説明

磁気伝達機構

【課題】非接触のマグネットを磁気伝達により動作させるものでありながら、マグネット直進体の直進方向及び直進速度を制御可能にして、直進動作用途への適用性を高めることができ、しかも、回転及び直進からなる複合動作や、回転又は直進の選択動作を要求する機構にも対応できる磁気伝達機構を提供する。
【解決手段】モータ2により回転駆動されるマグネット回転体3と、該マグネット回転体3の接線方向に沿って直進移動自在に設けられるマグネット直進体4と、該マグネット直進体4を、その直進方向両端側に設けられ、同極対向による反発磁力をもって中立位置に保持する固定マグネット5とを備えると共に、マグネット回転体3の外周面をS極とN極とが周方向に交互に連続形成される多極磁石で構成し、マグネット回転体3の回転方向及び回転速度に応じた磁気変化をマグネット直進体4に伝達して、マグネット直進体4の直進方向及び直進速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させる磁気伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁力により駆動伝達を行うものとしては、特許文献1に開示されたものの如く、同軸線上に配設される円周多極構造のインナー磁石を有するインナー部材と、前記インナー磁石とラジアル(放射状)方向に対向配置された円周多極構造のアウター磁石を有するアウター部材とを具備するラジアル型のマグネットカップリング構造や、特許文献2に開示されたものの如く、並設された回転軸に軸支して円周対向させた円盤のうち、一方を永久磁石よりなる駆動円盤とし、他方を強磁性体からなる従動円盤として、駆動円盤の磁力伝達により従動円盤を従動回転させるようにした構造のものなどが知られている。
【0003】
つまり、前者のものにあっては、多極構造のアウター磁石とインナー磁石を凹凸嵌挿し、それぞれの周面に形成された異極同士をすべて対向させることで、周面全体のS−N(N−S)対極による強固な吸着磁力をもって、回転時に極ズレさせないようにしたものであり、非接触でも殆どスベリが生じることなく強力にトルクを伝達することができる利点がある。
一方、後者のものにあっては、小径の駆動円盤の周面に一般的な永久磁石を数個取付け、その磁力により強磁性体としての大径従動円盤を磁化させ、駆動円盤の回転力を従動円盤に伝達し、スベリを前提とした従動により従動円盤の回転を徐々に上げて行き、大小歯車の歯数の違いによって回転数の変換を行っている従来の伝動機構において、モータ駆動時の急始動により大小歯車の間に過大な力が作用して、伝動装置が破壊されてしまうのを防止できる利点がある。
【0004】
また、磁気伝達により、多数の回転動作体を同時に回転動作できるようにした磁気伝達機構も提案されている(例えば、特許文献3参照)。このような磁気伝達機構によれば、例えば、医療分野の各種反応検査において、血液などの検体を50個、100個といった多数の単体容器(小容器)に小分けし、これらの撹拌、混合等をロット処理して行う作業工程などでは、容器数と一対の関係で配設された多数の撹拌羽根や撹拌子を一斉回動させるような機構に採用することができる。
【0005】
しかしながら、上述した従来の磁気伝達機構は、いずれも回転体から回転体へ磁気伝達を行うものであるため、用途が限定されるという問題があった。例えば、レーザ光の光路を変化させるミラーの直進移動制御機構、糸の左右送りなどを行うフックの直進移動制御機構、反応用容器を直進微動させる直進微動機構などにおいては、磁気伝達機構の適用が困難であった。
しかも、従来の磁気伝達機構は、伝達可能な動作が一種類(回転のみ)であるため、複数種類の複合的又は選択的な動作が要求される機構、例えば、反応用容器を直進微動させながら、撹拌羽根や撹拌子を回転させるような機構においては、磁気伝達機構の適用が困難であった。
【特許文献1】特開2000−125541号公報
【特許文献2】特開2001−251844号公報
【特許文献3】特開2005−233253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の如き問題点を一掃すべく創案されたものであって、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させるものでありながら、マグネット直進体の直進方向及び直進速度を制御可能にして、直進動作用途への適用性を高めることができ、しかも、回転及び直進からなる複合動作や、回転又は直進の選択動作を要求する機構にも対応できる磁気伝達機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の磁気伝達機構は、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させる磁気伝達機構であって、モータにより回転駆