説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体へのマスター情報担体を用いたサーボ信号等の磁気転写回数を向上させる。
【解決手段】磁気転写用マスター情報担体を磁気記録媒体に重ね合わせる前に、水素水を含む洗浄槽で磁気記録媒体を浸漬洗浄する。この水素水中の溶存水素濃度は0.1ppm〜5ppmの範囲内、水素水の酸化還元電位を−200mV〜−800mVの範囲内とし、また水素水にKOHまたはNHOHを0.05ppm〜5ppmの範囲内で添加する。また水素水での洗浄を、超音波振動を印加しての多段工程での洗浄とし、最後の洗浄工程は水素水のみでの洗浄とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(ハードディスクドライブ)は、現在その記録密度が年1.5倍以上で増えており、今後もその傾向は続くと言われている。それに伴って高記録密度に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。そして最新の磁気記録装置においては、トラック密度320kTPIにも達している。
【0003】
このように高いトラック密度の磁気記録媒体において、磁気ヘッドをトラック上で正確に走査するためには磁気ヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。このようなトラッキングサーボ技術を用いた現在のハードディスクドライブでは、ディスクの一周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等が記録されている。そして、ハードディスクドライブにおいては、ヘッドから一定時間間隔で再生されるこれらの信号によりヘッドの位置を検出するとともに修正することにより、ヘッドが正確にトラック上を走査するように制御している。
【0004】
上述したサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等は、ヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となるものであり、このためその書き込みには高い位置決め精度が必要である。現在のハードディスクドライブは、高精度位置検出装置を組み込んだ専用のサーボ信号記録装置(以下サーボライタと記す。)を用いて、磁気ヘッドでサーボ信号等を書き込んだ磁気記録媒体を用いている。サーボライタは、その生産性を高めるため、一つのスピンドルに多数枚の磁気記録媒体をチャッキングし、同時に多数枚の磁気記録媒体にサーボ信号等を書き込む構造となっている。
【0005】
しかしながら、上記サーボライタによるサーボ信号等の書き込みには以下の課題が存在する。すなわち、磁気ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックにわたって信号を書き込むためには多くの時間がかかり、生産性を上げるには多くのサーボライタを同時に稼働させなければならない。またサーボライタのスピンドルが長くなると回転軸にブレが生し、そのため一つのスピンドルにチャッキングできる磁気記録媒体の枚数には限界がある。加えて、多くのサーボライタの導入、維持管理には多額のコストがかかってしまい、そしてこれらの課題はトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻となる。
【0006】
そこで、磁気記録媒体へのサーボ信号等の書き込みをサーボライタではなく、予め全てのサーボ信号等の情報が書き込まれたマスター情報担体と呼ばれるディスクと磁気記録媒体とを重ね合わせ、外部から転写用のエネルギーを与えることによりマスター情報担体に書き込まれた信号を磁気記録媒体に一括転写する方式が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法は、磁気記録媒体とマスター情報担体の凸部とを密着させ、外部磁界を加えることによって磁気転写を行うものである。
【0007】
ここで、特許文献1に記載の方法で磁気転写を行う場合、磁気記録媒体の転写面に異常突起が存在すると磁気記録媒体とマスター情報担体とが接触することによって磁気記録媒体やマスター情報担体の表面に陥没部が発生し、また磁気転写パターンが不完全となる場合がある。そこで特許文献2には、磁気記録媒体の転写面にバーニッシュ処理を施し表面の突起物や埃等を除去した後にマスター情報担体を磁気記録媒体表面に重ね合わせて磁気転写を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開2001−6169号公報
【特許文献3】特開2000−203889号公報
【特許文献4】特開平10−106229号公報
