説明

磁気濃縮型爆薬発電機

【課題】安価な費用でコイルを製作することができ、また、コイルの巻き数を大きくすると共に、電流の増幅過程での表皮効果による影響を少なくすることによって、電流増幅率を上げること。
【解決手段】本磁気濃縮型爆薬発電機1Aは、起動信号の付与により爆薬8を起爆させる雷管7を内蔵する金属筒6と、この金属筒6の外周に配置されたコイル2Aとを有し、このコイル2Aに先の起動信号として電流を流して増幅を行う。そのコイル2Aを、断面形状が長方形状でこの長辺/短辺との寸法比が3以上の角型導体3Aに絶縁皮膜を施した平角電線を用い、このコイル2Aの断面の長辺が磁気濃縮型爆薬発電機1Aの長手方向に一致するコイル軸に対して垂直となるようにコイル2Aを金属筒6の外周に所定間隔介して巻き、当該コイル導体3Aが金属筒6と対向する面を除き、コイル2A間に絶縁性樹脂をモールドして構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電中のコイルを爆薬により順次短絡することにより電流増幅を行い大電流パルスを発生する磁気濃縮型爆薬発電機に関し、特にパルス電流をパルス電圧に変換する装置やパルス電圧を電磁波に変換する装置と組み合わせることにより高出力の電磁波を発生させ、各種の分野での応用が可能な可搬型の電磁波発生装置等に用いられる磁気濃縮型爆薬発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気濃縮型爆薬発電機の動作原理を、図5〜図7を参照して説明する。図5において、1は磁気濃縮型爆薬発電機、2はコイル、6は金属筒、7は雷管、8は爆薬、10は配線である。図示せぬ入力側装置から入力側の配線10を介して流れて来た電流は、コイル2を流れて出力側の配線10を介して図示せぬ出力側装置へ流れ、また、出力側装置から出力側の配線10へ戻ってきた電流は、金属筒6から入力側の配線10へと流れる。
【0003】
ここで、コイル2に流れる電流をIとし、コイル2のインダクタンスをLとすると、コイル2にはL×Iの磁束が生じる。コイル2に流れる電流がピークに達したとき、雷管7を起爆させると同時に爆薬8も起爆し爆ごうを開始する。
これによって、図6に示すように、金属筒6が拡張し、コイル2を順次短絡して行くため、コイル2のインダクタンスLは次第に小さくなって行く。一方、磁束保存則により、コイル2の磁束L×Iは一定に保持されるため、コイル2に流れる電流は時間とともに増幅される。
【0004】
電流が時間とともに増幅される様子を図7に示す。上述したように電流Iが増幅される割合はコイル2のインダクタンスLに概ね比例する。また、コイル2のインダクタンスLはコイル2の巻き数に概ね比例する。従って、出力電流/入力電流で表される電流増幅率を大きくするにはコイル2の巻き数を大きくすればよいことがわかる。
また、磁気濃縮型爆薬発電機1のコイル2は、円筒状の金属を切削加工して製作し、その後、絶縁被膜を施す方法か、絶縁皮膜を有す円形導体の絶縁電線を巻く方法で製作されている。
【0005】
上述の円筒状の金属を切削加工してコイルを製作した従来の磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成図を図8に示す。但し、図8(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のZ1−Z2断面図である。
図8において、1Bは磁気濃縮型爆薬発電機、2Bは金属筒を切削加工後に絶縁皮膜を付与して製作したコイル、3Bはコイル2Bの導体、4Bはコイル2Bの絶縁被覆、5は絶縁体、6は金属筒、7は雷管、8は爆薬、9はフランジである。
通常、筒の厚みの厚い金属筒は入手できないので、筒の厚みの薄いものを切削加工してコイル2Bを形成する。コイル2Bには大電流を流すため、導体3Bの断面が平角状で所定の電流耐力を有するように形成し、コイル2Bの配置を当該コイル断面の長辺が磁気濃縮型爆薬発電機1Bの長手方向と一致するコイル軸に対し、平行となるようにしてある。
【0006】
次に、図9に、上述の絶縁皮膜を有す円形導体の絶縁電線を巻きコイルを製作した従来の磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成図を示す。但し、図9(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のY1−Y2断面図である。
