説明

磁気記録媒体および磁気記録装置

【課題】耐食性に優れた磁気記録媒体を実現する。
【解決手段】非磁性基板上に磁気記録層、保護層および潤滑層を配置した磁気記録媒体であって、前記潤滑層が複素環を有する化合物を含む、前記磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の情報記録が可能な磁気記録媒体、特に高密度記録に好適なパターンドメディア、磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータのみならず家庭用の電化製品にも小型で大容量の磁気ディスク装置が搭載されるなど、磁気記録装置の大容量化の要求は強く、記録密度の向上が求められている。これに対応すべく、磁気ヘッドや磁気記録媒体などの開発が精力的に行われている。もともと面記録密度の向上が図られてきているが、ダウンサイジングやこれまで以上の飛躍的な記録密度の向上が求められてきている。そこで、隣接する記録トラックを溝または非磁性体で分離してトラック間の磁気的干渉を抑制するディスクリートトラック媒体(例えば、特許文献1参照)や、隣接する記録ビットを溝または非磁性体で分離してビット間の磁気的干渉を抑制するパターンド媒体(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
磁気記録媒体では、磁気ヘッドの浮上安定性を確保するために、表面の平坦性が重視される。面記録密度が高く、記録磁区が小さいディスクリートトラック媒体やパターンド媒体の場合、特に表面の平坦性が重要であるため、磁性体領域間の溝を非磁性体で充填する。さらに、従来の記録媒体と同様にディスクリート媒体やパターンド媒体においても、記録層の保護および潤滑剤の吸着のために、記録層の上に炭素系材料の保護膜が形成されるのが一般的である。炭素系材料の中でもダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCという)はアモルファスであることから表面平滑性に優れ、耐久性、耐食性にも優れることから利用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、ディスクリートトラック媒体やパターンド媒体の信頼性の向上においては、ドライエッチング等により磁性膜に凹凸加工をする際のダメージによる腐食や、記録層の磁性領域と非磁性領域との極微小な隙間や欠陥に起因する腐食の問題が顕在化している。従来の耐食性向上技術の例を挙げると、垂直磁気記録媒体においては、腐食が一番問題となる軟磁性下地層に関して、その上層であるシード層の材料や構造の組み合わせを選ぶことによって耐食性が向上することが提案されている(例えば、特許文献4)。さらに、ディスクリートトラック媒体やパターンド媒体においても、記録層と保護膜の間に導電膜を形成することで磁性体領域の腐食が抑制されることが提案されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−85406号公報(図1)
【特許文献2】特許第3286291号公報(段落番号[0025])
【特許文献3】特開2006−120222号公報(段落番号[0025])
【特許文献4】特開2007−184019号公報(図1)
【特許文献5】特開2006−228282号公報(段落番号[0051])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、磁性体領域の腐食を抑制するためにその上層に保護膜を形成すると、磁気ヘッドと磁気記録媒体の磁気的距離が増加し、磁気記録特性は劣化する。一方、磁気特性向上のために保護膜の薄膜化を進めていくと、耐食性の観点から製品性能を満足する結果を得ることが難しくなってくる。つまり、従来知られている磁気記録層の磁性体領域の防食技術では、高い磁気記録特性と耐食性を両立することができないという問題があることが判明した。
【0007】
本発明の第一の目的は、磁気記録特性と耐食性に優れた磁気記録媒体、特にディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体を実現することである。
【0008】
本発明の第二の目的は、このディスクリート媒体またはパターンド媒体の性能を十分活かした磁気記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、保護膜上に塗布する潤滑層に耐食性の機能を持たせることが重要である。これには、大きく分けて以下の2つの手法がある。
【0010】
(1)ディスクリートトラック媒体またはパターンド媒体に関して、保護膜上に塗布する潤滑層中に潤滑剤とともにコバルトまたはコバルト合金に対して腐食抑制作用を有する化合物を共存させる。
【0011】
(2)潤滑特性を示す化合物の少なくとも一方の末端をコバルトまたはコバルト合金に対して腐食抑制作用を有する官能基で修飾させた潤滑剤を塗布する。
【0012】
