磁気シールド
【課題】磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くする。
【解決手段】磁気シールド9は、両端に開口部を備える筒状の第1シールド1と、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位を除いた領域の外周を覆う筒状の第2シールド2とを具備する。磁場の遮蔽率が最も高い部位から第2シールド2が配置された領域までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配が、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになるように、第1シールド1および第2シールド2の長さや厚みおよび配置は決められている。
【解決手段】磁気シールド9は、両端に開口部を備える筒状の第1シールド1と、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位を除いた領域の外周を覆う筒状の第2シールド2とを具備する。磁場の遮蔽率が最も高い部位から第2シールド2が配置された領域までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配が、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになるように、第1シールド1および第2シールド2の長さや厚みおよび配置は決められている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサーを用いた生体磁気計測システム等に用いられる磁気シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサーを用いた生体磁気計測システム等に用いられる様々な磁気シールドが開発されている。特許文献1には、超電導体の壁面からの磁場の染み込み量を減らすために、間隔を開けて磁気シールド体の所望領域の外部を高透磁率部材によって囲んだ磁気シールド構造が開示されている。特許文献2には、両端に開口をもつ円筒形強磁性体と、円筒形強磁性体の両開口端の近傍内部に配置された超電導閉ループ容器とを有することで、円筒形強磁性体の軸方向及びこの軸に垂直方向の外部磁場を遮蔽する磁気シールド装置が開示されている。特許文献3には、両端が開放の筒型に形成された第1の磁気遮蔽装置と、両端もしくは計測対象物に近い方の1方向が開放の筒型に形成され、筒軸方向が第1の磁気遮蔽装置の筒軸方向と略直交するように第1の磁気遮蔽装置内に配置された第2の磁気遮蔽装置とにより、筒軸方向に略平行な磁場検出方向を有し第2の磁気遮蔽装置内に配置された磁気センサーに対する磁場成分を遮蔽することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−299869号公報
【特許文献2】特開2004−177363号公報
【特許文献3】特開2006−340937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの磁気シールドは内部空間を外部空間の磁気から遮蔽するものであるが、磁気シールドの内部空間における遮蔽率は軸方向に分布しており、均一と見なせる領域は比較的狭かった。例えば、特許文献1に開示された技術では、磁気シールド体の所望領域の外部が高透磁率部材によって囲まれるが、この所望領域では開口から近い両端から、開口から遠い中央付近までの間に磁気遮蔽率の勾配がある。また、特許文献2に開示された技術では、開口端近傍に届く外部磁場を遮蔽するために、円筒形強磁性体の開口端近傍の内部に超電導閉ループ容器を配置するので、円筒形強磁性体の内部空間のうち利用できる領域が限定される。特許文献3の技術では、第2の磁気遮蔽装置が第1の磁気遮蔽装置の内部に、互いの筒軸方向が直交するように配置しなければならないので、第1の磁気遮蔽装置に比べて第2の磁気遮蔽装置は小さく、第1の磁気遮蔽装置の内部空間は、その大部分が有効に使用することができない。
【0005】
本発明は、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る磁気シールドは、両端に開口部を備える筒状の第1シールドと、前記第1シールドの軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位よりも前記各開口部のいずれか一方に近い当該第1シールドの領域の外周または内周を覆う筒状の第2シールドとを具備し、前記部位から前記領域までにおける前記第1シールドおよび前記第2シールドによる磁場の遮蔽率の勾配は、当該部位から当該領域までにおける前記第1シールドのみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかであることを特徴とする。
この構成によれば、第2シールドを具備しない場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記第2シールドは、前記部位よりも前記各開口部に近い各領域にそれぞれ配置されているとよい。
この構成によれば、一方の開口部に近い側にのみ第2シールドを配置した場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記第2シールドは、前記軸方向に沿って前記部位から離れるほど径方向の厚みが厚くなるように形成されているとよい。
この構成によれば、第2シールドの径方向の厚みが均一である場合に比べて、磁気シールドの軸方向における遮蔽率が均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記第1シールドと前記第2シールドとの間に空気層を有するとよい。
この構成によれば、第1シールドとの間に空気層を設けない場合に比べて、第2シールドを配置した領域の遮蔽率を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る磁気シールドは、両端に開口部を備える筒状の磁気シールドであって、軸方向の中央部を含む第1領域と、前記第1領域よりも前記各開口部のいずれか一方に近く、かつ、当該第1領域よりも径方向の厚みが厚い第2領域とを有することを特徴とする。
この構成によれば、第2領域を有しない場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気シールド9の構成を示す図である。
【図2】磁気シールド9を、その軸を含む平面で切断した断面図である。
【図3】磁気シールド9のシールドファクターを説明するための概念図である。
【図4】磁気シールド9に係るシミュレーションを説明するための図である。
【図5】変形例における磁気シールド9Aの一例を示した図である。
【図6】変形例における磁気シールド9Bの一例を示した図である。
【図7】変形例における磁気シールド9Cの一例を示す図である。
【図8】変形例における磁気シールド9Dの一例を示す図である。
【図9】変形例における磁気シールド9Eの一例を示す図である。
【図10】変形例における磁気シールド9Fの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
(1)構成
