説明

磁性金属部材の欠落検出方法およびその装置

【課題】電子回路を付加することなく簡単な構造で磁性金属部品を確実で検出することができる磁性金属部材の欠落検出方法およびその装置を目的とするものである。
【解決手段】永久磁石5の吸着力により浮動することのない被検査体10の磁性金属部材11が該被検査体10と一定距離離隔させて配置される永久磁石5を吸引し、該永久磁石5が吸引される力を荷重計3に伝達して磁性金属部材11の欠落を検知することを特徴とする磁性金属部材の欠落検出方法および永久磁石5の吸着力により浮動することがない被検査体10と一定距離離隔されて配置される永久磁石5と、被検査体10の磁性金属部材11に吸引されることによって永久磁石5に加えられる力を直接検出する荷重計3とからなることを特徴とする磁性金属部材の欠落検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性金属部材が成形品の所定位置に取り付けられているかを検査する磁性金属部材の欠落検出方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックス成形品にインサートされる磁性金属よりなるナットやボルト、あるいはアルミ製のエンジンブロックに一体的にインサートされる磁性金属よりなるシリンダライナ等のインサート部材の欠落は、目視検査やシリンダライナ内に近接スイッチを挿入配置させて行うのが一般的であった。しかし、目視検査では検査ミスをなくすることが難しいうえに省力化を推進できないという問題があった。また、近接スイッチによる検査では移送されてくるエンジンブロックを検査毎に停止させる必要があり、製造ラインの速度を低下させるという問題があった。また、各種繊維製品に混入する折れ針や待ち針等の磁性金属部品を永久磁石で探知するものがある(例えば、特許文献2参照)。さらに、微小変位を永久磁石と超磁歪素子により検出するものがある(例えば、特許文献3参照)。また、磁性体検出装置として磁石と磁気センサとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、永久磁石の直流磁界中の直流磁束と鎖交する磁性金属部材とにより生じる電圧から磁性金属部品を検出する特許文献2のものは、第1と第2の検出コイルに発生した検出信号は微弱であるため新たな電子回路を付加する必要があり、装置が複雑で高価なものとなる問題があった。また、特許文献3のものも磁力を超磁歪素子により検出するものであるから、前記と同様に電子回路が必要となり、装置が複雑で高価なものとなる問題があった。特許文献1のものも磁気センサの検知結果に基づきCPUにより判断を行うものであり、装置が高価となる問題があった。
【特許文献1】特開平8−304007号公報
【特許文献2】特開平10−90431号公報
【特許文献3】特開2005−43239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、電子回路を付加することなく簡単な構造で磁性金属部品を確実で検出することができる磁性金属部材の欠落検出方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、永久磁石の吸着力により浮動することのない被検査体の磁性金属部材が該被検査体と一定距離離隔させて配置される永久磁石を吸引し、該永久磁石が吸引される力を荷重計に伝達して磁性金属部材の欠落を検知する磁性金属部材の欠落検出方法を請求項1の発明とし、永久磁石の吸着力により浮動することがない被検査体と一定距離離隔されて配置される永久磁石と、被検査体の磁性金属部材に吸引されることによって永久磁石に加えられる力を直接検出する荷重計とからなる磁性金属部材の欠落検出装置を請求項2の発明とし、請求項2の発明において、永久磁石と被検査体が相対的に移動されて走査が行われる磁性金属部材の欠落検出装置を請求項3の発明とし、請求項2または3の発明において、二つの永久磁石を筒状の磁性金属部材の外径位置に対向させて臨ませるとともに走査方向と直交するように配置させた磁性金属部材の欠落検出装置を請求項4の発明とし、請求項4の発明において、永久磁石の極性を異なせた磁性金属部材の欠落検出装置を請求項5とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、永久磁石の吸着力により浮動することのない被検査体の磁性金属部材が該被検査体と一定距離離隔させて配置される永久磁石を吸引し、該永久磁石が吸引される力を荷重計に伝達して磁性金属部材の欠落を検知するものであるから、永久磁石にかかる吸引力は荷重計に直接かかるので、荷重計は永久磁石に対する吸引力を直接検出することとなって従来の磁力を検出する装置より簡単な構造となり、新たな電子回路を付加させることなく磁性金属部材を高精度で検知することができる。また、駆動機構が必要ないので故障が生じにくいうえに非接触による検出であるため摩耗や損傷が生じ難く長期耐用できるものとなる。
