磁気記録媒体の製造方法及び加熱装置
【課題】保磁力を面内で均一にする磁気記録媒体の製造方法及び加熱装置を提供する。
【解決手段】径方向と周方向に分割されたヒータの各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定し、複数のヒータで複数の基板2を加熱する第1の加熱ステップ1220と、基板に金属膜を積層する第1の積層ステップ1230と、加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップ1240と、測定の結果に基づいて、各ヒータの内周部と外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップ1320と、測定の結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の加熱温度を設定する設定ステップ1330と、回転ステップ及び設定ステップを経た複数のヒータで複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする。
【解決手段】径方向と周方向に分割されたヒータの各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定し、複数のヒータで複数の基板2を加熱する第1の加熱ステップ1220と、基板に金属膜を積層する第1の積層ステップ1230と、加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップ1240と、測定の結果に基づいて、各ヒータの内周部と外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップ1320と、測定の結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の加熱温度を設定する設定ステップ1330と、回転ステップ及び設定ステップを経た複数のヒータで複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に係り、特に、磁気記録媒体の基板に金属膜を積層するスパッタ工程における基板の加熱制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高記憶容量のハードディスク装置(Hard Disc Drive:HDD)が益々要求され、それに伴い高い面記録密度を有する磁気ディスクが必要となる。磁気ディスクの製造においては、ディスクの基板を両側からヒータで加熱した後でスパッタにより基板の両側から金属膜を積層する。量産性向上のため、加熱工程では、図11(a)に示すように、複数の基板2を同時に加熱する。図11(a)は2枚の基板2を加熱する例を示しており、基板2の両側には一対のヒータユニット4が配置される。各ヒータユニット4は対応する基板2の表面に対向するヒータ5が配置される。複数の基板2はそれらの中心が一直線上にあり、また、それらの表面が同一平面を構成するように配置される。
【0003】
高記録密度の磁気ディスクの磁気特性を安定にするためには、基板2に形成された金属膜(磁性膜)の保磁力Hcを面内で均一にする必要となる。保磁力Hcが面内でばらつく原因としては加熱工程における基板2の温度分布の不均一がある。即ち、図11(b)に示すように、2枚の基板2の実線で囲った中央部分Pは2つのヒータ5の影響を受けて温度が高くなり易い。このため、ヒータ5を分割して加熱することが従来から提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
その他の従来技術としては特許文献2乃至4がある。
【特許文献1】特開平8−85868号公報
【特許文献2】特開平5−320890号公報
【特許文献3】特開平2−43360号公報
【特許文献4】特公平8−14020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、単にヒータ5を分割して2枚の基板の中央部分Pに対応するヒータ5の加熱領域の温度を低くし、残りの部分を高くするだけでは基板2に均一な温度分布を形成できないことを発見した。これは、基板2の外周の外側は空間であるのに対して基板の内周はそうではないため、基板2の内周と外周とでは加熱される環境が異なるからである。
【0006】
本発明は、保磁力を面内で均一にする磁気記録媒体の製造方法及び加熱装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての製造方法は、径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする。かかる製造方法によれば、ヒータが内周部と外周部で分割されて一方が他方に対して回転可能であるので、基板の外周と内周に存在する保磁力のばらつきの位相差をなくすことができる。これにより、保磁力の面内均一化をより高精度に達成することができる。
【0008】
前記回転ステップにおいて形成される前記内周部と前記外周部との間の傾斜角度は、例えば、前記測定ステップにおける前記保磁力の分布の、前記基板の内周と外周のそれぞれの保磁力の極小値に対応する角度差である。これにより、内周部と外周部の保磁力分布の位相差をキャンセルすることができる。前記設定ステップは、目標とする保磁力と、前記基板の温度と前記基板の保磁力との関係を利用して前記加熱温度を決定してもよい。これにより、基板の面内で均一な目標保磁力を得ることができる。前記測定ステップにおける前記保磁力の分布が、前記加熱領域に対応する範囲において、目標とする保磁力の上限及び下限のいずれからもずれている場合には、前記設定ステップは前記加熱温度として前記デフォルトの温度を維持してもよい。これにより、上限及び下限の一方を目標保磁力に近づけることにより他方が目標保磁力から大幅にずれることを防止することができき、保磁力の面内均一化を図ることができる。前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータを、当該ヒータが回転可能に取り付けられたヒータユニットに対して回転する回転ステップを更に有してもよい。これにより、スパッタ角度に最適に保磁力の角度分布を設定することができる。
【0009】
