説明

磁気記録媒体、磁気信号再生システムおよび磁気信号再生方法

【課題】長期保存または高温保存前後で変わらず優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体の一方の面に、六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体。磁性層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は800〜10000nmの範囲であり、バックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は20000〜80000nmの範囲であり、原子間力顕微鏡によって測定される磁性層の中心面平均表面粗さRaは0.5〜2.5nmの範囲であり、かつ六方晶フェライト粉末の平均板径は10〜40nmの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に関するものであり、詳しくは、高密度記録時に優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体、ならびに前記磁気記録媒体を使用する磁気信号再生システムおよび再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テラバイト級の情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高記録容量化が要求されている。
【0003】
磁気テープに関しては、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピューターテープなど種々の用途があり、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻当たり数10〜800GBの記録容量のものが商品化されている。また、1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録容量化は不可欠である。
【0004】
高記録容量化の手段として、磁気テープ製造面からのアプローチでは、磁性粉末の微粒子化とそれらの塗膜中への高密度充填、塗膜の平滑化、磁性層の薄層化などの高記録密度化技術が提案されている。例えば、特許文献1には、下層に燐含有の有機化合物を含有させることにより、下層の無機質粉末の分散性を改善し、磁性層の表面性を確保することが提案されている。また、特許文献2には、磁性層の表面平滑性の指標として、空間周波数強度を長波長、短波長の比でとることが提案されている。
【0005】
しかし、磁性層の表面平滑性を高めると、巻き乱れや走行性の悪化が生じるおそれがある。そこで、この巻き乱れや走行性の悪化を防止するために、支持体の磁性層とは反対側の面に、カーボンブラック等の粒状物質を含むバックコート層を設けることが行われている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−306032号公報
【特許文献2】特開平11−25442号公報
【特許文献3】特開2004−30870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性層の表面性を評価する指標として、磁性層表面粗さRaが広く使われている。これに対し、特許文献2では、空間周波数強度を長波長、短波長の比でとることが提案されている。これは、Raは平均化された数値であり、同じRaであってもうねり成分の差によっては、特性に大きく差が出ることに着目したものである。
しかし、バックコート層を有する磁気記録媒体では、磁性層の表面性を制御するだけでは、製造過程で磁気記録媒体をロール状態で保存したり、製品化後磁気テープをリールハブに巻いた状態で保存すると、バックコート層の突起が磁性層表面に転写し、微小な凹みを形成する、いわゆる「裏写り」が発生する。この裏写りにより、電磁変換特性、特に、BB−SNRおよびK−SNR(近傍ノイズ)が劣化するという問題が生じる。裏写りは、長期保存後や高温保存後に顕著に発生するため、バックコート層を有する磁気記録媒体では、初期状態の磁性層の表面性を制御したとしても、保存後に裏写りによって粗面化してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、長期保存または高温保存前後で変わらず優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、磁性層表面のうねり成分を制御するとともに、バックコート層表面のうねり成分、特に10μmピッチのうねりをコントロールすることにより、長期保存時または高温保存時の磁性層の裏写りを抑制できることを見出した。この理由については定かではないが、裏写りが生じるときにはバック面形状そのものが完全に磁性層に写るのではなく、そのピッチと強度(頻度、振幅)により写り方が変化し、特にバック面の10μmピッチの写りを抑制することにより、出力の近傍ノイズに関わる粗さの写りを抑制できるためであると推定している。本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]非磁性支持体の一方の面に、六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であって、
磁性層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は800〜10000nm3の範囲であり、
バックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は20000〜80000nm3の範囲であり、
原子間力顕微鏡によって測定される磁性層の中心面平均表面粗さRaは0.5〜2.5nmの範囲であり、かつ
六方晶フェライト粉末の平均板径は10〜40nmの範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。
[2]再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを使用する磁気信号再生システムにおいて使用される[1]に記載の磁気記録媒体。
[3][1]に記載の磁気記録媒体と、再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドとを含む磁気信号再生システム。
[4][1]に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を、巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期保存・高温保存後でも高密度領域の電磁変換特性(BB−SNR、K−SNR(近傍ノイズ))を良好に維持することが可能な高容量磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の一方の面に、六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の面にバックコート層を有し、磁性層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は800〜10000nm3の範囲であり、バックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は20000〜80000nm3の範囲であり、原子間力顕微鏡によって測定される磁性層の中心面平均表面粗さRaは0.5〜2.5nmの範囲であり、かつ六方晶フェライト粉末の平均板径は10〜40nmの範囲であるものである。