図1は、本発明の実施形態に係る磁気シールド9の構成を示す図である。図2は、磁気シールド9を、その軸を含む平面で切断した断面図である。ここで、磁気シールド9の各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、以下の図に示す座標記号のうち、内側が白い円の中に黒い円を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表している。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。同様に、y、z成分についても、y軸方向、+y方向、−y方向、z軸方向、+z方向、−z方向を定義する。
【0013】
図1に示すように、磁気シールド9は、1つの第1シールド1と2つの第2シールド2a,2b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド2」と記す)を有する。第1シールド1および第2シールド2は、いずれもy軸を中心軸とする円筒状の部材である。
【0014】
第1シールド1の内径はDである。第1シールド1の厚みはtである。したがって、第1シールド1の外径は(D+2t)である。第2シールド2は、第1シールド1の外周を密着して囲うように配置される。したがって、第2シールド2の内径D2は、第1シールド1の外径(D+2t)に等しい。第2シールド2の厚みはt2である。
第1シールド1のy軸方向の長さは2L(Lの2倍)である。第2シールド2のy軸方向の長さL2はLよりも短い(L2<L)。
【0015】
ここで、図2に示すように、第1シールド1のy軸上の中央に原点Oを定めると、磁気シールド9は、この原点Oを含みx軸およびz軸に平行な平面に関して面対称である。第2シールド2aは、原点Oよりも−y方向に配置され、第2シールド2bは、原点Oよりも+y方向に配置されている。第2シールド2aの+y側の端は、原点OからL1(L1<L)だけ−y方向に進んだ位置にある。第2シールド2bの−y側の端は、原点OからL1(L1<L)だけ+y方向に進んだ位置にある。
【0016】
ここで、第1シールド1および第2シールド2の長さ、厚みおよび配置は、原点Oから第2シールド2が配置された領域までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配が、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになるように、決められている。
【0017】
第1シールド1および第2シールド2の材料は、パーマロイ、鉄・クロム・コバルト系の各アモルファス材、フェライト焼結体、などの各磁性体材料のうち、磁気シールド9が配置される環境の磁場の強さにおける比透磁率が比較的高いものが選定される。第1シールド1および第2シールド2の材料は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0018】
(2)シールドファクター
シールドによる磁場の遮蔽率とは、そのシールドの内部空間において、外部空間の磁場がどの程度遮蔽されたかを表す割合であり、外部空間の磁場の強さに対する内部空間の磁場の強さの割合で表される。シールドファクターは、上記の遮蔽率や、この遮蔽率を対数で表したものなどである。遮蔽率が高くなるほど、シールドファクターは高くなるため、シールドファクターが最大となる点において、遮蔽率は最大となる。
【0019】
無限の長さを有する磁性体材料で形成された円筒のシールドファクターは、径方向(軸に垂直な方向)のシールドファクターをST、軸方向のシールドファクターをSLとすると、以下の式(1)、(2)でそれぞれ表される。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
上述の式(1)および式(2)における各記号の意味はそれぞれ以下のとおりである。
μ:磁性体材料の透磁率[H/m]
μ0:真空透磁率=4π×10-7[H/m]
μr=μ/μ0:磁性体材料の比透磁率
t:円筒の磁性体材料厚み[m]
D:円筒の内直径[m]
N:反磁場係数
【0023】
すなわち、径方向のシールドファクターをSTは、比透磁率μrおよび材料厚みtにそれぞれ比例し、内直径Dに反比例する項と、定数である「1」との和である。したがって、径方向のシールドファクターをSTは、比透磁率μrや材料厚みtが大きくなるほど大きくなり、内直径が大きくなるほど小さくなる。また、軸方向のシールドファクターをSLは、径方向のシールドファクターをSTに比例する項と、定数である「1」との和である。したがって、軸方向のシールドファクターをSLは、径方向のシールドファクターをSTが大きくなるほど大きくなる。なお、式(1)は、円筒の磁性体材料厚みtが円筒の内直径Dよりも極めて小さく、且つ、磁性体材料の透磁率μが1よりも極めて大きい場合に成り立つと見なせる式である。また、式(2)は、径方向のシールドファクターSTが1よりも極めて大きい場合に成り立つと見なせる式である。
【0024】
実際の磁気シールド9は、長さが有限である。そのため、磁気シールド9の中央部と両端とではシールドファクターが異なる。
図3は、磁気シールド9のシールドファクターを説明するための概念図である。図3において、横軸は原点Oから+y方向の距離を表しており、縦軸は、横軸で表された距離の点における磁場のシールドファクターを表している。図3では、原点Oを中心として+y方向と−y方向とは面対称であるため、原点Oよりも−y方向におけるシールドファクターを省略する。
【0025】
図3(a)には、磁気シールド9を構成する第1シールド1と、第2シールド2のそれぞれによるシールドファクターが別々に記載されている。図3(a)に示すように、原点Oは、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターの分布が最も高い点である。第2シールド2は、y=L1からy=L1+L2までの範囲に配置されている。したがって、第2シールド2によるシールドファクターのピークは、この範囲の中に存在する。図3(b)には、磁気シールド9によるシールドファクターが記載されている。磁気シールド9によるシールドファクターは、第1シールド1および第2シールド2の各シールドファクターを合成したものとなるから、第2シールド2が配置されているy=L1からy=L1+L2までの範囲において、磁気シールド9全体におけるシールドファクターは、第1シールド1によるシールドファクターに第2シールド2によるシールドファクターが加わったものとなる。その結果、原点Oから第2シールド2が配置されている範囲までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配は、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになっている。そして、磁気シールド9においてシールドファクターが、その最大値から決められた閾値までの範囲にあるために、均一と見なせる領域(以下、均一領域という)は、第1シールド1のみにおける均一領域よりも広くなる。
【0026】
