説明

磁気記録媒体

【課題】十分な強度および耐久性を確保しつつ機能層の剥離を防止し、かつ塗布欠陥を可視光を利用して簡易に検出し得る磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体(ベースフィルム5)と、非磁性支持体(ベースフィルム5)上にAlO(アルミニウム酸化物)を用いて形成されると共に酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する当該酸素の原子数の比率が18原子%以上45原子%以下の範囲内に規定された補強層2,6と、補強層2,6上に形成された機能層(下層非磁性層3とバックコート層7)とを有する。この構成を採用することで、十分な強度および耐久性を確保しつつ、機能層(下層非磁性層3とバックコート層7)の剥離を確実に防止することができ、しかも、塗布欠陥を可視光を利用して簡易に検出できるため、高密度記録化したときにも高い信頼性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強層および機能層(例えば非磁性層や磁性層など)が非磁性支持体の上にこの順で形成された磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の磁気記録媒体として、特開2003−132525号公報に開示されている磁気記録媒体(磁気テープ)が知られている。この磁気記録媒体では、長尺状の非磁性支持体の第1面側に磁性層が形成され、非磁性支持体と磁性層の層間および非磁性支持体の第2面の少なくとも一方にアルミニウムまたは酸化アルミニウム(Al)を含有する強化膜が形成されている。この磁気記録媒体によれば、強化膜を形成したことにより、磁気記録媒体のヤング率が向上し、さらに、湿度膨張率が低減されて、寸法安定性が向上する。したがって、高密度記録化したときにも、磁気記録媒体の変形に起因するトラックずれが回避されて、信頼性の高い磁気記録媒体が提供される。
【特許文献1】特開2003−132525号公報(第3頁、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、本願発明者は、アルミニウムまたは酸化アルミニウム(Al)を含有する強化膜について検討を行った結果、酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する酸素の原子数の比率(以下、酸化度ともいう)が所定値以上のアルミニウム酸化物(AlO)を含有する強化膜の方が、この所定値未満の酸化度のアルミニウム酸化物を含有する強化膜、およびアルミニウムを含有する強化膜のいずれよりも、非磁性層、バックコート層あるいは磁性層に対して高い接着性を示すため、非磁性層、バックコート層あるいは磁性層の剥離をより確実に防止し得ることを見出した。他方、100%酸化したアルミニウムである酸化アルミニウム(Al)は強度が高い反面それ自体が脆いため、酸化アルミニウム(Al)を含有する強化膜には、可撓性の低下に起因してクラックが発生し易く、耐久性という面で課題が存在している。また、アルミニウムの強化膜は可視光を透過しないため、製造上におけるスジ、抜け等の塗布欠陥を、照射した可視光が透過するか否かという簡易な方法によって検出できないという不具合が生じる。一方、酸化アルミニウム(Al)の強化膜は透明であるため、このような不具合は生じない。
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、十分な強度および耐久性を確保しつつ機能層の剥離を防止し、かつ塗布欠陥を可視光を利用して簡易に検出し得る磁気記録媒体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体と、当該非磁性支持体の少なくとも一方の面側にAlO(アルミニウム酸化物)を用いて形成されると共に酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する当該酸素の原子数の比率が18原子%以上45原子%以下の範囲内に規定された補強層と、当該補強層上に形成された機能層とを有する。なお、本発明において機能層には、非磁性層、磁性層およびバックコート層などが含まれる。
【0006】
