説明

磁気冷凍材料を用いたマイクロチャネル熱交換器の製造方法およびマイクロチャネル熱交換器

【課題】 磁気冷凍材料でマイクロチャネル熱交換器を形成する製造方法を提供する。
【解決手段】 溝13を形成した磁気冷凍材料21に、水素(H)雰囲気中(約200℃〜300℃、1気圧)で熱処理を施し、水素を含浸させた。磁気冷凍材料21における溝13の周辺に位置する第1面15に、エポキシ系接着剤19を薄く延ばして塗布した。その上に水素含浸工程を経た別の磁気冷凍材料21の第2面17が当たるように積層した。同様に複数の磁気冷凍材料21を積層し、最上部には溝の形成されていない磁気冷凍材料11を積層して上述した接着剤により接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料を用いたマイクロチャネル熱交換器の製造方法、およびマイクロチャネル熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
環境配慮型の冷凍技術として、クリーンでエネルギー効率の高い磁気冷凍に対する期待が高まっている。磁気冷凍材料としてLa(Fe,Si)13系材料が高い磁気熱量効果を発現し、且つこの材料に水素を含有させることで高い磁気熱量効果を室温で発現することが知られている(特許文献1)。あるいは水素の代わりにCoを含有させて室温動作させる方法も提案されている(特許文献2)。
【0003】
特許文献2には、磁気冷凍材料の形状については、球形あるいは楕円体が望ましく、粒径は0.1mm以上2mm以下が好ましく、0.4mm以上1.5mm以下であることがより好ましい、と記載されている。図12(A)に球状の磁気冷凍材料を円筒管に充填した状態の概略断面図を示す。符号100は球状磁気冷凍材料、符号110は円筒管である。
【0004】
冷媒と磁気冷凍材料との熱交換の観点からは磁気冷凍材料の比表面積が最も大きくなる球状が好ましい。しかしながら、球状の磁気冷凍材料を用いた場合にはポンプ動力すなわち圧力損失が高くなってしまう。更に、容器に球状の磁気冷凍材料を充填した場合に個々の磁気冷凍材料粒子が完全に固定されず、一部の粒子は冷媒によって移動するために隣接する粒子との衝突によって破壊し微細粉を発生してしまう。
【0005】
そこで、磁気冷凍材料の面に接した貫通スリットを形成し、このスリットに冷媒を流すことで磁気冷凍材料と冷媒間での熱交換を行うマイクロチャネル構造が提案されている(非特許文献1)。図12(B)に非特許文献1の模式断面図およびマイクロチャネルの斜視図を示す。本構造とすることで、低圧力損失と高熱交換性能の両立が可能となる。
【0006】
所望の熱交換性能を得るためにはマイクロチャネルのスリット幅および磁気冷凍材料厚さ共に数mm程度以下(好ましくは、1mm程度以下)とする必要がある。一方、非特許文献1ではマイクロチャネルのスリット幅を0.15mm程度としており、磁気冷凍材料(GaSiGe)の厚さを5mmとしている。Si基板をエッチングして0.15mm深さの溝を形成し、この溝を形成した面に対向させて5mm厚の磁気冷凍材料の板を接合することでマイクロチャネルを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−96547号公報
【特許文献2】特開2008−150695号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】NASA Supported Hydrogen Research 2005 @University of Florida講演会チャート、第18頁、[online]、[平成22年8月2日検索]、インターネット〈URL:http://www.mae.ufl.edu/NasaHydrogenResearch/presentations/Review%20Meeting%20-%20Other%20Projects.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1の構造ではマイクロチャネル構造の一部が磁気冷凍材料ではないSiで形成されることになり、磁気熱量効果を十分に引き出すことができない。またSiと磁気冷凍材料とで熱膨張係数が異なるために温度変動によって界面に応力が発生し、最悪の場合界面で剥離する恐れがある。
【0010】
非特許文献1において磁気冷凍材料そのものでマイクロチャネルを形成しなかった理由は磁気冷凍材料がSi基板のように単結晶ではないために結晶の異方性を利用したエッチング加工ができず、更に磁気冷凍材料が機械的に脆いために放電加工など一般的な深溝機械加工では前述のマイクロチャネル構造を形成することができないためである。
【0011】