言い換えると、原点Oにおいて、第1シールド1によるシールドファクターは最も高く、原点Oから第1シールド1の両端に向かうに連れて、それぞれシールドファクターは低下する。第2シールド2は、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位である原点Oよりも、第1シールド1の両端にある各開口部に近い第1シールド1の領域を覆う。つまり、第2シールド2は、原点Oおよびその近傍の第1シールド1を覆っておらず、原点Oから距離L1だけ離れた位置から距離L2にわたり、第1シールド1を覆う。
【0027】
仮に、第2シールド2が原点Oも覆っているとすると、第2シールド2によって、第1シールド1の原点Oを含んだ領域におけるシールドファクターを一様に押し上げてしまう。すなわち、第2シールド2が原点Oも覆っているとすると、第1シールド1と第2シールド2とを合わせたシールド全体における均一領域の大きさは、第1シールド1のみにおける均一領域の大きさと殆ど変わらないこととなる。
【0028】
一方、磁気シールド9において、第2シールド2は、原点Oから距離L1だけ離れた位置から距離L2にわたり第1シールド1を覆っているので、第1シールド1によるシールドファクターが原点Oから離れて低下している領域のシールドファクターを押し上げる。そのため、磁気シールド9における均一領域は、第1シールド1のみにおける均一領域よりも大きくなる。
【0029】
(3)シミュレーション例
図4は、磁気シールド9に係るシミュレーションを説明するための図である。図4(a)には、磁場発生コイル等の条件が示されている。このシミュレーションにおいて想定する磁場発生コイルは、2m×2mの正方形ヘルムホルツコイルであり、巻数は12巻きである。磁場発生コイルに流す電流は1A/DCであり、想定される中心磁束密度は約6μTである。また、第1シールド1の軸方向の中央である原点Oから第2シールド2までの距離L1[m]は、L1=0.02である。
ここで、このシミュレーションにおいて、磁気シールド9のうち均一領域とは、シールドファクターの最大値との差が0.1dB以内のシールドファクターを有する部位からなる領域であると定義する。
【0030】
図4(b)には、このシミュレーションにおいて想定する第1シールド1と第2シールド2の条件が示されている。第1シールド1の円筒内直径D[m]はD=0.2、円筒長さL[m]はL=0.3、磁性体厚みt[m]はt=0.00018である。また、第2シールド2の円筒内直径D2[m]はD2=0.20018、円筒長さL2[m]はL2=0.14、磁性体厚みt2[m]はt=0.00018である。上述したように、L1=0.02であるから、第2シールド2は、原点Oから同じ方向に向かって0.02m離れた点と0.16m離れた点との間の領域に配置されている。そして、第1シールド1および第2シールド2の比誘電率μr[−]は、いずれもμr=36972である。
【0031】
図4(c)には、磁気シールド9および第1シールド1のシールドファクターの分布が示されている。図4(c)の横軸は、磁気シールド9および第1シールド1の原点O(中心)からの距離[mm]を表している。ここで、磁気シールド9および第1シールド1は、y軸方向の長さが2L=2×0.3=0.6[m]であるが、図4(c)には、そのうち、−200[mm](=−0.2[m])から200[mm](=0.2[m])までの範囲が示されている。図4(c)の縦軸は、横軸で表された距離の点における磁場のシールドファクター[dB]を表している。
【0032】
図4(c)から明らかなように、磁気シールド9によるシールドファクターの曲線は、第1シールド1によるシールドファクターの曲線に比べて上に凸となる部分が急峻でなく、横に広がった形状を有している。そして、均一領域の閾値を上述したように0.1dBとすると、第1シールド1のみの均一領域は原点Oを中心として−38[mm]から38[mm]までの範囲であるのに対し、磁気シールド9の均一領域は原点Oを中心として−62[mm]から62[mm]までの範囲となる。すなわち、第2シールド2により第1シールド1の所定の領域を覆うことにより、磁気シールド9は、第1シールド1のみに比べて均一領域が広くなる。
【0033】
(変形例)
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0034】
(変形例1)
上述した実施形態において、第2シールド2は、第1シールド1の外周を外側から密着して囲うように配置されていたが、第1シールド1の内周を内側から密着して囲うように配置されていてもよい。図5は、この変形例における磁気シールド9Aの一例を示した図である。この変形例において、磁気シールド9Aは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド3a,3b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド3」と記す)を備える。第2シールド3は、上述した実施形態において第2シールド2が第1シールド1の外周を囲うように配置されていたのに対し、内周を囲うように配置されている。したがって、第2シールド3の外径は、第1シールド1の内径Dと等しく、第2シールド3の内径D3は、第2シールド3の外径から第2シールド3の厚みの2倍を引いた値となる。この構成であっても、第2シールド3が配置された領域で磁気シールド9Aのシールドファクターは増加するので、磁気シールド9Aは、第1シールド1のみに比べて均一領域が広くなる。
【0035】
(変形例2)
上述した実施形態において、第2シールド2の厚みは一様にt2であったが、軸方向の位置に応じて変化してもよい。図6は、この変形例における磁気シールド9Bの一例を示した図である。この変形例において、磁気シールド9Bは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド4a,4b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド4」と記す)を備える。第2シールド4は、原点Oから離れ軸方向に沿って両端に近づくほど径方向の厚みが厚くなるように形成されている。第1シールド1のみによるシールドファクターは、原点Oから離れるに従って低下するところ第2シールド4の径方向の厚みが増加するほどシールドファクターが増加するので、この構成によれば、第2シールドが一様の厚みを有している場合に比べて均一領域が広くなる。
【0036】
(変形例3)
上述した実施形態において、第2シールド2は、原点Oを中心として両端側にそれぞれ1つずつ配置されていたが、原点Oから開口部までの間に2つ以上が配置されていてもよい。図7は、この変形例における磁気シールド9Cの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Cは、上述した第2シールド2に加えて第2シールド5a,5b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド5」と記す)を備える。第2シールド5は、第2シールド2の外周のうち原点Oから遠い部分を覆うように配置されている。この構成によれば、原点Oから軸方向に沿って両端に近づくほど、磁気シールド9Cの厚みが増加する。その結果、第2シールド5により、開口部に近づくにつれて著しくなるシールドファクターの低下が補われるので、磁気シールド9Cは、第2シールド2を備え第2シールド5を備えていない場合に比べて均一領域が広くなる。
【0037】
(変形例4)