【0007】
また、請求項3のように、永久磁石と被検査体が相対的に移動されて走査が行われるものとすることにより、最小の永久磁石数で広い面積を有する被検査体の検査が可能となる。また、永久磁石を固定として被検査体を可動するものとすれば、製造ライン等から搬送されていく被検査体を検査することができる。
【0008】
請求項4のように、二つの永久磁石を筒状の磁性金属部材の外径位置に対向させて臨ませるとともに走査方向と直交するように配置させたものとすることにより、永久磁石による磁性金属部材への吸引力をより大きくすることができ、筒状の磁性金属部材を確実に検知して検出精度を向上させることができる。
【0009】
請求項5のように、永久磁石の極性を異なせることにより、磁束はループ状となり永久磁石の吸着力は強くなり検出精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、図1、2に示されるアルミダイカスト成形されたエンジンブロックにインサートされる磁性金属部材よりなるシリンダライナの欠落を検出する装置に基づいて本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
図1中、1は検査装置であり、該検査装置1はベース2に取り付けられる荷重計3と、該荷重計3の着力点を下面に当接させてベース2に取り付けられる軸受に基端を枢軸により枢着させたブラケット4と、該ブラケット4の先端に取り付けられる左右一対の永久磁石5とからなるもので、永久磁石5が磁性金属部材11により吸引されると、該吸引力に応じてブラケット4は下方に枢動することとなり、ブラケット4に加えられる下方への枢動力はブラケット4の下面を受ける荷重計3により直接検出されることとなる。また、永久磁石5は被検査体10と一定距離離隔され、且つ筒状の磁性金属部材11の外径位置に対向させて臨ませるとともに走査方向と直交するように配置されている。さらに、対向する二つの永久磁石5は極性を逆に異ならせて、磁性金属部材11を介して磁束がループ状に形成されるようにしている。このように磁束をループ状にすることにより永久磁石5の吸着力が増して磁性金属部材11の検出精度を高めることができる。なお、6はブラケット4に生じる振動を吸収するばねであり、該ばね6により振動を吸収することにより検出精度の低下を防止するものとしているが、検査装置1を上向きとして配置させる場合にはブラケット4が重力で垂れ下がらないように吊下げるばね6が必須となることはいうまでもない。また、基端をベース2に枢着させた前記ブラケット4は、ブラケット4の下面に配置される荷重計3の位置を調整することにより検出精度を変更することができる。
【0011】
前記被検査体10はアルミ製のエンジンブロックとして60〜80kgの重量があるので永久磁石5の吸着力により浮動されることはなく、ブラケット4に取り付けられる永久磁石5が吸引されるようになっている。また、該エンジンブロックはコンベア等により次工程へ搬送される間に検査されて磁性金属部材11としてのシリンダライナの欠落が検出されるものとしている。磁性金属部材11としてのシリンダライナは図3に示されるよう
にアルミ製のエンジンブロックにインサートされるものである。このような筒状のシリンダライナの欠落を検出するため永久磁石5は図3に示されるようにシリンダライナの対向する外径位置に2個対向配置させたものとし、検出値が明確なピークとして表れるようにしてシリンダライナの欠落判定をより確実に行えるようにしているが、外径位置に1個だけ配置するものとしてもよいことはいうまでもない。
【0012】
図3に示されるように2気筒目のシリンダライナが欠落したエンジンブロックを用いて静特性を実験した結果、図5に示されるようなデータが得られ、2番目の気筒位置の測定荷重がゼロであることから2気筒目のシリンダライナの欠落を検出できることが確認できた。また、図3におけるシリンダボア内に記入された1〜4の数字は気筒番号を示すものである。また、図5のグラフに示される丸枠内の1〜4の数字は各気筒位置を示すものである。
【0013】
