説明

磁気ディスクの評価方法

【課題】 短時間の測定で、高記録密度化に対応可能な磁気ディスクを迅速かつ確実に抽出することを目的とする。
【解決手段】 本発明における磁気ディスクの評価方法は、磁気ディスク50を回転させ、記録ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動し、任意の位置で磁気ディスクに特定周波数の試験信号を記録させる信号記録工程S102と、再生ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動させつつ、記録された信号の再生出力を連続的に測定しトラックプロファイルを生成する信号測定工程S104と、トラックプロファイルの、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅を導出するトラック幅導出工程S106と、導出されたトラック幅が所定値以内に収まっているかどうかを判断するトラック幅判断工程S108と、を含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。このような磁気記録媒体のひとつであるハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク用基板としては、アルミニウム基板が広く用いられてきた。しかし、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高記録密度化に伴い、アルミニウム基板に比べ基板表面の平坦性および基板強度に優れたガラス基板の需要が高まってきている。
【0003】
特に近年では、記録密度をより一層向上させるために、磁気ディスク平面に対して垂直方向に記録層を磁化する垂直磁気記録方式も採用されつつある。このような状況下で磁気ディスクの記録密度をさらに高めるために、円周方向の線記録密度(BPI:Bit Per Inch)と、半径方向のトラック記録密度(TPI:Track Per Inch)とのいずれも改善しなくてはならない。
【0004】
ところで、このような磁気ディスクに信号を記録/再生する磁気記録再生ヘッドは、磁気記録技術の高密度化に伴い記録と再生を別体のヘッドで行うようになってきた。従って、近年では、図10に示すように、単磁極ヘッドやトレーリングシールドヘッド等の記録ヘッド20と、大型磁気抵抗型(GMR)ヘッドやトンネル磁気抵抗効果型(TuMR)ヘッド等の再生ヘッド22とが分離して配置されている。
【0005】
このように分離した記録ヘッド20と再生ヘッド22とはスライダーにおいて直線上に配置されるが、記録や再生を行うトラックは磁気ディスクに沿って円周状に形成されているため、同トラック上に記録ヘッド20と再生ヘッド22を配置するためには、再生ヘッド22が記録ヘッド20に対して半径方向内周側に、例えば最大160nm程度オフセットする必要がある。
【0006】
図11を参照すると、スライダー24において、サスペンション26の長手方向延長直線上に載置された記録ヘッド20と再生ヘッド22は、オフセット移動がなされていない状態で、それぞれ磁気ディスク28上の別のトラック30、32上に存在する。従って、記録ヘッド20によってトラック30に記録された信号を再生するため、再生ヘッド22は、所定量40のオフセットを伴ってトラック32からトラック30に移動しなくてはならない。
【0007】
上記再生ヘッド22のオフセットの値は、実際の信号の記録/再生を通じて求められる。例えば、磁気ディスクを回転させ、記録ヘッド20から所定のオントラック位置に信号を記録し、次に、再生ヘッドを移動させ記録された信号の再生出力が最大となる位置を探索する。この探索のための再生ヘッド22の移動量がそのままオフセットの値となる。このオフセットは磁気ディスク装置内に記憶され、次回の再生時には記憶されたオフセット分だけ予め再生ヘッドを移動することで記録した信号が正確に再生される。
【0008】
しかし、出力信号が最大となる位置の探索誤差や、磁気ディスク装置の温度変化および経時によるオフセットのドリフト等によって、設定されたオフセットと実際のオフセットとの間にずれが生じる場合がある。記録密度が小さかった従来の磁気ディスクでは、トラック間隔が広く半径方向の記録可能幅も広かったため、このようなオフセットの多少の誤差は許容されていた。
【0009】
しかし、近年における高記録密度の磁気ディスクでは、このようなオフセット誤差の影響も無視できない。例えば、記録可能幅が短い磁気ディスクでは、オフセット誤差によって記録領域(記録可能幅)以外の位置に記録されてしまい、信号がノイズに埋もれて再生ヘッドが信号を識別できないといったことが起こりうる。従って、トラック記録密度を高くする一方で半径方向の記録可能幅を最大限確保する必要も生じてきた。
