説明

磁気記録再生システム

【課題】高密度記録において優れた記録特性を示す磁気記録媒体の提供。
【解決手段】2.0μm以下のトラック幅で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を再生するために用いられる磁気記録媒体であって、非磁性支持体上に六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層、又は非磁性粉末及び結合剤を含む非磁性層と、六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層とをこの順に有し、前記磁性層の厚みが0.2μm以下であり、前記六方晶フェライト強磁性粉末の平均板径が前記磁気記録されるトラック幅の1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/2以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型の高記録密度の磁気記録媒体に関し、特に磁性層に六方晶系フェライト強磁性粉末を含有する高密度記録用の磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの分野において、Co変性酸化鉄を用いた2MBのMF−2HDフロッピーディスクがパーソナルコンピューターに標準搭載されようになった。しかし、扱うデータ容量が急激に増加している今日において、その容量は充分とはいえなくなり、フロッピーディスクの大容量化が望まれていた。
【0003】
一方、磁気テープの分野においても、近年、ミニコンピューター、パーソナルコンピューター、ワークステーションなどのオフィスコンピューターの普及に伴って、外部記憶媒体としてコンピューターデータを記録するための磁気テープ(いわゆるバックアップテープ)の研究が盛んに行われている。このような用途の磁気テープの実用化に際しては、特にコンピューターの小型化、情報処理能力の増大と相まって、記録の大容量化、小型化を達成するために、記録容量の向上が強く要求されていた。
【0004】
さらに、磁気テープの使用環境の拡大により、磁気テープに対しては、幅広い環境条件下(特に、変動の激しい温湿度条件下など)における使用、データ保存に対する信頼性、さらには高速で繰り返し使用する、多数回走行におけるデータの安定した記録、読み出し等の性能に対する信頼性なども従来に増して要求されている。
【0005】
従来、デジタル信号記録システムにおいて使用される磁気テープは、システム毎に決められており、所謂DLT型、3480、3490、3590、QIC、D8型、あるいはDDS型対応の磁気テープが知られている。そして、どのシステムにおいても、用いられる磁気テープは非磁性支持体上の一方の側に、膜厚が2.0〜3.0μm程度の比較的厚い単層構造の強磁性粉末、結合剤及び研磨剤を含む磁性層が設けられていた。また他方の側には、巻き乱れの防止や良好な走行耐久性を保つために、バックコート層が設けられている。しかし、一般に上記のように比較的厚い単層構造の磁性層では、出力が低下するという厚み損失の問題があった。
【0006】
磁性層の厚み損失による再生出力の低下を改良するために、磁性層を薄層化する技術が知られている。例えば、非磁性支持体上に無機質粉末を含み、結合剤に分散してなる下層非磁性層と該非磁性層が湿潤状態にある内に強磁性金属粉末を結合剤に分散してなる1.0μm以下の厚みの上層磁性層を設けたテープ状磁気記録媒体が開示されている(下記、特許文献1参照)。また、抗磁力(Hc)が111kA/m(1400 Oe)以上で磁性層の厚みが0.5μm以下の磁性層と導電性粒子を含む非磁性層を有するディスク状磁気記録媒体が開示されている(下記、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−182178号公報(請求項1、第3頁段落[0009]〜[0010])
【特許文献2】特開平5−109061号公報(請求項1、第3頁段落[0009]〜[0010])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年の急速なディスク状及びテープ状の磁気記録媒体の大容量化、高密度化の進展により、上記の技術をもってしても満足な電磁変換特性を得ることが難しくなってきていた。特に線記録密度とトラック密度を高め、Gbit/in2クラス以上の記録密度で記録再生を行った場合、従来の磁気記録媒体では充分な電磁変換特性を得ることが困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高密度記録において優れた電磁変換特性を示す磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、狭トラックでGbit/in2クラス以上の高密度記録においても優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得るために鋭意検討した。その結果、六方晶系フェライト強磁性粉末を強磁性粉末として使用した磁気記録媒体では、六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径を記録トラック幅と磁性層厚とを考慮して調整することにより、高密度化しても優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、以下の磁気記録媒体により達成される。
(1)2.0μm以下のトラック幅で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を再生するために用いられる磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層を有しており、前記磁性層の厚みが0.2μm以下であり、前記六方晶フェライト強磁性粉末の平均板径が前記磁気記録されるトラック幅の1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/2以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)2.0μm以下のトラック幅で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を再生するために用いられる磁気記録媒体であって、前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤を含む非磁性層と六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層をこの順に有しており、前記磁性層の厚みが0.2μm以下であり、前記六方晶フェライト強磁性粉末の平均板径が前記磁気記録されるトラック幅の1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/2以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
(3)信号を磁気記録するビット長が0.04〜0.2μmである(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体
(4)前記磁性層の抗磁力が143〜398kA/m(1800〜5000 Oe)である(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)前記磁性層の角形比(SQ)が0.6以上である請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)磁性層に磁気記録された信号を磁気抵抗型磁気ヘッド(MRヘッド)で再生する磁気記録再生システムで用いるための(1)〜(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明の磁気記録媒体は、磁性層で使用する六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径を記録トラック幅の1/30以下とし、かつ磁性層の厚みの1/2以下とする。これにより、本発明であれば、高密度記録において優れた電磁変換特性を示す磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の磁気記録媒体の実施の態様について、以下に詳細に説明する。
