説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【目的】 電磁変換特性が極めて優れ、耐久性や耐食性等の信頼性にも優れる磁気記録媒体を提供する。
【構成】 非磁性支持体上に少なくとも2層以上の強磁性金属薄膜が形成され、さらに強磁性金属薄膜の上に保護層が形成されている磁気記録媒体において、前記保護層は、炭化水素ガスと水素ガスを原料として形成されたプラズマ重合膜であり、屈折率1.9〜2.15、接触角80度未満の物性を備え、前記強磁性金属薄膜は、その膜中の厚さ方向に亘って万遍なく5at%以上の酸素を含有し、最上層の強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Tuが10〜30at%、その下に位置する強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Toが15〜50at%であり、かつTu/To比が0.3以上0.8以下であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、多層の強磁性金属薄膜を備える磁気記録媒体、特に、表面保護効果、電磁変換特性に優れる蒸着型ビデオテープとしての磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】蒸着型のビデオテープ(磁気記録媒体)は、塗布型の媒体とは異なり、磁性材料の充填密度が高いために高記録密度に適している。そのため電磁変換特性上非常に有利であり、現在すでに実用化されるに至っている。しかしながら、蒸着型のビデオテープは、支持体の上に磁性金属を成膜する構造をとっているために、耐久性や耐食性等が不十分であり信頼性にやや難点があり、この問題を解決するために種々の提案がなされている。
【0003】その一つに強磁性金属薄膜(磁性層)の上にプラズマ重合保護膜を形成する旨の提案が挙げられる。すなわち、特開昭59−171028号公報、特開昭61−5426号公報、特開平1−205714号公報等には強磁性金属薄膜の上に保護膜としてのプラズマ重合膜を形成し、この際、強磁性金属薄膜表面の酸化層を厚く形成する旨の提案がなされている。しかしながら、この場合には、信頼性の向上は期待できるものの、プラズマ重合膜の厚さ分のスペーシングロスと金属酸化層のスペーシングロスが加算された厚みが全スペーシングロスとなり、電磁変換特性上極めて不利になってしまうという不都合が生じる。
【0004】一方、特開昭63−34728号公報には、上記の手法とは逆に磁性金属層表面をエッチングして酸化層を強制的に除去させる旨が開示されている。しかしこの場合には、余分な表面処理をすることとになり、設備的にも煩雑となるし、また完全に表面酸化層をエッチングして除去してしまうと信頼性の面でも不十分となる。
【0005】このような観点から磁性層の形成は、一般的に、一層中における磁性層表面の酸素濃度を高く、磁性層内部の酸素濃度が低くなるように行われている(特開昭60−157717号公報、特公平3−18246号公報等)。すなわち、磁性層表面の酸素濃度を高くして、信頼性を向上させ、この一方で磁性層内部を金属成分リッチにして電磁変換特性を良好にし、全体として、互いに相反する現象(磁性層表面の酸素濃度を高くすれば信頼性は向上するが、逆に電磁変換特性上は不利となる)をバランスさせる方法が一般にとられている。また、防錆剤を用いたり(特開昭58−189825号公報)、パーフルオロポリエーテル(特開昭56−87236号公報)などにより信頼性を向上させる方法も提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、非磁性支持体上に2層以上の強磁性金属薄膜(磁性層)を設け、最上層の磁性層を例えば7MHz程度の高周波数の記録に適した記録帯とし、それ以外の深部を比較的低周波数域の記録帯とする、いわゆる多層磁性層タイプの磁気記録媒体が知られている。
【0007】この場合には、特に高周波数の記録域が比較的磁性層の表層近傍で行われるために、保護層の構成および物性、並びに磁性層表面の酸素濃度は、媒体の電磁変換特性、信頼性に大きな影響を及ぼす。そのため、従来公知の磁性層構成および保護層構成をそのまま使うことは必ずしも好ましいこととは言えない。従って、優れた表面保護効果、電磁変換特性等を得るための保護層および多層磁性層の設計が必要となる。
【0008】本発明はこのような実情のもとに創案されたものであって、その目的は電磁変換特性が極めて優れ、耐久性や耐食性等の信頼性にも優れる磁気記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的を解決するために、本出願に係る発明者らが鋭意研究した結果、保護層としての所定のプラズマ重合膜の設定、および多層磁性層中の酸素濃度を考慮した磁性層の設計をすることによって、特に電磁変換特性および信頼性に優れた媒体が得られることを見いだし、本発明に至ったのである。