【0010】
このような磁気ディスクの記録可能幅を推定するため、オントラックの両脇に意図的にオントラックとは別のオフトラック信号を記録し、オフトラックの信号からオントラックの信号を識別できる限界位置を検出し、この限界位置をオフトラックマージンとして導出する技術が知られている(特許文献1)。
【0011】
しかし、このようなオフトラックマージンを導出する技術は、トラックに隣接する領域に意図的に記録されたオフトラック信号との境界線を導出しているに過ぎず、隣接するトラックからのノイズ(漏れ磁場)の影響を測定することはできない。
【0012】
ここでは、ある程度の記録可能幅を確保することの必要性を述べたが、トラック記録密度TPIが高密度化する中、記録可能幅を単純に確保しようとすると、全体的なトラック幅が大きくなり、隣接するトラックへの影響が大きくなってしまう。かかる影響が大きいと、隣接トラックの記憶内容を消去してしまったり、その再生出力が不安定になったりする。従って、記録可能幅を確保しつつ隣接するトラックへの影響が小さい磁気ディスクが望まれる。
【特許文献1】特開平6−84149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
垂直磁気記録方式が採用された近年の磁気ディスクでは、2.5インチ径の磁気ディスク1枚に160GBを超える記憶容量が求められ、それに応じてトラック幅も狭くなり、自己のトラックの再生出力が隣接するトラックのノイズとして大きく影響することとなる。従って、高記録密度化に対応可能な磁気ディスクを得るためには、生成された磁気ディスクから隣接するトラックへの影響が少ない磁気ディスクを選別しなくてはならない。このような高品質な磁気ディスクを製造工程の早期の段階で見極めるために、再生出力をトラック方向にプロットしたトラックプロファイルの広がり、即ち、再生出力が小さい領域のトラック幅を評価する必要がでてくる。
【0014】
トラック幅の評価として、トラックプロファイルの20〜80%の曲線の近似直線を導出し、その近似直線の中点であり、トラックプロファイルの50%に相当するところのトラック幅MWW(Magnetic Write Width)の長さを規定する方法がある。しかし、かかる方法は、記憶可能幅の評価方法であり、トラックプロファイルを山に見立てた場合の定量的な裾野の広がりを測定するものではなかった。例えば、同じMWWを有する磁気ディスクにおいて、裾野の広がりが異なる場合があり、MWWだけでは隣接トラックへの影響を評価することができないことがある。
【0015】
その他の評価方法として、トラック中心のオントラック位置と±90%の位置に信号を順次書き込み、オントラック位置の信号減衰率を測定するSquashやErase Band、ATI、WATE等が存在する。しかし、これらの評価方法では、1度の試験で3つのトラックの書き込みを要する等、評価に長時間を費やしていた。
【0016】
本願発明者は、上記問題について鋭意検討した結果、今まで無視されてきた再生出力が小さい位置のトラック幅、即ち、トラックプロファイルの実質的な裾野の広がりを評価することで、高記録密度化に耐えうる磁気ディスクを迅速に選別できることを見出し、従来では測り得なかった磁気ディスクの隣接するトラックに対する記録特性を容易に把握することに成功して、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は、従来の評価方法が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、短時間の測定で、高記録密度化に対応可能な磁気ディスクを迅速かつ確実に抽出することが可能な、新規かつ改良された磁気ディスクの評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法であって、磁気ディスクを回転させ、記録ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動し、任意の位置で磁気ディスクに特定周波数の試験信号を記録させる信号記録工程と、再生ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動させつつ、記録された信号の再生出力を連続的に測定しトラックプロファイルを生成する信号測定工程と、トラックプロファイルの、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅を導出するトラック幅導出工程と、導出されたトラック幅が所定値以内に収まっているかどうかを判断するトラック幅判断工程と、を含むことを特徴とする、磁気ディスクの評価方法が提供される。
