説明

磁気抵抗効果型ヘッド及びその製造方法

【課題】CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、素子高さ方向の磁気抵抗効果センサ膜ジャンクション端部のエッチングダメージの影響を低減し、また、上部シールド層と下部シールド層の間の絶縁耐圧の劣化や、シールド起因の再生特性の変動を小さく抑え、さらに静電容量を小さく保つ。
【解決手段】ピニング層13の下面の素子高さ方向長さが第1の強磁性層14の下面の素子高さ方向長さよりも長く、ピニング層13の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度が、第2の強磁性層16の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも小さく、素子高さ方向リフィル膜18の上面の高さが磁気抵抗効果センサ膜の上面と同じか、それよりも高い磁気抵抗効果型ヘッドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果膜の積層面を貫くようにセンス電流を流すCPP (Current perpendicular to the plane) 構造の磁気抵抗効果ヘッド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部磁界の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗センサは、優れた磁界センサとして知られており、磁気記録再生装置の主要な部品である磁気ヘッドの再生素子として実用化されている。磁気記録再生装置は小型化、高速化が進展しているため、情報を読み書きする磁気ヘッドに対しても性能向上が求められている。そのうち、再生素子の主な課題としては、高出力化と高速転送への対応が挙げられる。高出力化に関しては、磁気抵抗効果センサ膜の開発とその改良が行われてきた。1cm2当たり約3 ×108ビット程度の記録密度までは異方性磁気抵抗効果(AMR)膜を用いていたが、それ以上の記録密度では、より高出力が得られる巨大磁気抵抗効果(GMR)膜を開発し、さらには改良を加え、現在に至っている。しかしながら、GMR膜も1cm2当たり9.3 ×109ビットより大きな記録密度に対しては出力不足になることが懸念されるため、GMR膜の次の世代の磁気抵抗効果センサ膜として、センサ膜の積層面を貫くように電流を流すTMR膜やCPP(Current perpendicular to the plane) -GMR膜の研究開発が行われている。
【0003】
ここで、AMR膜やGMR膜を用いる磁気ヘッドと、TMR膜やCPP-GMR膜を用いる磁気ヘッドでは、構造が大きく異なる。前者の場合には、AMR膜やGMR膜からなる磁気抵抗効果センサ膜の膜面内方向にセンス電流を流すCIP(Current into the plane)構造であり、センス電流を供給する電極はこれらの磁気抵抗効果センサ膜の両脇に設けられる。一方、後者の場合には、TMR膜やCPP-GMR膜からなる磁気抵抗効果膜の膜面に対して略垂直方向にセンス電流を流すCPP構造であるため、センス電流を供給する電極はこれらの磁気抵抗効果センサ膜に積層するように設けることになる。
【0004】
CPP構造ヘッド特有の課題の一つとして、素子高さを形成する際に、外部磁界を検出する磁気抵抗効果センサ膜ジャンクション部側壁に、エッチングによる再付着物が付着するため、これを除去するプロセスが必要であることが挙げられる。一般的には、ドライエッチング法、なかでもイオンミリング法でエッチングを行うが、このときに、基板に対して垂直に近い角度でイオンビームを入射させて概ね所定の形状にエッチングする第1エッチング工程を行った後に、浅い角度で入射させてジャンクション部の素子高さ方向端部に付着した再付着物を除去する第2エッチング工程を行う。このようなプロセスでは、第2エッチング工程において、イオンビームがジャンクション側壁に対して比較的垂直に近い角度で入射するため、第2エッチング工程を必要としないCIP構造ヘッドよりも、エッチングによるダメージに対しては配慮が必要である。さらに、第2エッチング工程を行うと、素子高さ方向端部が急峻な形状になり易く、これが上部シールド層下面に段差を生じ、これが、上部シールド層と下部シールド層の間の絶縁耐圧の劣化や、シールド起因の再生特性の変動を誘発させるという問題がある。
【0005】
高速転送への対応に関しても、センス電流を供給する電極の配置が異なるCIP構造ヘッドとCPP構造ヘッドでは対策が異なるため、CPP構造ヘッド特有の課題となる。CPP構造ヘッドでは、磁気抵抗効果センサ膜に積層するように設けられた上部電極層(上部シールド層が兼用する場合あり)と下部電極層(下部シールド層が兼用する場合あり)によって静電容量Cが生じるので、これらが必要以上に近づかないように制御するプロセスと、それを歩留まりよく再現するための素子高さ方向の構造の制御が必要である。
【0006】
CPP構造ヘッドの素子高さ方向の形状に関して、特開2002-299726号公報及び特開2003-298143号公報には、CPP-GMR素子において、緩やかな曲線状のジャンクション端部形状が開示されている。また、特開2003-204096号公報及び特開2004-118978号公報には、TMR素子において、固定層の上面が平坦部であり、固定層の上下の層の端部が直線からなるテーパを有する、ステップ状のジャンクション端部形状が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-299726号公報
【特許文献2】特開2003-298143号公報
【特許文献3】特開2003-204096号公報
【特許文献4】特開2004-118978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2002-299726号公報及び特開2003-298143号公報には、素子高さ方向において緩やかな曲線状のジャンクション端部形状が開示されているが、磁気抵抗効果センサ膜の具体的な構成が明示されておらず、どの層の端部が急峻なテーパを有してもよく、どの層の端部が緩やかなテーパを有すべきかが明確ではない。特開2003-204096号公報では、TMR素子の素子高さ方向のジャンクション端部が固定層上面をステップとした段差状となっているが、上部シールド層と下部シールド層との間の層間絶縁膜もステップ状となっており、静電容量を小さくすることは配慮されていない。特開2004-118978号公報は、特開2003-204096号公報と類似しており、固定層が自由層よりも素子高さ方向の長さが長くなっている点が異なっているが、固定層の端部の形状が明示されていない。さらに、静電容量を発生させる電極が上部シールド層と固定層であり、上部シールド層と下部シールド層よりも電極間距離が短くなるため、静電容量を小さくすることは配慮されていない。また、上述の4つの従来技術は、素子高さ方向を形成する際のエッチングによって、ジャンクション端部に発生するエッチングダメージに関しては触れていない。
