説明

磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法および磁気記録媒体のトラック偏心の調整方法

【課題】
DTM(ディスクリートトラック方式の磁気記憶媒体)等ののトラックの偏心量を磁気ヘッドにより簡単に測定することができる磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法を提供することにある。
【解決手段】
この発明は、偏心をもってスピンドルに装着されたDTM等の所定のトラックに書込まれたテストデータを読出して読出信号を得て、読出信号の包絡線波形を検出して複数の島状となって得られる包絡線波形の数をカウントすることにより偏心量を測定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法およびトラック偏心の調整方法に関し、詳しくは、薄膜インダクティブヘッド(ライトヘッド)の書込感度幅より狭いトラック幅を持つディスクリートトラック方式の磁気記録媒体(ディスクリートトラックメディア(DTM))のトラックの偏心量を磁気ヘッドにより簡単に測定して偏心を補正することができる磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法およびトラック偏心の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD(ハードディスク駆動装置)は、現在では自動車製品や家電製品、音響製品の分野にまで浸透し、3.5インチから1.8インチに、さらには1.0インチ以下のハードディスク駆動装置が各種製品に内蔵され、使用されている。それによりHDDの低価格化と大量生産化が求められ、しかもその記憶容量は大きいことにこしたことはない。
前記のような要請に応えるために最近実用化に至った超高密度記録の垂直磁気記憶方式の磁気ディスクメディアが前記の分野で採用され、急速に普及しつつある。
【0003】
超高密度記録の垂直磁気記憶方式の磁気ディスクメディアは、TMR(トンネル磁気抵抗)ヘッドあるいはGMR(ジャイアント磁気抵抗)ヘッドを持つ複合磁気ヘッドが使用され、ヘッドとの距離が10ナノ以下に設定され、その距離が制御される記憶媒体である。
このような磁気ディスクメディアには、一般的にはガラス基板が用いられ、ガラス基板の上に軟磁性層が形成され、その上に磁性層が設けられる。そして、この磁性層がエッチングされることで溝を介したディスクリートなトラックがディスクサブストレート(なおここでのディスクサブストレートとはデータの読出/書込を行う磁気ディスクに対してその材料としてその前段階にある各種のディスク基板を指している。)に形成される。
トラック間を隔絶する溝のエッチングは、凹凸を持つフォトレジスト膜を介して行われる。フォトレジスト膜の凹凸は、ナノインプリントリソグラフィ法によりディスクサブストレートの磁性層にフォトレジスト膜を塗布してフォトレジスト膜層の上から凹凸を持つスタンパを押付けることで形成される。この凹凸のフォトレジスト膜を介してドライエッチングにより形成されるディスクリートなトラックの幅は100nm以下であり、トラック間を隔絶する溝には後の工程で非磁性体が充填される(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2007−012119号公報
【特許文献2】特開2007−149155号公報
【0004】
この種の磁気ディスクは、ディスクリートトラック方式の磁気記録媒体(ディスクリートトラックメディア(DTM))と呼ばれ、数年後には、2.5インチで1テラビット/(インチ)を越える超高密度記録が可能な技術として現在注目されている。さらに、ディスクリートトラックをトラック方向におて微細に磁区分割したビットパターンドメディア(BPM)もすでに実用化の段階に入っている。
HDDに使用される従来の磁気ディスクは、媒体全面に一様に磁性膜が形成されているので、ライトヘッドによりテストデータ(テストバースト信号)を任意のトラックに記録することが容易であり、それをリードヘッドにより読出し、磁気ディスクの検査をすることが容易にできる。