【0010】すなわち、本発明は、非磁性支持体上に少なくとも2層以上の強磁性金属薄膜が形成され、さらに強磁性金属薄膜の上に保護層が形成されている磁気記録媒体において、前記保護層は、炭化水素ガスと水素ガスを原料として形成されたプラズマ重合膜であり、屈折率1.9〜2.15、接触角80度未満の物性を備え、前記強磁性金属薄膜は、その膜中の厚さ方向に亘って万遍なく5at%以上の酸素を含有し、最上層の強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Tuが10〜30at%、その下に位置する強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Toが15〜50at%であり、かつTu/To比が0.3以上0.8以下であるように構成される。
【0011】
【作用】本発明によれば、保護層としての所定のプラズマ重合膜の設定、および多層磁性層中の酸素濃度を考慮した磁性層の設計をしているので、特に電磁変換特性および信頼性に優れる。
【0012】
【実施例】本発明の磁気記録媒体の好適な一実施例を図1に基づいて説明する。図1は本発明の磁気記録媒体の断面図である。この図によれば、本発明の磁気記録媒体1は、非磁性支持体10の上に2層の強磁性金属薄膜13,15がそれぞれ順次形成され、さらに上方側の強磁性金属薄膜15の上には保護層18が形成されている。
【0013】非磁性支持体10は、可撓性を備えたテープ状、あるいはシート状の形態をなし、その材質は強磁性金属薄膜13,15の形成に耐え得るだけの耐熱性のあるものであればよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォンなどが挙げられる。非磁性支持体10の厚さは、例えば、磁気記録媒体の録画時間等との兼ね合いで選択されることもあり、通常5〜40μm程度とされる。
【0014】このような非磁性支持体2の上に順次形成される強磁性金属薄膜13,15は、それぞれコバルトまたはコバルト合金とすることが好ましい。コバルト合金としては、Co−Ni、Co−Fe、Co−Ni−Cr、Co−Ni−B、Co−Cu、Co−Pt−Cr等が例示される。これらの強磁性金属薄膜13,15を蒸着で形成する場合、Coの融点に近い金属では、同一のルツボを用いて蒸着する、いわゆる一元蒸着を行い、融点が異なるものでは複数のルツボを用いる、いわゆる多元蒸着を行うことが好ましい。
【0015】蒸着工程としては、蒸着チャンバー内を、例えば、10-6Torr程度まで排気した後、電子銃にて蒸着させるべく金属の溶解を行い、金属全体が溶解した時点で蒸着を開始する。さらに、蒸着によって形成される強磁性金属薄膜13,15の磁気特性を制御するために、通常、酸素、オゾン、亜酸化窒素等の酸化性ガスを導入しながら成膜する。
【0016】このような強磁性金属薄膜13,15は、それぞれその膜中の厚さ方向に所定の酸素濃度分布を備えており、これを分かりやすく説明するために図2を提示する。図2は、横軸に媒体の厚さ方向を示しており、図中左側から、保護層18、強磁性金属薄膜15、強磁性金属薄膜13、非磁性支持体10が積層された状態を示している。図2の縦軸は、強磁性金属薄膜13,15中の酸素濃度(at%(原子%))を示したものであり、具体的な酸素濃度(at%)の分布が実線で示されている。この酸素濃度(at%)の分布は、AugerまたはESCAにて媒体を厚み方向にエッチングしながら厚み方向の酸素濃度プロファイルを測定して求める。ちなみに、強磁性金属薄膜13,15の磁性金属組成をCo−Niと仮定すると、酸素濃度(at%)=O/(Co+Ni+O) × 100として算出される。
【0017】なお、図2中左側の保護層18領域の一点鎖点は、カーボンの量を参考のために示しており、酸素濃度(at%)を示しているものではない。
【0018】本発明の強磁性金属薄膜13,15は、それぞれ、その膜中の厚さ方向に亘って万遍なく5at%以上の酸素を含有している。すなわち、図2に示される強磁性金属薄膜13,15中の酸素濃度プロファイルをとった場合、そのプロファイルの最低酸素濃度値Txは5at%以上、特に好ましくは、8〜15at%の酸素を含有している。この値が5at%未満となると、磁性体のカラム中の磁気構造の相互作用により保磁力(Hc)が低下するという不都合が生じる。また、この値があまり高い値(例えば、25at%を超える程度)となると、磁束密度が低下し、密度密度が上がらなかったり、出力が低下する等の不都合が生じる。
【0019】また、最上層の強磁性金属薄膜15の最大酸素濃度Tuは10〜30at%、より好ましくは、10〜20at%とされる。そしてその下に位置する強磁性金属薄膜13の最大酸素濃度Toは、15〜50at%、より好ましくは、25〜35at%とされる。加えて、これらの比の値であるTu/Toは、0.3以上0.8以下とされる。最上層の強磁性金属薄膜15の最大酸素濃度Tuが30at%を越えると、スペーシングロスが増大し、出力が低下するという不都合が生じ、また、Tu値が10at%未満となると信頼性が低下するという不都合が生じる。そして、この下に位置する強磁性金属薄膜13の最大酸素濃度Toが50at%を超えることは理論上現実性に欠け、To値が15at%未満となると磁性体カラムの相互作用が発達し、磁気構造が不安定になり、保磁力が低下したり高周波成分の出力低下が生じる。また、前記Tu/Toの値が0.8を超えると電磁変換特性が劣化するという不都合が生じ、またTu/Toの値が0.3未満となると、信頼性が低下するという不都合が生じる。