【0012】
更に本発明は、
本発明の磁気記録媒体と、再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを含む磁気信号再生システム;
本発明の磁気記録媒体に記録された磁気信号を、巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法、
に関する。
以下に、本発明の磁気記録媒体について詳細に説明する。
【0013】
10μmピッチにおけるスペクトル密度(Power Spectrum Density)とは、以下の方法により測定された値をいい、10μmピッチのうねりの指標として用いられる。以下において、10μmピッチにおけるスペクトル密度をPSD(10μm)ともいう。
非接触光学式粗さ測定機(装置:wyko社製HD2000)を用い、測定面積240μm×180μmで媒体の長手方向の表面粗さのプロファイルデータをフーリエ変換処理したものを平均化し周波数分析結果を得る。この分析結果から、各波長での強度を算出し10μmピッチにあたる強度を求める。これをPSD(10μm)とする。
【0014】
また、本発明において磁性層の中心面平均表面粗さRaを測定する原子間力顕微鏡(AFM)の測定条件は以下の通りである。
装置:日本Veeco社製 Nanoscope III
モード:AFMモード(コンタクトモード)
測定範囲:40μm角
スキャンライン:512*512
スキャンスピード:2Hz
スキャン方向:媒体長手方向
【0015】
磁性層表面の中心面平均粗さRaは、出力およびSNRと関係し、2.5nmを超えると出力が低下し、結果としてSNRが劣化する。特に、高線記録密度(例えば線記録密度100〜400KFCI)で使用されるシステムにおいて、出力の低下によるSNR劣化が顕著となる。また0.5nmより小さいと磁性層表面の摩擦係数が高くなり走行耐久性が劣化する。そこで本発明の磁気記録媒体では、磁性層表面のRaを0.5〜2.5nmの範囲とする。好ましくは1〜2nmの範囲である。
【0016】
更に本発明では、電磁変換特性を高めるために、磁性層表面の中心面平均粗さRaを制御するとともに、磁性層表面のうねり成分をも制御する。本発明の磁気記録媒体において、磁性層表面のPSD(10μm)は800〜10000nm3の範囲である。磁性層表面のPSD(10μm)が800μm3未満では、磁性層表面が過度に平滑であることにより、摩擦係数が上昇し、走行耐久性が劣化する。また、磁性層表面のPSD(10μm)が10000nm3を超えると近傍ノイズが顕著に劣化する。磁性層表面のPSD(10μm)は、800〜6000nm3の範囲であることが好ましく、800〜3000nm3の範囲であることが更に好ましい。
【0017】
更に本発明では、磁性層への裏写りによる電磁変換特性低下を防ぐため、バックコート層表面のうねり成分も制御する。本発明者らの検討の結果、バックコート層表面のPSD(10μm)が80000nm3を超えると磁性層表面への写りの影響が大きく、電磁変換特性低下の原因となることが新たに見出された。そこで本発明の磁気記録媒体では、バックコート層表面のPSD(10μm)を80000nm3以下とする。但し、バックコート層のPSD(10μm)が20000nm3未満では、ドライブ走行後のカ−トリッジの巻き姿が悪くなり、エッジ折れ等によって走行耐久性が劣化する。そこで本発明の磁気記録媒体において、バックコート層表面のPSD(10μm)は20000〜80000nm3の範囲とする。これにより走行耐久性と電磁変換特性を両立することが可能となる。バックコート層表面のPSD(10μm)は、20000〜60000nm3の範囲であることが好ましく、20000〜40000nm3の範囲であることが更に好ましい。
【0018】
更に本発明の磁気記録媒体において、磁性層に含まれる強磁性粉末は、平均板径10〜40nmの六方晶フェライト粉末である。表面平滑化のためには、強磁性粉末は微粒子であり分散性が良好なものが望ましい。六方晶フェライトは、従来されている針状の金属強磁性製粉と比較してσsが低いため分散性が高く、形状も板状であるために粒子の最長サイズも小さくできる、つまり微粒子化に有利である。また、平均板径が10nm未満では、熱揺らぎによる影響が大きく所望の抗磁力(Hc)を確保できず電磁変換特性が劣化する。平均板径が40nmを超えると、高線記録密度での高出力、低ノイズを確保することが困難となる。六方晶フェライト粉末の平均板径は、好ましくは10〜30nm、より好ましくは15〜25nmの範囲である。
【0019】
磁性層表面のRaおよびPSD(10μm)、バックコート層表面のPSD(10μm)の制御方法としては、以下の方法を挙げることができる。
(a)支持体としてRaおよびのPSD(10μm)を抑制したものを使用する。
(b)支持体の片面または両面に放射線硬化樹脂等の平滑化層を設け、PSD(10μm)を抑制する。
上記(a)、(b)において、磁性層側、バックコート層側の支持体のPSD(10μm)は6000nm3以下が好ましく、4000nm3以下が更に好ましく、2000nm3以下が特に好ましい。その下限は、例えば100nm3である。
(c)バック層形成用塗布液(バック液ともいう)に微粒子かつ分散良好な粉体を使用する。例えば、バックコート層塗布液を、非磁性層塗布液と同様の組成とすることができる。
(d)平滑化処理工程(スムージング処理、カレンダー処理)における条件を設定する 。
(e)非磁性層塗布液、バックコート層塗布液に分級処理(粗大粒子の遠心沈降、フィルター濾過) を施す。
【0020】
スムージング処理は、非磁性層を塗布直後に塗布層がまだ湿潤状態のうちに塗布方向にせん断をかける処理であり、塗布層中の凝集体を破壊するために有効である。通常、硬い板状の平滑なスムーザー(例えば中心面平均表面粗さRa≦2.5nm)を湿潤状態の表面に接触させ、せん断をかけることにより行う。
カレンダー処理ではカレンダーロールの温度、圧力、速度、素材、表面性、ロール構成等を適宜設定する。その詳細は後述する。
【0021】
以下に、上記(e)について説明する。
うねり発生には、(i)塗布液の不十分な分散、(ii)塗布後の乾燥凝集、が大きく影響していると推定される。そこでうねり防止のために、分散条件を強化して上記(i)を防ぐことが好ましい。一方、上記(ii)について、乾燥時の凝集で核となるものは、塗布液中に含まれる粗大凝集体であると考えられる。これは、粗大凝集体は質量が大きいことから周りに存在する軽い粒子をひきつけるためと推定される。そのため、分散後の塗布液に分級処理を施し、粗大凝集体を除去することが乾燥凝集抑制に有効である。分級処理は、遠心分離機で行うことができる。具体的には、塗布液をオープンニーダーで混練した後、ジルコニアビーズを用いたサンドミルで分散させ、分級処理することが好ましい。
