説明

磁気回路部品

【課題】軽量で生産性に優れる磁気回路部品を提供する。
【解決手段】リアクトル1は、一対の筒状のコイル素子2a,2bを有するコイル2と、コイル2が配置される磁心3とを具える。磁心3は、各コイル素子2a,2b内に配置される一対の内側コア部31と、コイル素子2a,2bが配置されない一対の露出コア部32とによって閉磁路を形成する環状体であり、同一組成の軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体から構成される複数のコア片を主要構成部材とする。露出コア部32を構成する露出コア片32mの密度DSが内側コア部31を構成する内コア片31mの密度DMよりも小さい。リアクトル1は、露出コア片32mの製造にあたり、成形圧力を小さくできることから、成形スピードの向上、スプリングバックの低減による成形用金型の摩耗の低減によって生産性に優れ、露出コア片32mの密度DSが小さいため、軽量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などの車両に載置される車載用DC-DCコンバータの構成部品などに利用されるリアクトルといった磁気回路部品に関する。特に、軽量で、生産性に優れる磁気回路部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルと、このコイルが配置され、コイルがつくる磁束の通路(磁路)を形成する磁心とを具える磁気回路部品が種々の分野で利用されている。例えば、電圧の昇圧動作や降圧動作を行う磁気回路部品の一つに、リアクトルがある。ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータの回路部品に利用されるリアクトルとして、例えば、一対の筒状のコイル素子を互いの軸が平行するように横並びに具えるコイルと、このコイルが配置される環状の磁心とを具えるものがある。
【0003】
特許文献1では、上記磁心として、軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体からなる複数のコア片を組み合せた形態を開示している(特に、特許文献1の図3)。この磁心は、各コイル素子内にそれぞれ配置される一対の柱状の内側コア部と、上記コイル素子が配置されず、コイルから露出された一対の露出コア部とを具える。各内側コア部はそれぞれ、複数のコア片を具え、各露出コア部はそれぞれ、一つの柱状のコア片から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-246222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアクトルといった磁気回路部品の生産性の向上が望まれている。
【0006】
圧粉コア片を利用する場合、成形スピード(単位時間当たりに成形可能なコア片の個数)を速めることで、磁心の製造時間を短縮でき、ひいてはリアクトルなどの磁気回路部品の生産性の向上に寄与することができる。特に、露出コア部を構成するコア片(以下、露出コア片と呼ぶ)は、一方の内側コア部から他方の内側コア部に磁束を通過させるため、通常、内側コア部を構成する各コア片(以下、内コア片と呼ぶ)よりも体積が大きい。従って、一つの露出コア片を成形する時間は、一つの内コア片を成形する時間よりも長く掛かり、露出コア片の成形スピードの向上が望まれる。
【0007】
また、露出コア片は、内コア片よりも体積が大きいことで、成形時のスプリングバックが大きく、このスプリングバックによって成形用金型との摩擦が大きくなり、成形用金型が摩耗し易い。このことも、リアクトルなどの磁気回路部品の生産性の低下を招く。
【0008】
一方、昨今、ハイブリッド自動車などの車載部品には、燃費の向上のために軽量化が望まれており、リアクトルなどの磁気回路部品も軽量化が望まれている。上述のように露出コア片は、内コア片よりも体積が大きく、磁気回路部品のサイズによるものの、一つの内コア片の重さの3倍、或いはそれ以上となることがある。従って、露出コア片の軽量化は、リアクトルなどの磁気回路部品の軽量化への寄与度が大きいと期待される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、軽量で、生産性に優れる磁気回路部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの磁心に利用される複数のコア片はそれぞれ、上述のような大きさの差異はあるものの、通常、その素材である圧粉成形体が同じ仕様(組成、密度、粒径、磁気特性など)となるように製造する。具体的には、各コア片の製造にあたり、同じ材質からなり、同じ粒径を有する原料粉末を用い、同じ製造条件(成形圧力、雰囲気、温度など)で製造する。この理由の一つとして、一つの磁心に用いる各コア片の仕様を同じにすると、原料粉末の準備や製造条件の制御などを行い易いことが挙げられる。同じ原料粉末を用い、同じ製造条件で製造した圧粉成形体からなるコア片を具える従来のリアクトルは、通常、内側コア部を構成するコア片:内コア片の密度と露出コア部を構成するコア片:露出コア片の密度とが同じである。このように従来は、全てのコア片が均一的な密度を有することが好ましいと考えられていた。
【0011】
本発明者らは、露出コア片の密度を内コア片の密度よりも小さくしたリアクトルは、内コア片の密度と露出コア片の密度とが同じである上記従来のリアクトルに対して、遜色ない性能を有しており、十分に利用できる、との知見を得た。また、露出コア片の密度を小さくする手法として、圧粉成形体の製造時の成形圧力を小さくすることが考えられる。成形圧力を小さくすると、スプリングバックが小さくなり、成形用金型との摩擦を低減できることから、成形用金型の摩耗を低減できる。また、成形圧力を小さくすると、原料粉末を所定の成形圧力になるまで加圧する時間を短縮できることから、成形スピードを速められる。従って、本発明は、露出コア片の密度を内コア片の密度よりも小さくすることを提案する。
【0012】
本発明の磁気回路部品は、一対の筒状のコイル素子を有するコイルと、このコイルが配置される磁心とを具える。上記磁心は、各コイル素子内に配置される一対の内側コア部と、上記コイル素子が配置されず、上記コイル素子から露出された一対の露出コア部とによって閉磁路を形成する。また、上記磁心は、同一組成の軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体から構成される複数のコア片を具える。そして、本発明磁気回路部品は、上記露出コア部を構成するコア片を露出コア片、上記内側コア部を構成するコア片を内コア片とするとき、上記露出コア部を構成する少なくとも一つの露出コア片の密度DSが、上記内側コア部を構成する少なくとも一つの内コア片の密度DMよりも小さい。