この場合、前記補強層の前記比率を24原子%以上42原子%以下の範囲内に規定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る磁気記録媒体によれば、補強層における酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する酸素の原子数の比率を18原子%以上45原子%以下の範囲内に規定したことにより、十分な強度および耐久性を確保しつつ、機能層の剥離を確実に防止することができ、しかも、塗布欠陥を可視光を利用して簡易に検出できるため、高密度記録化したときにも高い信頼性を得ることができる。
【0008】
また、本発明に係る磁気記録媒体によれば、補強層における酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する酸素の原子数の比率を24原子%以上42原子%以下の範囲内に規定したことにより、非常に優れた接着性および耐久性を備えているため、より十分な強度および耐久性を確保しつつ、機能層の剥離を一層確実に防止することができ、この結果、高密度記録化したときに一層高い信頼性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る磁気記録媒体の最良の形態について説明する。
【0010】
最初に、本発明に係る磁気記録媒体の一例である磁気テープ1の構成について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示す磁気テープ1は、補強層2、非磁性層3および磁性層4がベースフィルム(本発明における非磁性支持体)5の一方の面(同図における上面)上にこの順で形成されて、図示しない記録再生装置による各種記録データの記録再生が可能に構成されている。また、ベースフィルム5の他方の面(同図における下面)上には、補強層6およびバックコート層7が形成されている。この場合、各補強層2,6は、ベースフィルム5に対する非磁性層3およびバックコート層7の接着性の向上と、磁気テープ1における幅方向の寸法安定性の向上とを目的として配設されている。バックコート層7は、テープ走行性を向上させると共に磁気テープ1の帯電を防止するために形成されている。なお、同図では、本発明についての理解を容易とするために、磁気テープ1の厚みを誇張して厚く図示すると共に、各層の厚みの比を実際とは異なる比に変更して図示している。
【0012】
(ベースフィルム)
ベースフィルム5は、樹脂材料によって長尺な帯状に形成されている。この樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホンセルローストリアセテートおよびポリカーボネート等の公知のものを使用することができる。この場合、このベースフィルム5は、各層の形成が完了した後にこれらの層と共に各種磁気記録媒体に対して規定された所定の幅に裁断される。また、ベースフィルム5は、記録容量の大容量化を図るためには、その厚みが3.0μm〜10.0μmの範囲内に設定されるのが好ましい。なお、本例では、ベースフィルム5を長尺な帯状(テープ状)に形成しているが、シート状、カード状、ディスク状等、種々の形状に形成することができる。
【0013】
(補強層)
補強層2,6は、AlO(アルミニウム酸化物)で形成されている。また、補強層2,6は、真空蒸着により、膜厚が40nm以上120nm以下の範囲内で、かつ酸化度が18原子%以上45原子%以下の範囲内となるように形成されている。この場合、酸化度が高くなるに従い、補強層2,6に対する非磁性層3およびバックコート層7の接着性は向上するものの、酸化度が45原子%を超える状態では、酸化度が高くなり過ぎて補強層2,6が脆くなる。このため、磁気テープ1の可撓性が低下して、耐久性が低下する。具体的には、可撓性の低下に伴い、補強層2,6にクラックが発生し易くなるため、記録再生装置での繰り返し走行時において、テープエッジからの機能層(非磁性層3、磁性層4およびバックコート層7)の脱落を引き起こして耐久性が低下する。他方、酸化度が低くなるに従い、可視光に対する補強層2,6の透過率が低下して、酸化度が18原子%を下回る状態では、製造時において、補強層2,6の塗布欠陥(塗布スジ、塗布ムラなど)を可視光を利用して簡易に検出し難くなる。また、酸化度が18原子%を下回る状態では、補強層2,6に対する非磁性層3およびバックコート層7の接着性が不十分となる。このため、記録再生装置での繰り返し走行時において、接着力不足に起因して、補強層2,6からの機能層の脱落を引き起こして耐久性が低下する。一方、酸化度を18原子%以上45原子%以下の範囲内となるように補強層2,6を形成することにより、十分な可撓性および接着性の双方を兼ね備えた補強層2,6を構成することができ、これによって十分な耐久性を備えた磁気テープ1を実現することができる。また、補強層2,6の膜厚みが40nmよりも薄いときには、水分の透過を十分に抑制できないため、湿度変化による変形を抑制することができず、十分な寸法安定性を確保するのが困難となる。また、逆に、補強層2,6の膜厚みが120nmを超えるときには、磁気テープ1のカールが大きくなる。