ところで、表面平滑性を高めるためには、非磁性層塗布液、バックコート層塗布液とも、非磁性粉末または無機粉末とカーボンブラックとの混合割合を、体積比率で、前者:後者=8:2〜5:5とすることが好ましい。質量比率では、前者:後者=9:1〜7:3とすることが好ましい。しかし、非磁性粉末または無機粉末とカーボンブラックは比重が大きく異なるため、上記塗布液では、一段階の分級処理では粗大凝集体を十分に除去できない場合がある。この場合は、分散処理後の塗布液を、フィルタリング(フィルター濾過)による分級処理を施し、比較的比重の軽いカーボンブラックの粗大凝集体を除去した後、遠心沈降によって比較的比重の大きな非磁性粉末、無機粉末の粗大凝集体を除去するという二段階の分級処理を行うことが好ましい。遠心沈降は、遠心分離後の塗布液を所定時間放置し、粗大粒子を沈降させる処理である。
【0022】
以下に、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0023】
非磁性支持体
非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリアラミド、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面と非磁性支持体面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。また支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0024】
中でもポリエステル支持体(以下、単にポリエステルという)が好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどジカルボン酸およびジオールからなるポリエステルが好ましい。
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
【0025】
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールおよび/または1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。特に好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルである。
【0026】
なお、ポリエステルとしては、二軸延伸されていているものでもよく、2層以上の積層体であってもよい。
【0027】
また、ポリエステルは、さらに他の共重合成分が共重合されていてもよいし、他のポリエステルが混合されていてもよい。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分やジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
【0028】
ポリエステルには、フィルム時におけるデラミネーションを起こし難くするため、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジオールなどを共重合してもよい。
中でもポリエステルの重合反応性やフィルムの透明性の点で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−ナトリウムスルホフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金属(例えばカリウム、リチウムなど)やアンモニウム塩、ホスホニウム塩などで置換した化合物またはそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれらの両端のヒドロキシ基を酸化するなどしてカルボキシル基とした化合物などが好ましい。この目的で共重合される割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、0.1〜10モル%が好ましい。
また、耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0029】
上記ポリエステルは、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、あるいは耐熱安定剤を添加することができる。
また、合成時の各過程で着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、消泡透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料、反応停止剤などの各種添加剤の1種または2種以上を添加させてもよい。
【0030】
また、ポリエステルにはフィラーが添加されてもよい。フィラーの種類としては、球形シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粉体、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂等の有機フィラー等が挙げられる。
また、支持体を高剛性化するために、これらの材料を高延伸したり、表面に金属や半金属または、これらの酸化物の層を設けることもできる。
【0031】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。
【0032】
非磁性支持体の磁性層を形成する表面は、平滑層(平滑化を狙った中間層)を設けない場合、中心面平均粗さ(Ra)は、好ましくは4nm以下、より好ましくは2nm以下、更に好ましくは1nm以下である。その下限は、例えば0.3nmである。
またバックコート層を形成する表面は、平滑層(平滑化を狙った中間層)を設けない場合、中心面平均粗さ(Ra)は、好ましくは6nm以下、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは1.5nm以下である。上記の非磁性支持体に関するRaは、WYKO社製HD2000で測定した値である。
【0033】
また非磁性支持体表面のPSD(10μm)は、磁性層を形成する面について、平滑層(平滑化を狙った中間層)を設けない場合、好ましくは15000nm3以下、より好ましくは10000nm3以下、さらに好ましくは5000nm3以下である。その下限は、例えば100nm3である。バックコート層を形成する面について、平滑層(平滑化を狙った中間層)を設けない場合、PSD(10μm)は、好ましくは50000nm3以下、より好ましくは、20000nm3以下、さらに好ましくは10000nm3以下である。その下限は、例えば500nm3である。また平滑層を設ける場合、平滑層を設けた上で上記表面粗さ、PSD(10μm)を満たすものが好ましい。