本発明の別の側面としての加熱装置は、それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする。かかる加熱装置は、上述の製造方法に適用することができ、上述の製造方法と同様の作用を奏することができる。かかる加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置も本発明の一側面を構成する。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保磁力を面内で均一にする磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本実施例の磁気記録媒体の製造方法について説明する。図1は、製造方法のフローチャートである。
【0013】
まず、基板2に形成されるべき目標保磁力を設定する(ステップ1100)。図5は、基板2の加熱温度と保磁力との関係を示すグラフである。横軸は、基板2の加熱温度(℃)であり、縦軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)である。1Oe=1/4π・kA/mである。
【0014】
図5における基板2の加熱温度は、基板2の内周と外周の中間位置で測定している。本発明においては、基板2の内周は基板2に磁性層が形成される領域の径方向の長さを半分にする円の内側の領域であり、基板2の内周は基板2に磁性層が形成される領域の径方向の長さを半分にする円の外側の領域である。但し、本実施例においては、基板2の内周を基板2に磁性層が形成される領域の最内周部に設定し、基板2の外周を基板2に磁性層が形成される領域の最外周部に設定している。
【0015】
図5から、基板2の加熱温度が高くなればなるほど基板2の保磁力は高くなることが理解される。高記録密度の磁気ディスクでは一定範囲の保磁力が必要である。これは、保磁力が低すぎると記録した磁気情報が消え易くなり、高すぎると磁気情報を書き込みにくくなるからである。しかし、保磁力の制御に加えてノイズを低減する必要もある。
【0016】
図6及び図7に示すように、ある保磁力Hcに対してノイズは最小となる。
【0017】
図6においては、横軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)で、縦軸はSN比(SNR)である。SN比は信号をノイズで割ったものであるためにノイズが低い場合又は信号が高い場合に大きくなる。図6を参照するに、保磁力Hcが4800(1/4π・kA/m)でSN比が最大の15.12となっている。
【0018】
一方、図7においては、横軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)で、縦軸はVMM(Viterbi Metrics Margin)である。VMMはビタビ複合器内での最も確からしい系列とそれ以外の系列のメトリクスがある閾値以下となる(詰まり再生信号の明瞭さが低下している)ビット数を計数した値である。即ち、VMM値はエラーレートとの相関があり、小さいほうが良好な特性となる。図7を参照するに、保磁力Hcが4800(1/4π・kA/m)でVMMが最小の3.315となっている。
【0019】
以上から、理想的な保磁力は4800(1/4π・kA/m)となるが、理想的な保磁力に実際の保磁力を完全に一致させることは困難であるため、本実施例は許容範囲を理想的な保磁力の±30(1/4π・kA/m)以内に設定してこれを目標保磁力又は目標保磁力の範囲としている。この結果、本実施例では、目標保磁力を4800±30(即ち、4770乃至4830)(1/4π・kA/m)となる。なお、本発明は、本実施例の目標保磁力に限定されるものではない。これは図6及び図7に示すグラフはスパッタ装置の構造、スパッタ材料、基板2の膜厚構成などに依存するからである。
【0020】
以下、図2を参照して、本実施例のスパッタ装置について説明する。ここで、図2は、スパッタ装置のブロック図である。スパッタ装置は、加熱装置100と、スパッタ部170と、磁場観察装置180とを有する。
【0021】
加熱装置100は基板2を真空中で加熱する。基板2は、アルミニウムやガラスから構成される。スパッタ部170は、加熱された基板2に真空中でスパッタにより金属膜を積層する。磁場観察装置180は、カー効果を利用して金属膜が積層された基板2上の保磁力の面内分布を測定する。
【0022】
加熱装置100は、図2に示すように、基板支持部110と、ヒータユニット120と、温度測定部140と、温度制御部150とを有する。
【0023】
基板支持部110は基板2を支持する。支持位置や方法は当業界で周知の方法を使用することができるため、説明は省略する。複数の基板2はそれらの中心が一直線上にあり、また、それらの表面が同一平面を構成するように(即ち、あたかも同一平面上に置かれたように)配置される。また、基板支持部110は、基板2を加熱位置とスパッタ位置との間で移動する機構に接続されている。加熱位置において基板2は加熱装置100によって加熱され、スパッタ位置において基板2はスパッタ部170によって金属膜が積層される。
【0024】
ヒータユニット120は、複数のヒータ130を搭載して複数の基板2が整列する方向に延びる略直方体形状の筐体である。一対のヒータユニット120が平行に配置される。ヒータユニット120は、回転機構124及び128を搭載している。
【0025】
回転機構124はヒータ130全体をヒータユニット120に対して回転する。回転機構128はヒータ130の後述する内周部132を外周部134に対して回転する。
【0026】
各ヒータ130は基板2よりも大きく、対応する基板2の表面に平行に配置される。各基板2の表裏に配置される一対のヒータ130の中心を結ぶ線上に基板2の中心が配置される。各ヒータ130のヒータユニット120における配置は図11(a)に示す従来例と同様である。
【0027】
各ヒータ130は、径方向と周方向に分割された円板形状を有する。ヒータ130の外形は最外周円C3で決定される。本実施例は、図4(a)に示すように、90度間隔で中心Oから延びる4本の径方向又は放射方向に延びる直線L1乃至L4によって各ヒータ130を周方向に4つの領域に分割している。ここで、図4(a)はヒータ130の概略平面図である。
【0028】
また、本実施例は、中心Oに関する2つの同心円C1及びC2によって径方向に3つの領域に分割している。この結果、各ヒータは12の領域に分割される。図4(a)において、直線L1乃至L4の同心円C2よりも外側の線分を順に直線L5乃至L8と呼ぶ。本実施例は、円C1の径と円C1及び円C2の間隔は等しく設定し、円C2と円C3の間隔はこれの半分に設定しているが、本発明はこれに限定されない。基板2の中心を中心Oに重ねると、円C2は基板2の輪郭を規定する円よりは内側に配置されれば足りる。