【0013】
本発明磁気回路部品は、磁心の主要構成部材である圧粉成形体からなる各コア片の密度が一様ではなく、磁心の一部において密度が異なる。具体的には、上述のように少なくとも一つの露出コア片の密度DSが少なくとも一つの内コア片の密度DMよりも小さい。この構成によって、本発明磁気回路部品は、露出コア片の製造にあたり、成形圧力を小さくすることができるため、加圧時間を短縮することができ、ひいては成形スピードを向上することができる。また、本発明磁気回路部品は、露出コア片の製造にあたり、成形圧力を小さくすることができるため、スプリングバックを低減することができ、ひいては成形用金型の摩耗を低減できる。これらのことから、本発明磁気回路部品は、生産性に優れる。また、本発明磁気回路部品は、磁心の主要構成部材であるコア片のうち、大型である露出コア片の密度が内コア片の密度よりも小さいことで、軽量化も図ることができる。
【0014】
本発明の一形態として、上記内コア片の密度DMと上記露出コア片の密度DSとの差をDM−DS、上記内コア片の密度DMに対する上記差(DM−DS)の比を(DM−DS)/DMとするとき、(DM−DS)/DMは1/80以上である形態が挙げられる。或いは、本発明の一形態として、上記内コア片の密度DMと上記露出コア片の密度DSとの差をDM−DSとするとき、DM−DSは0.1g/cm3以上である形態が挙げられる。
【0015】
上記形態はいずれも、露出コア片の密度が十分に小さいことから、成形スピードの向上、成形用金型の摩耗の低減、軽量化をより効果的に図ることができる。
【0016】
本発明の一形態として、上記露出コア部を構成する少なくとも一つの露出コア片の平均粒径dSが、上記内側コア部を構成する少なくとも一つの内コア片の平均粒径dMよりも大きい形態が挙げられる。
【0017】
ここで、圧粉成形体の原料粉末に、粗粒粉末を用いる場合は、微粒粉末を用いる場合と比較して、(1)成形用金型の成形空間に原料粉末を充填し易い(給粉時間が短い)、(2)原料粉末を押し潰し易く、成形スピードを向上できる、(3)原料粉末を押し潰し易く、成形圧力を小さくし易い、といった利点がある。従って、原料粉末に粗粒粉末を用いると、加圧時間の短縮や成形圧力の低減による成形用金型の摩耗の低減によって、圧粉成形体からなるコア片の生産性の向上、ひいてはリアクトルなどの磁気回路部品の生産性の向上を図ることができる。
【0018】
しかし、圧粉成形体を構成する粒子の大きさは、原料粉末の大きさに影響を受ける。例えば、大きな粒径の原料粉末を用いた場合、圧粉成形体を構成する各粒子も大きくなる。圧粉成形体を構成する粒子の粗大化は、渦電流損の増大を招く傾向にある。そのため、従来は、損失の低減を主目的として、原料粉末の粒径を設定し、内コア片及び露出コア片の双方に、同じ粒径(好ましくは微粒)の原料粉末を用いていた。従って、従来のリアクトルに具える磁心を構成する複数のコア片はいずれも、実質的に同一粒径の粒子によって構成されていた。
【0019】
本発明者らが調べたところ、コイル内に配置されて、渦電流損が生じ易い内コア片に微粒の原料粉末を用い、コイルから露出される露出コア片に粗粒の原料粉末を用いても、上記微粒の原料粉末を用いて内コア片及び露出コア片を作製した場合(内コア片の平均粒径と露出コア片の平均粒径とが同じ場合)と遜色ない性能を有しており、十分に利用できる、との知見を得た。
【0020】
上記形態は、露出コア片の平均粒径が大きいことで、原料粉末として、粒径が大きなもの:粗粒粉末を利用して、露出コア片を製造することができる。従って、上記形態は、内コア片と露出コア片との両コア片の密度の差異に加えて、両コア片に利用する原料粉末の粒径の差異によっても、成形圧力を小さくできることから、露出コア片の成形スピードの向上、成形用金型の摩耗の低減を図ることができ、磁気回路部品の生産性の向上に寄与することができる。平均粒径dM,dSの測定方法は、後述する。
【0021】
本発明の一形態として、上記内コア片の平均粒径dMに対する上記露出コア片の平均粒径dSの比をdS/dMとするとき、dS/dMが1超10以下である形態が挙げられる。
【0022】
上記形態は、dS/dMが1超であることで、露出コア片の製造にあたり、内コア片の製造に用いる原料粉末よりも粒径が十分に大きなものを利用できる。従って、上記形態は、成形圧力を小さくでき、露出コア片の成形スピードの向上、成形用金型の摩耗の低減を図ることができる。また、上記形態は、dS/dMが10以下であることで、露出コア片を構成する粒子が大きくなり過ぎず、低損失である。
【0023】
本発明の一形態として、上記内コア片の平均粒径dMが20μm以上100μm以下であり、上記露出コア片の平均粒径dSが100μm以上200μm以下である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、露出コア片の製造にあたり、内コア片の製造に用いる原料粉末よりも粒径が十分に大きなものを利用できる。従って、上記形態は、成形圧力を小さくでき、露出コア片の成形スピードの向上、成形用金型の摩耗の低減を図ることができる。また、上記形態は、露出コア片を構成する粒子(以下、外粒子と呼ぶ)の平均粒径dSが200μm以下、内コア片を構成する粒子(以下、内粒子と呼ぶ)の平均粒径dMが100μm以下であることで、外粒子が大きくなり過ぎず、かつ内粒子も十分に小さいため、低損失である。更に、内粒子の平均粒径dMが20μm以上であることで、内コア片の製造に用いる原料粉末として、微粒になり過ぎず、取り扱い易い大きさのものを利用できる。この点から、上記形態は、生産性に優れる。
【0025】
本発明磁気回路部品は、代表的にはリアクトルが挙げられる。このリアクトルは、上述の低密度な露出コア片を具えることで、生産性に優れる上に、軽量である。
【発明の効果】
【0026】
本発明磁気回路部品は、軽量で、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1のリアクトルの概略構成を示す斜視図である。
【図2】(A)は、実施形態1のリアクトルに具える磁心の分解斜視図、(B)は、実施形態1のリアクトルを模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る磁気回路部品としてリアクトルを例に挙げて、詳細に説明する。図において同一符号は同一物を示す。
