説明

磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物

【課題】 磁場の強さを調整することによって、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができる磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】 ポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を含有する磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物であって、上記ポリウレタンエラストマーは、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車分野、建築分野等の種々の分野において、防振装置が広く使用されており、例えば、ゴム組成物からなるゴム支承体やバネとダンパーの組合せの装置等が使用されている。このような従来から用いられている防振装置は、使用されているゴム支承体やバネが固定値の弾性係数、ばね係数を有するものであるため、ある振動に対して、防振効果が高くても、異なる振動に対しては、満足する防振効果が得られない場合がある。
【0003】
このため、従来の防振装置を用いた自動車では、自動車の走行時や停車時によって振動状態が異なることになるので、自動車の走行時や停車時の全体にわたって良好な防振効果が得られなくなり、結果として、自動車シートにおいて、良好な座り心地及び乗り心地が得られないという問題がある。特に、自動車は、直線、カーブ、坂道等の種々の条件下で走行することになるため、直線走行時では、シートの臀部、背中部、首部等に充分なサポート感が感じられていても、カーブや坂道の走行時では、背中部や首部のサポート感が充分ではないと感じられる場合もある。
【0004】
このように、走行中にシートのサポート感が異なることは、シートの座り心地及び乗り心地という点で望ましくないため、種々の振動状態において、優れた防振効果を発揮させることができる手段を提供することが望まれている。このような手段として、可変ダンパーを用いることで、種々の振動状態での防振効果を発揮させることも考えられるが、制御が複雑で、高価になる傾向がある。
【0005】
以上に述べた問題から、近年では、種々の振動状態において、防振効果を発揮させることができる安価な振動・衝撃吸収材を提供することが望まれている。特許文献1には、可とう性を有する高分子材料に、磁場の作用により磁気分極する粒子が分散している磁気応答材料が提案されている。しかし、ここで開示されている材料は、振動・衝撃吸収性が充分なものではなく、取扱い性にも劣るものである。また、コストが高いという問題もある。
【0006】
特許文献2には、ポリイソシアネート化合物と2官能性ポリオール化合物等の活性水素含有化合物とを反応させて得られ、等価減衰係数(Heq)が0.2以上の高減衰性ポリウレタン化合物が開示されている。しかし、ここで開示されている材料も、振動・衝撃吸収性が充分なものではないという問題がある。
【特許文献1】特開平5−25316号公報
【特許文献2】特開平10−330451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、磁場の強さを調整することによって、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができる磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を含有する磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物であって、上記ポリウレタンエラストマーは、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるものであることを特徴とする磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物である。
【0009】
上記ひまし油系ポリオールは、ひまし油誘導体のポリオール、2官能の有機酸及びグリコールを縮合反応させることにより分子鎖を延長して得られる化合物と、12−ヒドロキシステアリン酸とを反応させることにより得られるポリオールであることが好ましい。
【0010】
上記ひまし油誘導体のポリオールは、ひまし油脂肪酸であるリシノール酸と、3官能のポリオールとのエステル交換又はエステル化により得られるポリオールであることが好ましい。
【0011】
上記2官能の有機酸は、アジピン酸及び/又はセバシン酸であることが好ましい。
上記グリコールは、メチルペンタンジオールであることが好ましい。
上記ひまし油系ポリオールは、数平均分子量が3000〜6000であることが好ましい。
【0012】
上記可塑剤は、トリメリット酸エステル系可塑剤であることが好ましい。
上記トリメリット酸エステル系可塑剤は、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテー卜であることが好ましい。
上記磁性粒子の平均粒子径(D50)は、0.5〜10μmであることが好ましい。
【0013】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、磁場の強さを調整することによって、せん断弾性係数(G)を0.1〜1.0kgf/cm及び損失係数(tanδ)を5〜50%の範囲に可変可能なものであることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマーと、可塑剤と、磁性粒子とを含有するものである。本発明は、このような組成物であるため、磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物にかける磁場の強さを調整することによって、せん断弾性係数(G)、せん断ばね係数(K)、圧縮弾性係数(E)、圧縮ばね係数(K)及び損失係数(tanδ)を変化させることが可能となる。従って、本発明は、磁場の強さを調整することによって、所望の特性値(G、K、E、K、tanδ)を発現させることが可能な磁気応答性のポリウレタンエラストマー組成物である。