一方、塊状の磁気冷凍材料に、例えば幅が0.5mm以下で高さ5mm程度、奥行きが20mm程度の貫通スリットを形成するには、レーザー加工や放電加工等が考えられるが、いずれの加工方法も加工時間が長く、加工面の面粗度の悪化や亀裂・割れ等のダメージの発生が課題となる。
【0012】
本発明の目的は、磁気冷凍材料でマイクロチャネル熱交換器を形成する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、水素を含浸させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を用いたマイクロチャネル熱交換器の製造方法である。この製造方法は、略平板状の磁気冷凍材料に水素を含浸させる含浸工程と、含浸工程により水素を含浸させた磁気冷凍材料を積層して接合する組立工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
このような製造方法であれば、略平板状の磁気冷凍材料を複数個積層して接合することでクラック・割れ等のダメージなく流路(マイクロチャネル)を形成することができる。マイクロチャネルは、後述するように磁気冷凍材料の少なくとも一方の面に溝を形成したり、スペーサを介して磁気冷凍材料同士を接合したりすることで流路を形成できる。平板状の磁気冷凍材料の一方の面に溝を形成するには例えば一般的な旋盤加工あるいはワイヤーカット加工で可能であり、このような方法であれば加工面の面粗度の悪化や亀裂・割れ等のダメージの発生が抑制される。
【0015】
また、この製造方法では磁気冷凍材料が組立てられる前の段階で磁気冷凍材料に水素を含浸させるため、水素を含浸させることによって磁気冷凍材料が膨張しても、予め接合された磁気冷凍材料に水素を含浸させて磁気冷凍材料が膨張した場合のように、磁気冷凍材料の接合箇所に応力が集中するということがない。
【0016】
よって、製造時の磁気冷凍材料のクラックや割れなどの発生を抑制でき、また上述した応力が抑制されていることから、外部磁場による磁気歪みや冷媒の圧力による応力を受けたときのクラックや割れの発生も抑制できる。
【0017】
磁気冷凍材料としては、請求項10のように、NaZn13結晶構造を主相とするLaFe13系材料を用いてもよい。
磁気冷凍材料同士を接合する方法としては様々な方法が考えられる。例えば、高温で磁気冷凍材料同士を直接接合する方法、ブロック状の材料に溝加工する方法、材料の焼結時に予め溝を形成しておく方法などがある。また、請求項2に記載のように接合してもよい。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法において、組立工程では、磁気冷凍材料から水素が脱離する温度以下の温度で接合する接合部材を介して磁気冷凍材料を接合することを特徴とする。
【0019】
このような製造方法で製造されたマイクロチャネル熱交換器では、含浸工程において含浸された水素が脱離することを防止できる。
水素が脱離する温度とは、例えば磁気冷凍材料がNaZn13結晶構造を主相とするLaFe13系材料の場合、約200℃である。そのため、それ以下の温度で接合する接合部材を用いることが考えられる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法において、磁気冷凍材料が、少なくとも一方の面に溝が形成されており、組立工程において磁気冷凍材料を積層した積層体には、当該溝によって積層体の1つの端面から他の端面に連通する流路が形成されることを特徴とする。
【0021】
このようなマイクロチャネル熱交換器の製造方法では、溝により流路が形成されるように磁気冷凍材料を積層することで、簡便にマイクロチャネル熱交換器を製造できる。
なお、上述した溝は、請求項4に記載されるように、前記含浸工程前に形成されることとしてもよい。水素を含浸させると磁気冷凍材料が脆化する場合があるため、水素含浸前に予め溝を形成しておくことで、磁気冷凍材料に溝を形成する際に磁気冷凍材料が破損することを抑制できる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法において、組立工程が、磁気冷凍材料とスペーサとを交互に積層し、スペーサと磁気冷凍材料とを接合することで、スペーサを介して磁気冷凍材料を接合する工程であり、スペーサは流路を形成するように間隔を空けて複数配置されることを特徴とする。
【0023】
このような製造方法で製造されたマイクロチャネル熱交換器は、磁気冷凍材料およびスペーサによって囲まれる領域が流路となる。よって、磁気冷凍材料に溝を形成することなく流路を形成できる。またスペーサによって、外部磁場による磁気歪みや、流路を冷媒が通過する際の圧力によって磁気冷凍材料に加わる応力を緩和できるため、クラック、割れなどの発生を抑制できる。
【0024】
