説明

磁気式動力伝達手段

【課題】反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減するとともに、振動や騒音を防止する磁気式動力伝達手段を提供すること。
【解決手段】磁気円筒120と磁気円盤110とが対向するとともに、それらの回転軸124、114が同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段100において、磁気円盤110の磁極112の配置が磁気円盤110の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動軸と被駆動軸との間で磁力により非接触で回転を伝達する磁気式動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置として、摩耗や発塵、接触騒音等を軽減できる磁気式動力伝達手段を備えたものが知られており、円筒表面に磁極のN極とS極を交互に配置した磁気円筒と、円盤表面に内周から外周に向けて磁極のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤とが対向するとともに、磁気円筒と磁気円盤の回転軸が同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段が公知である。
【0003】
公知の磁気式動力伝達手段の磁気円盤510は、対向する磁気円筒に対して半径線が最も接近してトルクの伝達が行われるものであり、例えば図6に示すように、円周方向のどの半径線上にもN極とS極が必ずそれぞれ1つ以上存在するように螺旋曲線511を定めてN極とS極が交互に放射曲線状に配置されている。
【0004】
すなわち、磁気円筒と磁気円盤が回転してトルクの伝達が行われる際、最も接近する線上には常にN極とS極が必ず1つ以上存在している。
そして、該螺旋曲線511は、磁気円筒のN極とS極の配置との関係を規定することで、円滑に回転するとともに伝達トルクが大きくなるように定められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4072186号公報(第5、6頁、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、公知の磁気式動力伝達手段の磁気円盤510のN極とS極の配置では、図7に示すように、半径線上のN極とS極のそれぞれの長さの合計が回転に伴い変動するため、磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動が生じやすく、伝達トルクのリップルや回転速度変動が生じ、振動や騒音の原因となるという問題があった。
【0007】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減するとともに、振動や騒音を防止する磁気式動力伝達手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、円筒表面に磁極のN極とS極を交互に配置した磁気円筒と、円盤表面に内周から外周に向けて磁極のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤とが対向するとともに、前記磁気円筒と前記磁気円盤の回転軸が、同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段において、前記磁気円盤の磁極の配置が、前記磁気円盤の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であることにより、前記課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された磁気式動力伝達手段の構成に加えて、前記磁気円盤の磁極の配置が、複数のアルキメデス曲線を境界としてN極とS極を交互に配置したものであることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0010】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載された磁気式動力伝達手段の構成に加えて、前記アルキメデス曲線が等間隔に設けられるとともに、次式
r=aθ+ri
a=(ro−ri)/(C・Qq)
(ri:磁極の最内周の半径
ro:磁極の最外周の半径
C :原点(θ=0)の位置での半径上に現れる磁極の極数
Qq:円周方向の1極当たりの角度)
で表わされることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明の磁気式動力伝達手段は、円筒表面に磁極のN極とS極を交互に配置した磁気円筒と、円盤表面に内周から外周に向けて磁極のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤とが対向するとともに、磁気円筒と前記磁気円盤の回転軸が、同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段において、磁気円盤の磁極の配置が磁気円盤の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であることにより、磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減することができるとともに、振動や騒音を防止することができる。
【0012】
請求項2に係る発明の磁気式動力伝達手段は、請求項1に係る磁気式動力伝達手段が奏する効果に加えて、磁気円盤の磁極の配置が等間隔の複数のアルキメデス曲線を境界としてN極とS極を交互に配置したものであることにより、磁気円盤と磁気円筒の最接近点の回転に伴う磁極の境界線の磁気円盤の半径方向への移動速度が回転速度に比例するため、さらに磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減することができるとともに、振動や騒音を防止することができる。
【0013】
請求項3に係る発明の磁気式動力伝達手段は、請求項2に係る磁気式動力伝達手段が奏する効果に加えて、アルキメデス曲線が等間隔に設けられるとともに、次式
r=aθ+ri
a=(ro−ri)/(C・Qq)
(ri:磁極の最内周の半径
ro:磁極の最外周の半径
C :原点(θ=0)の位置での半径上に現れる磁極の極数
Qq:円周方向の1極当たりの角度)
で表わされることにより、すべての磁極が同一形状となり構造が単純化され、さらに磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減することができるとともに、振動や騒音を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例である磁気式動力伝達手段の斜視図。
【図2】図1の磁極部分の正面図。
【図3】図1の磁気円盤の磁極配置の説明図。
【図4】図1の磁気円筒の磁極配置の説明図。
【図5】図1の磁気円盤の半径線上の磁極の長さの説明図。
【図6】本発明の一実施例および従来例の速度変動の説明図。
【図7】従来の磁気式動力伝達手段の磁気円盤の磁極配置の説明図。