【0019】
かかる0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅を導出する構成により、今まで無視されてきたトラックプロファイルの裾野の広がりを定量的に評価することが可能となる。ここでは、かかるトラック幅が小さいほど、隣接トラックへの影響が少ないと判断される。
【0020】
また、複数のトラックに信号を書き込むことなく、1度のトラックへの書き込みによってその記録特性を評価可能なので、評価時間を著しく短縮することができる。さらに、並行して他の評価目的、例えば、記憶可能幅試験等でトラックプロファイルが既に生成されている場合、そのトラックプロファイルをそのまま本発明に適用することができるので、さらなる評価時間の短縮も可能となる。
【0021】
トラック幅は、0〜20%内の所定範囲におけるトラックプロファイルの2本の近似直線の所定範囲中点間の長さとしてもよい。
【0022】
このような近似直線を用いてトラックプロファイルの揺らぎをキャンセルし、所定範囲におけるトラックプロファイルを均一化することで、その中点となる任意%の適切な位置を特定でき、正確なトラック幅を導出することが可能となる。
【0023】
所定範囲は0〜2%であり、任意%は1%であってもよい。上述した発明では、0〜20%内の所定範囲でトラック幅を導出するとしているが、任意%は、小さければ小さいほど裾野の広さを正確に把握でき、その評価精度が高くなる。そこで、所定範囲を0〜2%として、その近似直線の中点(1%)のトラック幅を導出することで、より正確に当該磁気ディスクの性能評価を行うことができる。
【0024】
所定値は、トラックプロファイルの最大値の50%におけるトラック幅の2倍であってもよい。このようにトラック幅の相対的な評価基準を設けることで、トラック記録密度TPIに拘わらず均一な評価を実行することができる。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法であって、磁気ディスクを回転させ、記録ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動し、任意の位置で磁気ディスクに特定周波数の試験信号を記録させる信号記録工程と、再生ヘッドを磁気ディスクの半径方向に移動させつつ、記録された信号の再生出力を連続的に測定しトラックプロファイルを生成する信号測定工程と、トラックプロファイルの、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%における微分値を導出する微分値導出工程と、導出された微分値が所定値以上であるかどうかを判断する微分値判断工程と、を含むことを特徴とする、磁気ディスクの評価方法が提供される。
【0026】
上述した任意%におけるトラック幅を導出する磁気ディスクの評価方法で正確な評価が困難であったり、近似直線の生成が困難だった場合、その補完手段として、任意%における微分値を用いることができる。かかる微分値では、任意%におけるトラックプロファイルの接線によって裾野の広がり具合を推測することができ、微分値が高いほど、隣接トラックへの影響が少ないと判断することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、短時間の測定で、高記録密度化に対応可能な磁気ディスクを迅速かつ確実に抽出することができる。また、抽出された磁気ディスクは、高記録密度かつ低エラー率が要求される用途にも適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
上述したように、HDD等の磁気記録媒体用の磁気ディスクは、小型化、薄板化の一途を辿り、最近では、記録密度をより一層向上させるために、膜平面に対して垂直方向に記録膜を磁化する垂直磁気記録方式も採用されている。高記録密度化に対応できるように形成された垂直磁気記録方式の磁気ディスクは、当然、そのような高記録密度化された磁気ディスクに適用可能な優れた評価方法で評価する必要がでてくる。ここでは、本実施形態の理解を容易にするため、垂直磁気記録方式による磁気ディスクの組成を簡単に説明し、その後で、本発明の実施形態における優れた評価方法を説明する。
【0030】
(磁気ディスク)
図1は、垂直磁気記録方式による磁気ディスク50の構造を示した断面図である。かかる垂直磁気記録方式の磁気ディスク50は、ディスク基体52、付着層54、軟磁性層56、配向制御層58、下地層60、磁気記録層62、連続層64、媒体保護層66、潤滑層68で構成されている。