なお、上記スペーサのヤング率は、請求項6に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法のように、1〜0.01GPaとしてもよい。このようなヤング率のスペーサを用いることで、クラックや割れの発生を効果的に抑制できる。
【0025】
また、上記スペーサとして、請求項7に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法のように、ゴム系接着剤またはゴムシートを用いてもよい。ゴム系接着剤とは、合成樹脂や合成ゴムなどを有機溶剤に溶かした接着剤である。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項5に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法において、組立工程が、磁気冷凍材料とスペーサとが積層されてなる積層体を複数備える熱交換器を製造する工程であって、スペーサの少なくとも一部は、複数の積層体を接続して一体に積層されるように配置されることを特徴とする。
【0027】
このような製造方法であれば、スペーサを介して連結した複数の積層体を有するマイクロチャネル熱交換器を製造できる。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法において、上記複数の積層体は一列に配列されており、それぞれの積層体のキュリー温度が配列順に変化することを特徴とする。
【0028】
このような製造方法で作成されたマイクロチャネル熱交換器は、積層体それぞれがマイクロチャネル熱交換器として作用する。そして、積層体ごとにキュリー温度が配列順に変化するため、積層体ごとに動作温度(磁気熱量効果を発現する温度)を変化させることができ、それにより積層体を通過する流体に対して効果的に熱交換を行うことができる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、固定部材にヤング率が1〜0.01GPaであるゴム系接着剤またはゴムシートを介して取り付けられる、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器である。
【0030】
固定部材とは、冷凍機などの熱交換装置において、マイクロチャネル熱交換器を取り付ける対象となる部分である。上記マイクロチャネル熱交換器は、固定部材とマイクロチャネル熱交換器との間にゴム系接着剤またはゴムシートが配されるため、ゴム系接着剤あるいはゴムシートによってマイクロチャネル熱交換器に加えられる応力を緩和し、マイクロチャネル熱交換器の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1のマイクロチャネル熱交換器を構成する磁気冷凍材料の斜視図であって、(A)が溝形成前であり、(B)が溝形成後である。
【図2】実施例1の溝形成工程を説明する側面図である。
【図3】実施例1の組立工程を説明する斜視図である。
【図4】実施例1の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器を示す斜視図である。
【図5】実施例1のマイクロチャネル熱交換器をケースに収納した状態を示す断面図である。
【図6】磁気冷凍材料に形成される溝の変形例を示す側面断面図である。
【図7】実施例2の組立工程を説明する斜視図である。
【図8】実施例2の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器を示す正面図である。
【図9】実施例2の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器を冷凍機ベースに固定した状態を示す正面図である。
【図10】実施例3の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器を示す図であって、(A)が平面図であり、(B)が側面図であり、(C)がA−A断面図である。
【図11】実施例3のスペーサを示す斜視図である。
【図12】(A)が従来技術による小粒子状磁気冷凍材料を収納した熱交換器断面図、(B)が従来技術によるマイクロチャネルの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。なお図面は形状等の理解を容易にする目的で実際とは異なる比率で記載している部分がある。
【0033】
[実施例1]
本実施例では、溝が形成された平板状の磁気冷凍材料を積層して、その溝によりマイクロチャネルが形成されたマイクロチャネル熱交換器を製造する。
【0034】
(1.1)溝形成工程
本工程では、図1(A)に示す矩形の平板状の磁気冷凍材料11における一方の面11aに溝を形成し、図1(B)に示すように溝13が形成された磁気冷凍材料21を作成する。
