説明

磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末、並びに磁気記録媒体

【課題】 本発明は、非磁性下地層用塗料における分散性及び非磁性下地層中における充填性に優れた磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末を提供する。
【解決手段】 平均長軸径が30nm以下であり、軸比(長軸径と短軸径の比)が2.0以上であると共に、タップ密度(ρt)が0.60g/cm以上であるヘマタイト粒子粉末からなる非磁性粒子粉末及び該非磁性粒子粉末を磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として用いた磁気記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性下地層用塗料における分散性に優れると共に、非磁性下地層の強度が改善された磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末及び、該非磁性下地層用非磁性粒子粉末を用いて得られる表面平滑性及び耐久性に優れた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術は、オーディオ用、ビデオ用、コンピューター用等をはじめとしてさまざまな分野で幅広く用いられている。近年、機器の小型軽量化、記録の長時間化及び記録容量の増大等が求められており、記録媒体に対しては、記録密度のより一層の向上が望まれている。
【0003】
従来の磁気記録媒体に対してより高密度記録を行うためには、高いC/N比が必要であり、ノイズ(N)が低く、再生出力(C)が高いことが求められている。近年では、これまで用いられていた誘導型磁気ヘッドに代わり、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)等の高感度ヘッドが開発されており、これらは誘導型磁気ヘッドに比べて再生出力が得られやすいことから、高いC/N比を得るためには、出力を上げるよりもノイズを低減する方が重要となってきている。
【0004】
磁気記録媒体のノイズは、粒子性ノイズと磁気記録媒体の表面性に起因して発生する表面性ノイズに大別される。粒子性ノイズの場合、粒子サイズの影響が大きく、微粒子であるほどノイズ低減に有利であることから、磁気記録媒体に用いる磁性粒子粉末の粒子サイズはできるだけ小さいことが必要となる。
【0005】
しかしながら、磁性粒子粉末の微粒子化は、磁気記録層の薄層化を伴うものであり、磁気記録層が薄層化することによって、磁気記録層の表面平滑化が困難になること及び塗膜強度の低下が問題となるため、上記磁気記録層の薄層化に対しては、ベースフィルム等の非磁性支持体上にヘマタイト粒子粉末等の非磁性粒子粉末を結合剤樹脂中に分散させてなる下地層(以下、「非磁性下地層」という。)を少なくとも一層設けることにより、磁気記録媒体の表面平滑性及び強度向上を図っている。
【0006】
一方、表面性ノイズの場合、磁気記録媒体の表面平滑性を改良することが重要であるが、磁気記録層が薄層化することによって、非磁性下地層の表面平滑性がそのまま上層の磁気記録層の表面平滑性に影響を及ぼすこととなる。
【0007】
また、単位体積当たりの記録密度を向上させるために、磁気記録媒体自体を薄層化することが試みられている。
【0008】
従って、非磁性下地層には、平滑な表面と高い塗膜強度と共に、より一層の薄層化が求められており、このような非磁性下地層を形成するために、非磁性下地層中に配合される非磁性粒子粉末に対しては、非磁性下地層用塗料における優れた分散性と非磁性下地層中における充填性の向上と共に、非磁性粒子粉末の更なる微粒子化が求められている。
【0009】
粒子粉末を高充填するためには、粒子粉末の微粒子化と、微粒子化された粒子粉末をいかに高充填するかがポイントであり、一般に、粉体のタップ密度(ρt)が高いと粒子粉末中に含まれる空気が少なくなってかさが小さくなるため、強力なせん断力を混練物にかけることができることが知られている。
【0010】
走行耐久性に優れた磁気記録媒体を得ることを目的として、特定の突起部を有する厚さ0.3μm以下の磁性層が設けられると共に、下層非記録層に用いられる非強磁性粉末の平均長軸長が0.3μm以下である磁気記録媒体(特許文献1)が開示されている。
【0011】
また、優れた表面平滑性を有する磁気記録媒体を得ることを目的として、大粒径針状ヘマタイト粒子粉末と小粒径針状ヘマタイトとを特定の割合で混合した混合針状ヘマタイト粒子粉末を非磁性下地層用非磁性粒子粉末として用いること(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−269719号公報
【特許文献2】特開2001−160212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前出特許文献1では、下層非記録層に用いられる非強磁性粉末の平均長軸長が0.3μm以下である磁気記録媒体が記載されているが、タップ密度(ρt)については考慮されておらず、非磁性下地層中における充填性の向上を図ることが困難である。
【0014】
前出特許文献2では、非磁性下地層用非磁性粒子粉末として、大粒径針状ヘマタイト粒子粉末と小粒径針状ヘマタイトとを特定の割合で混合した混合針状ヘマタイト粒子粉末が記載されているが、平均長軸径の異なる針状ヘマタイト粒子粉末を混合して用いることを特徴としており、本発明の目的の1つである微細な非磁性粒子粉末を用いることによる非磁性下地層の薄層化とは技術的に異なっている。また、平均長軸径に対してBET比表面積が高く、タップ密度(ρt)についても考慮されていないことから、非磁性塗料中における分散が難しく、非磁性下地層を形成した時、表面平滑な塗膜が得られにくく、また、非磁性下地層中における充填性の向上を図ることが困難である。
【0015】
本発明は、表面平滑性及び耐久性に優れた磁気記録媒体を得ることのできる、非磁性下地層用塗料における分散性及び非磁性下地層中における充填性に優れた非磁性下地層用非磁性粒子粉末を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0017】