【0009】
本発明の目的は、CPP構造ヘッドの素子高さを形成する際に発生する磁気抵抗効果センサ膜ジャンクション端部でのエッチングダメージを抑制もしくは無くし、また、ジャンクション端部の再付着除去プロセスが原因となって生じる、上部シールド層と下部シールド層の間の絶縁耐圧の劣化や、シールド起因の再生特性の変動を抑制し、さらに静電容量の必要以上の増加を抑えて、安定した再生特性を示し、高周波特性にも優れた磁気抵抗効果型ヘッド、及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下部シールド層と、下部シールド層の上に積層して形成されたピニング層、第1の強磁性層、中間層及び第2の強磁性層とを有する磁気抵抗効果センサ膜と、磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向に配置された素子高さ方向リフィル膜と、磁気抵抗効果センサ膜と素子高さ方向リフィル膜の上に形成された上部シールド層とを備え、第1の強磁性層と中間層との界面及び中間層と第2の強磁性層との界面を貫くようにセンス電流を流す磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、ピニング層の下面の素子高さ方向長さが第1の強磁性層の下面の素子高さ方向長さよりも長く、ピニング層の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度が、第2の強磁性層の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも小さく、素子高さ方向リフィル膜の上面の高さが磁気抵抗効果センサ膜の上面と同じか、それよりも高くすることにより達成できる。
【0011】
ここで、第1の強磁性層の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度が、第2の強磁性層の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも小さく、ピニング層の素子高さ方向端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも大きくしてもよい。
【0012】
また、第2の強磁性層の上面と中間層の下面との間、典型的には第2の強磁性層と中間層の界面に、素子高さ方向長さの不連続部を形成することにより、最もエッチングダメージの影響を受けない磁気抵抗効果型ヘッドが提供できる。さらに、中間層の上面と第1の強磁性層の下面との間、典型的には中間層と第1の強磁性層の界面に、素子高さ方向長さの不連続部を形成することによっても、エッチングダメージを抑制することができる。
【0013】
さらにまた、第1の強磁性層を、非磁性金属スペーサ層を介して強磁性層が少なくとも2層以上積層された多層構造とし、磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向端部において、第1の強磁性層のうちピニング層に接している強磁性層の端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす平均的な角度が、第2の強磁性層の端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす平均的な角度よりも小さく、ピニング層の端部が磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす平均的な角度よりも大きくすることによっても、エッチングダメージの影響が受け難くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、素子高さ方向の磁気抵抗効果センサ膜ジャンクション端部のエッチングダメージの影響を低減、抑制することができ、また、上部シールド層と下部シールド層の間の絶縁耐圧の劣化や、シールド起因の再生特性の変動を小さく抑えることができ、さらに静電容量を小さく保つことができるので、再生特性の劣化が少なく、高い出力を有し、安定性に優れ、しかも、高周波特性にも優れた磁気抵抗効果型ヘッドを実現することができる。また、本発明の磁気抵抗効果型ヘッドを磁気記録再生装置に搭載することによって、高周波特性に優れた磁気記録再生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図1B】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分のトラック方向の模式図。
【図2】従来のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面概略図。
【図3】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面概略図。
【図4】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図5】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図6】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図7】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図8】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造図。
【図9】磁気記録再生装置の概略図。
【図10】PtMn反強磁性膜のエッチングダメージの一現象を示す図。
【図11】PtMn反強磁性膜のエッチングダメージの他の現象を示す図。
【図12】磁気抵抗効果センサ膜の構造による素子特性の違いを説明する図。
【図13】磁気抵抗効果センサ膜の構造による他の素子特性の違いを説明する図。
【図14】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの製造方法の概略図。
【図15】本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの他の製造方法の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、外部磁界に応答して電気信号を発生する磁気センサの部分は、磁気抵抗効果センサ膜をエッチングによって所定の大きさ、形状にして形成される。また、磁気センサとしては線形応答を要求されることが多く、これを達成するため、第1の強磁性層と第2の強磁性層の磁化の方向を略直交に設定することが行われることが多く、その手段としては、第1の強磁性層とそれに積層されたピニング層とを磁気的に結合することが行われる。このように、ピニング層は磁気抵抗効果型ヘッドにおいて極めて重要な役割を果たすことから、エッチングによる劣化は、ヘッド特性に非常に大きな影響を与える。そのため、ピニング層のエッチングによるダメージを調べた。