【0035】
磁気冷凍材料としては、NaZn13結晶構造を主相とするLaFe13系材料を用いている。この磁気冷凍材料は、水素を含浸させることでキュリー温度が変化し、磁気冷凍材料の動作温度(磁気熱量効果を発現する温度)が変化する。磁気冷凍材料21の溝13は、ワイヤーカット加工により形成した。なお、ワイヤーカット加工以外の研削あるいは研磨によって溝13を形成してもよい。この溝13がマイクロチャネル(流路)を形成する。
【0036】
溝13の形成方法をより具体的に説明する。図2(A)は、溝を形成する処理を行う前の磁気冷凍材料11の側面図である。まず、図2(B)に示すように、磁気冷凍材料11の一方の面11aにマイクロチャネルの縦幅以上、即ち溝13以上の深さを有する溝13aを形成した。なお、マイクロチャネルの縦幅および横幅は、数mm程度以下(好ましくは、1mm程度以下)とするとよい。
【0037】
次に、図2(C)に示すように磁気冷凍材料11の一方の面11aを平面となるように研削した。これにより、溝13aの深さが浅くなり、ほぼマイクロチャネルの空隙幅を有する溝13が形成された。なお、この研削された面を第1面15と称する。
【0038】
次に、図2(D)に示すように磁気冷凍材料11のうち、溝13aを形成した面11aと反対側の面11b(第1面15と反対側の面、図2(A)参照)を、平面となるように研削した。なお、この研削された面を第2面17と称する。
【0039】
このようにして、図1(B)に示す溝13が形成された平板状の磁気冷凍材料21を形成した。
なお溝形成工程では、必ずしも上述した工程を全て経る必要はなく、少なくとも溝を形成する工程が実行されればよい。
【0040】
(1.2)水素含浸工程
上記溝形成工程で溝13を形成した磁気冷凍材料21に、水素(H)雰囲気中(約200℃〜300℃、1気圧)で熱処理を施し、水素を含浸させた。
【0041】
(1.3)組立工程
図3に示すように、水素含浸工程を経た磁気冷凍材料21における溝13の周辺に位置する第1面15に、エポキシ系接着剤19(日本電子製G20)を薄く延ばして塗布した。このエポキシ系接着剤が、本発明の接合部材に対応する。
【0042】
その上に水素含浸工程を経た別の磁気冷凍材料21の第2面17(図3においては裏側に位置し図示されない面)が当たるように積層した。同様に複数の磁気冷凍材料21を積層し、最上部には溝の形成されていない磁気冷凍材料11を積層した。この磁気冷凍材料を積層したものが本発明の積層体に対応する。そして各磁気冷凍材料を上述した接着剤により接合した。なお、接着剤による接合は室温(15℃)で行った。
【0043】
以上の工程により、磁気冷凍材料11,21を接合してなる図4に示すマイクロチャネル熱交換器1を製造した。このマイクロチャネル熱交換器1において、各磁気冷凍材料21の溝13と、その上方に重ねた磁気冷凍材料21または磁気冷凍材料11と、によって囲まれる部分が、マイクロチャネル熱交換器1の1つの端面(図4において手前側の面)から他の端面(同図における裏側の面)に連通するマイクロチャネル23となる。
【0044】
図5(A),(B)は、図4に示したマイクロチャネル熱交換器1を、冷媒を流すためのケース3に収納した状態の概略断面図である。ケース3の両端に設けられたポートより冷媒を充填し、磁気冷凍材料の磁気熱量効果による発熱・吸熱と同期させて冷媒を移動させることで熱交換を行うことができる。
【0045】
(1.4)効果
本実施例のマイクロチャネル熱交換器の製造方法では、水素含浸工程を行った後に組立工程を行い、磁気冷凍材料同士を接合し固定する。よって、磁気冷凍材料同士を接合した後に水素含浸を行う場合と比較して、磁気冷凍材料の膨張によってマイクロチャネル熱交換器1が歪むことを抑制できる。その結果、歪みにより磁気冷凍材料に加わる応力によってクラック、割れなどが生じてしまうことを抑制できる。
【0046】
また、磁気冷凍材料を接合するエポキシ系接着剤19により、外部磁場による磁気歪みや、マイクロチャネル23を冷媒が通過する際の圧力などによる応力を緩和できるため、クラック、割れなどが生じてしまうことを抑制できる。
【0047】
また、磁気冷凍材料同士の接合を高温で行うと、含浸させた水素が脱離してしまうが、本実施例では室温にて接合できるためそのような問題が生じにくい。なお、本実施例の磁気冷凍材料を用いる場合、水素の脱離を抑制するためには200℃以下で行うことが好ましい。そのような条件を満たす接着剤としては、エポキシ系、ゴム系、シアノアクリート系などが挙げられる。エポキシ系としては可とう性のあるものが望ましい。
【0048】
また、本実施例の製造方法では、溝形成工程で研削あるいは研磨した第1面15、第2面17で接合するので、良好な接合状態を得ることができる。