【特許文献5】特開平11−277339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気転写に用いられるマスター情報担体は高価であり、磁気記録媒体の製造コストを低減するためにはマスター情報担体が摩耗等によって破損するまでの使用回数を高めることが重要である。発明者の検討によると、磁気記録媒体表面のバーニッシュ処理(特許文献2参照。)、磁気記録媒体およびマスター情報担体表面の織布等によるワイピング、湿式洗浄等により両表面の突起物や埃等が除去され、マスター情報担体を用いた転写回数は著しく高められたが、依然、商業生産に至るほどの転写回数は得られていなかった。そして、マスター情報担体は摩耗による破損に至る前に磁気転写パターンが不完全となる状況が生じていた。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、マスター情報担体を用いた磁気転写回数の向上を可能とする磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は上記課題を解決すべく検討した結果、マスター情報担体による磁気転写パターンが不完全となるのはマスター情報担体表面に付着する金属腐食物等が原因であり、これは磁気記録媒体表面にわずかに残留する金属腐食物等がマスター情報担体に少しずつ転写されて蓄積すること、この磁気記録媒体表面にわずかに残留する金属腐食物等は通常のバーニッシュ処理、ワイピング、洗浄等では除去不能なレベルであり、これが僅かずつマスター情報担体に蓄積されてマスター情報担体の凹部に入り込むこと、マスター情報担体の転写面のワイピング等ではこれら物質の除去が困難であること、マスター情報担体の凹部に入り込んだ蓄積物がマスター情報担体の凸部を徐々に浸食しマスター情報担体による磁気転写パターン精度を低下させていることを解明した。そしてマスター情報担体による磁気記録媒体への磁気転写工程の前に、磁気記録媒体を水素水によって洗浄することにより、磁気記録媒体表面にわずかに残留する金属腐食物等を除去してこれのマスター情報担体への転写を防止し、マスター情報担体を用いた磁気転写回数を飛躍的に向上できることを見出し本願発明を完成させた。
すなわち本願発明は下記の構成を提供する。
【0012】
(1)非磁性基板の上に磁性層が形成された磁気記録媒体表面に、情報信号に対応するパターンを形成した磁気転写用マスター情報担体を重ね合わせて前記パターンを磁気記録媒体に磁気転写する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気転写用マスター情報担体は前記磁気記録媒体の製造に繰り返し使用されるものであり、前記磁気転写用マスター情報担体を磁気記録媒体に重ね合わせる前に磁気記録媒体を水素水で洗浄することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2)水素水での洗浄が、水素水を含む洗浄槽への浸漬洗浄であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(3)水素水中の溶存水素濃度が0.1ppm〜5ppmの範囲内であり、水素水の酸化還元電位が−200mV〜−800mVの範囲内であることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4)水素水での洗浄が多段工程での洗浄であり、KOHまたはNHOHを含む水素水での洗浄工程の後に、KOHまたはNHOHの何れも含まない水素水での洗浄工程を含むことを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)水素水に含まれるKOHまたはNHOHの量が0.05ppm〜5ppmの範囲内であることを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(6)水素水を含む洗浄槽に超音波振動を印加することを特徴とする(2)〜(5)の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本願発明の磁気記録媒体の製造方法は、連続使用されるマスター情報担体を用いた磁気転写回数を飛躍的に向上することが可能となり磁気記録媒体の生産コストを飛躍的に低減できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用する磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に磁性層が形成された磁気記録媒体の表面に、情報信号に対応するパターンを形成した磁気転写用マスター情報担体を重ね合わせてこのパターンを磁気記録媒体に磁気転写する磁気記録媒体の製造方法に関し、この磁気記録媒体の製造に使用される磁気転写用マスター情報担体は磁気記録媒体の製造に繰り返し使用されるものであり、この磁気転写用マスター情報担体を磁気記録媒体に重ね合わせる前に磁気記録媒体を水素水で洗浄することを特徴とする。
【0017】
磁気記録媒体の製造工程で使用される基板表面等のクリーニングは、洗浄液を用いた湿式クリーニングと、ワイピングテープ等を用いた乾式クリーニングに大別される。前者の湿式クリーニングは、後者の乾式クリーニングに比べ、クリーニングする能力に優れるものの、磁気記録媒体に含まれる金属元素を腐食させる場合がある。よって、湿式クリーニングは例えば特許文献3に記載されているように、主にアルミニウム合金やガラス等の磁気記録媒体用非磁性基板の洗浄に用いられていた。ここで磁気記録媒体の洗浄に湿式クリーニングが用いられる場合もあったが、磁気記録媒体はその磁性層にFe、Co等の腐食する物質を多く含むため、純水を用いたスピン洗浄のように数秒間程度の短時間の洗浄や、フッ素系溶媒を用いた非水洗浄が用いられていた。加えて、磁気記録媒体の表面に付着するのはスパッタダスト等のような粒状物が多く、これらを除去するためには織布、不織布を用いたワイピングの方が効果的であった。
【0018】