上記磁気記録媒体の記録層において腐食が一番問題となるのは、磁性体領域に使用しているCo系合金である。Co系合金は耐食性に優れていないばかりではなく、水溶液環境中において非常に卑な電位を持つため、近隣する金属との間においてガルバニック腐食(異種金属間腐食)を生じる。グラニュラー型磁気記録層の場合には、記録層の結晶粒界への酸化物の偏析を促進させるために、RuまたはRu合金が記録層の下層に形成される。記録層の加工部である凹部において、加工ダメージによりRuまたはRu合金層と記録層との接触部が現れた場合、RuまたはRu合金は貴金属であるために非常に電位が高いことから、記録層のCo合金の腐食がガルバニック腐食を生じ、単体の腐食よりも加速される。また、ディスクリートトラック媒体やパターンド媒体においては、ドライエッチング等により磁性膜に凹凸加工をする際にダメージを受けるため、磁性体領域の腐食が加速されるという問題が顕在化している。このような点で、加工部における記録層である磁性体領域の腐食を抑制するには、加工部における記録層の磁性体領域にコバルトもしくはコバルト合金に対して腐食抑制作用を示す有機物を、潤滑保護膜上に塗布する潤滑層中に設けることにより異種金属接触による腐食や加工ダメージによる腐食を防止することができることを見出した。この場合、選定する有機物の特性が重要となる。
【0013】
腐食の観点から要求される加工部における記録層の磁性体領域に設ける有機物の性質としては、
(i)CoまたはCo合金に対して腐食抑制作用を示すこと、
(ii)欠陥ができるだけ少なく、平滑で緻密な膜が構成されること、
(iii)磁気ヘッドと磁気記録媒体の磁気的距離の増加による磁気記録特性の劣化を引き起こさない構造を有すること、
が挙げられる。
【0014】
また、有機物層そのものの性質ではないが、磁性層に影響を与えないことが上げられる。また、腐食環境としては基本的には水系であるが、潤滑剤の分解による酸性化またはアルカリ化、塩化物の混入等の要素があり、幅広いpH環境での耐食性が要求される。特に腐食が問題となる箇所は、記録層の磁性体層と非磁性体層との境界部であり、この部分は隙間を形成すると考えられるために、この部分で腐食が生じる環境としては酸性となる。このことから特に酸性領域における耐食性が要求される。
【0015】
上記項目の(i)に関しては、種々検討した結果、ベンゾトリアゾール(BTA)で代表される複素環を有する有機化合物層がCoまたはCo合金の腐食を抑制することを見出した。ベンゾトリアゾールで代表される複素環を有する有機化合物層に関しては、複素環中のヘテロ原子と記録層中のCoとが強く結合するとともに、複素環同士がネットワークを形成するために耐食性が向上すると考えられる。
【0016】
(ii)に関しては、複素環を有する化合物層、例えばベンゾトリアゾールの場合、CoまたはCo合金材の表面には、必ず、原子オーダーの薄い酸化Coの皮膜が自然に形成されているが、BTA分子はこの酸化Coと強い配位結合を形成すると共に、BTA分子同士も共有結合を形成して、CoまたはCo合金の表面に強固なBTA高分子膜を形成するために、極めて緻密な欠陥のない、しかも、密着性に優れた皮膜が形成される。
【0017】
(iii)に関しては、塗布する潤滑層の厚さを数nmに制御することである。BTAは分子オーダーで配列することから磁気記録媒体の磁気的距離の増加による磁気記録特性の劣化を引き起ことなく、腐食を抑制させることが可能となる。
【0018】
これらのことから、保護膜上に塗布する潤滑層に耐食性の機能を持たせることによって、耐食性を向上させることができる。
【0019】
すなわち、本発明は、非磁性基板上に磁気記録層、保護層および潤滑層を配置した磁気記録媒体であって、前記潤滑層が複素環を有する化合物を含む、前記磁気記録媒体を包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁気記録層上の保護膜上に塗布する潤滑層中に、コバルトもしくはコバルト合金に対して腐食抑制作用を示す有機物を導入することによって、耐食性に優れた磁気記録媒体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】磁気記録媒体の断面構造を模式的に示す。
【図2】磁気記録媒体の製造方法を示す。
【図3】磁気記録装置を上から見た概略図を示す。
【図4】磁気記録装置の断面図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、非磁性基板上に磁気記録層、保護層および潤滑層を配置した磁気記録媒体であって、前記潤滑層が複素環を有する化合物を含む、磁気記録媒体に関する。
【0023】
「複素環」とは、ヘテロ原子を含む環系である。ヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、リン原子、ホウ素原子などを挙げることができる。好ましくは、窒素原子、硫黄原子および酸素原子を挙げることができる。
【0024】
複素環の環員原子として含まれるヘテロ原子の数に特に制限はないが、ヘテロ原子を2つ以上含む複素環は強い防食作用を示すため好ましい。複素環の環員原子の数に特に制限はないが3〜14であることが好ましく、5〜10であることが特に好ましい。
【0025】
本発明における「複素環」には、芳香族複素環および脂環式複素環のいずれもが含まれる。また、複素環と炭化水素環との縮合環も本発明における複素環に含まれる。更に、炭化水素環には芳香族炭化水素環および脂環式炭化水素環のいずれもが含まれる。