しかし、DTMあるいはBPMではデータ書込が可能な磁性体領域が非磁性体領域により隔絶されていて、トラックの領域が制限されている。しかも、そのトラック幅は極めて狭い。そのため、ライトヘッドによりテストデータを任意のトラックに記録することが従来に比べて難しくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DTMを例に採ると、通常のDTMでは、スピンドルの回転中心に対してDTMの中心が、そしてDTMの中心に対してこれに形成されたディスクリートトラックの中心がそれぞれに偏心していて、これらを段階的に補正しない限り、スピンドルの回転中心に対して形成されたトラックは偏心を持つことになる。
DTM,BPMは、ライトヘッドの書込感度幅よりトラック幅が狭いため、ディスクがスピンドルに取付けられると、その偏心により隣接トラック間で書込干渉が発生する。
サーボパターンが形成されている偏心量が少ないDTMなどでは、オントラックサーボ制御(以下ONトラックサーボ制御)をすることで、トラックへのデータ書込とトラックからのデータ読出ができるが、偏心量が多くなるとそれも難しくなる。また、サーボパターンが形成されていないDTMでは偏心量を調整して所定値以内に補正しておかないと、この種の記憶媒体では検査をすることが難しい。
スピンドルの回転中心に対するDTMの中心の偏心は、ディスク外周の変化を光学的手段でトラッキングして演算処理をして中心点の座標等を算出することで容易に得られる。これに対してDTM上に形成されたトラックの偏心量を測定する場合にも光学的な手段でトラックをトラッキングしてデータ処理をすれば中心点の座標等を算出することが可能である。
しかし、後者の場合、光学的手段により得た情報に基づいて演算処理をして中心点の座標等を算出する場合には光学的なトラック検出系とコンピュータによるデータ処理が必要になる。しかも、DTMのトラック幅は、現在では数十nmであり、光学的なトラッキングが難しく、検査の際のデータ処理量が多くなる問題がある。
この発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決するものであって、DTM等ののトラックの偏心量を磁気ヘッドにより簡単に測定することができる磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法を提供することにある。
また、この発明の他の目的は、DTM等のトラックの偏心量を磁気ヘッドにより簡単に測定して偏心を補正することができる磁気記録媒体のトラック偏心の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための第1の発明のトラック偏心の測定方法およびトラック偏心の調整方法の特徴は、データ書込が可能な磁性体領域を非磁性体領域により隔絶したディスクリートトラック方式あるいはビットパターンド方式の磁気記録媒体のトラックの偏心の測定方法において、
1回転に複数トラックがアクセスされる偏心をもってスピンドルに装着された前記の磁気記録媒体に対してライトヘッドとリードヘッドを有する複合磁気ヘッドを所定のトラックに位置決めしてライトヘッドによりテストデータを偏心に応じた複数トラックに亙って1回転分書込み、複数トラックに亙って書き込まれたテストデータをリードヘッドより読出してその読出信号の波形から非磁性体領域で分離された複数の包絡線波形を得て、その個数をカウントすることにより磁気記録媒体におけるトラックの偏心量を測定するものである。
また、第2の発明は、1回転に複数トラックがアクセスされる偏心をもってスピンドルに装着された磁気記録媒体の偏心に応じた複数のトラックをDCイレーズして磁気記録媒体に対してライトヘッドとMRヘッドを有する複合磁気ヘッドのMRヘッドにより複数トラックをアクセスしてその読出信号の波形から非磁性体領域で分離された複数の波形を得て、その個数をカウントすることにより磁気記録媒体におけるトラックの偏心量を測定するものである。
さらに、第3の発明は、第1の発明あるいは第2の発明において、さらに、スピンドルに装着された前記磁気記録媒体の中心をスピンドルの中心に対して相対的に移動させる中心位置調整機構を備えていて、カウントされたカウント値を所定値と比較して、所定値以上のときには中心位置調整機構によりスピンドルの中心に対しての磁気記録媒体の中心を移動して所定値以下になるまで偏心量の測定を繰り返すものである。
【発明の効果】
【0007】
このように第1の発明および第3の発明にあっては、偏心をもってスピンドルに装着されたDTM等の所定のトラックに書込まれたテストデータを読出して読出信号を得て、読出信号の包絡線波形を検出して複数の島状となって得られる包絡線波形の数をカウントすることにより偏心量を測定するものである。