これらの実験から、磁性金属部材11の欠落判定は荷重計3からのピーク出力電圧がエンジンの気筒数分出力されればOKとなるOK方式と、出力電圧がピークの1/2となった場合、測定開始点より第1の気筒が配設されている距離までの間にピークがない場合、測定終了点前より最後の気筒が配設されている距離までにピークがない場合等にNGとするNG方式をとることができるという知見を得た。
【0014】
このように構成されたものは、アルミダイカスト成形されて磁性金属部材11としてのシリンダライナがインサートされた被検査体10としてのエンジンブロックを次工程に搬送される際、図1、2に示されるように検査装置1の左右一対の永久磁石5の下方を通過させれば、左右一対の永久磁石5により磁性金属部材11よりなるシリンダライナは吸着されることとなる。
【0015】
被検査体10としてのエンジンブロックは重量があり永久磁石5の吸着力により浮動することがないので、永久磁石5は逆に磁性金属部材11に引き寄せられようとする。この吸引力はブラケット4を介して荷重計3に直接伝達されることとなる。そして、荷重計3に加えられるブラケット4の押圧力に応じて荷重計3は図4示されるような電圧を出力することとなる。図4においてエンジンブロックの全長を走査する時間は約1.5秒としているが、この走査時間はコンベアの搬送速度により決まることはいうまでもない。
【0016】
4気筒エンジンではシリンダライナは4つあるから、荷重計3から出力される電圧のピークは4個所となり、4つのシリンダライナがインサートされていることが判定できることとなる。もし、シリンダライナが欠落していれば図5(荷重を表示)に示されるようにピークは4箇所より少なくなるのでシリンダライナの欠落を判定できることとなる。
【0017】
なお、前記好ましい実施の形態では、被検査体10をエンジンブロックとして永久磁石5の吸着力では浮動しない重さを有しているが、被検査体10がプラスチックスように軽量で永久磁石5の吸着力で浮動するものの場合、被検査体10を固定物等に係止させて浮動しないようにすることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す一部切欠正面図である。
【図2】本発明の好ましい実施の形態を示す一部切欠側面図である。
【図3】エンジンブロック上を永久磁石が走査する状態を示す説明図である。
【図4】シリンダライナの欠落のない4気筒のエンジンブロックを約1.5秒で走査した際、荷重計より出力される電圧を示すグラフである。
【図5】2気筒目のシリンダライナが欠落したエンジンブロックを始端から終端まで走査した際、荷重計が検出した荷重値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0019】
3 荷重計
5 永久磁石
10 被検査体
11 磁性金属部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石の吸着力により浮動することのない被検査体の磁性金属部材が該被検査体と一定距離離隔させて配置される永久磁石を吸引し、該永久磁石が吸引される力を荷重計に伝達して磁性金属部材の欠落を検知することを特徴とする磁性金属部材の欠落検出方法。
【請求項2】
永久磁石の吸着力により浮動することがない被検査体と一定距離離隔されて配置される永久磁石と、被検査体の磁性金属部材に吸引されることによって永久磁石に加えられる力を直接検出する荷重計とからなることを特徴とする磁性金属部材の欠落検出装置。
【請求項3】
永久磁石と被検査体が相対的に移動されて走査が行われる請求項2に記載の磁性金属部材の欠落検出装置。
【請求項4】
二つの永久磁石を筒状の磁性金属部材の外径位置に対向させて臨ませるとともに走査方向と直交するように配置させたことを特徴とする請求項2または3に記載の磁性金属部材の欠落検出装置。
【請求項5】
永久磁石の極性を異なせたことを特徴とする請求項4に記載の磁性金属部材の欠落検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−187566(P2007−187566A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6208(P2006−6208)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(393011038)菱栄エンジニアリング株式会社 (59)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)