【0014】
(非磁性層)
非磁性層3は、公知の材料、組成を用いることができる。例えば、非磁性粉末、結合剤等を含んで製作された非磁性塗料を塗布して厚みが0.3μm〜2.5μmの範囲内となるように形成されている。
【0015】
非磁性粉末としては、カーボンブラック、およびカーボンブラック以外の各種の非磁性無機粉末を用いることができる。カーボンブラック以外の非磁性無機粉末としては、針状の非磁性酸化鉄(α−Feやα−FeOOH)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化チタン(TiO)、硫酸バリウム(BaSO)、およびα−アルミナ(α−Al)等の非磁性粉末を単体で、または配合して用いることができる。
【0016】
結合剤としては、特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性若しくは反応型の樹脂、および電子線硬化型結合剤等を、磁気テープ1の特性や工程条件に合わせて適宜組み合わせて使用することができる。
【0017】
非磁性層3を形成するための非磁性塗料は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行うことにより調製される。
【0018】
(磁性層)
磁性層4は、公知の材料、組成を用いることができる。例えば、強磁性粉末および結合剤等の材料を含んで製作された磁性塗料を塗布することにより、厚みが0.03μm以上0.30μm以下の範囲内(一例として、0.10μm程度)となるように形成されている。また、磁性層4用の結合剤については、特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性若しくは反応型の樹脂、および電子線硬化型結合剤等を、磁気テープ1の特性や工程条件に合わせて適宜組み合わせて使用することができる。
【0019】
磁性層4を形成するための磁性塗料は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行い調製する。使用する有機溶剤は特に制限はなく、非磁性層3に使用するものと同様のものを使用することができる。
【0020】
(バックコート層)
バックコート層7は、走行安定性の改善や磁気テープ1の帯電防止等のために必要に応じて設けられる。特に構造や組成は限定されないが、例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、および結合剤を含んでバックコート層7を形成することができる。また、バックコート層7を形成するための塗料(バックコート層用塗料)は、公知の方法で、上記各成分に有機溶剤を加えて、混合、攪拌、混練、分散等を行って調製する。使用する有機溶剤は特に制限はないが、非磁性層3に使用するものと同様のものを使用することができる。また、バックコート層の厚さ(カレンダー加工後)は、1.0μm以下、好ましくは0.1以上1.0μm以下の範囲内、より好ましくは0.2以上0.8μm以下の範囲内に設定される。
【0021】
(磁気テープ1の製造)
一例として、まず、ベースフィルム5の両面に補強層2,6をそれぞれ形成し、次いで、上記のようにして調製されたバックコート層用塗料を用いて、塗布、乾燥、カレンダー、硬化等することにより、バックコート層7を補強層6上に形成する。また、上記のようにして調製された非磁性塗料および磁性塗料を用いて、塗布、乾燥、カレンダー、硬化等することにより、ベースフィルム5の一方の面上に非磁性層3および磁性層4をこの順に形成して、図1に示す磁気テープ1を製造する。
【0022】