【0017】
その一例として、ピニング層の材料としてPtMn反強磁性膜、エッチング方法としてはイオンミリング法の場合の実験結果を以下に示す。図10に、膜厚25 nmのPtMn膜をエッチングする際のエッチング量を変えたときの組成の変化を蛍光エックス線分析法で調べた結果を示す。縦軸はPt組成であり、エッチング条件は、イオンビームの入射角が試料面法線に対して1°、イオンビームの加速電圧は425Vである。PtMn反強磁性体は、エッチングされると、Mnが優先的にエッチングされてPt量が増えることが分かる。これによる特性の変化は、強磁性体との交換結合磁界の低下であり、エッチング前に最大の交換結合磁界が得られるPtMnの組成であっても、約3 nmエッチングされてPtが2原子パーセント(at.%)増えると、交換結合磁界は最大値の75%にまで低下してしまい、さらに、約10 nmエッチングされて5原子パーセント(at.%)増えると最大値の25%にまで劣化してしまう。なお、ここでの組成は、蛍光エックス線分析法によって測定された値であることから膜厚方向に平均されたものであり、実際には、エッチングされた表面に近い程、Pt組成が多くなっている、すなわち、交換結合磁界の劣化が顕著であると考えられる。
【0018】
このようなエッチングによって組成が変わる現象は、スパッタリング率が元素によって異なることに起因しているため、PtMn反強磁性膜特有のものでなく、2種以上の元素を含む材料であれば一般的に起こるものであり、さらには、反強磁性膜のみならず、たとえば、CoPt系合金やCoCrPt系合金などの硬磁性膜でも起こるものである。
【0019】
図11は、エッチング前の膜厚が25 nmのPtMn膜を、イオンビームの入射角が試料面法線に対して1°、イオンビームの加速電圧が425Vの条件で10 nmエッチングした試料について、試料の深さ方向のPtMnの格子定数を求め、格子定数比a/c を試料の表面から深さ方向に対してプロットしたものである。なお、実験精度を上げるため、エックス線源としてシンクロトン放射を用いている。また、縦軸の格子定数比 a/cについては、PtMnにおいて反強磁性体は体心正方格子を有し、常磁性体は面心立方格子を有することから、a/cが大きいほど反強磁性体として良好な特性を示すことになる。このような観点で図11を見ると、エッチングされた表面に近いほどa/cの値が小さくなっており、反強磁性体の特性としては劣化していると考えてよい。
【0020】
エッチングによってa/cの値が小さくなる原因としては、運動エネルギーを持ったイオンビームによって体心正方の規則格子を組んでいた元素が動かされて、面心立方の不規則格子になったためと考えられる。このように、エッチングによって、結晶構造の変化も生じて、特性劣化に及ぶことが分かる。なお、PtMn反強磁性体についての結果を一例として述べたが、Mn3Irなどの規則格子によって反強磁性特性が向上すると考えられるMn-Ir系合金や、他の規則格子を含む反強磁性を示す合金などでも同様のことが起こる。また、CoPt系合金やCoCrPt系合金などの硬磁性膜においては、エッチング前に六方晶が主であったものが、エッチング後に面心立方格子の割合が増加して、硬磁気特性が劣化するということが起こる。
【0021】
ここではイオンミリング法を例として取り上げたが、反応性イオンビームエッチング法においても同様の現象が起こる。これは、磁性体の場合には、昇華温度の低い反応生成物がないため、反応性イオンビームエッチングを行っても、化学的なエッチングよりも物理的なエッチングが主にならざるを得ず、基本的にはイオンミリングと同様なエッチング機構を利用することになるためである。
【0022】
次に、反強磁性膜が基板側に近い側に位置する所謂ボトム型のスピンバルブ膜と、基板から遠い側に位置する所謂トップ型のスピンバルブ膜を、膜厚1μmのNi-Fe系合金膜からなる下部電極上に成膜して、同じプロセスで種々の大きさを有するCPP構造素子を作成して、特性の比較を行った。なお、ピニング層は膜厚15 nmのPtMn反強磁性膜、それと積層されている第1の強磁性層は膜厚 3 nmのCo75Fe25膜を用い、CPP構造素子は一辺が 600、300、160、120、80、50 nmの正方形のものを作製した。エッチングは、始めに試料面法線に対するイオンビームの入射角10°で行った後、ジャンクション側壁に付いた再付着物を除去するためイオンビームの入射角を70°にして、入射角10°でエッチングした時間の1.25倍の時間だけエッチングした。
【0023】
図12は、ピニング層と第1の強磁性膜との交換結合磁界Hpの素子サイズ依存性を示す図である。ここで、縦軸は一辺が600 nmの素子のHpの値で規格化した値である。ボトム型とトップ型を比較すると、ボトム型の方がHpが低下し始める素子サイズが小さく、また、規格化したHpの値も大きくなっていることが分かる。これより、ボトム型の方がHpの劣化が小さいことが分かる。
【0024】
図13は、20 mVの電圧で、最大印加磁界3 kOeで測定したCPP構造素子のMR比の素子サイズ依存性を示す図であり、図12と同様に一辺が600 nmの素子のMR比の値で規格化してある。MR比に関しても、MR比が低下し始める素子サイズはボトム型のほうが小さく、規格化MRも大きくなっている。このMR比の低下の原因は、Hpの劣化の影響が大きいと考えられる。
【0025】
ボトム型とトップ型との構造上の大きな違いは、ピニング層が基板に近い側にあるか、遠い側にあるかであるが、これによってエッチングの際にイオンが照射される時間の長短に差が生じる。ボトム型においては、ピニング層は基板に近い側にあるため、エッチング初期から第1の強磁性層が除去されるまではイオン照射されないが、トップ型の場合は、エッチングの殆どの時間イオン照射されていることになる。この違いが、図10及び図11を用いて説明したようなピニング層の組成及び構造の変化の違いになって現れて、Hp及びMR比の特性の差が生じたものと考えられる。
【0026】
以上の結果より、エッチングダメージを抑制するためには、ボトム型の磁気抵抗効果型センサ膜の方が好ましいことがわかる。
【0027】
次に、図面を用いて、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0028】
[実施例1]
図1Aに、本発明の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を示す。参考のため、図1(B)には、媒体対向面におけるトラック方向の構造を示す。また、図14は、素子高さ方向を形成する工程を示す概略図である。