[記録トラック幅]
本発明の磁気記録媒体は、2.0μm以下のトラック幅で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を再生するために用いられる。
Gbit/in2クラス以上の高密度化での磁気記録を達成するためには、トラック密度と線記録密度を向上させることが必須であり、そのためには、記録トラック幅をできるだけ小さくすることが望ましい。しかし、従来の磁気記録媒体では、記録トラック幅を小さくすると、充分な電磁変換特性(SN比)が得られない問いいう課題があった。本発明は、トラック幅が2.0μm以下という狭トラック幅で磁気記録された信号を再生した場合であっても優れた電磁変換特性が得られる磁気記録媒体である。
【0012】
本発明では、記録トラック幅は、上述したとおり2.0μm以下であるが、好ましくは0.5〜1.5μmである。記録トラック幅が0.5μm以上であれば、現状の技術を以ってしてもトラッキングを充分行えるため好ましい。
なお、本明細書における「磁気記録されたトラック幅」は、「記録トラック幅」と同義であり、1トラックに記録ヘッドを用いて信号を磁気記録するときの幅を意味し、再生ヘッドによる再生トラック幅は一般にこれより狭く、通常はトラック幅の50〜95%である。また、トラックピッチはこれより広く、通常は記録トラック幅の105〜140%である。
【0013】
本発明の磁気記録時における線記録密度は特に制限されない。記録ビット長は、好ましくは40〜200nm/bitであり、さらに好ましくは60〜120nm/bitである。記録ビット長が40nm/bit以上であれば、スペース損失の影響を受け難く、ビット長に対する六方晶系フェライト強磁性粉末の板厚の相対的大きさが小さくなるため、遷移ノイズの発生が少なくなり、良好なSN比が得られるため好ましい。一方、記録ビット長は、所望の記録密度が得られるようにするために200nm/bit以下であることが好ましい。
【0014】
[六方晶系フェライト強磁性粉末]
本発明の磁性層では、強磁性粉末として六方晶系フェライト強磁性粉末を用いる。六方晶系フェライト強磁性粉末としては、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等を用いることができる。
【0015】
具体的には、マグネートプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネートプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネートプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、SbーZn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもあるが、本発明ではそれらも使用できる。
【0016】
本発明では、六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径は、記録トラック幅の1/30であり、かつ磁性層厚みの1/2以下である。
記録トラック幅が2.0μm以下になると、六方晶フェライト磁性体の板径に起因した再生トラック両端における磁化の不均一性が相対的に無視できなくなる。例えば、磁性層の厚みがAである磁性層に板径がAである六方晶系フェライト強磁性粉末を配列させた場合を想定してみると、磁性層の厚み方向の磁性粉末の個数は1個となってしまうため、磁性層の厚み方向に均一な膜形成と均一な磁気記録を行うことが困難であることが容易に理解できる。
一方、高密度記録を行う場合、磁性層を薄層化して隣接する波形干渉を小さくすることが必要であるが、磁性層を薄くするとSN比が急激に低下してしまう。
【0017】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、六方晶系フェライトの板径と磁性層の厚みが大きく関係していることを見出した。すなわち、本発明者らは、面内記録用の磁気記録媒体では縦方向に配列した板状の六方晶系フェライト強磁性粉末が多くなるため、薄い磁性層では厚み方向に配列できる六方晶系フェライト強磁性粉末の個数が限られる。これにより磁性層の厚み方向における磁性層の均一性が損なわれてノイズが増加するものと考えた。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記考察に基づき、用いられる六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径と磁性層厚との関係についてさらに鋭意検討した結果、六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径を、記録トラック幅の1/30以下とし、かつ磁性層の厚みの1/2以下に調整することで、磁性層に対する磁性体の幅を充分小さくでき、かつトラック両端での磁化の不均一が生じにくくなり、ノイズを低減できることを見出した。
【0019】
本発明で用いられる六方晶系フェライト強磁性粉末の平均板径は、上記範囲内であれば特に限定されないが、10〜50nmであることが好ましく、15〜30nmであることがさらに好ましい。また、平均板径は、好ましくは記録トラック幅の1/40以下、さらに好ましくは1/50以下であり、かつ磁性層の厚みの1/3以下、さらに好ましくは1/4である。さらに、平均板径の下限値は、記録トラック幅の1/150であり、かつ磁性層の厚みの1/15である。また、平均板厚は、5〜15nmであることが好ましく、7〜12nmであることがさらに好ましい。平均板径が10nmであり、かつ平均板厚が5nm以上であれば、磁気異方性が維持され、かつ良好な抗磁力(Hc)と熱安定性とが得られるため好ましい。
【0020】
六方晶系フェライト強磁性粉末の板状比(板径/板厚)は2〜5であることが好ましく、2.5〜4であることがさらに好ましい。板状比が小さいと磁性層中の充填性は高くなり好ましいが、充分な配向性が得られない。一方、大きすぎると粒子間のスタッキングによりノイズが大きくなる。このような観点から板状比(板径/板厚)は2〜5の範囲とすることが好ましい。
【0021】
六方晶系フェライト強磁性粉末のBET法による比表面積は、20〜200m2/gであり、概ね粒子板径と板厚からの算術計算値と符号する。粒子板径・板厚の分布は通常狭いほど好ましい。これらは粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定する事で比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均サイズ=0.1〜2.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。たとえば酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0022】
六方晶系フェライト強磁性粉末の抗磁力(Hc)は、143〜398kA/m(1800〜5000 Oe)であることが好ましく、167〜279kA/m(2100〜3500 Oe)であることがさらに好ましい。抗磁力(Hc)は、143kA/m以上であれば、記録減磁を受け難くなり、出力の低下もない。また、398kA/m以下であれば、ヘッドによる記録が可能であり、出力を維持できる。抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0023】