即ち、本発明は、ヘマタイト粒子粉末からなる非磁性粒子粉末において、平均長軸径が30nm以下であり、軸比(長軸径と短軸径の比)が2.0以上であると共に、タップ密度(ρt)が0.60g/cm以上であることを特徴とする磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末である(本発明1)。
【0018】
また、本発明は、非磁性粒子粉末の平均長軸径(L)(nm)とBET比表面積値(SSA)(m/g)が下記式(1)の関係にあることを特徴とする本発明1の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末である(本発明2)。
−1.4×L(nm)+190 ≧ SSA(m/g) ≧ −1.4×L(nm)+110 ・・・ (1)
【0019】
また、本発明は、圧縮性指数が28%以上であることを特徴とする本発明1又は本発明2の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末である(本発明3)。
【0020】
また、本発明は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記非磁性粒子粉末が本発明1乃至本発明3の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末であることを特徴とする磁気記録媒体である(本発明4)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、軸比が2.0以上の針状粒子であり、非磁性下地層用塗料における分散性及び非磁性下地層中における充填性に優れているため、高密度磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適である。
【0022】
また、本発明に係る磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、平均長軸径が30nm以下と非常に微細な粒子であるため、単位体積当たりの記録密度を向上させるために、今後更に薄層化する傾向にある高密度磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適である。
【0023】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、上述の非磁性粒子粉末を磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として用いることにより、高い表面平滑性と優れた耐久性を有する磁気記録媒体を得ることができるため、高密度磁気記録媒体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0025】
先ず、本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末について述べる。
【0026】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末はヘマタイト粒子粉末である。また、前記ヘマタイト粒子は、粒子内部にAl元素を含有すると共に、Zr、Ti、P、Sn、Sb、Y、Nb又はMn等の異種元素を含有させてもよい。
【0027】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末の軸比(長軸径と短軸径の比)(以下、「軸比」という。)は2.0以上であり、好ましくは2.2〜10、より好ましくは2.5〜8.0である。軸比が2.0以上であることにより、これを用いて得られた磁気記録媒体の塗膜強度をより向上させることができる。
【0028】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末の平均長軸径は30nm以下が好ましく、より好ましくは1〜29nm、更により好ましくは1〜28nmである。非磁性粒子粉末の平均長軸径が30nmを超える場合でも、従来の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として用いることは可能である。しかしながら、より一層の薄層化が望まれる磁気記録媒体においては、非磁性粒子粉末が30nm以下の微粒子であることによって非磁性下地層をより薄層化できると共に、非磁性粒子粉末を塗膜中により高充填することができるため、優れた表面平滑性と強度を有する磁気記録媒体を得ることが可能となる。また、平均長軸径が1nm未満の場合には、粒子の微細化による分子間力の増大により凝集を起こしやすいため、非磁性塗料中での分散が困難となる。
【0029】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末の平均長軸径(L)(nm)とBET比表面積値(SSA)(m/g)との関係は下記式(1)で表される。
−1.4×L(nm)+190 ≧ SSA(m/g) ≧ −1.4×L(nm)+110 ・・・ (1)
【0030】
平均長軸径(L)とBET比表面積値(SSA)との関係が上記式(1)の範囲にある場合、これを用いて非磁性下地層を作製する際、非磁性塗料中における分散性が向上するため、表面性に優れた非磁性下地層及び磁気記録媒体を得ることができる。平均長軸径(L)とBET比表面積値(SSA)との関係が上記式(1)の上限値を超える場合には、粒子の微細化による分子間力の増大により凝集を起こしやすいため、磁性塗料の製造時におけるビヒクル中への分散性が低下する。
【0031】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末のアルミニウムの含有量は、Al換算で0.75〜20wt%が好ましく、より好ましくは1.85〜18wt%である。非磁性下地層用非磁性粒子粉末のアルミニウムの含有量が0.75wt%未満の場合には、本発明の目的とする高いタップ密度を得ることが困難となる。