本願発明では磁気記録媒体表面の洗浄に水素水を使用するが、これは磁気記録媒体表面にわずかに残留し、バーニッシュ処理、ワイピング、スピン洗浄等では除去不能なレベルの量の汚染物、特に金属腐食物の除去を目的とし、水素水を用いることにより磁性層を腐食させることなく、また高い洗浄力でこれらの汚染物を除去することができる。そして磁気記録媒体の表面からこれらの汚染物が確実に除去されるため、磁気転写時にこれらの汚染物がマスター情報担体に転写され、これが僅かずつマスター情報担体に蓄積されることが防止され、特にこの蓄積物がマスター情報担体の転写面の凹部に入り込み、マスター情報担体の転写面の凸部を浸食し、磁気記録媒体の磁気転写パターンを劣化させることが防止される。
【0019】
また本願発明の水素水での洗浄は、水素水を含む洗浄槽への浸漬洗浄とするのが好ましい。前述のように磁気記録媒体には腐食しやすい元素が含まれているため、磁気記録媒体の洗浄液を用いた浸漬洗浄はフッ素化合物等を用いた非水系洗浄液による洗浄に限られていた。本願発明では、洗浄に水素水を用いるため、洗浄液による磁気記録媒体の腐食が発生しにくく、磁気記録媒体の表面に付着した汚染物を高い洗浄力で除去することが可能となる。特に本願発明の水素水中の溶存水素濃度を0.1ppm〜5ppmの範囲内とし、また、水素水の酸化還元電位を−200mV〜−800mVの範囲内とすることにより、この効果を高めることが可能となる。
【0020】
また本願発明では、水素水での洗浄工程を多段工程とし、KOHまたはNHOHを含む水素水での洗浄工程の後に、KOHまたはNHOHの何れも含まない水素水での洗浄工程とすることが好ましい。水素水を用いた洗浄では、洗浄液にKOHまたはNHOHを加えるとその洗浄力が高めることができる。しかしながら、磁気記録媒体の表面にKOHまたはNHOHが残留すると、これが磁気記録媒体やマスター情報担体の汚染の原因となる。そのため、水素水に含まれるKOHまたはNHOHの量を0.05ppm〜5ppmの範囲内とし、そしてKOHまたはNHOHを含む水素水での洗浄工程の後に、KOHまたはNHOHの何れも含まない水素水での洗浄工程を設けるのが、磁気記録媒体の洗浄力を高め、表面にKOH等を残留させないために好ましい。
また本願発明では、水素水を含む洗浄槽に超音波振動を印加することによりその洗浄力をさらに高めることができる。
【0021】
図1は、本発明の製造方法を適用する磁気記録媒体の一例を示したものである。この磁気記録媒体は、図1に示すように、非磁性基板1上に、スペーサ層2bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層2aを含む軟磁性下地層2と、配向制御層3と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑層6とを順次積層した構造を有している。
【0022】
また、この磁気記録媒体の例においては、垂直磁性層4は、非磁性基板1側から下層の磁性層4aと、中層の磁性層4bと、上層の磁性層4cとの3層を含み、磁性層4aと磁性層4bの間、又は磁性層4bと磁性層4cの間に、非磁性層7a,7bを含むことで、これら磁性層4a〜4cと非磁性層7a,7bとが交互に積層された構造を有している。
【0023】
非磁性基板1としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えば、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0024】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0025】
非磁性基板1は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0026】
また、非磁性基板1は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層2と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。この場合、非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に密着層を設けることが好ましく、これにより、これらを抑制することが可能となる。なお、密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0027】
軟磁性下地層2は、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いるのが好ましく、またその透磁率や耐食性を高めるためTa,Nb,Zr,Crからなる群から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有させるのが好ましい。
スペーサ層2bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中で特にRuを用いるのが好ましい。
【0028】
また、軟磁性下地層2上に形成される配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善することができる。このような材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0029】