六方晶系フェライト強磁性粉末の飽和磁化(σs)は、40〜80A・m2/kg(40〜80emu/g)である。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネートプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合すること、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。強磁性粉末を分散する際に磁性粉末の粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理材は無機化合物、有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P、等の酸化物又は水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は磁性粉末の質量に対して0.1〜10質量%である。磁性粉末のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0024】
六方晶系フェライト強磁性粉末は、必要に応じてAl、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末の質量に対して0.1〜10質量%であり、表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になるため好ましい。六方晶系フェライト強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0025】
六方晶系フェライト強磁性粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後、溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、100℃以上で液相加熱した後、洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、乾燥して1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
【0026】
[非磁性粉末]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層の間に非磁性層を有することができる。非磁性層としては非磁性無機粉末と結合剤を主体とするものが好ましい。非磁性層で用いられる非磁性無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機質化合物から選択できる。無機質化合物は、例えば、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ヘマタイト、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独又は組合せて使用できる。特に、小さい粒度分布を有すること、機能付与手段が多いこと等の観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムを用いることが好ましく、さらに好ましいは二酸化チタン、α酸化鉄である。
【0027】
非磁性粉末の粒子サイズは、0.005〜2μmであることが好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合せることができ、さらに単独の非磁性粉末であっても粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましいのは、非磁性粉末の粒子サイズは0.01〜0.2μmである。
特に、非磁性粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒子径0.08μm以下であることが好ましく、針状金属酸化物である場合は、長軸長が0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
非磁性粉末のタップ密度は0.05〜2g/mlであり、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。非磁性粉末の含水率は0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%、更に好ましくは0.3〜1.5重量%である。非磁性粉末のpHは2〜11であるが、pHは5.5〜10の間が特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は1〜100m2/g、好ましくは5〜80m2/g、更に好ましくは10〜70m2/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.004〜1μmであることが好ましく、0.04〜0.1μmであることがさらに好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は、5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12、好ましくは3〜6である。
【0029】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもよい。モース硬度は4〜10であるものが好ましい。非磁性粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は1〜20μmol/m2であり、好ましくは2〜15μmol/m2であり、さらに好ましくは3〜8μmol/m2である。pHは3〜6の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面にはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnO、Y23で表面処理することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0030】
本発明の非磁性層で用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、昭和電工製:ナノタイト、住友化学製:HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製:αヘマタイトDPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPN−500BX、DBN−SA1、DBN−SA3、石原産業製:酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、αヘマタイトE270、E271、E300、E303、チタン工業製:酸化チタンSTT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、αヘマタイトα−40、テイカ製:MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、MT−600B、MT−100F、MT−500HD、堺化学製:FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製:DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製:AS2BM、TiO2P25、宇部興産製:100A、500A及びそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0031】
<結合剤>
本発明の磁性層、非磁性層、バックコート層では、結合剤として従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用できる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用できる。
【0033】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体又は共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。
【0034】
熱硬化性樹脂又は反応型樹脂は、塗布液の状態で質量平均分子量が200,000以下のものが好ましい。また、これらの樹脂の中で、樹脂が熱分解するまでの間に軟化又は溶融しないものが好ましい。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシーポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。