【0026】
複素環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、フラン、オキサゾール、イソオキサゾール、チオフェン、チアゾール、チアジアゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、ラクタム、ラクトン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、プリン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、キノリン、イソキノリン、ヒドロキノリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、クマリン、プテリジンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、芳香族複素環を使用することができ、具体的には、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、ベンゾチアゾールおよびベンゾトリアゾールを使用することができる。
【0027】
「複素環」は置換基で置換されていてもよいし、置換されていなくともよい。置換基としては、特に限定されないが、アルキル基(例えば、C1-C6アルキル基)、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、アリール基(例えば、フェニル基)などを挙げることができる。
【0028】
本発明における「複素環を有する化合物」には、無置換または置換基で置換された複素環からなる化合物(以下、「複素環式化合物」という)(例えば、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、アルキル置換ベンゾトリアゾールなど)が含まれる。
【0029】
更に、「複素環を有する化合物」としては、潤滑剤残基の末端に複素環を有する化合物も挙げることができる。ここで、「潤滑剤残基」とは潤滑剤化合物と複素環式化合物との結合により得られる化合物における潤滑剤化合物部分を意味する。本発明における潤滑剤化合物としては、特に限定されず、本発明の属する分野において一般的に使用されている様々なものを使用することができる。例えば、炭化水素系潤滑剤、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤、フォンプリン系潤滑剤などを挙げることができる。好ましくは、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤を使用することができる。パーフルオロポリエーテルとしては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド重合体、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体、これらの共重合体などを挙げることができる。パーフルオロポリエーテルの分子量は、特に限定されないが、1000〜4000であることが好ましい。
【0030】
例えば、以下の式:
【0031】
【化1】

[式中、Rはアルキル基であり、p、q及びnは互いに独立して0または正の整数であり、好ましくは分子量が1000〜4000となるような整数である]
で示されるパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を挙げることができる。
【0032】
複素環は潤滑剤残基の末端に結合していることが好ましい。例えば、以下の式:
X-(L1)l-Cf-(L2)m-Y
F-Cf-(L3)n-Het
[式中、
XおよびYは互いに独立して複素環、(C1-C6)アルキル、フッ素、カルボキシル、ヒドロキシルまたは水素であるが、XおよびYの少なくとも一方は複素環であり、
L1、L2およびL3は互いに独立して二官能性官能基、例えば、(C1-C6)アルキレン基、(C1-C6)アルキレンオキシ(C1-C6)アルキレン基であり、
Cfはパーフルオロポリエーテル基であり、
Hetは複素環であり、
l、mおよびnは互いに独立して0または1である]
で示されるような複素環含有パーフルオロポリエーテル系潤滑剤を使用することが好ましい。より具体的には、以下の式:
【0033】
【化2】

[式中、Hetは複素環であり、mおよびnは互いに独立して0または正の整数であり、好ましくはパーフルオロポリエーテルの主鎖の部分の分子量が1000〜4000となるような整数である]
で示されるような複素環含有パーフルオロポリエーテル系潤滑剤を使用することが好ましい。
【0034】
潤滑剤残基と複素環とが複素環のヘテロ原子を介して結合していない、つまり複素環の炭素原子を介して結合していると高い腐食抑制効果を得ることができる。例えば、以下の式:
【0035】
【化3】

で示されるような複素環含有パーフルオロポリエーテル系潤滑剤を使用することが好ましい。
【0036】