【0031】
まず、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型し、ガラスディスクを作成する。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体52を得る。得られたディスク基体52上に、真空引きを行った成膜装置を用い、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて、付着層54から連続層64まで順次成膜を行い、媒体保護層66はCVD法により成膜する。その後、潤滑層68をディップコート法により形成する。以下、各層の構成について説明する。
【0032】
上記付着層54は、10nmのTi合金層となるように、Ti合金ターゲットを用いて成膜した。ディスク基体52と軟磁性層56との間の付着性を向上させる。上記軟磁性層56は、間にスペーサ層(図示せず)を介在させた2つの層でAFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成した。これにより軟磁性層56の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層56から生じるノイズを低減することができる。上記配向制御層58は、軟磁性層56を防護する作用と、下地層60の結晶粒の配向の整列を促進する作用を備える。上記下地層60は、hcp構造であって、磁気記録層62のhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させることができる。
【0033】
上記磁気記録層62は、磁性粒子を磁気的に孤立させたグラニュラー構造の磁性記録層で形成される。具体的には、非磁性物質の例としてのSiOを含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp結晶構造を形成している。上記連続層64は、グラニュラー磁性層の上に高い垂直磁気異方性を示す薄膜(補助記録層)を形成し、CGC構造(Coupled Granular Continuous)を構成するものである。
【0034】
上記媒体保護層66は、カーボンをCVD法により成膜し、ダイアモンドライクカーボンを含んで構成され、磁気ヘッドの衝撃から磁気ディスク50を防護する。上記潤滑層68は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜させた層である。
【0035】
このような垂直磁気記録方式の磁気ディスク50は、記録密度を高くするほど反磁界が減少することから高いTPIおよびBPIを得ることができる。本実施形態では、このように形成された垂直磁気記録方式の磁気ディスク50によって、例えば150kTPI以上の高記録密度を達成することを目的としている。このとき、問題となるのは、磁気ディスク50のトラックへの書き込みにより隣接するトラックに生じてしまうノイズ(記録にじみ)である。
【0036】
図2は、記録/再生ヘッドの磁気ディスク50上の軌跡を示した説明図であり、図3は、磁気ディスク半径方向の信号の再生出力を模式的に示した説明図である。図2に示すように、記録ヘッドは、それぞれ1ビット80の情報を磁気ディスク50のトラックに沿って連続して記録し、再生ヘッドは、記録された信号の望ましくは半径方向中心82に移動して、その信号を再生する。
【0037】
再生された信号は、磁気ヘッドを半径方向(トラック方向)にシフトしながらスピンスタンド(電磁変換特性評価装置)で測定され、図3の太線で示されるようなトラックプロファイル90を形成する。トラックプロファイル90は、トラック幅方向における再生出力値の軌跡である。かかるトラックプロファイル90を用いることでトラック方向の再生出力分布を把握することができる。
【0038】
図3に示すように、例えば、幅92が180nmの記録ヘッドで記録した記録信号94を、再生ヘッドで再生した場合のトラックプロファイル90は、記録信号94の中心96から半径方向に離れるにつれ漸減曲線に沿って減衰する。この減衰は、中心96から離れた位置では記録信号を保持する力が弱いことを表す。ここで、トラックプロファイル90の最大値の50%出力地点間をMWW(Magnetic Write Width)と呼ぶ。かかるMWWは、正確には、トラックプロファイルにおける20〜80%の左右の曲線それぞれの近似直線の中点(50%)間の長さであり、記録信号94の幅とほぼ等しくなる。
【0039】