また、配向制御層3と垂直磁性層4の間には、非磁性下地層8を設けることが好ましい場合がある。配向制御層3直上の垂直磁性層4の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。この初期部の乱れた部分を非磁性下地層8で置き換えることで、ノイズの発生を抑制することができる。
【0030】
非磁性下地層8は、Coを主成分とし、さらに酸化物41を含んだ材料からなることが好ましい。Crの含有量は、25原子%(原子%)以上50原子%以下とすることが好ましい。酸化物41としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0031】
磁性層4a、4b、4cは、Coを主成分とし、さらに酸化物を含んだ材料とするのが好ましく、この酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、磁性層4aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0032】
磁性層4a、4b、4cに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などを挙げることができる。
【0033】
また、本発明では、上記垂直磁性層4を4層以上の磁性層で構成することも可能である。例えば、上記磁性層4a,4bに加えて、グラニュラー構造の磁性層を3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層4cを設けた構成とし、また、酸化物を含まない磁性層4cを2層構造として、磁性層4a,4bの上に設けた構成とすることができる。
【0034】
また、本発明では、垂直磁性層4を構成する3層以上の磁性層間に非磁性層7を設けることが好ましい。非磁性層7を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。
【0035】
保護層5は、垂直磁性層4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのもので、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO、ZrOを含むものを使用することが可能である。保護層5の厚みは、1〜10nmとすることがヘッドと媒体の距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0036】
従来の磁気記録媒体の製造方法では、この後、保護層5表面への潤滑層6の塗布工程、ワイピング工程、バーニッシュ工程、磁気転写工程が行われるが、本願発明では、磁気転写工程の前に水素水による磁気記録媒体の洗浄工程が行われ、より好ましくは、保護層5表面への潤滑層6の塗布工程、ワイピング工程、バーニッシュ工程の前に水素水による洗浄工程を行う。
【0037】
本願発明の洗浄工程は、前述のように、ワイピング工程、バーニッシュ工程では除去できない磁気記録媒体表面の汚染物を除去する目的で行われる。これらの汚染物は、潤滑層の塗布工程、ワイピング工程、バーニッシュ工程の後では水素水による洗浄除去が困難となる場合がある。その理由は、推測ではあるが、汚染物が潤滑層に覆われるとその撥水性により除去が困難となること、ワイピング工程、バーニッシュ工程の後では汚染物が磁気記録媒体表面に塗り込められ、除去しにくくなることが考えられる。なお、本願発明の水素水による洗浄工程によってもスパッタダスト等の粉状物をある程度は除去することが可能ではあるが、ワイピング工程、バーニッシュ工程のように磁気記録媒体表面をスクラブし、ワイプし、また削る効果が低いため、磁気記録媒体表面に強固に付着した粉状物を除去することはできない。よって本願発明の水素水による洗浄工程は、ワイピング工程、バーニッシュ工程と併用するのが好ましい。
【0038】
本願発明の水素水での洗浄は、保護層5を形成した後の磁気記録媒体を、水素水を含む洗浄槽へ浸漬して行うのが好ましい。水素水とは、超純水もしくは純水に、高純度の水素ガスを溶解した水であり、水のクラスターを小さくして洗浄能力を高めたものである。特に磁気記録媒体の製造においては、ワイピング工程、バーニッシュ工程では除去できず、磁気転写時にマスター情報担体に転写、蓄積される汚染物を効果的に除去し、かつその洗浄時に磁気記録媒体を腐食させない効果を有する。
【0039】
具体的な洗浄工程は、投入する基板の枚数にもよるが、100枚程度の外径2.5インチ磁気記録媒体をバッチ式で処理する場合は、容積30リットル程度の樹脂製またはステンレス合金製の浸漬層に、純水中の溶存水素濃度を0.1ppm〜5ppmの範囲内とした水素水を入れ、この水素水の酸化還元電位を−200mV〜−800mVの範囲内とし、またKOHまたはNHOHの量を0.05ppm〜5ppmの範囲内、必要に応じて弱アルカリ性の界面活性剤を微量添加し、浸漬層に1kW程度の超音波振動を印加し、この浸漬層に磁気記録媒体を10秒〜10分の範囲内で浸漬洗浄する。そしてこの洗浄工程は、好ましくは多段洗浄とし、最終段の洗浄では、KOH、NHOH、界面活性剤を添加しない、純水と溶存水素のみの水素水を用いて超音波振動を加えながら洗浄を行う。そして洗浄後の磁気記録媒体は速やかにスピン法等で乾燥させるのが好ましい。
【0040】
本願発明では、水素水での洗浄工程の後に磁気記録媒体へ潤滑層6を塗布するのが好ましい。潤滑層6には、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。