【0015】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、磁場の強さを調整することによって所望の特性値を発現させることができるものであり、良好な弾性率及びばね定数を有し、かつ、高い減衰性を有するものである。このため、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができる。例えば、自動車の走行時や停車時のような種々の振動状態が存在する場合において、本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を自動車シートの材料として用いた場合、種々の振動状態に応じて、かける磁場を調整することにより、シート材料の各部位に所望の特性値を発現させることができる。
【0016】
従って、直線走行時、カーブ走行時、坂道走行時等の種々の走行時において、それぞれ臀部、背中部、首部等に所望のサポート感を与えることができる。即ち、直線走行時においては、シートの臀部、背中部等にかける磁場を調整することにより、これらの部位に所望のサポート感を与えることが可能となる。また、カーブ走行時においては、首部や身体全体に受ける遠心力に対するサポート感も必要となるため、シートの首部、脇部等にかける磁場を調整することにより、これらの部位にも所望のサポート感を発現させることができる。更に、坂道部においては、背中部等により大きなサポート感が必要となるため、シートの背中部等にかける磁場を調整することにより、この部位にも所望のサポート感を発現させることができる。
【0017】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、上述したような性質を有するものであり、例えば、上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物にかける磁場の強さを調整することによって、せん断弾性係数(G)を0.1〜1.0kgf/cm及び損失係数(tanδ)を5〜50%の範囲に可変可能なものである。上記範囲のG及びtanδに可変可能であるため、良好な弾性率及び高減衰性を有するものである。このため、自動車の走行時及び停車時等の種々の振動状態が存在する場合において、自動車シートの材料の各部位に所望のG及びtanδを発現させることが可能となる。従って、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができ、所望のサポート感をシートに与えることができる。
【0018】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、せん断弾性係数(G)を0.1〜1.0kgf/cmの範囲に可変可能なものであることが好ましく、0.3〜0.6kgf/cmの範囲に可変可能なものであることがより好ましい。0.1kgf/cm未満であると、自動車シートの材料として用いた場合、シートが柔らかすぎて、充分なサポート感が得られないおそれがあり、1.0kgf/cmを超えると、シートがかたすぎて、良好な着座感が得られないおそれがある。
【0019】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、損失係数(tanδ)を5〜50%の範囲に可変可能なものであることが好ましく、10〜30%の範囲に可変可能なものであることがより好ましい。5%未満であると、防振効果が充分に得られないおそれがあり、50%を超えると、形状復元性が悪くなりすぎて、走行時、停車時等の変化に追従できなくなるおそれがある。
【0020】
上記せん断弾性係数(G)を0.1〜1.0kgf/cm及び損失係数(tanδ)を5〜50%の範囲に可変可能な磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を適宜選択することによって得ることができる。
【0021】
上記せん断弾性係数(G)及び上記損失係数(tanδ)の評価に使用するサンプルは、幅25mm、長さ60mm、厚さ1.0mmのアルミ板材を2枚使用し、図1に示した側面形状であって、磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物の形状が25mm×25mm×6mm(t)〔A:25mm×25mm(面積)、h:6mmとする。〕となるように注型したものである。なお、これは、所定の金型内にケムロックで処理したアルミ板材をセットし、混合したポリウレタン原料を注入することにより得られるものである。
【0022】
上記せん断弾性係数(G)及び上記損失係数(tanδ)の測定は、上記サンプルにおいて、インストロン5568(インストロンコーポレーション社製)を用いて、温度23℃、振動数0.1Hzの条件下で、せん断歪み率100%、圧縮歪み1mmとなるように3回ループのヒステリシスを測定することによって行われる。測定は、評価サンプルにおいて、磁石数0〜2個、1個0.4T(単位T)〔磁石の直径は、10mm〕の範囲の磁場を、上記アルミ板材の厚さ1.0mmを通してサンプルに印加する。
【0023】