【0035】
上記の結合剤について、より優れた分散性と耐久性とを得るためには、必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につき、Mは水素原子又はアルカリ金属塩基)、OH、NR12、N+123(R1〜R3は炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CNなどから選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を共重合又は付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基を用いる場合における極性基の量は、10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0036】
上記の樹脂の詳細については、朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、電子線硬化型樹脂を各層に使用すると、塗膜強度が向上し、耐久性が改善されるだけでなく、表面が平滑化し、電磁変換特性もさらに向上できる。これらの例とその製造方法については、特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。
【0037】
上記結合剤の市販されている商品名を具体的に挙げれば、例えば、ユニオンカーバイト社製:VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製:MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製:1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製:MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製:ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製:パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製:バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化社製:ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製:MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などが挙げられる。
【0038】
上記の樹脂は単独又は組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、又はこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0039】
ポリウレタン樹脂の構造としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。
【0040】
本発明で使用可能なポリウレタン樹脂の市販されている商品名としては、例えば、東洋紡社製UR8200、UR8300、UR8700などが挙げられる。
【0041】
本発明で使用可能なポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4−4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。
【0042】
上記イソシアネート類の市販されている商品名としては、例えば、日本ポリウレタン社製:コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMRミリオネートMTL、武田薬品社製:タケネートD−102,タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製:デスモジュ−ルL、デスモジュ−ルIL、デスモジュ−ルNデスモジュ−ルHL等があり、これらを単独又は硬化反応性の差を利用して二又はそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0043】
本発明の非磁性層、磁性層又はバックコート層で用いられる結合剤の含有量は、非磁性粉末又は六方晶系フェライト強磁性粉末の質量に対して5〜50質量%の範囲であり、10〜30質量%の範囲であることが好ましい。塩化ビニル系樹脂を用いる場合には、結合剤の含有量は5〜30質量%である。また、ポリウレタン樹脂を用いる場合には、ポリウレタン樹脂の含有量を2〜20質量%とし、ポリイソシアネートの含有量を2〜20質量%の範囲とする。塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリイソシアネートは、相溶性と架橋形成の観点からこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合には、ポリウレタンのみ、又はポリウレタンとイソシアネートのみを使用することもできる。本発明においてポリウレタン樹脂を用いる場合、ガラス転移温度は−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びは100〜2000%、破断応力は0.49〜98MPa(0.05〜10kg/mm2、降伏点は0.49〜98MPa(0.05〜10kg/mm2)が好ましい。
【0044】
本発明の磁性層、非磁性層、バックコート層における結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂の量、各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じて磁性層、非磁性層、バックコート層の間で適宜変更できることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層で結合剤量を変更する場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層の結合剤量を増量することが有効であり、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして柔軟性を持たせることができる。
【0045】
[添加剤]
本発明の磁性層、非磁性層、バックコート層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。そのような添加剤としては、カーボンブラック、研磨剤、潤滑剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを添加することができる。
【0046】
<カーボンブラック>
本発明の磁性層、非磁性層、バックコート層には、磁性層及び非磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度の向上などの目的で、カーボンブラックを加えることができる。カーボンブラックとしては、例えば、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm(5〜300mμ)、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlであることが好ましい。
【0047】
本発明で使用可能なカーボンブラックの市販されている商品名としては、例えば、キャボット社製:BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製:#80、#60、#55、#50、#35、三菱化成工業社製:#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製:CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50、40、15、RAVEN−MT−P、日本EC社製:ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用したり、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層溶塗料に添加する前に、予め結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは、単独又は組合せて使用することができる。