【0032】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末のタップ密度(ρt)は0.60g/cm以上であり、好ましくは0.65〜1.80g/cm、より好ましくは0.70〜1.50g/cmである。タップ密度(ρt)が0.60g/cm未満の場合には、粒子粉末中に含まれる空気が多いため、非磁性塗料作製時の非磁性粒子粉末を混練・分散する際に、強力なせん断力を混練物にかけることが難しく、塗膜中に非磁性粒子粉末高充填することができないため、結果、優れた表面平滑性を有する磁気記録媒体を得ることが困難となる。
【0033】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末の圧縮性指数は28%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、更により好ましくは32%以上である。圧縮性指数が28%以上の場合には、塗膜中に充填された非磁性粒子粉末がカレンダーをかけることにより圧縮されやすく、結果、表面平滑性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0034】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、アルミニウム、シリカ、チタン、亜鉛、リン、ホウ素、スカンジウム、イットリウム及び希土類元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム)から選ばれる元素からなる一種又は二種以上の化合物により焼結防止処理又は表面処理されていてもよい。粒子表面が前述の化合物により被覆されている非磁性粒子粉末は、非磁性塗料中に分散させた場合に、結合剤樹脂とのなじみがよく、所望の分散度がより得られ易い。
【0035】
次に、本発明に係る磁気記録媒体について述べる。
【0036】
本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成された非磁性下地層及び該非磁性下地層上に形成された磁気記録層とからなる。また、必要に応じて、非磁性支持体の一方の面に形成される磁気記録層に対し、非磁性支持体の他方の面にバックコート層を形成させてもよい。殊に、コンピューター記録用のバックアップテープの場合には、巻き乱れの防止や走行耐久性向上の点から、バックコート層を設けることが好ましい。
【0037】
本発明における非磁性支持体としては、現在、磁気記録媒体に汎用されているポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリスルフォン、セルローストリアセテート、ポリベンゾオキサゾール等の合成樹脂フィルム、アルミニウム、ステンレス等金属の箔や板及び各種の紙を使用することができる。得られる磁気記録媒体の強度を考慮すれば、ポリエステル類、ポリアミド又は芳香族ポリアミドが好ましい。
【0038】
次に、本発明における非磁性下地層について述べる。
【0039】
本発明における非磁性下地層は、本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末、及び結合剤樹脂とからなる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0040】
結合剤樹脂としては、磁気記録媒体の製造にあたって汎用されている熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化型樹脂等を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0041】
帯電防止剤としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化スズ、酸化チタン−酸化スズ−酸化アンチモン等の導電性粉末及び界面活性剤等を用いることができる。帯電防止の他に、摩擦係数低減、磁気記録媒体の強度向上といった効果が期待できることから、帯電防止剤としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0042】
本発明における非磁性下地層用非磁性粒子粉末を用いて得られた非磁性下地層は、塗膜の光沢度が170〜280%、好ましくは175〜280%、より好ましくは180〜280%であって、塗膜の表面粗度Raが10.0nm以下、好ましくは9.5nm以下、より好ましくは9.0nm以下である。
【0043】
次に、本発明における磁気記録層について述べる。
【0044】
本発明における磁気記録層は、磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含んでいる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0045】
磁性粒子粉末としては、鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末、鉄以外のCo、Al、Ni、P、Zn、Si、B、希土類金属等を含有する鉄合金磁性粒子粉末、Ba、Sr及びCaから選ばれる1種又は2種以上の元素を含有するマグネトプランバイト型(M型)フェライト微粒子粉末又はW型フェライト微粒子粉末、あるいはそれらの原子の一部が他の元素(Co、Ni、Zn、Mn、Mg、Ti、Sn、Zr、Cu、Mo、La、Ce、V、Si、S、Sc、Sb、Y、Rh、Pd、Nd、Nb、B、P、Ge、Al、Ag、Au、Ru、Pr、Bi、W、Re、Te等)で置換された六方晶フェライト粒子粉末並びに窒化鉄等のいずれをも用いることができる。
【0046】
磁性粒子粉末は、平均長軸径もしくは平均粒子径が5〜150nmであることが好ましく、より好ましくは10〜100nmである。
【0047】
磁性粒子粉末の磁気特性は、保磁力(Hc)が95.5〜397.9kA/mが好ましく、より好ましくは119.4〜318.3kA/mであり、飽和磁化値が40〜200Am2/kgが好ましく、より好ましくは45〜180Am2/kgである。
