説明

磁気記録媒体

【課題】 磁気記録媒体の磁性層の保護と磁気特性の向上を目的とする。
【解決手段】 磁性層の保護と磁気特性の向上のため、磁性層の上にDLCのを設けた。磁気記録媒体上に摩擦係数の小さなDLCを形成し、媒体表面の中心線平均粗さを30nm以下と出来たため磁気特性を向上させ得た。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はオーディオテープ、ビデオテープ、フロッピィディスク、ハードディスク等磁気記録媒体に関するものである。特に前記磁気記録媒体の特性向上のための磁性薄膜上被膜の形成に関する技術を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】オーディオテープ、ビデオテープ、フロッピィディスク、ハードディスク等磁気記録媒体は一般に有機樹脂もしくは金属等の支持基板上に磁性膜を形成して構成される。磁性膜は塗布、もしくは蒸着、スパッタ等の真空プロセスにより形成される。性能よりはコストを優先させる場合は塗布で、高性能が要求される場合は真空プロセスが用いられる。
【0003】これら磁気記録媒体はその使用状態において、常時もしくは一時的に、磁気ヘッド(信号書込み・読み取り装置)またはその機構部品、およびキャプスタイン、ロラー等送り機構部品と接触しており、機械的負荷を受ける。このため、磁気特性と同時に機械的耐久性および低摩擦性が要求される。従来、摩擦係数を下げる方策として、磁性膜表面に潤滑膜を塗布する、表面に凹凸を設け実質的な接触面積を低下させる等の対策が採られているが、接触、慴動により潤滑膜は磨耗し、摩擦係数が上昇し、加速的に劣化が進行してしまう。
【0004】また、近年は映像、音響等従来アナログ信号として扱ってきた情報をディジタル化する流れにあり、磁気記録媒体に対してもその記録信頼性の向上が望まれている。このような背景においては長期的に摩擦係数が安定して低いレベルに保たれる必要がある。
【0005】磁性薄膜は有機物ポリマーに磁性材料粉を混入させ、塗布により基板上に層を形成する方法と磁性材料自体を真空蒸着またはスパッタ法等の真空プロセスにより層形成する方法があるが、真空プロセスを用いたほうが磁気特性が良好となる。磁性材料はフェライト、金属等を用いるのが一般的である。金属磁性材料としてはNiCo、CoPtCr等が用いられる。
【0006】一方、炭素もしくは炭素を主成分とする硬度の高い被膜をプラズマCVD技術を用いて形成できることは特公平3−72711、特公平4−27690、特公平4−27691等に開示されており、良く知られている。即ち、減圧容器内に主に炭化水素ガスと水素ガスを原料ガスとして導入し、容器内に設置した一対もしくはそれ以上の電極に通常高周波の電界を印加し、該電界により原料ガスをプラズマ化して炭素を含む粒子を活性化し、これを基板に堆積させる技術である。
【0007】これらの被膜は硬度が高く、ダイヤモンド状の物性を示すことからダイヤモンドライクカーボン(以下DLCと略称)と称される。通常、DLCを成膜するときにはプラズマ電位に対して負のバイアスが基板に印加されるよう自己バイアス、もしくは外部電源によるバイアスが印加される。これにより炭素膜中のグラファイトライクな物性を示す結合(sp2 混成軌道+p軌道)がエッチングされ、ダイヤモンドライクな物性を示す結合(sp3 混成軌道)が主に形成されることとなる。
【0008】このようなDLC薄膜の硬度はビッカース硬度にして2000kg/mm2 以上と高く、摩擦係数も低いため、磁性膜表面の保護膜、潤滑膜として好適なものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところが、これらDLC膜は磁性材料、特に金属磁性材料との接着性が充分でなく成膜後に自然に剥離したり、機構部品との接触、慴動により剥離してしまい、実用に耐えるだけの接着強度を有しないという問題があった。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため本発明では、磁性薄膜上に形成される炭素もしくは炭素を主成分とする被膜に4族の元素を20原子%以下添加するものである。4族元素としてはSi、Geを用いることができる。
