説明

磁気ディスク用グライドヘッド

【課題】 小径の突起物の検出感度が高く、左と右の浮上レールの突起物に対する検出出
力差が小さいグライドヘッドを得る。
【解決手段】 スライダー本体部の重心点と荷重点の2点を結ぶ直線と、スライダー張り
出し部のディスクに対向しない面側に固定された圧電素子等からなる組立部の重心点と荷
重点の2点を結ぶ直線のなす角を130度以上とし、スライダー本体部の重心点と荷重点
、組立部の重心点を含む面を、スライダー本体部幅方向中心面と略一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスクの製造検査等に使用される磁気ディスク用グライドヘッドに係る
ものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置に使用される磁気ディスクは、円盤状のガラスあるいはアルミニウ
ム等の非磁性材基板を用いている。非磁性材基板の表面に磁性材料と主に炭素からなる保
護膜を、スパッター等を用いて成膜、さらにフルオロカーボン系の潤滑剤を塗布している
。このように作られた磁気ディスクは、磁気ヘッドと組み合わせ、情報を記録あるいは再
生する記録装置として用いられている。磁気ディスク用グライドヘッド(以降、単にグラ
イドヘッドと呼称することもある)は、この磁気ディスクの表面に発生した微小な突起あ
るいは異物等(以降、突起物と称する)を検出するためのセンサーとして、磁気ディスク
の検査工程で用いられている。グライドヘッドは数種実用化されているが、圧電素子をス
ライダーに搭載したものが主流となっている。
【0003】
圧電素子をスライダーに搭載したグライドヘッドは、特許文献1に記載されている。図
7に、圧電素子をスライダーに搭載したグライドヘッドの斜視図を示す。スライダー11
は、磁気ディスクと対向する浮上面に浮上レール15を有するスライダ−本体部12と、
側面にはスライダー張り出し部13が設けられ、スライダー張り出し部13の背面側に圧
電素子17を固着している。圧電素子17の出力電圧は圧電素子17の分極方向の両端か
らリード線18により取り出され、サスペンション21に設けた絶縁性チューブ19を通
じて外部に出力される。
【0004】
【特許文献1】特開平11−16163号公報
【0005】
グライドヘッドの動作原理を、図8を用いて簡単に説明する。スライダ−本体部12の
背面にサスペンション21に設けられたフレキシャー22が接着される。フレキシャー2
2に形成されたピボット23の頂点にサスペンション21がスライダー11を磁気ディス
ク81に押付ける力である荷重を与えている。ピボット23を支点としてスライダー11
が、僅かであるが上下左右に動けるようになっている。荷重点はピボット23がスライダ
ーに荷重を与える位置になる。スライダー11は磁気ディスク81の回転に伴う空気流の
作用により浮上する。空気流はスライダー11の流入端71から流出端72に向かって流
れる。グライドヘッドの浮上高さhgは種々の要素で決まるが、主に空気流の流速とスラ
イダーの浮上レール幅、荷重によって決まる。浮上レール幅と荷重はグライドヘッドによ
って決まっているため、磁気ディスク81の回転数と磁気ディスク上のグライドヘッド位
置によって決まる線速度で浮上高さhgが決まる。磁気ディスクの回転数を変え、線速度
を磁気ディスク面内で一定とすることで、磁気ディスク81上に一定の浮上高さhgをも
ってスライダー11を浮上させることができる。
【0006】
一般にグライドヘッドは、磁気ディスク面内を一定の条件、すなわち、突起物80の高
さnを検出する浮上高さhgを磁気ディスク面内で一定とし、かつ、突起物80とグライ
ドヘッドの衝突時に発生するエネルギーを揃える(突起物80とグライドヘッドの相対速
度を一定にする)ために、線速度を磁気ディスク面内で一定としている。また、浮上高さ
hgや飛行時の姿勢を磁気ディスク面内で一定とするために、グライドヘッドのスライダ
ーは磁気ディスク上のいずれの位置においても、スライダーとスライダーが飛行する磁気
ディスク上の円周の接線とのなす角(YAW角)は一定であり、グライドハイトテストで
は、通常0度で用いられる。スライダー11が磁気ディスク上の突起物80に接触あるい
は衝突すると、衝突により発生する振動はスライダー11を伝播して圧電素子17を振動