この場合、各補強層2,6については、ベースフィルム5の両面に酸素ガスを導入しながらアルミニウムを真空蒸着することによって形成する。この際に、補強層2の表面に対してコロナ処理などの易接着処理を行うこともできる。また、非磁性層3および磁性層4は、いわゆるウェット・オン・ウェット塗布方式によって形成してもよいし、いわゆるウェット・オン・ドライ塗布方式によって形成してもよい。本例では一例として、ウェット・オン・ドライ塗布方式によって形成する。具体的には、ベースフィルム5の一方の面上(補強層2上)に、非磁性塗料を塗布して乾燥させると共に、必要に応じてカレンダー処理を行うことにより、未硬化の非磁性層3を形成する。続いて、硬化した非磁性層3上に磁性塗料を塗布した後、配向および乾燥処理を実施することにより、磁性層4を形成する。なお、バックコート層7の形成の順序は任意である。すなわち、非磁性層3の形成前、非磁性層3の形成終了後から磁性層4の形成前までの間、または磁性層4の形成終了後のいずれの時点においても、バックコート層7を形成することができる。また、磁性層4およびバックコート層7については、例えば、両層を乾燥させた後にカレンダー処理する。
【0023】
非磁性塗料、磁性塗料およびバックコート層用塗料の塗布方法としては、グラビアコート、リバースロールコート、ダイノズルコート、バーコート等の公知の種々の塗布方法を採用することができる。
【0024】
このように、この磁気テープ1によれば、酸素ガスを導入しながらベースフィルム5の各面に片面ずつアルミニウムを真空蒸着することにより、酸化度(酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する酸素の原子数の比率)が18原子%以上45原子%以下の範囲内となる補強層2,6を形成し、一方の補強層2上に非磁性層3を形成し、他方の補強層6上にバックコート層7を形成したことにより、補強層2,6に対する非磁性層3およびバックコート層7の接着性を向上させつつ、十分な可撓性を備えた補強層2,6を強固に形成することができる。このため、接着性の不足に起因した補強層2,6からの機能層(非磁性層3、磁性層4およびバックコート層7)の脱落と、補強層2,6に発生するクラックに起因したテープエッジからの機能層(非磁性層3、磁性層4およびバックコート層7)の脱落とを防止して、磁気テープ1の耐久性を十分に向上させることができる。さらに、補強層2,6の可視光に対する透過性を確保することにより、補強層2,6の塗布欠陥を可視光を利用した簡易な手法によって検出することができる。この結果、高密度記録化したときに一層高い信頼性を有する磁気テープ1を実現することができる。
【0025】
なお、本発明は上記の構成に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、上記の磁気テープ1では、ベースフィルム5の両面に補強層2,6を形成した例について説明したが、いずれか一方の面にのみ補強層2(または6)を形成することもできる。また、両面に補強層2,6を形成した構成において、磁気テープ1の特性にとって両補強層2,6の酸化度は、互いに同一または同等であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【実施例】
【0026】
次に、実施例を挙げて本発明に係る磁気テープ1について詳細に説明する。
【0027】
[実施例1]
(非磁性塗料の調製)
非磁性粉末 針状α−Fe 80.0重量部
(平均長軸長:0.1μm、結晶子径:12nm)
非磁性粉末 カーボンブラック 20.0重量部
(三菱化学(株)製 商品名:#950B)
電子線硬化型結合剤 電子線硬化性塩化ビニル樹脂 12.0重量部
(東洋紡績(株)製 商品名:TB−0246)
電子線硬化型結合剤 電子線硬化性ポリウレタン樹脂 10.0重量部
(東洋紡績(株)製 商品名:TB−0216)
分散剤 (東邦化学工業(株)製 商品名:RE610) 3.0重量部
研磨材 α−アルミナ 5.0重量部
(住友化学(株)製 商品名:HIT60A、平均粒径:0.18μm)
NV(固形分濃度)=33%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/1(質量比)
【0028】
上記の材料をニーダーで混練した後、横型のピンミルによって分散した。その後、さらに、下記潤滑剤材料:
潤滑剤 脂肪酸 1.0重量部
(日本油脂(株)製 商品名:NAA180)
潤滑剤 脂肪酸アマイド 0.5重量部
(花王(株)製 商品名:脂肪酸アマイドS)
潤滑剤 脂肪酸エステル 1.5重量部
(日光ケミカルズ(株)製 商品名:NIKKOLBS)
を添加して、
NV(固形分濃度)=25%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/1(質量比)
となるように希釈した後、分散して、非磁性塗料を作製した。
【0029】
(磁性塗料の調製)
強磁性粉末 Fe系針状強磁性粉末 100.0重量部
(Fe/Co/Al/Y=100/24/5/8(原子比)、Hc:188kA/m、σs:140Am/kg)