【0048】
カーボンブラックを使用する場合、六方晶系フェライト強磁性粉末に対する質量の0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは、上述したとおり、帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックの種類により異なる。したがって、本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層及び非磁性層でその種類、質量の組合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、PHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明で使用可能なカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧(カーボンブラック協会編)」を参考にすることができる。
【0049】
<研磨剤>
本発明では磁性層の耐久性を向上する目的で、研磨剤を加えることができる。研磨剤として、例えば、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイヤモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素など主としてモース硬度6以上の公知の材料が単独又は組合せて用いることができる。また、これらの研磨剤どうしの複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。
【0050】
上記の研磨剤には主成分以外の化合物又は元素が含まれる場合もあるが、主成分が90%以上であれば効果に変わりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmの範囲であることが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また、耐久性を向上させるには、必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせることができ、さらに単独の研磨剤であっても粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/ml、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gであることが好ましい。研磨剤の形状は、針状、球状、サイコロ状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。
【0051】
研磨剤の市販されている商品名を挙げれば、例えば、住友化学社製:AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT20、HIT−30、HIT−55、HIT60、HIT70、HIT80、HIT100、レイノルズ社製:ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製:WA10000、上村工業社製:UB20、日本化学工業社製:G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製:TF100、TF140、イビデン社製:ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製:B−3、東名ダイヤ社製:MD150、ランズ社製:LS−600Fなどが挙げられる。
【0052】
上記の研磨剤は、必要に応じて非磁性層に加えることもできる。非磁性層に加えることで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0053】
<その他の添加剤>
本発明の磁性層と非磁性層に使用可能な、その他の添加剤としては、潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果などを有するものが使用される。
例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステル及びそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)及びこれらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)、又は炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル又はトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどを使用できる。
【0054】
これらの添加剤の具体例としては、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。エステル類では、ブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイルなどが挙げられる。アルコール類では、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコールなどが挙げられる。
【0055】
界面活性剤としては、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又は燐酸エステル類、アルキルベダイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0056】
上記の潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下であることが好ましく、さらに10%以下であることが好ましい。
【0057】
本発明で使用可能な上記の潤滑剤、界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、質量及び相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じて最適に定められるべきものである。非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を中間層で多くして潤滑効果を向上させるなど考えられ、無論、ここに示した例のみに限られるものではない。
一般には潤滑剤の総量として六方晶系フェライト強磁性粉末又は非磁性粉末の質量に対し、0.1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%の範囲で選択される。
【0058】
また、本発明で使用可能な添加剤のすべて又はその一部は、磁性層用塗料及び非磁性層用塗料の製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に六方晶系フェライト強磁性粉末と混合する場合、該強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。また、目的に応じて磁性層を塗布した後、同時又は逐次塗布で、添加剤の一部又は全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。また、目的によってはカレンダ処理した後、又はスリット終了後に、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。
【0059】
[有機溶媒]
本発明で用いられる有機溶剤は公知のものが使用できる。具体的には、例えば、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール、などのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0060】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。本発明で用いる有機溶媒はその添加量を変えてもかまわない。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0061】