【0029】
(実施形態1)
図1に示すリアクトル1は、内部に冷媒の循環路を有する金属製(代表的にはアルミニウム製)の冷却ベース(図示せず)といった設置対象に設置されて利用される磁気回路部品である。このリアクトル1は、一対の筒状のコイル素子2a,2bを有するコイル2と、各コイル素子2a,2b内にそれぞれ配置される一対の内側コア部31とコイル素子2a,2bが配置されない一対の露出コア部32とによって閉磁路を形成する磁心3とを具える。磁心3は、主として、圧粉成形体から構成された複数のコア片(内コア片31m,露出コア片32m)から構成されている。リアクトル1の基本的な形状・構成部材は、一対のコイル素子と、圧粉成形体からなる複数のコア片とを具える従来のリアクトルと同様である。リアクトル1の特徴とするところは、露出コア片32mの密度DSが内コア片31mの密度DMよりも小さい点にある。以下、まず、各構成部材の基本形状などを説明し、次に、コア片の製造方法について詳しく説明する。
【0030】
[コイル]
コイル2は、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、巻線2wの一部をU字状に屈曲してなり、両コイル素子2a,2bを連結する連結部2rとを具える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)に形成されている。
【0031】
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料からなる絶縁層(代表的には、ポリアミドイミドなどからなるエナメル層)を具える被覆線を好適に利用できる。巻線2wの導体は、断面円形状の丸線の他、断面矩形状の平角線を好適に利用できる。コイル素子2a,2bは、絶縁層を有する被覆平角線をエッジワイズ巻きして形成されたエッジワイズコイルである。
【0032】
なお、各コイル素子を別々の巻線によって作製し、各コイル素子を形成する巻線の端部を溶接や冷間圧接などによって接合して一体化したコイルを利用してもよい。
【0033】
巻線2wの両端部は、ターン形成部分から適宜引き延ばされ、絶縁層が剥がされて露出された導体部分に、導電性材料からなる端子部材(図示せず)が接続される。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。巻線2wの導体部分と端子部材との接続には、TIG溶接などの溶接や冷間圧接、半田付けなどが利用できる。
【0034】
[磁心]
《全体構成》
磁心3の説明は、図2を適宜参照して行う。磁心3は、各コイル素子2a,2b(図1)にそれぞれに覆われた一対の直方体状の内側コア部31が、互いの軸が平行するように並列に配置され、コイル素子2a,2bに覆われずコイル素子2a,2bから露出された一対の柱状の露出コア部32がこれら内側コア部31を挟むように配置された環状体である。
【0035】
《内側コア部》
各内側コア部31はそれぞれ、複数の直方体状の内コア片31mと、複数の板状のギャップ材31gとの組物であり、内コア片31mとギャップ材31gとが交互に積層されている。この組物は、接着剤や粘着テープなどで接合すると、積層体として扱い易い。内コア片31mの個数、ギャップ材31gの厚さ・配置箇所・個数は、リアクトル1のインダクタンスに応じて適宜選択することができる。
【0036】
内側コア部31の形状は、適宜選択することができる。コイル素子2a,2b(図1)の内周形状に沿った形状とすると、コイル素子2a,2bと内側コア部31との間の隙間を小さくでき、リアクトル1の小型化を図ることができる。内側コア部31が所望の形状となるように内コア片31mの形状を選択するとよい。ここでは、内コア片31を直方体状としているが、円柱状、角部を所望の角度に丸めた角丸め直方体状などとすることができる。ここでは、各内コア片31mはいずれも、同一組成の軟磁性材料(後述)からなり、同一の平均粒径の原料粉末を用いて、同一の製造条件(成形圧力など)で成形した圧粉成形体から構成され、その形状・サイズはいずれも同じである。
【0037】
各ギャップ材31gは、リアクトル1のインダクタンスの調整のためにコア片間に設けられる隙間に配置される板状材である。ギャップ材31gの構成材料は、コア片よりも比透磁率が小さい材料、代表的には、アルミナなどの非磁性材料が挙げられる。その他の構成材料として、鉄粉などの磁性粉末と、フェノール樹脂などの非磁性樹脂との混合物(比透磁率が1.1〜10程度)が挙げられる。ギャップ材31gのうち少なくとも、内コア片31mと露出コア片32mとの間に介在されるギャップ材31gを上記混合物からなるものとすると、漏れ磁束を効果的に低減できる。ギャップ材31gの少なくとも一つをエアギャップとすることもできる。
【0038】
《露出コア部》
各露出コア部32はそれぞれ、一つの露出コア片32mで構成されている。各露出コア片32mは、ここでは、対向する一対の面が角部を丸めた角丸め台形状面である角柱状体である。各露出コア片32mにおいて一対の角丸め台形状面32u,32dを繋ぐ一面であって、一対の内側コア部31を挟む内端面32eは、ここでは、平面で構成されている。各露出コア片32mにおいて一対の角丸め台形状面32u,32dを繋ぐ他面(以下、外周面と呼ぶ)は、ここでは、曲面と平面とで構成されている。
【0039】
ここでは、各露出コア片32mは、環状に組み立てられた磁心3をその軸方向から平面視したとき、内側コア部31から離れる側に向かって先細りする平面(上述の角丸め台形状面)と、この平面に繋がる傾斜面(上記外周面の一部を構成する面)とを有する立体としている。その他、露出コア片32mは、上述の対向する一対の面が長方形状や台形状であり、外周面が平面のみで構成された形態、つまり、直方体や台形状の角柱体とすることができる。なお、各露出コア部32も複数の露出コア片からなる構成とすることができる。
【0040】
また、ここでは、図2(B)に示すように、各露出コア片32mは、その高さh32(一対の角丸め台形状面32u,32d間の距離=コイル2の軸方向及びコイル素子2a,2b(図1)の横並び方向の双方に直交する方向の距離)が内コア片31mの高さh31よりも大きい(高い)。
【0041】