図9において、1Cは磁気濃縮型爆薬発電機、2Cは円形の導体に絶縁皮膜が付与された絶縁電線を使用して製作したコイル、3Cはコイル2Cの導体、4Cはコイル2Cの絶縁被覆、5は絶縁体、6は金属筒、7は雷管、8は爆薬、9はフランジである。コイル2Cには大電流を流すため、導体3Cの断面積は図8の平角状のコイル2Bの導体3Bと同じにする必要がある。
【0007】
この種の従来の装置として、例えば特許文献1に記載のものがある。
【特許文献1】特開2003−298352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の磁気濃縮型爆薬発電機には、次のような問題がある。磁気濃縮型爆薬発電機のコイルは円筒状の金属材料を切削加工して導体を製作し、その後、導体に絶縁皮膜処理を行い、更にコイル間に絶縁樹脂をモールドするため、製作費用が高価となる。仮に、肉厚の厚い金属筒が入手できたとしても、切削加工および絶縁処理に大きな時間と費用がかかるので、製作費用が高価となる。
【0009】
更に、コイルに大電流を流すためコイル断面積が大きくなり、特にコイルの軸方向の寸法が大きくなるので、コイルの巻き数を多くできず、このため、出力電流/入力電流で表される電流増幅率を大きくすることができない。
また、絶縁被膜を有する円形導体の電線を用いてコイルを製作する場合は、安価に製作することができるが、上記で説明したようにコイルの断面積を大きくする必要があるので、コイルの軸方向の大きさが大きくなり、このため、コイルの巻き数を大きくできず、出力電流/入力電流で表される電流の増幅率を大きくすることができない。
【0010】
更には、従来のコイルの構成では、電流が増幅される過程で、電流の立ち上がりが大きくなるにつれて電流の周波数が大きくなるので、電流が高周波電流となり、表皮効果の作用によって電流が導体の表面のみを流れることになって導体の抵抗値が高くなり、このため電流の増幅が阻害されることになる。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、安価な費用でコイルを製作することができ、また、コイルの巻き数を大きくすると共に、電流の増幅過程での表皮効果による影響を少なくすることによって、電流増幅率を上げることができる磁気濃縮型爆薬発電機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1による磁気濃縮型爆薬発電機は、起動信号の付与により爆薬を起爆させる雷管を内蔵する金属筒と、この金属筒の外周に配置されたコイルとを有し、このコイルに電流を流して増幅を行う磁気濃縮型爆薬発電機において、前記コイルは、断面形状が長方形状でこの長辺/短辺との寸法比が3以上の角型導体に絶縁皮膜を施した平角電線をコイル導体として用い、このコイル導体を、前記長辺が磁気濃縮型爆薬発電機本体の長手方向に一致するコイル軸に対して垂直となるように前記金属筒の外周に所定間隔介して巻き付け、このコイル導体が前記金属筒と対向する面を除き、当該コイル導体間を絶縁性材料で絶縁して形成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、コイルの断面の短辺がコイル軸方向に配列されるので、その分、コイルの巻き数が多くなり、出力電流/入力電流で表される電流増幅率を大きくすることができる。また、コイルの断面の当該コイル軸に対する垂直方向の辺を長く(長辺)することができるので、コイル導体の周長を長くとることができ、これによって高周波電流に対するコイル抵抗値を小さくすることができ、電流の増幅過程における表皮効果の影響を軽減することができる。更に、コイルに予め絶縁被膜が施された平角電線を使用するので、安価にコイルを製作することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明の磁気濃縮型爆薬発電機によれば、安価な費用でコイルを製作することができ、また、コイルの巻き数を大きくすると共に、電流の増幅過程での表皮効果による影響を少なくすることによって、電流増幅率を上げることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適時省略する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成を示し、(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のX1−X2断面図である。