【0048】
結合剤樹脂としては、前記非磁性下地層を作製するために用いた結合剤樹脂を使用することができる。
【0049】
本発明におけるバックコート層中には、結合剤樹脂と共に、バックコート層の表面電気抵抗値低減及び強度向上を目的として、帯電防止剤及び無機粒子粉末を含有させることが好ましい。また、必要に応じて、通常の磁気記録媒体の製造に用いられる潤滑剤、研磨剤等が含まれていてもよい。
【0050】
結合剤樹脂及び帯電防止剤としては、前記非磁性下地層、及び磁気記録層を作製するために用いた結合剤樹脂及び帯電防止剤を使用することができる。
【0051】
無機粉末としては、アルミナ、ヘマタイト、ゲータイト、酸化チタン、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化亜鉛、チッ化珪素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
本発明に係る磁気記録媒体は、保磁力(Hc)は95.5〜397.9kA/mが好ましく、より好ましくは119.4〜318.3kA/m、塗膜の光沢度は185〜300%が好ましく、より好ましくは190〜300%、更により好ましくは195〜300%、塗膜の表面粗度Raは8.0nm以下が好ましく、より好ましくは7.5nm以下、更により好ましくは7.0nm以下である。
【0053】
次に、本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末の製造法について述べる。
【0054】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液との混合溶液に水溶性酸化防止剤を添加した後、40〜50℃の温度範囲にて非酸化性雰囲気下で30〜360分間維持攪拌してエイジングを行うことで鉄含有沈澱物を含む懸濁液とし、次いで、更にアルミニウム化合物を添加した後、当該懸濁液を40〜60℃の温度範囲にて酸化反応を行うことにより生成した含水酸化鉄粒子を、濾別、水洗、乾燥後、200〜400℃の温度範囲で加熱脱水して低密度ヘマタイト粒子粉末とした後、更に400〜750℃の温度範囲で加熱焼成することにより得ることができる。
【0055】
アルカリ水溶液としては、炭酸アルカリ水溶液又は水酸化アルカリと炭酸アルカリの混合アルカリ水溶液を用いることができる。炭酸アルカリ1molに対する水酸化アルカリの添加量は、0〜0.86molが好ましく、より好ましくは0.05〜0.86mol、更により好ましくは0.1〜0.86molである。炭酸アルカリに対する水酸化アルカリの添加量が少ないほど得られる含水酸化鉄粒子は微粒子化する傾向がある。また、炭酸アルカリに対する水酸化アルカリの添加量が多いほど得られる含水酸化鉄粒子の軸比は大きくなる傾向にあるが、0.86molを超える場合には、マグネタイトが生成・混在しやすくなるため好ましくない。
【0056】
本発明における水溶性酸化防止剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸又はそれらの塩を用いることができる。水溶性酸化防止剤の添加量は、Fe2+に対して0.1〜5.0mol%が好ましく、より好ましくは0.2〜4.0mol%である。水溶性酸化防止剤を上記範囲で添加することによりタップ密度の高いヘマタイト粒子粉末を得るための前駆体である含水酸化鉄粒子粉末を得ることができる。また、水溶性酸化防止剤の添加時期としては、エイジングの前であればいつでもよい。エイジングの前に水溶性酸化防止剤を添加しておくことで、エイジング中の含水酸化鉄粒子生成を抑制することができるため、微粒子且つ粒度分布に優れた含水酸化鉄粒子を得ることができる。
【0057】
本発明におけるアルミニウム化合物としては、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩や、アルミン酸ソーダ等のアルミン酸アルカリ塩、水酸化アルミニウム等を用いることができる。アルミニウム化合物の添加量は、Fe2+に対してAl換算で2.0〜30.0atm%、好ましくは5.0〜30.0atm%である。アルミニウム化合物の添加時期としては、エイジング後且つ酸化反応前に添加することが好ましく、エイジング前と酸化反応前と2回に分割添加してもよい。エイジング前とエイジング後に添加するアルミニウム化合物の添加量の割合は、45:55〜0:100の範囲であることが好ましく、より好ましくは40:60〜0:100の範囲である。エイジング後且つ酸化反応前にアルミニウム化合物を添加することで、微粒子で軸比が大きいと共に、タップ密度の高いヘマタイト粒子粉末を得るための前駆体である含水酸化鉄粒子粉末を得ることができる。
【0058】
前記エイジングは、非酸化性雰囲気下、40〜50℃の温度範囲で行うことが好ましい。50℃を超える場合には、マグネタイトが混在しやすくなるため好ましくない。また、攪拌の保持時間は30〜360分であり、好ましくは60〜240分である。
【0059】
前記酸化反応は常法に従って行えばよく、例えば、前記懸濁液中に酸素含有ガスを通気する、あるいは、前記懸濁液に酸化剤を添加する、等の方法により行うことができる。酸化反応の温度範囲は40〜60℃で行うことが好ましく、60℃を超える場合には、マグネタイトが混在しやすくなるため好ましくない。また、酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等を用いることができる。
【0060】
なお、前記酸化反応前に、粒子形状のコントロール及び諸特性向上を目的として、Si、Zr、Ti、P、Sn、Sb、Y、Nb又はMn等の異種元素が添加されてもよい。
【0061】
本発明においては、加熱脱水処理を行う前に、あらかじめ含水酸化鉄粒子粉末の粒子表面を焼結防止剤で被覆しておくことが好ましい。焼結防止剤による被覆処理は、出発原料である含水酸化鉄粒子粉末を含む懸濁液中に焼結防止剤を添加し、均一になるように混合攪拌した後、含水酸化鉄粒子表面に焼結防止剤が被覆できるよう、適切なpH調整を行って表面を被覆する。
【0062】