【0029】
図14(A)に示すように、アルミナとチタンカーバイドを含有する焼結体などからなる基板101の上に、アルミナなどの絶縁膜102を被覆し、その表面を精密研磨により平坦にした後、Ni-Fe系合金などからなる下部シールド層11を形成する。これは、例えば、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、あるいは、めっき法で成膜した膜を、所定の形状にパターニングした後に、アルミナなどの絶縁膜を基板全面に形成し、化学的機械研磨法(CMP)によって平坦化することによって、その周囲に設けられた絶縁膜とほぼ同じ高さにする。このとき、さらに下部シールド層11の表面凹凸の大きさも所定の大きさ以下になるように制御される。
【0030】
成膜装置内でこの上の表面酸化層などをクリーニングした後、センサ部分を構成する磁気抵抗効果センサ膜として、下部ギャップ層12、ピニング層13、第1の強磁性層14、中間層15、第2の強磁性層16、第1の上部ギャップ層171を、基板側からこの順に成膜する。
【0031】
ここで、下部ギャップ層12及び第1の上部ギャップ層171としては、Ta、Ru、Ni-Cr-Fe系合金、あるいはこれらの積層膜を用い、ピニング層13としてはPt-Mn系合金、Mn-Ir系合金などの反強磁性膜、Co-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性膜を用いる。また、第1の強磁性層14及び第2の強磁性層16は、Ni-Fe系合金、Co-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金、マグネタイトやホイスラー合金などの高分極率材料、及び、これらの積層膜を用いることができる。また、10Å以下のスペーサ層を介して強磁性層を積層させた多層膜を用いてもよい。中間層15は、TMR効果を用いる場合にはトンネル障壁層であり、具体的には、Al、Mg、Si、Zr、Ti、これらの混合物の酸化物、あるいはこれらの酸化物の積層体であり、CPP-GMR効果を用いる場合には導電層あるいは電流狭窄層を有する導電層であり、具体的には、Al、Cu、Ag、Au、あるいはこれらの混合物や積層体の他、これらの一部を部分的に酸化、窒化などによって電流狭窄を行う層などを挿入してもよい。
【0032】
このように下部ギャップ層と磁気抵抗効果センサ膜と第1の上部ギャップ層を成膜した後、必要に応じて、第1の磁性層の磁化を特定の方向に向けるための磁界中熱処理あるいは着磁を施す。特に、ピニング層13が規則格子を有する反強磁性体、例えばPt-Mn系合金やMn-Ir系合金の場合には、規則構造が構成され、第1の強磁性層との間に交換結合が生じるまで、磁界中で熱処理することが必要となる。
【0033】
次に、図14(B)に示すように、素子高さ方向のセンサ部分となる領域にリフトオフマスク材50を形成し、不要な部分の磁気抵抗効果センサ膜などをエッチングにより除去する。このとき、素子高さ方向の長さが短い下層レジスト501と、それよりも素子高さ方向に長い上層レジスト502からなる2層レジストを用いて、第2の強磁性層16がエッチングされるまでは20〜45°の入射角度θ1で第1エッチングを行う。矢印60は、エッチングする原子の入射方向を示す。その後、図14(C)に示すように、第1エッチングよりも小さい入射角度θ2で下部ギャップ層12まで第2のエッチングを行う。さらに、図14(D)に示すように、第2のエッチングよりも大きな入射角度で、素子高さ方向の側壁に付着した再付着物61を除去する第3のエッチングを行う。
【0034】
このようなエッチングを行うことにより、磁気センサの素子高さ方向の長さは第2の強磁性層16で規定される。中間層よりも基板側においては、ピニング層の下面の素子高さ方向長さが第1の強磁性層の下面の素子高さ方向長さよりも長くなっており、ピニング層の端部が下部ギャップ層12の下面を延長した面に対してなす平均的な角度(例えば、ピニング層の膜厚方向中間位置で測定した角度)が、第2の強磁性層の端部が下部ギャップ層12の下面を延長した面に対してなす平均的な角度よりも小さくなっている。このような形状においては、エッチングの際のイオン照射によるダメージを受けた部分の形状がテーパ状に緩やかになっているため、第1の強磁性層の直下になっている領域では、素子高さ方向端部が従来のようにテーパ状になっておらずピニング層と第1の強磁性層の素子高さ方向の長さが同じ場合に比べて、エッチングダメージが相対的に少なくなるので、エッチングダメージに対して強い構造となっている。
【0035】
次に、図14(E)に示すように、例えばスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法あるいはCVD法で素子高さ方向リフィル膜18を成膜する。以上のように磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向端部の基板側にテーパを作ることによって、素子高さ方向をエッチングした後に成膜される素子高さ方向リフィル膜18に段差が生じないようにすることができる。素子高さ方向リフィル膜18としては、アルミナ、酸化シリコン、酸化タンタル、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化タンタルなどの単層膜、混合膜及び積層膜を用いることができる。積層膜の場合には、基板側の最下層として、前述の酸化膜や窒化膜を配置すれば、上部シールド層に近い最上層側に金属膜を用いることができるが、その際には、下部シールド層と上部シールド層が形成する静電容量を小さくするという観点から、少なくとも最下層の酸化膜や窒化膜の膜厚が最上層の金属膜の膜厚よりも厚いことが好ましい。素子高さ方向リフィル膜18を上記のような方法で形成した後に、リフトオフマスク材を除去する。その後、必要があれば第2の上部ギャップ層172を形成し、上部シールド層21を形成する。
【0036】
図15は、本発明のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの他の製造方法を示す概略工程図である。図15(A)及び図15(E)は、図14(A)及び図14(E)に対応する。図14の製造工程では、素子高さ方向のリフトオフマスク材として二層構造のマスク材を用いる例を説明したが、図15(B)に示すように第2の強磁性層16までエッチングした後にマスク材50を除去し、その後再び図15(C)に示すように、下部ギャップ層12までをエッチングするマスク材51を形成しなおしてもよい。この場合のエッチングの際のエッチング原子の入射角度としては、図15(B)においては0〜30°、図15(C)においては、これよりも大きい10〜45°に設定する。
【0037】