【0011】DLCに4族元素を添加すると接着性が向上する理由は以下のように推察できる。DLC膜中にはグラファイトライクな物性を示す結合(sp2 混成軌道+p軌道)とダイヤモンドライクな物性を示す結合(sp3 混成軌道)が混在しており、sp3 混成軌道の場合は4つのσ電子が結合に寄与するもののsp2 混成軌道+p軌道の場合は3つのσ電子と1つのπ電子により結合がなされる。π電子による結合はσ電子によるそれより結合力が小さいと考えられるのでsp3 混成軌道となっている炭素原子の比率が高いDLC膜ほど硬度が高く、ダイヤモンドに近い物性を示す。これは金属との界面においても同様に考えることが出来、界面近傍にsp2 混成軌道+p軌道をもった炭素原子が少ないほど結合力すなわち密着性が良好となると考えられる。
【0012】一方、Si原子はアモルファス状態にあってもsp3 混成軌道状態(4配位)しかとりえないことが知られており、また、4配位元素中に孤立状態では3配位もしくは5配位する元素を添加した場合周りの配位数と同じ配位数すなわち4配位となるほうが熱的に安定である事実はSiにPまたはBをドープしたときPまたはBが4配位していることでよく知られている。すなわち、sp2 混成軌道+p軌道(3配位)状態にある炭素原子の最近接原子に4配位状態しか取りえないSi原子を配置すると炭素原子は4配位となり、結果としてsp3 混成軌道となっている炭素原子の比率が上昇することとなる。よって、Siを添加したDLC膜は密着性が良くなると考えられる。
【0013】DLC中に添加されるSiの量は20原子%以下が良く、好ましくは1〜15原子%がよい。添加されるSiの量が増大するとC−Cの結合が減少し、C−Si、Si−Siの結合量が増大する。C−Si、Si−Siの結合量が増えるとその膜の物性はSi膜に近くなり、硬度は低下し、摩擦係数は上昇する。よってSi量には最適値が存在する。
【0014】また、DLC中にはC、Siの他にH元素が存在する。これは炭化水素を原料ガスとして用いていることよりHが膜中に入ってしまうものであるが、さらに水素ガスを原料ガスに加えて積極的に膜中に水素をいれることもある。膜中の水素はダングリングボンド(未結合手)のターミネーターとして働き、膜の電気的、光学的特性の向上、熱的安定性の向上として作用する。本発明のDLCにも10〜60原子%、好ましくは15〜40原子%のHが含まれている。
【0015】さらに3族もしくは5族の元素を添加することもできる。3族の元素としてB、Al、Ga、5族の元素としてN、P、As等を用いることができる。これら3族もしくは5族の元素はDLC膜の内部応力を緩和するように作用させることが可能である。接着性はDLCと磁性材料との界面での接着強度に大きく依存するが、DLC自体の有する内部応力を低下させることにより接着性を改善することができる。すなわち、膜を剥離させようとする駆動力はDLC自体の有する内部応力であるためそれを緩和するものである。
【0016】DLC中に含まれるSi原子の濃度は膜の深さ方向で一定でも良いが、表面近くになるに従いSi原子濃度が減少するほうがより好ましい。これは、Si原子濃度が上昇するほどsp3 性は高くなるものの、摩擦係数が増大するためである。界面近傍の接着性が要求される部分ではSi添加によりsp3 性を高くし、表面の低摩擦係数が要求される部分ではSi添加を行わないというようにDLC層を少なくとも2層に分け、各々機能を分離するものである。磁性薄膜上のDLC膜の構成としては機能分離型が好ましい。例えば、DLC膜は、図10(A)または図10(B)に示すような不純物(例えばSi、Ge、Sn、Pb)の濃度分布を有していてもよい。不純物濃度は磁性膜とDLC膜の界面からDLC膜の表面に向かって減少する。また、DLC膜の表面付近のDLC膜の不純物濃度は、前記界面付近のDLC膜の不純物濃度より小さい。