また、非磁性支持体の長手方向および幅方向のヤング率は、6.0GPa以上が好ましく、7.0GPa以上がさらに好ましい。
【0034】
本発明の磁気記録媒体は、前記の非磁性支持体の少なくとも一方の面に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有するものであり、非磁性支持体と磁性層との間に実質的に非磁性である非磁性層(下層、非磁性下層ともいう)を有することが好ましい。
【0035】
磁性層
本発明の磁気記録媒体において、磁性層に含まれる強磁性粉末は、平均板径10〜40nmの六方晶フェライト粉末を含む。その体積は、1000〜20000nm3であることが好ましく、2000〜8000nm3であることが更に好ましい。この範囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。強磁性粉末としては、六方晶フェライト粉末を必須に用いるが、強磁性金属粉末、窒化鉄系粉末と同一層乃至別の層に併用されてもよい。
【0036】
針状粉末の体積は、形状を円柱と想定して長軸長、短軸長から求めることができる。
板状粉末の場合は、形状を角柱(六方晶系フェライト粉末の場合は6角柱)と想定して板径、軸長(板厚)から体積を求めることができる。
窒化鉄系粉末の場合は、形状を球と想定して体積を求めることができる。
磁性体のサイズは、以下の方法によって求めることができる。
まず、磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。分離した固形分をアセトンで洗浄し、TEM用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザ−で粉体の輪郭をトレースしカ−ルツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。
【0037】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0038】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。粉体サイズ測定において、標準偏差/平均値をパーセント表示したものを変動係数と定義する。
【0039】
六方晶フェライト粉末
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0040】
六方晶フェライト粉末の平均板径は、前述のように、10〜40nmであり、10〜30nmが好ましく、15〜25nmが更に好ましい。
平均板状比[(板径/板厚)の算術平均]は、好ましくは1〜15であり、更に好ましくは1〜7である。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0041】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚は、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、一般にσ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0042】
一般に、抗磁力(Hc)は、143.3〜318.5kA/m(1800〜4000Oe)程度の六方晶フェライト粉末は作製可能である。六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは159.2〜238.9kA/m(2000〜3000Oe)である。さらに好ましくは191.0〜214.9kA/m(2200〜2800Oe)である。抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0043】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は30〜80A・m2/kg(emu/g)であることが好ましい。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理してもよい。表面処理剤としては、無機化合物および有機化合物を使用することができる。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加量は磁性体の質量に対して、例えば0.1〜10質量%である。磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度を選択することができる。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0044】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し、例えば0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0045】
結合剤
磁性層、非磁性層、およびバックコート層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他の公知技術は、それらを互いに適宜適用することができる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関する公知技術が適用できる。
【0046】
結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。
【0047】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネ−トプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0048】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知の構造のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2 、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2 、−N+3 (Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は、例えば10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0049】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはダウケミカル社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020,三菱化学社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などが挙げられる。
【0050】
非磁性層、磁性層には、非磁性粉末または磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものを用いることが好ましい。
