力の小さい方の層のHsより小さくないばあいでも保磁力の小さい方の層が磁化反転する磁界で保磁力の大きい層の磁化の反転が始まっていればMR曲線の変化は鈍くなるので好ましくない。
【0043】図20は図17における外部磁界±20(Oe)付近の拡大図を示す。図20でMRの変化がなだらかでしかもゼロ磁界より以前に変化が始まっている。図21はこの人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線で、図22はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に6(Oe)の一定磁界を印加したまま図21と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線を示している。図21は図20とよい対応を示しており、図22でも磁化反転はなだらかであり、特定の磁界を選んで、実施例1のように図1におけるたとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録するようなことは不可能となる。
【0044】以上のように、この(Co/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いても、図1に示すようなメモリデバイスを作製することは不可能であった。
【0045】[実施例2]このような磁性薄膜の別の実施例について説明する。
【0046】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていた。この人工格子膜を作成する前に、下地層として基板上にCrを500Åを形成したばあいの人工格子膜の磁化曲線とMR曲線を図9〜10と同様に、図23〜24に示す。図23は面内の方向で外部より磁界を印加したときの磁化曲線で、図24は面内の方向で外部より磁界を印加したときのMR曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示す。成膜方法はCrの膜をまずスパッタ法により形成し、そののちの各磁性層などは実施例1と同様に行った。
【0047】磁化曲線は2段階の変化を示し、1段目の5(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の1200(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。これは、下地層としてCrを敷くことによりNiCoPt層のC軸がより面内方向に向き易くなったため、実施例1に比べて保磁力が大きくなっている。1段目の変化は7(Oe)で飽和している。MR曲線より抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和している。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持される。また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は18%を示した。さらに逆向きに磁界を印加したところ、抵抗は−3(Oe)付近から減少しはじめ、−5(Oe)付近で元にもどる。これによりCr/(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかる。図25はこの人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線で、図26はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま図25と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線を示している。図25では磁化反転に+7(Oe)、−5(Oe)の外部磁界を必要としたが、図26では+4(Oe)、−2(Oe)の磁界で磁化が反転している。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、+V2を印加したときに記録用の配線により発生される磁界を4〜5(Oe)に、−V2を印加したときに記録用の配線により発生される磁界を−2〜3(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみに記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0048】以上のように、このCr/(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いて図1R>1に示すような磁性薄膜メモリを作製すると、記録電圧を小さくすることができる。
【0049】[実施例3]このような磁性薄膜のさらに別の実施例について説明する。
【0050】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例2では、下地層としてCrを用い、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていたが、磁性層aのNiCoPtの代わりにNiCoTa合金(以下、NiCoTaという)、NiCoCr合金(以下、NiCoCrという)、NiCoZr合金(以下、NiCoZrという)、NiCo合金(以下、NiCoという)を用いた。成膜方法は、実施例1と同様に行った。
【0051】磁化曲線は実施例2と同じく、2段階の変化を示した。磁性層bの磁化反転を示す1段目の変化は磁性層aがNiCoTa、NiCoCr、NiCoZr、NiCoともほぼ同じく5(Oe)付近での変化がおこっており、磁性層aの磁化反転を示す2段目の変化はNiCoTaのばあい900(Oe)、NiCoCrのばあい600(Oe)、NiCoZrのばあい800(Oe)、NiCoのばあい350(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示した。1段目の変化は何れのばあいも7(Oe)で飽和した。MR曲線より抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和した。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率はNiCoTaのばあい16%、NiCoCrのばあい15%、NiCoZrのばあい12%、NiCoのばあい14%を示した。これによりCr/(NiCoTa/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoCr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoZr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCo/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかった。
【0052】この人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線は実施例1と同様で、単に±20(Oe)の外部磁界を印加したときには7(Oe)の外部磁界を必要としたが、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま±20(Oe)の外部磁界を印加したときには4(Oe)の磁界で磁化が反転した。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、記録用の配線により発生される磁界を4〜5(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0053】以上のようにこのCr/(NiCoTa/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoCr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoZr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCo/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いて、図1に示すようなメモリデバイスを作製しても、低い電圧で記録することができる。