前記焼結防止剤としては、通常使用されるヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸、オルトリン酸等のリン化合物、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ等のケイ素化合物、ホウ酸等のホウ素化合物、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩や、アルミン酸ソーダ等のアルミン酸アルカリ塩、アルミナゾル、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、オキシ硫酸チタン等のチタン化合物、スカンジウム、イットリウム、希土類元素(ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム)から選ばれる元素を含む硫酸塩、塩化物、硝酸塩等の一種又は二種以上を使用することができる。
【0063】
含水酸化鉄粒子粉末の加熱脱水温度は200〜400℃であり、好ましくは250〜400℃である。加熱脱水温度が200℃未満の場合には、脱水反応に長時間を要するために好ましくない。また、低温加熱脱水温度が400℃を超える場合には、脱水反応が急激に生起し、粒子の形状が崩れやすくなったり、粒子相互間の焼結を引き起こしたりする可能性がある。
【0064】
加熱脱水後の低密度ヘマタイト粒子粉末の加熱焼成温度は400〜750℃であり、好ましくは400〜700℃である。加熱処理温度が400℃未満の場合には、高密度化が不十分であるためヘマタイト粒子の粒子内部及び粒子表面に脱水孔が多数存在しており、非磁性塗料中における分散が難しく、非磁性下地層を形成した時、表面平滑な塗膜が得られにくい。750℃を超える場合には、ヘマタイト粒子の高密度化は十分なされているが、粒子及び粒子相互間の焼結が生じるため、粒子径が増大し、同様に表面平滑な塗膜は得られにくい。
【0065】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、アルミニウム、シリカ、チタン、亜鉛、リン、スカンジウム、イットリウム及び希土類元素(ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム)から選ばれる元素からなる一種又は二種以上の化合物により表面処理されていてもよい。
【0066】
上記表面処理は、非磁性粒子粉末を分散して得られる水懸濁液に、アルミニウム、シリカ、チタン、亜鉛、リン、スカンジウム、イットリウム及び希土類元素(ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム)から選ばれる元素からなる一種又は二種以上の化合物を添加して混合攪拌することにより、又は、必要により、混合攪拌後にpH値を調整することにより、前記非磁性粒子粉末の粒子表面を被覆し、次いで、濾別、水洗、乾燥、粉砕する。必要により、更に、脱気・圧密処理等を施してもよい。
【0067】
次に、本発明における磁気記録媒体の製造法について述べる。
【0068】
前記非磁性下地層、磁気記録層、及びバックコート層の形成にあたって用いる溶剤としては、磁気記録媒体に汎用されているアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びテトラヒドロフラン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル及びジオキサン等のグリコールエーテル類及びその混合物等を使用することができる。
【0069】
非磁性下地層、磁気記録層、バックコート層は、各層を構成する成分及び溶剤を一般に使用される混練機及び分散機により混練・分散処理を行い、各塗料を作製する。該各塗料を用いて、非磁性支持体上の一面に非磁性下地層、磁気記録層の順に塗布、乾燥後、カレンダー処理を行う。その際の塗布方法としては、磁性層と非磁性層をほぼ同時に塗布するWet on Wet法でも、非磁性下地層を塗布・乾燥後、その上に磁気記録層を塗布するWet on Dry法のどちらでもよい。また、必要により、バックコート層を設ける場合には、非磁性下地層及び磁気記録層とは反対面の非磁性支持体上にバックコート層用塗料を塗布、乾燥後、カレンダー処理を行い、磁気記録媒体を得る。
【0070】
<作用>
本発明において最も重要な点は、ヘマタイト粒子粉末からなる非磁性粒子粉末において、平均長軸径が30nm以下であり、軸比(長軸径と短軸径の比)が2.0以上であると共に、タップ密度(ρt)が0.60g/cm以上である非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、非磁性塗料中における分散性に優れると共に、塗膜中に非磁性粒子粉末を高充填することができるという事実である。
【0071】
本発明に係る非磁性下地層用非磁性粒子粉末が、非磁性塗料中における分散性に優れると共に、塗膜中に非磁性粒子粉末を高充填することができる理由として、本発明者は下記のように推定している。
【0072】
即ち、非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、粒子径が大きくなると非磁性下地層の表面平滑性が悪くなることから、粒子径はできる限り小さいことが望ましいが、粒子径が小さくなると、一般に、BET比表面積値が大きくなる。更に、粒状粒子(軸比<2.0)と比べて針状粒子(軸比≧2.0)の方が磁気記録媒体の強度向上には有効であるが、針状粒子は同程度の平均粒子径を有する粒状粒子と比べてBET比表面積値が大きくなる傾向にあるため、非磁性塗料中における分散が困難となる。しかしながら、本発明の非磁性粒子粉末は、平均長軸径が30nm以下の非常に微細な粒子であるにもかかわらず、BET比表面積値を特定の範囲に限定したことによって非磁性塗料中における良好な分散性を有すると共に、タップ密度(ρt)を0.60g/cm以上としたことによって、粒子粉末中に含まれる空気を少なくできるため、非磁性塗料作製時の非磁性粒子粉末を混練・分散する際に、強力なせん断力を混練物にかけることが容易となり、塗膜中に非磁性粒子粉末を高充填することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0074】