磁心3は、図2(B)に示すようにリアクトル1を設置対象に取り付けた状態において設置側となる角丸め台形状面32dを、内側コア部31において設置側となる面よりも突出する形態とすることができる。或いは、磁心3は、上記設置側となる角丸め台形状面32dと対向する角丸め台形状面32uを、内側コア部31において設置側となる面との対向面よりも突出する形態とすることができる。露出コア片32mは、圧粉成形体であるため、上述の突出した部分も磁路に利用できる。また、この突出した部分を設けることで、露出コア片32mの投影面積(角丸め台形状面32u,32dの面積)を小さくでき、設置面積の低減を図ることができる。ここでは、露出コア片32mの高さh32と内コア片31mの高さh31との差:h32−h31がコイル2を構成する巻線2w(図1)の幅程度となるように両高さh31,h32を調整している。このため、露出コア片32mの設置側の角丸め台形状面32dとコイル2における設置側の面とが実質的に面一になる。なお、高さの差:h32−h31(露出コア片32mの突出量)は、適宜選択することができる。
【0042】
このように二つの内側コア部31に連結される各露出コア片32mはいずれも、その体積が任意の内コア片31mよりも大きい。ここでは、各露出コア片32mはいずれも、同一組成(内コア片31mに用いた原料粉末と同じ軟磁性材料(後述))からなり、かつ同一の平均粒径の原料粉末を用いて、同一の製造条件(成形圧力など)で成形しており、その形状・サイズはいずれも同じである。
【0043】
そして、リアクトル1では、各露出コア片32mはいずれもその密度DSが、いずれの内コア片31mの密度DMよりも小さい。なお、ここでは、各露出コア片32mの密度DSはいずれも同じである。また、全ての内コア片31mの密度DMもいずれも同じである。
【0044】
特に、内コア片31mの密度DMに対して、露出コア片32mの密度DSと内コア片31mの密度DMとの差:DM−DSが大きいほど、代表的には、露出コア片32mの密度DSの絶対値が小さくなり、露出コア片32mの生産性を高められる。そのため、密度の比:(DM−DS)/DMは1/80以上(0.0125以上)が好ましく、1/70以上(0.0143以上)、更に1/50以上(0.02以上)、特に1/20(0.05以上)とすると、露出コア片32mの生産性をより効果的に高められる。但し、密度の比:(DM−DS)/DMが大き過ぎると、露出コア片32mの密度DSの絶対値が小さくなり過ぎて、磁性成分の低下によって、漏れ磁束が増加するなどの不具合を招く。従って、密度の比:(DM−DS)/DMの上限は、0.1程度が好ましい。
【0045】
また、上述の密度の差:DM−DS自体が大きいほど、代表的には、露出コア片32mの密度DSの絶対値が小さくなり、露出コア片32mの生産性を高められる。そのため、密度の差:DM−DSは0.1g/cm3以上が好ましく、0.15g/cm3以上、更に0.2g/cm3以上、特に0.4g/cm3以上とすると、露出コア片32mの生産性をより効果的に高められる。但し、密度の差:DM−DSが大き過ぎると、露出コア片32mの密度DSの絶対値が小さくなり過ぎて、上述のような不具合を招くことから、密度の差:DM−DSの上限は、0.8g/cm3程度が好ましい。
【0046】
[その他の構成部材]
その他、コイル2と磁心3との間の絶縁性を高めるために、絶縁性樹脂から構成されるインシュレータを具えることができる。或いは、インシュレータに代えて、各コイル素子の内周及び外周を絶縁性樹脂によって被覆したコイル成形体とすることができる。コイル2と磁心3との組合体を保護したり、放熱性を高めたりなどするために、組合体の外周を絶縁性樹脂で覆った一体化物としたり、組合体を金属材料などからなるケースに収納したり、ケースに収納した組合体を封止樹脂によって覆ったりすることができる。
【0047】
[リアクトルの製造方法]
上記構成を具えるリアクトル1は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、コイル2、内コア片31m、露出コア片32m、ギャップ材31g、その他インシュレータなどを用意する。内コア片31mとギャップ材31gとを交互に積層して内側コア部31を二つ形成する。次に、コイル素子2a,2b内にそれぞれ内側コア部31が挿入された組物を形成して、各内側コア部31の端面と露出コア片32m(露出コア部32)の内端面32e(図2)とを接合することで、コイル2と磁心3との組合体を具えるリアクトル1が得られる。更に、この組合体を上述のようにケースに収納したり、樹脂で覆ったりしてもよい。
【0048】
[磁性コア片]
次に、内コア片31m、露出コア片32mに利用する原料粉末及び製造方法を説明する。両コア片31m,32mは、基本的には従来の圧粉成形体の製造方法を利用して製造することができる。代表的には、貫通孔が設けられた筒状のダイと、この貫通孔の一方の開口部に挿入した下パンチとで形成される成形空間に、磁性材料からなる原料粉末を充填した後、上記貫通孔の他方の開口部に挿入した上パンチと上記下パンチとで当該原料粉末を加圧・圧縮して所定の加圧を行ったら、ダイから圧縮成形物を抜き出す。得られた圧縮成形物はそのまま利用することもできるが、後述する熱処理を施すことが一般的である。更に、圧縮成形物や熱処理を施した熱処理物に後述する後処理を施すこともある。従って、圧粉成形体は、代表的には、圧縮成形物、熱処理物、後処理を施した後処理物のいずれかの形態をとる。
【0049】
≪原料粉末≫
原料粉末は、特に、軟磁性材料からなる軟磁性粒子とこの粒子の表面に設けられた絶縁被膜とを具える被覆軟磁性粉末が好ましい。被覆軟磁性粉末を利用した場合、内コア片31mや露出コア片32mは、軟磁性粒子が上記絶縁被膜(或いは、後述する熱処理によって変成された絶縁物)に覆われた被覆粒子から構成される圧粉成形体となる。この圧粉成形体は、上記絶縁被膜(絶縁物)の介在によって、電気抵抗が高く、渦電流損を低減でき、低損失である。
【0050】
軟磁性材料は、鉄基材料や希土類金属といった金属材料、フェライトなどの非金属材料が挙げられる。特に、絶縁被膜を具える形態とする場合、鉄を50質量%以上含有する鉄基材料が好ましい。例えば、純鉄(Fe)、その他、Fe-Si系合金,Fe-Al系合金,Fe-N系合金,Fe-Ni系合金,Fe-C系合金,Fe-B系合金,Fe-Co系合金,Fe-P系合金,Fe-Ni-Co系合金,及びFe-Al-Si系合金から選択される1種の鉄合金が挙げられる。特に、99質量%以上がFeである純鉄からなる圧粉成形体は、透磁率及び磁束密度が高い磁心が得られ、鉄合金からなる圧粉成形体は、渦電流損を低減し易く、より低損失な磁心が得られる。内コア片31m及び露出コア片32mが同一組成となるように、同一材質の材料を選択する。
【0051】