図1Aにおいて、素子高さ方向の第2の強磁性層16、第1の上部ギャップ層171の素子高さ方向長さHと、第2の強磁性層16の下の中間層15よりも下の層の素子高さ方向の長さについて、考えてみる。素子高さHは、外部磁界に対する第2の強磁性層16の感度に影響を与えるパラメーターであるとともに、再生特性の安定性に影響を与えるものであるため、トラック幅によって決めることができる設計パラメーターである。一方、第1の強磁性層14は、熱揺らぎ耐性が優れていることが要求されるため、素子高さ方向の長さ(H+L)は長いほうが望ましい。しかしながら、第1の強磁性層14の長さ H+L が長くなると、この長さと素子高さの差Lも長くなり、これによって、素子高さ方向リフィル膜18が薄くなる領域も長くなって、結果的に高周波特性を劣化させる原因となる。従って、Lは、磁気記録再生装置のデータ転送速度の仕様によって決まるパラメーターである。
【0038】
Lの最短の長さは、製造方法に依存する。図14に示す製造方法では、下層レジスト501と上層レジスト502からなる2層レジストを塗布、露光した後に、ウェットプロセスあるいはドライプロセスによって下層レジスト501のみをエッチングして上層レジスト502よりも短くするものであるが、この場合には、下層レジスト501のエッチング精度によって最短のLの長さが決まり、約20 nmである。一方、図15に示す製造方法では、最短のLの長さは、リフトオフマスク50と第2のリフトオフマスク51の位置精度によって決まり、約9 nmである。
【0039】
また、磁気抵抗効果センサ膜のエッチングは、イオンビームエッチング法や反応性イオンビームエッチング法などによって行うことができる。このような方法において、第2の強磁性層16が除去された時点でエッチング条件を変える方法としては、エッチング速度を基にエッチング時間でエッチング条件を制御することができるが、エッチング中に二次イオン質量分析法あるいはプラズマ発光分析などでエッチングされた元素をモニターすることによって、より高い精度で制御することができる。
【0040】
素子高さ方向の形成が完了した後、トラック幅方向のセンサ部分となる領域にリフトオフマスク材を形成して、エッチングにより磁界を検知するセンサ部以外の磁気抵抗効果センサ膜を除去する。このとき、素子高さ方向と同様に、磁気抵抗効果センサ膜の端部に再付着物を極力残さないようにすることが重要である。この後、アルミナ、酸化シリコン、酸化タンタル、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化タンタルなどの単層膜、混合膜あるいは積層膜からなる絶縁膜を成膜し、さらにその上に、第2の強磁性層16に縦バイアス磁界を印加するための硬磁性膜を形成した後、リフトオフマスク材を除去してトラック幅方向の加工が完了する。このとき、硬磁性膜の特性、特に保磁力を制御するために下地膜を設けてもよく、また、プロセス中の保護を目的に硬磁性膜の上にキャップ膜を設けてもよい。
【0041】
次に、下部シールド層11及び上部シールド層21にセンス電流を供給するリード線を形成する。リード線の材料としては、Cu, Au, Ta, Rh, Moなどの低抵抗金属を用い、必要に応じて、その下側、上側あるいは両側に他の金属層を設けてもよい。
【0042】
必要に応じて絶縁保護膜を形成した後、磁気抵抗効果センサ膜やリード線などの最表面をクリーニングした後、上部シールド層21の下地膜を兼ねて第2の上部ギャップ層172、及び、上部シールド層21を形成し、再生素子部の工程が完了する。
【0043】
図2は、磁気抵抗効果センサ膜をエッチングしてセンサ部分の素子高さ方向を形成する際に、本発明のようなテーパを持たせずに略垂直にエッチングしたときの素子高さ方向の断面構造の模式図である。この場合、図示するように、素子高さ方向リフィル膜18がレジストマスク材の陰になって付きにくくなる部分と、陰にならない部分との境界で段差が生じ、その結果、上部シールド層21にも段差が転写されてしまう。一方、図3のように、レジストマスク材の陰になって付きにくくなる部分にテーパを形成すると、その分だけ素子高さ方向リフィル膜18の上面が上乗せされるため、素子高さ方向リフィル膜18の上面に段差ができず、その結果として、上部シールド層21にも段差が現れなくなる。
【0044】
この上に再生素子部と記録素子部を分離するための分離層を介して記録用の誘導型磁気ヘッドを形成するが、詳細は省略する。誘導型磁気ヘッドの形成後、再生素子のトラック幅方向に500 Oeの磁界を印加しながら、250℃、3時間熱処理を行い、第2の強磁性層16の磁化の方向を概ね素子高さ方向に保ったまま、第1の強磁性層19の磁化の方向をトラック幅方向に向け、ウェハ工程が完了する。
【0045】
さらに、所望の素子高さになるまで磁気ヘッド素子を機械研磨により削る研磨工程、磁気記録再生装置内で再生素子及び記録素子を保護するための保護膜形成工程、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隔(浮上量)を制御するために媒体対向面に所定の溝形状を形成する工程、個々の磁気ヘッドをサスペンションに接着する組立て工程などを経て、ヘッド・ジンバル・アッセンブリが完成する。
【0046】
比較のため、磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向が自由層と略同じ長さで、テーパを設けずに基板面に対して略垂直にエッチングした磁気ヘッドも作製し、再生特性を評価した。なお、本発明の磁気ヘッドも比較用の磁気ヘッドも、素子高さ方向の形状以外は同様の構造を有し、磁気抵抗効果センサ膜としては、電流狭窄層を中間層に挿入したCPP-GMR膜を用い、上部シールド層と下部シールド層との距離は50 nmで、縦バイアス層である硬磁性層の残留磁束密度Brと膜厚tの積Br・tは、自由層の飽和磁束密度Bsと膜厚tの積Bs・tの8倍、トラック幅は60 nm、素子高さは70 nmである。各々1000本のヘッドについて、駆動電圧120 mVにおける出力Vppと、記録電流のON及びOFFを繰り返して観測した波形振幅変動dVppとに着目し、比較した結果を表1に示す。ここで、波形振幅変動Vppは、出力の最大値をVmax、最小値をVmin、平均値をVaveとしたときに、Vpp = (Vmax-Vmin)/Vave×100 (%)で定義される。表において、出力Vppは0.6 mV以上のものを、波形振幅変動dVppは15%以下のものを良品とした。
【0047】
【表1】

【0048】
本発明の磁気ヘッドでは、出力及び波形振幅変動の良品率はそれぞれ91%及び95%であるのに対して、比較例の磁気ヘッドでは、それぞれ68%及び75%と低くなっている。出力の良品率に違いが出た原因を調査するため、±10 kOeでトランスファーカーブ測定を行ったところ、比較例においては、第1の強磁性層とピニング層(PtMn反強磁性層)との交換結合磁界の劣化が観測されたが、本発明では交換結合磁界の劣化は殆ど観測されなかった。