【0054】以上のような材料についてもCr/NiCoTa、Cr/NiCoCr、Cr/NiCoZr、Cr/NiCoZr、Cr/NiCoの人工格子膜を作製した。下地となるCr層は500Åとし、その他のCr層は、磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために300Åと充分厚くした。それぞれの立ち上がりの磁界Hn、保磁力Hc、飽和磁界Hsを表3にまとめた。
【0055】
【表3】
表3に示すように、保磁力の大きい層のHnと保磁力の小さい層のHsの差が200(Oe)あれば、図1に示すようなメモリデバイスを作製することができる。
【0056】[実施例4]このような磁性薄膜のさらに別の実施例について説明する。
【0057】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜に、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていたが、磁性層bのNiFeの代わりにNiFeCo合金(以下、NiFeCoという)を用いた。成膜方法は、実施例1と同様に行った。
【0058】磁化曲線は実施例1と同じく、2段階の変化を示した。磁性層bの磁化反転を示す1段目の変化は、5(Oe)付近での変化がおこっており、磁性層aのNiCoPtの磁化反転を示す2段目の変化は850(Oe)付近で起こった。1段目の変化は、7(Oe)で飽和した。MR曲線から抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和した。このことは磁性層bの磁化反転とよく一致している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は18%を示した。これにより(NiCoPt/Cu/NiFeCo/Cu)×15からなる人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録できることがわかる。この人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線も実施例1と同様で、単に±20(Oe)の外部磁界を印加したときには7(Oe)の外部磁界を必要としたが、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま±20(Oe)の外部磁界を印加したときには4(Oe)の磁界で磁化が反転した。このことは、図1における再生用の配線より発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、記録用の配線より発生される磁界を4〜5(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0059】以上のように、この(NiCoPt/Cu/NiFeCo/Cu)×15の人工格子膜を用いることで図1に示すようなメモリデバイスを作製することができた。
【0060】
【発明の効果】メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いたので、膜面に平行な磁界を印加して記録を行うことができ、記録用の配線を磁性薄膜メモリ素子の直上もしくは直下に配置することが可能で、記録用の配線と素子の間隔を小さくすることができ、省電力化、高密度化を達成できる。また、磁性層aと磁性bの磁化の向きが平行のばあいと反平行のばあいとで抵抗が変化することを利用しているため、バイアス磁界を印加せずに再生することもでき、また、その際の抵抗の変化率が大きいため、再生信号の検出を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。
【図2】磁性薄膜メモリ素子1acの直上あるいは直下の記録用の配線に流れる電流の状態を表わす図である。
【図3】磁性薄膜の磁化状態を表わす断面説明図である。
【図4】本発明の別の実施例の磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。
【図5】磁性薄膜メモリ素子41acの直上あるいは直下の記録用の配線に流れる電流の状態を表わす図である。
【図6】磁性薄膜の磁化状態を表わす断面説明図である。
【図7】本発明に用いた磁性薄膜の磁気特性および抵抗変化を表わす概念図である。
【図8】磁性薄膜メモリ素子1acの記録状態を読むときのスイッチの開閉動作のタイムチャートを示す図である。
【図9】実施例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図10】実施例1に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図11】NiFe/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図12】NiCoPt/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図13】Hn,Hc,Hsの定義を示した図である。
【図14】実施例1に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図15】図14で印加した磁界に対して垂直方向に6(Oe)の磁界を印加したまま図14と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの実施例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図16】比較例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図17】比較例1に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図18】NiFe/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図19】Co/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図20】図17の中心部の横軸方向の拡大図である。
【図21】比較例1に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図22】図21で印加した磁界に対して垂直方向に6(Oe)の磁界を印加したまま図21と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの比較例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図23】実施例2に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図24】実施例2に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図25】実施例2に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図26】図25で印加した磁界に対して垂直方向に4(Oe)の磁界を印加したまま図25と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの実施例2に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図27】従来の磁性薄膜メモリ素子を組み立てた状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1、41 磁性薄膜メモリ素子