[非磁性支持体]
本発明で用いられる非磁性支持体は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。中でもポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じて、磁性層面と支持体面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。
これらの非磁性支持体には、予めコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理などを行ってもよい。また本発明の非磁性支持体としてアルミ又はガラス基板を適用することも可能である。
【0062】
本発明の目的を達成するには、非磁性支持体としてWYKO社製TOPO−3Dのmirau法で測定した中心面平均表面粗さはSRaは8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用する必要がある。これらの非磁性支持体は、単に中心面平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて非磁性支持体に添加されるフィラーの大きさと含有量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては、一例としてCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。非磁性支持体の最大高さSRmaxは1μm以下、十点平均粗さSRzは0.5μm以下、中心面山高さはSRpは0.5μm以下、中心面谷深さSRvは0.5μm以下、中心面面積率SSrは10〜90%、平均波長Sλaは5〜300μmであることが好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これらの非磁性支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールでき、例えば、0.01〜1μmの大きさの突起を各々0.1mm2あたり0〜2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0063】
本発明に用いられる非磁性支持体のF−5値は、好ましくは0.49〜4.9MPa(5〜50kg/mm2)、また、非磁性支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。非磁性支持体の破断強度は49〜980MPa(5〜100kg/mm2)、弾性率は980〜19600MPa(100〜2000kg/mm2)であることが好ましい。非磁性支持体の温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であり、好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であり、好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差で、ほぼ等しいことが好ましい。
【0064】
[バックコート層]
テープ状磁気記録媒体の場合、帯電防止やカール補正などの効果を出すために非磁性支持体の磁性層を設けた面とは反対の面にバックコート層を設けることができる。バックコート層は、テープ状磁気記録媒体の安定走行に有用である。バックコート層は、通常0.1〜1μm程度の厚さを有し、かつ導電性を有することが好ましい。バックコート層には、カーボンブラック及び結合剤を含ませることができる。カーボンブラック及び結合剤は、前述のカーボンブラック及び結合剤として説明したものが使用できる。
【0065】
バックコート層には、さらにα−アルミナ及びα−酸化鉄のようなモース硬度が5〜9の金属酸化物であって、その平均粒子サイズが100〜210μmの範囲にあるものを含有させておくことにより、記録再生装置のテープガイド又は収納されたカセットのテープガイドとバックコート層が繰り返し摺動させられた場合においても動摩擦係数の変動が少なくて、耐久性に優れたバックコート層とすることができるので好ましい。モース硬度が5〜9の金属酸化物はカーボンブラック100質量部に対して、3〜20質量部の範囲で使用される。
【0066】
なお、バックコート層を介して感光層で光透過率を検知する場合、バックコート層は透明な層であることが必要である。したがって、この場合には、カーボンブラックの添加量を光透過率に合わせて調整することが好ましい。また反射率を検知する場合には、非磁性支持体と感光層との間に、金属蒸着膜などの反射膜を設けることも可能である。
【0067】
[層構成]
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが2〜100μmであり、好ましくは2〜80μmである。コンピューター用磁気記録テープの場合、非磁性支持体は、3.0〜6.5μmであり、好ましくは3.0〜6.0μm、さらに好ましくは4.0〜5.5μmの範囲の厚さのものが使用される。
【0068】
本発明の磁性層の厚みは、0.2μm以下であるが、0.03〜0.15μmであることが好ましい。厚み変動率は±20%以内であることが好ましく、さらに好ましくは±5%以内である。磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0069】
非磁性支持体上に磁性層を設ける場合、非磁性層の厚みは0.2〜5.0μmであり、好ましくは0.3〜3.0μmであり、さらに好ましくは1.0〜2.5μmである。
なお、本発明の非磁性層は、実質的に非磁性層であればその効果を発揮するものであり、例えば、不純物として或いは意図的に少量の磁性体を含んでも、本発明の効果を示すものであり、本発明と実質的に同一の構成とみなすことができることはいうまでもない。ここに実質的に非磁性層とは、非磁性層の残留磁束密度が50T・m(500G)以下、又は抗磁力(Hc)が39.8kA/m(500Oe)以下であることを意味し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0070】
非磁性支持体と非磁性層又は磁性層の間に密着性向上のための下塗層を設けてもかまわない。下塗層を設ける場合、下塗層の厚みは0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.5μmである。また、バックコート層を設ける場合、その厚みは0.1〜4μm、好ましくは0.3〜2.0μmである。
【0071】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の両面に非磁性層と磁性層を設けてなる両面磁性層ディスク状磁気記録媒体であっても、片面のみに設けてなるテープ状又はディスク状磁気記録媒体であってもかまわない。
【0072】
[物理特性]
本発明の磁気記録媒体における磁性層の飽和磁束密度は、100〜300T・m(1000〜3000G)である。磁性層の抗磁力(Hc)は143〜398kA/m(1800〜5000 Oe)であるが、好ましくは167〜279kA/m(2100〜3500 Oe)である。抗磁力(Hc)の分布は狭い方が好ましく、SFD及びSFDrは0.6以下、さらに好ましくは0.2以下である。
【0073】
デープ状磁気記録媒体において、角形比(SQ)は0.6以上であると出力が高く好ましい。SQに特に上限はないが0.90を越えると六方晶系フェライト強磁性粉末のスタッキングによるノイズ増加が発生するため好ましくない。ディスク状磁気記録媒体では、ランダム配向を行う場合、SQが0.45〜0.65であることが好ましく、またSQがディスク内で等方化されていることが好ましい。円周配向を行う場合は、SQは円周方向にテープ状磁気記録媒体と同じく0.6以上であることが好ましい。