【0051】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102,タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN,デスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0052】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸およびこれらの金属塩、またはステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステルまたは多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0053】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸またはリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0054】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0055】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0056】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0057】
カーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独または組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、磁性体の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層および非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0058】
研磨剤
研磨剤としてはα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。具体的には住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0059】
有機溶剤としては、公知のものが使用できる。有機溶媒としては、具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0060】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0061】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着または結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着または結合し、例えば、一度吸着した有機リン化合物は、金属または金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、本発明の強磁性金属粉末表面または非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、該強磁性金属粉末または非磁性粉末の結合剤成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性金属粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性を改善することができる。また、潤滑剤としては遊離の状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0062】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0063】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどを単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0064】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0065】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0066】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、例えば1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であり、さらに好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0067】
非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HD、堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0068】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0069】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0070】
非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0071】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明の非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0072】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0073】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0074】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。密着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。また後述するように、下塗り層として平滑化層を設けることもできる
【0075】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、前述のように好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0076】
また支持体と非磁性層または磁性層との間、支持体とバックコート層との間に平滑化を目的とした中間層を設けることができ、例えば非磁性支持体の表面に、ポリマーを含有した塗布液を塗布、乾燥して形成するか、分子中に放射線硬化官能基を有する化合物(放射線硬化型化合物)を含有した塗布液を塗布し、その後、放射線を照射し、塗布液を硬化させて形成することができる。
放射線硬化型化合物の数平均分子量は、200〜2000の範囲であることが好ましい。分子量がこの範囲であると、比較的低分子量であるので、カレンダー工程において塗膜が流動し易く成形性が高く、平滑な塗膜を形成することができる。