変形させる。圧電素子17の電極に電荷が誘起されるので、リード線18から電極間電圧
を取り出し測定することにより突起物80の検出ができる。さらに、所定の浮上高さhg
を持つスライダー11を磁気ディスクの表面で移動すると、浮上高さhgより高い突起物
80にスライダー11が接触(衝突)する。このとき発生する圧電素子17の電圧と磁気
ディスクの位置を求めれば、磁気ディスク表面にある規格外の突起物80を検知すること
ができる。
【0007】
近年益々磁気ディスク装置の高容量化と小型化、つまり高記録密度化は猛烈な勢いで進
んでいる。記録密度を上げるために、記録ビットの幅と長さはますます小さくなり、それ
に伴い磁気ヘッドの狭トラック幅化と磁気ギャップの狭ギャップ長化が進んでいる。また
、磁気ヘッドを磁気ディスク径方向へ高速で移動させるため、磁気ヘッドスライダーも小
型化している。記録密度を上げるため、磁気ディスクと磁気ヘッドとの隙間、即ち磁気ヘ
ッドのスライダーの浮上高さhは、10nm以下が求められるようになってきている。
【0008】
磁気ヘッドが磁気ディスク上を浮上し、情報の記録や再生を行なう場合、磁気ディスク
表面に磁気ヘッドのスライダーの浮上高さhより高い突起物80があると、スライダーが
磁気ディスクと衝突を起こし、正確な情報の記録や再生ができなくなる。また、データー
の破損や磁気ディスク装置の故障を引き起こす原因にもなる。そのために、磁気ディスク
表面の突起物80の高さnは磁気ヘッドのスライダーの浮上高さhより低くする必要があ
る。スライダーの浮上高さhの極小化に伴って、許容される磁気ディスクの突起物80の
高さnはますます低くなる傾向にあり、その高さ要求は5nm以下になってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グライドヘッドを用いて磁気ディスクの突起物を検査し、規格を外れる突起物が無く合
格と判定された磁気ディスクを使用した磁気記録装置でも、非常に稀ではあるが磁気ヘッ
ドと磁気ディスクとの衝突による不具合が発生することがある。不具合が発生した磁気デ
ィスク装置から磁気ディスクを取外し、磁気ディスクの表面をAFMと略される原子間力
顕微鏡で観察すると、合格と判定されたにもかかわらず規格以上の高さnの突起物が見つ
かることがある。検査をすり抜けた規格以上の高さを持つ突起物を詳細に分析すると、突
起物の直径dが2μm以下と小さなものであった。突起物の形状は千差万別であるので、
ここで言う突起物の直径dは、突起物の磁気ディスクとの接触面の短径と長径を算術平均
して求めたものである。高さnは、磁気ディスク表面から突起物の最高点までの値を用い
ている。
【0010】
グライドヘッドは、スライダーが磁気ディスク上の突起物に接触あるいは衝突すると、
スライダーが振動し、その振動が圧電素子を変形させ、圧電素子の電極に電荷が誘起され
出力電圧を検知するものである。ここで、スライダーが突起物に接触あるいは衝突したと
しても、スライダーが効率良く振動しなければ、規格以上の突起物であっても規格以上で
あると判定することはできない。特に、直径dが2μm以下の小さい突起物の場合は突起
物自体の体積もしくは重量が小さいため、衝突時のエネルギーが小さく十分にスライダー
が振動せず、正確に判定が出来ないことがある。直径dが2μm以下で規格以上の高さを
持つ突起物を確実に検知するには、衝突時にスライダーが効率良く振動するグライドヘッ
ドが求められる。
【0011】
また、図7に示すグライドベッドでは、左右の浮上レールの浮上高さhgが同じになる
ように設定して高さnの突起物を検出させても、突起物に衝突した浮上レールが左か右か
によって出力電圧に差が生じてしまう。これは、左右の浮上レールの浮上高さhgが同じ
であっても、左と右の浮上レールと圧電素子との距離が異なるので、突起部との衝突で発
生する圧電素子の振動状態に差が生じてしまうためと考えられる。
【0012】
磁気ディスク製造の工程であるグライドハイトテストにおいて、磁気ディスはグライド
ヘッドで面内全域が検査されるが、内周、外周の一部領域は、浮上レールの片側でだけで
しか突起物の有無を判定できない。これは、グライドハイトテストが、グライドヘッドの
浮上高さhgを一定に保ちながらディスク面上を半径方向に掃引して検査する方法である
ため、最内周はグライドヘッドの内周側の浮上レールだけ、最外周は外周側の浮上レール