a 保持力の大きな磁性層
b 保持力の小さな磁性層
c 非磁性層
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁性薄膜を用いたメモリ素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図27は、磁気工学講座5、磁性薄膜工学254頁(1977年丸善(株)発行)に示された従来の磁性薄膜メモリ素子を組み立てた模式図を示したものである。
【0003】まず、作製方法の一例について説明する。平滑なガラス基板上に矩形の孔のあいたマスクを密着させ、真空装置内で約2000Åの厚さにFe,Niの合金の真空蒸着膜を形成させる。このようにして多数のメモリ素子MFを一挙にマトリックス状に製作する。メモリ素子を駆動させるための駆動線は薄いエポキシ樹脂板やマイラ・シートの両面に、互いに直行するように銅線をホトエッチング技術で形成して作製する。シート両面の各線はそれぞれ語線および桁線であり、その交点が各メモリ素子の上に重なるように押しあてて組み立てる。
【0004】つぎに、動作原理について説明する。図の磁化容易軸に平行に配置されている線群は語線(word line)で、それと直行している線群は桁線(digit line)である。メモリ状態を読みだす検出線は桁線と兼用する。
【0005】矢印A、Bはメモリ状態に対応した膜内の磁化の方向を示している。同図において、紙面で上向きの矢印Aは「0」の情報が記録されており、紙面で下向きの矢印Bは「1」の情報が記録されていることとする。また、桁電流Id,語電流Iwによって磁性薄膜に作用する磁界をそれぞれHd,Hwとする。単極性パルスであるIwを語線W1を選択して流すと、その線の下のすべてのメモリ素子にはHwが作用し、磁化の方向は困難軸方向に向く。このときの磁化の方向が「1」の状態から回転したか、「0」の状態から回転したかによって、各桁線にはそれぞれ異なった極性のパルス電圧が誘起され、これが読出し電圧になる。記録時には、Iwのパルスの立ち下がり時に重なるようにIdを流し、磁化の方向が困難軸を向いた状態において情報信号に対応した極性のHdを重畳させることで磁化の向きを決定し、「1」または「0」の状態に情報を記録することができる。Iwは、磁性薄膜の磁化を容易軸から困難軸に回転させるのに充分な磁界Hwを発生させるような電流値であり、Idは磁性薄膜の保磁力Hcの約1/2の磁界Hdを発生させる電流値である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術においては、読出し方法として、磁化の方向の回転によって生じる極めて微少な電磁誘導電圧を用いているため、読出し時のSN比が小さく、読出しが困難であった。さらに、電磁誘導電圧は磁気モーメントの大きさに比例するため、磁性薄膜のサイズを充分に大きくする必要があり、このため、単位面積当りの記録量を大きくすることが不可能であるなどの問題がある。
【0007】本発明は前記問題を解消するためになされたもので、充分に大きな読出し信号がメモリ素子のサイズが小さくなってもえられる磁性薄膜メモリ素子および磁性薄膜メモリを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係わる磁性薄膜メモリ素子は、磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されていることを特徴とするものである。
【0009】また、本発明による磁性薄膜メモリ素子は、前記保持力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶することを特徴とするものである。
【0010】また、本発明による磁性薄膜メモリ素子の記録方法は、磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子の記録方法であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成され、該保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶させることを特徴とするものである。
【0011】
【作用】本発明によれば、メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いているため、膜面に平行で異なる方向の磁界を印加することにより、前記保磁力の小さい磁性層bの磁化の向きを変えて「0」の状態と「1」の状態の記録を行うことができる。また再生は、磁性層aと磁性層bの磁化の向きが同じ方向である平行のばあいと反対方向である反平行のばあいとで抵抗が大きく変化することを利用し、磁化の向きが反平行のばあいの素子の両端の電圧VBと磁化の向きが平行のばあいの素子の両端の電圧VAの大小を比較することにより、「0」と「1」の記録状態を判別できる。
【0012】
【実施例】つぎに、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0013】図1は本発明の一実施例である磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。図1において、1は磁性薄膜メモリ素子で、アドレスを示すために1aa,1ab,・・・・1ccのようにサフィックスを付してあるが、とくに区別の必要のないばあいには単に1を用いる。他の符号についても同様とする。2〜6はいずれもスイッチング用のトランジスタである。I1は電流源、V2は正の電圧源、Vαβは磁性薄膜メモリ素子1acの両端の電圧を示す。図中、実線は再生用の配線、破線は記録用の配線を示す。
【0014】磁性薄膜メモリ素子1には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。この保持力の大きな磁性層aとしては、たとえばNiCoPt、NiCoTa、NiCoCr、NiCoZr、NiCoなどの各合金を用いた磁性層で形成され、保磁力の小さな磁性層bは、たとえばNiFe、NiFeCoなどの各合金を用いた磁性層で形成される。また、非磁性層としては、Cu、Cr、V、W、Al、Al−Taなどの非磁性材料で形成される。この磁性薄膜を作製するには絶縁基板、たとえばSiO2やSiNxなどの絶縁膜で覆われたSi基板やガラス基板に前述の磁性層a、非磁性層c、磁性層b、非磁性層cを各々30〜70Å、好ましくは40〜60Åの厚さで順次成膜し、この組み合せを5〜20周期、好ましくは10〜15周期繰り返し、全体で500〜5000Å、好ましくは1000〜3000Åの厚さに形成する。この成膜の方法としては、スパッタ法、MBE法、超高真空蒸着、電子ビーム蒸着、真空蒸着などにより形成することができる。このうちスパッタ法としては、パワー制御が比較的容易なDCマグネトロンスパッタが便利であるが、RFスパッタなど、他のスパッタ法でも形成できる。
【0015】磁性層aおよび磁性層bの磁化方向は、たとえば、磁性薄膜メモリ素子1の磁気シールドを行う前に、面内の方向で記録用の配線に対して垂直方向のある方向に大きな磁界をメモリ素子の全体に印加するなどして、一定方向、たとえば紙面上で上向きになるように揃えておく。
【0016】まず、記録方法について述べる。記録は各磁性薄膜メモリ素子の磁化の向きによって行われる。磁性薄膜メモリ素子の記録を携わる磁性層bの磁化の向きは面内の方向に存在するので、いま、再生用の配線に流れる電流の方向と同じ磁化方向(紙面上では下向き)を「1」、逆向きの磁化方向(紙面上では上向き)を「0」としてそれぞれ2値的デジタル情報に対応させることとする。たとえば磁性薄膜メモリ素子1acに「1」の記録を行うばあい、すなわち磁化の向きを紙面上で下向きに書き込むばあいについて図1〜2を用いて説明する。