【0029】
同心円C1の内部の4つの最内周領域は加熱領域ではなく、同心円C1の外側の8つの領域が加熱領域である。かかる8つの加熱領域のうち、同心円C1とC2で挟まれた領域を内周部132、同心円C2と最外周円C3よりも外側の領域を外周部134と呼ぶ。図4(a)に示すように、内周部132は4つの加熱領域132a乃至132dから構成され、外周部134は4つの加熱領域134a乃至134dから構成される。各加熱領域は、ニクロム線など供給される電力に応じて発熱量が制御されるように構成されており、各加熱領域の発熱量又は加熱温度は、電源160から供給される電力を制御することによって別個独立に制御することができる。
【0030】
内周部132は、図4(a)及び図4(b)に示すように、外周部134に対して傾斜又は回転可能に構成されている。ここで、図4(b)は図4(a)の内周部132を外周部134に対して回転した状態の平面図である。本実施例では同心円C1の内部は内周部132と共に回転するが、同心円C1の内部はヒータユニット120に固定されてもよい。内周部132が回転すると、直線L1とL5、直線L2とL6、直線L3とL7、直線L4とL8がずれる。本実施例では、回転機構128が内周部132を外周部134に対して回転しているが、本発明の回転機構は、内周部132と外周部134のうち少なくとも一方を他方に対して回転すれば足りる。
【0031】
温度測定部140は、サーモビュアーから構成され、温度分布を測定する
温度制御部150は、ヒータ130の加熱領域132a乃至132d、134a乃至134dに流す電力を調整するために電源160を制御する。
【0032】
次に、試験を行う(ステップ1200)。ステップ1200における試験は、デフォルトの加熱条件で基板2を加熱して成膜した場合に保磁力が目標保磁力となるかどうかを確認する試験である。以下、図3(a)を参照して、ステップ1200の詳細を説明する。ここで、図3(a)はステップ1200の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0033】
まず、温度制御部150は、全ヒータ130を図4(a)に示すデフォルトに設定する(ステップ1210)。デフォルトでは、各ヒータ130の分割された各加熱領域132a乃至134dの加熱温度を等しく設定すると共に内周部132と外周部134の傾斜角度は0°に設定する。即ち、デフォルトでは、内周部132は外周部134に対して回転していない。また、デフォルトでは、ヒータ130はヒータユニット120に対して回転しておらず、ヒータ130とヒータユニット120の傾斜角度は0°に設定している。
【0034】
次に、デフォルトを維持したまま加熱装置100で複数の基板2を加熱する(ステップ1220)。必要があれば、基板2の温度分布を温度測定部140で測定してもよい。次に、スパッタ部170で基板2に金属膜を成膜する(ステップ1230)。金属膜は、下地層、中間層、磁性層を含む。次に、基板2の面内の内周と外周における保磁力を磁場観察装置180で測定する(ステップ1240)。
【0035】
図8は、かかる測定結果を示したグラフであり、実線は基板2の内周の保磁力Hcの角度分布を表し、破線は基板2の外周の保磁力Hcの角度分布を表す。横軸は基板2上に設定された角度(度)であり、縦軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)である。なお、横軸の角度は、図9に示すように、中心から6時方向を0°とし、時計回りに9時方向を90°、12時方向を180°、3時方向を270°としている。図8を参照するに、基板2の外周の保磁力最小値の角度(90°)と基板2の内周の保磁力最小値の角度(60°)とは30°の位相差がある。また、基板2の内周及び外周共に目標保磁力である4800±30(1/4π・kA/m)からずれている部分があることが理解される。
【0036】
再び図1に戻って、試験結果に基づいて各ヒータ130の加熱条件を調整する(ステップ1300)。以下、図3(b)を参照して、ステップ1300の詳細を説明する。ここで、図3(b)はステップ1300の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0037】
まず、試験結果に基づいて、必要があれば、各ヒータ130全体をヒータユニット120に対して回転する(ステップ1310)。これにより、スパッタ角度に最適に保磁力の角度分布を設定することができる。図4(c)は、図4(a)に示す状態からヒータ130全体を15°回転した状態を示す平面図である。これにより、スパッタ部170によるスパッタ粒子の飛び方に角度分布がある場合に、それに合わせた温度分布を基板2に形成することができる。
【0038】
次に、本実施例は、試験結果に基づいて、図4(b)に示すように、回転機構128を介して位相差分だけ内周部132を外周部134に対して回転する(ステップ1320)。回転角度は30°に設定されている。これにより、図8に示す位相差をキャンセルすることができる。
【0039】
次に、各ヒータ130の内周部132の加熱領域132a乃至132dと外周部134の加熱領域134a乃至134dの加熱温度を設定する(ステップ1330)。
【0040】
具体的には、加熱温度を設定するために、本実施例は、図10の上段に角度0°乃至360°に対応して図8に示す内周部132のグラフを描き、下段に角度0°乃至360°に対応して図8に示す外周部134のグラフを描いている。更に、図10は前段及び下段を加熱領域に対応する角度に分割している。
【0041】
次に、各加熱領域が目標保磁力である4770乃至4830(1/4π・kA/m)の範囲内にあるかどうかを判断する。加熱領域132a及び132bにおいては、実線は目標保磁力の範囲内に入っているが、加熱領域132c、132d及び134a乃至134dにおいては、実線は目標保磁力の範囲外となっている部分がある。
【0042】