【0041】
本発明では、磁気記録媒体の水素水による洗浄工程の後に、磁気記録媒体表面に付着したスパッタダスト等を拭き取るワイピング工程を行うのが好ましい。前述のように、水素水による洗浄工程は浸漬によるものであり、磁気記録媒体表面をワイプして強固に付着した粉状物を除去することはできないからである。
【0042】
ワイピング工程は、例えば特許文献4に記載されているように、布製のワイピングテープ等を用いて行なわれ、このワイピングテープを媒体表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロールまたはパッドによってワイピングテープ表面を媒体表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く拭く工程である。このような処理を行うことにより、媒体表面のスパッタダスト等が除去されるので、磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0043】
ここで、ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物等が用いられる。
【0044】
また、このようなワイピングテープを用いる磁気記録媒体のワイピング方法は、具体的には、磁気記録媒体を回転させつつ、この磁気記録媒体の磁性層側の面に、ワイピングテープの表面(拭き面)を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体表面のスパッタダスト等が拭き取られ、表面が清浄化する。ここで、ワイピングテープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、ワイピングテープは、拭き面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、その拭き面が磁気記録媒体の表面に押し当てられる。
【0045】
本願発明の磁気記録媒体の製造方法では、水素水による洗浄工程の後で、磁気転写工程の前に、バーニッシュ工程を設けるのが好ましい。バーニッシュ工程は、磁気記録媒体表面に形成または付着した突起物を除去するため、その表面を、研磨テープを用いて研磨する工程であり、ハードディスクドライブでの磁気ヘッドの浮上量をより小さくし、また前述のように、磁気転写工程で磁気記録媒体と磁気転写用マスター情報担体との間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明となり、磁気転写用マスター情報担体が損傷を受けるのを防ぐことができる。
【0046】
このようなバーニッシュ工程は、例えば特許文献5に記載されているように、アルミナ砥粒を塗布した研磨テープ等を用いて行なわれ、この研磨テープをゴム製のコンタクトロールによって媒体表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く研磨する工程である。このような処理を行うことにより、媒体表面の異常突起等が除去される。
【0047】
バーニッシュ工程に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材層を形成してなるテープを使用する。そして、この研磨材層が磁気ディスクの磁性層側の面と接触して摺動することによって、磁気ディスクの表面に付着した微小な塵埃が除去されると共に、その表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて、その表面が平滑化される。研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が
用いられる。
【0048】
また、このような研磨テープを用いる磁気ディスクのバーニッシュ加工は、具体的には、磁気ディスクを回転させつつ、この磁気ディスクの磁性層側の面に、研磨テープの砥粒面を押し当てることにより行われる。これにより、磁気ディスク表面の突起が研磨除去され表面平滑化する。ここで、研磨テープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、研磨テープは、砥粒面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、研磨テープの研磨面が磁気ディスクの表面に押し当てられる。
【0049】
上記の工程によって表面が清浄化された磁気記録媒体に対して磁気転写によってサーボ信号等を書き込む。この磁気転写工程は、前述のように、後述する初期直流磁化を行った後の磁気記録媒体の磁気記録面を、少なくともサーボ信号等の転写パターン面を備えた磁気転写用マスター情報担体に接触させ、所定の押圧力で密着させ、この状態で磁気転写用マスター情報担体の反接触面側から磁界生成手段により転写用磁界を印加して、磁気記録媒体にサーボ信号等の磁化パターンを転写記録する。
【0050】
ここで、本発明の磁気記録媒体は、前述のように、非磁性基板の少なくとも片面に磁性層が形成され、その磁性層の保磁力Hcは通常は320kA/m(約4000Oe)以上である。よって、磁気転写工程は、この磁性層を初期直流磁化し、かつ、磁気転写できる強度の磁界生成手段を用いる必要がある。
【0051】