また、磁気シールド9の軸方向において第2シールド2と異なる位置に、他の第2シールドを配置してもよい。図8は、この変形例における磁気シールド9Dの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Dは、上述した第2シールド2に加えて第2シールド6a,6b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド6」と記す)を備える。第2シールド6は、第2シールド2の端部のうち、原点Oから遠い側に接するように、かつ、第1シールド1の外周を覆うように配置されている。第2シールド6の厚みt6は、第2シールド2の厚みt2よりも厚い。すなわち、原点Oの近傍では、第1シールド1のみが存在し、原点OからL1だけ離れると第1シールド1に加えて第2シールド2が存在し、さらにその地点からL2だけ離れると(つまり、原点OからL1+L2だけ離れると)第1シールド1に加えて第2シールド2よりも厚みのある第2シールド6が存在している。言い換えると、原点Oから軸方向に沿って両端に近づくにつれて、磁気シールド9Dの径方向の厚みが段階的に増加するので、磁気シールド9Dは、第2シールド2を備え第2シールド6を備えていない場合に比べて均一領域が広くなる。
【0038】
(変形例5)
上述した実施形態において、第2シールド2は、第1シールド1の外周を密着して囲うように配置されていたが、第1シールド1から離れた位置で第1シールド1を囲うように配置されていてもよい。図9は、この変形例における磁気シールド9Eの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Eは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド7a,7b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド7」と記す)を備える。第2シールド7は、第1シールド1の外周との間に空気層Sを有するように、第1シールド1から離れた位置に配置されている。例えば、第2シールド7は、第1シールド1を支持する支持部材によって上述した空気層Sが設けられるように支持されていてもよい。この構成によれば、第2シールド7が配置された領域では、第2シールド7に加えて空気層によっても磁場が遮蔽されるので、遮蔽効率が増加する。
【0039】
(変形例6)
上述した実施形態において、第1シールド1と第2シールド2とは別体であったが、一体であってもよい。図10は、この変形例における磁気シールド9Fの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Fは、一体に形成されたシールドであり、原点OからL1だけ離れた位置からさらにL2だけ離れた位置までの領域に突起部Pを有している。突起部Pは、磁気シールド9Fの他の領域よりも径方向にtpだけ外周が突起している。そのため、突起部Pの設けられた領域において、その径方向の厚みは原点Oから±L1までの領域よりも厚くなっており、シールドファクターが増加するので、磁気シールド9Fは、第1シールド1のみを備える場合に比べて均一領域が広くなる。
【0040】
(変形例7)
上述した実施形態において、磁気シールド9は、1つの第1シールド1と2つの第2シールド2a,2bを有していたが、第2シールドはいずれか一方だけでもよい。この構成によっても、第2シールドを設けない場合に比べて、磁気シールド9は、原点Oから軸方向に沿って、第2シールドが設けられた端部に向けて均一領域が広がる。なお、上述した実施形態の通り、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位である原点Oから、第1シールド1の両端の各開口部に向けて、それぞれ第2シールド2a,2bを設けると、これらをいずれか一方のみ設ける場合よりも均一領域が広がる。
【0041】
(変形例8)
上述した実施形態において、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターの分布が最も高い点(ピーク)がある部位は、第1シールド1のy軸上の中央に定められた原点Oに対応する部位であったが、原点O以外の点に対応する部位であってもよい。例えば、第1シールド1の材質が軸方向に均一でないために、この軸方向における磁場のシールドファクターのピークが原点Oと一致していなくてもよい。この場合、第2シールド2は、第1シールドの開口部と、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターのピークがある部位とによりy軸方向に挟まれた領域に配置されていればよい。要するに、第2シールド2は、第1シールド1のうちピークのある部位を覆っておらず、その部位から開口部に近づいた領域を覆えばよい。
【0042】
第2シールド2は、ピークのある部位を覆わないことにより、その部位における磁気シールド9のシールドファクターを押し上げない。そして、第2シールド2は、ピークのある部位から開口部に近づいた領域を覆うことにより、第1シールド1のみによるシールドファクターの分布において、ピークのある部位に比べてシールドファクターの低下した領域のシールドファクターを押し上げる。その結果、第2シールド2に覆われた領域のシールドファクターは、上記部位におけるシールドファクターに近づき、磁気シールド9は、第1シールド1のピークから第2シールド2に覆われた領域までに均一領域を有することとなる。
【0043】
(変形例9)
上述した実施形態において、第1シールド1および第2シールド2は、いずれもy軸を中心軸とする円筒状の部材であったが、四角筒など筒状であれば円筒でなくてもよい。すなわち、第1シールド1および第2シールド2は、軸に直交する平面で切断した断面が円形である必要はなく、多角形や楕円形などであってもよい。
【0044】
また、第2シールド2は、筒状に形成されたシールドであったが、高磁性材料を含んだテープを第1シールド1の外周または内周に巻きつけることによって形成されていてもよい。この構成によれば、第2シールド2を筒状に形成してから第1シールド1に対して配置させる場合に比べて、容易に第2シールド2を第1シールド1に配置することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…第1シールド、2,3,4,5,6,7…第2シールド、9,9A,9B,9C,9D,9E,9F…磁気シールド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサーを用いた生体磁気計測システム等に用いられる磁気シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサーを用いた生体磁気計測システム等に用いられる様々な磁気シールドが開発されている。特許文献1には、超電導体の壁面からの磁場の染み込み量を減らすために、間隔を開けて磁気シールド体の所望領域の外部を高透磁率部材によって囲んだ磁気シールド構造が開示されている。特許文献2には、両端に開口をもつ円筒形強磁性体と、円筒形強磁性体の両開口端の近傍内部に配置された超電導閉ループ容器とを有することで、円筒形強磁性体の軸方向及びこの軸に垂直方向の外部磁場を遮蔽する磁気シールド装置が開示されている。特許文献3には、両端が開放の筒型に形成された第1の磁気遮蔽装置と、両端もしくは計測対象物に近い方の1方向が開放の筒型に形成され、筒軸方向が第1の磁気遮蔽装置の筒軸方向と略直交するように第1の磁気遮蔽装置内に配置された第2の磁気遮蔽装置とにより、筒軸方向に略平行な磁場検出方向を有し第2の磁気遮蔽装置内に配置された磁気センサーに対する磁場成分を遮蔽することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−299869号公報