結合剤 塩化ビニル共重合体 10.0重量部
(日本ゼオン(株)製 商品名:MR110)
結合剤 ポリエステルポリウレタン 6.0重量部
(東洋紡績(株)製 商品名:UR8300)
分散剤 リン酸系界面活性剤 3.0重量部
(東邦化学工業(株)製、商品名:RE610)
研磨材 α−アルミナ 10.0重量部
(住友化学(株)製 商品名:HIT60A)
NV(固形分濃度)=30%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサノン=4/4/2(質量比)
【0030】
上記の材料をニーダーで混練した後、横型のピンミルによって分散した。次いで、
NV(固形分濃度)=15%(質量百分率)
溶剤比率 MEK/トルエン/シクロヘキサン=22.5/22.5/55(質量比)
となるように希釈してから、仕上げ分散を行った。続いて、得られた塗料に熱硬化剤(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートL)10重量部を添加混合し、磁性塗料を作製した。
【0031】
(バックコート層用塗料の調整)
カーボンブラック 100重量部
(三菱化学(株)製 商品名:#47B)
α−Fe 0.8重量部
(戸田工業(株)製 商品名:TF−100)
塩化ビニル系共重合体 45重量部
(日信化学(株)製 商品名:SOLBIN−A)
ポリエステルポリウレタン樹脂 45重量部
(東洋紡績(株)製 商品名:UR−8300)
メチルエチルケトン 100重量部
トルエン 80重量部
シクロヘキサノン 100重量部
【0032】
上記組成物をニーダーによって十分に混練した後、サンドグラインドミル分散を行った。その後に下記材料を投入して、さらに分散を行った。
メチルエチルケトン 400重量部
トルエン 400重量部
シクロヘキサノン 200重量部
【0033】
このようにして得られた混合液に熱硬化剤(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートL)を20重量部添加混合して、バックコート層用塗料を作製した。
【0034】
(補強層形成工程)
6.0μm厚のPET製のベースフィルム5の各面上に、真空蒸着により、膜厚が60nmで、かつ酸化度が18原子%となるようにAlOからなる補強層2,6をそれぞれ形成した。
【0035】
(非磁性層形成工程)
補強層2上に、カレンダー加工後の厚みが2.0μmになるように、非磁性塗料をノズルにより押し出し塗布法で塗布して、乾燥した。その後、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって表面平滑化加工を行い、さらに、4.0Mradの照射量で電子線照射を行い、非磁性層3を形成した。
【0036】
(磁性層形成工程)
上記のようにして形成した非磁性層3上に、磁性塗料を、加工後の厚みが0.1μmになるようにノズルで塗布した後、配向処理と乾燥処理とを実施した。その後、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって表面平滑化加工を行い、磁性層4を形成した。
【0037】
(バックコート形成工程)
補強層6上に、バックコート層用塗料を、加工後の厚みが0.5μmになるようにノズルで塗布した後、乾燥処理を実施した。次いで、プラスチックロールと金属ロールとを組み合わせたカレンダーによって表面平滑化加工を行い、バックコート層7を形成した。
【0038】
このような一連の処理が完了したPET製のベースフィルム5を巻き取りロールに巻き取り、この状態で24時間放置した後、60℃で48時間熱硬化させ、次いで、1/2inch(=12.650mm)幅に裁断することにより、実施例1としての磁気テープのサンプルを作製した。
【0039】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
また、上記した補強層2,6の形成において、アルミニウムの真空蒸着時に導入する酸素ガスの量を変えることにより、AlO(アルミニウム酸化物)の酸化度を図2に示すように変えた以外は、上記した実施例1と同様にして、実施例2〜4、および比較例1〜3としての各磁気テープの各サンプルを作製した。なお、ベースフィルム5上に形成された補強層2,6は60nmと薄いため、そのままでは酸化度を測定することが困難である。このため、上記した実施例1〜4および比較例1〜3における補強層2,6を成膜する各条件でシリコン基板上に100nm程度の膜をそれぞれ作製して組成を分析(測定)することにより、実施例1〜4および比較例1〜3における補強層2,6の酸化度を確認した。
