説明

磁気記録ヘッド、磁気記録装置

【課題】マイクロ波アシスト記録を用いる磁気記録ヘッドにおいて、主磁極から発振器へ印加される磁界強度を向上させるとともに、主磁極から記録媒体へ印加される磁界強度を向上させる。
【解決手段】本発明に係る磁気記録ヘッドは、浮上面よりも上方の位置において、主磁極とトレーリングシールドとの間の間隔が、浮上面における主磁極とトレーリングシールドとの間の間隔よりも大きくなっている箇所を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に対し高周波磁界を印加することにより磁化反転を誘導する機能を有する磁気記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記録再生装置において、年率40%程度の急速な記録密度の増加が求められており、2013年ごろには面記録密度は1Tbits/inchに達すると予想されている。
【0003】
面記録密度を向上させるためには、磁気記録ヘッドおよび再生ヘッドの微細化と磁気記録媒体の粒径の微細化が必要である。しかし、磁気記録ヘッドの微細化により記録磁界強度は減少するため、記録能力が不足することが予測される。また、磁気記録媒体の粒径が微細化すると熱揺らぎの問題が顕在化するため、粒径の微細化と同時に保磁力や異方性エネルギーを増加させる必要があり、これらを同時に達成することが困難になる。したがって、面記録密度を向上させるためには、記録能力を向上させることが鍵となる。
【0004】
そこで、熱や高周波磁界を印加することにより、情報を記録するときのみ一時的に磁気記録媒体の保磁力を低下させる、アシスト記録方式が提案されている。
【0005】
高周波磁界を印加することによるアシスト記録方式は、「マイクロ波アシスト記録(MAMR)」と呼ばれ、近年着目されている。MAMRでは、強力なマイクロ波帯の高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に印加して記録媒体を局所的に励起し、磁化反転磁界を低減して情報を記録する。同方式では磁気共鳴を利用するため、記録媒体の異方性磁界に比例する強い高周波磁界を用いないと、磁化反転磁界を低減する効果が十分に得られない。
【0006】
下記特許文献1には、高周波アシスト磁界を発生させるため、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)に類似する、積層膜を電極で挟んだ構造の高周波発振器が開示されている。高周波発振器は、GMR構造内に発生するスピン揺らぎをもつ伝導電子を、非磁性体を介して磁性体に注入することにより、微小な高周波振動磁界を発生させることができる。
【0007】
下記特許文献2〜3には、浮上面よりも上方の位置において、主磁極と発振器の間の間隔が、浮上面における間隔よりも大きくなっている構造が開示されている。同文献によれば、主磁極から発振器へ印加される磁界を低減することによって、発振器が発振しやすくなり、かつ記録磁界強度の減少も小さくなるとされている。
【0008】
下記非特許文献1には、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接した磁気記録媒体の近傍に、スピントルクによって高速回転する高周波磁界発生層(Field Generation Layer:以下、FGLと略す)を配置してマイクロ波(高周波磁界)を発生せしめ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。
【0009】
下記非特許文献2には、発振器を、磁気記録ヘッドの主磁極と主磁極の後方側(トレーリング側)のシールドの間に配置させ、高周波磁界の回転方向を記録磁界極性に応じて変化させることにより、磁気記録媒体の磁化反転を効率的にアシストする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-025831号公報
【特許文献2】特開2010-257539号公報
【特許文献3】特開2010-182361号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】”Microwave Assisted Magnetic Recording”, J-G. Zhu et.al, IEEE trans. Magn., Vol. 44, NO.1, pp.125 (2008)
【非特許文献2】”Medium damping constant and performance characteristics in microwave assisted magnetic recording with circular as field”, Y. Wang et. al, Journal of Applied Physics, Vol. 105, pp.07B902 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