図2は、図1で示されるサンプルに、磁石数2個で磁場を印加した状態の上面の概略図を示した図であり、このような状態において、ヒステリシスを測定する。測定は、図2に示されるように、磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物と接触しているアルミ板材の部分(25mm×25mm)上に、2個の磁石を中心に並べて行う(図2において、アルミ板材の長さ方向の右端部から12.5mmの箇所に2個の磁石の中心が位置する)。2個の磁石は、アルミ板材の幅方向に均等の間隔になるように位置させる(図2のアルミ板材の幅方向において、アルミ板材の上端部と上方の磁石の最上部との間隔、上方の磁石の最下部と下方の磁石の最上部との間隔及びアルミ板材の下端部と下方の磁石の最下部との間隔は、それぞれ3/5mm)。
【0024】
磁石1個での測定は、磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物と接触しているアルミ板材の部分(25mm×25mm)の中心に、磁石の中心が位置するようにして行う。磁石0個での測定は、磁石を置くことなく行われる。本明細書において、磁石0〜2個での測定は、上述したように行うものとする。
【0025】
3回目のヒステリシスから、上記せん断弾性係数(G)及び上記損失係数(tanδ)を測定する。上記G(kgf/cm)は、測定原点からループ曲線の頂点を結んだ直線の傾きKに厚さhを掛け、アルミ板の面積Aで割った値(G=K×h/A)である。また、上記tanδは、tanδ=G′/G″から算出される値である。
ここで、G′=σcosδ/γ(G′:貯蔵せん断弾性率)
G″=σsinδ/γ(G″:損失せん断弾性率)
σ:応力
γ:ひずみ
δ:変位と荷重の位相角
である。
【0026】
また、上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物においては、せん断ばね係数(K)、圧縮弾性係数(E)、圧縮ばね係数(K)は、上記Gとエラストマーの形状因子により決定されるため、上記Gのみ0.1〜1.0kgf/cm規定する。これにより、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができるため、自動車シートの材料に用いた場合、所望のサポート感をシートに与えることができる。
【0027】
上記せん断ばね係数(K)、圧縮弾性係数(E)、圧縮ばね係数(K)は、上記せん断弾性係数(G)及び損失係数(tanδ)の測定と同様、3回目のヒステリシスから測定される値である。上記Kは、上述したように、測定原点からループ曲線の頂点を結んだ直線の傾きである。上記Eは、E=G×2×(1+ν)〔ν:ポアソン比〕であり、本発明のエラストマー組成物では、ν≒0.5であるため、E=3G(kgf/cm)となる。従って、Gが0.1〜1.0kgf/cmである場合、E=0.3〜3.0kgf/cmとなる。上記Kは、圧縮試験で得られた測定ループ曲線の頂点を結んだ直線の傾きである(kgf/cm)。
【0028】
上記圧縮弾性係数(E)を0.3〜3.0kgf/cmの範囲に可変可能な磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を適宜選択することによって得ることができる。
【0029】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマーを含むものである。上記ポリウレタンエラストマーは、低弾性高減衰性に優れるものである。一般的なポリエーテル系ポリオール、オレフィン系ポリオールをポリオール成分として用いた場合には、減衰性及び低弾性に乏しい樹脂となってしまう。また、上記ポリウレタンエラストマーは、原料の選択の範囲が広く、配合の自由度も高く、要求特性に応じた分子設計可能なものである。
【0030】
上記ひまし油系ポリオールは、ひまし油又はひまし油誘導体からなる広義のものを意味する。
上記ひまし油系ポリオールとしては、例えば、ひまし油、脱水ひまし油、これらの変性物;ひまし油脂肪酸であるリシノール酸と、低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールとのエステル交換又はエステル化により得られるポリオールを挙げることができる。
【0031】
上記エステル交換又はエステル化に使用されるポリオールとしては、低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等を挙げることができる。
上記低分子ポリオールは、分子量60〜500のポリオールであることが好ましい。上記低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0032】
上記ポリエーテルポリオールは、分子量500〜5000のポリエーテルポリオールであることが好ましい。上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を挙げることができる。
【0033】
上記ポリエステルポリオールは、分子量500〜5000のポリエステルポリオールであることが好ましい。上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、カルボン酸とポリオールとから得られる線状又は分岐状ポリエステル系ポリオール、カプロラクトンの開環重合により得られるポリカプロラクトン系ポリオール等を挙げることができる。
【0034】
上記ひまし油系ポリオールとしては、他に、部分脱水ひまし油、部分アシル化ひまし油(部分アセチル化ひまし油等)、ひまし油のアルキレンオキシド付加物、ひまし油のエポキシ化物、ひまし油のハロゲン化物、ビスフェノール類アルキレンオキサイド付加物のひまし油脂肪酸モノ又はジエステル、ダイマー酸とひまし油系ポリオールとのエステル化物、重合ひまし油のエステル交換反応物とカプロラクトンとの反応物、ひまし油脂肪酸の2量体以上の縮合体又はその縮合体と多価アルコールとのエステル等も挙げることができる。また、水添ひまし油等のひまし油又はひまし油誘導体の水素添加物も用いることができる。