動されるマグネット回転体と、該マグネット回転体の接線方向に沿って直進移動自在に設けられるマグネット直進体と、該マグネット直進体の直進方向両端側に設けられ、同極対向による反発磁力をもって前記マグネット直進体を中立位置方向に反動させる固定マグネットとを備えると共に、前記マグネット回転体の外周面をS極とN極とが周方向に交互に連続形成される多極磁石で構成し、前記マグネット回転体の回転方向及び回転速度に応じた磁気変化を前記マグネット直進体に伝達して、当該マグネット直進体の直進方向及び直進速度を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記のように構成したことにより、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させるものでありながら、マグネット直進体の直進方向及び直進速度を自在に制御できるので、レーザ光の光路を変化させるミラーの直進移動制御機構、糸の左右送りなどを行うフックの直進移動制御機構、反応用容器を直進微動させる直進微動機構などの直進動作機構に適用することができる。しかも、マグネット回転体の回転動作をマグネット直進体の直進動作に変換しているので、両マグネットの動作を出力すれば、回転及び直進からなる複合動作や、回転又は直進の選択動作を要求する機構にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を好適な実施の形態として例示する磁気伝達機構を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、磁気伝達機構の斜視図、図2は、磁気伝達機構の平面図、図3は、磁気伝達機構の正面図である。これらの図に示すように、1Aは磁気伝達機構であって、該磁気伝達機構1Aは、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させる機構であって、モータ2により回転駆動されるマグネット回転体3と、該マグネット回転体3の接線方向に沿って直進移動自在に設けられるマグネット直進体4と、該マグネット直進体4の直進方向両端側に設けられる固定マグネット5とを備えて構成されている。
【0010】
モータ2は、モータ軸2aが上方に延出するようにベース6上に固定されている。モータ2の方式は任意であるが、回転方向、回転速度及び回転位置を高精度に制御できるステッピングモータが好ましい。このようなモータ2を用いて本発明の磁気伝達機構1Aを構成すると、マグネット回転体3及びマグネット直進体4の動作方向、動作速度及び動作位置を任意に制御することが可能になる。
【0011】
マグネット回転体3は、上下方向に貫通する支軸3aを一体的に有し、該支軸3aを、カップリング7を介してモータ軸2aに一体的に連結することにより、モータ2の回転動作に応じてマグネット回転体3が回転駆動される。マグネット回転体3自体は、支軸3aを中心とする円柱形状であり、その外周面は、S極とN極とが周方向に交互に連続形成される多極磁石で構成されている。マグネット回転体3を構成する多極磁石の極数は任意であるが、マグネット直進体4を高速で直進微動させる場合は、極数を多くすることが好ましく、また、マグネット直進体4の直進ストロークを大きくする場合は、極数を少なくすることが好ましい。
【0012】
マグネット直進体4は、直進方向の両端にS極とN極を有する円筒形状の永久磁石で構成されており、直進ガイド8に沿って前後方向に移動自在に支持されている。マグネット直進体4の外周面は、空隙を存してマグネット回転体3の外周面と対向しており、非接触状態で磁気伝達が行われる。この空隙の大きさは、磁気伝達が可能であれば任意であるが、効率の良い磁気伝達を行うためには、可及的に小さくすることが好ましい。図1〜図3に示す磁気伝達機構1Aでは、直進ガイド8を支持する支持体9を左右方向移動自在に構成すると共に、ベース6と支持体9との間にネジ送り機構からなる左右調整ボルト10を介設し、該左右調整ボルト10の回し操作により、上記空隙の大きさを微調整することができるようになっている。
【0013】
固定マグネット5は、いずれも永久磁石からなり、直進ガイド8の両端部に固定され、同極対向による反発磁力をもってマグネット直進体4を中立位置に保持、即ち、中立位置方向に方向に反動すべく作用するようになっている。固定マグネット5とマグネット直進体4との距離は、要求されるマグネット直進体4の動作速度や直進ストロークに応じて任意に設定することができる。図1〜図3に示す磁気伝達機構1Aでは、支持体9の前後両部に、固定マグネット5の外端位置を規定する調整ボルト11を設け、該調整ボルト11の回し操作により、固定マグネット5とマグネット直進体4との距離を微調整することができるようになっている。なお、前記固定マグネット5(反発磁力)に換えて、スプリングやゴム質等の弾性体ストッパを用いてマグネット直進体4を反動するようにしても良く、また、この場合にマグネット回転体3の正逆駆動制御により、マグネット直進体4を往復駆動させるようにしても良い。