DTMあるいはBPMのトラックの間には、データの書込が不可能な非磁性体領域があるので、ここをリードヘッドがトレースしたときには、読出電圧はゼロレベルに近いところまで低下する。そこで、読出信号の包絡線電圧波形を検出すると、複数の島状となった多数の包絡線波形が得られる。
記録媒体の1回転における包絡線波形の数は、偏心量の2倍となって現れてくるので、中心点の座標等を算出することなく、包絡線波形の数により偏心量の測定ができる。
そこで、その数が所定値以下になるようにスピンドルに対するディスクの位置を調整することができ、これにより偏心を抑えることができる。
なお、偏心を調整する方向は、複数の包絡線波形のうちの最大幅の包絡線波形の位置あるいは複数の包絡線波形の間隔のうち最大間隔の間隔の位置に対応する角度を偏心方向として算出することが可能である。
【0008】
テストデータを書込まない第2の発明および第3の発明においてもMRヘッド素子の抵抗値が磁性体部分をトレースしたときと非磁性体部分をトレースしたときとでは、抵抗値が変化するので、MRヘッドの読出状態では、その読出信号から同様な複数の波形を得ることができる。これにより偏心量の測定が可能となる。
その結果、DTM等のトラックの偏心量を磁気ヘッドにより簡単に測定することができ、DTMあるいはBPM等の検査の際には、DTMあるいはBPM等の偏心量を抑えて、所定のトラックへのデータ書込とトラックからのデータ読出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、この発明における磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法を適用した一実施例の検査装置のブロック図、図2(a)は、DTMの偏心したトラックにテストデータをライトした場合の軌跡の説明図、図2(b)は、DTMの偏心したトラックからテストデータを読出す場合の軌跡の説明図、図2(c)は、読出信号から得られる包絡線検出波形の説明図、図3は、包絡線検波をした場合のトラック1周分の包絡線波形の説明図、図4は、テストデータを書込まないで包絡線検波をして得られるトラック1周分の包絡線波形の説明図、図5は、偏心量測定処理のフローチャートの説明図、そして図6は、ディスク中心位置補正機構の断面説明図である。
図1において、10は、検査装置であって、DMT1が回転機構2のスピンドル2a に装着されて回転し、スピンドル2aの回転状態を検出するロータリエンコーダ2bがDMT1の回転基準位置(インデックス信号、以下INDX)を示すパルスとこれよりの回転角度θ(=磁気ディスクの回転量)を示すパルスとを発生してこれらパルスを後述の書込/読出制御ユニット51、エラー検出ユニット52と欠陥検出処理・制御部54とに送出する。
【0010】
書込/読出制御ユニット51は、書込み側のライトヘッドに与えられたテストバースト信号を所定の電流値の信号に変換してこれを所定のタイミングでインデックス信号INDXあるいはセクタ信号に同期させて書込/読出回路50の書込回路へと送り、これを介してヘッド9を駆動してテストデータ(テストバースト信号)の書込処理をする。
欠陥検出処理・制御部54は、回転するDMT1に対して、その内部に設けられたMPU(マイクロプロセッサ)541が書込/読出制御ユニット51に対してDMT1の半径方向の移動速度としてのテストピッチあるいは目標トラックへのシーク信号とテストバースト信号、例えば、前記したFFhのデータを送出する。
なお、インデックス信号INDXに同期して1周を所定数分割した各セクタ対応の各セクタ信号もロータリエンコーダ2bから発生するが、この各セクタ信号は、インデックス信号INDXを受けたMPU541が1周分を等分割の処理をすることでソフトウエア処理にて欠陥検出処理・制御部54内部で発生させて前記の各回路に送出してもよい。
【0011】
55は、ヘッドアクセス制御回路であって、欠陥検出処理・制御部54により制御されてヘッドキャリッジ6を駆動して複合ヘッド9(以下ヘッド9)を所定のトラックへシークさせて位置決めする制御をする。
ヘッドキャリッジ6は、ライトヘッドとMRヘッド(リードヘッド)を有するヘッド9をヘッドカートリッジ7を介して支持し、ヘッド9をDMT1の半径方向に移動してDMT1のトラックをヘッド9にアクセスさせる。
ヘッドカートリッジ7にはサスペンションスプリング8が固定されている。サスペンションスプリング8の先端側にヘッド9が搭載されている。ヘッド9は、DTM1の半径R方向に移動してDTM1のトラックをシークしてそのトラックに位置決めされてそのトラックからデータを読出し、あるいはそのトラックにデータを書込む。