【特許文献2】特開2004−177363号公報
【特許文献3】特開2006−340937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの磁気シールドは内部空間を外部空間の磁気から遮蔽するものであるが、磁気シールドの内部空間における遮蔽率は軸方向に分布しており、均一と見なせる領域は比較的狭かった。例えば、特許文献1に開示された技術では、磁気シールド体の所望領域の外部が高透磁率部材によって囲まれるが、この所望領域では開口から近い両端から、開口から遠い中央付近までの間に磁気遮蔽率の勾配がある。また、特許文献2に開示された技術では、開口端近傍に届く外部磁場を遮蔽するために、円筒形強磁性体の開口端近傍の内部に超電導閉ループ容器を配置するので、円筒形強磁性体の内部空間のうち利用できる領域が限定される。特許文献3の技術では、第2の磁気遮蔽装置が第1の磁気遮蔽装置の内部に、互いの筒軸方向が直交するように配置しなければならないので、第1の磁気遮蔽装置に比べて第2の磁気遮蔽装置は小さく、第1の磁気遮蔽装置の内部空間は、その大部分が有効に使用することができない。
【0005】
本発明は、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る磁気シールドは、両端に開口部を備える筒状の第1シールドと、前記第1シールドの軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位よりも前記各開口部のいずれか一方に近い当該第1シールドの領域の外周または内周を覆う筒状の第2シールドとを具備し、前記部位から前記領域までにおける前記第1シールドおよび前記第2シールドによる磁場の遮蔽率の勾配は、当該部位から当該領域までにおける前記第1シールドのみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかであることを特徴とする。
この構成によれば、第2シールドを具備しない場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記第2シールドは、前記部位よりも前記各開口部に近い各領域にそれぞれ配置されているとよい。
この構成によれば、一方の開口部に近い側にのみ第2シールドを配置した場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記第2シールドは、前記軸方向に沿って前記部位から離れるほど径方向の厚みが厚くなるように形成されているとよい。
この構成によれば、第2シールドの径方向の厚みが均一である場合に比べて、磁気シールドの軸方向における遮蔽率が均一と見なせる領域を広くすることができる。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記第1シールドと前記第2シールドとの間に空気層を有するとよい。
この構成によれば、第1シールドとの間に空気層を設けない場合に比べて、第2シールドを配置した領域の遮蔽率を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る磁気シールドは、両端に開口部を備える筒状の磁気シールドであって、軸方向の中央部を含む第1領域と、前記第1領域よりも前記各開口部のいずれか一方に近く、かつ、当該第1領域よりも径方向の厚みが厚い第2領域とを有することを特徴とする。
この構成によれば、第2領域を有しない場合に比べて、磁気シールドの磁場の遮蔽率が軸方向に均一と見なせる領域を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気シールド9の構成を示す図である。
【図2】磁気シールド9を、その軸を含む平面で切断した断面図である。
【図3】磁気シールド9のシールドファクターを説明するための概念図である。
【図4】磁気シールド9に係るシミュレーションを説明するための図である。
【図5】変形例における磁気シールド9Aの一例を示した図である。
【図6】変形例における磁気シールド9Bの一例を示した図である。
【図7】変形例における磁気シールド9Cの一例を示す図である。
【図8】変形例における磁気シールド9Dの一例を示す図である。
【図9】変形例における磁気シールド9Eの一例を示す図である。
【図10】変形例における磁気シールド9Fの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
(1)構成
図1は、本発明の実施形態に係る磁気シールド9の構成を示す図である。図2は、磁気シールド9を、その軸を含む平面で切断した断面図である。ここで、磁気シールド9の各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、以下の図に示す座標記号のうち、内側が白い円の中に黒い円を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表している。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。同様に、y、z成分についても、y軸方向、+y方向、−y方向、z軸方向、+z方向、−z方向を定義する。
【0013】
図1に示すように、磁気シールド9は、1つの第1シールド1と2つの第2シールド2a,2b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド2」と記す)を有する。第1シールド1および第2シールド2は、いずれもy軸を中心軸とする円筒状の部材である。
【0014】
第1シールド1の内径はDである。第1シールド1の厚みはtである。したがって、第1シールド1の外径は(D+2t)である。第2シールド2は、第1シールド1の外周を密着して囲うように配置される。したがって、第2シールド2の内径D2は、第1シールド1の外径(D+2t)に等しい。第2シールド2の厚みはt2である。
第1シールド1のy軸方向の長さは2L(Lの2倍)である。第2シールド2のy軸方向の長さL2はLよりも短い(L2<L)。
【0015】
ここで、図2に示すように、第1シールド1のy軸上の中央に原点Oを定めると、磁気シールド9は、この原点Oを含みx軸およびz軸に平行な平面に関して面対称である。第2シールド2aは、原点Oよりも−y方向に配置され、第2シールド2bは、原点Oよりも+y方向に配置されている。第2シールド2aの+y側の端は、原点OからL1(L1<L)だけ−y方向に進んだ位置にある。第2シールド2bの−y側の端は、原点OからL1(L1<L)だけ+y方向に進んだ位置にある。
【0016】
ここで、第1シールド1および第2シールド2の長さ、厚みおよび配置は、原点Oから第2シールド2が配置された領域までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配が、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになるように、決められている。