図1において、1Aは磁気濃縮型爆薬発電機、2Aはコイル、3Aはコイルの導体、4Aはコイルの絶縁被覆、5は絶縁体、6は金属筒、7は雷管、8は爆薬、9はフランジである。
【0015】
本実施の形態の磁気濃縮型爆薬発電機1Aが、従来の磁気濃縮型爆薬発電機と異なる点は、コイル2Aとして、断面形状が長方形状でこの長辺/短辺との寸法比が3以上の角型導体3Aに絶縁皮膜を施した平角電線を用い、このコイル2Aの断面の長辺が磁気濃縮型爆薬発電機1Aの長手方向に一致するコイル軸に対して垂直となるようにコイル2Aを金属筒6の外周に所定間隔介して巻き、当該コイル導体3Aが金属筒6と対向する面を除き、コイル2A間に絶縁性樹脂をモールドして構成したことにある。
【0016】
このような構成の磁気濃縮型爆薬発電機1Aによれば、コイル2Aの断面の短辺がコイル軸方向に配列されるので、その分、コイル2Aの巻き数が多くなり、出力電流/入力電流で表される電流増幅率を大きくすることができる。
また、コイル2Aに予め絶縁被膜が施された平角電線を使用するので、安価にコイル2Aを製作することができる。
更に、コイル2Aの断面の当該コイル軸に対する垂直方向の辺を長く(長辺)することができるので、コイル導体3Aの周長を長くとることができ、これによって高周波電流に対するコイル抵抗値を小さくすることができ、次に詳細に説明するように、電流の増幅過程における表皮効果の影響を軽減することができる。
【0017】
この表皮効果の影響の軽減効果を詳細に説明する。
図2(a)に、図1に示した本実施の形態のコイル2Aと、図8及び図9に示した従来のコイル2B及び2Cの断面を流れる初期の電流分布を示す。初期の電流は直流に近く、周波数が低いため表皮効果の影響を受けず、電流は黒塗りで表現したように、コイル断面の内面全体を流れる。
図2(b)に、各コイル2A,2B,2Cにおいて電流増幅過程でのコイル断面内の電流分布を示す。電流の周波数は電流の増幅とともに増大し、最大50kHzに達する。電流が流れる深さは、表皮効果の計算式(1)より、
δ={2/(ωμσ)}0.5…(1)
で表される。
【0018】
ここで、ωは角周波数で2πf(fは周波数)、μはコイル導体(銅)の透磁率、σはコイル導体(銅)の導電率である。
f=50×103、μ=4π×10-7、σ=0.5×108を上式(1)に代入すると、深さδ=0.3mmとなる。つまり、電流はコイル表面とコイル表面から0.3mmの深く下がった位置との間を流れることになる。電流の流れる断面積はδ×コイルの周長であるから、コイルの周長が長い方がコイルの抵抗値が小さいことになる。
【0019】
図3に、コイルの周長の一例を示す。区分の2Aは本実施の形態によるコイル、2Bは従来の円筒導体を切削加工して製作したコイル、2Cは従来の円形導体の絶縁電線を用いたコイルである。また、上から順に各コイル2A〜2Cにおけるコイル形状、コイル断面積、コイル断面の周長比を示す。
初期の導体の断面積を同じにする場合、コイル2Aでは従来のコイル2B,2Cと比較して、周長が20%以上長くなり、コイル抵抗も20%以上小さくなるので、電流の増幅過程における表皮効果の影響を受けにくくなり、このため、電流の増幅が阻害される割合がより小さくなる。
【0020】
なお、コイル断面の長辺/短辺を3以上と規定したのは、本実施の形態によるコイル2Aの巻き数が従来のコイル2B,2Cの巻き数より概ね20%程度増えるため、コイル2Aの抵抗値も20%程度増加することを補償しなければならない。つまり、コイル2Aの電流の増幅過程での表皮効果による抵抗値増分を20%以上低減するためである。
【0021】
(実施例)
次に、本実施の形態の磁気濃縮型爆薬発電機1Aの実施例について説明する。
図1において、コイル2Aの導体3Aを縦12mm、横2mmの平角電線を用い、絶縁皮膜4Aとしてポリエステル膜0.03mmとし、内径15mm、ピッチ4mmで75ターンのコイルを形成した。コイル2Aのインダクタンスは100μHであった。
ここでコイル2Aの形成方法について説明する。まず、テフロン(登録商標)樹脂のような滑りの良い円筒樹脂上に接して平角電線を、その樹脂の軸方向に対するコイル断面の長辺が垂直となるようにテンションを調整しながら巻く。しかる後にエポキシ樹脂等の電気絶縁性のよい樹脂を流し込み、樹脂が固まった時点でテフロン(登録商標)樹脂の円筒を除去する。