本願発明の磁気記録媒体の製造に係わる磁気転写工程では、先ず、磁気記録媒体を初期磁化する。この初期磁化は、面内磁気記録媒体の場合はトラック方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行い、垂直磁気記録媒体の場合は、媒体面に垂直方向に一方向の初期直流磁界を印加する。この初期直流磁界は永久磁石、電磁石によって発生させることが可能であり、好ましくは、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いて発生させるのが好ましい。また、初期磁化工程は磁気記録媒体と非接触状態で行うのが磁気記録媒体の表面の清浄性を維持する上で好ましい。
【0052】
初期磁化工程の後に、磁気記録媒体と磁気転写用マスター情報担体とを密着させ前述の初期磁化の直流磁界とは逆方向となるように転写用磁界を印加して磁気転写を行う。これにより、磁気転写用マスター情報担体の凸パターンに応じた箇所に接触していた磁気記録媒体の箇所で磁化反転により磁化パターンが形成される。磁気記録媒体は一般的には円盤状基板の両面に磁気記録層が形成されているため、磁気記録媒体の両面に磁気転写によってサーボ信号等を書き込むのが好ましい。
【0053】
ハードディスクドライブに内蔵される磁気記録媒体はその両面に記録層があり、また1台のハードディスクドライブには複数枚の磁気記録媒体が内蔵される場合がある。そのため、ハードディスクドライブでは複数本の磁気ヘッドがスタック構造により一体で移動操作されるが、磁気記録媒体のトッラク幅はますます狭くなり、一つの磁気記録媒体のデータ面におけるサーボ信号等を用いて他のデータ面における磁気ヘッドの位置決めを行うことはヘッドのスタック構造の精度からは困難となっている。よって、本願発明の磁気記録媒体の製造方法における磁気転写工程は、磁気記録媒体を両面から磁気転写用マスター情報担体で挟み、更にこの2枚の磁気転写用マスター情報担体の裏面から磁気記録媒体を貫通する磁界を生成する磁界生成手段を用いるのが好ましい。
【0054】
磁気転写用マスター情報担体は公知の方法によって製造できるが、例えば次の製造方法を掲げることができる。先ず、シリコンウェハの表面に電子線レジストをスピンコート法により塗布する。塗布後、このレジストに対し、電子線露光装置を用いて、サーボ情報等に対応させて変調した電子ビームを照射し、レジストを露光する。その後、レジストを現像し、未露光部分を除去して、シリコンウェハ上にレジストのパターンを形成する。
【0055】
次いで、このレジストパターンをマスクとして用い、シリコンウェハに対して反応性エッチング処理を行い、レジストでマスクされていない箇所を掘り下げる。このエッチング処理後、シリコンウェハ上に残存するレジストを溶剤で洗浄除去する。その後、シリコンウェハを乾燥させて磁気転写用マスター情報担体を作製するための原盤を得る。
【0056】
この原盤上に、Niからなる導電層をスパッタリング法により10nm程度形成する。その後、この導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、この原盤上に数ミクロン厚のNi層を形成する。その後、Ni層を原盤から外し、このNi層を洗浄等して、表面に凸部を配設したNi基材を得る。
【0057】
次いで、このNi基材の表面に磁性層を形成する。この磁性層については前述の磁気記録媒体に用いられる磁性層と同じものが使用できる。また磁性層の上には磁気記録媒体と同様に保護層が形成される。この保護層は、磁気転写用マスター情報担体の耐摩耗性を高めるものであり、数nm程度の厚さの硬質炭素膜等を用いることができる。以上の製造工程によって磁気転写用マスター情報担体を得ることができる。
【0058】
磁気転写用磁界を印加する磁界生成手段は、密着手段に保持された磁気記録媒体および磁気転写用マスター情報担体において磁気転写用マスター情報担体の密着部の裏面に設置された電磁石や永久磁石によって構成される。この磁界生成手段は垂直磁気記録媒体の場合はデータ面に対して垂直で一方向の磁界を発生させる。そしてこの磁界生成手段は、磁気記録媒体の半径方向に延びるスリット状に磁界を発生させる構成とし、この磁界生成手段を媒体の中心に対して回転移動させるように設けてもよい。
その後、得られた磁気記録媒体に対してグライド検査が行われる。
【0059】
グライド検査とは、磁気記録媒体の表面に突起物が無いかどうかの検査である。すなわち、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体を記録再生する際に、磁気記録媒体の表面に浮上量(媒体と磁気ヘッドの間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッドが突起にぶつかって磁気ヘッドが損傷したり、磁気記録媒体に欠陥が発生したりする原因となる。グライド検査では、そのような高い突起の有無を検査する。
【0060】
グライド検査をパスした磁気記録媒体には、通常ではサーティファイ検査が実施される。サーティファイ検査とは、通常のハードディスクドライブの記録再生と同様に、磁気記録媒体に対して磁気ヘッドで所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体の記録不能を検出し、磁気記録媒体の電気特性や欠陥の有無など媒体の品質を確かめるものである。本願発明の方法で製造した磁気記録媒体はサーボ信号等が既に書き込まれているため、従来の方式でのサーティファイ検査は行うことができない。すなわち本願発明の磁気記録媒体では、磁気記録媒体に磁気転写されたサーボ情報を用いて磁気ヘッドを特定箇所に位置づけして読み書きを行う形式の検査を行う必要がある。