【0017】
第1シールド1および第2シールド2の材料は、パーマロイ、鉄・クロム・コバルト系の各アモルファス材、フェライト焼結体、などの各磁性体材料のうち、磁気シールド9が配置される環境の磁場の強さにおける比透磁率が比較的高いものが選定される。第1シールド1および第2シールド2の材料は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0018】
(2)シールドファクター
シールドによる磁場の遮蔽率とは、そのシールドの内部空間において、外部空間の磁場がどの程度遮蔽されたかを表す割合であり、外部空間の磁場の強さに対する内部空間の磁場の強さの割合で表される。シールドファクターは、上記の遮蔽率や、この遮蔽率を対数で表したものなどである。遮蔽率が高くなるほど、シールドファクターは高くなるため、シールドファクターが最大となる点において、遮蔽率は最大となる。
【0019】
無限の長さを有する磁性体材料で形成された円筒のシールドファクターは、径方向(軸に垂直な方向)のシールドファクターをST、軸方向のシールドファクターをSLとすると、以下の式(1)、(2)でそれぞれ表される。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
上述の式(1)および式(2)における各記号の意味はそれぞれ以下のとおりである。
μ:磁性体材料の透磁率[H/m]
μ0:真空透磁率=4π×10-7[H/m]
μr=μ/μ0:磁性体材料の比透磁率
t:円筒の磁性体材料厚み[m]
D:円筒の内直径[m]
N:反磁場係数
【0023】
すなわち、径方向のシールドファクターをSTは、比透磁率μrおよび材料厚みtにそれぞれ比例し、内直径Dに反比例する項と、定数である「1」との和である。したがって、径方向のシールドファクターをSTは、比透磁率μrや材料厚みtが大きくなるほど大きくなり、内直径が大きくなるほど小さくなる。また、軸方向のシールドファクターをSLは、径方向のシールドファクターをSTに比例する項と、定数である「1」との和である。したがって、軸方向のシールドファクターをSLは、径方向のシールドファクターをSTが大きくなるほど大きくなる。なお、式(1)は、円筒の磁性体材料厚みtが円筒の内直径Dよりも極めて小さく、且つ、磁性体材料の透磁率μが1よりも極めて大きい場合に成り立つと見なせる式である。また、式(2)は、径方向のシールドファクターSTが1よりも極めて大きい場合に成り立つと見なせる式である。
【0024】
実際の磁気シールド9は、長さが有限である。そのため、磁気シールド9の中央部と両端とではシールドファクターが異なる。
図3は、磁気シールド9のシールドファクターを説明するための概念図である。図3において、横軸は原点Oから+y方向の距離を表しており、縦軸は、横軸で表された距離の点における磁場のシールドファクターを表している。図3では、原点Oを中心として+y方向と−y方向とは面対称であるため、原点Oよりも−y方向におけるシールドファクターを省略する。
【0025】
図3(a)には、磁気シールド9を構成する第1シールド1と、第2シールド2のそれぞれによるシールドファクターが別々に記載されている。図3(a)に示すように、原点Oは、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターの分布が最も高い点である。第2シールド2は、y=L1からy=L1+L2までの範囲に配置されている。したがって、第2シールド2によるシールドファクターのピークは、この範囲の中に存在する。図3(b)には、磁気シールド9によるシールドファクターが記載されている。磁気シールド9によるシールドファクターは、第1シールド1および第2シールド2の各シールドファクターを合成したものとなるから、第2シールド2が配置されているy=L1からy=L1+L2までの範囲において、磁気シールド9全体におけるシールドファクターは、第1シールド1によるシールドファクターに第2シールド2によるシールドファクターが加わったものとなる。その結果、原点Oから第2シールド2が配置されている範囲までにおける第1シールド1および第2シールド2による磁場の遮蔽率の勾配は、第1シールド1のみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかになっている。そして、磁気シールド9においてシールドファクターが、その最大値から決められた閾値までの範囲にあるために、均一と見なせる領域(以下、均一領域という)は、第1シールド1のみにおける均一領域よりも広くなる。
【0026】
言い換えると、原点Oにおいて、第1シールド1によるシールドファクターは最も高く、原点Oから第1シールド1の両端に向かうに連れて、それぞれシールドファクターは低下する。第2シールド2は、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位である原点Oよりも、第1シールド1の両端にある各開口部に近い第1シールド1の領域を覆う。つまり、第2シールド2は、原点Oおよびその近傍の第1シールド1を覆っておらず、原点Oから距離L1だけ離れた位置から距離L2にわたり、第1シールド1を覆う。
【0027】
仮に、第2シールド2が原点Oも覆っているとすると、第2シールド2によって、第1シールド1の原点Oを含んだ領域におけるシールドファクターを一様に押し上げてしまう。すなわち、第2シールド2が原点Oも覆っているとすると、第1シールド1と第2シールド2とを合わせたシールド全体における均一領域の大きさは、第1シールド1のみにおける均一領域の大きさと殆ど変わらないこととなる。
【0028】
一方、磁気シールド9において、第2シールド2は、原点Oから距離L1だけ離れた位置から距離L2にわたり第1シールド1を覆っているので、第1シールド1によるシールドファクターが原点Oから離れて低下している領域のシールドファクターを押し上げる。そのため、磁気シールド9における均一領域は、第1シールド1のみにおける均一領域よりも大きくなる。
【0029】
(3)シミュレーション例
図4は、磁気シールド9に係るシミュレーションを説明するための図である。図4(a)には、磁場発生コイル等の条件が示されている。このシミュレーションにおいて想定する磁場発生コイルは、2m×2mの正方形ヘルムホルツコイルであり、巻数は12巻きである。磁場発生コイルに流す電流は1A/DCであり、想定される中心磁束密度は約6μTである。また、第1シールド1の軸方向の中央である原点Oから第2シールド2までの距離L1[m]は、L1=0.02である。
ここで、このシミュレーションにおいて、磁気シールド9のうち均一領域とは、シールドファクターの最大値との差が0.1dB以内のシールドファクターを有する部位からなる領域であると定義する。
【0030】
図4(b)には、このシミュレーションにおいて想定する第1シールド1と第2シールド2の条件が示されている。第1シールド1の円筒内直径D[m]はD=0.2、円筒長さL[m]はL=0.3、磁性体厚みt[m]はt=0.00018である。また、第2シールド2の円筒内直径D2[m]はD2=0.20018、円筒長さL2[m]はL2=0.14、磁性体厚みt2[m]はt=0.00018である。上述したように、L1=0.02であるから、第2シールド2は、原点Oから同じ方向に向かって0.02m離れた点と0.16m離れた点との間の領域に配置されている。そして、第1シールド1および第2シールド2の比誘電率μr[−]は、いずれもμr=36972である。