【0017】上記の方法で接着性を改善し、更に、本発明人はDLCの効果を確かめる実験を行ったところ、従来必要であった表面の凹凸がDLCを用いることにより必要がなくなり、その結果、磁気ヘッドと磁性材料間の距離を縮めることが可能となったため磁気特性を大幅に向上させることが可能となった。それは、以下の理由による。
【0018】一般に、単位面積当たりの磁化が一定であるとすると磁気ヘッドの距離は磁性体に近い程S/N比は向上し、逆に磁気ヘッドの距離が十分に近ければ一定以上のS/N比を保証する磁束を少なくできる。よって記録信頼性を向上しようとすれば磁気ヘッドをできるだけ磁性材料に近づける必要がある。
【0019】従来磁気記録媒体の表面摩擦係数を低下させるため表面に凹凸を付けていた。表面に凹凸が有る場合、実効的な接触面積が低下するため摩擦係数は低下するからである。が、これは磁気特性を犠牲にして摩擦係数を優先していたと言える。
【0020】本発明では上記の相反する特性、すなわち、磁気記録媒体表面と各種機構部品との摩擦係数の低下と、記録信頼性の向上を同時に満足することができる。
【0021】発明人の実験ではDLCを成膜しない表面の摩擦係数は中心線平均粗さ(Ra)が30nmの場合で0.4程度、Ra=10nmの場合で0.8となる。実用的な摩擦係数は0.4以下であり、DLCを成膜しない場合はRa=30nm以上必要であることがわかる。一方DLCを成膜すると摩擦係数はRa=10nmの場合でも0.2〜0.4と低レベルにあり、しかも、慴動を繰り返しても摩擦係数の変化はほとんど無かった。
【0022】なお、摩擦係数はDLC膜厚の依存性をもち、DLC膜厚が大きいほど摩擦係数が小さくなることが実験によりわかっている。実用的な摩擦係数は10nm以上で得られる。
【0023】すなわち、摩擦係数は低レベルに保ったまま表面の凹凸を減少させ、磁気特性を向上させることが可能となる。
【0024】DLCの作製方法を以下に示す。従来技術で述べた通りDLCはプラズマCVD法を用いて作製できる。プラズマCVD法は一般的な平行平板電極を用いたものでも、また、プラズマの陽光柱部分を用いた陽光柱方式のプラズマCVDでもよい。平行平板電極方式の場合は基板が平面に限定されるのに対し陽光柱方式では立体に成膜可能なため基板形状を選ばず、量産性の点でも有利となる。
【0025】基板は平板状の場合基板ホルダーにセットして反応空間内に保持される。基板がフィルムの場合はロール状態で真空中に導入し、ロールからロールに巻き取る方式で反応空間内を走行させて成膜することができる。
【0026】反応ガスは炭素の原料として炭化水素を用いることができる。炭化水素の例としてはメタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、エチレン、アセチレン等の不飽和炭化水素があげられる。ベンゼン、トルエン等の芳香族系、アダマンタン、アダマンタノール等を用いてもよい。また、炭化水素分子の水素のうち1個もしくは複数個がF、Cl、Br等のハロゲン系元素におきかわったハロゲン化炭化水素を用いてもよい。
【0027】反応ガスには炭化水素の他に水素を添加してもよい。水素を添加するとプラズマ中での水素ラジカルが増加し、膜中の余分な水素を引き抜く効果が期待できる。よって、より高品質な膜を得ることが可能となる。全ガス流量に対する水素ガス流量の比は90〜30%、好ましくは70〜50%が良い。全ガス流量に対する水素ガス流量の比が多すぎると成膜速度が減少し、少なすぎると余分な水素の引抜き効果がなくなる。
【0028】4族元素を添加するためのガスはSiにたいしてはシラン、ジシラン、フッ化シラン等を用いることができる。Geにたいしてはゲルマン、フッ化ゲルマン等を用いることができる。3族元素に対してはジボラン、3フッ化ボロン、トリメチルボロン等、4族元素の窒素にたいしてはN2 、アンモニア、3フッ化窒素等、Pにたいしてはフォスフィン等のガスを用いることができる。添加ガスの流量比は圧力、印加電力等他の成膜パラメータにもよるが炭素源ガスに対して10%以下になる流量に制御するのが良い。