MAMRで1Tbits/inch程度の記録密度を実現するためには、強力な高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に照射して磁性記録媒体を局所的に磁気共鳴状態にし、磁化反転磁界を低減して情報を記録する必要がある。このためには、発振器が高い高周波磁界を発生させることができるように、主磁極から発生する高い磁界中においても発振器が発振可能であること、および主磁極から記録媒体へ大きい磁界を印加できることが必要である。
【0013】
MAMRでは上記の課題以外にも、発振器が記録極性に同期した早い反転速度を実現する必要がある。そこで、発振器に印加する磁界強度を変えて記録再生シミュレーションを実施した結果、主磁極から発振器に印加する磁界強度はむしろ高い方が、高品質の信号を記録するためには都合がよいことが明らかになった。
【0014】
これは、主磁極から発振器に印加される磁界強度がある程度大きくても、発振器から発生する高周波磁界強度は減少するものの、アシスト記録に必要な程度の磁界は得られるのに対して、主磁極から発振器に印加される磁界強度が弱い場合は、ビット周期内で発振器の磁化の反転が終わらずに、高周波磁界アシストが全くできなくなるためである。したがって、反転速度を向上させる観点から、発振器へ高い記録磁界を印加することは極めて重要である。
【0015】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、マイクロ波アシスト記録を用いる磁気記録ヘッドにおいて、主磁極から発振器へ印加される磁界強度を向上させるとともに、主磁極から記録媒体へ印加される磁界強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る磁気記録ヘッドは、発振器の上端部よりも上方の位置において、主磁極とトレーリングシールドとの間の間隔が、浮上面における主磁極とトレーリングシールドとの間の間隔よりも大きくなっている箇所を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る磁気記録ヘッドによれば、主磁極から磁気記録媒体と発振器へともに高い磁界を印加することができる。これにより、高記録密度の磁気記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。
【図2】磁気記録再生ヘッドをクロストラック方向から見た詳細図である。
【図3】従来技術における磁気記録再生ヘッドをクロストラック方向から見た詳細図である。
【図4】磁気記録再生ヘッドを磁気記録媒体300の上方から見た詳細図である。
【図5】磁気記録再生ヘッドをトレーリング方向から見た詳細図である。
【図6】実施形態1の効果を説明する表である。
【図7】主磁極120から発生する磁束の分布を示す図である。
【図8】θを変化させたときのHgapの変化を示す図である。
【図9】DBを変化させた時のHgapの変化を示す図である。
【図10】HTを変化させた時のHgap、Hmeの変化を示す図である。
【図11】TGを変化させた時のHgap、Hmeの変化を示す図である。
【図12】実施形態2における磁気記録再生ヘッドをトレーリング方向から見た詳細図である。
【図13】実施形態3における磁気記録再生ヘッドを磁気記録媒体300の上方から見た詳細図である。
【図14】実施形態4に係る磁気記録再生装置1000の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。理解を容易にするため、以下の図において同じ機能部分には同一の符号を付して説明する。
【0020】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る磁気記録装置の構成例を示す図である。ここでは、磁気記録再生ヘッド周辺の概略を示した。なお、本明細書で説明する図面は、磁気記録再生ヘッドの全体構成を示すため、各部の縮尺は実際のヘッドの縮尺と必ずしも同じではないことを付言しておく。その他の部位についても同様である。
【0021】
磁気記録再生ヘッドは、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200を備える、記録再生分離ヘッドである。
【0022】
記録ヘッド部100は、発振器110、主磁極120、副磁極130a、トレーリングシールド130b、コイル160を備える。発振器110は、高周波磁界を発生する。主磁極120は、記録ヘッド磁界を発生する。トレーリングシールド130bは、発振器110の磁化回転方向を制御するために設けられている。コイル160と副磁極130aは、主磁極120に磁場を励磁する。
【0023】
本実施形態1において、主磁極110の材料はFe70Co30であり、飽和磁化は2.4Tである。トレーリングシールド130bの材料はNiFeであり、飽和磁化は1.2Tである。主磁極120やトレーリングシールド130bの材料としては、磁性体であることに加えて特に制約はない。ただし、望ましくは発振器110へ大きな磁界を印加するため、主磁極120の飽和磁化は高いほどよく、トレーリングシールド130bの透磁率は高いほどよい。
