説明

磁気記録媒体

【目的】 高再生出力、オーバーライト特性等の電磁変換特性が良好で、帯電しにくくかつ走行耐久性の優れた超高密度磁気記録媒体を提供すること。
【構成】 非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする非磁性層並びに強磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする磁性層が、この順で形成されてなる磁気記録媒体において、前記磁性層は、上層と下層の少なくとも2層からなり、前記下層の強磁性粉末の平均粒径は前記上層の強磁性粉末の平均粒径よりも大きく、該磁性層の全厚は0.8μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体であり、好ましくは、該非磁性層及び磁性層は、ウエット・オン・ウエット塗布方式で形成されたもので、強磁性粉末として、強磁性金属粉末または強磁性六方晶系フェライト粉末を使用し、非磁性粉末として少なくともカーボンブラックを使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高密度記録用磁気記録媒体に関し、特に、データ記録用の磁気ディスクに適した磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁気記録技術は、媒体の繰り返し使用が可能であること、信号の電子化が容易であり周辺電子機器との組み合わせによるシステムの構築が可能であること、信号の修正も簡単にできること等の他の記録方式にはない優れた特長を有することから、ビデオ、オーディオ、コンピューター用途等を始めとして様々な分野で幅広く利用されてきた。そして、機器の小型化、記録再生信号の高品位化、記録の長時間化、記録容量の増大等の要求に対応するために、記録媒体に対しては記録密度のより一層の向上が常に望まれてきた。そして、塗布型の磁気記録媒体においては、強磁性粉末の粒子サイズを小さくしたり、その分散性を向上させたり、その磁性層中での充填度を高めたりする方策が種々提案されているさらに有効な手段として、磁気特性の優れた強磁性金属粉末や六方晶フェライトなどを用いることも行われている。
【0003】また、OA機器としてのミニコン、パソコンの普及にともない外部記憶媒体としての磁気記録ディスクの普及が著しく、磁気記録ディスクの使用頻度が広がって、温度湿度に関し、幅広い環境条件で使用・保存され、また使用環境の塵埃も多い場所で使用されるようになってきた。特に、記録の大容量化、小型化を達成するために記録密度の向上が強く要望されているが、従来のような針状強磁性粉末を用いて高密度記録に適する磁気記録媒体を得るには、針状強磁性粉末の最大寸法を記録波長、あるいは記録ビット長よりも十分小さくする必要がある。現在、針状強磁性粉末として0.3μm程度の寸法のものがすでに実用に供されており、最短記録波長約1μm以下が可能になっている。
【0004】今後さらに高密度の記録が可能な媒体を得るには、針状強磁性粉末の寸法をなお一層小さくする必要がある。しかしそのような小さな針状強磁性粉末においては、太さが100Å以下と極めて細くなり、粒子体積としても10-17 cm3 以下と極めて小さくなるため、熱擾乱、表面の効果によって磁気特性が低下し、又磁性塗膜に磁界を加えても十分な配向が得られない等の問題がある。
【0005】高密度記録に対応する強磁性粉末として、これまで強磁性金属粉末が検討されてきており、また近年平板状で板面に垂直な方向に磁化容易軸を有する六方晶系フェライト粒子を強磁性粉末として用いる磁気記録媒体が開発された(例えば、特開昭58−6525号、同58−6526号等)。これらによって、強磁性粉末の平均粒径は0.05μm以下が可能となり、高密度記録化が可能となった。
【0006】さらに高密度記録のため大幅な狭トラック幅が要求されてきている。これらの要求を満たすため磁気ディスクにおいても高出力や高記録密度が期待できる強磁性金属粉末や強磁性六方晶系フェライト粉末の使用が検討されており、サイズの小型化や媒体の記録密度の向上の要求に応えるべく鋭意開発、実用化が検討されている。特に高記録密度およびオーバーライト電磁変換特性の向上として磁性層の薄層化、高出力が望まれ、薄層化に伴い走行耐久性の大幅劣化が懸念されている。
【0007】即ち、通常、フロッピーディスク等のコンピューター用途の磁気記録媒体においては、磁気波長の異なる記録信号の重ね書き(オーバーライト)が必要であるが、従来は、周波数で2倍の関係にある2種類の信号、1f及び2f信号のオーバーライトができれば良かったが、最近強く要望されている10Mバイト以上の高容量の磁気記録ディスクに対しては、記録波長が短くなっただけではなく、RLL信号などの周波数比3:8のより広帯域にある複数の信号のオーバーライトが要求されている。記録波長が短く、記録周波数の差が大きい信号を使用した場合、記録波長の短い信号を記録波長が長い信号の上に重ね書き(オーバーライト)をうまく行うためには、特開昭58−122623号公報、特開昭61−74137号公報等に開示されているように、単に磁性層の磁気特性を向上させるだけでは限界があった。
【0008】すなわち、今までの1.0μm以上の厚さの磁性層では、先に記録されているより長い波長の記録信号の上により短い記録信号を重ね書きしても磁力線が磁性層の深いところまで達しないために、先に記録されたより長い波長の信号が消去できないのである。また、記録密度の向上にともない記録ヘッドのギャップが狭くなってきている。これにともない、媒体の厚味方向への十分な記録が困難になってきている。
【0009】そこで、上記問題を解消するために磁性層を1μm以下に薄くすると磁性層は剥離し易くなり、ドロップアウトの発生要因となる等走行耐久性が確保できず、信頼性が低下するという問題が起こった。従って、前記の高密度記録化に対応し得る磁気記録媒体を提供するためには、特に再生出力の向上およびオーバーライト特性の確保および走行耐久性が大きな問題となってきた。