【0017】図1において、記録が行われないときには、スイッチ4a,4b,4c,4dおよびスイッチ5a,5bはすべて開いており、破線で示した記録用の配線には、電流は流れない。磁性薄膜メモリ素子1acに「1」の記録を行うばあい、スイッチ2a,3c,6aを閉じる。このとき、再生用の配線および磁性薄膜メモリ素子1acには、比較的大きな電流I1が流れる。そのときの電流の状態を図2に示す。図2における21は図1R>1における再生用の配線、22は図1において破線で示した記録用の配線である。図2に示すように、この電流I1によって磁性薄膜メモリ素子1acにはバイアス磁界H1が印加され、磁化の向きはバイアス磁界の向きに少し傾く。このあとで、スイッチ4a,5aを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子1acの直上の記録用の配線22には、紙面上で右から左に電流I2が流れ、磁性薄膜メモリ素子1acには紙面上で上から下向きに磁界H2が印加される。磁性薄膜メモリ素子1acにもともと「1」が記録されていたばあいは、この磁界H2によって紙面下向きの磁化の方向に戻され、「1」の記録は保持される。磁性薄膜メモリ素子1acにもともと「0」が記録されていたばあいは、磁性薄膜メモリ素子1の磁性層bにおける紙面で上向きの磁化の方向は、磁界H2だけでは反転しないような保磁力Hcbを有しており、バイアス磁界H1が印加されているばあいのみ紙面で下向きに磁化が反転し、磁性薄膜メモリ素子1acのみを「1」の状態に記録することができる。図中磁性薄膜メモリ素子1ac内の矢印は磁化の面内方向の向きを示している。磁性薄膜メモリ素子1acに「0」の記録を行うばあいは、スイッチ5aの代わりにスイッチ5bを接続し、図2の右側のようにI2を流す以外は全く同じ方法で行う。
【0018】図3には、以上のような「0」および「1」の記録状態のときの磁性薄膜メモリ素子の断面図を示している。磁性薄膜メモリ素子1acの磁性層aの磁化の向きと磁性層bの磁化の向きは「0」では平行(磁化の向きが同じ方向、以下同じ)、「1」では反平行(磁化の向きが逆方向、以下同じ)となっている。
【0019】磁性薄膜メモリ素子1ac以外の他のメモリ素子への記録も同様に行うことができる。
【0020】以上の実施例は記録の際の磁性層aおよび磁性層bの磁化方向が再生電流の方向と同じ方向のばあいを示したが、別の実施例として磁性層aおよび磁性層bの磁化方向が再生電流の方向と垂直なばあいを図4を用いて示す。
【0021】図4において41は磁性薄膜メモリ素子で、アドレスを示すために41aa,41ab,・・・・41ccのようにサフィックスを付してあるが、とくに区別の必要のないばあいには単に41を用いる。他の符号についても同様とする。42〜47はいずれもスイッチング用のトランジスタである。I1は電流源、V2は正の電圧源、Vαβは磁性薄膜メモリ素子41acの両端の電圧を示す。図中、実線は再生用の配線、破線は記録用の配線を示す。
【0022】磁性薄膜メモリ素子41には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。磁性層aおよび磁性層bの磁化方向は、たとえば、磁性薄膜メモリ素子41の磁気シールドを行う前に、面内の方向で再生用の配線に対して垂直方向のある方向に大きな磁界をメモリ素子の全体に印加するなどして、一定方向、たとえば紙面上で左向きに揃えておく。
【0023】記録は各磁性薄膜メモリ素子の磁化の向きによって行われる。磁性薄膜メモリ素子の記録を携わる磁性層bの磁化の向きは面内の方向に存在するので、紙面上で右向きを「1」の状態、左向きを「0」の状態としてそれぞれ2値的デジタル情報に対応させることとする。たとえば磁性薄膜メモリ素子41acに「1」の記録を行うばあい、すなわち磁化の向きを紙面上で右向きに書き込むばあいについて図4〜5を用いて説明する。
【0024】図4において、記録が行われないときには、スイッチ44a,44b,44c,44dおよびスイッチ45a,45b,47a,47b,47c,47dはすべて開いており、破線で示した記録用の配線には、電流は流れない。磁性薄膜メモリ素子41acに「1」の記録を行うばあい、スイッチ44aを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子41acには紙面右から左に比較的大きな電流I3が流れる。そのときの電流の状態を図5に示す。図5における、52、53は図4において破線で示した記録用の配線である。図5に示すように、この電流I3によって磁性薄膜メモリ素子41acにはバイアス磁界H3が印加され、磁化の向きはバイアス磁界の向きに少し傾く。このあとで、スイッチ45a,47cを閉じる。このとき、磁性薄膜メモリ素子41acの直上の記録用の配線52には紙面上で上から下に電流I2が流れ、磁性薄膜メモリ素子41acには紙面上で左から右向きに磁界H2が印加される。磁性薄膜メモリ素子41acにもともと「1」が記録されていたばあいは、この磁界H2によって紙面で右向きの磁化の方向に戻され、「1」の記録は保持される。磁性薄膜メモリ素子41acにもともと「0」が記録されていたばあいは、磁性薄膜メモリ素子41の磁性層bの紙面で左向きの磁化の方向は、磁界H2だけでは反転しないような保磁力Hcbを有しており、バイアス磁界H3が印加されているばあいのみ紙面で右向きに磁化が反転し、磁性薄膜メモリ素子41acのみを「1」の状態に記録することができる。図中磁性薄膜メモリ素子41ac内の矢印は磁化の面内方向の向きを示している。磁性薄膜メモリ素子41acに「0」の記録を行うばあいは、スイッチ45aの代わりにスイッチ45bを接続し、図5の右側のようにI2を流す以外は全く同じ方法で行う。
【0025】図6には、以上のような「0」および「1」の記録状態のときの磁性薄膜メモリ素子の断面図を示している。磁性薄膜メモリ素子41acの磁性層aの磁化の向きと磁性層bの磁化の向きは「0」では平行、「1」では反平行となっている。
【0026】磁性薄膜メモリ素子41ac以外の他のメモリ素子への記録も同様に行うことができる。
【0027】以上のようにして記録できるので、記録用の配線と磁性薄膜メモリ素子とのあいだを2000〜5000Å程度にまで狭めることができ、また、記録用の配線を磁性薄膜メモリ素子の直上もしくは直下に配置でき、垂直方向の磁界で記録を行うようなメモリデバイスに必要となる記録用の配線のためのスペースをとくにとる必要がなく、省スペース化が行え、高密度化が達成できる。
【0028】再生方法の説明の前に、本発明における磁性薄膜メモリ素子に用いた磁性薄膜について簡単に説明する。磁性薄膜には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いた。
【0029】図7には磁性層aおよび磁性層bの外部印加磁界Hexに対する磁化Mの変化と前記人工格子膜の外部印加磁界に対する抵抗MRの変化を対比させて示してある。図7においてポイント
【0030】以上のようにポイント
【0031】つぎに、この人工格子薄膜を用いた再生方法について述べる。たとえば、図1における磁性薄膜メモリ素子1acの情報を読みたいとき、スイッチ2a、3c、6a、6bを閉じる。これにより、磁性薄膜メモリ素子1acにのみ図1の上から下に電流が流れる。この状態でαとβのあいだの電圧を測定することにより、磁性薄膜メモリ素子1acの磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいの電圧VAと反平行のばあいの電圧VBとを再生出力として検出できる。電圧VAと電圧VBは配線の抵抗を考慮してもなお、5%以上の差が生じるので、適当な大きさの臨界電圧を定めておけば、再生出力が臨界電圧より大きいか小さいかで磁化の向きが平行(「0」)か反平行(「1」)かを判別できる。