ヘッドカートリッジ7は、ヘッド9をヘッドキャリッジに装着するものであって、ヘッド9を着脱可能に搭載し、内部には読出アンプと書込アンプ等が設けられている。読出アンプは、MRヘッドから読出信号を受けてそれを増幅して書込/読出回路50と包絡線波形検出回路3へ送出する。
【0012】
ヘッド9には、ライトヘッドとMRヘッド(リードヘッド)9aとが一体的に組込まれている。また、ロータリエンコーダ2bの出力は、書込/読出制御ユニット51のほかにエラー検出ユニット52と欠陥検出処理・制御部54に入力されている。
ところで、裏面側にも複合磁気ヘッドがあるが、これについては前記ヘッド9と同様なものであるので、図では省略してある
ヘッド9により読出されたテストバースト信号は、ヘッドカートリッジ7に設けられた読出アンプを介して書込/読出回路50に加えられ、書込/読出回路50の読出回路を経てエラー検出ユニット52に読出信号として送出されてここでエラー検出が行われる。エラー検出ユニット(エラー検出回路)52で検出されたエラービットデータは、検査装置10の欠陥検出処理・制御部54に送出され、ここでエラービットデータに基づいて欠陥検出のための所定の解析とデータ処理とが行われる。
【0013】
これとは別にヘッドカートリッジ7に内蔵した読出アンプから得られる読出信号を受ける包絡線波形検出回路3、包絡線波形検出回路3の出力をA/D変換するA/D変換回路(A/D)4とが設けられ、A/D4の出力が欠陥検出処理・制御部54に入力されている。
一方、回転機構2には、ディスク中心位置補正機構5が設けられている。
包絡線波形検出回路3は、ヘッド側の読出アンプから得られる読出信号を増幅するアンプ31、このアンプ31の出力を受けて不要な帯域信号とノイズとを除去をするBPFフィルタ回路(BPF)32、フィルタ回路32の出力信号からこれの包絡線を検波する包絡線検波回路33、そして包絡線検波回路33の出力信号に閾値設定をして閾値を越えた信号を増幅する閾値設定増幅回路34からなる。
なお、包絡線検波回路33は、テストデータの周波数に対して包絡線を検出する時定数を持った積分回路が用いられてもよい。
【0014】
欠陥検出処理・制御部54は、MPU541,メモリ542、波形データメモリ543、CRTディスプレイ544、キーボード545等からなり、これらがバス546により相互に接続されていて、メモリ542には、偏心量測定プログラム542aと、偏心方向算出プログラム542bと、欠陥データ採取プログラム542cと、欠陥分類プログラム542d、ディスク合否判定プログラム542e、そしてパラメータ領域542f等が設けられている。
欠陥検出処理・制御部54は、MPU541が偏心量測定プログラム542aを実行することで偏心量を測定し、偏心方向算出プログラム542bを実行して偏心方向を算出して偏心量と偏心方向をCRTディスプレイ544に表示する。
表示された偏心量と偏心方向に従ってディスク中心位置補正機構5によりDTM1の偏心量を補正する。これによりDTM1に形成されたトラックの偏心が補正される。そしてまた偏心量測定をする。欠陥検出処理・制御部54は、偏心補正と偏心測定とをを繰り返すことで、トラックの偏心が所定値以下になった後にDTM1の欠陥検査に入る。
なお、偏心量と偏心方向の測定は、後述するように包絡線波形検出回路3を介して包絡線波形の数と形態とにより行われる。そして偏心補正は、図6に示す、3方向にDTM1の外周に係合するマイクロメータねじ機構22により行われる。
【0015】
次に、DMT1の偏心について説明する。
偏心したDMT1での記録状態を示すのが、図2(a)である。TRは、偏心量測定のためにテストデータが書込まれる目標トラックである。図2(a)に示すようにトラックTRに書込まれるテストデータは、DTM1上のトラックの偏心によりトラックTRの前後のトラックに亙って正弦波近似の軌跡となって記録される。
前記したように、DTM1は、これの中心とスピンドル2の回転中心が、そしてDTM1の中心とこれに形成されたディスクリートトラックの中心がそれぞれに偏心していて、偏心が大きいときにはこれらを補正しない限り、DTM1の検査はできない。スピンドル2に装着されたDTM1は、通常は、2トラック分以上の偏心が必ず発生するといってよい。
【0016】