軟磁性粒子は、例えば、平均粒径が1μm以上70μm以下が挙げられる。平均粒径が1μm以上であることで、流動性に優れる上にヒステリシス損の増加を抑制でき、70μm以下であることで、得られた圧粉成形体を磁心に用いたとき、1kHz以上といった高周波数で使用した場合でも、渦電流損を効果的に低減できる。平均粒径が50μm以上であると、ヒステリシス損の低減効果を得易い上に、粉末を取り扱い易い。上記平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径(質量)をいう。
【0052】
絶縁被膜には、絶縁性に優れる適宜な絶縁材料が利用できる。例えば、絶縁材料には、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素の酸化物、窒化物、炭化物などの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物が挙げられる。或いは、絶縁材料には、上記金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物以外の化合物、例えば、リン化合物、珪素化合物、ジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物から選択された1種以上の化合物が挙げられる。その他の絶縁材料には、金属塩化合物、例えば、リン酸金属塩化合物(代表的には、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などが挙げられる。特に、リン酸金属塩化合物は変形性に優れることから、リン酸金属塩化合物による絶縁被膜は、圧縮成形時、軟磁性粒子の変形に追従して容易に変形できて損傷し難く、当該絶縁被膜を具える粉末を利用すると、絶縁被膜が健全な状態で存在する圧粉成形体を得易い。また、リン酸金属塩化合物による絶縁被膜は、鉄系材料からなる軟磁性粒子に対する密着性が高く、当該粒子の表面から脱落し難い。
【0053】
上記以外の絶縁材料として、熱可塑性樹脂や非熱可塑性樹脂といった樹脂や高級脂肪酸塩が挙げられる。特に、シリコーン樹脂といったシリコン系有機化合物は耐熱性に優れることから、得られた圧縮成形物に後述する熱処理を施した際にも分解し難い。
【0054】
絶縁被膜の形成には、例えば、リン酸塩化成処理といった化成処理を利用できる。その他、絶縁被膜の形成には、溶剤の吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理が利用できる。シリコーン系有機化合物によって絶縁被膜を形成する場合、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用できる。
【0055】
軟磁性粒子に具える絶縁被膜の厚さは、10nm以上1μm以下が挙げられる。10nm以上であると、軟磁性粒子間の絶縁を確保でき、1μm以下であると、絶縁被膜の存在によって、圧粉成形体中の磁性成分の割合の低下を抑制できる。即ち、この圧粉成形体によって磁心を作製した場合、磁束密度の著しい低下を抑制できる。絶縁被膜の厚さは、組成分析(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置:TEM-EDX)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、更に、TEM写真によって直接、絶縁被膜を観察して、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0056】
上記原料粉末に潤滑剤を添加することができる。この潤滑剤は、有機物からなる固体潤滑剤の他、窒化硼素やグラファイトなどの無機物が挙げられる。或いは、成形用金型(特に、ダイの内周面)に潤滑剤を塗布することができる。これら潤滑剤を利用することで、原料粉末や圧縮成形物と成形用金型との間の摩擦を低減することができ、摩擦による絶縁被膜の損傷を低減できる。潤滑剤は、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤などが挙げられる。その他、金型を加熱した状態で成形する(温間成形する)と、成形性をより高められる。冷間成形でも勿論よい。
【0057】
≪成形圧力≫
成形圧力は、5ton/cm2(≒490MPa)以上15ton/cm2(≒1470MPa)以下が挙げられる。5ton/cm2以上とすることで、原料粉末を十分に圧縮でき、圧粉成形体の相対密度を高められ、15ton/cm2以下とすることで、絶縁被膜を具える場合、絶縁被膜の損傷を抑制できる。
【0058】
特に、露出コア片32mの密度DSが内コア片31mの密度DMよりも小さい圧粉成形体を成形するために、内コア片31mを成形するときの成形圧力と露出コア片32mを成形するときの成形圧力とを異ならせる。具体的には、露出コア片32mの成形圧力を内コア片31mの成形圧力よりも小さくする。成形圧力が小さいほど、密度が小さい圧粉成形体が得られる傾向にある。内コア片31mの密度DMや露出コア片32mの密度DSが所望の密度となるように、各コア片31m,32mの成形圧力を選択するとよい。例えば、内コア片31mの成形圧力PMは、7ton/cm2〜9ton/cm2、露出コア片32mの成形圧力PSは、5ton/cm2〜7ton/cm2が挙げられる(但し、PM≠PS)。
【0059】
≪成形後の処理≫
ダイから抜き出した圧縮成形物に、圧縮に伴う歪みを除去することなどを目的として、熱処理を施すことができる。歪みの除去によって、ヒステリシス損といった損失を低減できる。熱処理条件は、加熱温度:300℃〜800℃ぐらい、保持時間:30分以上60分以下が挙げられる。加熱温度は、高いほど歪みを除去し易くヒステリシス損を低減できるが、絶縁被膜を具える場合、絶縁被膜が熱分解して渦電流損が増加する恐れがあるため、熱分解温度未満とすることが好ましい。代表的には、絶縁被膜がリン酸鉄やリン酸亜鉛などの非晶質リン酸塩からなる場合、上記加熱温度は500℃程度までが好ましく、金属酸化物やシリコーン樹脂などの耐熱性に優れる絶縁材料からなる場合、上記加熱温度は550℃以上、更に600℃以上、特に650℃以上に高められる。加熱温度及び保持時間は、絶縁被膜の構成材料に応じて適宜選択するとよい。この熱処理時の雰囲気は特に問わないが、窒素雰囲気といった非酸化性雰囲気、或いは酸素濃度が低い低酸素雰囲気とすると、軟磁性粒子の酸化を防止できる。
【0060】