【0032】図4における磁性薄膜メモリ素子41acの情報を読みたいときも同様で、スイッチ42a、43c、46a、46bを閉じる。これにより、磁性薄膜メモリ素子41acにのみ図4の上から下に電流が流れる。この状態でαとβのあいだの電圧を測定することにより、磁性薄膜メモリ素子41acの磁性層aと磁性層bの磁化の向きが平行のばあいの電圧VAと反平行のばあいの電圧VBとを再生出力として検出できる。電圧VAと電圧VBは配線の抵抗を考慮してもなお、5%以上の差が生じるので適当な大きさの臨界電圧を定めておけば、再生出力が臨界電圧より大きいか小さいかで磁化の向きが平行(「0」)か反平行(「1」)かを判別できる。
【0033】また、別の再生方法として、再生時に磁化の変化を利用して読む方法もある。図8は図1における磁性薄膜メモリ素子1acの記録状態を読むときのスイッチの開閉動作のタイムチャートである。チャートに示していないスイッチはすべて開いた状態にある。まず、t0〜t3においてはスイッチ2a,3c,6aは閉じ、磁性薄膜メモリ素子1acは再生状態にあり、また、紙面左右方向にバイアス磁界が印加される。t1〜t2においては、スイッチ4a,5a,6bはいずれも閉じており、これにより、磁性薄膜メモリ素子1acには面内方向で紙面下向きに磁界が印加される。
【0034】もし、素子の磁化の方向の初期状態が紙面で下向きであれば、磁界により磁化方向は変化せず、したがって「1」が再生される。他方、初期状態が紙面で上向きのときは、保磁力Hcb以上の磁界が印加されるt1〜t2において磁化は紙面下向きに反転する。この反転は、再生信号として検出され、「0」が再生されたことになる。しかし、「0」が再生されたときは、再生以前の紙面上向きの磁化方向が失われているため、もう一度再生以前の磁化状態に戻す必要がある。t1〜t3において再生信号の変化が観測されたときには、t4〜t5においてスイッチ4a、5bを閉じるのは以上に述べた理由による。図4においても同様の再生方法をとることができる。
【0035】[実施例1]このような磁性薄膜の具体的な例を作成方法と共にのべる。
【0036】磁性薄膜メモリ素子となる磁性薄膜には保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を作製した。たとえば磁性層aにはNiCoPt合金(以下、NiCoPtという)を用い、磁性層bにはNiFe合金(以下、NiFeという)を用いた。また、非磁性層cにはCuを用いた。成膜方法としては、DCマグネトロンスパッタ法を用いた。スパッタ装置にはNiFe、NiCoPt、Cuの3つのターゲットを1つのチャンバー内に配置した。基板には表面をSiO2の絶縁膜で覆われたSi基板を用いた。スパッタ時の圧力は1〜8mTorrで成膜速度は毎分約30Åで行った。(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)を15周期繰り返し、トータル膜厚約3000Åの人工格子膜を作製した。
【0037】以上のようにして作製された磁性薄膜の典型的な磁化曲線とMR曲線を図9〜10に示す。図9は面内の方向で外部より磁界を印加したときの磁化曲線で、横軸に印加磁界Hexの強さ(Oe)、縦軸に磁化Mの変化を表わしている。図10は面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁気抵抗MRの変化を示す曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示している。磁化曲線は2段階の変化を示し、1段目の6(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の850(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。1段目の変化は10(Oe)で飽和している。MR曲線より抵抗も6(Oe)付近から大きくなり始め、10(Oe)付近で飽和している。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、10(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は12%を示した。これにより(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、10(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかる。図11および図12にはNiFe層とNiCoPt層の磁化曲線の変化を独立に調べるためにNiFe/CuおよびNiCoPt/Cuの人工格子膜を作製して、横軸に外部磁界Hex、縦軸に磁化Mをとり磁化曲線を描いた。磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために、Cu層厚は約300Åと充分厚くした。磁化曲線の立ち上がりの磁界(磁化が反転しはじめる磁界)、保磁力、飽和磁界をそれぞれHn、Hc、Hsとして図13に示すように定義した。図11および図12より求めたHn、Hc、Hsを表1にまとめた。
【0038】
【表1】
表1よりわかるようにNiCoPt層のHnはNiFe層のHsより充分に大きく、その差は700(Oe)以上ある。このように、NiFe層が磁化反転する磁界領域ではNiCoPt層の磁化の方向がほとんど動いていないためにMR曲線の変化が急峻なものになっている。
【0039】図14はこの人工格子膜±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化を示す磁化曲線で、図15はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に6(Oe)の一定磁界を印加したまま図14と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化の磁化曲線を示す。図14では磁化反転に10(Oe)の外部磁界を必要としたが、図15では5(Oe)の磁界で磁化が反転している。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を6(Oe)に制御しておけば、記録用の配線により発生される磁界を5〜6(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみに記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行うことによりできる。以上のように、この(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いることにより図1に示すようなメモリデバイスを作製できた。
【0040】[比較例1]このような磁性薄膜の別の例をのべる。
【0041】磁性薄膜メモリ素子となる磁性薄膜に、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていた。この磁性層aのNiCoPtの代わりにCoを用いたばあいの磁化曲線とMR曲線を図16〜17に示す。図16は図9と同様に面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁化Mの変化の曲線で、図17は図10と同様に面内の方向で外部より磁界Hexを印加したときの磁気抵抗MRの変化のMR曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示している。成膜方法は実施例1と同様に行った。磁化曲線は2段階の変化を示し、最初の5(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の300(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。どちらの変化もなだらかで1段目が終了する磁界は10(Oe)に達し、2段目が飽和する磁界は500(Oe)に達する。図17のMR曲線より抵抗は10(Oe)付近で大きくなるが、すぐ減少をはじめ500(Oe)付近で飽和する。このことは磁性層aおよびbの磁化反転とよい一致を示している。また、10(Oe)付近で大きくなった抵抗は、磁界をゼロに戻しても維持されず少し減少するが、磁界印加前との変化率は4%にとどまる。これにより(Co/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、記録を行うのに10(Oe)の印加磁界が必要であることがわかる。NiFe層とCo層の磁化曲線の変化を独立して調べるため、NiFe/CuおよびCo/Cu人工格子膜を作製し、外部磁界Hexに対する磁化Mの変化の磁化曲線を図18および図19にそれぞれ示した。磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために、Cu層の厚さは約300Åと充分厚くした。図13に示すように、磁化曲線の立ち上がりの磁界、保磁力、飽和磁界をそれぞれHn、Hc、Hsとして、図18および図19より求めたHn、Hc、Hsを表2にまとめた。