潤滑層中に複素環を有する化合物を含ませることにより、耐食性を維持したまま保護層の厚さを薄くすることができる。これにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との磁気的距離を減少させることができ、磁気特性を向上させることができる。つまり、本発明によれば高い耐食性と高い磁気特性を両立することができる。
【0037】
保護層の厚さは磁気特性との関係より、薄いほうが好ましい。厚さに特に制限はないが10nm以下であることが好ましく、2nm以下であることが特に好ましい。保護層の構成材料は特に制限されないが、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケル、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素などを挙げることができる。本発明においてはカーボンを使用することが好ましい。
【0038】
なお、複素環を有しなくとも、不対電子を持つ窒素原子、硫黄原子、酸素原子などを有する化合物を使用することができる。これらの原子は1種のみを使用しても、数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態としては、潤滑層が複素環を有する化合物(特に、複素環式化合物)と潤滑剤化合物とを含む磁気記録媒体を挙げることができる。この実施形態においては、複素環式化合物と潤滑剤化合物とは異なる化合物である。
【0040】
本発明の一実施形態としては、潤滑層が潤滑剤残基の末端に複素環を有する化合物を含む磁気記録媒体を挙げることができる。この実施形態において、前記化合物は潤滑剤としてだけではなく、腐食抑制剤としても機能する。
【0041】
本発明の一実施形態としては、潤滑層が複素環を有する化合物(特に、複素環式化合物)と潤滑剤残基の末端に複素環を有する化合物とを含む磁気記録媒体を挙げることができる。
【0042】
本発明は、末端に複素環を有するパーフルオロポリエーテル誘導体も包含する。前記誘導体は末端と複素環とが複素環の炭素原子を介して結合していることが好ましい。末端に複素環を有するパーフルオロポリエーテル誘導体は潤滑剤および腐食抑制剤として使用することができる。
【0043】
更に、本発明は、磁気記録媒体と;前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と;記録部および再生部を備えた磁気ヘッドと;前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対的に駆動する手段と;前記磁気ヘッドに対する入力信号および出力信号を波形処理する信号処理手段と;を有する磁気記録装置も包含する。本発明の磁気記録装置によれば、1平方センチあたり95ギガビット以上の記録密度を達成することができる。
【0044】
本発明の基本的なパターンドメディアの磁気ディスク構造の断面図を図1に示す。本発明の基板にガラスディスク基板11を使用し、その上に密着層12、軟磁性下地層13、シード層14、中間層15、記録層16が形成されている。記録層16には凹凸が形成されており、凸部が磁性領域17、凹部が非磁性領域18となっている。記録層の上には保護膜20が形成されている。その上に潤滑層19が形成(塗布)されている。
【0045】
密着層の材料としては、基板の密着性、表面平坦性に優れていれば特に限定されるものではないが、Ni、Al、Ti、Ta、Cr、Zr、Co、Hf、Si、Bの少なくとも二種以上の金属を含む合金で構成することが好ましい。より具体的には、NiTa、AlTi、AlTa、CrTi、CoTi、NiTaZr、NiCrZr、CrTiAl、CrTiTa、CoTiNi、CoTiAl等を用いることができる。
【0046】
軟磁性下地層は、飽和磁束密度(Bs)が少なくとも1テスラ以上で、ディスク基板の半径方向に一軸異方性が付与されており、ヘッド走行方向に測定した保磁力が1.6kA/m以下で、さらに表面平坦性に優れていれば特に材料を限定するものではない。具体的には、Co、NiもしくはFeを主成分とし、これにTa、Hf、Nb、Zr、Si、B、C等を添加した非晶質合金を用いると上記特性が得られやすい。さらに軟磁性下地層に非磁性層を挿入した積層構造にすることによりノイズを低減することが可能となる。この非磁性層の材料としてはCoCr合金、Ru、Cr、Cu、MgOなどを用いることが望ましい。
【0047】
シード層の役割は、中間層の配向および結晶粒径を制御することが目的であり、Niを主成分としたfcc合金を使用することができる。代表的なものとしてNiにW、Fe、Ta、Ti、Ta、Nb、Cr、Mo、V、Cu等から選ばれた1種以上を含む合金を用いることができる。また耐食性を向上させるために、シード層を2層構造とし、上記シード層を記録層側のシード層(第2シード層)とし、第2シード層と軟磁性層の間に、第1シード層として、CrにTa、Ti、Nb、Alを添加した合金を挿入しても良い。
【0048】
中間層としては、Ru単体か、Ruを主成分とした六方稠密格子(hcp)構造やfcc構造の合金を用いることができる。
【0049】