このように、記録信号94内におけるトラックプロファイル90は、記録信号の中心96から離れるに従って磁気が弱くなる。一方、記録信号94より外側のトラックプロファイル90は、記録信号94を超えた位置においても幅広く存在しており、この幅広く存在する再生信号が隣接するトラックのノイズとなっている。トラック間の距離が近接する近年の磁気ディスクでは、このようなノイズが隣接するトラックの再生信号に影響を与え、その記録可能幅を減少させている。
【0040】
従って、トラック記録密度が向上する一方で、自己のトラックに書き込んだ信号が隣接トラックに影響しないようにしなければならないのだが、従来からある評価方法では、トラックプロファイル90の裾野部分(再生出力が小さい部分)を定量的に評価する方法が存在しなかった。本願発明者は、今まで無視されてきた再生出力が小さい位置のトラック幅、即ち、トラックプロファイルの実質的な裾野の広がりを評価することで、高記録密度化に耐えうる磁気ディスクを迅速に選別できることを見出した。
【0041】
(磁気ディスクの評価方法:トラック幅による評価)
図4は、本実施形態による磁気ディスクの評価方法の流れを示したフローチャートである。かかる磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法では、先ず、ACイレースによる初期化を行い(S100)、磁気ディスク装置として組み立てられた磁気ディスク50を回転させ、記録ヘッドを磁気ディスク50の半径方向に移動し、磁気ディスク上の任意の位置に停止させた後、磁気ディスク50に特定周波数、ここでは低周波数の試験信号を記録させる(S102)。低周波の書き込みでは、書き込むデータの変化頻度が少なくなりトラックプロファイル90が広がり易くなるので、敢えてその悪条件で本実施形態の評価を遂行する。
【0042】
次に、再生ヘッドを磁気ディスク50の半径方向に移動させつつ、記録ヘッドによって記録された信号の再生出力を連続的に測定し、トラックプロファイル90を生成する(S104)。
【0043】
図5は、磁気ディスク50のトラックプロファイル(再生出力)を模式的に示した説明図である。ここでは、記録ヘッドにより記録された記録信号150に対するトラックプロファイル90が示されている。そして、トラックプロファイル90の最大出力点がオントラック位置152となり、再生出力の比率(%)の基準となる。
【0044】
続いて、トラックプロファイル90の、最大値の0〜20%となる範囲154内のいずれか任意%、例えば、1%におけるトラック幅Tw(Fringing Trach Width)を導出する(S106)。トラック幅Twは、0〜20%内の所定範囲、例えば図5では0〜2%におけるトラックプロファイル90の2本の近似直線160の所定範囲0〜2%中点(1%)を結ぶ直線の長さである。
【0045】
かかる近似直線160の近似の程度は、トラックプロファイル90と近似直線160との相関係数Rの2乗で評価される(R=1のとき完全一致)。しかし、対象となるトラックプロファイル90が滑らかな曲線を描いているので、あまり広範囲で近似直線を求めると近似の程度が低下する。本実施形態の評価をする上では、Rが0.9以上となることを条件とする。図5の場合、Rが0.98となっておりかかる条件を満たしている。
【0046】
このような近似直線160を用いてトラックプロファイル90の揺らぎをキャンセルし、所定範囲におけるトラックプロファイル90を均一化することで、その中点となる任意%の適切な位置を特定でき、正確なトラック幅Twを導出することが可能となる。
【0047】
かかる0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅Twを導出する構成により、今まで無視されてきたトラックプロファイル90の裾野の広がりを定量的に評価することが可能となる。ここでは、かかるトラック幅Twが小さいほど、隣接トラックへの影響が少ないと判断される。
【0048】
また、複数のトラックに信号を書き込むことなく、1度のトラックへの書き込みによってその記録特性を評価可能なので、評価時間を著しく短縮することができる。また、並行して他の評価目的、例えば、記憶可能幅試験等でトラックプロファイル90を生成する場合、そのトラックプロファイル90をそのまま本実施形態に適用することができるので、さらなる評価時間の短縮も可能となる。
【0049】
また、ここで、任意%を1%としたのは、任意%は、小さければ小さいほど裾野の広さを正確に把握でき、その評価精度が高くなるからである。また、トラックプロファイル90は5%の辺りに変曲点を有し、0〜2%でほぼ直線状に推移するため、近似直線の精度が高くなる。そこで、所定範囲を0〜2%として、その近似直線の中点(1%)のトラック幅を導出することで、より正確に当該磁気ディスクの性能評価を行うことができる。
【0050】