【0061】
図2は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示すものである。この磁気記録再生装置は、上記図1に示す構成を有する磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50を回転駆動させる媒体駆動部51と、磁気記録媒体50に情報を記録再生する磁気ヘッド52と、この磁気ヘッド52を磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部53と、記録再生信号処理系54とを備えている。また、記録再生信号処理系54は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド52に送り、磁気ヘッド52からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。また、本発明を適用した磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド52には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0062】
上記磁気記録再生装置によれば、上記磁気記録媒体50に本発明を適用した高記録密度、高速書き込み、優れた電磁変換特性の磁気記録媒体を採用することで優れた磁気記録再生装置とすることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
【0064】
実施例1では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、60Cr−50Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.76nmで成膜した後、さらに46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を層厚34nm成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0065】
次に、上記軟磁性下地層2の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0066】
次に、配向制御層3の上に、多層構造の磁性層として、Co12Cr16Pt−16TiO(膜厚3nm)、Co5Cr22Pt−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co(膜厚0.5nm)、Co10Cr16Pt3Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Co6Cr16Pt6Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co、Co11.5Cr13Pt10Ru−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Co15Cr16Pt6B(膜厚3nm)を積層した。
次に、CVD法により層厚2.5nmの炭素保護層を成膜し磁気記録媒体を得た。
【0067】
以上の方法で製造した磁気記録媒体を水素水で洗浄した。実施例1の洗浄工程は3段の洗浄工程からなり、各洗浄工程に用いた洗浄槽は何れもSUS製で容積が20リットル、その内部に500Wの超音波振動が加えられる。そして各洗浄槽に、超純水を用いて製造した溶存水素濃度1.5ppm、酸化還元電位−550mVの水素水15リットルを入れ、さらに1段目の洗浄槽には、KOHを0.1ppm添加した。この3段の洗浄槽に順に磁気記録媒体を浸漬し各洗浄槽で30秒間洗浄した。洗浄後の磁気記録媒体は速やかにスピン乾燥させた。
この磁気記録媒体の表面に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を厚さ15オングストロームで形成した。
【0068】
潤滑剤を塗布した磁気記録媒体に対してワイピング処理を施した。ワイピングテープには、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維を用いた。ワイピング処理は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、ワイピングテープの送り速度は10mm/秒、ワイピングテープを磁気記録媒体に押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。ワイピング処理に際してワイピングテープにパーフルオロポリエーテルを噴霧し、テープ表面に約0.01μmの潤滑剤層を形成した。
【0069】
ワイピング処理を施した磁気記録媒体に対してバーニッシュ加工を施した。バーニッシュテープには、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。バーニッシュ加工は、磁気記録媒体の回転数は300rpm、研磨テープの送り速度は10mm/秒、研磨テープを磁気ディスクに押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。