図2(a)では、その偏心量が前後2トラック分、合計5トラック分に亙る例を示してある。この場合のDTM1上の磁化状態は、ディスクリートトラックであるので、図2(b)のように連続したものとはならない。
MPU51は、偏心量測定プログラム542aを実行してこのような記録状態でテストデータを書込み、その終了後に2トラック以上に亙って書き込まれたテストデータをMRヘッド9aより読出すことになる。
その結果、包絡線波形検出回路3には、図2(c)に示すような検出信号36が得られる。
図2(c)において、35は、DTM1上の磁化記録状態であり、36は、アンプ31の入力信号でもある。この検出信号36をアンプ31で増幅した後にBPF32で、フィルタ処理をして包絡線検波回路33において図3(a)の包絡線波形信号37を得る。
【0017】
なお、包絡線波形信号37では、図2(c)に示す検出信号36に対して上部が平坦になっているが、これは、MRヘッド9a(リードヘッド)がテストデータの記録領域に完全に含まれている間は、包絡線検波回路33の出力レベルが一定になるからである。そこで、場所によっては、図3(a)に示すように上部は平坦になる。
図3(a)の38は、MRヘッド9aのDTM1上のトラック1周分の軌跡を示している。軌跡38における正側のピークは、図面上側を外周側とすると、内周側に向かって偏心が最大になったところである。これに対して軌跡38における負側のピークは、逆に外周側に向かって偏心が最大になったところである。このように偏心は2つのピークとして現れる。そして、正側ピーク付近では上部は平坦が大きくなり、負側ピーク付近では包絡線波形の間隔が大きくなる。軌跡38とトラックとの関係によってはこれらが両者が発生するときもあれば、いずれか一方のみのしか発生しない場合もあるが、いずれの場合でも平坦の幅あるいは間隔の幅が最大になるところを探れば偏心方向は分かる。
次に、包絡線検波回路33の出力信号は、閾値設定増幅回路34に入力されて図3(b)に示す閾値THより上側の包絡線波形信号39として抽出される。
図3(b)に示す閾値THより上側のトラック1周分(ディスク1回転分)の各包絡線波形39a,39b,39c…39nは、間に間隔を持ちそれぞれが確実に分離された信号になる。
【0018】
図4は、テストデータを書込まないで包絡線検波をして得られるトラック1周分の包絡線波形の説明図である。
DTM1をDCイレーズした後に任意のトラックに位置決めしてトラックの偏心に応じて複数のトラックをヘッド9によりアクセスしても図3(a),図3(b)と同様な包絡線波形を得ることができる。
その理由は、MRヘッド9aが磁性体部分をトレースしたときと非磁性体部分をトレースしたときとでは、その抵抗値が変化するからである。そこで、読出時において読出回路により所定のバイアス電流がMRヘッド9aに流されていれば、図4の下側に示すような波形をアンプ31から取出すことができる。
この実施例の場合には、図1における包絡線検波回路33を削除して、アンプ31をDCアンプに置き換えて、このDCアンプの出力を直接BPF32に入力することになる。
その結果、これによりトラックの偏心量を算出することが可能になる。
なお、前記のDTM1のDCイレーズは、DTM1の偏心に対応してアクセスされる複数のトラックだけをDCイレーズしてもよい。
【0019】
次に、図5の偏心量測定処理のフローチャートを参照して偏心量測定処理について説明する。
まず、MPU541は、偏心量測定プログラム542aを実行して、所定のトラックに位置決めしてテストデータを書込む(ステップ101)。
所定のトラックからテストデータを読出してA/D4を介して包絡線波形39a,39b,39c…39nの包絡線波形信号をデジタル値に変換して欠陥検出処理・制御部54の波形データメモリ543にトラック1周分の包絡線波形データとして記憶する(ステップ102)。
次に、波形データメモリ543に記憶された包絡線波形39a,39b,39c…39nに対応するデータから包絡線波形の数をカウントしてメモリ542のパラメータ領域542fに記憶する(ステップ103)。なお、包絡線波形の数のカウントは、包絡線波形の立上がり波形部分の数あるいは立下がり波形部分の数でもカウントすることが可能である。
次に、包絡線波形のカウント値が所定値(=6)以上であるか否かを判定する(ステップ104)。
【0020】