【0020】なお、最上層の強磁性金属薄膜15中の最大酸素濃度Tuは、強磁性金属薄膜15の最上部、すなわち、保護層18との界面近傍に位置することが好ましい。また、この下に位置する強磁性金属薄膜13の最大酸素濃度Toは、強磁性金属薄膜13の最上部、すなわち、最上層の強磁性金属薄膜15との界面近傍に位置することが好ましい。
【0021】このような強磁性金属薄膜13,15中の酸素濃度分布は、基本的には成膜時に導入される酸素(O2 )等の酸化性ガスの量(分圧)等を調節することによって、任意に設定できるものであるが、本発明では、さらに後述するようにプラズマ重合膜を形成するに際して、原料ガス中に還元性ガスである水素ガスを所定量混合させており、この水素ガスにより、プラズマ重合膜形成と同時に強磁性金属薄膜15表面の酸素濃度を下げるという操作が可能になる。従って、強磁性金属薄膜13,15の成膜条件をあえて変えることなく各々全く同じ条件で成膜し、プラズマ重合条件を適宜設定することにより、所望のTu/To比が得られる。工程簡潔化という面からも大きなメリットとなる。
【0022】このように形成される強磁性金属薄膜13,15の厚さは、最上層の強磁性金属薄膜15が、500〜2000Å程度、この下に位置する強磁性金属薄膜13が、500〜2000Å程度とされる。
【0023】なお、本実施例では、説明を分かりやすくするために強磁性金属薄膜が2層となっている場合を例にとって説明してきたが、これに限定されることなく、3層以上の多層構造の場合にも好適に適用できることは勿論のことである。3層以上の多層構造の場合においては、最上層の強磁性金属薄膜と、その下に位置する強磁性金属薄膜とにそれぞれ注目して、前記の条件を満たす様に膜構造の設定が行われる。
【0024】最上層の強磁性金属薄膜15の上には、保護層18が形成されており、この保護層18は、炭化水素ガスと水素ガスを原料として形成されたプラズマ重合膜である。
【0025】本発明で保護層18として用いられるプラズマ重合膜は、屈折率1.9〜2.15、より好ましくは、1.95〜2.10の物性を備えている。この値が2.15を超えると、摺接する磁気ヘッドが損傷してしまうという不都合を生じ、また、この値が1.9未満となると、耐久性が向上しないという不都合が生じる。さらに、本発明で用いられるプラズマ重合膜は、接触角80度未満の物性を備えている。この値が80度以上となると、耐久性が低下するという不都合が生じる。
【0026】プラズマ重合膜の形成方法の一例を以下に説明する。図3にはプラズマ重合膜形成装置の概略正面図が示される。この装置において、繰出ロール51には、予め非磁性支持体10上に強磁性金属薄膜13,15が設けられた積層体原反70が巻かれている。そして、図3に示されるように繰出ロール51から繰り出された積層体原反70は、ガイドロール52を介して回転ドラム55に沿って移動し、さらに、ガイドロール56を介して巻取ロール58へと巻き取られるようになっている。この場合、回転ドラム55は、非磁性支持体の裏面側(強磁性金属薄膜が形成されていない側)と接している。
【0027】また、真空槽37内は、プラズマ重合膜形成のためにのみ必要なスペースを確保するために例えば仕切り板38,38によって上下に仕切られており、さらに放電を発生させるための例えば複数の棒状のプラズマ電極39が前記回転ドラム55の回り(図においては下方)に配設されている。この場合、前記回転ドラム55は、放電を発生させない一方のプラズマ電極(アース側)を構成している。複数のプラズマ電極39はそれらの基部にて、一体的に接続されたいわゆる櫛形状をなしており、この電極にはプラズマ発生のための、例えば、高周波電源等が接続される。
【0028】プラズマ重合膜の形成は、真空槽内で有機化合物、例えば炭化水素系化合物のモノマーガスを高周波によってプラズマ化させ、連続搬送される強磁性金属薄膜15の表面に形成させることによって行われる。通常は、積層体原反70を搬送させる真空槽内を10-5Torr以上に排気した後、原料ガスを所定量導入する。この所定量は、反応圧力が1〜10-2Torrとなるように設定することが一般的である。
【0029】本発明では、炭化水素ガスと水素ガスを含む原料ガスを用いてプラズマ重合膜を形成する。水素ガスは、プラズマ重合膜の膜特性にも影響を与えるとともに、前述したようにプラズマ重合膜形成と同時に強磁性金属薄膜15表面の酸素濃度を下げるという作用も合わせ持っている。水素ガスに対する炭化水素ガスの流量比は、体積比で1〜5、好ましくは、2〜3とされる。この値が5倍を超えて炭化水素ガスが過剰になると、成膜した膜の緻密性に欠けて所望の屈折率物性が得られなくなる。また、場合によっては(水素ガス量の絶対値が問題であるが)強磁性金属薄膜15表面の酸素濃度を下げるという製造上のメリットがなくなるという不都合が生じる。また、この値が1未満となり、水素ガスが過剰になると、成膜レートが低下してしまったり、膜物性である屈折率が高くなりすぎるという不都合が生じる。
【0030】炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、アセチレン、メチルアセチレン、トルエン等を単独または混合して用いる。
【0031】プラズマ形成のための放電電源は、50kHz〜450kHzの範囲の周波数とされる。中でも特に100kHz〜400kHzの範囲の周波数が望ましい。周波数が50kHz未満となると、長時間に亘っての運転が困難となり、また所望の屈折率物性得られなくなるという不都合が生じる。