【0049】
波形振幅変動は、(i)図1Bのトラック方向の図において、第2の強磁性層16の両脇にトラック方向リフィル膜38を介して設けた縦バイアス印加層39から第2の強磁性層16に作用する縦バイアス磁界が所望の値よりも小さいために発生した、あるいは、(ii)下部シールド層11あるいは上部シールド層21に磁壁が生じており、その磁壁が動いて正常動作を妨げるような磁界が第2の強磁性層16に作用したために、第2の強磁性層16の磁化が不安定になり発生したものと考えられる。これらを切り分けるために、トラック幅方向に30 Oeの磁界を印加しながら測定を行った。原因が(i)である場合には、30 Oe程度の弱い磁界では縦バイアス磁界の効果が大きく改善されることはないが、(ii)である場合には、30 Oeの磁界によってシールド層の磁化をトラック幅方向に飽和させて、磁壁を無くすことができ、波形振幅変動が抑制されることが期待できる。実験の結果、比較例のヘッドの良品率が92%まで回復した。
【0050】
このことから、比較例の磁気ヘッドでは、図2のように素子高さ方向において上部シールド層に大きな段差があり、これが磁壁発生の原因となっているのに対し、本発明のヘッドでは、図3のように上部シールド層に段差があまりなく磁壁が発生していないと推察される。また、比較例と本発明のヘッドの下部シールド層11と上部シールド層21あるいはセンサ膜部(下部ギャップ層12、ピニング層13、第1の強磁性膜14、中間層15、第2の強磁性層16、第1の上部ギャップ層171)の距離を比べてみると、比較例のヘッドは上部シールド層21の段差の角部において局所的に下部シールド層あるいはセンサ膜部との距離が短くなっているのに対し、本発明のヘッドは、段差がないので、上部シールド層と下部シールド層あるいはセンサ膜部の最短距離は比較例のヘッドよりも長い。これにより、ヘッドの静電容量Cは、後者の方が前者よりも小さかった。
【0051】
以上より、本発明によって、再生特性の劣化が少なく、高い出力を有し、安定性に優れ、しかも、高周波特性にも優れた磁気抵抗効果型ヘッドを作製できることが分かった。
【0052】
[実施例2]
高い再生分解能を達成するためには、下部シールド層11と上部シールド層21の距離を短くする必要があり、それによって静電容量が増加することになる。この問題を解決する本発明の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を図4に示す。
【0053】
実施例1においては、磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向端部の緩やかなテーパは下部ギャップ層12で止まっており、下部シールド層11の上面は平坦になっており、この形状のまま上下シールド層間隔を狭くすると、静電容量が大きくなってしまう。そのため、本実施例では、下部ギャップ層12で止まっている緩やかなテーパのまま、下部シールド層11もエッチングして、素子高さ方向の媒体対向面とは反対側の奥部において上下シールド層間隔を広げることにより、静電容量の増加を抑制することができる。すなわち、本実施例の磁気抵抗効果型ヘッドは、浮上面でみた下部シールド層11と上部シールド層21の間隔より、磁気抵抗効果センサ膜より素子高さ方向奥の位置でみた下部シールド層11と上部シールド層21の間隔の方が大きくなっている。
【0054】
[実施例3]
高いトラック密度を達成するためには、トラック方向の読み滲みを低減する必要がある。これを実現する手段の一つとして、磁気センサ部のトラック方向の両脇にサイドシールドを配置する方法がある。この場合には、磁気抵抗効果センサ膜の上又は下に縦バイアス印加層を積層する、所謂インスタックバイアス構造にすることが好ましい。
【0055】
図5に、インスタックバイアス構造に適した本発明の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を示す。基本的なインスタックバイアス構造では、第1の強磁性層の磁化を拘束するための第1のピニング層と、第2の強磁性層に縦バイアス磁界を印加するために設けられた縦バイアス印加層24の磁化の方向をトラック方向に拘束するための第2のピニング層が必要であるが、それぞれに必要な交換結合磁界としては前者のほうが大きな値が必要となる。そのため、本実施例では、エッチングによる劣化が少ない基板側に第1のピニング層13を配置し、エッチングによる劣化の許容範囲の広い第2のピニング層23を基板から遠い側に配置する。
【0056】
なお、インスタックバイアス構造においては、第2の強磁性層16と縦バイアス印加層24との間に作用する交換結合や静磁的な結合の大きさやその方向を調整するための結合磁界調整層25を設けてもよい。
【0057】
[実施例4]
図6に、本発明の他の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を示す。磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向以外の作製方法は、実施例1と同様であるので、素子高さ方向の構造のみ説明する。
【0058】
実施例1においては、センス部以外の領域の第2の強磁性層16がエッチングされた時点で第1エッチングを止めて、第1の強磁性層14はその端部にしかエッチングダメージをうけた部分が存在しないような構造となっている。このような構造は、中間層15のエッチング速度が第2の強磁性層16のエッチング速度よりも遅い場合、たとえば、TMR膜に用いる障壁層などの場合には、比較的容易に実現できるが、これらに違いがない、あるいは中間層15の方が早い場合には、再現性良く作製するのは難しくなる。
【0059】
その場合には、図6のように、中間層15がエッチングされた時点で第1エッチングを止めて、第1の強磁性層14から第2エッチングを行う。この場合、中間層15と第1の強磁性層14は、両者の界面の素子高さ方向長さよりも第1の強磁性層14の上面の素子高さ方向長さが長く、2つの層は素子高さ方向端部が不連続に形成される。この構造では、第1の強磁性層14の中間層15との界面以外の部分は、物理的な膜厚が変わらなくとも、膜表面付近は磁気的には特性劣化するが、第1の強磁性層14とピニング層13との界面まではエッチングダメージが及ばないので、交換結合特性としては劣化がないと考えられる。さらに、磁気的に再生信号として寄与する領域は、第2の強磁性層16と中間層15で規定されて、エッチングにより磁気的にダメージを受けている部分はそれらよりも素子高さ方向奥に位置しているため、特性に及ぼす影響は少ないと考えられるので、ヘッド特性としては、出力の低下がなく、安定性に優れた再生特性が得られる。
【0060】