だけしか、その領域に達しないからである。よって、左右、つまり内周側と外周側の浮上
レールの突起物に対する検出出力に差があると、それら領域では突起物の検出判定に差が
生じてしまう。すなわち、突起物に対する検出出力の大きい側を基準とすれば、小さい側
のレールで本来検出すべき突起物を見逃す事となり、逆に検出出力の小さい側を基準とす
れば、大きい側のレールでの検査は厳しくなり、磁気ディスクの合格率が低下してしまう
ことになる。妥当な突起物の検出判定と磁気ディスク生産性の観点からすると、左右の浮
上レールからの出力差は小さいことが望ましい。
【0013】
本発明は、小径の突起物に対する検出感度が高く、左と右の浮上レールの突起物に対す
る検出出力差が小さいグライドヘッドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の磁気ディスク用グライドヘッドは、回転する磁気ディスクに対向するスライダ
ー面に、浮上力を発生させる浮上レール面が形成され、浮上力とスライダー背面に設けら
れた荷重点から加えられるスライダーを磁気ディスクに押付ける荷重とのバランスでスラ
イダーを磁気ディスクから所定の浮上高さで浮上させ、磁気ディスクとスライダーとの接
触あるいは衝突をスライダー背面である磁気ディスクに対向しない面側に固着した圧電素
子で検出する磁気ディスク用グライドヘッドであり、スライダーは浮上レール面が形成さ
れたスライダー本体部と圧電素子が固着されたスライダー張り出し部からなり、スライダ
ー本体部の重心点とスライダー背面に設けられ荷重点を結ぶ直線と、スライダー張り出し
部と圧電素子からなる組立部の重心点と前記荷重点を結ぶ直線のなす角度が130度以上
であることが望ましい。
【0015】
グライドヘッドのスライダーと磁気ディスク上の突起物が衝突した際、スライダーは、
荷重点を支点として振動を起こす。安定したスライダーの浮上状態は、荷重と浮上力のバ
ランスにより保たれているが、その状態において、浮上力を受けているスライダー本体部
の質量と、スライダー張り出し部と圧電素子からなる組立部の質量は、荷重点を支点とし
て釣り合いを保っている。スライダーと突起物の衝突によって生じるスライダーの振動の
大きさ、即ち検出感度の良し悪しは、この釣り合いの安定性により異なる。これは、玩具
である“やじろべい”を考えると理解し易い。“やじろべい”は両腕のなす角度によって
外力に対する安定性が異なり、両腕のなす角度が大きいほど不安定になる。この不安定さ
は逆に、外乱に対して敏感であるということを意味する。荷重点を支点としたスライダー
本体部と、スライダー張り出し部と圧電素子からなる組立部の釣り合いに所定の角度を持
たせるのは、グライドヘッド全体に不安定さを与え、小径の突起物に対する検出感度を高
めることができるので望ましい。
【0016】
スライダー本体部の重心点とスライダー背面に設けられ荷重点を結ぶ直線と、スライダ
ー張り出し部と圧電素子からなる組立部の重心点と前記荷重点を結ぶ直線のなす角度を大
きくするほど、グライドヘッドの小径の突起物に対する検出感度を高めることができ望ま
しいものである。なす角度が130度未満であると、小径の突起物に対する十分な検出感
度が得られないもしくは得にくい状態になるので、なす角度は130度以上であるのが望
ましい。また、なす角度が180度を超えて大きくなった場合、210度を超えると逆に
、グライドヘッド全体の不安定さが増し過ぎ、検出感度のばらつきが大きくなるので、な
す角度は210度以下であるのがより望ましい。
【0017】
浮上力を発生させる浮上レールは、機械加工により2本のレールを作製して得ることが
容易であるが、正圧力を発生させる浮上レールと、スライダー流入端より流入した空気流
が、流入に伴う圧縮状態から僅かに一段凹んだ領域に到達した際に体積膨張し、負の浮上
力を発生させ、この負圧力と正圧力の総和を浮上力として使うこともできる。この場合、
負圧力が発生する負圧面領域は浮上レール面より凹ませることが必要なため、砥石や砥粒
を用いた機械加工では難しく、フォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いる
ことが好ましい。勿論、浮上レール面の研磨やスライダーの切断や研磨加工等には、機械
加工方法を用いることができる。本発明のグライドヘッドには、正圧型スライダーと負圧