【0032】また、周波数が450kHzを越えると緻密な膜が得られず、さらに膜物性ととしての屈折率が低くなりすぎたり、接触角が大きくなりすぎるという不都合が生じる。
【0033】このようにして形成されるプラズマ重合膜の厚さは、80〜150Å程度が好ましい。この厚さが80Å未満では、成膜が十分に行えず、電特も測定不能となる。また、150Åを越えるとスペーシングロスが大きくなり、高密度記録に不向となる傾向が生じる。
【0034】なお、本発明においては、プラズマ重合膜からなる保護膜18上に公知の種々の液体潤滑層を塗布してもよく、この場合には耐久特性が向上する。また、非磁性支持体10の裏面(強磁性金属薄膜形成面と反対の面)にいわゆる公知の種々のバックコート層を設けてもよいし、非磁性支持体10と強磁性金属薄膜13との間に種々の中間層を設けてもよい。
【0035】なお、前記プラズマ重合膜の形成に際しては、その説明を簡潔かつ分かりやすくするために、非磁性支持体10上に強磁性金属薄膜13,15が設けられた積層体原反70が繰出ロール51に予め巻かれているケースを例にとって説明したが、これに限定されることなく、例えば、特開平4−95220号公報に記載されているように、非磁性支持体のみを繰出ロールに設置し、同一真空槽内で、強磁性金属薄膜およびプラズマ重合膜の形成を順次形成させる方式においても、本発明の磁気記録媒体の製造方法が適用できるのは勿論のことである。
【0036】以下、本発明に関する具体的実験例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例サンプル1の作製)まず、最初に、真空槽内において(10-6Torrまで排気)、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の非磁性支持体10を連続搬送させつつこの上に、2層のCo−Niの強磁性金属薄膜13,15を形成させた。すなわち、Co−Ni(Co:Ni=90:10(atm 比))の合金を蒸着源として用いて入射角30°で斜め蒸着を行い(酸素分圧10-4Torr)、厚さ0.15μmのCo−Ni強磁性金属薄膜13を形成した。ついで、同様な円筒キャンを用い、Co−Ni(Co:Ni=90:10(atm 比))の合金を蒸着源として用いて入射角30°で斜め蒸着を行い(酸素分圧10-4Torr)、厚さ0.15μmのCo−Ni強磁性金属薄膜15を積層形成した。
【0037】次いで、図3に示される装置を用いて、上記強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜からなる保護層18を形成した。
【0038】すなわち、プラズマ原料ガス導入口から炭化水素としてメタンガスを20SCCM、水素ガスを10SCCM、それぞれ導入しつつ、0.05Torrの真空下でプラズマを発生させて、プラズマ重合膜からなる保護膜を形成した。
【0039】この場合、プラズマ放電電源の周波数は、100kHz、プラズマ出力は1W/cm2 とした。また、プラズマ雰囲気中に強磁性金属薄膜をさらす、いわゆるプラズマ通過時間は1secとした。このようにプラズマ重合膜を形成した後、8mm幅にスリットして実施例サンプル1を作製した(実施例サンプル2〜5の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、炭化水素のプラズマ原料ガスをメタンからエタン(実施例サンプル2)、エチレン(実施例サンプル3)、プロピレン(実施例サンプル4)、アセチレン(実施例サンプル5)に、それぞれ変えた。
【0040】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル2〜5を作製した。
(実施例サンプル6〜9の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ原料ガスの一部として導入したメタンガスのガス量を20SCCMから、10SCCM(実施例サンプル6)、30SCCM/分(実施例サンプル7)、40SCCM(実施例サンプル8)、50SCCM(実施例サンプル9)に、それぞれ変えた。
【0041】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル6〜9を作製した。
(実施例サンプル10〜13の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ放電電源の周波数を、100kHzから、50kHz(実施例サンプル10)、200kHz(実施例サンプル11)、300kHz(実施例サンプル12)、400kHz(実施例サンプル13)にそれぞれ変えた。
【0042】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル10〜13を作製した。
(実施例サンプル14〜17の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ通過時間を1secから、100msec(実施例サンプル14)、500msec(実施例サンプル15)、5sec(実施例サンプル16)、10sec(実施例サンプル17)に、それぞれ変えた。また、実施例サンプル14、17においては、強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させて予めTo値を変えた。