そこで、加熱領域132bのデフォルト温度は維持する。加熱領域132a、132c、132d、134c及び134dの温度は下げる。また、加熱領域134aの温度は上げる。これらの加熱領域において、どの程度温度を増減するかは図5に示す直線を参考にして決定する。加熱領域132cの保磁力を全体的に25(1/4π・kA/m)下げるとする。図10前段に示す角度240°の時の保磁力4855(1/4π・kA/m)を25(1/4π・kA/m)下げて4830(1/4π・kA/m)にするのに図5においてはそれが基板温度を約4℃下げることで達成することができることがわかる。その他の加熱領域の温度設定も同様である。
【0043】
加熱領域134bの加熱温度は変更しない。加熱領域134bは、角度105°乃至120°までは保磁力が4770(1/4π・kA/m)以下であり、角度165°乃至195°までは保磁力が4830(1/4π・kA/m)以上である。このように、加熱領域134bは目標保磁力の上限を超えている部分と下限を超えている部分の両方を含むため、実際の保磁力を上げても下げても目標保磁力との差が広がる部分が発生するからである。また、本実施例では、加熱領域134a及び134cを調整するので加熱領域134bと加熱領域134a及び134cの各々の境界の温度はそれに引きずられて調整される。この結果、加熱領域134bの加熱温度はある程度調整されることが期待できる。
【0044】
再び図1に戻って、次に、調整された複数のヒータ130により基板2を加熱する(ステップ1400)。次に、基板2に金属膜をスパッタにより真空中で積層する(ステップ1500)。一層のスパッタ時間は、例えば、4秒である。ステップ1500後の基板2の保磁力の面内分布を図10に破線で示す。基板2の内周及び外周も目標保磁力の範囲内にあることが理解される。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で様々な変形及び変更が可能である。例えば、本実施例では基板2の数は2つであるが、本発明はこれに限定されない。同様に、ヒータの数もこれに限定されない。基板の各面とヒータも1対1でなくてもよい。また、ヒータ130を分割する同心円の数も限定されない。
【0046】
本発明は更に以下の事項を開示する。
【0047】
(付記1) 径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、前記複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、
前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、
前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。(1)
(付記2) 前記回転ステップにおいて形成される前記内周部と前記外周部との間の傾斜角度は、前記測定ステップにおける前記保磁力の分布の、前記基板の内周と外周のそれぞれの保磁力の極小値に対応する角度差であることを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0048】
(付記3) 前記設定ステップは、目標とする保磁力と、前記基板の温度と前記基板の保磁力との関係を利用して前記加熱温度を決定することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0049】
(付記4) 前記測定ステップにおける前記保磁力の分布が、前記加熱領域に対応する範囲において、目標とする保磁力の上限及び下限のいずれからもずれている場合には、前記設定ステップは前記加熱温度として前記デフォルトの温度を維持することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0050】
(付記5) 前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータを、当該ヒータが回転可能に取り付けられたヒータユニットに対して回転する回転ステップを更に有することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0051】
(付記6) それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、
前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、
各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする加熱装置。(2)
(付記7) 付記6の加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置。(3)
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例としての磁気記録媒体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の一実施例としての磁気記録媒体のスパッタ装置の概略図である。
【図3】図3(a)は、図1に示すステップ1200の詳細なフローチャートであり、図3(b)は、図1に示すステップ1300の詳細なフローチャートである。
【図4】図4(a)は図2に示すヒータのデフォルトの概略平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すヒータの内周部を外周部に対して回転した状態の概略平面図であり、図4(c)は図4(a)に示すヒータをヒータユニットに対して回転した状態の概略平面図である。
【図5】基板の加熱温度と保磁力との関係を示すグラフである。
【図6】保磁力とSN比との関係を示すグラフである。
【図7】保磁力とVMMとの関係を示すグラフである。
【図8】基板の内周と外周の保磁力の角度特性のグラフである
【図9】図8に示すグラフの角度のとり方を説明する図である。
【図10】図1に示す製造方法によって製造された基板の保磁力の角度特性のグラフである。
【図11】従来の加熱装置の概略図である。
【符号の説明】
【0053】
2 基板
100 加熱装置
120 ヒータユニット
130 ヒータ
132a−134d 加熱領域
150 温度制御部
170 スパッタ部