また、磁気冷凍材料として、NaZn13結晶構造を主相とするLaFe13系材料を用いているため、高い磁気熱量効果すなわち高い熱交換性能が期待できる。
【0049】
なお、本実施例では直線状に溝13が形成された磁気冷凍材料21を用いたマイクロチャネル熱交換器を例示したが、溝の形状は上述したものに限定されず、磁気冷凍材料を積層することで流路が形成されるような様々な形状とすることができる。
【0050】
例えば、1つの磁気冷凍材料に複数の溝が形成されていてもよいし、図6に示すように、上下に積層された複数の磁気冷凍材料25の接合面を基準として、下側の磁気冷凍材料25の上面に形成された溝27と、上側の磁気冷凍材料25の下面に形成された溝29と、を重ねることでマイクロチャネル熱交換器の端部同士を連通するマイクロチャネル(図中の矢印が示す流路)が形成される構成であってもよい。
【0051】
[実施例2]
本実施例では、実施例1と同じ素材の磁気冷凍材料を用いて、磁気冷凍材料に溝を形成せず、積層する磁気冷凍材料の間に配置するスペーサによってマイクロチャネルが形成されたマイクロチャネル熱交換器を製造する。
【0052】
(2.1)水素含浸工程
図7(A)に示す矩形の平板状の磁気冷凍材料31に、水素(H)雰囲気中(約200℃〜300℃、1気圧)で熱処理を施し、水素を含浸させた。
【0053】
(2.2)組立工程
本実施例では、スペーサ33として図7(B)に示すゴム系接着剤を用いる。このゴム系接着剤は合成ゴム系、特にシリコーン系が適している。また常温でのヤング率は10〜50MPaである。このスペーサ33は厚みがあり長尺状である。
【0054】
(2.2.1)ゴム系接着剤の積層処理
図7(C)に示すように、水素含浸工程を経た磁気冷凍材料31の一方の面における互いに反対側に位置する2つの端部に沿って、2つスペーサ33を間隔を空けて平行に配置した。その上に水素含浸工程を経た別の磁気冷凍材料31を積層した。そして図8に示すように、この積層した磁気冷凍材料31の上に上記スペーサ33を上述したように配置し、同様にスペーサ33と磁気冷凍材料31を交互に複数段積層した。この状態が、本発明の積層体に対応する。
【0055】
(2.2.2)加熱接合処理
積層処理によって積層した複数の磁気冷凍材料31およびスペーサ33を、200℃に加熱し、その後室温(15℃)で冷却してスペーサ33の表面と磁気冷凍材料31とを接合した。
【0056】
以上の工程により、図8に示すマイクロチャネル熱交換器5を製造した。このマイクロチャネル熱交換器5において、各磁気冷凍材料31と、スペーサ33と、によって囲まれる部分がマイクロチャネル35となる。スペーサ33の厚さが、マイクロチャネル35の空隙幅となる。
【0057】
(2.3)効果
本実施例のマイクロチャネル熱交換器の製造方法では、含浸させた水素が脱離しない温度でゴム系接着剤(スペーサ33)を磁気冷凍材料31と接合させているので、水素の脱離を抑制することができる。
【0058】
また、マイクロチャネル熱交換器5は、磁気冷凍材料31およびスペーサ33によって囲まれる領域が流路となる。よって、磁気冷凍材料31に溝を形成することなく流路を形成できる。
【0059】
またスペーサ33によって、外部磁場による磁気歪みや、流路を冷媒が通過する際の圧力によって磁気冷凍材料に加わる応力を緩和できるため、クラック、割れなどの発生を抑制できる。
【0060】
なお、本実施例のスペーサは10MPaというヤング率である。上述した応力を緩和してクラックや割れの発生を効果的に抑制するためには、スペーサとしてヤング率が1〜0.01GPaである材質を用いるとよい。ヤング率が1GPa以下であると、十分に応力を緩和することができる。ヤング率が0.01GPa以上であると、熱交換器に荷重が加えられても必要以上にスペーサが変形してしまうことなく、流路の形状を維持することができる。
【0061】
なお、上記実施例では2つのスペーサで流路を形成する構成を例示したが、流路を形成するように、2つ以上の複数のスペーサが配置されていてもよい。例えば2枚の磁気冷凍材料31の間に3つのスペーサ33を並べて、2つの流路を形成することができる。
【0062】
なお、マイクロチャネル熱交換器5を冷凍機などに取り付ける際にも、スペーサ33に用いたゴム系接着剤を用いることができる。図9に示すように、冷凍機ベース37とマイクロチャネル熱交換器5との間にゴム系接着剤からなるシート39を配置し、それにより冷凍機ベースにマイクロチャネル熱交換器5を接合することが考えられる。
【0063】
このようにマイクロチャネル熱交換器5の接合を行うことで、マイクロチャネル熱交換器5に加わる応力や外部から加えられる荷重をシート39によっても緩和することができる。
【0064】