このような磁気濃縮型爆薬発電機1Aを作動させたところ、出力電流/入力電流で表される電流増幅率として50倍を得た。
【0022】
次に、本実施の形態の磁気濃縮型爆薬発電機1Aとの比較のため、図8及び図9の従来の磁気濃縮型爆薬発電機を次のように製作した。
図8に示した従来の磁気濃縮型爆薬発電機において、コイル2Bの導体3Bを縦6mm、横4mmとし、内径15mm、コイルピッチ6mmで50ターンのコイルを形成した。コイル2Bのインダクタンスは70μHであった。この磁気濃縮型爆薬発電機を作動させたところ、電流増幅率として30倍を得た。
【0023】
図9に示した従来の磁気濃縮型爆薬発電機において、コイル2Cの導体3Cを直径5.5mmの円形導体とし、内径15mm、コイルピッチ7.5mmで40ターンのコイルを形成した。コイル2Cのインダクタンスは50μHであった。この磁気濃縮型爆薬発電機を作動させたところ、電流増幅率として25倍を得た。
これらの電流増幅率の時間的特性を図4に示す。この図4において各曲線に、各コイル2A,2B,2Cと同一の符号を付した。
以上説明したように、本発明の磁気濃縮型爆薬発電機1Aによれば、安価な費用でコイル2Aを製作することができ、また、コイル2Aの巻き数を大きくすると共に、電流の増幅過程での表皮効果による影響を少なくできるので、電流増幅率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成を示し、(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のX1−X2断面図である。
【図2】電流増幅過程における表皮効果の説明図である。
【図3】本実施の形態の磁気濃縮型爆薬発電機におけるコイルの周長の計算例を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る磁気濃縮型爆薬発電機と従来の磁気濃縮型爆薬発電機との電流増幅率の特性図である。
【図5】従来の磁気濃縮型爆薬発電機の構成を示す図である。
【図6】従来の磁気濃縮型爆薬発電機の作動を示す原理図である。
【図7】従来の磁気濃縮型爆薬発電機の電流増幅率の特性図である。
【図8】従来の磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成を示し、(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のZ1−Z2断面図である。
【図9】従来の他の磁気濃縮型爆薬発電機の断面構成を示し、(a)は長手軸方向の断面図、(b)は(a)のY1−Y2断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1A,1B,1C 磁気濃縮型爆薬発電機
2A,2B,2C コイル
3A,3B,3C コイルの導体
4A,4B,4C コイルの絶縁被膜
5 絶縁体
6 金属筒
7 雷管
8 爆薬
9 フランジ
10 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起動信号の付与により爆薬を起爆させる雷管を内蔵する金属筒と、この金属筒の外周に配置されたコイルとを有し、このコイルに電流を流して増幅を行う磁気濃縮型爆薬発電機において、
前記コイルは、断面形状が長方形状でこの長辺/短辺との寸法比が3以上の角型導体に絶縁皮膜を施した平角電線をコイル導体として用い、このコイル導体を、前記長辺が磁気濃縮型爆薬発電機本体の長手方向に一致するコイル軸に対して垂直となるように前記金属筒の外周に所定間隔介して巻き付け、このコイル導体が前記金属筒と対向する面を除き、当該コイル導体間を絶縁性材料で絶縁して形成されている
ことを特徴とする磁気濃縮型爆薬発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−325457(P2007−325457A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155001(P2006−155001)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)