ここで、YESとなって所定値以上のとき、例えば、6個以上のときには偏心量を補正するために、次に複数の包絡線波形39a,39b,39c…39nのうちの底辺が最大幅の包絡線波形の位置と複数の包絡線波形の間隔のうち最大間隔の間隔の位置に対応する角度θ1,θ2(第3図(a)参照)をそれぞれ偏心方向として算出する(ステップ105)。この場合の角度θ1,θ2は、最大幅の中心位置であり、角度θ1,θ2はインデックス信号INDXを基準とした角度として算出される。
セクタ信号を開始信号としてテスト信号を書込んだ場合にもインデックス信号INDXと書込開始セクタ信号の関係からインデックス信号INDXを基準とする角度として算出することができる。
インデックス信号INDXを基準とした角度を算出する理由は、通常、スピンドル2が停止する位置は、インデックス信号INDXの位置に対応して停止するように設定され、その位置に固定されるようになっているからである。
角度θ1,θ2のうちいずれか幅あるいは距離の大きい方の角度を選択して補正方向角としてステップ102で記憶した包絡線波形の個数とともにCRTディスプレイ544に出力する(ステップ106)。
なお、このときには、角度θ1,θ2のいずれか1つのときには、いずれかの角度であるかを表示する。それによりディスク中心位置補正機構5によって補正する方向が逆方向になるからである。
【0021】
次にディスク中心位置補正機構5(後述)により偏心がなくなる方向にスピンドル2上のDTM1の中心位置を補正をする(ステップ107)。そしてステップ101へと戻る。
一方、前記のステップ103で所定値未満となってNOとなると、欠陥検出処理(ステップ108)に移り、前記した欠陥検査を実行する。
ところで、実際のDTM1の偏心量は、ステップ102でカウントしたカウント値の半分である。先に説明したように図3の軌跡38における正側のピークと負側のピークで示されるように、偏心量は2重カウントされるからである。したがって、通常のカウント値は偶数になり、DTM1の偏心量はカウント値の半分が対応する。
カウント値が6個未満ということは、2トラック程度以下をアクセスする偏心で、ほとんど偏心が発生していない状態である。
なお、DTM1の各セクタ対向にサーボパターンが記録されているときにはONトラックサーボ制御が可能となるので、カウント値に対する比較基準は、8個乃至12個程度まで上げることができる。
なお、図4のようにテストデータを書込まないで包絡線波形を得る場合には、偏心量測定処理のフローチャートにおけるステップ101の処理に換えてDCイレーズ処理が入る。
【0022】
ディスク中心位置補正機構5による偏心量調整後の欠陥検査においては、MPU541が欠陥データ採取プログラム542cを実行する。これによりヘッドアクセス制御回路55がヘッドキャリッジ6を駆動してDMT1上の半径方向に沿って与えられたテストピッチに対応する所定の移動速度でヘッド9をシークさせて、所定のテストトラックに位置決めして書込/読出制御ユニット51と書込/読出回路50を介してテストデータの書込みとそのデータの読出をする。
このとき、回転基準位置を示すインデックス信号INDXあるいはセクタ信号を書込/読出制御ユニット51が受けてそれを起点として同心円検査で複数のトラックが検査される。その結果、エラー検出ユニット52に得られた欠陥データがメモリ542に順次転送されて記憶される。
メモリ542に記憶された欠陥データは、MPU541が欠陥分類プログラム542dを実行して分類し、次に分類された欠陥データに対してMPU541がディスク合否判定プログラム542eを実行してDMT1の合否を判定する。
【0023】
図6は、ディスク中心位置補正機構の断面説明図である。
スピンドル2の外側に外筒21を設ける。この外筒21の頭部にマイクロメータねじ機構22を取付ける。マイクロメータねじ機構22は、DTM1の外周の外側に位置していて、図では、1個所だけ示してあるが、実際上は、DTM1の外周に対して120°間隔で3個設けられている。
マイクロメータねじ機構22は、内部にμmのピッチでねじが切られた筒を有し、摘み23を回転することにより、ねじに螺合するロッド24が回転してDTM1の外周に対して進退する。
スピンドル2が停止する位置は、通常、インデックス信号INDXの位置に対応して固定するように設定されているので、そこからの角度θ1,θ2のいずれかが分かれば、DTM1のチャックを解除して摘み23を回転することにより、DTM1の外周の外周をロッド24の先端で押圧することでDTM1の中心の位置をスピンドル2の中心に対してずらせて位置調整をすることができる。