型スライダーの何れも用いることができるが、低い浮上高さにて安定に飛行し、かつ突起
検出部幅を広くするためには、負圧型スライダーを用いるのが望ましい。
【0018】
本発明の磁気ディスク用グライドヘッドは、回転する磁気ディスクに対向するスライダ
ー面に、浮上力を発生させる浮上レール面が形成され、浮上力とスライダー背面に設けら
れた荷重点から加えられるスライダーを磁気ディスクに押付ける荷重とのバランスでスラ
イダーを磁気ディスクから所定の浮上高さで浮上させ、磁気ディスクとスライダーとの接
触あるいは衝突をスライダー背面である磁気ディスクに対向しない面側に絶縁材からなる
スペーサーを介して固着した圧電素子で検出する磁気ディスク用グライドヘッドであり、
スライダーは浮上レール面が形成されたスライダー本体部と絶縁材からなるスペーサーを
介して圧電素子が固着されたスライダー張り出し部からなり、スライダー本体部の重心点
とスライダー背面に設けられた荷重点を結ぶ直線と、スライダー張り出し部とスペーサー
と圧電素子からなる組立部の重心点と前記荷重点を結ぶ直線のなす角度は、130度以上
であることが望ましい。
【0019】
本発明では、組立部を構成するスライダー張り出し部と圧電素子の間に、絶縁材からな
るスペーサーを介しても良い。スライダー張り出し部上にスペーサーを介して圧電素子を
固着することで、組立部の重心点位置を制御し、スライダー本体部の重心点と荷重点を結
ぶ直線と、組立部の重心点と荷重点を結ぶ直線のなす角度を望ましい角度に調整すること
が可能になる。
【0020】
グライドヘッドのスライダーは、記録再生磁気ヘッドと同じアルミナチタンカーバイド
(AlTiC)を用いることが多い。アルミナチタンカーバイド材は電気抵抗率が約2×
10−3(Ω・cm)であるので、スペーサーは圧電素子の電極とスライダー材で電気的
短絡を起こさない絶縁材であるのが望ましく、絶縁性の有機物(プラスチックや接着剤等
)や無機物(ガラスやセラミック等)を用いることができるが、中でも入手、加工、組立
の容易性からガラス材を用いるのが望ましい。
【0021】
本発明の磁気ディスク用グライドヘッドは、スライダー本体部の重心点と、スライダー
背面に設けられた荷重点、組立部の重心点を含む面が、スライダー本体部幅方向中心面と
略一致することが望ましい。
【0022】
スライダー本体部の重心点と、スライダー背面に設けられた荷重点、組立部の重心点を
含む面を、スライダー本体部幅方向中心面と略一致させることで、スライダー本体部の幅
方向に対して組立部が線対称の配置となり、左と右の浮上レールと圧電素子の距離は同等
になる。左右の浮上レールと突起物との衝突で発生する振動は同等となり、左右の浮上レ
ールの突起物検出出力差が小さいグライドヘッドにすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、小径の突起物の検出感度が高く、左と右の浮上レールの突起物検出出力
差が小さいグライドヘッドを得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判
り易くするため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【0025】
(実施例1)
本発明の実施例であるグライドヘッドの斜視図を図1に示す。図1a)は、本実施例の
グライドヘッドを背面側から見た斜視図であり、図1b)は、本実施例のグライドヘッド
を磁気ディスク対向面側から見た斜視図である。スライダー11は、浮上レールを持つス
ライダー本体部12と、流出端側に圧電素子17を固着するスライダー張出し部13が一
体で形成されたものである。スライダー11は、空気導入領域14と突起検出を兼ねる浮
上領域15よりなる負圧型スライダーである。圧電素子17の出力電圧は両端の電極から
リード線18により取り出され、サスペンション21に設けた絶縁性チューブ19を通じ
て外部に出力される。図には表示されていないが、スライダー11はサスペンションに溶
接されたフレキシャー20に樹脂で固着した。スライダーと圧電素子、サスペンションは
、各幅方向中心線が略一致するように固着した。すなわち図1から判るように、スライダ
ーと圧電素子、サスペンションは幅方向の中心線に対し線対称な構造となっている。
【0026】