【0029】反応ガスを反応容器内に導入し、所定の圧力に制御して、反応容器内に設置された一対もしくは複数の電極に高周波電力を印加し、前記反応ガスをプラズマ化する。反応ガスの総流量は反応空間体積が約0.02立方メートルの場合で30sccm以上、好ましくは50sccm以上必要となる。総流量の上限値は排気装置の排気速度によって決まるが、少なくとも前記の値は必要である。
【0030】反応圧力は5mTorrから1000mTorr、好ましくは10〜100mTorrが良い。高周波の電力は通常13.56MHzの周波数を用いる。印加する電力は0.01〜1W/cm2 、好ましくは0.05〜0.5W/cm2 とするのがよい。
【0031】基板の温度は非加熱で良く、この点は量産性を考慮した場合大きなメリットとなる。
【0032】DLC成膜の場合はプラズマ中の粒子、主にイオンが基板表面に入射するような電界を存在させると硬度向上と膜の緻密化に対して有利である。平行平板方式の場合はRF電力給電側の電極にブロッキングコンデンサを設置せしめて該電極側に自己バイアスを発生させ、これをイオンが基板表面に入射させる電界として利用する方法がある。この場合基板はRF電力給電側に設置する。
【0033】陽光柱方式の場合は陽光柱内に基板をセットしただけではイオンが基板表面に入射するような電界は発生しないので外部電源により前記電界を発生させる必要がある。外部電源による電界は交流が効果的で、周波数はプラズマ内のイオンプラズマ周波数と電子プラズマ周波数の間にとるのが良い。イオンと電子の質量の差によりイオンプラズマ周波数の方が電子プラズマ周波数より数桁小さくなる。イオンプラズマ周波数よりも高く電子プラズマ周波数よりも低い周波数の外部電場を印加した場合、イオンの動きは外部電場に追随できず、一方、電子は外部電場に追随に追随するため、基板表面は負に帯電する。その結果基板表面にはイオンが基板表面に入射するような電界が発生し、該入射イオンの作用で硬くて緻密なDLC膜が生成されるようになる。バイアス印加のための外部電場の周波数は、プラズマ内の電子温度、電子密度、イオン温度、イオン密度にもよるが、1〜1000kHzの間が良く、好ましくは10〜500kHzが良い。電場の強さはピークツゥピークで50〜1000V、好ましくは100〜400Vが良い。
【0034】本発明のDLC膜は図9のCVD装置を用いて形成することができる。図9において、CVD装置は、絶縁物51、52、53、54、55および56、キャンロール31(カソード電極として機能する。)、巻き出しロール33、巻き取りロール32、ガイドロール34、ブロッキングコンデンサ58を介してキャンロール31に接続されているRF電源35、真空ポンプに接続されている排気パイプ36、37、38、39、42、45および47、アノード43の内側を介して放電空間44に延在しているガス供給通路40、DLC膜成膜空間41、水素プラズマ処理空間49、アノード46の内側を介して放電空間48に延在しているガス供給通路50からなる。フィルム基板57(その上には磁性材料層が設けられている。)は、巻き出しロール33から供給され、巻き取りロール32に巻き取られる。空間49と放電空間48は、真空ポンプによって排気パイプ47を介して真空引きされ、H2 ガスをガス供給通路50から供給し空間49と放電空間48の圧力は60〜100Pa例えば80Paに維持する。空間41と放電空間44は排気パイプ42を介して真空ポンプによって真空引きされH2 ガスとC2 4 ガスをガス供給通路40から供給し空間41と放電空間44の圧力は60〜100Pa例えば80Paに維持する。アノード43および46は例えば接地される。カソード電極即ちキャンロール31には13.56MHzでRF電源35からRF電力が供給される。このようにして、キャンロール(カソード)31とアノード46の間に放電が起き、またキャンロール(カソード)31とアノード43の間にも放電が起きる。こうして、フィルム基板57は、放電空間48において水素プラズマ処理が行われ、放電空間44において磁性材料層の上にDLC膜の成膜が行われる。キャンロール31の表面とアノード43の表面59の間の距離、キャンロールの表面とアノード46の表面60の間の距離は20mm以下好ましくは18mm以下である。キャンロール31の表面と絶縁物51、52、55および56のそれぞれの表面との間の距離は5mm以下例えば2mm以下である。