放射線硬化型化合物として好ましいものは、分子量200〜2000の2官能のアクリレート化合物であり、更に好ましいものはビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFやこれらのアルキレンオキサイド付加物にアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものである。
【0077】
上記放射線硬化型化合物は、ポリマー型の結合剤と併用されてもよい。併用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。放射線として紫外線を用いる場合は、重合開始剤を併用することが好ましい。重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤および光アミン発生剤等を用いることができる。
また、放射線硬化型化合物は、非磁性層に用いることもできる。
【0078】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、特に好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率(σ/δ)は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0079】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0080】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。特に前記非磁性層の処方を適用することが好適である。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0081】
[製造方法]
磁性層用塗料、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨材、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗料、非磁性層用塗料またはバック層用塗料を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0082】
塗布液の製造工程では、分散条件(分散に使用するビーズ種、ビーズ量、周速、分散時間)によって分散を強化することが好ましい。さらに前述のように、乾燥時の再凝集を効果的に抑制するためには塗布前の塗布液を分級処理を施すことが好ましい。分級処理には、液濃度および時間により粒度分布を制御する自然沈降、液濃度、遠心分離機の回転数、処理時間により粒度分布を制御する遠心沈降法等があり、本発明ではいずれの方法を用いてもよい。
【0083】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。一般に、逐次重層塗布方式は、同時重層塗布方式と比べて上下層の界面変動が低減される傾向があり、また磁性層の薄層塗布時に塗布液に高いせん断がかかる傾向にあるため、うねり制御のためには逐次重層塗布方式を採用することが好ましい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0084】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0085】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0086】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、カレンダー処理を施すことができる。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0087】
塗布原反は、概ね、巻き取りロールの芯側から外側に向かって光沢値が低下し、長手方向において品質にばらつきがあることがある。なお光沢値は、表面粗さRaと相関(比例関係)があることが知られている。したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させず一定に保持すると、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違について何ら対策が講じられていないことになり、最終製品も長手方向に品質のばらつきが生じる。
したがって、カレンダー処理工程で、カレンダー処理条件、例えばカレンダーロール圧力を変化させ、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違を相殺するのが好ましい。具体的には、巻き取りロールから巻き出された塗布原反の芯側から外側に向かってカレンダーロールの圧力を低下させていくことが好ましい。本発明者らの検討によれば、カレンダーロールの圧力を下げると光沢値は低下する(平滑性が低下する)ことが見出されている。これにより、塗布原反の巻き取りによって生じた長手方向における平滑性の相違が相殺され、長手方向において品質にばらつきのない最終製品を得ることができる。
【0088】
なお、前記ではカレンダーロールの圧力を変化させる例について説明したが、これ以外にも、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制御することによって行うことができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御することが好ましい。カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0089】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層塗布液の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、例えば12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0090】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0091】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度は、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲である。
【0092】
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、前述のように、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した中心面平均表面粗さRaが0.5〜2.5nmであり、好ましくは1〜2nmである。