180 磁場観察装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に係り、特に、磁気記録媒体の基板に金属膜を積層するスパッタ工程における基板の加熱制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高記憶容量のハードディスク装置(Hard Disc Drive:HDD)が益々要求され、それに伴い高い面記録密度を有する磁気ディスクが必要となる。磁気ディスクの製造においては、ディスクの基板を両側からヒータで加熱した後でスパッタにより基板の両側から金属膜を積層する。量産性向上のため、加熱工程では、図11(a)に示すように、複数の基板2を同時に加熱する。図11(a)は2枚の基板2を加熱する例を示しており、基板2の両側には一対のヒータユニット4が配置される。各ヒータユニット4は対応する基板2の表面に対向するヒータ5が配置される。複数の基板2はそれらの中心が一直線上にあり、また、それらの表面が同一平面を構成するように配置される。
【0003】
高記録密度の磁気ディスクの磁気特性を安定にするためには、基板2に形成された金属膜(磁性膜)の保磁力Hcを面内で均一にする必要となる。保磁力Hcが面内でばらつく原因としては加熱工程における基板2の温度分布の不均一がある。即ち、図11(b)に示すように、2枚の基板2の実線で囲った中央部分Pは2つのヒータ5の影響を受けて温度が高くなり易い。このため、ヒータ5を分割して加熱することが従来から提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
その他の従来技術としては特許文献2乃至4がある。
【特許文献1】特開平8−85868号公報
【特許文献2】特開平5−320890号公報
【特許文献3】特開平2−43360号公報
【特許文献4】特公平8−14020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、単にヒータ5を分割して2枚の基板の中央部分Pに対応するヒータ5の加熱領域の温度を低くし、残りの部分を高くするだけでは基板2に均一な温度分布を形成できないことを発見した。これは、基板2の外周の外側は空間であるのに対して基板の内周はそうではないため、基板2の内周と外周とでは加熱される環境が異なるからである。
【0006】
本発明は、保磁力を面内で均一にする磁気記録媒体の製造方法及び加熱装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての製造方法は、径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする。かかる製造方法によれば、ヒータが内周部と外周部で分割されて一方が他方に対して回転可能であるので、基板の外周と内周に存在する保磁力のばらつきの位相差をなくすことができる。これにより、保磁力の面内均一化をより高精度に達成することができる。
【0008】
前記回転ステップにおいて形成される前記内周部と前記外周部との間の傾斜角度は、例えば、前記測定ステップにおける前記保磁力の分布の、前記基板の内周と外周のそれぞれの保磁力の極小値に対応する角度差である。これにより、内周部と外周部の保磁力分布の位相差をキャンセルすることができる。前記設定ステップは、目標とする保磁力と、前記基板の温度と前記基板の保磁力との関係を利用して前記加熱温度を決定してもよい。これにより、基板の面内で均一な目標保磁力を得ることができる。前記測定ステップにおける前記保磁力の分布が、前記加熱領域に対応する範囲において、目標とする保磁力の上限及び下限のいずれからもずれている場合には、前記設定ステップは前記加熱温度として前記デフォルトの温度を維持してもよい。これにより、上限及び下限の一方を目標保磁力に近づけることにより他方が目標保磁力から大幅にずれることを防止することができき、保磁力の面内均一化を図ることができる。前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータを、当該ヒータが回転可能に取り付けられたヒータユニットに対して回転する回転ステップを更に有してもよい。これにより、スパッタ角度に最適に保磁力の角度分布を設定することができる。
【0009】
本発明の別の側面としての加熱装置は、それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする。かかる加熱装置は、上述の製造方法に適用することができ、上述の製造方法と同様の作用を奏することができる。かかる加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置も本発明の一側面を構成する。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保磁力を面内で均一にする磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本実施例の磁気記録媒体の製造方法について説明する。図1は、製造方法のフローチャートである。
【0013】
まず、基板2に形成されるべき目標保磁力を設定する(ステップ1100)。図5は、基板2の加熱温度と保磁力との関係を示すグラフである。横軸は、基板2の加熱温度(℃)であり、縦軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)である。1Oe=1/4π・kA/mである。
【0014】
図5における基板2の加熱温度は、基板2の内周と外周の中間位置で測定している。本発明においては、基板2の内周は基板2に磁性層が形成される領域の径方向の長さを半分にする円の内側の領域であり、基板2の内周は基板2に磁性層が形成される領域の径方向の長さを半分にする円の外側の領域である。但し、本実施例においては、基板2の内周を基板2に磁性層が形成される領域の最内周部に設定し、基板2の外周を基板2に磁性層が形成される領域の最外周部に設定している。
【0015】
図5から、基板2の加熱温度が高くなればなるほど基板2の保磁力は高くなることが理解される。高記録密度の磁気ディスクでは一定範囲の保磁力が必要である。これは、保磁力が低すぎると記録した磁気情報が消え易くなり、高すぎると磁気情報を書き込みにくくなるからである。しかし、保磁力の制御に加えてノイズを低減する必要もある。
【0016】
図6及び図7に示すように、ある保磁力Hcに対してノイズは最小となる。
【0017】
図6においては、横軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)で、縦軸はSN比(SNR)である。SN比は信号をノイズで割ったものであるためにノイズが低い場合又は信号が高い場合に大きくなる。図6を参照するに、保磁力Hcが4800(1/4π・kA/m)でSN比が最大の15.12となっている。
【0018】