図2を用いて、本実施例のスライダーの寸法を説明する。図2a)にスライダー浮上面
側の平面、側面を示す。材質はAlTiC、その密度は4.3g/ccである。スライダ
ーの全長L11は1.95mm、この内スライダー本体部長L12は0.85mm、スラ
イダーの幅L13は0.75mmである。浮上レール30の流出端72が突起検出部33
に相当し、突起検出部は2ヶ所で幅L14は0.16mmである。2本の浮上レール30
の流入端側を繋ぐクロスレールには、漏斗型をした溝36を形成した。漏斗型溝36は一
点鎖線で示すスライダー中心線に対し角度ηの溝側面37を有している。本実施例では、
角度ηは30度としたので、両の溝側面37は60度の角度を持って対向している。漏斗
型溝の出口幅L15は0.1mmとした。スライダー厚みL16は、浮上レール面とスラ
イダー背面間の距離で0.43mmとした。スライダー張出し部13の厚みL17は0.
23mmとした。スライダー浮上面の深さ方向の寸法関係について、図2b)のm−m’
断面で説明する。スライダーの浮上面は、空気導入面34に対し浮上レール30は凸で負
圧面35は凹となっており、凸量L18は0.22μm、凹量L19は2.2μmとした

【0027】
図3に、本実施例のスライダー本体部12の重心点Gsとスライダー背面に設けられた
荷重点Lの2点を結ぶ直線k1と、スライダー張り出し部13と圧電素子17とからなる
組立部の重心点Gaと荷重点Lの2点を結ぶ直線k2、k1とk2のなす角θを示す。ま
た、図にはスライダー張り出し部13の重心点をGw、圧電素子17の重心点をGpとし
て示す。図3a)は、本実施例のグライドヘッドを背面から見た斜視図であり、図3b)
は、本実施例のグライドヘッドを、スライダー背面側および側面側からみた平面図である
。スライダー背面に設けられた荷重点Lは、図8中のピボット23と一致し、スライダー
に荷重が掛かる点である。なお、図3では浮上レールの形状およびサスペンションに係わ
る部品は省略し、各部の荷重点の関係のみを模式的に示している。
【0028】
スライダー11は、通常同一材質の一体物として製作されるが、空気流を受けて浮上力
を生み出す浮上レールを有するスライダー本体部12と、スライダーの浮上には寄与しな
いが突起との衝突振動を検知する圧電素子を搭載するために設けられたスライダー張り出
し部13に便宜的に二つの部位と考える。この時、スライダー本体部12の重心点Gs、
スライダー張り出し部13の重心点Gw、圧電素子17の重心点Gpは、各部材の密度、
質量分布、および形状から求められ、回転モーメントの総和がゼロになる点となる。更に、
スライダー張り出し部13と圧電素子17を一体とする組立部の重心点Gaは、スライダ
ー張り出し部13の重心点Gw、圧電素子17の重心点Gpと各部の質量から求める事が
できる。
【0029】
図3b)を用いて、本実施例のグライドヘッド寸法を説明する。圧電素子17はチタン
酸鉛(PbTiO)の固溶体であるセラミックで、縦横高さを、それぞれ0.86mm
、0.51mm、0.76mmとし、縦横で囲まれる2面に金電極を付けて検出素子とし
た。その密度は、7.85g/ccであった。サスペンションの中心線とスライダー11
、圧電素子17の幅方向中心線が一致するようにし、荷重点Lに対して、スライダー本体
部12の重心Gsと圧電素子17の重心Gpが、それぞれLs=0.31mm、Lp=1
.24mmの位置になるようにスライダー11と圧電素子17を固着した。その結果、ス
ライダー本体部12の重心Gsと荷重点Lを結ぶ直線k1と、スライダー張り出し部12
と圧電素子17とからなる組立部の重心点Gaと荷重点Lを結ぶ直線k2のなす角θは1
50度となり、Ga、荷重点L、Gsを含む面は、スライダー本体部12の幅方向中心面
と略一致した。このグライドヘッドの荷重値を、1.2gfとし、磁気ディスクとスライ
ダーの相対速度を12m/sとしたところ、突起検出を行なう浮上レール流出端部の浮上
高さは5nmであった。
【0030】
次に、本実施例のグライドヘッドの検出感度を、ガラスディスク基板にレーザー光をあ
て、その溶解と固形化により直径2μmで高さ8nmの山状バンプを形成したバンプディ
スクを用いて評価した。評価には、本実施例のグライドヘッド50本を使用し、バンプデ
ィスクのバンプとスライダーの左右の浮上レールを相対速度12m/sで衝突させ、浮上