なお、本構造におけるピニング層13としては、Pt-Mn系合金、Mn-Ir系合金などの反強磁性膜、Co-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性膜を用いることができる。第1の強磁性層14及び第2の強磁性層16としては、Ni-Fe系合金、Co-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金、マグネタイトやホイスラー合金などの高分極率材料、及び、これらの積層膜を用いることができ、また、10Å以下のスペーサ層を介して強磁性層を積層させた多層膜を用いてもよい。さらに、実施例2のように下部シールド層11にもテーパ形状を延長させた構造や、実施例3のように磁気抵抗効果センサ膜としてインスタックバイアス構造のものを用いても、本実施例の効果は変わるものではない。
【0061】
[実施例5]
図7に、本発明の別の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を示す。本実施例においては、第1の強磁性層が、ピニング層13側の第3の強磁性膜141と、スペーサ層142と、中間層15側の第4の強磁性膜143とを積層した3層膜からなっている。
【0062】
第1エッチングを第4の強磁性膜143あるいはスペーサ層142がエッチングされた時点で止め、第3の強磁性膜141は物理的な膜厚は減少させない。第1の強磁性層を構成する強磁性層のうちピニング層13に接する第3の強磁性層141の下面の素子高さ方向長さはピニング層13の上面の素子高さ方向長さと等しく両者の素子高さ方向端部は連続しているが、第1の強磁性層を構成する第4の強磁性層143の下面の素子高さ方向長さは第3の強磁性層141の上面の素子高さ方向長さより短く、両者の素子高さ方向端部は不連続になっている。このような構造においては、第3の強磁性膜141の膜表面付近は磁気的には特性劣化するが、ピニング層13との界面におけるエッチングダメージは小さいと考えられる。また、磁気的に再生信号として寄与する領域は、第2の強磁性層16と中間層15で規定されて、エッチングにより磁気的にダメージを受けている部分はそれらよりも素子高さ方向奥に位置しているため、特性に及ぼす影響は少ないと考えられる。従って、このような構造においても、出力の低下や再生特性の不安定性を抑制することができる。
【0063】
なお、本構造におけるピニング層13としては、Pt-Mn系合金、Mn-Ir系合金などの反強磁性膜、Co-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性膜を用いることができる。第1の強磁性層14、第3の強磁性層141、第4の強磁性層142としては、Ni-Fe系合金、Co-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金、マグネタイトやホイスラー合金などの高分極率材料、及び、これらの積層膜を用いることができ、また、スペーサ層を介して3層以上の強磁性層を積層させた多層膜を用いてもよい。さらに、実施例2のように下部シールド層11にもテーパ形状を延長させた構造や、実施例3のように磁気抵抗効果センサ膜としてインスタックバイアス構造のものを用いても、本実施例の効果は変わるものではない。
【0064】
[実施例6]
図8は、最も簡単なプロセスで作成できる本発明の磁気抵抗効果型ヘッドの磁気センサ部分の素子高さ方向の断面構造を示す図である。素子高さ方向は第2の強磁性層16の長さで規定し、それよりも基板側の層の素子高さ方向の長さは、その素子高さよりも同じか又は長くし、基板側に近づくにつれて長くする。この形状は、単層のリフトオフマスク材でエッチング条件を変えることによって実現できるので、プロセスの安定性において最も優れている。
【0065】
エッチングダメージの抑制という観点では、ピニング層13と第1の強磁性層14の界面の素子高さ方向端部近傍においては、ピニング層13のエッチングダメージの影響が交換結合特性を劣化させるが、少なくともピニング層13をテーパ状に形成しているため、エッチングダメージはピニング層のテーパ形状の表面から一定の深さしか及ばず、交換結合特性が劣化している領域においても膜厚方向全体に亘ってダメージを受けているということはない。そして、この構造でも、素子高さ方向リフィル膜18を、段差を生じさせることなく形成できることには変わりはない。従って、出力の低下を低減でき、再生特性の不安定性を抑制することができる。
【0066】
なお、上記において、磁気抵抗効果センサ膜として、中間層が障壁層であるTMR効果を利用したものや、導電層あるいは電流狭窄層を有する導電層であるCPP-GMR効果を用いたものを取り上げたが、磁性半導体を用いたものや、偏極スピンの拡散や蓄積現象を利用したものなど、磁気抵抗効果センサ膜を構成する材料の膜面を貫くようにセンス電流が流れるデバイスであれば、同様に本発明の効果が得られる。また、下部ギャップ層12、第1の上部ギャップ層171、第2の上部ギャップ層172は、必須ではなく、構造上あるいは製造工程上必要でなければ設けなくともよい。
【0067】
さらに、上記では、磁気抵抗効果センサ膜が媒体対向面に露出するように配置された磁気抵抗効果型ヘッドについて述べたが、磁気抵抗効果センサ膜が媒体対向面から離れたところに配置されて、媒体対向面に全く露出していない、あるいは、一部のみ露出しているような磁気抵抗効果型ヘッドでも同様の効果が得られる。
【0068】
また、以上詳述した磁気抵抗効果型ヘッドを用いると、高い記録密度を有する磁気記録再生装置を提供することができる。図9は、その一実施の形態の概略図である。磁気記録再生装置は、情報を磁気的に記録する磁気記録媒体201と、これを回転させるモーター202と、磁気記録媒体201への情報の書き込みと読み出しを行う磁気ヘッド203と、これを支えるサスペンション204と、磁気ヘッドの位置決めを行うアクチュエータ205と、情報(記録再生信号)を処理するリード/ライト回路206などを有している。磁気ヘッド203の再生ヘッドとして、以上詳述した磁気抵抗効果型ヘッドを用いる。上記磁気記録再生装置を複数台組み合わせることで、ディスクアレイ装置を組むこともできる。この場合、複数の磁気記録再生装置を同時に扱うため、情報の処理能力を速くでき、また装置の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0069】
101:基板、102:絶縁膜、11:下部シールド層、12:下部ギャップ層、13:ピニング層、14:第1の強磁性層、141:第3の強磁性層、142:スペーサ層、143:第4の強磁性層、15:中間層、16:第2の強磁性層、171:第1の上部ギャップ層、172:第2の上部ギャップ層、18:素子高さ方向リフィル膜、21:上部シールド層、23:第2のピニング層、24:縦バイアス印加層、25:結合磁界調整層、30:媒体対向面、38:トラック方向リフィル膜、39:縦バイアス印加層、50:素子高さ方向形成用リフトオフマスク、51:素子高さ方向形成用リフトオフマスク、61:再付着物、150:トラック方向を示す矢印、201:磁気記録媒体、202:モーター、203:磁気ヘッド、204:サスペンション、205:アクチュエータ、206:リード/ライト回路、501:下層レジスト、502:上層レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部シールド層と、