【0031】
図4(c)には、磁気シールド9および第1シールド1のシールドファクターの分布が示されている。図4(c)の横軸は、磁気シールド9および第1シールド1の原点O(中心)からの距離[mm]を表している。ここで、磁気シールド9および第1シールド1は、y軸方向の長さが2L=2×0.3=0.6[m]であるが、図4(c)には、そのうち、−200[mm](=−0.2[m])から200[mm](=0.2[m])までの範囲が示されている。図4(c)の縦軸は、横軸で表された距離の点における磁場のシールドファクター[dB]を表している。
【0032】
図4(c)から明らかなように、磁気シールド9によるシールドファクターの曲線は、第1シールド1によるシールドファクターの曲線に比べて上に凸となる部分が急峻でなく、横に広がった形状を有している。そして、均一領域の閾値を上述したように0.1dBとすると、第1シールド1のみの均一領域は原点Oを中心として−38[mm]から38[mm]までの範囲であるのに対し、磁気シールド9の均一領域は原点Oを中心として−62[mm]から62[mm]までの範囲となる。すなわち、第2シールド2により第1シールド1の所定の領域を覆うことにより、磁気シールド9は、第1シールド1のみに比べて均一領域が広くなる。
【0033】
(変形例)
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0034】
(変形例1)
上述した実施形態において、第2シールド2は、第1シールド1の外周を外側から密着して囲うように配置されていたが、第1シールド1の内周を内側から密着して囲うように配置されていてもよい。図5は、この変形例における磁気シールド9Aの一例を示した図である。この変形例において、磁気シールド9Aは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド3a,3b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド3」と記す)を備える。第2シールド3は、上述した実施形態において第2シールド2が第1シールド1の外周を囲うように配置されていたのに対し、内周を囲うように配置されている。したがって、第2シールド3の外径は、第1シールド1の内径Dと等しく、第2シールド3の内径D3は、第2シールド3の外径から第2シールド3の厚みの2倍を引いた値となる。この構成であっても、第2シールド3が配置された領域で磁気シールド9Aのシールドファクターは増加するので、磁気シールド9Aは、第1シールド1のみに比べて均一領域が広くなる。
【0035】
(変形例2)
上述した実施形態において、第2シールド2の厚みは一様にt2であったが、軸方向の位置に応じて変化してもよい。図6は、この変形例における磁気シールド9Bの一例を示した図である。この変形例において、磁気シールド9Bは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド4a,4b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド4」と記す)を備える。第2シールド4は、原点Oから離れ軸方向に沿って両端に近づくほど径方向の厚みが厚くなるように形成されている。第1シールド1のみによるシールドファクターは、原点Oから離れるに従って低下するところ第2シールド4の径方向の厚みが増加するほどシールドファクターが増加するので、この構成によれば、第2シールドが一様の厚みを有している場合に比べて均一領域が広くなる。
【0036】
(変形例3)
上述した実施形態において、第2シールド2は、原点Oを中心として両端側にそれぞれ1つずつ配置されていたが、原点Oから開口部までの間に2つ以上が配置されていてもよい。図7は、この変形例における磁気シールド9Cの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Cは、上述した第2シールド2に加えて第2シールド5a,5b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド5」と記す)を備える。第2シールド5は、第2シールド2の外周のうち原点Oから遠い部分を覆うように配置されている。この構成によれば、原点Oから軸方向に沿って両端に近づくほど、磁気シールド9Cの厚みが増加する。その結果、第2シールド5により、開口部に近づくにつれて著しくなるシールドファクターの低下が補われるので、磁気シールド9Cは、第2シールド2を備え第2シールド5を備えていない場合に比べて均一領域が広くなる。
【0037】
(変形例4)
また、磁気シールド9の軸方向において第2シールド2と異なる位置に、他の第2シールドを配置してもよい。図8は、この変形例における磁気シールド9Dの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Dは、上述した第2シールド2に加えて第2シールド6a,6b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド6」と記す)を備える。第2シールド6は、第2シールド2の端部のうち、原点Oから遠い側に接するように、かつ、第1シールド1の外周を覆うように配置されている。第2シールド6の厚みt6は、第2シールド2の厚みt2よりも厚い。すなわち、原点Oの近傍では、第1シールド1のみが存在し、原点OからL1だけ離れると第1シールド1に加えて第2シールド2が存在し、さらにその地点からL2だけ離れると(つまり、原点OからL1+L2だけ離れると)第1シールド1に加えて第2シールド2よりも厚みのある第2シールド6が存在している。言い換えると、原点Oから軸方向に沿って両端に近づくにつれて、磁気シールド9Dの径方向の厚みが段階的に増加するので、磁気シールド9Dは、第2シールド2を備え第2シールド6を備えていない場合に比べて均一領域が広くなる。
【0038】
(変形例5)
上述した実施形態において、第2シールド2は、第1シールド1の外周を密着して囲うように配置されていたが、第1シールド1から離れた位置で第1シールド1を囲うように配置されていてもよい。図9は、この変形例における磁気シールド9Eの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Eは、上述した第2シールド2に代えて第2シールド7a,7b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「第2シールド7」と記す)を備える。第2シールド7は、第1シールド1の外周との間に空気層Sを有するように、第1シールド1から離れた位置に配置されている。例えば、第2シールド7は、第1シールド1を支持する支持部材によって上述した空気層Sが設けられるように支持されていてもよい。この構成によれば、第2シールド7が配置された領域では、第2シールド7に加えて空気層によっても磁場が遮蔽されるので、遮蔽効率が増加する。
【0039】
(変形例6)