【0043】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル14〜17を作製した。
(実施例サンプル18〜20の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ出力を1W/cm2 から、4W/cm2 (実施例サンプル18)、2W/cm2 (実施例サンプル19)、0.8W/cm2 (実施例サンプル20)に、それぞれ変えた。また、強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させて予めTo値を変えた。
【0044】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル18〜20を作製した。
(実施例サンプル21の作製)上記実施例サンプル1において、2層構造からなるCo−Niの強磁性金属薄膜13,15の下に、さらに強磁性金属薄膜13と同一の強磁性金属薄膜を設け、3層構造の強磁性金属薄膜とした。
【0045】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル21を作製した。
(実施例サンプル22の作製)強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させてTu、To値をそれぞれ変えた。それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル22を作製した。
【0046】(実施例サンプル23の作製)強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させてTx値を変えた。それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、実施例サンプル23を作製した。
(比較例サンプル1,2の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ原料ガスの一部として導入したメタンガスのガス量を20SCCMから、5SCCM(比較例サンプル1)、60SCCM(比較例サンプル2)に、それぞれ変えた。
【0047】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル1,2をそれぞれ作製した。
(比較例サンプル3〜6の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ放電電源の周波数を、100kHzから、20kHz(比較例サンプル3)、500kHz(比較例サンプル4)、1MHz(比較例サンプル5)、13.56MHz(比較例サンプル6)にそれぞれ変えた。
【0048】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル3〜6を作製した。
(比較例サンプル7〜9の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ通過時間を1secから、0.5msec(比較例サンプル7)、15sec(比較例サンプル8)、50msec(実施例サンプル9)に、それぞれ変えた。
【0049】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル7〜9を作製した。
(比較例サンプル10,11の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成するに際し、プラズマ出力を1W/cm2 から、6W/cm2 (比較例サンプル10)、0.7W/cm2 (比較例サンプル11)に、それぞれ変えた。
【0050】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル10,11をそれぞれ作製した。
(比較例サンプル12の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を形成しなかった。
【0051】それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル12を作製した。
(比較例サンプル13の作製)上記実施例サンプル1において、Co−Niからなる強磁性金属薄膜15の上にプラズマ重合膜を設けなかった。ただし、強磁性金属薄膜15の表面は水素ガスで還元処理を行った。それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル13を作製した。
(比較例サンプル14の作製)強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させてTu、To、Tx値をそれぞれ変えた(下記表3)。それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル14を作製した。