【0074】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.5以下、好ましくは0.3以下、表面固有抵抗は好ましくは磁性面104〜1012Ω/sq、帯電位は−500〜500Vが好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは980〜19600MPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は面内各方向で好ましくは980〜14700MPa(100〜1500kg/mm2)、残留伸びは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0075】
磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜120℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜100℃であることが好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性下層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0076】
磁性層のTOPO−3Dのmirau法で測定した中心面表面粗さRaは4.0nm以下、好ましくは3.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下である。磁性層の最大高さSRmaxは0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心面面積率SSrは20〜80%、平均波長Sλaは5〜300μmであることが好ましい。磁性層の表面突起は0.01〜1μmの大きさのものを0〜2000個の範囲で任意に設定することが可能であり、これにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールや磁性層に添加する粉体の粒径と量、カレンダ処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0077】
本発明の磁気記録媒体で非磁性層と磁性層を有する場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りをよくするなどである。
【0078】
[製法]
本発明の磁気記録媒体の磁性層用塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で使用する磁性体、非磁性粉体、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料は、どの工程の最初又は途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。
【0079】
混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力を有するものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合、六方晶系フェライト強磁性粉末又は非磁性粉末と結合剤のすべて又はその一部(但し、全結合剤の30%以上が好ましい)及び強磁性粉末100質量部に対し15〜500質量部の範囲で混練処理される。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗料及び非磁性層用塗料を分散させるにはガラスビーズを用いることができるが、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0080】
本発明で重層構成の磁気記録媒体を塗布する場合、以下のような方式を用いることが好ましい。
(1)磁性層用塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、先ず非磁性層を塗布し、非磁性層がウェット状態のうちに特公平1−46186号公報や特開昭60−238179号公報、特開平2−265672号公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により磁性層塗料を塗布する方法。
(2)特開昭63−88080号公報、特開平2−17971号公報、特開平2−265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する方法。
(3)特開平2−174965号公報に開示されているバックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により磁性層と非磁性層をほぼ同時に塗布する方法。
【0081】
なお、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により、塗布ヘッド内部の塗布液に剪断を付与することが望ましい。さらに、塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足する必要がある。
【0082】
本発明の構成を実現するには、非磁性層用塗料を塗布し乾燥させた後、その上に磁性層を設ける逐次重層塗布を用いても無論かまわず、本発明の効果が失われるものではない。但し、塗布欠陥を少なくし、ドロップアウトなどの品質を向上させるためには、前述の同時重層塗布を用いることが好ましい。
【0083】
ディスク状磁気記録媒体の場合、配向装置を用いずに無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは、六方晶系フェライト強磁性粉末の場合は一般的に面内及び垂直方向の3次元ランダムになりやすいが、面内2次元ランダムとすることも可能である。またスピンコートを用い、円周配向してもよい。
【0084】
テープ状磁気記録媒体の場合、コバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に配向する。乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0085】
カレンダ処理ロールとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロール又は金属ロールで処理するが、特に両面磁性層とする場合は金属ロールどうしで処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは200kg/cm以上、さらに好ましくは300kg/cm以上である。
【0086】
また、テープ状磁気記録媒体、ディスク状磁気記録媒体のいずれもアルミナ、酸化クロム、ダイヤモンド等からなる研磨テープで表面処理を行うと、突起や異物が除去できるため好ましい。
【0087】
マルチメデイア社会になり、画像記録へのニーズは産業界のみならず家庭でも益々強くなっており、本発明の磁気記録媒体は単に文字、数字などのデータ以外に、画像記録用媒体としての機能/コストの要請に十分応えられる能力を持つものである。
本発明の磁気記録媒体は、磁気抵抗型の再生ヘッド(MRヘッド)を用いる磁気記録再生システムに好適に用いることができる。MRヘッドの種類には特に制限はなく、GMRヘッドやTMRヘッドを用いることもできる。記録に用いるヘッドに特に制限はないが、飽和磁化量が1.2T以上であることが好ましく、2.0T以上がさらに好ましい。
本発明の磁気記録媒体は、コンピューターデータ記録用として好適である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の具体的実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるべきものではない。なお、実施例中の「部」は、特に示さない限り質量部を示す。
【0089】
(実施例1)
磁性層用塗料及び非磁性層用塗料の調製
磁性層用塗料のバリウムフェライト磁性粉末は、下記の表1に示されるものを用いた。
【0090】
【表1】

【0091】
<磁性層用塗料組成>
バリウムフェライト磁性粉末 100部
ポリウレタン樹脂
UR8200(東洋紡社製) 8部
UR8300(東洋紡社製) 4部