【0024】
主磁極120から発振器110へ印加される磁界の大きさは、主磁極120とトレーリングシールド130bの間の距離(TG)が小さいほど大きくなる。それと同時に磁気記録媒体300に印加される磁界強度は減少するため、TGは適切に設定する必要がある。
【0025】
また、トレーリングシールド130bの高さ(HT)も高すぎると磁気記録媒体300に印加させる磁界強度は減少する。反対に、HTが低すぎるとトレーリングシールド130bの飽和により機能しなくなりやすい。したがって、HTも適切に設定する必要がある。本実施形態1におけるTGは30nmであり、この値は通常は発振器110の膜厚に相当する。また、THは200nmである。TGについては図2で詳述し、TGとHTの適切な範囲についても本実施の形態の最後に詳述する。
【0026】
磁気記録再生ヘッドの媒体に対する進行方向をリーディング方向と呼び、磁気記録再生ヘッドの媒体に対する進行方向と反対の方向をトレーリング方向と呼ぶ。後述の図4〜図5に示すように、主磁極120のトラック幅方向の外側にサイドシールド140を設けてもよい。サイドシールド140は主磁極120の両側に設けてもよいし、外側と内側のどちらか一方にだけ設けてもよい。
【0027】
再生ヘッド部200は、再生センサ210、下部磁気シールド220、上部磁気シールド230を備える。再生センサ201は、記録信号を再生する役割を担うことさえできれば任意の構成を採用することができる。再生センサ201の構成としては、いわゆるGMR(Giant Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、TMR(Tunneling Magneto−Resistive)効果を有する再生センサでもよいし、EMR(Electro Mechanical Resonant)効果を有する再生センサでもよい。また、外部磁界に対して逆極性の応答をする2つ以上の再生センサを有するいわゆる差動型再生センサでもよい。下部磁気シールド220と上部磁気シールド230は、再生信号品質を向上させるために重要な役割を担うため、設けることが好ましい。図1には特に記載していないが、上部磁気シールド230は記録ヘッド部100の補助磁極としての役割を兼ね備えることができる。
【0028】
磁気記録媒体300は、磁気記録再生ヘッドに近い側から順に、記録層301、中間層302、軟磁性下地層303を有する。
【0029】
本実施形態1において、記録層301はCoCrPt系合金から構成され、膜厚は15nmである。記録層301の材料はCoCrPt系合金の以外でもよいが、垂直磁気異方性を持つ材料であることが好ましい。中間層302は、記録層301と軟磁性下地層303の間の磁気的な結合を抑制するために設けられる。軟磁性下地層303は、主磁極120から記録層301に印加される記録磁界を向上させる役割を担う。磁気記録媒体300に上記以外の層を加えた構成としても、何ら本発明の趣旨を損なうものではない。
【0030】
磁気記録媒体300は、各ビットが連続して存在するいわゆる連続媒体でもよいし、複数のトラック間に記録ヘッドが情報を書き込むことができない非磁性領域が設けられている、いわゆるディスクリートトラックメディアでもよい。また、基板上に、凸状の磁性パターンと磁性パターン間の凹部を充填する非磁性体とを含む、いわゆるパターンド媒体でもよい。なお、本実施形態1における磁気記録再生ヘッドと記録層301との間の距離は5nmとした。
【0031】
図2は、磁気記録再生ヘッドをクロストラック方向から見た詳細図である。発振器110は、FGL111、中間層112、スピン注入固定層113を有する。FGL111は、高周波磁界を発生する。中間層112は、スピン透過性の高い材料を用いて構成されている。スピン注入固定層113は、FGL111にスピントルクを与える。発振器110の構成は、図2に示すように、主磁極側からFGL111、中間層112、スピン注入固定層113の順に積層してもよいし、反対に主磁極120側からスピン注入固定層113、中間層112、FGL111の順に積層してもよい。本実施形態1において、発振器110のトラック幅と素子高さは、ともに40nmである。
【0032】
また、FGL111に近接する位置に回転ガイド層を設けることができる。回転ガイド層は、FGL111の発振の安定性を高めるためのものである。回転ガイド層の材料としては、例えば高い垂直異方性エネルギーを有するCo/Niなどを用いることができる。
【0033】