また磁性層の十点平均粗さRzは30nm以下が好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールやカレンダ処理のロール表面形状などでコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0093】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0094】
物理特性
本発明の磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は100〜400mTが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは、好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0095】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0096】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置(例えばレオバイブロン等)により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0097】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0098】
本発明の磁気記録媒体は、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くすることができる。
【0099】
本発明の磁気記録媒体を使用する磁気記録再生システムとしては、高密度記録された信号を異方性磁気抵抗効果型ヘッド(AMRヘッド)または巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)により再生する磁気記録再生システムが好ましい。
通常、線記録密度を表す単位としては、一般にfciとbpiの2種類が使用されている。fciは1inchあたりのビット反転数で媒体上に物理的に記録した密度を表す。一方、bpiは、信号処理も含めた1inchあたりのbit数でシステムに依存する。このため媒体の純粋な性能評価としては、通常fciを使用する。本発明の磁気記録媒体に信号を記録する際の好ましい線記録密度の範囲は、100〜400kfciである。さらには175kfci〜400kfciである。実際に使用されるシステムにおいては信号処理に依存するため一義的に決定されないが、目安としてbpiの0.5〜1倍のfciでの性能が反映される。このため200kbpi〜800kbpi、さらに350kbpi〜800kbpiの範囲が特に好ましい。
【0100】
再生ヘッドのシールド間距離(sh−sh)は、例えば0.08μm〜0.18μm、再生トラック幅は、例えば0.5μm〜3.5μmである。GMRヘッドは、薄膜磁気ヘッドへの磁束の大きさに応答する磁気抵抗効果を利用するものであり、誘導型ヘッドでは得られない高い再生出力が得られるという利点を有する。これは主として、GMRヘッドの再生出力が、磁気抵抗の変化に基づくものであるため、媒体とヘッドとの相対速度に依存しないことに起因する。特にGMRヘッドは、AMRヘッドと比較して読み出し感度がほぼ3倍高い。このようなGMRヘッドを再生ヘッドとして用いることで、高密度記録された信号を高感度に再生することが可能となる。
【0101】
また、前記再生ヘッドとして、高感度AMRヘッドを用いることもできる。ヘッドの感度の指標としては、一般に磁気抵抗係数が用いられる。通常使用される磁気抵抗素子は、厚み200〜300nmで磁気抵抗係数が2%程度であるのに対し、高感度AMRヘッドは、2〜5%程度である。高感度AMRヘッドを使用する場合にも、本発明の磁気記録媒体に記録された信号を高感度再生することができ、高いSNRを得ることができる。
【0102】
本発明の磁気記録媒体がテープ状磁気記録媒体の場合、再生ヘッドとしてGMRヘッドを用いることで、従来に比べ高周波領域で記録した信号であっても高いS/Nでの再生が可能である。従って、本発明の磁気記録媒体は、より高密度記録用のコンピュータデータ記録用の磁気テープやディスク状の磁気記録媒体として最適である。
【実施例】
【0103】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」特に示さない限り質量部を示す。
【0104】
磁性層塗布液の調製(強磁性粉末:BaFe)
強磁性板状六方晶フェライト粉末 100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:20nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
ポリウレタン樹脂 17部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(粒子サイズ0.15μm) 5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:60nm) 1部
カーボンブラック(平均粒径:20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0105】
非磁性層塗布液の調製
非磁性無機質粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長:0.15μm
タップ密度:0.8
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 15部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
塩化ビニル樹脂 10部
日本ゼオン社製MR110
ポリレタン樹脂・・・10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、−SO3Na=150eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0106】
バックコート層塗布液Aの調製
非磁性無機質粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長:0.15μm
タップ密度:0.8
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR104) 13部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製バイロンUR820 6部
フェニルホスホン酸 3部
アルミナ粉末(平均粒径:0.25μm) 5部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0107】
バックコート層塗布液Bの調製
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.05部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0108】