【0042】
【表2】
表2よりわかるように、Co層のHnはNiFe層のHsより40(Oe)しか大きくない。また、図19からわかるように、Co層の磁化はHnより小さな磁界からすでに反転し始めており、NiFe層が磁化反転する磁界でCo層の磁化が徐々に動いているためにMR曲線の変化が鈍くなっている。このように保磁力の大きい方の層のHnが、保磁力の小さい方の層のHsより小さくないばあいでも保磁力の小さい方の層が磁化反転する磁界で保磁力の大きい層の磁化の反転が始まっていればMR曲線の変化は鈍くなるので好ましくない。
【0043】図20は図17における外部磁界±20(Oe)付近の拡大図を示す。図20でMRの変化がなだらかでしかもゼロ磁界より以前に変化が始まっている。図21はこの人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線で、図22はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に6(Oe)の一定磁界を印加したまま図21と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線を示している。図21は図20とよい対応を示しており、図22でも磁化反転はなだらかであり、特定の磁界を選んで、実施例1のように図1におけるたとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録するようなことは不可能となる。
【0044】以上のように、この(Co/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いても、図1に示すようなメモリデバイスを作製することは不可能であった。
【0045】[実施例2]このような磁性薄膜の別の実施例について説明する。
【0046】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていた。この人工格子膜を作成する前に、下地層として基板上にCrを500Åを形成したばあいの人工格子膜の磁化曲線とMR曲線を図9〜10と同様に、図23〜24に示す。図23は面内の方向で外部より磁界を印加したときの磁化曲線で、図24は面内の方向で外部より磁界を印加したときのMR曲線、および印加磁界による各層の磁化の向きの変化を示す。成膜方法はCrの膜をまずスパッタ法により形成し、そののちの各磁性層などは実施例1と同様に行った。
【0047】磁化曲線は2段階の変化を示し、1段目の5(Oe)付近での変化が磁性層bの磁化反転、2段目の1200(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示している。これは、下地層としてCrを敷くことによりNiCoPt層のC軸がより面内方向に向き易くなったため、実施例1に比べて保磁力が大きくなっている。1段目の変化は7(Oe)で飽和している。MR曲線より抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和している。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持される。また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は18%を示した。さらに逆向きに磁界を印加したところ、抵抗は−3(Oe)付近から減少しはじめ、−5(Oe)付近で元にもどる。これによりCr/(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかる。図25はこの人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線で、図26はそののち、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま図25と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界Hexを印加したときの磁化Mの曲線を示している。図25では磁化反転に+7(Oe)、−5(Oe)の外部磁界を必要としたが、図26では+4(Oe)、−2(Oe)の磁界で磁化が反転している。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、+V2を印加したときに記録用の配線により発生される磁界を4〜5(Oe)に、−V2を印加したときに記録用の配線により発生される磁界を−2〜3(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみに記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0048】以上のように、このCr/(NiCoPt/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いて図1R>1に示すような磁性薄膜メモリを作製すると、記録電圧を小さくすることができる。
【0049】[実施例3]このような磁性薄膜のさらに別の実施例について説明する。
【0050】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜には、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例2では、下地層としてCrを用い、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていたが、磁性層aのNiCoPtの代わりにNiCoTa合金(以下、NiCoTaという)、NiCoCr合金(以下、NiCoCrという)、NiCoZr合金(以下、NiCoZrという)、NiCo合金(以下、NiCoという)を用いた。成膜方法は、実施例1と同様に行った。
【0051】磁化曲線は実施例2と同じく、2段階の変化を示した。磁性層bの磁化反転を示す1段目の変化は磁性層aがNiCoTa、NiCoCr、NiCoZr、NiCoともほぼ同じく5(Oe)付近での変化がおこっており、磁性層aの磁化反転を示す2段目の変化はNiCoTaのばあい900(Oe)、NiCoCrのばあい600(Oe)、NiCoZrのばあい800(Oe)、NiCoのばあい350(Oe)付近の変化が磁性層aの磁化反転を示した。1段目の変化は何れのばあいも7(Oe)で飽和した。MR曲線より抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和した。このことは磁性層bの磁化反転とよい一致を示している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率はNiCoTaのばあい16%、NiCoCrのばあい15%、NiCoZrのばあい12%、NiCoのばあい14%を示した。これによりCr/(NiCoTa/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoCr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoZr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCo/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録が可能であることがわかった。