【0035】
上記ひまし油系ポリオールは、ひまし油誘導体のポリオール、2官能の有機酸及びグリコールを縮合反応させることにより分子鎖を延長して得られる化合物と、12−ヒドロキシステアリン酸とを反応させることにより得られるポリオールであることが好ましい。このようなポリオールを用いて得られる磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を使用すると、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0036】
上記ひまし油誘導体のポリオールは、ひまし油由来のポリオールであり、例えば、上述したひまし油脂肪酸であるリシノール酸と、低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールとのエステル交換又はエステル化により得られるポリオール等を挙げることができる。なかでも、種々の振動状態において、効果的に振動・衝撃を吸収させることができる点から、ひまし油脂肪酸であるリシノール酸と、3官能のポリオールとのエステル交換又はエステル化により得られるポリオールであることが好ましい。これにより、種々の振動状態において、効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0037】
上記3官能のポリオールとしては特に限定されず、例えば、従来公知のものを使用することができるが、グリセリン、トリメチロールプロパンを用いることが好ましい。これにより、種々の振動状態において、効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0038】
上記2官能の有機酸としては特に限定されず、例えば、従来公知のものを使用することができるが、アジピン酸、セバシン酸を用いることが好ましい。このような有機酸を用いて得られる磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を使用すると、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0039】
上記グリコールとしては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、エチレングリコール、プロピレンクリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等を用いることが好ましい。なかでも、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる点から、メチルペンタンジオールを用いることがより好ましい。
【0040】
上記ひまし油誘導体のポリオール、2官能の有機酸及びグリコールを縮合反応させることにより分子鎖を延長して得られる化合物と、12−ヒドロキシステアリン酸とを反応させることにより得られるひまし油系ポリオールは、従来公知の方法によって反応させることによって得ることができる。
【0041】
上記ひまし油系ポリオールは、数平均分子量が3000〜6000であることが好ましい。3000未満であると、充分な良好な減衰特性を得ることができないおそれがある。6000を超えると、ポリオールの粘度が高くなるために作業性に劣ってしまうおそれがある。4000〜5000であることがより好ましい。
【0042】
上記ポリイソシアネートとしては特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネート等を挙げることができる。
【0043】
上記脂肪族イソシアネートとしては、例えば、炭素数6〜10の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。また、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体の変性体等を挙げることができる。
【0044】
上記脂環族イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)等の脂環族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0045】
上記芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、カルボジイミド変性のMDI等を挙げることができる。上記ポリイソシアネートのなかでも、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる点から、芳香族イソシアネートが好ましく、キシリレンジイソシアネートが特に好ましい。また、2官能のポリイソシアネートを用いることが好ましい。
【0046】
上記ひまし油系ポリオール及び上記ポリイソシアネートは、上記ひまし油系ポリオールのOH基と上記ポリイソシアネートのNCO基の比(NCO基/OH基、NCO Indexともいう。)は、0.95〜1.15の範囲で反応させたものが好ましい。この範囲にすることにより、ポリウレタンとして所定の機械的強度を確保できる。0.95未満であると、過度の高粘着性、流動性が発現し、湿熱特性が著しく悪化するおそれがある。1.15を超えると、遊離のイソシアネート基がウレタン結合の活性水素と反応してアロハネート結合を形成し、ポリウレタンエラストマーの柔軟性や粘着性、更には熱老化特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0047】