記録層の凸部に形成される磁性層材料としては、CoCrPt合金等のCoCr系合金、FePt系合金等を主成分とし、これにSiO2などの酸化物を添加したグラニュラー構造を有する合金、具体的にはCoCrPt−SiO2、CoCrPt−MgO、CoCrPt−TaOなどを用いることができる。また凹部に形成される非磁性材料としては、SiO2、Al2O3、TiO2、フェライト等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物を用いることができる。CoおよびPtの濃度としては、Cr濃度が15〜25at%、Cr濃度が10〜20at%であると良好である。磁性体の底部に形成される保護膜Bは、磁性層加工時に受けるダメージによる欠陥を補修する目的で導入される層であり、不動態化する金属またはその合金層またはカーボン層で構成される。不動態化する金属としては、Cr、Ti、Ni、Mo、Nb、W、Ta、Zrやそれらを少なくとも1種以上を含有する合金を使用することができる。特にCrを含有する合金が望ましい。記録層上に形成される保護膜Cの材質は、ダイヤモンドライクカーボン等で代表される、硬質炭素膜が使用される。さらに図1では示していないが、保護膜の上には、潤滑層が形成されている。
【0050】
次に図2を参照して上記磁気記録媒体の製造方法について説明する。磁気記録媒体は基本的には、ANELVA製スパッタ装置(C3010)を用いて作製した。このスパッタ装置は10個のプロセスチャンバと1個の基板導入チャンバから構成され、それぞれのチャンバは独立に排気されている。全てのチャンバの排気能力は6×10−6Pa以下である。まず図2(A)に示すように基板11には直径63.5mmのガラス基板を用いた。スパッタリング法により密着層12、軟磁性下地層13、シード層14、中間層15、記録層(磁性領域)17を順次形成した。代表的な各層の組成および膜厚は、表1に示す通りである。表1に示した組成、膜厚は、あくまで代表的なものであり、これ以外の組成や膜厚のものを使用しても、同じ結果を得ることができる。例えば、第一シード層にCr50Ti50/第二シード層にNi90Ti10を使用した場合、シード層を二重シードにせずNiWTa等を使用した場合、記録層にCoCrPt−TaOを使用した場合などにおいても、同様の結果を得ることができる。
【0051】
【表1】

【0052】
続いて、図2(2-B)および(2-C)に示すように、記録層の磁性領域17上に保護膜A 24を形成した後、保護膜A 24上にレジスト21をスピンコート法を用いて塗布する。レジスト層の材料としては、例えば、ポジ型レジストなどが使用される。保護膜A 24はレジスト21を塗布してディスクリートトラックを形成する工程において、記録層(磁性領域)17の腐食を防止する目的で形成するものである。続いて、図2(2-D)に示すように、このレジスト層に転写装置を使用してサーボ領域のサーボパターンおよびデータ領域のトラックパターンに相当する所定の間隔を有する凹凸パターンをナノ・インプリント法により転写する。続いて、反応性イオンビームエッチング法により、レジスト除去部の保護層A 24を除去する。
【0053】
さらに図2(2-F)に示すように、イオンミリングを用いて記録層の磁性領域17の一部を除去して凹部を形成する。ここでは図2(2-G)に示すように、除去する層が記録層の下地の中間層に達していても、問題はない。次に、保護膜およびレジスト層を除去した後(図2(2-G))、図2(2-H)に示すように、カーボン膜や不動態化する金属を使用して保護膜B 25をスパッタ法で形成する。続いて、図2(2-I)に示すように、凹部にスパッタリング法を用いて非加工体の表面に非磁性体18を凹部の厚さより若干厚く充填する。続いて、図2(2-J)に示すように、エッチング法(例えばCMP法)により余剰の充填層18(非磁性領域)および保護膜B 25(記録層磁性体領域上部にある)を除去し、図2(2-D)〜(2-I)に示した工程で生じた媒体表面の凹凸を平滑化する。続いて、図2(2-K)に示すように、平滑化した面に保護層C 20をCVD法を用いて堆積した後、保護膜Cの上に液体潤滑層19を塗布する。
【0054】
潤滑層の形成方法としては、ハイドロフルオロエーテルなどの揮発性の有機溶媒に、所定の量の潤滑剤化合物および前記複素環を有する化合物(例えば、複素環式化合物、または式5、式6で表わされる新規潤滑剤)を溶解し、図2-Kで示すディスク上にワイヤーバー法、グラビア法、スピンコート法、ディップコート法等で塗布するか、真空蒸着法で付着させればよい。これにより、図1に示した記録媒体を得ることができる。
【実施例】
【0055】
耐食性の評価は以下の手順で行った。まず、温度60℃、相対湿度90%RH以上の高温多湿状態の条件下にサンプルを96時間放置する。次に、Optical Surface Analyzerを用いて半径14mmから25mmまでの範囲内における腐食点の数をカウントし、以下のようにランク付けした。カウント数が50未満のものをA、50以上200未満のものをB、200以上500未満のものをC、500以上のものをDとして評価した。実用的にはB以上のランクが望ましい。以下本発明を適用した具体的な実施例について、表および図を参照して説明する。
【0056】
実施例1