【0052】この人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線は実施例1と同様で、単に±20(Oe)の外部磁界を印加したときには7(Oe)の外部磁界を必要としたが、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま±20(Oe)の外部磁界を印加したときには4(Oe)の磁界で磁化が反転した。このことは、図1における再生用の配線により発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、記録用の配線により発生される磁界を4〜5(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0053】以上のようにこのCr/(NiCoTa/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoCr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCoZr/Cu/NiFe/Cu)×15、Cr/(NiCo/Cu/NiFe/Cu)×15の人工格子膜を用いて、図1に示すようなメモリデバイスを作製しても、低い電圧で記録することができる。
【0054】以上のような材料についてもCr/NiCoTa、Cr/NiCoCr、Cr/NiCoZr、Cr/NiCoZr、Cr/NiCoの人工格子膜を作製した。下地となるCr層は500Åとし、その他のCr層は、磁性層間の磁気的な相互作用を小さくするために300Åと充分厚くした。それぞれの立ち上がりの磁界Hn、保磁力Hc、飽和磁界Hsを表3にまとめた。
【0055】
【表3】
表3に示すように、保磁力の大きい層のHnと保磁力の小さい層のHsの差が200(Oe)あれば、図1に示すようなメモリデバイスを作製することができる。
【0056】[実施例4]このような磁性薄膜のさらに別の実施例について説明する。
【0057】磁性薄膜メモリ素子とする磁性薄膜に、保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いる。たとえば実施例1では、磁性層aにはNiCoPtを用い、磁性層bにはNiFeを用い、非磁性層cにはCuを用いていたが、磁性層bのNiFeの代わりにNiFeCo合金(以下、NiFeCoという)を用いた。成膜方法は、実施例1と同様に行った。
【0058】磁化曲線は実施例1と同じく、2段階の変化を示した。磁性層bの磁化反転を示す1段目の変化は、5(Oe)付近での変化がおこっており、磁性層aのNiCoPtの磁化反転を示す2段目の変化は850(Oe)付近で起こった。1段目の変化は、7(Oe)で飽和した。MR曲線から抵抗も5(Oe)付近から大きくなり始め、7(Oe)付近で飽和した。このことは磁性層bの磁化反転とよく一致している。また、7(Oe)付近で大きくなった抵抗は、さらに磁界を印加してもしばらく維持され、また、磁界をゼロに戻しても維持されており、磁界印加前との変化率は18%を示した。これにより(NiCoPt/Cu/NiFeCo/Cu)×15からなる人工格子膜を用いたばあい、7(Oe)以上の印加磁界で記録できることがわかる。この人工格子膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線も実施例1と同様で、単に±20(Oe)の外部磁界を印加したときには7(Oe)の外部磁界を必要としたが、最初に印加した磁界の方向に対して垂直方向に4(Oe)の一定磁界を印加したまま±20(Oe)の外部磁界を印加したときには4(Oe)の磁界で磁化が反転した。このことは、図1における再生用の配線より発生される磁界を4(Oe)に制御しておけば、記録用の配線より発生される磁界を4〜5(Oe)に制御することで、たとえば磁性薄膜メモリ素子1acのみを記録することができる。再生は前述の再生方法の通り行えば再生することができる。
【0059】以上のように、この(NiCoPt/Cu/NiFeCo/Cu)×15の人工格子膜を用いることで図1に示すようなメモリデバイスを作製することができた。
【0060】
【発明の効果】メモリ素子として保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層してなる人工格子膜を用いたので、膜面に平行な磁界を印加して記録を行うことができ、記録用の配線を磁性薄膜メモリ素子の直上もしくは直下に配置することが可能で、記録用の配線と素子の間隔を小さくすることができ、省電力化、高密度化を達成できる。また、磁性層aと磁性bの磁化の向きが平行のばあいと反平行のばあいとで抵抗が変化することを利用しているため、バイアス磁界を印加せずに再生することもでき、また、その際の抵抗の変化率が大きいため、再生信号の検出を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。
【図2】磁性薄膜メモリ素子1acの直上あるいは直下の記録用の配線に流れる電流の状態を表わす図である。
【図3】磁性薄膜の磁化状態を表わす断面説明図である。
【図4】本発明の別の実施例の磁性薄膜メモリの構成を示す概念図である。
【図5】磁性薄膜メモリ素子41acの直上あるいは直下の記録用の配線に流れる電流の状態を表わす図である。
【図6】磁性薄膜の磁化状態を表わす断面説明図である。
【図7】本発明に用いた磁性薄膜の磁気特性および抵抗変化を表わす概念図である。
【図8】磁性薄膜メモリ素子1acの記録状態を読むときのスイッチの開閉動作のタイムチャートを示す図である。
【図9】実施例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図10】実施例1に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図11】NiFe/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図12】NiCoPt/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図13】Hn,Hc,Hsの定義を示した図である。
【図14】実施例1に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図15】図14で印加した磁界に対して垂直方向に6(Oe)の磁界を印加したまま図14と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの実施例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図16】比較例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図17】比較例1に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図18】NiFe/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図19】Co/Cu積層膜の磁化曲線を示す図である。
【図20】図17の中心部の横軸方向の拡大図である。