絶縁被膜を具える原料粉末を用いた場合、所定の加圧後にダイから圧縮成形物を抜き出す際などで、絶縁被膜を損傷し、絶縁被膜から露出して、かつ変形した軟磁性粒子同士が導通可能となった箇所:ブリッジ部が形成されることがある。従って、得られた圧縮成形物、或いは上述の熱処理を施した熱処理物に、ブリッジ部を除去することなどを目的として、酸エッチングなどの後処理を施すことができる。後処理は、例えば、損失が所定の大きさ以下となるように、処理時間や処理液の濃度を調整するとよい。
【0061】
<効果>
リアクトル1は、コイル2から露出される露出コア部32を構成する露出コア片32mの密度DSが、コイル2(コイル素子2a,2b)に覆われる内側コア部31を構成する内コア片31mの密度DMよりも小さいことで、露出コア片32mの製造にあたり、成形圧力を小さくすることができる。この例では、各露出コア片32mの密度DSがいずれも同じで、各内コア片31mの密度DMがいずれも同じであることから、各露出コア片32mの密度DSはいずれも、任意の内コア片31mの密度DMよりも小さい。そのため、露出コア片32mは、所定の成形圧力に加圧する時間を短縮できることから、成形スピードを速められる。また、露出コア片32mの製造にあたり、成形圧力が小さいことで圧縮成形物のスプリングバックが小さくなり、スプリングバックに起因する成形用金型の摩耗を低減できる。これらのことから、磁心3は、生産性に優れ、この磁心3を構成部材とするリアクトル1も、生産性に優れる。
【0062】
また、露出コア片32mは、内コア片31mよりも大きな体積を有していながら、密度DSが内コア片31mの密度DMよりも小さいことで、軽量化を効果的に図ることができる。
【0063】
特に、実施形態1のリアクトル1では、露出コア片32mの高さh32が内コア片31mの高さh31よりも大きく、露出コア片32mの体積が内コア片31mよりも十分に大きい。このような露出コア片32mを製造する場合にその成形圧力を内コア片31mの成形圧力と同じにすると、加圧時間が長くなったり、スプリングバックが大きくなり易い。従って、実施形態1のリアクトル1のように、露出コア片32mが内コア片31mよりも非常に大きな体積を有する場合、露出コア片32mの密度DSを内コア片31mよりも小さくすることは、磁心3やリアクトル1の生産性の向上への寄与度が高いと期待される。
【0064】
その他、リアクトル1では、露出コア片32mの設置側の面とコイル2の設置側の面とが実質的に面一であることで、リアクトル1を設置するときに安定し易い上に、コイル2及び磁心3が冷却ベースやケースに直接支持されるため、放熱性に優れる。
【0065】
(変形例1)
上記実施形態1では、内コア片31m及び露出コア片32mの原料粉末に平均粒径が同じものを利用し、両コア片31m,32mを構成する粒子の平均粒径が実質的に同じである形態を説明した。その他、両コア片31m,32mの原料粉末の平均粒径が異なる形態、具体的には、露出コア片32mの原料粉末の平均粒径dSが内コア片31mの原料粉末の平均粒径dMよりも大きい形態とすることができる。より具体的には、変形例1のリアクトルは、内コア片31mの平均粒径dMに対する露出コア片32mの平均粒径dSの比:dS/dMを1超とする。
【0066】
平均粒径の比:dS/dMが大きいほど、代表的には、露出コア片32mの平均粒径dSの絶対値が大きくなり、露出コア片32mの原料粉末に平均粒径が大きな粗粒粉末を利用することができる。粗粒粉末を原料粉末に利用することで、露出コア片32mの成形スピードの向上を図ることができる。平均粒径の比:dS/dMは、1.5以上、更に2以上、特に3以上とすると、露出コア片32mの生産性をより高められる。但し、平均粒径の比:dS/dMが大き過ぎると、露出コア片32mの平均粒径dSの絶対値が大きくなり過ぎて、渦電流損の増大などの不具合を招く。従って、平均粒径の比:dS/dMの上限は、5程度が好ましい。
【0067】
より具体的な平均粒径としては、内コア片31mの平均粒径dMが20μm〜100μm、露出コア片32mの平均粒径dSが100μm〜200μmが挙げられる(但し、dM≠dS)。磁束を生成するコイル素子2a,2b(図1)内に配置される内コア片31mの平均粒径dMが上記範囲を満たすことで、渦電流損が小さく、低損失なリアクトルとすることができる。平均粒径が小さいほど渦電流損を低減できるため、内コア片31mの平均粒径dMは、70μm以下、更に50μm以下が好ましい。
【0068】
露出コア片32mの平均粒径dSが100μm以上であることで、原料粉末に平均粒径が十分に大きなものを利用することができ、露出コア片32mの生産性を高められる。露出コア片32mの平均粒径dSは、大きいほど原料粉末に粗大なものを利用でき、露出コア片32mの生産性の更なる向上を図ることができるため、120μm以上、更に130μm以上が好ましい。但し、露出コア片32mの平均粒径dSは、大き過ぎると、渦電流損の増大を招くことから、200μm以下が好ましく、更に170μm以下が好ましい。
【0069】
変形例1のリアクトルは、露出コア片32mの平均粒径dSが内コア片31mの平均粒径dMよりも大きいことで、露出コア片32mの原料粉末に成形し易い粗粒粉末を使用することができ(例えば、原料粉末の平均粒径が150μm以上)、成形スピードを速められる。また、露出コア片32mの製造にあたり、成形圧力を小さくできるため、スプリングバックに起因する成形用金型の摩耗を低減できる。これらのことから、磁心3は生産性に優れ、この磁心3を構成部材とする変形例1のリアクトルも、生産性に優れる。また、この形態も、露出コア片の密度DSが内コア片の密度DMよりも小さいことで、軽量化を図ることができる。
【0070】
(変形例2)
実施形態1では、内側コア部31の外表面よりも露出コア部32の外表面が突出した形態について説明した。内側コア部の外表面と露出コア部の外表面とが面一である形態(図示せず)とすることができる。この形態でも、各露出コア部をそれぞれ一つの露出コア片から構成すると、各露出コア片にはそれぞれ一対の内側コア部を連結することから、各露出コア片はいずれも、一つの内コア片よりも体積が大きくなる。従って、この形態も、成形圧力を小さくして露出コア片を成形することで、露出コア片の密度DSを内コア片の密度DMよりも小さくすることができ、生産性に優れる上に、軽量である。
【0071】
(変形例3)