【0014】
叙述の如く構成された本発明の実施形態において、マグネット直進体4は、固定マグネット5との同極対向による反発磁力をもって直進ガイド8の中立位置に保持(中立位置方向に方向に反動)されるのであるが、モータ2によりマグネット回転体3を回転駆動させると、その磁気変化がマグネット直進体4に伝達され、マグネット直進体4が直進動作することになり、そして、マグネット回転体3の回転方向や回転速度に応じて、マグネット直進体4の直進方向や直進速度を制御することが可能になる。例えば、マグネット回転体3を高速で一方向に回転駆動させた場合は、マグネット直進体4を所定の直進ストロークをもって高速で直進微動(微小往復直進動作)させることが可能になる。
【0015】
したがって、非接触のマグネットを磁気伝達により動作させる磁気伝達機構でありながら、マグネット直進体4の直進方向及び直進速度を自在に制御できるので、レーザ光の光路を変化させるミラーの直進移動制御機構、糸の左右送りなどを行うフックの直進移動制御機構、反応用容器を直進微動させる直進微動機構などの直進動作機構に適用することができる。しかも、マグネット回転体3の回転動作をマグネット直進体4の直進動作に変換しているので、両マグネット3、4の動作を出力すれば、回転及び直進からなる複合動作や、回転又は直進の選択動作を要求する機構にも対応できる。
【0016】
なお、図1〜図3に示す磁気伝達機構1Aでは、一のマグネット回転体3に大して一のマグネット直進体4を設けていたが、図4〜図6に示す磁気伝達機構1Bのように、一のマグネット回転体3に対して複数のマグネット直進体4を設け、これらのマグネット直進体4を、一のマグネット回転体3の回転駆動に応じて同方向又は異方向に直進移動させるようにしてもよい。このようにすると、複数の直進動作体を任意の方向に直進動作させることができ、また、同方向に直進動作する複数のマグネット直進体4で一の直進動作体を直進動作させるようにすれは、大きな直進動作力を発生することが可能になる。
【実施例1】
【0017】
次に、本発明の磁気伝達機構をレーザ光の光路を変化させるミラーの直進移動制御機構1Cに応用した場合の実施例について説明する。図7は、ミラー直進移動制御機構の平面図、図8は、ミラー直進移動制御機構の縦断面図である。これらの図に示すように、ミラー直進移動制御機構1Cは、上方から照射されるレーザ光の光路を、そのまま下方に透過させる状態と、ミラー12により水平方向に反射させる状態とに切換える機構であって、本発明の磁気伝達機構を用いると、直進ガイド8に対するマグネット直進体4の回動を規制し、マグネット直進体4にミラー12を設けるだけで、ミラー直進移動制御機構1Cを構成することができる。なお、直進ガイド8に対するマグネット直進体4の回動は、直進ガイド8の断面形状及びマグネット直進体4のガイド孔形状を非円形とすることにより、容易に規制することができる。
【0018】
叙述の如く構成された本実施例のミラー直進移動制御機構1Cでは、モータ2によりマグネット回転体3を一方向に回転駆動させると、マグネット直進体4が所定の直進ストロークをもって直進微動するので、光路が交互に切り換えられ、また、その切り換え速度は、マグネット回転体3の回転速度制御に基づいて任意に調整することが可能になる。また、マグネット直進体4の直進位置は、マグネット回転体3の回転位置に応じて変化するので、マグネット回転体3を所定の回転位置に静止させれば、選択した光路状態を維持することができる。
なお、ミラー12に換えて複色プレート(例えば赤と青)を用い、遊戯具等の色、文字、立体物などの表示切換え可能な視覚効果を期待した表示手段として用いても良い。
【実施例2】
【0019】
次に、本発明の磁気伝達機構を撹拌装置1Dに応用した場合の実施例について説明する。図9は、撹拌装置の全体構成を示す斜視図、図10は、撹拌装置の内部構成を示す斜視図、図11は、撹拌装置の内部構成を示す側面図、図12は、撹拌装置の内部構成を示す正面図である。これらの図に示すように、撹拌装置1Dは、保持した容器(試験管)13を直進微動(揺動)させつつ、容器13の中に投入された磁性の撹拌子14を磁気伝達により回転させる複合動作装置であって、本発明の磁気伝達機構を用いれば、容器13を保持する微動(揺動)テーブル15と、撹拌子14を磁気伝達により回転させる撹拌子回転マグネット16を設けるだけで、撹拌装置1Dを容易に構成することができる。
【0020】