上記、磁性層塗布液、非磁性層塗布液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで240分間混練した後、サンドミルで分散した(分散時間は表1に記載)。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)をそれぞれ4部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過した。また非磁性層塗布液、バックコート層塗布液については、日立ハイテク製遠心分離機で3000rpmで(表1 遠心沈降時間 記載)を処理した上澄み液を使用し、非磁性層塗布液およびバックコート層塗布液を調製した。
【0109】
次に非磁性支持体(PEN、厚み6μm、表面性は、表1の「支持体A面」(磁性層形成側)、「支持体B面」(バック層形成側)に記載))上に上記非磁性塗布液を、乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布後、100℃で乾燥させた後、磁性層塗布液1を、乾燥後の厚さが60nmになるように塗布乾燥させた。磁性層を設けた面と反対の支持体表面に、バックコート層塗布液Aを塗布、乾燥させて厚さ0.5μmのバックコート層を形成した。
その後金属ロ−ルからなる7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm(343kN/m)、温度100℃で処理を行った。その後70℃24時間の熱処理を行い1/2インチ幅にスリットして、実施例1の磁気テ−プを作製した。
【0110】
[実施例2〜9、比較例1〜9]
磁性層塗布液に含まれる六方晶フェライトの平均板径、使用する支持体の表面粗さ、各層形成用塗布液の分散時間、遠心分離時間、または使用するバックコート層形成層塗布液、を表1記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0111】
各テープ試料について、初期状態のものと、60℃、10%で1週間保存後のものを用いて以下の方法により評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
測定方法
1.電磁変換特性の測定
(i)BB−SNR
電磁変換特性は、ドラムテスター(相対速度2m/sec)を用いて測定した。Bs=1.7T、Gap長0.2μmのライトヘッドを用い、線記録密度100kFCI(記録波長λ=0.504μm、キャリア−信号3.937MHz)、400kFCI(記録波長λ=0.127μm キャリア−信号15.748MHz)の信号を記録し、GMRヘッド(再生トラック幅(Tw):3.0μm、sh−sh=0.12μm)で再生した。
100kおよび400FCIの出力と0〜200kFCIおよび0〜400Kfciの積分ノイズの比を測定することで、BB−SNRを求めた。
(ii)K−SNR
K−SNRは、上記BB−SNR測定と同様の記録再生を行った。キャリア−信号近傍の−1MHz〜−0.3MHz、+0.3MHz〜1MHzまでの積分ノイズを加算した値をノイズ値として出力とノイズの比を測定することで、K−SNRを求めた。
【0113】
2.摩擦係数の測定
磁性層表面の摩擦係数を、ILC式μ値測定機で下記条件で測定した。
対象部材 AlTiC棒(φ=2mm、表面粗さRa=4nm)
荷重 50gf
速度 20mm/sec
【0114】
3.バック面巻き姿(飛び出し数)
各テープ試料をLTOリールに組み込みドライブ走行を1回行った後、巻き玉の飛び出し数をカウントした。
【0115】
【表1】



【0116】
評価結果
表1に示すように、磁性層塗布液、非磁性層塗布液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、高度な分散処理および分級処理を施すことにより、磁性層Raを0.5〜2.5nmの範囲に、磁性層表面のPSD(10μm)を800〜10000nm3の範に、バックコート層PSD(10μm)を20000〜80000nm3の範囲に制御することができた(実施例1〜9)。上記の通り磁性層、バックコート層の粗さおよびうねりを制御した実施例1〜9では、保存前後の電磁変換特性の変化が小さかった。また、巻き姿および摩擦係数の評価結果も良好であった。
これに対し、比較例1では、磁性層表面のRaが低すぎるため摩擦係数が高くなり、走行中に張り付きが発生した。このため電磁変換特性を測定することができなかった。
比較例2では、磁性層表面のRaが高すぎるため、出力低下に起因してSNRが低下した。
比較例3では、磁性層表面のPSD(10μm)が低すぎるために摩擦係数が高くなり、走行中に張り付きが発生した。このため電磁変換特性を測定することができなかった。
比較例4では、磁性層表面のPSD(10μm)が高すぎるため、ノイズ増大に起因しK−SNRが低下した。
比較例5では、バックコート層表面のPSD(10μm)が低く平滑性が高すぎるため、巻き姿が悪化し飛び出しが多かった。
比較例6および9では、バックコート層表面のPSD(10μm)が高すぎるため、保存後の写りにより、ノイズ増大に起因してK−SNRが低下した。特に、比較例9では、保存後の写りによりK−SNRが低くなった。
比較例7でが、六方晶フェライト粉末の粒子サイズが小さすぎるため出力が確保できずSNRが低下した。
比較例8では、六方晶フェライト粉末の粒子サイズが大きすぎるためノイズが高くなりSNRが低下した。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の磁気記録媒体は、高密度記録用磁気記録媒体として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の面に、六方晶フェライト粉末および結合剤を含む磁性層を有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であって、
磁性層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は800〜10000nm3の範囲であり、
バックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は20000〜80000nm3の範囲であり、
原子間力顕微鏡によって測定される磁性層の中心面平均表面粗さRaは0.5〜2.5nmの範囲であり、かつ
六方晶フェライト粉末の平均板径は10〜40nmの範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを使用する磁気信号再生システムにおいて使用される請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気記録媒体と、再生ヘッドとして巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドとを含む磁気信号再生システム。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気記録媒体に記録された磁気信号を、巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッドを用いて再生する磁気信号再生方法。