本実施例に関しては、図1および表1に示した層構成のものを使用した。保護膜Cには、カーボンを使用し、2nm成膜した。使用した充填剤はSiO2である。図2(2-K)の状態のディスク上に潤滑層を形成させた。潤滑層の形成に使用した液は、ハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製 HFE-7100)に式1で表わされるパーフロロポリエーテルおよびベンゾトリアゾールを溶解させて調製した溶液であり、これをディップ法により塗布し、最終的にHFEを蒸発させた後の潤滑層+BTA層の厚さを約2nmになるように調整した。HFE-7100とBTAの重量比は、1/0.0002になるように調整した。BTAはHFE中に溶解しないために、あらかじめBTAを極少量のエタノールに溶解させた後に、それをHFE中に溶解させた。最終的に図2(2-L)の、この媒体(サンプル1-1)の耐食性と媒体S/Nを調べたところ、18dB以上の高いS/NとAランクの優れた耐食性を得ることができた。
【0057】
実施例2
次に、HFEに潤滑剤とともに溶解させる複素環化合物の種類を変化させた場合のサンプルを作製し、同様に媒体S/N比および耐食性を評価した結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
いずれのサンプルに関しても、優れた耐食性を示した。また媒体S/Nも18dB以上であり良好であった。
【0060】
実施例3
本実施例に関しては、図1および表1に示した層構成のものを使用した。保護膜Cには、カーボンを使用し、2nm成膜した。使用した充填剤はSiO2である。図2(2-K)の状態のディスク上に潤滑層を形成させた。潤滑層の形成に使用した液は、ハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製 HFE-7100)に式7で表わされるパーフルオロポリエーテル誘導体を溶解させて調製した溶液であり、これをディップ法により塗布し、最終的にHFEを蒸発させた後の潤滑層の厚さを約2nmになるように調整した。最終的に図2(2-L)の、この媒体(サンプル1-1)の耐食性と媒体S/Nを調べたところ、18dB以上の高いS/NとAランクの優れた耐食性を得ることができた。
【0061】
実施例4
本実施例は、式7の潤滑剤のベンゾトリアゾールの部分をイミダゾール(4-1)、トリアゾール(4-2)およびテトラゾール(4-3)に変えた場合の耐食性を示している。潤滑層の形成方法は、実施例3と同様である。いずれの場合においても、最終的に図2(2-L)の、この媒体(サンプル1-1)の耐食性と媒体S/Nを調べたところ、18dB以上の高いS/NとAランクの優れた耐食性を得ることができた。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例5
本実施例に関しては、図1および表1に示した層構成のものを使用した。保護膜Cには、カーボンを使用し、2nm成膜した。使用した充填剤はSiO2である。図2(2-K)の状態のディスク上に潤滑層を形成させた。潤滑層の形成に使用した液は、ハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製 HFE-7100)に式8で表わされるパーフルオロポリエーテル誘導体を溶解させて調製した溶液であり、これをディップ法により塗布し、最終的にHFEを蒸発させた後の潤滑層の厚さを約2nmになるように調整した。最終的に図2(2-L)の、この媒体(サンプル1-1)の耐食性と媒体S/Nを調べたところ、18dB以上の高いS/NとBランクの優れた耐食性を得ることができた。
【0064】
BTAとハイドロフルオロエーテルの主鎖とが結合している部分がヘテロ原子となっているために、密着性およびネットワーク構造の適性化が式7で表わされる構造のものと比較して弱くなるために、耐食性ランクが若干低下する。
【0065】
【化4】

【0066】
実施例6
本実施例に関しては、図1および表1に示した層構成のものを使用した。保護膜Cには、カーボンを使用し、2nm成膜した。使用した充填剤はSiO2である。図2(2-K)の状態のディスク上に潤滑層を形成させた。潤滑層の形成に使用した液は、ハイドロフルオロエーテル(住友スリーエム社製 HFE-7100)に式7で表わされるパーフルオロポリエーテル誘導体およびベンゾトリアゾールを溶解させて調製した溶液であり、これをディップ法により塗布し、最終的にHFEを蒸発させた後の潤滑層の厚さを約2nmになるように調整した。HFE-7100とBTAの重量比は、1/0.0002になるように調整した。BTAはHFE中に溶解しないために、あらかじめBTAを極少量のエタノールに溶解させた後に、それをHFE中に溶解させた。最終的に図2(2-L)の、この媒体(サンプル1-1)の耐食性と媒体S/Nを調べたところ、18dB以上の高いS/NとAランクの優れた耐食性を得ることができた。
【0067】
実施例7
上記実施例に示した各種媒体を搭載した磁気記録装置の概要図を図3に示す。また図4は、図3のA-A’断面図である。筐体内には、本実施例で示したパターンドメディア媒体、これを回転する駆動機構、記録/再生部を備えた磁気ヘッド、磁気ヘッドを前記パターンドメディアに対して相対運動をさせる駆動手段と、磁気ヘッドの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号の再生を行うための記録生成信号処理手段を備えた構造となっている。磁気ヘッドは複合型ヘッドであり、トレーリングシールドヘッド型記録ヘッドとシールド型MR再生素子(GMR膜、TMR膜など)を用いた再生ヘッドとを含む。