最後に、トラック幅導出工程(S106)で導出されたトラック幅Twが所定値以内に収まっているかどうかを判断する(S108)。かかるトラック幅判断工程(S108)では、トラック幅Twが所定値以内に収まっているか、即ち、自己トラックに書き込んだ信号が隣接トラックに影響を及ぼしていないかどうかが確認される。
【0051】
本実施形態の所定値は、トラックプロファイル90の最大値の50%におけるトラック幅MWWの2倍(Tw≦2×MWW)とする。
【0052】
図6は、0〜20%のトラック幅Twの評価条件を説明するための説明図である。0〜20%、特に1%のトラック幅Twが50%のトラック幅MWWの2倍以下であれば、隣接するトラック170への影響も少なく、2つ隣のトラック172とは重畳しない。しかし、1%以下の再生出力がさらに広がっている場合があるので、自己のトラックプロファイル90と2つ隣のトラックプロファイル90とが重畳する場合もあり得る。
【0053】
このようにトラック幅Twの相対的な評価基準を設けることで、トラック記録密度TPIに拘わらず均一な評価を実行することができる。
【0054】
(微分値による評価)
上述した任意%におけるトラック幅を導出する磁気ディスクの評価方法で正確な評価が困難であったり、近似直線の生成が困難だった場合、その補完手段として、任意%における微分値を用いることができる。
【0055】
図7は、本実施形態による磁気ディスクの他の評価方法の流れを示したフローチャートである。かかる磁気ディスクのトラックプロファイル90を評価する磁気ディスクの評価方法の一部は、図4で既に説明した工程S100〜S108と実質的に処理が等しいのでここではその説明を省略し、相違する工程を主として説明する。
【0056】
トラック幅判断工程S108において、その結果が正確な判断に至らなかった場合、そのトラックプロファイル90を用いて、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%における微分値を導出する(S110)。ここで微分値を評価する場合、その絶対値をとって評価する。
【0057】
図8は、トラックプロファイル90の微分値を示した説明図である。図8では、上方にトラックプロファイル90の軌跡を下方に微分値を示している。ここでは、トラックプロファイル90のオントラック位置152左右の波形が微妙に相違するため、トラックプロファイル90左の微分値180と右の微分値182も相違する。従って、0〜20%となる範囲内の例えば1%の微分値Slと微分値Srもほぼ等しいレベルではあるが相違した値を示す。
【0058】
そして、微分値導出工程S110にて導出された微分値Sl、Srが所定値以上であるかどうかを判断する(S112)。かかる微分値では、任意%におけるトラックプロファイル90の接線(傾き)によって裾野の広がり具合を推測することができ、微分値が高いほど、隣接トラックへの影響が少ないと判断することができる。このような微分値による評価を、上述したトラック幅Twの評価に加えることでトラックプロファイル90の裾野の広がり度合いを確実に把握することが可能となる。
【0059】
また、このようなトラック幅Twや微分値Sl、Srは、上述したように、絶対値や相対値で評価してもよいし、他の磁気ディスクと相対的な優劣によって評価してもよい。また、上述した実施形態では、トラック幅Twの評価の後で微分値Sl、Srの評価を行っているが、その処理順が前後逆であってもよいし、微分値Sl、Srの評価が単独でなされてもよい。
【0060】
(実施例)
以下、50%トラック幅MWWが同等の磁気ディスク2枚を本実施形態の評価方法を用いて評価した。まず、両磁気ディスクをACイレースし、記録ヘッドによって低周波の信号を書き込んだ。そして、半径方向にシフトしながら書き込んだ信号を読み取って、2つのトラックプロファイルを生成した。
【0061】
図9は、かかる2枚の磁気ディスクのトラックプロファイル90A、90Bを示した説明図である。かかる2枚の磁気ディスクに関する2つのトラックプロファイル90A、90Bは、図9(a)に示したように、50%トラック幅MWWは等しくとも、裾野の広がりが異なる。本実施形態の評価方法に基づいて、1%のトラック幅Twおよび微分値Sl、Srを測定したところ、図9(b)のような結果を得た。ここでは、トラックプロファイル90Aの方がトラックプロファイル90Bよりトラック幅Twが狭く(TwA、TwB参照)、かつ、微分値Sl、Srが大きいことから(SlA、SlBおよびSrA、SrB参照)、裾野の広がりが小さいと判断でき、隣接トラックの影響が少ないことが理解できる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の磁気ディスクの評価方法によれば、かかる0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅を導出することで、今まで無視されてきたトラックプロファイルの裾野の広がりを定量的に評価することが可能となる。