本実施形態1において、FGL111の材料はFe70Co30であり、膜厚は15nmである。Fe70Co30の飽和磁化は2.4Tであり、高い高周波磁界を発生することができる。FGL111の材料としては、磁性体であればFGL111としての役割を担うことができる。例えば、FeCo合金の他に、NiFe合金、CoFeGe、CoMnGe、CoFeAl、CoFeSi、CoMnSi、CoFeSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などでもよい。また、CoIrなど負の垂直異方性エネルギーを持つ材料でもよいでもよい。FGL111の膜厚は、15nm以上あるいは以下であっても本発明の趣旨に反するものではないが、5nm以上30nm以下の範囲であることが好ましい。5nm以上に設定するのは、膜厚が薄すぎると高周波磁界強度が低下しすぎるためであり、30nm以下に設定するのは、膜厚が厚すぎるとFGL111が多磁区化し磁界強度の低下を招くためである。
【0034】
本実施形態1において、中間層112の材料はCuであり、膜厚は3nmである。中間層112の材料としては、非磁性体の導電性材料であることが好ましく、例えばAu、Ag、Pt、Ta、Ir、Al、Si、Ge、Tiなどを用いることができる。
【0035】
本実施形態1において、スピン注入固定層113の材料はCo/Ptである。本実施形態1で用いたCo/Ptの垂直異方性磁界Hkは8kOeである。スピン注入固定層113の材料として、垂直異方性を持った材料を用いることにより、FGL111の発振を安定させることができる。例えばCo/Ptの他に、Co/Ni、Co/Pd、CoCrTa/Pdなどの人工磁性材料を用いることが好ましい。また、発振の安定性は若干失われるが、FGL111と同様の材料を用いることもできる。
【0036】
発振器110を以上のような構成とすることにより、磁気記録媒体300の記録層301に強い高周波磁界を印加することができる。また、図2や後述の図3には記載していないが、発振器110の磁気特性を確保するために、発振器110と主磁極120の間、または発振器110とトレーリングシールド130bの間に、非磁性体からなるシード層やキャップ層を設けることができる。
【0037】
トレーリングシールド130bは、発振器110の素子高さ方向最上部よりも上方の位置を傾斜の開始位置として、トレーリング側に向かって倒れる方向に傾斜している。これにより、浮上面における主磁極120とトレーリングシールド130bの間の距離(TG)よりも、発振器110の上方における主磁極120とトレーリングシールド130bの間の距離(TG’)の方が広くなっている。
【0038】
発振器110の最上部から、トレーリングシールド130bの傾斜が開始している位置までの距離をDBと定義すると、本実施形態1において、DB=25nmである。トレーリングシールド130bの傾斜の角度(θ)は、磁気記録媒体300に対して垂直な方向を0°と定義すると、θ=45°である。この構成による具体的な効果、同効果が得られる範囲、およびその理由については後述する。
【0039】
図3は、従来技術における磁気記録再生ヘッドをクロストラック方向から見た詳細図である。従来の磁気記録再生ヘッドは、トレーリングシールド130bが傾斜しておらず、トレーリングシールド130bと主磁極120が対向する面が、磁気記録媒体300に対して略垂直(θ≒0°)に形成されている。
【0040】
図4は、磁気記録再生ヘッドを磁気記録媒体300の上方から見た詳細図である。主磁極120のクロストラック方向の幅は45nm、発振器100のクロストラック方向の幅は40nmであるとした。トラック幅はこの値以外の値であっても何ら本発明の趣旨を損なうものではないが、高面記録密度パターンを記録するためには、主磁極120および発振器100のトラック幅は狭い方が好ましい。さらに、本実施形態1では、主磁極120のリーディング端の形状がリーディング側にテーパーしているリーディングテーパ構造を採用している。リーディングテーパー構造は、主磁極120から発振器110や磁気記録媒体130へ向かって発生する磁界強度を増加させる役割がある。しかし、リーディングテーパーを有さない構造であっても、本発明の趣旨を損なうものではない。
【0041】
主磁極120のリーディング側には、リーディングシールド150が設けられる。本実施形態1におけるリーディングシールド150の材料は、NiFeである。リーディングシールド150は、主磁極120のリーディングテーパー(図5で後述)から発生する磁界が主磁極120のリーディング側に広がり、隣接トラックの情報を消去することを防ぐ役割を担う。リーディングシールド150の材料も、トレーリングシールド130bと同様に高い透磁率を有するものが好ましい。リーディングテーパー構造を設けるか否かに関わらず、リーディングシールド150を有さない構造であっても、何ら本発明の趣旨を損なうものではない。
【0042】
主磁極120のトラック幅方向の両端には、サイドシールド140が設けられる。サイドシールド140は、主磁極120から発生する磁界がトラック幅方向へ広がることを抑制する効果がある。ただし、サイドシールド140を設けることにより、主磁極120から磁気記録媒体300や発振器110へ印加される磁界強度が減衰するため、必ずしもサイドシールド140を設ける必要はない。また、サイドシールド140は主磁極120のトラック幅方向の片側だけに設けてもよい。サイドシールド140の材料も、トレーリングシールド130bと同様に高い透磁率を有する材料であることが好ましい。本実施形態1ではNiFeとした。サイドシールド140の形状は、適切に設定することができる。