実施形態1では、露出コア部32を構成する露出コア片32mにおける内側コア部31との接合面(内端面32e)が平面である形態を説明した。露出コア片を、その透視平面形状がU字状である立体とすることができる。この形態でも、各露出コア部をそれぞれ一つの露出コア片から構成すると、各露出コア片にはそれぞれ一対の内側コア部を連結することから、各露出コア片はいずれも、一つの内コア片よりも体積が大きくなる。従って、この形態も、成形圧力を小さくして露出コア片を成形することで、露出コア片の密度DSを内コア片の密度DMよりも小さくすることができ、生産性に優れる上に、軽量である。なお、一方の露出コア片を実施形態1の形状とし、他方の露出コア片を上述のU字状体とすることもできる。
【0072】
(試験例)
圧粉成形体を種々の条件で作製し、得られた圧粉成形体を用いてリアクトルを作製し、このリアクトルの性能(鉄損及びインダクタンス)を比較した。また、圧粉成形体の成形スピード、成形用金型の摩耗量を調べた。
【0073】
この試験では、三つのリアクトルを作製した。各試料のリアクトルの材質、形状、サイズはいずれも同じにした。具体的には、実施形態1で説明した、一対のコイル素子を有するコイルと、一対の直方体状の内側コア部及び一対の露出コア部を有する磁心とを具えるリアクトルを作製した。試料No.1,2は、実施形態1相当の試料、試料No.3は、変形例1相当の試料である。試料No.100は、比較試料である。
【0074】
各リアクトルに具える一対の内側コア部のそれぞれに対して、複数の直方体状の圧粉成形体(40mm×25mm×15mm)を作製し、各圧粉成形体をそれぞれ内コア片とした。内コア片の個数、形状、大きさは、いずれの試料についても同様とした。また、各内側コア部はそれぞれ、ギャップ材を具えるものとし、ギャップ材の材質、形状、大きさは、いずれの試料についても同様とした。
【0075】
各リアクトルに具える一対の露出コア部のそれぞれに対して、圧粉成形体を一つずつ作製し、各圧粉成形体をそれぞれ露出コア片とした。この試験では、露出コア片は、70mm×50mm×25mmの直方体状とした。一つの露出コア片の体積は、一つの内コア片の体積よりも大きい。
【0076】
いずれの試料も、原料粉末には、水アトマイズ法によって製造された純鉄粉に、化成処理によってリン酸金属塩化合物からなる絶縁被膜(厚さ:20nm以下程度)を形成した被覆軟磁性粒子からなる被覆粉末を用意した。この試験では、いずれの試料も、上記被覆粉末にステアリン酸亜鉛の粉末を混合した混合粉末(ステアリン酸亜鉛の混合量:混合粉末全体に対して0.6質量%)を用いた。
【0077】
試料No.1,2,100はいずれも、原料粉末に、平均粒径50μmの純鉄粉を用いて、内コア片及び露出コア片を成形した。試料No.3は、内コア片の原料粉末に、平均粒径50μmの純鉄粉を用い、露出コア片の原料粉末に、平均粒径100μmの純鉄粉を用いた。平均粒径は、上述した50%粒径(質量)である。
【0078】
試料No.1〜3の内コア片の成形圧力は、7ton/cm2、露出コア片の成形圧力は、試料No.1:6.5ton/cm2、試料No.2:5ton/cm2、試料No.3:6ton/cm2とした。一方、試料No.100は、内コア片及び露出コア片の成形圧力を同じとし、7ton/cm2とした。
【0079】
ダイから抜き出した試料No.1,2,3,100の圧縮成形物に、同じ条件で熱処理(400℃×30分、窒素雰囲気)を施して、熱処理物を得た。
【0080】
得られた試料No.1,2,3,100の熱処理物に、同じ条件で後処理を施して、後処理物を得た。この後処理は、各熱処理物の表面を塩酸(濃度:35質量%)によってエッチングすることで行った。
【0081】
得られた試料No.1,2,3,100の後処理物を内コア片、露出コア片とし、試料No.1,2,3,100の内コア片及び露出コア片の密度を測定した。その結果を表1に示す。密度は、アルキメデス法を用いて測定した。
【0082】
試料No.1,2,3,100の内コア片及び露出コア片の平均粒径を測定した。その結果を表1に示す。平均粒径は、以下のようにして測定した。各コア片において、加圧成形面(上パンチ又は下パンチによって成形された面)の中心を含み、加圧成形面の面積の50%以内の領域を観察領域とし、観察領域から観察視野を選択して顕微鏡で観察する(100倍〜1000倍程度)。得られた観察像を画像処理して、観察像内に存在する粒子の輪郭を抽出し、この輪郭の面積を算出する。算出には、市販の画像処理装置を利用すると容易に行える。各粒子の輪郭内の面積に等しい面積を有する円:等価面積円を求め、各等価面積円の直径を各粒子の直径とし、観察像内に存在する全ての粒子の直径の平均をこの観察像における平均粒径とする。加圧成形面ではなく、圧縮成形時の加圧方向に平行な任意の断面、又は加圧方向に直交する任意の断面を用いて、平均粒径を測定してもよい。この場合、断面の中心を含み、断面の面積の50%以内の領域を観察領域とする。なお、絶縁被膜は、20nm以下といった非常に薄いものであるから、その厚さが、各コア片を構成する粒子の粒径に与える影響は少ないため、絶縁被膜を含めた輪郭を抽出することを許容する。
【0083】
試料No.1,2,3,100の内コア片及び露出コア片を用いて環状の磁心を形成し、この磁心の一部(内側コア部)に一対のコイル素子が配置されたリアクトルを作製した。具体的には、内側コア部を各コイル素子に挿入配置し、露出コア片と内側コア部とを連結した。
【0084】
作製した試料No.1,2,3,100のリアクトルに対して、AC-BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける鉄損(W)を測定した。その結果を表1に示す。また、作製した試料No.1,2,3,100のリアクトルのインダクタンスを調べた。その結果を表1に示す。インダクタンスの測定条件は、通電電流(直流):350Aとした。
【0085】
更に、露出コア片について、給粉→加圧・圧縮・脱気→圧縮成形物の抜き出し、を一連の工程とし、この一連の工程の所要時間を測定して成形スピード(個/分)を調べた。その結果を表1に示す。
【0086】