レールの出力電圧Voutと、衝突していない時のノイズ出力電圧Vnoiseを測定し
た。ここで言う出力電圧とは、圧電素子からの出力電圧を200kHzから2500kH
zのバンドパスフィルターと、500倍の増幅率を持つアンプを通した値である。本実施
例ではVoutとVnoiseの比を検出感度として、検出感度=20×log(Vou
t/Vnoise)の式にてデシベル(dB)表示で算出した。
【0031】
浮上レールの出力電圧Voutは、左右の浮上レールからの出力電圧として二つの値が
得られ、それら各々に対して検出感度が算出される。本実施例では、Gsと荷重点L、G
aを含む面がスライダー本体部12の幅方向中心面と略一致し、幅方向の中心線に対し線
対称の構造のグライドヘッドとしたため、左右の浮上レール間での検出感度差は0.5d
B未満と小さくなった。この検出感度差は、複数ヘッド間の検出感度差よりも小さいもの
であり、本実施例では左右の浮上レールの区別をせず各ヘッドの検出感度とした結果、本
実施例のグライドヘッドの検出感度は21±2dBとなった。
【0032】
磁気ディスク上の突起物とスライダーとの衝突によって生じる出力電圧から、突起物の
有無を判定するグライドハイトテストでは、その突起物の有無を判定する閾電圧はノイズ
出力電圧Vnoiseの電圧よりも当然大きく、ノイズ出力電圧Vnoiseの3倍程度
(〜10dB)を設定することが一般的である。よって、排除すべき突起物を確実に検出
するには、20×log(Vout/Vnoise)で算出される検出感度が、安定的に
10dB以上である事が求められる。
【0033】
以上のことから、本実施例のグライドヘッドの検出感度は直径2μmで高さ8nmの微
小突起物を検出するに十分であり、小径の突起物に対しても高い検出感度が得られること
が判った。
【0034】
本実施例の比較例として、本実施例と同じ材料構成を用い、Lsを0.02mm、なす
角θを120度として作製したグライドヘッドの平面図を図3c)に示す。図において、
荷重点L’とスライダー本体部の重心点Gsを結ぶ直線はk1’、荷重点L’とスライダ
ー張り出し部13と圧電素子17から成る組立部の重心Ga’を結ぶ直線はk2’である
。実施例1と同様に、グライドヘッド50本を作製し、検出感度の測定を行なったところ
、検出感度は10±2dBとなり、安定的と言える検出感度は得られなかった。
【0035】
(実施例2)
本発明の他の実施例であるグライドヘッドを図4に示す。図4a)は、本実施例のグラ
イドヘッドを背面側から見た斜視図であり、図4b)は、本実施例のグライドヘッドを、
磁気ディスク対向面側から見た斜視図である。スライダー張り出し部12と圧電素子17
の間にガラス材からなるスペーサー16を用いた以外、その他の部材は実施例1と同じも
のを用いた。
【0036】
図5を用いて、本実施例のグライドヘッドを説明する。図5a)は、本実施例のグライ
ドヘッドを背面から見た斜視図であり、図5b)は、本実施例のグライドヘッドを、スラ
イダー背面側および側面側から見た平面図である。スライダー背面に設けられた荷重点L
は、図8中のピボット23と一致し、スライダーに荷重がかかる点である。なお、図3と
同様に図5でも浮上レールの形状およびサスペンションに係わる部品は省略し、各部の荷
重点の関係のみを模式的に示している。また、本実施例は、実施例1の形態にスペーサー
を付加したものであることから、実施例1と同一部分について同じ記号を用い、その説明
は省略する。
【0037】
スペーサーの重心Ggも部材の密度、質量分布、および形状から求められる。スライダ
ー張り出し部とスペーサーと圧電素子を一体として、その組立部の重心Ga’’は、スラ
イダー張り出し部の重心点Gw、スペーサーの重心Gg、圧電素子の重心Gpと各部の質
量から求める事が出来る。荷重点Lとスライダー本体部の重心点Gsを結ぶ直線をk1’
’とし、荷重点Lとスライダー張り出し部とスペーサーと圧電素子から成る組立部の重心
Ga’’を結ぶ直線をk2’’とした時、図5に示す角をこの二つの直線のなす角θとす
る。
【0038】
図5b)を用いて、本実施例のグライドヘッド寸法を説明する。実施例1にガラス材で
あるスペーサー16をスライダー張り出し部13と圧電素子17の間に挟んで組み立てて
いる。スペーサー16はソーダガラスであり、縦横高さを、それぞれ0.65mm、0.