上述した実施形態において、第1シールド1と第2シールド2とは別体であったが、一体であってもよい。図10は、この変形例における磁気シールド9Fの一例を示す図である。この変形例において、磁気シールド9Fは、一体に形成されたシールドであり、原点OからL1だけ離れた位置からさらにL2だけ離れた位置までの領域に突起部Pを有している。突起部Pは、磁気シールド9Fの他の領域よりも径方向にtpだけ外周が突起している。そのため、突起部Pの設けられた領域において、その径方向の厚みは原点Oから±L1までの領域よりも厚くなっており、シールドファクターが増加するので、磁気シールド9Fは、第1シールド1のみを備える場合に比べて均一領域が広くなる。
【0040】
(変形例7)
上述した実施形態において、磁気シールド9は、1つの第1シールド1と2つの第2シールド2a,2bを有していたが、第2シールドはいずれか一方だけでもよい。この構成によっても、第2シールドを設けない場合に比べて、磁気シールド9は、原点Oから軸方向に沿って、第2シールドが設けられた端部に向けて均一領域が広がる。なお、上述した実施形態の通り、第1シールド1の軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位である原点Oから、第1シールド1の両端の各開口部に向けて、それぞれ第2シールド2a,2bを設けると、これらをいずれか一方のみ設ける場合よりも均一領域が広がる。
【0041】
(変形例8)
上述した実施形態において、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターの分布が最も高い点(ピーク)がある部位は、第1シールド1のy軸上の中央に定められた原点Oに対応する部位であったが、原点O以外の点に対応する部位であってもよい。例えば、第1シールド1の材質が軸方向に均一でないために、この軸方向における磁場のシールドファクターのピークが原点Oと一致していなくてもよい。この場合、第2シールド2は、第1シールドの開口部と、第1シールド1の軸方向における磁場のシールドファクターのピークがある部位とによりy軸方向に挟まれた領域に配置されていればよい。要するに、第2シールド2は、第1シールド1のうちピークのある部位を覆っておらず、その部位から開口部に近づいた領域を覆えばよい。
【0042】
第2シールド2は、ピークのある部位を覆わないことにより、その部位における磁気シールド9のシールドファクターを押し上げない。そして、第2シールド2は、ピークのある部位から開口部に近づいた領域を覆うことにより、第1シールド1のみによるシールドファクターの分布において、ピークのある部位に比べてシールドファクターの低下した領域のシールドファクターを押し上げる。その結果、第2シールド2に覆われた領域のシールドファクターは、上記部位におけるシールドファクターに近づき、磁気シールド9は、第1シールド1のピークから第2シールド2に覆われた領域までに均一領域を有することとなる。
【0043】
(変形例9)
上述した実施形態において、第1シールド1および第2シールド2は、いずれもy軸を中心軸とする円筒状の部材であったが、四角筒など筒状であれば円筒でなくてもよい。すなわち、第1シールド1および第2シールド2は、軸に直交する平面で切断した断面が円形である必要はなく、多角形や楕円形などであってもよい。
【0044】
また、第2シールド2は、筒状に形成されたシールドであったが、高磁性材料を含んだテープを第1シールド1の外周または内周に巻きつけることによって形成されていてもよい。この構成によれば、第2シールド2を筒状に形成してから第1シールド1に対して配置させる場合に比べて、容易に第2シールド2を第1シールド1に配置することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…第1シールド、2,3,4,5,6,7…第2シールド、9,9A,9B,9C,9D,9E,9F…磁気シールド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に開口部を備える筒状の第1シールドと、
前記第1シールドの軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位を除いた領域の外周または内周を覆う筒状の第2シールドと
を具備し、
前記部位から前記領域までにおける前記第1シールドおよび前記第2シールドによる磁場の遮蔽率の勾配は、当該部位から当該領域までにおける前記第1シールドのみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかである
ことを特徴とする磁気シールド。
【請求項2】
前記第2シールドは、前記部位よりも前記各開口部に近い各領域にそれぞれ配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項3】
前記第2シールドは、前記軸方向に沿って前記部位から離れるほど径方向の厚みが厚くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項4】
前記第1シールドと前記第2シールドとの間に空気層を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項5】
両端に開口部を備える筒状の磁気シールドであって、
軸方向の中央部を含む第1領域と、
前記第1領域よりも前記各開口部のいずれか一方に近く、かつ、当該第1領域よりも径方向の厚みが厚い第2領域と
を有することを特徴とする磁気シールド。
【請求項1】
両端に開口部を備える筒状の第1シールドと、
前記第1シールドの軸方向において磁場の遮蔽率が最も高い部位を除いた領域の外周または内周を覆う筒状の第2シールドと
を具備し、
前記部位から前記領域までにおける前記第1シールドおよび前記第2シールドによる磁場の遮蔽率の勾配は、当該部位から当該領域までにおける前記第1シールドのみによる磁場の遮蔽率の勾配よりも緩やかである
ことを特徴とする磁気シールド。
【請求項2】
前記第2シールドは、前記部位よりも前記各開口部に近い各領域にそれぞれ配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項3】
前記第2シールドは、前記軸方向に沿って前記部位から離れるほど径方向の厚みが厚くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項4】
前記第1シールドと前記第2シールドとの間に空気層を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド。
【請求項5】
両端に開口部を備える筒状の磁気シールドであって、
軸方向の中央部を含む第1領域と、
前記第1領域よりも前記各開口部のいずれか一方に近く、かつ、当該第1領域よりも径方向の厚みが厚い第2領域と
を有することを特徴とする磁気シールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−77698(P2013−77698A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216718(P2011−216718)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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