【0035】
【実施例】〔実施例〕本実施例1ではフィルム状基板に磁気記録媒体を形成した例を述べる。本実施例により作製される磁気テープの層構成を図1に示す。
【0036】支持基板として厚さ7μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(11)を用いた。基板表面の中心線平均粗さ(Ra)は3nmである。該基板は400mm幅のロールとして供給される。DLC膜を形成する前にあらかじめ磁性膜(12)の成膜を行った。磁性膜(12)はCoNiの合金を用いた。成膜は真空蒸着により行い、膜厚は200nmとした。該磁性膜(12)上にDLC膜(13)を厚さ10nm〜50nmの間で変化させて成膜した。
【0037】DLC膜は陽光柱方式のCVD装置を用いた。装置の概略を図2に示す。真空容器(21)内に一対の電極(22)(点線で図示)を設置し、該電極(22)にマッチングボックス(図示せず)を介してRF電源(図示せず)よりRF電力を加えると反応空間(25)にプラズマが発生する。反応空間には原料ガスとしてメタンガスを50sccm、水素50sccmもしくはメタンガスを30sccm、水素70sccmの2水準について導入した。圧力は10mTorrに制御した。印加したRF電力は100Wとした。
【0038】DLCと磁性膜界面にSiを添加するため、反応時間の10%にあたる1分間だけ前記反応ガスにSiH4 ガスを添加した。流量は2.5sccmとした。
【0039】基板フィルムは送り出しロール(26)より供給され、巻取りロール(27)に成膜後巻き取られる。反応空間(25)内ではローラー(28)により複数回のターンが繰り返され反応空間を有効に利用してスループットの向上を図っている。
【0040】フィルムの裏面に接してバイアス電極(29)を設置してバイアス電界を印加した。バイアス電圧周波数は50kHz、バイアス電圧(ピークツウピーク値)200Vとした。
【0041】この時、同一バッチ内にシリコンウエファーを膜質モニター用に設置し、このサンプルにより膜質を評価したところ硬度はヌープ硬度で2500kg/mm2であった。また、FT−IR測定の結果を図3に、ラマン分光結果を図4に示す。FT−IR測定結果より700〜800cm-1付近にSi−C結合の伸縮振動が、2100cm-1付近にSi−H結合の伸縮振動が見られる。また、ラマン分光結果よりDLCに特徴的な1550cm-1付近のブロードな散乱光ピークが見られている。このことよりSiが添加され、かつ、DLCの構造も保たれていることが分かる。
【0042】本実施例で作製された磁気テープの摩擦係数を測定した。測定方法は直径3mmのステンレスピンにテープを半周巻付け、荷重を20g、慴動速度428mm/min、慴動距離50mmで行った。
【0043】膜厚に対する初期摩擦係数のグラフを図5に示す。CH4 濃度30%の場合は膜厚依存性があり、膜厚15nmでは摩擦係数0.44と大きく、膜厚が大きくなるに従い摩擦係数は低下する。膜厚20nm程度で実用的な摩擦係数である0.4以下となる。一方、CH4 濃度50%の場合は膜厚依存性はなく、膜厚15nmでも0.3以下である。
【0044】膜厚に対する経時摩擦係数の変化を図6に示す。変化の値は初期摩擦係数に対し200回慴動を行った後の摩擦係数の増加分とした。図6より、CH4 濃度に係わらず膜厚依存性を示し、膜厚が大きいほど経時摩擦係数の変化は小さくなっているのが分かる。実用状態においては経時摩擦係数の変化が無いのが理想であるが、摩擦係数が0.4を越えないことを限度とするなら、CH4 濃度50%の場合で経時摩擦係数の変化0.1以下、CH4 濃度30%の場合で0以下が望ましく、よって膜厚はCH4 濃度50%の場合で27nm以上、CH4 濃度30%の場合で21nm以上が望ましいことが分かる。