【0040】
以下、組成分析方法について具体的に説明する。分析装置(蛍光X線分析装置)としては、RIX2000(理学電機工業(株)製)を使用し、X線源はRhターゲットで、電圧条件を50kVとし電流条件を50mAとした。また、アルミニウム(Al)条件については、分光結晶としてPET(ペンタエリスリトール)を用いて、計測器としてプロポーショナルカウンタ(F−PC)を使用した。また、酸素(O)条件については、分光結晶としてRX35を用いて、計測器としてプロポーショナルカウンタを使用した。測定方法は、まず、バルクのアルミナ標準試料を使用し、バルクFP(ファンダメンタル・パラメータ)法で、上記装置のアルミニウムおよび酸素についての各装置感度較正係数を求めた。次いで、求めた酸素についての装置感度較正係数を使用して、シリコン基板上の自然酸化層を測定した。このとき、シリコン基板上に約1.6nmのSiOが確認された。続いて、このシリコン基板上に、約100nmで補強層を成膜し、その後に、求めたアルミニウムおよび酸素の各装置感度較正係数を使用して薄膜FP法にて、SiOの影響を除いた補強層の膜厚と組成とを測定した。
【0041】
[補強層の光透過率]
上記の各サンプルを作製する際に、ベースフィルム5に補強層2,6を形成した時点で、補強層2,6を形成したベースフィルム5の光透過率を、分光光度計(HITACHI U−1100)を使用して、波長600nmの可視光線の透過率を測定した。
加えて、補強層2,6の塗布適性(塗布スジ,塗布ムラ等の検知可否)に不具合を生じたかについて確認した。
【0042】
この測定および確認の結果、酸化度の低いアルミニウム酸化物を使用した比較例1のサンプルと比較して、より酸化度の高いアルミニウム酸化物を使用した実施例1〜4および比較例2,3の方が高い光透過率を有していることが確認でき、また、酸化度が高いほど、大きな光透過率を有していることが確認された。また、光透過率としては、実施例1のサンプルで得られた値(30%)以上であれば、塗布欠陥(塗布スジ,塗布ムラ)を可視光を用いた簡易な手法で検出できることが確認できた。
【0043】
[磁気テープの評価]
各磁気テープのサンプルについて、次のテープ特性に対する評価試験を実施した。
【0044】
(ヤング率)
引っ張り試験機(TOYO BALDWIN(株)製 製品名:TENSILON UTM−4−100)を使用して、磁気テープサンプルのテスト片150mmをこの引っ張り試験機に固定して、この試験機の各顎(挟み込む治具の先端)の間隔が100mm離れるように設定する。各顎の分離速度を10mm/分(テープ長の10%)に設定して、力に対する距離を測定する。次いで、測定した力と距離との関係に基づき、0.5Nから1.5Nまでの間の勾配を求め、求めた勾配を使用して、ヤング率(弾性率)(GPa)を下記の式(1)で算出した。
ヤング率=(δF/(W×T))×(1/(δL/L))・・・・・・(1)
ここで、δFは力の変化(N)、Tは磁気テープサンプルの厚さ(mm)、Wは磁気テープサンプルの幅(mm)、δL/Lは試験機の各顎間の元の長さで割った顎間サンプル長の変化率をそれぞれ示す。
【0045】
以上の各実施例および各比較例についてのヤング率の測定結果を図2のテープ特性図に示す。この測定結果から、酸化度の低いアルミニウム酸化物を使用した比較例1としてのサンプルと比較して、より酸化度の高いアルミニウム酸化物を使用した実施例1〜4および比較例2,3の各サンプルの方が優れたヤング率を有していることが確認でき、また、酸化度が高いほど、大きなヤング率を有していることが明らかである。
【0046】
(磁気テープの耐久性)
「DLT7000」ドライブ(Quantum社製)を用いて、40℃、湿度80%の環境下で磁気テープ1の各サンプルを48時間連続走行させ、ヘッドへの付着物を目視、および光学顕微鏡にて観察し、下記基準にて評価した。
◎:付着物なし
○:許容できる付着量
△:付着物あり
×:付着量が多い
【0047】
以上の各実施例および各比較例についての耐久性の評価結果を図2のテープ特性図に示す。この評価結果から、比較例2,3としての各サンプルは、ヘッド付着の悪化が確認される。この理由としては、酸化度が高すぎるために補強層2,6が脆くなって可撓性が低下したため、補強層2,6にクラックが発生し、その結果として、テープエッジから機能層が脱落したためと考えられる。他方、比較例1にみられるヘッド付着の悪化は、補強層2,6の非磁性層3およびバックコート層7に対する接着強度の低下に起因して、機能層が脱落したことが原因と考えられる。それに対し、各実施例1〜4としての各サンプルは、ヘッド付着の悪化が確認されず、十分な耐久性を備えていることが確認され、特に、各実施例1〜3は、優れた耐久性を備えていることが確認される。