なお、ゴム系接着剤に変えてゴムシートを用いることもできる。この場合、ゴムシートの表面に熱溶着性のフィルムを配置したり、それ自体が熱溶着性のゴムシートを用いることができる。ゴムシートとしては、例えばシリコーンゴムなどの材料を使うことができる。なお、熱溶着性のフィルムおよびゴムシートは、水素の脱離温度以下、本実施例の磁気冷凍材料では200℃以下で融解して溶着可能となるものを用いるとよい。ゴムシートとしては上記ゴム系接着剤と同様のヤング率(1〜0.01GPa)である材質を用いるとよい。
【0065】
[実施例3]
本実施例では、実施例2と同じ素材および形状の磁気冷凍材料31を用いて、磁気冷凍材料に溝を形成せず、積層する磁気冷凍材料の間に配置するスペーサによってマイクロチャネルが形成されたマイクロチャネル熱交換器を製造する。なお本実施例では、スペーサとして枠型に形成された固定枠43を用いており、複数のマイクロチャネルユニット41が一列に配列されて形成される。
【0066】
図10(A)〜(C)に、本実施例のマイクロチャネル熱交換器7を示す。図10(A)がマイクロチャネル熱交換器7の平面図を示し、図10(B)が側面図を示し、図10(C)が図10(A)におけるA−A断面図を示す。マイクロチャネル熱交換器7は、複数のマイクロチャネルユニット41を有する。
【0067】
固定枠43は、図11に示すように、長尺状である一対の支持部45と、一対の支持部45の両端をそれぞれ連結する連結部47と、を有する。一対の支持部45は、互いに間隔を空けて平行に配置される。支持部45の上下には、磁気冷凍材料が嵌る溝49が複数形成されている。なお、図10(B)に示すように上下端の固定枠43は内側にのみ溝49が形成されていてもよい。
【0068】
固定枠43の材質は形状が保つことができ、かつ、応力を緩和できる樹脂材料を用いることが好ましい。そのような樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを用いることができる。
【0069】
磁気冷凍材料31は、実施例2と同様に矩形の平板状であって、2つの固定枠43を積層した際に2つの溝49によって形成される間隙に収まる。
以下に、マイクロチャネル熱交換器7の製造方法を説明する。
【0070】
(3.1)水素含浸工程
磁気冷凍材料31に、水素(H)雰囲気中(約200℃〜300℃、1気圧)で熱処理を施し、水素を含浸させた。
【0071】
(3.2)組立工程
固定枠43の溝49に、磁気冷凍材料31をはめ込むようにして図10(B)のように積層した。その際、固定枠43と磁気冷凍材料31との隙間に実施例1で用いたものと同様の接着剤を薄く塗り、室温(15℃)で放置して接合させた。
【0072】
以上の工程により、マイクロチャネル熱交換器7を製造した。このマイクロチャネル熱交換器7において、各磁気冷凍材料31と、固定枠43と、によって囲まれる部分がマイクロチャネル51となる。このマイクロチャネル熱交換器7では、固定枠43が複数のマイクロチャネルユニット41を接続して一体に積層している。
【0073】
(3.3)効果
本実施例のマイクロチャネル熱交換器の製造方法では、複数のマイクロチャネルユニット41を同時に製造することができる。
【0074】
また本実施例のマイクロチャネル熱交換器の製造方法では、含浸させた水素が脱離しない温度で固定枠43を磁気冷凍材料31と接合させているので、水素の脱離を抑制することができる。
【0075】
また、マイクロチャネル熱交換器7は、磁気冷凍材料31および固定枠43によって囲まれる領域が流路となる。よって、磁気冷凍材料31に溝を形成することなく流路を形成できる。また、マイクロチャネルユニット41が固定枠43を介して連結しているため、複数のマイクロチャネルユニット41を簡便に取り扱うことができる。
【0076】
なお、上記実施例では接着剤により固定枠43と磁気冷凍材料31とを接合する構成を例示したが、それ以外の方法で磁気冷凍材料を接合してもよい。例えば、固定枠43同士をボルト等で固定することで、固定枠43を介して磁気冷凍材料31を接合することができる。この場合は、固定枠43は必ずしも応力を緩和する必要がないので、固定枠43の材質として金属など剛性のある材料を用いてもよい。
【0077】
また、複数のマイクロチャネルユニット41を、それぞれキュリー温度が異なる磁気冷凍材料にて形成してもよい。具体的には、図10(A)において、左から右に向かって(矢印Bの方向に向かって)配列順に動作温度(磁気熱量効果を発現する温度)が段階的に低くなるように構成してもよい。即ち、一番左のマイクロチャネルユニット41は最も動作温度が高い磁気冷凍材料で構成されており、右側ほど動作温度が低い磁気冷凍材料で構成されたマイクロチャネルユニットとなる。
【0078】
このように構成することで、全体として動作温度の範囲が大きいマイクロチャネル熱交換器とすることができ、また流路を通過する流体に効果的に熱交換を行うことができる。