65mm、0.22mmとし、その密度は2.4g/ccであった。サスペンションの中
心線とスライダー11、スペーサー16、圧電素子17の幅方向中心線が一致するように
し、荷重点Lに対して、スライダー本体部12の重心Gsとスペーサー16の重心Gg、
圧電素子17の重心Gpが、それぞれLs=0.31mm、Lg=1.02mm、Lp=
1.24mmの位置になるようにスライダー11にスペーサー16と圧電素子17を固着
した。その結果、スライダー本体部12の重心Gsと荷重点Lを結ぶ直線k1’’と、ス
ライダー張り出し部12と圧電素子17とからなる組立部の重心点Ga’’と荷重点Lを
結ぶ直線k2’’のなす角θはは155度となり、Ga’’、荷重点L、Gsを含む面は
、スライダー本体部12の幅方向中心面と略一致した。このグライドヘッドの荷重値を、
1.2gfとし、磁気ディスクとスライダーの相対速度を12m/sとしたところ、突起
検出を行なう浮上レール流出端部の浮上高さは5nmであった。
【0039】
次に、本実施例のグライドヘッドの出力電圧Voutおよびノイズ出力電圧Vnois
eを実施例1の方法で測定したところ、本実施例においても、Gsと荷重点L、Ga’’
を含む面がスライダー本体部12の幅方向中心面と略一致し、幅方向の中心線に対し線対
称の構造のグライドヘッドとしたため、左右の浮上レール間での検出感度差は0.5dB
未満と小さくなった。そこで、実施例1と同様に左右の浮上レールの区別をせず検出感度
とした結果、本実施例の検出感度は22±2dBとなった。以上のことから、本実施例の
グライドヘッドの検出感度は微小突起物を検出するに十分であり、小径の突起物に対して
も高い検出感度が得られることが判った。
【0040】
本実施例の比較例として、本実施例と同じ材料構成を用い、Lsを0.02mm、なす
角θを125度としたグライドヘッドを50本を作製して本実施例と同じ方法で評価した
ところ、突起検出感度は11±2dBとなり、安定的と言える検出感度は得られなかった

【0041】
(実施例3)
本実施例では、実施例2の材料構成で、スライダー張り出し部の長さ、厚み、スペーサ
ーの厚み、および圧電素子の高さを適宜変更し、またその位置関係も適宜変更することに
より、スライダー本体部の重心点と荷重点の2点を通る直線と、スライダー張り出し部と
スペーサー、圧電素子からなる組立部の重心点と荷重点の2点を通る直線のなす角θを、
95度から235度の5度毎になるように各条件50本ずつグライドヘッドを製作し、実
施例1の評価方法で検出感度を比較した。
【0042】
図6b)に各なす角θでの検出感度を示す。50本のグライドヘッドの検出感度の平均
値を●点で、そのばらつき具合を上下のバーで示した。なす角θが100度以下では突起
を検出する事が出来ず、感度は0dBであった。なす角θの角度が100度以上で突起物
の検出が可能となったが、100度から125度の条件では、安定と言える閾値10dB
を切る検出検出感度のグライドヘッドが含まれ、望ましい結果ではなかった。なす角度θ
が130度以上の条件では、検出感度は著しく増大し、全てのグライドヘッドにおいて、
安定と言える閾値10dBを超える検出感度が得られた。なお、なす角θが215度以上
では検出感度のばらつきが大きくなることから、本実施例であるグライドヘッドのなす角
θは210以下が望ましいことが判った。
【0043】
以上、本発明の実施形態を、例をもって説明したが、スライダー寸法、組立寸法、材質
は記載されたものに限ることなく、スライダー本体部の重心点と荷重点の2点を通る直線
と、スライダー張り出し部のディスクに対向しない面側に固定された圧電素子等からなる
組立部の重心点と荷重点の2点を結ぶ直線のなす角を130度以上にすることで、小径の
突起物の検出感度が高く、左と右の浮上レールの突起物検出出力差が小さいグライドヘッ
ドを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1のグライドヘッドの斜視図である。