【0043】
主磁極120とサイドシールド140の間には、非磁性層170が設けられる。本実施形態1における非磁性層170の材料は、Ruである。非磁性層170の膜厚を適切に設定することにより、主磁極120からサイドシールド140へ流れる磁束量、および主磁極120からトレーリングシールド130bへ流れる磁束量を制御することができる。本実施形態1における主磁極120とサイドシールド140の間の非磁性層170の膜厚は100nmとしたが、その他の膜厚としても何ら本発明の趣旨を損なうものではない。
【0044】
図5は、磁気記録再生ヘッドをトレーリング方向から見た詳細図である。主磁極120のトラック幅方向の両端は、サイドシールド140が設けられている。主磁極120とサイドシールド140の間には、非磁性層170が設けられている。
【0045】
以上、本実施形態1に係る磁気記録装置の構成を説明した。次に、本発明の効果を説明する。
【0046】
図6は、本実施形態1の効果を説明する表である。図6は、本実施形態1に係る磁気記録ヘッド構造と、図3に示した従来の磁気記録ヘッド構造のそれぞれについて、主磁極120からFGL111に印加される磁界強度(Hgap)と、主磁極120から磁気記録媒体300の記録層301に印加される磁界強度(Hme)を示している。
【0047】
従来構造におけるHgapとHmeはともに10.0kOeであるのに対して、本実施形態1ではHgapは11.5lOeであり、Hmeは11.0kOeである。したがって、本実施形態1の磁気記録ヘッド構造では、HgapとHmeの両方とも従来構造より向上していることが確認できる。
【0048】
図7は、主磁極120から発生する磁束の分布を示す図である。図7(a)は本実施形態1における磁束分布、図7(b)は従来構造における磁束分布を示す。いずれの構成においても、主磁極120から発生した磁束はトレーリングシールド130bと軟磁性下地層303に向かって流れる。これは、上述したようにトレーリングシールド130bと軟磁性下地層303の透磁率が大きいためである。
【0049】
磁束密度に着目すると、本実施形態1の構成では、発振器110内や発振器110の直下の記録層301において磁束が集中しているが、発振器110よりも上方では磁束密度が低い。一方、従来構造では各位置において一様な磁束密度となっている。
【0050】
これは、本実施形態1に係る構造の下では、発振器110と同じ高さ方向の位置における主磁極120とトレーリングシールド130bの間隔(TG)は狭く、発振器110よりも上方の位置においてはTGが広くなっているので、TGが狭い発振器110周辺に磁束が集中するからである。
【0051】
磁束密度が高いほど磁界強度は高いので、本実施形態1では、主磁極120から発生する磁界が発振器110に向かって集中し、主磁極120から発振器110と記録層301に印加する磁界強度が従来よりも増加するといえる。
【0052】
次に、トレーリングシールド130bの傾斜の開始位置(DB)と傾斜角度(θ)の望ましい範囲について説明する。
【0053】
図8は、θを変化させたときのHgapの変化を示す図である。図8に示すように、Hgapはθが0°から増加するほど向上するが、60°以上になると低下する。これは、θが大きくなるほど、主磁極120の発振器110よりも上方における位置から発生する磁束は、主磁極120からトレーリングシールド130bまでの距離が短いトレーリングシールド130bの下部に引き寄せられるが、θが大きくなりすぎるとその効果が飽和し、トレーリングシールド130bの透磁率が低下するためである。したがって、θは上述の効果が飽和しない程度に大きくすることが望ましい。
【0054】
図8から、本実施形態1による効果が十分に得られるθの範囲は、10°以上70°以下であることがわかる。また、後述するように望ましいDBの範囲は0nm以上100nm以下であり、この範囲であれば最適なθが10°以上70°以下であることに変わりはない。これは、図8においてDBが0nm、25nm、60nmの全ての条件において、本発明のθの範囲ではHgapの向上効果が表れていることからも確認できる。
【0055】
図9は、DBを変化させた時のHgapの変化を示す図である。HgapはDBが0の時に極大値となる。HgapはDBが0nm以下に低下するときには急減するが、DBが0nmから増加するときには緩やかに減少する。これは、DBが0よりも小さくなると、発振器110が配置されている位置におけるTGが実効的に広くなるため、磁束がトレーリングシールド130bには流れず記録層301に流れてしまうためである。一方、DBが0よりも大きいときには、主磁極120の発振器110よりも上方における位置から発生する磁束が下側に流れにくくなるためである。
【0056】