加えて、露出コア片の素材に用いた圧縮成形物を連続成形した後の成形用金型の摩耗量を調べた。その結果を表1に示す。ここでは、摩耗量は、ダイの内周面における以下の箇所を測定領域とし、この測定領域の輪郭形状(プロフィール)を3次元形状測定機で測定する。測定領域は、原料粉末を完全に圧縮した状態(所定の成形圧力を負荷した状態)において、成形された圧縮成形物の外周面のうち、厚さ方向の中心部に接触する箇所とする。そして、成形前の測定領域の輪郭形状と、10,000個の圧縮成形物を成形後の測定領域の輪郭形状との差を調べ、この差の最大値を摩耗量:金型摩耗量とする。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示すように、露出コア片の密度DSが内コア片の密度DMよりも小さい試料No.1〜3はいずれも、両コア片の密度DS,DMが同じである試料No.100と比較して、同程度以下の損失であり、かつ同程度のインダクタンスを有することが分かる。つまり、試料No.1〜3はいずれも、試料No.100のリアクトルに遜色無い性能を有し、低損失であることが分かる。かつ、試料No.1〜3はいずれも、試料No.100と比較して、同程度の性能を有しながら、露出コア片の成形スピードが大きく、金型摩耗量が少ないことが分かる。この理由として、試料No.1〜3はいずれも、内コア片よりも体積が大きい露出コア片の密度DSが内コア片の密度DMよりも小さくなるように、成形圧力を小さくしたことで、加圧時間を短縮したり、スプリングバックによる摩擦が低減されたりしたため、と考えられる。また、露出コア片の密度DSが内コア片の密度DMよりも小さいことに加えて、露出コア片の平均粒径dSが内コア片の平均粒径dMよりも大きい試料No.3は、平均粒径dSと平均粒径dMとが同じである試料No.1と比較して、成形スピードの更なる向上、金型摩耗量の更なる低減を図ることができることが分かる。この理由として、露出コア片の原料粉末に粗粒粉末を用いたことで、成形し易くなって加圧時間を短縮したり、成形圧力を低減したりすることができたため、と考えられる。
【0089】
かつ、試料No.1,3は、内コア片の密度DM:7.2g/cm3に対して、露出コア片の密度DSが7.0g/cm3であることから、密度の比:DS/DM≒0.972であり、密度の比:DS/DM=1である試料No.100に対して、軽量化が図れることが分かる。この試験では、70mm×50mm×25mmの露出コア片を二つ具えることから、試料No.1,3は、試料No.100に対して、(7.2−7.0)g/cm3×(7.0cm×5.0cm×2.5cm)×2個=35gの軽量化が図れる。密度の比:DS/DM≒0.944である試料No.2は、更なる軽量化が図れることが分かる。この試験では、試料No.2は、試料No.100に対して、(7.2−6.8)g/cm3×(7.0cm×5.0cm×2.5cm)×2個=70gの軽量化が図れる。従って、試料No.1〜3のリアクトルは、グラムオーダーの軽量化が求められる車載部品に好適に利用できるといえる。
【0090】
また、この試験から、内コア片の密度DMに対する密度の差(DM−DS)の比:(DM−DS)/DMが1/80以上(この試験では、1/40以上、更に1/20以上)であったり、密度の差:DM−DSが0.1g/cm3以上(この試験では、0.2g/cm3以上、更に0.4g/cm3以上)であれば、成形スピードを大きくでき、かつ摩擦量の低減を十分に図ることができることが分かる。従って、露出コア片・内コア片の密度を上記範囲に調整することで、所望の性能(鉄損やインダクタンス)が実質的に変化しない範囲で、軽量化を図ることができるといえる。
【0091】
以上から、一対のコイル素子と、圧粉成形体からなる複数のコア片を組み合せて環状に形成される磁心とを具える磁気回路部品として、コイル素子から露出された露出コア部を構成する露出コア片の密度DSを、コイル素子内に配置される内側コア部を構成する内コア片の密度DMよりも小さくすることで、軽量で生産性に優れるリアクトルなどの磁気回路部品が得られる、といえる。
【0092】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各コア片の材質・密度・形状、内コア片・露出コア片の数などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明磁気回路部品は、各種のリアクトル(車載部品、発電・変電設備の部品など)に好適に利用することができる。特に、本発明磁気回路部品は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車などの車両に搭載される車載用コンバータといった車載用電力変換装置に具えるリアクトルに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 リアクトル 2 コイル 2a,2b コイル素子 2w 巻線 2r 連結部
3 磁心 31 内側コア部 31m 内コア片 31g ギャップ材
32 露出コア部 32m 露出コア片 32u,32d 角丸め台形状面 32e 内端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の筒状のコイル素子を有するコイルと、
各コイル素子内に配置される一対の内側コア部と、前記コイル素子から露出された一対の露出コア部とによって閉磁路を形成する磁心とを具える磁気回路部品であって、
前記磁心は、同一組成の軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体から構成される複数のコア片を具え、
前記露出コア部を構成するコア片を露出コア片、前記内側コア部を構成するコア片を内コア片とするとき、前記露出コア部を構成する少なくとも一つの露出コア片の密度DSが、前記内側コア部を構成する少なくとも一つの内コア片の密度DMよりも小さいことを特徴とする磁気回路部品。
【請求項2】
前記内コア片の密度DMと前記露出コア片の密度DSとの差をDM−DS、前記内コア片の密度DMに対する前記差(DM−DS)の比を(DM−DS)/DMとするとき、(DM−DS)/DMは1/80以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気回路部品。
【請求項3】
前記内コア片の密度DMと前記露出コア片の密度DSとの差をDM−DSとするとき、DM−DSは0.1g/cm3以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気回路部品。
【請求項4】
前記磁気回路部品は、リアクトルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気回路部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−38132(P2013−38132A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171278(P2011−171278)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)