上記ひまし油系ポリオールは、水酸基価が5〜25であることが好ましく、15〜20であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0048】
本発明において、上記ひまし油系ポリオール及び上記ポリイソシアネートの反応は、従来公知の方法を用いることができる。
上記ひまし油系ポリオールと上記ポリイソシアネートとの反応は、触媒の存在下で行ってもよい。上記触媒を用いることにより、ウレタン反応を制御することができる。
上記触媒としては、1,2−ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン等の第3級アミン等のアミン類;ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、2−エチルヘキサン酸スズ等のスズ化合物等の有機金属化合物;アルカリ金属水酸化物;脂肪酸塩;トリフェニルホスフィン等を挙げることができる。なかでも、
の点で、
が好ましい。
【0049】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、可塑剤を含むものである。これにより、良好な弾性率、減衰特性を得ることができる。
上記可塑剤は、トリメリット酸エステル系可塑剤であることが好ましい。本発明において、可塑剤としてパラフィン系のオイル等の極性の低い可塑剤を用いた場合、ひまし油系ポリオールとの相溶性が悪くブリードするため、経時でGが上昇してしまうという問題が生じる場合があるが、ひまし油系ポリオールとの相溶性が良好なトリメリット酸エステル系可塑剤を用いた場合には、このような問題の発生を防止することができる。また、トリメリット酸エステル系可塑剤を用いた場合には、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる。
【0050】
上記トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリメリット酸と1価アルコールとを縮合反応させて得られる下記式で表される化合物を用いることができる。
【0051】
【化1】

【0052】
式中、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数8〜10のアルキル基を表す。
上記炭素数8〜10のアルキル基のなかでも、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる点から、炭素数8のアルキル基が好ましい。上記炭素数8のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれの形態を有していてもよい。上記炭素数8のアルキル基としては、例えば、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0053】
上記トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリメリット酸トリn−オクチル(TnOTM)、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル(TOTM)、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリ−n−ノニル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ−n−デシル等を挙げることができる。なかでも、種々の振動状態において、より効果的に振動・衝撃を吸収させることができる点から、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテー卜(TOTM)を用いることが特に好ましい。
【0054】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物において、上記可塑剤の含有量は、上記ポリウレタンエラストマー100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましい。1質量部未満であると、良好な弾性率、減衰特性を得ることができないおそれがある。50質量部を超えると、ポリウレタンエラストマーからブリード又は成形物が流動性のあるものになるおそれがある。30〜50質量部であることがより好ましい。
【0055】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、磁性粒子を含むものである。これにより、磁場をかけることによって、所望の特性値を発現させることができる。
上記磁性粒子は、分散の均一性から球形が好ましい。
上記磁性粒子の平均粒子径(D50)は、0.5〜10μmであることが好ましい。0.5μm未満であると、嵩密度が下がり、ポリオールと混合しにくくなってしまうおそれがある。10μmを超えると、ベースポリマーの硬化中に沈降し分散性が悪化するおそれがある。なお、本明細書において、平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置を用いて得られる値(D50)である。
【0056】