粒子の平均長軸径、平均短軸径及び平均厚みは、以下の手順で測定を行った。まず、透過型電子顕微鏡を用いて粒子を観察し、個々の粒子が重ならず、ばらばらに分散している視野において、粒子約400個が存在するように倍率を調整し、写真を撮影した。次に得られた写真を縦横4倍に拡大した後に、粒子約350個について長軸径、短軸径、粒子径、又は厚みを、DIGITIZER(型式:KD 4620、グラフテック株式会社製)を用いてそれぞれ測定し、その平均値で粒子の平均長軸径、平均短軸径及び平均厚みを示した。写真上において、粒子の輪郭がはっきりしないものや、粒子同士が重なって個々の粒子を判別しにくいものは粒子径の測定から除外した。
【0075】
軸比は長軸径と短軸径との比の平均値で示し、板状比は粒子径と厚みの比の平均値で示した。
【0076】
比表面積値は、「モノソーブMS−11」(カンタクロム株式会社製)を用いて、BET法により測定した値で示した。
【0077】
非磁性粒子粉末の粒子内部や粒子表面に存在するAl量及び各種焼結防止剤、表面処理剤に含有される元素量のそれぞれは、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。また、六方晶フェライト粒子粉末のTi量、Ni量及びFe量は、上記と同様にして測定した。
【0078】
ヘマタイト粒子粉末のかさ密度(ρa)はJIS K5101に従い、カサ比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用いて測定を行った。また、タップ密度(ρt)は、振盪比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用い、25mlのタッピングセルに粉末を落下させ、セルが満杯に充填された後、ストローク長25mmでタッピングを600回行って測定した。
【0079】
ヘマタイト粒子粉末の圧縮性指数(%)は、下記数1に従って算出した値である。
【0080】
<数1>
圧縮性指数(%)=((タップ密度−かさ密度)/タップ密度)×100
【0081】
磁性粒子粉末及び磁気記録媒体の磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業株式会社製)を用いて外部磁場795.8kA/mの条件で測定した。
【0082】
塗料粘度は、得られた塗料の25℃における塗料粘度を、E型粘度計EMD−R(株式会社東京計器製)を用いて測定し、ずり速度D=1.92sec−1における値で示した。
【0083】
塗膜表面の光沢度は、「グロスメーター UGV−5D」(スガ試験機株式会社製)を用いて入射角45°で測定した値であり、標準板光沢を86.3%としたときの値を%で示したものである。
【0084】
表面粗度Raは、「ZYGO NewView600S」(ZYGO株式会社製)を用いて塗膜の中心線平均粗さを測定した。
【0085】
磁気記録媒体を構成する非磁性支持体、非磁性下地層、磁気記録層及びバックコート層の各層の厚みは、デジタル電子マイクロメーターK351C(安立電気株式会社製)を用いて測定した。
【0086】
<前駆体1:含水酸化鉄粒子粉末の製造>
水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合アルカリ水溶液(炭酸ナトリウム1molに対する水酸化ナトリウムの添加量:0.5mol)(Fe2+に対するアルカリの総和量(2OH/Fe2+):1.5)に、アスコルビン酸(Fe2+に対するアスコルビン酸の添加量:0.8mol%)、硫酸第一鉄水溶液(反応濃度:0.4mol/L)及び硫酸アルミニウム(Fe2+に対しAl換算で3.0atm%)を添加した後、温度43℃、非酸化性雰囲気下で120分間攪拌することでエイジングを行い、鉄含有沈澱物を含む懸濁液を得た。次いで、当該懸濁液に硫酸アルミニウム(Fe2+に対しAl換算で6.0atm%)(エイジング前とエイジング後のアルミニウム化合物の添加量の割合は33:67)を添加した後、Airを通気しながら酸化反応を行い、生成した粒子を、常法により濾別、水洗、乾燥することにより前駆体1の含水酸化鉄粒子を得た。
【0087】
得られた前駆体1の含水酸化鉄粒子粉末は、粒子形状が針状であり、平均長軸径が31nm、平均短軸径が8.2nm、軸比が3.8、BET比表面積値が206.3m/gであった。
【0088】
<実施例1−1:ヘマタイト粒子粉末の製造>
前駆体1で得られた含水酸化鉄粒子粉末を水に再分散させたスラリー(固形分濃度31g/L)550Lを加熱して温度を60℃とし、0.1mol/LのNaOH水溶液を加えて該スラリーのpH値を10.0に調整した。
【0089】
次に、上記スラリー中に、焼結防止剤としてヘキサメタリン酸ソーダ(25%水溶液)3,132gを徐々に加え、添加が終わった後、60分間熟成を行った。次に、このスラリーに0.1mol/Lの酢酸溶液を加え、スラリーのpH値を6.5に調整した。その後、常法により、水洗、濾過、乾燥を行い、焼結防止処理された含水酸化鉄粒子粉末を得た。
【0090】
次いで、得られた焼結防止処理された含水酸化鉄粒子粉末をセラミック製の回転炉に入れ、回転駆動させながら空気中300℃で60分間加熱脱水処理を行い、含水酸化鉄粒子粉末を脱水して、低密度ヘマタイト粒子粉末を得た。
【0091】
次に、上記低密度ヘマタイト粒子粉末13kgをセラミック製の回転炉に再度投入し、回転駆動させながら空気中540℃で30分間熱処理を行い、脱水孔の封孔処理をすることにより、実施例1−1のヘマタイト粒子粉末を得た。
【0092】
得られた実施例1−1のヘマタイト粒子粉末は、粒子形状が針状であり、平均長軸径が24nm、平均短軸径が5.8nm、軸比が4.1、BET比表面積値が125.3m/g、Alの含有量は3.38wt%、タップ密度(ρt)が1.06g/cm、圧縮性指数が40.6%であった。
【0093】
<非磁性下地層1:非磁性下地層の製造>