αアルミナ
HIT55(住友化学社製) 4部
ダイヤモンド
MD150(東名ダイヤ社製) 1部
カーボンブラック
#50(旭カーボン社製) 1部
フェニルホスホン酸 1部
ブチルステアレート 10部
ブトキシエチルステアレート 5部
イソヘキサデシルステアレート 3部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 125部
シクロヘキサノン 125部
【0092】
<非磁性層用組成>
非磁性粉体 α−Fe23ヘマタイト 80部
長軸長:0.08μm、
BET法による比表面積:60m2/g
pH:9
表面処理剤Al23:8質量%
カーボンブラック
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製) 15部
ポリウレタン樹脂
UR8200(東洋紡社製) 12部
UR8300(東洋紡社製) 6部
フェニルホスホン酸 3部
ブチルステアレート 8部
ブトキシエチルステアレート 5部
イソヘキサデシルステアレート 2部
ステアリン酸 3部
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(8/2混合溶剤) 250部
【0093】
磁気記録媒体の作製
上記の磁性層用塗料及び非磁性層用塗料のそれぞれについて、各成分をニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネートを非磁性層用塗料に10部、磁性層用塗料に10部をそれぞれ加え、さらにそれぞれにシクロヘキサノン40部を加えて、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用及び磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層用塗料を、乾燥後の厚さが1.5μmになるように、厚さ62μmで中心面平均表面粗さが1.8nmのポリエチレンナフタレート支持体上に塗布し、一旦乾燥させた。その直後に磁性層が所定の厚さになるように、ブレード方式で非磁性層上に磁性層用塗料を塗布し、周波数50Hz、磁場強度25T・m(250ガウス)、さらに周波数50Hz、12T・m(120ガウス)の2つの磁場強度交流磁場発生装置の中を通過させて、ランダム配向処理を行った。乾燥後、7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmで処理を行い、3.7インチに打ち抜き、さらに表面研磨処理施を行った。次いでディスク形状に打ち抜いた後、70℃でのサーモ処理を行い、塗布層の硬化処理を促進させるために研磨テープでバーニッシュ処理を行った。
【0094】
(実施例2〜17)
実施例1の磁性層の厚み又は記録トラック幅を変更した以外は実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製した。
【0095】
(比較例1〜14)
実施例1のバリウムフェライト磁性粉末の平均板径及び磁性層の厚さを変更した以外は、実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製した。
【0096】
<磁気記録媒体の評価>
実施例及び比較例で得られた磁気記録媒体の特性を以下の方法により測定した。
(1)磁気特性(Hc、σs)
振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、Hm796kA/m(10KOe)で測定した。
(2)バリウムフェライトの板径、板厚
TEM写真より500粒子を無作為に測定しその平均値を求めた。
(3)磁性層厚
磁気記録媒体を半径方向にダイヤモンドカッターで約0.1μmの厚みに切り出し、透過型電子顕微鏡で倍率10,000倍〜100,000倍、好 ましくは20,000倍〜50,000倍で観察し、その写真撮影を行った 。磁性層、非磁性層の強磁性粉末や非磁性粉末の形状差に注目して界面を目 視判断して行った。
(4)SN比
ヘッドを取り付けたスピンスタンドに上記の各ディスクサンプルをセットし、測定する半径位置において媒体とヘッドの相対速度が4m/sになるように回転速度を調整する。次に20MHzの矩形波信号をインダクティブヘッドでディスク上に記録し、AMRヘッドで再生し信号の出力を測定、さらに0〜40MHzの範囲のノイズを積分し、その比をSNとした。
(1)〜(4)で得られた磁気ディスクの特性を表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、バリウムフェライト磁性粉末の平均板径(X)が磁性層の厚み(Y)の1/2以下、すなわちY/Xの値が2以上であり、かつ前記平均板径(X)が記録トラック幅(Z)の1/30以下、すなわちZ/Xの値が30以上である場合には20dB以上という良好なSN比が得られた(実施例1〜17)。
これに対し、Y/Xの値だけが2より小さい場合(比較例2,6)、Z/Xの値だけが30より小さい場合(比較例1,3,4,10〜13)、あるいはY/Xが2より小さく、かつZ/Xの値が30より小さい場合(比較例5,7〜9,14)には、いずれもSN比が急激に低下し、SN比が20dB未満であった(比較例1〜14)。
このことから、本発明のようにバリウムフェライトの平均板径が記録トラック幅の1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/2以下である場合に良好な電磁変換特性が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に0.5〜1.5μmのトラック幅および0.04〜0.1μmのビット長で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を磁気抵抗型磁気ヘッド(MRヘッド)で再生する磁気記録再生システムであって、
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に板状比が2〜5の六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層を有しており、前記磁性層の厚みが0.03〜0.2μmであり、前記六方晶フェライト強磁性粉末の平均板径が前記磁気記録されるトラック幅の1/150以上1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/15以上1/2以下であることを特徴とする磁気記録再生システム。
【請求項2】
磁気記録媒体に0.5〜1.5μmのトラック幅および0.04〜0.1μmのビット長で信号を磁気記録し、該磁気記録された信号を磁気抵抗型磁気ヘッド(MRヘッド)で再生する磁気記録再生システムであって、
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤を含む非磁性層と板状比が2〜5の六方晶フェライト強磁性粉末及び結合剤を含む磁性層をこの順に有しており、前記磁性層の厚みが0.03〜0.2μmであり、前記六方晶フェライト強磁性粉末の平均板径が前記磁気記録されるトラック幅の1/150以上1/30以下であり、かつ磁性層の厚みの1/15以上1/2以下であることを特徴とする磁気記録再生システム。
【請求項3】
前記磁性層の抗磁力が143〜398kA/m(1800〜5000 Oe)である請求項1または2に記載の磁気記録再生システム。
【請求項4】
前記磁性層の角形比(SQ)が0.6以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気記録再生システム。

【公開番号】特開2007−220297(P2007−220297A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113528(P2007−113528)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【分割の表示】特願2003−15601(P2003−15601)の分割
【原出願日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】