【図21】比較例1に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図22】図21で印加した磁界に対して垂直方向に6(Oe)の磁界を印加したまま図21と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの比較例1に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図23】実施例2に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図24】実施例2に用いた磁性薄膜の抵抗変化を示す図である。
【図25】実施例2に用いた磁性薄膜に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの磁化曲線を示す図である。
【図26】図25で印加した磁界に対して垂直方向に4(Oe)の磁界を印加したまま図25と同じ方向に±20(Oe)の外部磁界を印加したときの実施例2に用いた磁性薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図27】従来の磁性薄膜メモリ素子を組み立てた状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1、41 磁性薄膜メモリ素子
a 保持力の大きな磁性層
b 保持力の小さな磁性層
c 非磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されていることを特徴とする磁性薄膜メモリ素子。
【請求項2】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されており、前記保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶することを特徴とする磁性薄膜メモリ素子。
【請求項3】 前記保磁力の小さな磁性層bの磁化反転が起こる磁界領域で、前記保磁力の大きな磁性層aの磁化の方向が動かないように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項4】 前記保磁力の大きな磁性層aの磁化が反転しはじめる磁界が、前記保磁力の小さな磁性層bの磁化が飽和する磁界よりも大きくなるように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項5】 前記保磁力の大きな磁性層aの磁化が反転しはじめる磁界として定めたHnが、保磁力の小さな磁性層bの磁化が飽和する磁界として定めたHsより200(Oe)以上大きくなるように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項6】 前記磁性層aとしてNiCoPt合金を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項7】 前記磁性層bとしてNiFe合金もしくはNiFeCo合金を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項8】 前記磁性薄膜を積層する前に下地層としてCr層を設けることを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項9】 前記磁性薄膜を積層する前に下地層としてCr層を設け、前記磁性層aとしてNiCo合金、NiCoM合金(M=Pt、Ta、Cr、Zr)を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項10】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子の記録方法であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成され、該保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶させることを特徴とする磁性薄膜メモリ素子の記録方法。
【請求項1】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されていることを特徴とする磁性薄膜メモリ素子。
【請求項2】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成されており、前記保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶することを特徴とする磁性薄膜メモリ素子。
【請求項3】 前記保磁力の小さな磁性層bの磁化反転が起こる磁界領域で、前記保磁力の大きな磁性層aの磁化の方向が動かないように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項4】 前記保磁力の大きな磁性層aの磁化が反転しはじめる磁界が、前記保磁力の小さな磁性層bの磁化が飽和する磁界よりも大きくなるように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項5】 前記保磁力の大きな磁性層aの磁化が反転しはじめる磁界として定めたHnが、保磁力の小さな磁性層bの磁化が飽和する磁界として定めたHsより200(Oe)以上大きくなるように前記磁性層aと前記磁性層bとが選定されてなることを特徴とする請求項2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項6】 前記磁性層aとしてNiCoPt合金を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項7】 前記磁性層bとしてNiFe合金もしくはNiFeCo合金を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項8】 前記磁性薄膜を積層する前に下地層としてCr層を設けることを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項9】 前記磁性薄膜を積層する前に下地層としてCr層を設け、前記磁性層aとしてNiCo合金、NiCoM合金(M=Pt、Ta、Cr、Zr)を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の磁性薄膜メモリ素子。
【請求項10】 磁性薄膜の磁化の向きによって情報を記憶し、記憶した情報を磁気抵抗効果による素子の抵抗変化を利用して読み出す方法を用いる磁性薄膜メモリ素子の記録方法であって、前記磁性薄膜が保磁力の大きな磁性層aと保磁力の小さな磁性層bとを非磁性層cを介してa/c/b/c/a/c/b/c・・・・というふうに積層して形成され、該保磁力の小さな磁性層bの磁化の向きにより、情報を記憶させることを特徴とする磁性薄膜メモリ素子の記録方法。
【図2】
【図3】
【図5】
【図1】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
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【図13】
【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開平5−266651
【公開日】平成5年(1993)10月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−63028
【出願日】平成4年(1992)3月19日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【公開日】平成5年(1993)10月15日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)3月19日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
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