このときの中心の移動は、偏心量と角度θ1,θ2のいずれかとに応じて3方向のマイクロメータねじ機構22により行うが、この場合、スピンドル2によるDTM1のチャックを解除して、移動する方向に対向する反対側のマイクロメータねじ機構22の摘み23を逆方向に回転させて後退させてから残りのマイクロメータねじ機構22の摘み23を回転させて前進させることになる。このような位置調整後のDTM1をスピンドル2が複数分割したチャック25によりチャックすることになる。なお、3分割以上に複数分割した独立の傾斜爪型チャックを用いて内周をそれぞれにチャックすることによりDTM1の内周の位置に対応してそれぞれのチャックが内周をそれぞれに位置決めしてDTM1の内周を移動設定した位置でチャックすることができる。このようにすればチャック後の中心位置ずれは起き難い。
ところで、マイクロメータねじ機構22は、DTM1の外周に対して90°間隔で2個が対向するように合計4個設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明してきたが、実施例におけるステップ103のDMT1の偏心量を判定する比較基準値は一例であって、この発明は、これに限定されない。
また、非磁性体領域で分離された包絡線波形の数のカウントは、ワンショット回路とカウンタとを組み合わせたハード回路を閾値設定増幅回路34の後段に置くことでカウントすることができる。このようにすればプログラム処理は不要である。
図1の実施例における閾値設定増幅回路34は、非磁性体領域で分離された包絡線波形等が明確に分離されて抽出されればこの発明では必ずしも設ける必要はない。
また、実施例のディスク中心位置補正機構5は、スピンドル2に対してDTM1の中心位置を移動して補正をするものであるが、この発明は、逆にDTM1の中心に対してスピンドル2の中心を移動させることであってもよい。
また、実施例におけるディスクリートトラックメディア(DTM)は、一例であって、ビットパターンドメディア(BPM)にもこの発明は適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、この発明における磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法を適用した一実施例の検査装置のブロック図である。
【図2】図2(a)は、DTMの偏心したトラックにテストデータをライトした場合の軌跡の説明図、図2(b)は、DTMの偏心したトラックからテストデータを読出す場合の軌跡の説明図、図2(c)は、読出信号から得られる包絡線検出波形の説明図である。
【図3】図3は、包絡線検波をした場合のトラック1周分の包絡線波形の説明図である。
【図4】図4は、テストデータを書込まないで包絡線検波をして得られるトラック1周分の包絡線波形の説明図である。
【図5】図5は、偏心量測定処理のフローチャートの説明図である。
【図6】図6は、ディスク中心位置補正機構の断面説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1…DTM、2…回転機構、2b…ロータリエンコーダ、
3…包絡線波形検出回路、4…A/D変換回路(A/D)、
5…ディスク中心位置補正機構、6…ヘッドキャリッジ、
7…ヘッドカートリッジ、8…サスペンションスプリング、
9…複合ヘッド、 10…検査装置、
21…外筒、22…マイクロメータねじ機構、23…摘み、
31…アンプ、32…BPFフィルタ回路(BPF)、
33…包絡線検波回路、34…閾値設定増幅回路、
50…書込/読出回路、51…書込/読出制御ユニット、
52…エラー検出ユニット、54…欠陥検出処理・制御部、
55…ヘッドアクセス制御回路、
541…MPU、542…メモリ、543…波形データメモリ、
544…CRTディスプレイ、545…キーボード、
542a…偏心量測定プログラム、542b…偏心方向算出プログラム、
542c…欠陥データ採取プログラム、542d…欠陥分類プログラム、
541e…ディスク合否判定プログラム、542f…パラメータ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ書込が可能な磁性体領域を非磁性体領域により隔絶したディスクリートトラック方式あるいはビットパターンド方式の磁気記録媒体のトラックの偏心の測定方法において、