図9から分かるように、本実施形態1による効果が十分に得られるDBの範囲は、0nm以上100nm以下である。この範囲は、上述したθが10°以上70°以下の条件では変化しない。これは、図9においてθが15°、45°、60°の全ての条件において、本発明のDBの範囲ではHgapの向上効果が表れていることから確認できる。
【0057】
最後に、本発明の効果が得られるトレーリングシールド130bの高さ(HT)とトレーリングシールド130bと発振器110の間の距離(TG)の範囲について説明する。HTはは80nm以上400nm以下にすることが好ましい。図10にHgapおよびHmeとHTの関係を示す。図10におけるθは45°、DBは25nmである。図10から分かるように、HTが80nmよりも小さいとHgapは低下し、400nm以上になるとHmeが低下する。これはHTが小さすぎるとトレーリングシールド130bの効果が低下し十分なHgap得られず、反対にHTが大きすぎると発振器110よりも上方において主磁極120からトレーリングシールド130bへ流れる磁束が大きすぎるためにHmeが小さくなってしまうためである。
【0058】
図11にHgapおよびHmeとTGの関係を示す。図11から分かるように、TGが15nm以下になると急激にHmeが低下する。一方、TGが50nm以上になるとHgapが急激に低下する。したがって、TGは15nm以上50nm以下の範囲に設定することが好ましい。
【0059】
したがって、HTが80nm以上400nm以下、TGが15nm以上50nm以下、θが10°以上70°以下であり、かつDBが0nm以上100nm以下となるようなトレーリングシールド130bを構成することにより、発振器110と磁気記録媒体300の両方に高い磁界を印加することができるようになる。
【0060】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る磁気記録再生ヘッドは、発振器110の上端部よりも上方の位置において、主磁極120とトレーリングシールド130bとの間の間隔が、浮上面における主磁極120とトレーリングシールド130bとの間の間隔よりも大きい箇所を有する。これにより、主磁極120が発生する磁束を発振器110に集中させ、磁気記録効果を高めることができる。
【0061】
なお、本実施形態1において、間隔TG’が間隔TGよりも大きければ、トレーリングシールド130bの形状は必ずしも傾斜状でなくともよい。例えば、図2で説明したトレーリングシールド130bの傾斜部分と同じ位置に、傾斜に代えて階段状の構造を設けることも考えられる。以下の実施形態でも同様である。
【0062】
<実施の形態2>
図12は、本発明の実施形態2における磁気記録再生ヘッドをトレーリング方向から見た詳細図である。本実施形態2では、記録ヘッド部100の主磁極120の形状が実施形態1とは異なる。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0063】
本実施形態2において、主磁極120のトラック幅は、浮上面から上方に向かうにつれて広がっている。本実施形態2において、浮上面における主磁極120のトラック幅は実施形態1と同様に40nmであるが、発振器110の最上部位置においては60nmである。
【0064】
本実施形態2では、主磁極120の上部におけるトラック幅が広いため、記録磁界がトラック幅方向へ広がることを抑制しつつ、発振器110へ印加される磁界強度を向上させることができる。
【0065】
<実施の形態3>
図13は、本発明の実施形態3における磁気記録再生ヘッドを磁気記録媒体300の上方から見た詳細図である。本実施形態3では、記録ヘッド部100のトレーリングシールド130bの形状のみが実施形態1とは異なる。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0066】
本実施形態3において、トレーリングシールド130bは、トラック幅方向の端部がトレーリング方向に向かって湾曲している。湾曲の程度は、トラック幅方向の中央から端部に向かうにつれて大きくなっている。
【0067】
本実施形態3では、トレーリングシールド130bがトレーリング側へ湾曲する形状を持つことにより、主磁極120から発生する磁界がトラック幅方向の中央(発振器110が配置されている位置)に集中しやすく、発振器111へ印加される磁界強度を向上させることができる。また、本実施形態3と実施形態2で説明した構造を組み合わせることにより、より効果的に発振器110に磁界を集中させることができる。
【0068】
<実施の形態4>
図14は、本発明の実施形態4に係る磁気記録再生装置1000の構成例を示す図である。磁気記録再生ヘッドは実施形態1〜3のいずれかで説明したものであり、ヘッドスライダー600に搭載される。
【0069】