【図8】従来の磁気式動力伝達手段の磁気円盤の半径線上の磁極の長さの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の磁気式動力伝達手段は、円筒表面に磁極のN極とS極を交互に配置した磁気円筒と、円盤表面に内周から外周に向けて磁極のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤とが対向するとともに、磁気円筒と前記磁気円盤の回転軸が、同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段において、磁気円盤の磁極の配置が磁気円盤の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であり、磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減するとともに、振動や騒音を防止するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0016】
すなわち、本発明で用いる磁気式動力伝達手段は、同一平面上で直交する回転軸の間で動力伝達が行われるものであれば、駆動側及び被駆動側のいずれに磁気円筒あるいは磁気円盤を設けても良い。
また、磁気円盤および磁気円筒の磁極は、回転方向で交互に設けられていればいくつであってもかまわない。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の一実施例である磁気式動力伝達手段について図面に基づいて説明する。
本発明の一実施例である磁気式動力伝達手段100は、図1に示すように、円筒123の表面に磁極122のN極とS極を交互に配置した磁気円筒120と、円盤113の表面に内周から外周に向けて磁極112のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤110とが、互いに同一平面上で軸中心が直交する回転軸114、124にそれぞれ取り付けられ、磁極112、122の表面が僅かな間隔で対向するように配置されている。
【0018】
磁気円盤110は、図2に示すように、磁気円盤110側の表面に内周から外周にかけて周方向等間隔の螺旋曲線111を境界として磁極112がN極とS極を交互に配置されてなり、磁気円筒120は、円筒面に周方向等間隔の螺旋曲線121を境界として磁極122がN極とS極を交互に配置されてなる。
【0019】
本実施例では、磁気円盤110の螺旋曲線111および磁極112の数、磁気円筒120の螺旋曲線121および磁極122の数はそれぞれ8個であるが、それぞれ偶数であればいかなる数でも良く、また、磁気円筒120の螺旋曲線121および磁極122の数は磁気円筒120の半径に応じて、磁気円盤110の螺旋曲線111および磁極112の数と同数であっても良く異なっても良い。
【0020】
また、磁気円筒120の磁極122の軸方向の長さと、磁気円盤110の磁極112が配置される内周から外周までの半径方向の長さは等しくなるように構成されているが、磁気円筒120の磁極122の軸方向の長さのほうが長くても良い。
さらに、本実施例では磁気円盤110の磁極112は境界となる螺旋曲線111部に隙間を設けて配置され、磁気円筒120の磁極122は境界となる螺旋曲線121部に隙間を設けずに配置されているが、磁気円盤110、磁気円筒120ともに隙間の有無はいずれであっても良い。
【0021】
磁気円盤110の8本の螺旋曲線111は、それぞれ、次式、
r=aθ+ri
a=(ro−ri)/(C・Qq)
(ri:磁極112の最内周の半径
ro:磁極112の最外周の半径
C :原点(θ=0:螺旋曲線111が内周に接する点)の位置での磁気円盤110の半径上に現れる磁極112の極数
Qq:円周方向の1極当たりの角度=360°/螺旋曲線111の数)
で表わされるアルキメデス曲線で構成されており、複数の同一のアルキメデス曲線が円周方向に等角度間隔に設けられることによって、図3に示すように、磁気円盤110の中心を通る半径直線(a〜f等)上のN極の長さの合計とS極の長さの合計が全周にわたって同一となるように構成されている。
【0022】
本実施例では、
C=2
Qq=45°
であるから、それぞれの螺旋曲線111は、
r=(ro−ri)・θ/90°+ri
で表わされる曲線となる。
【0023】
磁気円筒120は、図4に示すように、軸方向長さが磁気円盤110の磁極112が配置される内周から外周までの半径方向の長さ(ro−ri)であり、N極とS極を交互に配置された磁極122の境界となる螺旋曲線121によって軸方向のN極の長さの合計とS極の長さの合計が全周にわたって同一となるように構成されている。
【0024】
以上の構成により、図5に示すように、磁気円筒120と最も接近してトルクの伝達が行われる磁気円盤110の半径線上のN極とS極のそれぞれの長さの合計は回転によって変化することはなく、磁気円筒120と磁気円盤110の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動が生じにくく、伝達トルクのリップルや回転速度変動が低減し、振動や騒音を防止することができる。
【0025】
図6(a)は本発明の磁気式動力伝達手段、図6(b)は従来の磁気式動力伝達手段のそれぞれ回転数を測定したグラフであり、本発明の磁気式動力伝達手段は従来の磁気式動力伝達手段に比べ、回転数の変化速度(回転数曲線の傾き)も小さいことから伝達トルクのリップルが低減されていることが、回転数の変化量(回転数曲線の上下のピークの差)が少ないことから回転速度変動が低減されていることが、それぞれ示されている。
【0026】
以上のように、本発明の磁気式動力伝達手段によれば、磁気円盤の磁極の配置が磁気円盤の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であり、磁気円筒と磁気円盤の間に発生している反発力・吸引力のバランス変動を低減し、伝達トルクのリップルや回転速度変動を低減するとともに、振動や騒音を防止できる。
【符号の説明】
【0027】
100、 ・・・磁気式動力伝達手段
110、510 ・・・磁気円盤
111、511 ・・・螺旋曲線
112、512 ・・・磁極
113、513 ・・・回転軸
120、520 ・・・磁気円筒
121、521 ・・・螺旋曲線
122、522 ・・・磁極
123、523 ・・・回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒表面に磁極のN極とS極を交互に配置した磁気円筒と、円盤表面に内周から外周に向けて磁極のN極とS極を交互に放射曲線状に配置した磁気円盤とが対向するとともに、前記磁気円筒と前記磁気円盤の回転軸が、同一平面上で直交するように配置されている磁気式動力伝達手段において、
前記磁気円盤の磁極の配置が、前記磁気円盤の中心を通る半径直線上のN極の長さの合計とS極の長さの合計を全周にわたって同一とする配置であることを特徴とする磁気式動力伝達手段。
【請求項2】
前記磁気円盤の磁極の配置が、複数のアルキメデス曲線を境界としてN極とS極を交互に配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気式動力伝達手段。
【請求項3】
前記アルキメデス曲線が、等間隔に設けられるとともに、次式で表わされることを特徴とする請求項2に記載の磁気式動力伝達手段。
r=aθ+ri
a=(ro−ri)/(C・Qq)
(ri:磁極の最内周の半径
ro:磁極の最外周の半径
C :原点(θ=0)の位置での半径上に現れる磁極の極数
Qq:円周方向の1極当たりの角度)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−270855(P2010−270855A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124243(P2009−124243)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)