微動テーブル15は、アルミニウムなどの非磁性体からなり、マグネット回転体3の上方で容器13を保持する容器保持孔15aが形成されている。容器保持孔15aは、有底であってもよいが、無底であることが好ましい。このようにすると、保持した容器13の底部を後述する撹拌子回転マグネット16に近接させることができる。そして、本実施例では、マグネット回転体3の回転駆動に応じて同方向に直進動作する左右一対のマグネット直進体4で微動テーブル15を支持することにより、微動テーブル15を直進微動させる。微動テーブル15を直進微動ストロークは任意であるが、撹拌子14が撹拌子回転マグネット16の磁界から外れない範囲が好ましい。例えば、2mm程度の直進微動ストロークで微動テーブル15を直進微動させる。
【0021】
撹拌子回転マグネット16は、マグネット回転体3の上面に並設される異極一対の永久磁石からなり、微動テーブル15の容器保持孔15aに保持された容器13の底部と近接状に対向するようになっている。容器13には、液体と一緒に磁性の撹拌子14が投入され、この撹拌子14と撹拌子回転マグネット16との間に磁気回路を形成することにより、撹拌子14をマグネット回転体3と一体的に磁気結合させるようになっている。
【0022】
叙述の如く構成された本実施例の撹拌装置1Dでは、モータ2によりマグネット回転体3を一方向に回転駆動させると、左右一対のマグネット直進体4が同方向に直進動作し、微動テーブル15を直進微動させる。これにより、微動テーブル15に保持された容器13が微動し、容器13内の液体が撹拌される。また、マグネット回転体3が回転駆動すると、その上面に設けられる撹拌子回転マグネット16も一体的に回転する。この撹拌子回転マグネット16は、容器13内に投入された磁性の撹拌子14と、磁気回路を介して磁気結合されているので、マグネット回転体3の回転駆動に応じて撹拌子14を容器13内で回転させる。このようにして、容器13を直進微動させつつ、容器13の中に投入された磁性の撹拌子14を磁気伝達により回転させる複合動作装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】磁気伝達機構の斜視図である。
【図2】磁気伝達機構の平面図である。
【図3】磁気伝達機構の正面図である。
【図4】磁気伝達機構の他例を示す平面図である。
【図5】磁気伝達機構の他例を示す側面図である。
【図6】磁気伝達機構の他例を示す縦断面図である。
【図7】ミラー直進移動制御機構の平面図である。
【図8】ミラー直進移動制御機構の縦断面図である。
【図9】撹拌装置の全体構成を示す斜視図である。
【図10】撹拌装置の内部構成を示す斜視図である。
【図11】撹拌装置の内部構成を示す側面図である。
【図12】撹拌装置の内部構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1A 磁気伝達機構
1B 磁気伝達機構
1C ミラー直進移動制御機構
1D 撹拌装置
2 モータ
2a モータ軸
3 マグネット回転体
3a 支軸
4 マグネット直進体
5 固定マグネット
6 ベース
7 カップリング
8 直進ガイド
9 支持体
10 左右調整ボルト
11 調整ボルト
12 ミラー
13 容器
14 撹拌子
15 微動テーブル
15a 容器保持孔
16 撹拌子回転マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触のマグネットを磁気伝達により動作させる磁気伝達機構であって、モータにより回転駆動されるマグネット回転体と、該マグネット回転体の接線方向に沿って直進移動自在に設けられるマグネット直進体と、該マグネット直進体の直進方向両端側に設けられ、同極対向による反発磁力をもって前記マグネット直進体を中立位置方向に反動させる固定マグネットとを備えると共に、前記マグネット回転体の外周面をS極とN極とが周方向に交互に連続形成される多極磁石で構成し、前記マグネット回転体の回転方向及び回転速度に応じた磁気変化を前記マグネット直進体に伝達して、当該マグネット直進体の直進方向及び直進速度を制御することを特徴とする磁気伝達機構。
【請求項2】
一の前記マグネット回転体に対して複数の前記マグネット直進体を設け、これらのマグネット直進体を、一の前記マグネット回転体の回転駆動に応じて同方向又は異方向に直進移動させることを特徴とする請求項1記載の磁気伝達機構。
【請求項3】
前記マグネット直進体によって直進動作体を直進動作させつつ、前記マグネット回転体によって回転動作体を回転動作させることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気伝達機構。
【請求項4】
前記直進動作体は、保持した容器を直進微動させる微動テーブルであり、前記回転動作体は、容器の中に投入された磁性の撹拌子を磁気伝達により回転させる撹拌子回転マグネットであることを特徴とする請求項3記載の磁気伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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