【0070】
バーニッシュ加工を施した磁気記録媒体に対して初期磁化を施した。具体的には磁気記録媒体の両データ面に対し磁気記録媒体を貫通する10kOeの磁界を、NdFeB系焼結磁石を用いて加えた。
【0071】
初期磁化を施した磁気記録媒体の両データ面に磁気転写用マスター情報担体を98mNの圧力で密着させ、磁気転写用マスター情報担体の裏面から記録磁界を印加した。この記録磁界の強度は4kOeとし、転写時間は10秒間とした。磁気転写用マスター情報担体には271kトラック/インチのサーボ信号等のパターンが形成され、トラックが幅120nm、トラック間の幅60nmで、パターンの段差は45nmである。磁気転写用マスター情報担体には、凸部を構成するNi基体の上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜、磁性層として層厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金膜、層厚15nmの70Co−5Cr−15Pt合金膜、保護層として層厚20nmのCVD炭素膜をこの順で積層した。
【0072】
上記方法で製造した磁気記録媒体のサーボ信号の再生特性を、リードライトアナライザ(型番:RWA1632;米国GUZIK社製)、及び、スピンスタンド(型番:S1701MP)を用いて測定した。この装置では、磁気記録媒体に記録されたサーボ信号等を読み込み、この信号を用いて磁気ヘッドの位置決めができる。この際、評価用の磁気ヘッドとして、TuMRを用いた磁気ヘッドを使用してサーボ信号の読み込み時のS/N比を評価し、S/N比が16.0dB以下となった場合に磁気転写不良と判断した。その結果、実施例1では153000回の磁気転写が可能であった。
(比較例1)
【0073】
比較例1では実施例1の洗浄槽に水素水を使用せず、超純水のみとした。すなわち、1段目の洗浄槽にはKOHを0.1ppm添加した超純水を使用し、2段目、3段目の洗浄槽には超純水のみを使用した。その結果、比較例1では32000回の磁気転写が可能であった。
(比較例2)
比較例2では実施例1の洗浄工程を行わなかった。その結果、比較例2では21000回の磁気転写が可能であった。
(実施例2)
【0074】
実施例2では、実施例1の洗浄工程を洗浄槽への浸漬ではなく、スピン洗浄で行った。すなわち、磁気記録媒体を200rpmで回転させながら超純水を用いて製造した水素水(溶存水素濃度1.5ppm、酸化還元電位−550mV、KOHを0.1ppm添加)を10cc/秒で噴霧しながら5秒間洗浄し、その後、KOHを含まない水素水に変えて10cc/秒で噴霧しながら3秒間洗浄し、その後、磁気記録媒体を1000rpmで回転させてスピン乾燥させた。その結果、実施例2では95000回の磁気転写が可能であった。

【符号の説明】
【0075】
1…非磁性基板
2…軟磁性下地層
2a…磁性層
2b…スペーサ層
3…配向制御層
4…垂直磁性層
4a…下層の磁性層
4b…中層の磁性層
4c…上層の磁性層
5…保護層
6…潤滑層
7…非磁性層
8…非磁性下地層
7a…下層の非磁性層
7b…上層の非磁性層
50…磁気記録媒体
51…媒体駆動部
52…磁気ヘッド
53…ヘッド駆動部
54…記録再生信号処理系


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の上に磁性層が形成された磁気記録媒体表面に、情報信号に対応するパターンを形成した磁気転写用マスター情報担体を重ね合わせて前記パターンを磁気記録媒体に磁気転写する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気転写用マスター情報担体は前記磁気記録媒体の製造に繰り返し使用されるものであり、前記磁気転写用マスター情報担体を磁気記録媒体に重ね合わせる前に磁気記録媒体を水素水で洗浄することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
水素水での洗浄が、水素水を含む洗浄槽への浸漬洗浄であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
水素水中の溶存水素濃度が0.1ppm〜5ppmの範囲内であり、水素水の酸化還元電位が−200mV〜−800mVの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
水素水での洗浄が多段工程での洗浄であり、KOHまたはNHOHを含む水素水での洗浄工程の後に、KOHまたはNHOHの何れも含まない水素水での洗浄工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
水素水に含まれるKOHまたはNHOHの量が0.05ppm〜5ppmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
水素水を含む洗浄槽に超音波振動を印加することを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−150768(P2011−150768A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12775(P2010−12775)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)