上記磁性粒子としては磁性を有する物質であれば特に限定されず、例えば、フェライト、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、電解鉄粉、マグネタイト、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル、コバルト、ニッケル、アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金等の鉄合金、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体からなる常磁性、超常磁性又は強磁性化合物粒子、強磁性金属及びこれらの混合物からなる粒子等を挙げることができる。上記磁性粒子は、粒子表面に表面処理が施されているものであってもよい。なかでも、僅かな磁場でも大きな応力を発現する点から、カルボニル鉄が好ましい。これらの磁性粒子は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物において、上記磁性粒子の含有量は、上記ポリウレタンエラストマー100質量部に対して、100〜500質量部であることが好ましい。100質量部未満であると、良好な磁気応答性が得られなるおそれがある。500質量部を超えると、充分な減衰特性は得られるが、初期のせん断弾性率が上昇し、振動・衝撃吸収材としての役割を果たさなくなるおそれがある。300〜400質量部であることがより好ましい。
【0058】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、上述の成分に、必要に応じて安定剤、難燃剤、防黴剤等の添加剤を配合してもよい。
上記安定剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を挙げることができる。上記難燃剤の例としては、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、アンモニウムポリホスフェート、有機臭素化合物等を挙げることができる。上記防黴剤の例としては、ペンタクロロフェノール、ペンタクロロフェノールラウレート、ビス(トリ−n−ブチル錫)オキシド等を挙げることができる。
【0059】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を含有するものである。このため、上記磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物にかける磁場の強さを調整することによって、所望の特性値(G、K、E、K、tanδ)を発現させることが可能であり、種々の振動状態において、良好に振動・衝撃を吸収させることができる。従って、自動車シート材料として用いた場合、種々の振動状態において、所望のサポート感をシートに与えることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、上述した構成よりなるので、磁場の強さを調整することによって、弾性率、減衰性を変化させることが可能であり、アクティブ、セミアクティブ制御により種々の振動状態に適合が可能である。従って、自動車シート材料として用いた場合、種々の振動状態において、所望のサポート感をシートに与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下に本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0062】
実施例1〜2
表1に示す配合にて、以下に述べる方法で磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を製造した。
ひまし油系ポリオール(100℃×12時間脱水済み)、可塑剤、カルボニル鉄粉(110℃×12時間乾燥済み)を計量し、アジターにて混合した。その混合液を120℃×12時間脱水して100℃に調整後、触媒を所定量添加し、アジターで1min間攪拌した。その後、所定量のイソシアネートを添加し、アジターで1min攪拌後、即座に、所定の金型に注入し、110℃×60min架橋を行なった。更に80℃×12hrの後架橋を行なうことで評価用サンプルを得た。
【0063】
使用した材料は、以下の通りである。
(1)ひまし油系ポリオール:「2T−5008」、豊国製油社製、ひまし油脂肪酸であるリシノール酸とグリセリン及びトリメチロールプロパンとのエステル交換又はエステル化により得られるひまし油誘導体のポリオール、アジピン酸及びセバシン酸、並びに、メチルペンタンジオールを縮合反応させることにより分子鎖を延長して得られる化合物(a)と、12−ヒドロキシステアリン酸(b)とを反応させることにより得られるひまし油系ポリオール、水酸基価17.3、数平均分子量5000)
(2)可塑剤:トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテー卜、「TOTM」、大八化学社製
(3)カルボニル鉄粉:粒子径D50≒7μm
(4)触媒;「U100」、ジブチル錫ラウレート
(5)イソシアネート:キシリレンジイソシアネート
【0064】
【表1】

【0065】
(評価)
実施例1で得られた磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物を以下の方法によって評価した。
評価に使用するサンプルは、幅25mm、長さ60mm、厚さ1.0mmのアルミ板材を2枚使用し、図1に示した側面形状であって、形状が25mm×25mm×6mm(t)となるように注型したものであった。なお、これは、所定の金型内にケムロックで処理したアルミ板材をセットし、混合したポリウレタン原料を注入することにより作製した。
【0066】
インストロン5568(インストロンコーポレーション社製)を用い、温度23℃、振動数0.1Hz条件下で、せん断歪み率100%、圧縮歪み1mmとなるように3回ループのヒステリシスを測定した。測定では、0〜0.4T×2(φ10mm)(単位T)の範囲の磁場をサンプルに印加した(磁石0〜2個を上述した方法で印加)。
3回目のヒステリシスから特性値を算出した。
得られた3回目のヒステリシスを図3〜8に示し、このヒステリシスから算出される圧縮ばね定数、せん断ばね定数と磁場の強さとの関係、損失係数(tanδ、せん断、圧縮)と磁場の強さとの関係を示す図を図9〜10に示した。