【0048】
(補強層の接着性)
磁気テープ1の表面を両面テープに貼り付け、機能層が補強層2,6から剥離する力を測定した。測定試験片は、図3に示すように、金属プレート(26×150mm,厚み1mm)21に透明両面テープ(Scotch 665−3−24)22を貼り、さらにその上に磁気テープ1を貼り、ゴムローラで圧着して作製した。これを、前述した引っ張り試験機(TOYO BALDWIN(株)製 製品名:TENSILON UTM−4−100)を使用して、測定試験片の金属プレート21側を固定端とし、磁気テープ1側を移動端とし、この引っ張り試験機に固定して、この試験機の各顎(挟み込む治具の先端)の間隔が250mm離れるように設定する。各顎の分離速度を300mm/分に設定して、機能層が補強層から剥離する力の大きさを測定した。得られた力の大きさを以下の基準に従い判断した。
◎:接着性が十分で機能層が剥がれなかったもの
○:1N以上の接着力を有している
×:1Nに達せず、容易に剥がれるもの
【0049】
以上の各実施例および各比較例についての補強層2,6の接着性に関する試験結果を図2のテープ特性図に示す。この試験結果から、酸化度の低いアルミニウム酸化物を使用して補強層2,6を形成した比較例1としてのサンプルと比較して、酸化度の高いアルミニウム酸化物を使用して補強層2,6を形成した実施例1〜4および比較例2,3としての各サンプルの方が優れた接着性を有していることが確認できる。また、実施例1〜4および比較例2,3としての各サンプルのうちでも、より酸化度の高い実施例2〜4および比較例2,3としての各サンプルが、より優れた接着性を有していることが確認できる。
【0050】
以上の各測定結果および試験結果から、酸化度(酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する酸素の原子数の比率)が18原子%以上45原子%以下の範囲内となる補強層2,6を有する実施例1〜4の磁気テープによれば、ヤング率、接着性および耐久性のいずれにおいても良好な特性を有しているため、十分な強度および耐久性を確保しつつ、機能層(上記の例では、非磁性層3やバックコート層7)の剥離を確実に防止することができ、しかも、補強層2,6の塗布欠陥を可視光を利用して簡易に検出できるため、高密度記録化したときにも高い信頼性を得ることができる。特に、酸化度を24原子%以上42原子%以下の範囲内となる補強層2,6を有する実施例2,3の磁気テープによれば、十分なヤング率と共に、非常に優れた接着性および耐久性を備えているため、より十分な強度および耐久性を確保しつつ、機能層(この例では、非磁性層3やバックコート層7)の剥離を一層確実に防止することができ、この結果、高密度記録化したときに一層高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の一例である磁気テープ1の断面図である。
【図2】各実施例1〜4および各比較例1〜3についてのテープ特性図である。
【図3】接着強度の評価方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 磁気テープ
2,6 補強層
3 非磁性層
4 磁性層
5 ベースフィルム
7 バックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、当該非磁性支持体の少なくとも一方の面側にAlO(アルミニウム酸化物)を用いて形成されると共に酸素とアルミニウムの各原子数の合計値に対する当該酸素の原子数の比率が18原子%以上45原子%以下の範囲内に規定された補強層と、当該補強層上に形成された機能層とを有する磁気記録媒体。
【請求項2】
前記補強層は、前記比率が24原子%以上42原子%以下の範囲内に規定されている請求項1記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−26573(P2007−26573A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209326(P2005−209326)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】