前記下部シールド層の上に形成されたピニング層、第1の強磁性層、中間層及び第2の強磁性層を有する磁気抵抗効果センサ膜と、
前記磁気抵抗効果センサ膜の素子高さ方向に配置された素子高さ方向リフィル膜と、
前記磁気抵抗効果センサ膜と前記素子高さ方向リフィル膜の上に形成された上部シールド層とを備え、
前記第1の強磁性層と前記中間層との界面及び前記中間層と前記第2の強磁性層との界面を貫くようにセンス電流を流す磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記ピニング層の下面の素子高さ方向長さが前記第1の強磁性層の下面の素子高さ方向長さよりも長く、
前記ピニング層の素子高さ方向端部が前記磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度が、前記第2の強磁性層の素子高さ方向端部が前記磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも小さく、
前記素子高さ方向リフィル膜の上面の高さが前記磁気抵抗効果センサ膜の上面と同じか、それよりも高いことを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第1の強磁性層の素子高さ方向端部が前記磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度が、前記第2の強磁性層の素子高さ方向端部が前記磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも小さく、前記ピニング層の素子高さ方向端部が前記磁気抵抗効果センサ膜下面を延長した面に対してなす角度よりも大きいことを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第1の強磁性層は非磁性金属層を介して強磁性層が2層以上積層された多層構造を有することを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項4】
請求項3記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第1の強磁性層を構成する複数の強磁性層のうち前記ピニング層に接する第3の強磁性層の下面の素子高さ方向長さは、前記ピニング層の上面の素子高さ方向長さと等しく、
前記第3の強磁性層の上に配置された前記第1の強磁性層を構成する第4の強磁性層の下面の素子高さ方向長さは、前記第3の強磁性層の上面の素子高さ方向長さより短いことを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項5】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記ピニング層は反強磁性層であることを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項6】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第2の強磁性層と前記中間層との界面の素子高さ方向長さよりも前記中間層の下面の素子高さ方向長さが長いことを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項7】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記中間層の上面の素子高さ方向長さよりも前記第1の強磁性層の下面の素子高さ方向長さが長く、前記中間層の上面と前記第1の強磁性層の下面までの間に素子高さ方向長さが不連続に変化する箇所が存在することを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項8】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第2の強磁性層の上面の素子高さ方向長さよりも前記中間層の下面の素子高さ方向長さが長く、前記第2の強磁性層の上面から前記中間層の下面までの間に素子高さ方向長さが不連続に変化する箇所が存在することを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項9】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
浮上面でみた前記下部シールド層と上部シールド層の間隔より、前記磁気抵抗効果センサ膜より素子高さ方向奥の位置でみた前記下部シールド層と上部シールド層の間隔が大きいことを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項10】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第2の強磁性層の上に結合磁界調整層を介して縦バイアス印加層と第2のピニング層が積層され、前記第2の強磁性層の上面の素子高さ方向長さよりも前記中間層の下面の素子高さ方向長さが長く、前記第2の強磁性層の上面から前記中間層の下面までの間に素子高さ方向長さが不連続に変化する箇所が存在することを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項11】
請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記第1の強磁性層の上面の素子高さ方向長さより前記ピニング層の下面の素子高さ方向長さが長く、前記第1の強磁性層の上面と前記ピニング層の下面までの間に素子高さ方向長さが不連続に変化する箇所が存在することを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−58304(P2013−58304A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−252287(P2012−252287)
【出願日】平成24年11月16日(2012.11.16)
【分割の表示】特願2006−36092(P2006−36092)の分割
【原出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(503116280)エイチジーエスティーネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】