一方、図7においては、横軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)で、縦軸はVMM(Viterbi Metrics Margin)である。VMMはビタビ複合器内での最も確からしい系列とそれ以外の系列のメトリクスがある閾値以下となる(詰まり再生信号の明瞭さが低下している)ビット数を計数した値である。即ち、VMM値はエラーレートとの相関があり、小さいほうが良好な特性となる。図7を参照するに、保磁力Hcが4800(1/4π・kA/m)でVMMが最小の3.315となっている。
【0019】
以上から、理想的な保磁力は4800(1/4π・kA/m)となるが、理想的な保磁力に実際の保磁力を完全に一致させることは困難であるため、本実施例は許容範囲を理想的な保磁力の±30(1/4π・kA/m)以内に設定してこれを目標保磁力又は目標保磁力の範囲としている。この結果、本実施例では、目標保磁力を4800±30(即ち、4770乃至4830)(1/4π・kA/m)となる。なお、本発明は、本実施例の目標保磁力に限定されるものではない。これは図6及び図7に示すグラフはスパッタ装置の構造、スパッタ材料、基板2の膜厚構成などに依存するからである。
【0020】
以下、図2を参照して、本実施例のスパッタ装置について説明する。ここで、図2は、スパッタ装置のブロック図である。スパッタ装置は、加熱装置100と、スパッタ部170と、磁場観察装置180とを有する。
【0021】
加熱装置100は基板2を真空中で加熱する。基板2は、アルミニウムやガラスから構成される。スパッタ部170は、加熱された基板2に真空中でスパッタにより金属膜を積層する。磁場観察装置180は、カー効果を利用して金属膜が積層された基板2上の保磁力の面内分布を測定する。
【0022】
加熱装置100は、図2に示すように、基板支持部110と、ヒータユニット120と、温度測定部140と、温度制御部150とを有する。
【0023】
基板支持部110は基板2を支持する。支持位置や方法は当業界で周知の方法を使用することができるため、説明は省略する。複数の基板2はそれらの中心が一直線上にあり、また、それらの表面が同一平面を構成するように(即ち、あたかも同一平面上に置かれたように)配置される。また、基板支持部110は、基板2を加熱位置とスパッタ位置との間で移動する機構に接続されている。加熱位置において基板2は加熱装置100によって加熱され、スパッタ位置において基板2はスパッタ部170によって金属膜が積層される。
【0024】
ヒータユニット120は、複数のヒータ130を搭載して複数の基板2が整列する方向に延びる略直方体形状の筐体である。一対のヒータユニット120が平行に配置される。ヒータユニット120は、回転機構124及び128を搭載している。
【0025】
回転機構124はヒータ130全体をヒータユニット120に対して回転する。回転機構128はヒータ130の後述する内周部132を外周部134に対して回転する。
【0026】
各ヒータ130は基板2よりも大きく、対応する基板2の表面に平行に配置される。各基板2の表裏に配置される一対のヒータ130の中心を結ぶ線上に基板2の中心が配置される。各ヒータ130のヒータユニット120における配置は図11(a)に示す従来例と同様である。
【0027】
各ヒータ130は、径方向と周方向に分割された円板形状を有する。ヒータ130の外形は最外周円C3で決定される。本実施例は、図4(a)に示すように、90度間隔で中心Oから延びる4本の径方向又は放射方向に延びる直線L1乃至L4によって各ヒータ130を周方向に4つの領域に分割している。ここで、図4(a)はヒータ130の概略平面図である。
【0028】
また、本実施例は、中心Oに関する2つの同心円C1及びC2によって径方向に3つの領域に分割している。この結果、各ヒータは12の領域に分割される。図4(a)において、直線L1乃至L4の同心円C2よりも外側の線分を順に直線L5乃至L8と呼ぶ。本実施例は、円C1の径と円C1及び円C2の間隔は等しく設定し、円C2と円C3の間隔はこれの半分に設定しているが、本発明はこれに限定されない。基板2の中心を中心Oに重ねると、円C2は基板2の輪郭を規定する円よりは内側に配置されれば足りる。
【0029】
同心円C1の内部の4つの最内周領域は加熱領域ではなく、同心円C1の外側の8つの領域が加熱領域である。かかる8つの加熱領域のうち、同心円C1とC2で挟まれた領域を内周部132、同心円C2と最外周円C3よりも外側の領域を外周部134と呼ぶ。図4(a)に示すように、内周部132は4つの加熱領域132a乃至132dから構成され、外周部134は4つの加熱領域134a乃至134dから構成される。各加熱領域は、ニクロム線など供給される電力に応じて発熱量が制御されるように構成されており、各加熱領域の発熱量又は加熱温度は、電源160から供給される電力を制御することによって別個独立に制御することができる。
【0030】
内周部132は、図4(a)及び図4(b)に示すように、外周部134に対して傾斜又は回転可能に構成されている。ここで、図4(b)は図4(a)の内周部132を外周部134に対して回転した状態の平面図である。本実施例では同心円C1の内部は内周部132と共に回転するが、同心円C1の内部はヒータユニット120に固定されてもよい。内周部132が回転すると、直線L1とL5、直線L2とL6、直線L3とL7、直線L4とL8がずれる。本実施例では、回転機構128が内周部132を外周部134に対して回転しているが、本発明の回転機構は、内周部132と外周部134のうち少なくとも一方を他方に対して回転すれば足りる。
【0031】
温度測定部140は、サーモビュアーから構成され、温度分布を測定する
温度制御部150は、ヒータ130の加熱領域132a乃至132d、134a乃至134dに流す電力を調整するために電源160を制御する。
【0032】
次に、試験を行う(ステップ1200)。ステップ1200における試験は、デフォルトの加熱条件で基板2を加熱して成膜した場合に保磁力が目標保磁力となるかどうかを確認する試験である。以下、図3(a)を参照して、ステップ1200の詳細を説明する。ここで、図3(a)はステップ1200の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0033】