【図2】本発明の実施例1のスライダーの各部名称と寸法を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1のグライドヘッドの寸法を説明する図である。
【図4】本発明の実施例2のグライドヘッドの斜視図である。
【図5】本発明の実施例2のグライドヘッドの寸法を説明する図である。
【図6】本発明の実施例3のグライドヘッドの検出感度を示す図である。
【図7】従来のグライドヘッドの斜視図である。
【図8】グライドヘッドの動作原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
11 スライダー、
12 スライダー本体部、
13 スライダー張り出し部、
14 空気導入領域、
15 浮上レール、
16 スペーサー、
17 圧電素子、
18 リード線、
19 チューブ、
21 サスペンション、
22 フレキシャー、
23 ピボット、
30 浮上レール、
31 空気導入領域、
32 浮上領域、
33 突起検出部
34 空気導入面、
35 負圧面、
36 漏斗型溝、
37 スライダー中心線に対する溝側面角度、
71 流入端、
72 流出端、
80 突起物、
81 磁気ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する磁気ディスクに対向するスライダー面に、浮上力を発生させる浮上レール面が
形成され、浮上力とスライダー背面に設けられた荷重点から加えられるスライダーを磁気
ディスクに押付ける荷重とのバランスでスライダーを磁気ディスクから所定の浮上高さで
浮上させ、磁気ディスクとスライダーとの接触あるいは衝突をスライダー背面である磁気
ディスクに対向しない面側に固着した圧電素子で検出する磁気ディスク用グライドヘッド
において、スライダーは浮上レール面が形成されたスライダー本体部と圧電素子が固着さ
れたスライダー張り出し部からなり、スライダー本体部の重心点とスライダー背面に設け
られた荷重点を結ぶ直線と、スライダー張り出し部と圧電素子からなる組立部の重心点と
前記荷重点を結ぶ直線のなす角度は、130度以上であることを特徴とする磁気ディスク
用グライドヘッド。
【請求項2】
回転する磁気ディスクに対向するスライダー面に、浮上力を発生させる浮上レール面が
形成され、浮上力とスライダー背面に設けられた荷重点から加えられるスライダーを磁気
ディスクに押付ける荷重とのバランスでスライダーを磁気ディスクから所定の浮上高さで
浮上させ、磁気ディスクとスライダーとの接触あるいは衝突をスライダー背面である磁気
ディスクに対向しない面側に絶縁材からなるスペーサーを介して固着した圧電素子で検出
する磁気ディスク用グライドヘッドにおいて、スライダーは浮上レール面が形成されたス
ライダー本体部と絶縁材からなるスペーサーを介して圧電素子が固着されたスライダー張
り出し部からなり、スライダー本体部の重心点とスライダー背面に設けられた荷重点を結
ぶ直線と、スライダー張り出し部とスペーサーと圧電素子からなる組立部の重心点と前記
荷重点を結ぶ直線のなす角度は、130度以上であることを特徴とする磁気ディスク用グ
ライドヘッド。
【請求項3】
スライダー本体部の重心点と、スライダー背面に設けられた荷重点、組立部の重心点を
含む面が、スライダー本体部幅方向中心面と略一致することを特徴とする請求項1および
2に記載の磁気ディスク用グライドヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−67312(P2010−67312A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232542(P2008−232542)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】