【0067】
図3〜8の結果から、本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、磁場の強さを調整することによって、せん断弾性係数(G)、損失係数(tanδ)を変化させることができるものであった。また、同様にK、E、Kを変化させることができるものでもあった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、自動車シートの材料等として、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】評価試験用サンプルの概略図である。
【図2】図2は、評価試験用サンプルに、磁石数2個で磁場を印加した状態の上面の概略図を示した図である。
【図3】実施例1のサンプルをせん断試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石0個)。
【図4】実施例1のサンプルをせん断試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石1個)。
【図5】実施例1のサンプルをせん断試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石2個)。
【図6】実施例1のサンプルを圧縮試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石0個)。
【図7】実施例1のサンプルを圧縮試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石1個)。
【図8】実施例1のサンプルを圧縮試験に供して得られたヒステリシス(3回目)の概略図である(磁石2個)。
【図9】圧縮ばね定数、せん断ばね定数と磁場の強さとの関係を示す図である。
【図10】損失係数(tanδ、せん断、圧縮)と磁場の強さとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 アルミニウム板
2 磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物
3 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンエラストマー、可塑剤及び磁性粒子を含有する磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物であって、
前記ポリウレタンエラストマーは、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるものである
ことを特徴とする磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項2】
ひまし油系ポリオールは、ひまし油誘導体のポリオール、2官能の有機酸及びグリコールを縮合反応させることにより分子鎖を延長して得られる化合物と、12−ヒドロキシステアリン酸とを反応させることにより得られるポリオールである請求項1記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項3】
ひまし油誘導体のポリオールは、ひまし油脂肪酸であるリシノール酸と、3官能のポリオールとのエステル交換又はエステル化により得られるポリオールである請求項2記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項4】
2官能の有機酸は、アジピン酸及び/又はセバシン酸である請求項2又は3記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項5】
グリコールは、メチルペンタンジオールである請求項2、3又は4記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項6】
ひまし油系ポリオールは、数平均分子量が3000〜6000である請求項1、2、3、4又は5記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項7】
可塑剤は、トリメリット酸エステル系可塑剤である請求項1、2、3、4、5又は6記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項8】
トリメリット酸エステル系可塑剤は、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテー卜である請求項7記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項9】
磁性粒子の平均粒子径(D50)は、0.5〜10μmである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項10】
磁気応答性ポリウレタンエラストマー組成物は、磁場の強さを調整することによって、せん断弾性係数(G)を0.1〜1.0kgf/cm及び損失係数(tanδ)を5〜50%の範囲に可変可能なものである請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の磁気応答性ポリウレタンエラストマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−265365(P2006−265365A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85024(P2005−85024)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】