まず、温度制御部150は、全ヒータ130を図4(a)に示すデフォルトに設定する(ステップ1210)。デフォルトでは、各ヒータ130の分割された各加熱領域132a乃至134dの加熱温度を等しく設定すると共に内周部132と外周部134の傾斜角度は0°に設定する。即ち、デフォルトでは、内周部132は外周部134に対して回転していない。また、デフォルトでは、ヒータ130はヒータユニット120に対して回転しておらず、ヒータ130とヒータユニット120の傾斜角度は0°に設定している。
【0034】
次に、デフォルトを維持したまま加熱装置100で複数の基板2を加熱する(ステップ1220)。必要があれば、基板2の温度分布を温度測定部140で測定してもよい。次に、スパッタ部170で基板2に金属膜を成膜する(ステップ1230)。金属膜は、下地層、中間層、磁性層を含む。次に、基板2の面内の内周と外周における保磁力を磁場観察装置180で測定する(ステップ1240)。
【0035】
図8は、かかる測定結果を示したグラフであり、実線は基板2の内周の保磁力Hcの角度分布を表し、破線は基板2の外周の保磁力Hcの角度分布を表す。横軸は基板2上に設定された角度(度)であり、縦軸は保磁力Hc(1/4π・kA/m)である。なお、横軸の角度は、図9に示すように、中心から6時方向を0°とし、時計回りに9時方向を90°、12時方向を180°、3時方向を270°としている。図8を参照するに、基板2の外周の保磁力最小値の角度(90°)と基板2の内周の保磁力最小値の角度(60°)とは30°の位相差がある。また、基板2の内周及び外周共に目標保磁力である4800±30(1/4π・kA/m)からずれている部分があることが理解される。
【0036】
再び図1に戻って、試験結果に基づいて各ヒータ130の加熱条件を調整する(ステップ1300)。以下、図3(b)を参照して、ステップ1300の詳細を説明する。ここで、図3(b)はステップ1300の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0037】
まず、試験結果に基づいて、必要があれば、各ヒータ130全体をヒータユニット120に対して回転する(ステップ1310)。これにより、スパッタ角度に最適に保磁力の角度分布を設定することができる。図4(c)は、図4(a)に示す状態からヒータ130全体を15°回転した状態を示す平面図である。これにより、スパッタ部170によるスパッタ粒子の飛び方に角度分布がある場合に、それに合わせた温度分布を基板2に形成することができる。
【0038】
次に、本実施例は、試験結果に基づいて、図4(b)に示すように、回転機構128を介して位相差分だけ内周部132を外周部134に対して回転する(ステップ1320)。回転角度は30°に設定されている。これにより、図8に示す位相差をキャンセルすることができる。
【0039】
次に、各ヒータ130の内周部132の加熱領域132a乃至132dと外周部134の加熱領域134a乃至134dの加熱温度を設定する(ステップ1330)。
【0040】
具体的には、加熱温度を設定するために、本実施例は、図10の上段に角度0°乃至360°に対応して図8に示す内周部132のグラフを描き、下段に角度0°乃至360°に対応して図8に示す外周部134のグラフを描いている。更に、図10は前段及び下段を加熱領域に対応する角度に分割している。
【0041】
次に、各加熱領域が目標保磁力である4770乃至4830(1/4π・kA/m)の範囲内にあるかどうかを判断する。加熱領域132a及び132bにおいては、実線は目標保磁力の範囲内に入っているが、加熱領域132c、132d及び134a乃至134dにおいては、実線は目標保磁力の範囲外となっている部分がある。
【0042】
そこで、加熱領域132bのデフォルト温度は維持する。加熱領域132a、132c、132d、134c及び134dの温度は下げる。また、加熱領域134aの温度は上げる。これらの加熱領域において、どの程度温度を増減するかは図5に示す直線を参考にして決定する。加熱領域132cの保磁力を全体的に25(1/4π・kA/m)下げるとする。図10前段に示す角度240°の時の保磁力4855(1/4π・kA/m)を25(1/4π・kA/m)下げて4830(1/4π・kA/m)にするのに図5においてはそれが基板温度を約4℃下げることで達成することができることがわかる。その他の加熱領域の温度設定も同様である。
【0043】
加熱領域134bの加熱温度は変更しない。加熱領域134bは、角度105°乃至120°までは保磁力が4770(1/4π・kA/m)以下であり、角度165°乃至195°までは保磁力が4830(1/4π・kA/m)以上である。このように、加熱領域134bは目標保磁力の上限を超えている部分と下限を超えている部分の両方を含むため、実際の保磁力を上げても下げても目標保磁力との差が広がる部分が発生するからである。また、本実施例では、加熱領域134a及び134cを調整するので加熱領域134bと加熱領域134a及び134cの各々の境界の温度はそれに引きずられて調整される。この結果、加熱領域134bの加熱温度はある程度調整されることが期待できる。
【0044】
再び図1に戻って、次に、調整された複数のヒータ130により基板2を加熱する(ステップ1400)。次に、基板2に金属膜をスパッタにより真空中で積層する(ステップ1500)。一層のスパッタ時間は、例えば、4秒である。ステップ1500後の基板2の保磁力の面内分布を図10に破線で示す。基板2の内周及び外周も目標保磁力の範囲内にあることが理解される。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で様々な変形及び変更が可能である。例えば、本実施例では基板2の数は2つであるが、本発明はこれに限定されない。同様に、ヒータの数もこれに限定されない。基板の各面とヒータも1対1でなくてもよい。また、ヒータ130を分割する同心円の数も限定されない。
【0046】
本発明は更に以下の事項を開示する。
【0047】
(付記1) 径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、前記複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、
前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、
前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。(1)