前記実施例1−1の非磁性下地層用ヘマタイト粒子粉末10gと結合剤樹脂溶液(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを固形分75%となるよう混合し、自動乳鉢を用いて30分間混練して混練物を得た。
【0094】
0.35mmφガラスビーズ105gと、上記で得られた混練物及び追加の結合剤樹脂溶液((スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及び(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1))70重量%)を下記の配合割合となるよう140mlガラス瓶に添加し、ペイントシェーカーで12時間混合・分散を行った後のずり速度D=1.92sec−1における塗料粘度が800〜1,200mPa・sとなるよう、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンを加えて固形分濃度を調整し、ペイントシェーカーで12時間混合・分散を行って塗料組成物を得た。その後、潤滑剤及び硬化剤を加え、更に、ペイントシェーカーで15分間混合・分散した後、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、非磁性下地層用非磁性塗料を調整した。
【0095】
得られた非磁性下地層用非磁性塗料の組成は、下記の通りであった。
【0096】
非磁性下地層用ヘマタイト粒子粉末 100.0重量部、
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 13.2重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 8.2重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 3.0重量部、
潤滑剤(ブチルステアレート) 1.0重量部。
【0097】
得られた非磁性下地層用非磁性塗料の粘度は980mPa・sであり、固形分は24%であった。
【0098】
上記非磁性下地層用非磁性塗料を厚さ4.5μmの芳香族ポリアミドフィルム上に塗布し、次いで、乾燥させることにより非磁性下地層を形成した。非磁性下地層の特性を評価するために、得られた塗布片の半分に対してカレンダー処理を行った後、60℃で24時間硬化反応を行った。
【0099】
得られた非磁性下地層1は、膜厚が1.4μm、塗膜の光沢度が208%、表面粗度Raが6.2nmであった。
【0100】
<実施例2−1:磁気記録媒体の製造>
磁性粒子(1)(種類:鉄を主成分とする金属磁性粒子、粒子形状:針状、平均一次長軸径:62.2nm、平均一次短軸径:13.5nm、軸比:4.6、BET比表面積値:63.4m/g、保磁力:197.6kA/m、飽和磁化値:125.6Am/kg)12g、研磨剤(商品名:AKP−50、住友化学株式会社製)1.2g、カーボンブラック 0.12g、結合剤樹脂溶液(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを混合し、自動乳鉢を用いて30分間混練して混練物を得た。
【0101】
この混練物を0.35mmφガラスビーズ105g、追加結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンと共に140mlガラス瓶に添加し、ペイントシェーカーで12時間混合・分散を行って磁性塗料を得た。その後、潤滑剤及び硬化剤を加え、更に、ペイントシェーカーで15分間混合・分散した後、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、磁気記録層用磁性塗料を調整した。
【0102】
得られた磁気記録層用磁性塗料の組成は下記の通りであった。
【0103】
鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末 100.0重量部、
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 10.0重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 10.0重量部、
研磨剤(AKP−50) 10.0重量部、
カーボンブラック 1.0重量部、
潤滑剤(ミリスチン酸:ステアリン酸ブチル=1:2) 3.0重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 5.0重量部、
シクロヘキサノン 65.8重量部、
メチルエチルケトン 164.5重量部、
トルエン 98.7重量部。
【0104】
磁気記録層用塗料を前記非磁性下地層の上に塗布した後、磁場中において配向・乾燥した。その後、60℃で24時間硬化反応を行い、12.7mm幅にスリットして実施例2−1の磁気記録媒体を得た。
【0105】
得られた磁気記録媒体は、磁気記録層の膜厚が0.27μm、保磁力が198.8kA/m、光沢度が221%、表面粗度Raが5.9nmであった。
【0106】
前記前駆体1、実施例1−1、非磁性下地層1及び実施例2−1に従って、前駆体である含水酸化鉄粒子粉末、非磁性下地層用非磁性粒子粉末、非磁性下地層及び磁気記録媒体を作製した。各製造条件及び得られた前駆体、非磁性下地層用非磁性粒子粉末、非磁性下地層及び磁気記録媒体の諸特性を示す。
【0107】
<含水酸化鉄粒子粉末の製造>
前駆体2〜6:
含水酸化鉄粒子粉末を製造する際の条件を種々変化させた以外は、前駆体1と同様にして含水酸化鉄粒子粉末を得た。
【0108】
このときの製造条件を表1に、得られた含水酸化鉄粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
<ヘマタイト粒子粉末の製造>
実施例1−2〜1−4及び比較例1−1〜1−2:
含水酸化鉄粒子の種類、焼結防止剤の種類及び被覆量、低密度加熱処理の温度と時間、高密度加熱処理の温度と時間を種々変化させた以外は、実施例1−1と同様にしてヘマタイト粒子粉末を得た。
【0112】