1回転に複数トラックがアクセスされる偏心をもってスピンドルに装着された前記磁気記録媒体に対してライトヘッドとリードヘッドを有する複合磁気ヘッドを所定のトラックに位置決めして前記ライトヘッドによりテストデータを前記偏心に応じた複数トラックに亙って前記1回転分書込み、前記複数トラックに亙って書き込まれた前記テストデータを前記リードヘッドより読出してその読出信号の波形から前記非磁性体領域で分離された複数の包絡線波形を得て、その個数をカウントすることにより前記磁気記録媒体におけるトラックの偏心量を測定する磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法。
【請求項2】
さらに前記読出信号を受けてこれの電圧波形から包絡線を検出する包絡線検出回路を有し、前記磁気記録媒体は、ディスクリートトラック方式のものであり、トラック幅が前記ライトヘッドの書込感度幅に等しいかこれより狭いものであって、前記包絡線波形は、前記包絡線検出回路の出力信号に対して設定した閾値以上の信号から得られる請求項1記載の磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法。
【請求項3】
前記複数の包絡線波形のうちの最大幅の包絡線波形の位置あるいは前記複数の包絡線波形の間隔のうち最大間隔の間隔の位置に対応する角度を偏心方向として算出する請求項1記載の磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法。
【請求項4】
データ書込が可能な磁性体領域を非磁性体領域により隔絶したディスクリートトラック方式あるいはビットパターンド方式の磁気記録媒体のトラックの偏心の測定方法において、
1回転に複数トラックがアクセスされる偏心をもってスピンドルに装着された前記磁気記録媒体の前記偏心に応じた複数のトラックをDCイレーズして前記磁気記録媒体に対してライトヘッドとMRヘッドを有する複合磁気ヘッドの前記MRヘッドにより前記複数トラックをアクセスしてその読出信号の波形から前記非磁性体領域で分離された複数の波形を得て、その個数をカウントすることにより前記磁気記録媒体におけるトラックの偏心量を測定する磁気記録媒体のトラック偏心の測定方法。
【請求項5】
データ書込が可能な磁性体領域を非磁性体領域により隔絶したディスクリートトラック方式あるいはビットパターンド方式の磁気記録媒体のトラックの偏心の調整方法において、
スピンドルに装着された前記磁気記録媒体の中心を前記スピンドルの中心に対して相対的に移動させる中心位置調整機構を備え、
1回転に複数トラックがアクセスされる偏心をもってスピンドルに装着された前記磁気記録媒体に対してライトヘッドとリードヘッドを有する複合磁気ヘッドを所定のトラックに位置決めして前記ライトヘッドによりテストデータを前記偏心に応じた複数トラックに亙って前記1回転分書込み、前記複数トラックに亙って書き込まれた前記テストデータを前記リードヘッドより読出してその読出信号の波形から前記非磁性体領域で分離された複数の包絡線波形を得て、その個数をカウントすることにより前記磁気記録媒体におけるトラックの偏心量を測定し、カウントされたカウント値を所定値と比較して、所定値以上のときには前記中心位置調整機構により前記スピンドルの中心に対して前記の磁気記録媒体の中心を移動して所定値以下になるまで偏心量の測定を繰り返す磁気記録媒体のトラック偏心の調整方法。
【請求項6】
さらに前記読出信号を受けてこれの電圧波形から包絡線を検出する包絡線検出回路を有し、前記磁気記録媒体は、ディスクリートトラック方式のものであり、トラック幅が前記ライトヘッドの書込感度幅に等しいかこれより狭いものであって、前記包絡線波形は、前記包絡線検出回路の出力信号に対して設定した所定の閾値以上の信号から得られる請求項5記載の磁気記録媒体のトラック偏心の調整方法。
【請求項7】
前記複数の包絡線波形あるいは前記読出信号の波形のうちの最大幅の波形の位置あるいは前記複数の波形の間隔のうち最大間隔の間隔の位置に対応する角度を偏心方向として算出して前記の磁気記録媒体の位置を前記角度に対応して偏心をなくす方向に前記中心位置調整機構により調整する請求項4または6項記載の磁気記録媒体のトラック偏心の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−259364(P2009−259364A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109948(P2008−109948)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】