また、上記実施例では、スペーサとして枠型の固定枠43を用いる構成を例示したが、それ以外の形状のスペーサであってもよい。例えば、連結部47を有さない支持部45のみからなるスペーサを用いる構成であってもよいし、一部のスペーサのみが支持部45のような長尺状のスペーサであって複数のマイクロチャネルユニット41に亘って積層され、それにより複数のマイクロチャネルユニット41を接続して一体に積層し、他は図7(C)のスペーサ33と同様に磁気冷凍材料と同じ長さのスペーサを用いる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…マイクロチャネル熱交換器、3…ケース、5…マイクロチャネル熱交換器、7…マイクロチャネル熱交換器、11…磁気冷凍材料、13…溝、15…第1面、17…第2面、19…エポキシ系接着剤、21…磁気冷凍材料、23…マイクロチャネル、25…磁気冷凍材料、27…溝、29…溝、31…磁気冷凍材料、33…スペーサ、35…マイクロチャネル、37…冷凍機ベース、39…シート、41…マイクロチャネルユニット、43…固定枠、45…支持部、47…連結部、49…溝、51…マイクロチャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含浸させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を用いたマイクロチャネル熱交換器の製造方法であって、
略平板状の磁気冷凍材料に水素を含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程により水素を含浸させた磁気冷凍材料を積層して接合する組立工程と、を有する
ことを特徴とするマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項2】
前記組立工程では、前記磁気冷凍材料から水素が脱離する温度以下の温度で接合する接合部材を介して前記磁気冷凍材料を接合する
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記磁気冷凍材料は、少なくとも一方の面に溝が形成されており、前記組立工程において前記磁気冷凍材料を積層した積層体には、前記溝によって前記積層体の1つの端面から他の端面に連通する流路が形成される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記溝は、前記含浸工程前に形成される
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記組立工程は、前記磁気冷凍材料とスペーサとを交互に積層し、前記スペーサと前記磁気冷凍材料とを接合することで、前記スペーサを介して前記磁気冷凍材料を接合する工程であり、前記スペーサは流路を形成するように間隔を空けて複数配置される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記スペーサのヤング率が1〜0.01GPaである
ことを特徴とする請求項5に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記スペーサは、ゴム系接着剤またはゴムシートである
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記組立工程は、前記磁気冷凍材料と前記スペーサとが積層されてなる積層体を複数備える熱交換器を製造する工程であって、
前記スペーサの少なくとも一部は、複数の前記積層体を接続して一体に積層されるように配置される
ことを特徴とする請求項5に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項9】
前記複数の積層体は一列に配列されており、それぞれの前記積層体のキュリー温度が配列順に変化する
ことを特徴とする請求項8に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項10】
前記磁気冷凍材料として、NaZn13結晶構造を主相とするLaFe13系材料を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法。
【請求項11】
固定部材にヤング率が1〜0.01GPaであるゴム系接着剤またはゴムシートを介して取り付けられてなる、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のマイクロチャネル熱交換器の製造方法にて製造されたマイクロチャネル熱交換器。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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