(比較例サンプル15の作製)強磁性金属薄膜形成時に酸素ガスの供給量を変化させてTu、To、Tx値をそれぞれ変えた(下記表3)。それ以外は、上記実施例サンプル1と同様にして、比較例サンプル15を作製した。
【0052】このように作製した上記実施例サンプル1〜23、比較例サンプル1〜15について以下に示すような測定ないしは評価を行った。
【0053】プラズマ重合膜の物性(屈折率)予備実験として、Si−ウエーハをテープ上に貼り付け、実施例のプラズマ条件にて成膜し、エリプソメーターにて測定した。
【0054】(接触角)8mm幅のテープサンプルを接触角測定機(協和界面科学社製接触角測定装置)を用いて測定した。
【0055】強磁性金属薄膜13,15中の酸素濃度Auger分光法にてサンプルの膜厚方向にエッチングしながら、強磁性金属薄膜13,15の膜厚方向の酸素濃度プロファイルを作成し、最低酸素濃度値Tx(at%)、最上層の強磁性金属薄膜15の最大酸素濃度Tu(at%)、その下に位置する強磁性金属薄膜13の最大酸素濃度Toをそれぞれ求めた。
【0056】酸素濃度(at%)=O/(Co+Ni+O) × 100として算出した。
【0057】初期摩擦摩擦測定機を用いて、テープを1passさせた時の摩擦を測定した。すなわち、所定の回転ピンおよび固定ピン(SUS306製、3mm直径)を介して20gの加重が加えられたテープをロードセルで引き上げ(1pass)、その時にロードセルにかかった加重を摩擦(μ)に換算した。
【0058】耐久摩擦上記の初期摩擦を測定する装置を用い、200pass目の摩擦(μ)を測定した。
【0059】スチルソニー社製S1500デッキを用いて、出力が−5dBになるまでの時間を測定した。
【0060】電磁変換特性ソニー社製S1500デッキにて7MHzの出力を測定した。比較例12を0dBとして相対評価した。
【0061】保存特性80℃、90%RH環境下に1週間保存した後の飽和磁束密度の変化量を測定した。
【0062】
Bm(%)=(Bb−Ba)/Bb × 100Bbは保存前の飽和磁束密度、Baは保存後の飽和磁束密度を表す。
【0063】これらの結果を下記表1、表2および表3に示した。
【0064】
【表1】


【0065】
【表2】


【0066】
【表3】


【0067】
【発明の効果】上記の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は非磁性支持体上に少なくとも2層以上の強磁性金属薄膜が形成され、さらに強磁性金属薄膜の上に保護層が形成されている磁気記録媒体において、前記保護層は、炭化水素ガスと水素ガスを原料として形成されたプラズマ重合膜であり、屈折率1.9〜2.15、接触角80度未満の物性を備え、前記強磁性金属薄膜は、その膜中の厚さ方向に亘って渡って万遍なく5at%以上の酸素を含有し、最上層の強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Tuが10〜30at%、その下に位置する強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Toが15〜50at%であり、かつTu/To比が0.3以上0.8以下であるように構成しているので、電磁変換特性が極めて優れ、耐久性や耐食性等の信頼性にも優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体の断面図である。
【図2】強磁性金属薄膜中の厚さ方向に存在する所定の酸素濃度分布を説明するための図である。
【図3】プラズマ重合膜形成装置の概略正面図である。
【符号の説明】
1…磁気記録媒体
10…非磁性支持体
13…強磁性金属薄膜
15…強磁性金属薄膜
18…保護層(プラズマ重合膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性支持体上に少なくとも2層以上の強磁性金属薄膜が形成され、さらに強磁性金属薄膜の上に保護層が形成されている磁気記録媒体において、前記保護層は、炭化水素ガスと水素ガスを原料として形成されたプラズマ重合膜であり、屈折率1.9〜2.15、接触角80度未満の物性を備え、前記強磁性金属薄膜は、その膜中の厚さ方向に亘って万遍なく5at%以上の酸素を含有し、最上層の強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Tuが10〜30at%、その下に位置する強磁性金属薄膜の最大酸素濃度Toが15〜50at%であり、かつTu/To比が0.3以上0.8以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】 前記保護膜としてのプラズマ重合膜は、原料ガスとして炭化水素ガスと水素ガスの混合物を用いて水素ガスに対する炭化水素ガスの流量比を1〜5とし、放電周波数を50kHz〜450kHzにて成膜する請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】 前記強磁性金属薄膜は、コバルトまたはコバルトを主成分とする合金からなり、蒸着法にて形成される請求項2記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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