また、複数のトラックに信号を書き込むことなく、1度のトラックへの書き込みによってその記録特性を評価可能なので、評価時間を著しく短縮することができる。さらに、トラック幅による評価に微分値による評価を補完することで、より確実に磁気ディスクのトラックプロファイルを評価することが可能となる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
なお、本明細書の磁気ディスクの評価方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】垂直磁気記録方式による磁気ディスクの構造を示した断面図である。
【図2】記録/再生ヘッドの磁気ディスク上の軌跡を示した説明図である。
【図3】磁気ディスク半径方向の信号の再生出力を模式的に示した説明図である。
【図4】磁気ディスクの評価方法の流れを示したフローチャートである。
【図5】磁気ディスクのトラックプロファイルを模式的に示した説明図である。
【図6】0〜20%のトラック幅Twの評価条件を説明するための説明図である。
【図7】本実施形態による磁気ディスクの他の評価方法の流れを示したフローチャートである。
【図8】トラックプロファイルの微分値を示した説明図である。
【図9】かかる2枚の磁気ディスクのトラックプロファイルを示した説明図である。
【図10】分離した磁気記録再生ヘッドを示した斜視図である。
【図11】記録ヘッドと再生ヘッドの位置関係を示した説明図である。
【符号の説明】
【0067】
Sl、Sr …微分値
TW …トラック幅
160 …近似直線
90 …トラックプロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法であって、
前記磁気ディスクを回転させ、記録ヘッドを該磁気ディスクの半径方向に移動し、任意の位置で該磁気ディスクに特定周波数の試験信号を記録させる信号記録工程と、
再生ヘッドを前記磁気ディスクの半径方向に移動させつつ、前記記録された信号の再生出力を連続的に測定しトラックプロファイルを生成する信号測定工程と、
前記トラックプロファイルの、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%におけるトラック幅を導出するトラック幅導出工程と、
前記導出されたトラック幅が所定値以内に収まっているかどうかを判断するトラック幅判断工程と、
を含むことを特徴とする、磁気ディスクの評価方法。
【請求項2】
前記トラック幅は、前記0〜20%内の所定範囲における前記トラックプロファイルの2本の近似直線の該所定範囲中点間の長さであることを特徴とする、請求項1に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項3】
前記所定範囲は0〜2%であり、前記任意%は1%であることを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項4】
前記所定値は、トラックプロファイルの最大値の50%におけるトラック幅の2倍であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項5】
円板状に形成された磁気ディスクのトラックプロファイルを評価する磁気ディスクの評価方法であって、
前記磁気ディスクを回転させ、記録ヘッドを該磁気ディスクの半径方向に移動し、任意の位置で該磁気ディスクに特定周波数の試験信号を記録させる信号記録工程と、
再生ヘッドを前記磁気ディスクの半径方向に移動させつつ、前記記録された信号の再生出力を連続的に測定しトラックプロファイルを生成する信号測定工程と、
前記トラックプロファイルの、最大値の0〜20%となる範囲内のいずれか任意%における微分値を導出する微分値導出工程と、
前記導出された微分値が所定値以上であるかどうかを判断する微分値判断工程と、
を含むことを特徴とする、磁気ディスクの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−80868(P2009−80868A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247317(P2007−247317)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】