磁気記録再生装置1000は、磁気記録媒体300をスピンドルモータ400で回転させ、アクチュエータ500によってヘッドスライダー600を磁気記録媒体300のトラック上に誘導する。すなわち、ヘッドスライダー600上に形成した再生ヘッドおよび記録ヘッドがこの機構により磁気記録媒体300上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、または読み取る。アクチュエータ500は、ロータリーアクチュエータであることが望ましい。
【0070】
記録信号は、信号処理系700を通じて記録ヘッドにより磁気記録媒体300上に記録される。信号処理系700は、再生ヘッドの出力を信号として得る。再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動させる際に、再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエータ500を制御して、ヘッドスライダー600の位置を決めることができる。
【0071】
図14では、ヘッドスライダー600、磁気記録媒体300を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。また磁気記録媒体300は、両面に記録情報を有して情報を記録してもよい。ディスク両面に情報を記録する場合、ヘッドスライダー600は磁気記録媒体300の両面に配置する。
【符号の説明】
【0072】
100:記録ヘッド部、110:発振器、111:高周波磁界発生層(FGL)、112:中間層、113:スピン注入固定層、120:主磁極、130a:副磁極、130b:トレーリングシールド、140:サイドシールド、150:リーディングシールド、160:コイル、170:非磁性層、200:再生ヘッド部、210:再生センサ、220:下部磁気シールド、230:上部磁気シールド、300:磁気記録媒体、301:記録層、302:中間層、303:軟磁性下地層、400:スピンドルモータ、500:アクチュエータ、600:ヘッドスライダー、700:信号処理系、1000:磁気記録再生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる主磁極と、
前記主磁極のトレーリング側に設けられたトレーリングシールドと、
前記主磁極と前記トレーリングシールドの間に設けられた高周波磁界を発生させる発振器と、
を備え、
前記発振器の上端部よりも上方の位置において、前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間の間隔が、前記主磁極および前記トレーリングシールドの浮上面における前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間の間隔よりも大きい箇所を有する
ことを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記トレーリングシールドは、前記箇所において、前記主磁極に対して対向する面が傾斜してテーパー形状に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記浮上面における前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間の間隔が15nm以上50nm以下であり、前記トレーリングシールドの高さが80nm以上400nm以下であり、
前記傾斜の前記浮上面側の端部は、前記発振器の上端部から素子高さ方向に100nm以内の範囲にあり、
前記傾斜の角度は、傾斜が存在しない状態の角度を0°として、10°以上70°以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記主磁極のトラック幅は、前記浮上面よりも上方になるにともなって広くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記トレーリングシールドのトラック幅方向の端部が湾曲し、前記端部における前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間の間隔が、前記トレーリングシールドのトラック幅方向の中心位置における前記主磁極と前記トレーリングシールドとの間の間隔よりも広く形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録ヘッド。
【請求項6】
請求項1記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録ヘッドが情報を記録する磁気記録媒体と、
前記磁気記録ヘッドが読み取りする信号を処理する信号処理部と、
を備えることを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−54809(P2013−54809A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193495(P2011−193495)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】