【0068】
上記磁気記録装置は、耐食性に優れた磁気記録媒体と、磁界勾配が急峻な磁気ヘッドを搭載することにより、優れた耐食性を実現することができる。
【0069】
比較例1
本比較例は、保護膜Cがカーボンで、潤滑層中にコバルトもしくはコバルト合金に対して腐食抑制作用を示す官能基を含ませなかった場合に関して評価した(サンプル2-1)。結果は、耐食性ランクがDであり、非常に耐食性が悪い結果が得られた。
【0070】
比較例2
本比較例は、複素環を有する化合物以外の、ヘテロ原子を含有する化合物を使用した場合に関して示す。基本的な組成、膜厚は、実施例1と同様である。いずれの場合も表4に示すように、 耐食性ランクがDであり、非常に耐食性が悪い結果が得られた。
【0071】
【表4】

【符号の説明】
【0072】
1…磁気記録媒体、11…基板、12…密着層、13…軟磁性下地層、14…シード層、15…中間層、16…記録層、17…磁性体領域、18…充填体領域、19…潤滑層、20…保護膜C、21…レジスト、22…スタンパ、30…パターンドメディア、31…磁気ヘッド、32…記録再生信号処理手段、33…駆動手段、34…駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に磁気記録層、保護層および潤滑層を配置した磁気記録媒体であって、前記潤滑層が複素環を有する化合物を含む、前記磁気記録媒体。
【請求項2】
潤滑層が、複素環を有する化合物と潤滑剤化合物とを含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
複素環を有する化合物が複素環式化合物である、請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
潤滑層が、複素環を有する化合物として、潤滑剤残基の末端に複素環を有する化合物を含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
潤滑層が、複素環を有する化合物と、潤滑剤残基の末端に複素環を有する化合物とを含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
複素環を有する化合物が複素環式化合物である、請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
潤滑剤残基の末端と複素環とが複素環の炭素原子を介して結合している、請求項4〜6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
潤滑剤残基がパーフルオロポリエーテル基を有する、請求項4〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
複素環が環員原子として少なくとも2つのヘテロ原子を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
複素環が置換されていないか、またはアルキル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基およびアリール基からなる群から選択される置換基で置換されている、請求項1〜9のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
末端に複素環を有するパーフルオロポリエーテル誘導体。
【請求項12】
末端と複素環とが複素環の炭素原子を介して結合している、請求項11に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体。
【請求項13】
請求項11または12に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体を含む、潤滑剤および腐食抑制剤として使用するための組成物。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の磁気記録媒体と;
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と;
記録部および再生部を備えた磁気ヘッドと;
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対的に駆動する手段と;
前記磁気ヘッドに対する入力信号および出力信号を波形処理する信号処理手段と;
を有する磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−33253(P2012−33253A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148321(P2011−148321)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】