このときの製造条件を表3に、得られたヘマタイト粒子粉末の諸特性を表4に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
<表面処理された非磁性下地層用非磁性粒子粉末の製造>
実施例1−5:
実施例1−1で得られたヘマタイト粒子粉末12kgを、凝集を解きほぐすために、純水70Lに攪拌機を用いて邂逅し、更に、「TKパイプラインホモミクサー」(製品名、特殊機化工業株式会社製)を3回通して実施例1−1のヘマタイト粒子粉末を含むスラリーを得た。
【0116】
続いて、この実施例1−1のヘマタイト粒子粉末を含むスラリーを横型サンドグラインダー「マイティーミルMHG−1.5L」(製品名、井上製作所株式会社製)を用いて、軸回転数2000rpmにおいて5回パスさせて、実施例1−1のヘマタイト粒子粉末を含む分散スラリーを得た。
【0117】
得られた実施例1−1のヘマタイト粒子粉末を含む分散スラリー濃度を62g/Lとし、スラリーを180L採取した。このスラリーを攪拌しながら、6mol/LのNaOH水溶液を加えてスラリーのpH値を13.4に調整した。次に、このスラリーを攪拌しながら加熱して95℃まで昇温し、その温度で3時間保持した。
【0118】
次に、このスラリーをデカンテーション法により水洗し、pH値が10.5のスラリーとした。この時点でのヘマタイト粒子粉末の重量は10.5kgであった。
【0119】
次に、上記アルカリ性スラリー中に、アルミン酸ナトリウム 947gを徐々に加え、20分間熟成を行った。次に、このスラリーに0.1mol/Lの酢酸溶液を加え、スラリーのpH値を9.1に調整した。その後、常法により、濾別、水洗、乾燥を行い、実施例1−5のヘマタイト粒子粉末を得た。
【0120】
このときの製造条件を表5に、得られた非磁性下地層用非磁性粒子粉末の諸特性を表6に示す。
【0121】
実施例1−6〜1−7:
非磁性粒子の種類、表面処理添加物の種類及び量を種々変化させた以外は、実施例1−5と同様にして非磁性下地層用非磁性粒子粉末を得た。
【0122】
このときの製造条件を表5に、得られた非磁性下地層用非磁性粒子粉末の諸特性を表6に示す。
【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
<非磁性下地層の製造>
非磁性下地層2〜7及び比較非磁性下地層1〜2:
非磁性下地層用非磁性粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、非磁性下地層1と同様にして非磁性下地層を得た。
【0126】
このときの製造条件、及び得られた非磁性下地層の諸特性を表7に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
<磁気記録媒体の製造>
実施例2−2〜2−7及び比較例2−1〜2−2:
非磁性下地層の種類及び磁性粒子の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1と同様にして磁気記録媒体を製造した。
【0129】
尚、使用した磁性粒子(1)〜(3)の諸特性を表8に示す。
【0130】
【表8】

【0131】
このときの製造条件及び得られた磁気記録媒体の諸特性を表9に示す。
【0132】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、軸比が2.0以上の針状粒子であり、非磁性下地層用塗料における分散性及び非磁性下地層中における充填性に優れているため、高密度磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適である。
【0134】
また、本発明に係る磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末は、平均長軸径が30nm以下と非常に微細な粒子であるため、単位体積当たりの記録密度を向上させるために、今後更に薄層化する傾向にある高密度磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適である。
【0135】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、上述の非磁性粒子粉末を磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として用いることにより、高い表面平滑性と優れた耐久性を有する磁気記録媒体を得ることができるため、高密度磁気記録媒体として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘマタイト粒子粉末からなる非磁性粒子粉末において、平均長軸径が30nm以下であり、軸比(長軸径と短軸径の比)が2.0以上であると共に、タップ密度(ρt)が0.60g/cm以上であることを特徴とする磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末。
【請求項2】
非磁性粒子粉末の平均長軸径(L)(nm)とBET比表面積値(SSA)(m/g)が下記式(1)の関係にあることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末。
−1.4×L(nm)+190 ≧ SSA(m/g) ≧ −1.4×L(nm)+110 ・・・ (1)
【請求項3】
圧縮性指数が28%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末。
【請求項4】
非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記非磁性粒子粉末が請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2011−123925(P2011−123925A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278738(P2009−278738)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】