【0045】初期摩擦係数と経時摩擦係数の変化よりCH4 濃度50%の場合で27nm以上、CH4 濃度30%の場合で21nm以上の膜厚が必要となることがわかる。磁気特性は一般的に磁気ヘッドが10nm離れると信号レベルが1dB低下することが知られている。本実施例では表面粗さ3nmの基板を用いたため、実用に必要な摩擦係数を保証するだけのDLCを成膜すると濃度50%の場合で3dB、濃度30%の場合で2.4dBの低下となる。
【0046】一方、従来の方法では30nmの凹凸が必要であり、さらに10nm以上の潤滑膜が必要であったので、4dB以上のレベル低下となっていた。よって、本発明のDLC膜を用いると1dB以上のレベル改善となる。
【0047】〔比較例〕実施例との比較のためSiを添加しないDLC膜を作製した。磁気テープ、作製方法は原料ガスにシランガスを加えない以外は実施例と同じにした。作製された膜のFT−IR測定結果を図7に、ラマン測定結果を図8に示す。ラマン測定結果より典型的なDLC膜であり、かつFT−IR測定結果よりSiは膜中に含まれていないことが分かる。磁気テープ上のDLCは自然に剥離が発生し、膜にはならなかった。
【0048】
【発明の効果】磁気記録媒体上に保護膜もしくは潤滑膜としてDLC膜を成膜するに際し、Siを添加することにより磁性材料との接着性を向上させることができた。また、磁気記録媒体上にDLC膜を成膜する事により媒体表面の凹凸を少なくでき、よって磁気特性を従来に比べて1dB以上向上させることができた。
【0049】なお、本実施例のDLC膜は陽光柱方式のCVD装置を用いて成膜したが、成膜方式によって本発明の効果が制限されるものではない。よって、実施例には記述しなかったが、平行平板型CVD装置であっても、また、炭素イオンビームによる成膜方式であっも良いのはいうまでもない。
【0050】また、本実施例では接着性改善のための添加物としてSiを用いたが、他の4族元素であるGeについても同様の接着強度が実現されることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁気記録媒体の層構成を示す
【図2】陽光柱方式のプラズマCVD装置の概略図を示す
【図3】シリコンを添加したDLC膜のFT−IR測定結果を示す
【図4】シリコンを添加したDLC膜のラマン分光測定結果を示す
【図5】初期摩擦係数のDLC膜厚依存性を示す
【図6】経時摩擦係数変化のDLC膜厚依存性を示す
【図7】シリコンを添加しないDLC膜のFT−IR測定結果を示す
【図8】シリコンを添加しないDLC膜のラマン分光測定結果を示す
【図9】DLC膜形成用ロールトゥロール型装置の概略図を示す。
【図10】不純物濃度分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】磁性薄膜に接してDLC膜が設けられた磁気記録媒体において、前記DLC膜は水素を10〜60原子%含み、前記DLC膜の中心線平均粗さは30nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】磁性薄膜に接してDLC膜が設けられた磁気記録媒体において、前記DLC膜は水素を10〜60原子%含み、前記DLC膜の膜厚は50nm以下であり、且つ、前記DLC膜の中心線平均粗さは30nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】請求項1または請求項2において、前記磁気記録媒体表面の摩擦係数は0.4以下であることを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2000−228008(P2000−228008A)
【公開日】平成12年8月15日(2000.8.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−367330
【分割の表示】特願平5−314400の分割
【出願日】平成5年11月19日(1993.11.19)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)