(付記2) 前記回転ステップにおいて形成される前記内周部と前記外周部との間の傾斜角度は、前記測定ステップにおける前記保磁力の分布の、前記基板の内周と外周のそれぞれの保磁力の極小値に対応する角度差であることを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0048】
(付記3) 前記設定ステップは、目標とする保磁力と、前記基板の温度と前記基板の保磁力との関係を利用して前記加熱温度を決定することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0049】
(付記4) 前記測定ステップにおける前記保磁力の分布が、前記加熱領域に対応する範囲において、目標とする保磁力の上限及び下限のいずれからもずれている場合には、前記設定ステップは前記加熱温度として前記デフォルトの温度を維持することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0050】
(付記5) 前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータを、当該ヒータが回転可能に取り付けられたヒータユニットに対して回転する回転ステップを更に有することを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0051】
(付記6) それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、
前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、
各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする加熱装置。(2)
(付記7) 付記6の加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置。(3)
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例としての磁気記録媒体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の一実施例としての磁気記録媒体のスパッタ装置の概略図である。
【図3】図3(a)は、図1に示すステップ1200の詳細なフローチャートであり、図3(b)は、図1に示すステップ1300の詳細なフローチャートである。
【図4】図4(a)は図2に示すヒータのデフォルトの概略平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すヒータの内周部を外周部に対して回転した状態の概略平面図であり、図4(c)は図4(a)に示すヒータをヒータユニットに対して回転した状態の概略平面図である。
【図5】基板の加熱温度と保磁力との関係を示すグラフである。
【図6】保磁力とSN比との関係を示すグラフである。
【図7】保磁力とVMMとの関係を示すグラフである。
【図8】基板の内周と外周の保磁力の角度特性のグラフである
【図9】図8に示すグラフの角度のとり方を説明する図である。
【図10】図1に示す製造方法によって製造された基板の保磁力の角度特性のグラフである。
【図11】従来の加熱装置の概略図である。
【符号の説明】
【0053】
2 基板
100 加熱装置
120 ヒータユニット
130 ヒータ
132a−134d 加熱領域
150 温度制御部
170 スパッタ部
180 磁場観察装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、
前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、
前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、
前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、
各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項2の加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置。
【請求項1】
径方向と周方向に分割された各ヒータの分割された各加熱領域の加熱温度を等しく設定すると共に内周部と外周部の傾斜角度を0に設定するデフォルトを維持したまま、複数のヒータで複数の基板を加熱する第1の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第1の積層ステップと、
前記加熱ステップ後に各基板の面内の保磁力の分布を測定するステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの前記内周部と前記外周部の少なくともいずれか一方を他方に対して回転する回転ステップと、
前記測定ステップの結果に基づいて、各ヒータの各加熱領域の前記加熱温度を設定する設定ステップと、
前記回転ステップ及び前記設定ステップを経た前記複数のヒータで前記複数の基板を加熱する第2の加熱ステップと、
前記基板に金属膜を積層する第2の積層ステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
それぞれが周方向に分割されて内周部と外周部を有し、前記内周部及び前記外周部は径方向に分割されてそれぞれ複数の加熱領域を有し、複数の円板状の基板を加熱する複数のヒータと、
前記内周部と前記外周部のうち一方を他方に対して回転する回転機構と、
各加熱領域の加熱温度を別個独立に制御する温度制御部とを有することを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項2の加熱装置とスパッタ部を有することを特徴とするスパッタ装置。
【図9】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−243270(P2008−243270A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80378(P2007−80378)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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