【0010】また、磁気記録媒体の走行時の帯電は、塵埃の付着によるドロップアウト数の増大を招き、特にデータ記録用の磁気記録媒体の場合は、それによるエラー・レートが致命的な欠陥となった。この帯電の問題を改良するために、磁性層中に帯電を防止するために添加物を加える方法が通常取られており、中でもカーボンブラックを添加する方法が最も有効であり、広く採用されている。しかしながら、前記の高密度記録用の磁気記録媒体にあっては、カーボンブラックの添加は、磁性体充填度を下げる出力の低下を招くので、その添加量に限界があり、帯電防止への充分な対処ができなかった。
【0011】特に、前記の強磁性六方晶系フェライト粉末は、Co−Fe2 3 強磁性粉末、強磁性金属粉末等と比較し、飽和磁化量が低く、高い出力が得られ難いため高出力の磁気記録媒体を提供するには充填密度を上げなければならないが、微粒子でありかつ形状が六方晶形であるがため、分散性が従来の強磁性粉末に比較して劣り、帯電防止性、高再生出力を確保することが基本的に困難である。
【0012】前記の帯電の防止、高出力化と耐久性の向上を満足させるための種々提案が開示されている。(特開昭55−55431号、特開昭55−55432号、特開昭55−55433号、特開昭55−55434号、特開昭60−164926号、特開昭55−55436号、特開昭62−38523号、特開昭62−159337号公報等)即ち、磁性層と支持体の間に中間層を設けるものであるが、中間層にカーボンブラックと結合剤樹脂を塗布し、その後その上に磁性層を形成しようとするものである。
【0013】しかしながら、この方法は、走行耐久性を改善するめには有効であったが、高密度記録の磁気記録媒体であって、十分な走行耐久性を確保しつつ、しかも、優れた電磁変換特性、すなわち高再生出力、オーバーライト特性を満足することはできなかった。そして、この問題に対処する有効な方法はいまだに提案されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、高再生出力、オーバーライト特性等の電磁変換特性が良好で、帯電しにくくかつ走行耐久性の優れた超高密度磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は、非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする非磁性層並びに強磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする磁性層が、この順で形成されてなる磁気記録媒体において、前記磁性層は、上層と下層の少なくとも2層からなり、前記下層の強磁性粉末の平均粒径は前記上層の強磁性粉末の平均粒径よりも大きく、該磁性層の全厚は0.8μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体であり、これにより上記課題を解決できる。
【0016】本発明は、非磁性支持体の上に非磁性層及び磁性層をこの順に設けた磁気記録媒体であって、かつ磁性層が2層以上の複層構造であり、その磁性層の全厚を0.8μm以下に限定したことを特徴とする。また、第2に磁性層を複層構造とすると共に下層の強磁性粉末の平均粒径を上層のそれより大きくしたことを特徴とする。
【0017】ところで、一般に平均粒径が小さい強磁性粉末は、長波長の記録波長域では出力は低いが、短波長領域での出力は高く、平均粒径が大きい粒子はその逆であることが知られている。また、長波長の記録信号は、磁性層の深いところまで有効であることが知られている。本発明では、平均粒径の違いによる強磁性粉末の周波数特性が磁性層の下層と上層でそれぞれ特徴的な上記性質が発揮されるように構成したものである。
【0018】即ち、本発明は、磁性層の厚さを薄くすることにより、自己減磁損失を低減して再生出力を向上したと共に重ね書き特性、例えば、前に記録された長波長の信号の上に後から短波長の信号を記録しても前者の信号の記録磁化の影響を受けずに後者の信号が有効に記録される特性を改善したものである。また、本発明は、磁性層及び非磁性層を形成するための塗布方式は特に制限はないが、好ましくは、非磁性層と磁性層をウエット・オン・ウエット塗布方式で形成すると、厚味が均一で表面が平滑しかも非磁性層との密着性が良好な磁性層が形成できるため、再生出力の高い、耐久性の優れた磁気記録媒体を提供する。
【0019】磁性層を非磁性層を乾燥してから塗布して形成することもできる。しかし、磁性層の表面性を確保しにくく、また、極端な場合には、磁性層にピンホール等の塗布欠陥を生じる場合もある。本発明において、磁性層は少なくとも2層からなり、その上層とは、非磁性層から最も離れて形成される磁性層表面を少なくとも有する1層以上からなる層であり、下層とは少なくとも非磁性層と該上層の間に形成される1層以上からなる層である。
【0020】上層の厚さは、好ましくは0.01〜0.7μm、更に好ましくは0.05〜0.4μmの範囲であり、下層の厚さは、0.1〜0.7μm、好ましくは0.4〜0.75μmの範囲であり、磁性層全厚は、0.8μm以下、特に記録波長1.4μm以下を確保するためには、0.5μm以下であることが好ましい。磁性層の全厚を0.8μm以下の薄層としたためデジタル記録特有のオーバーライト特性が大幅に向上できる。また、記録波長を1.4μm以下と短くすることができるので、線記録密度を向上することができ、磁性層厚低減による効果が発揮される。
【0021】本発明においては、上層と下層とで、各々に含まれる強磁性粉末の平均粒径の関係が満足されているなら、上層及び下層は、各々複層構造でもよく、その場合、上層、下層における強磁性粉末の平均粒径は、上層内、下層内の各層間で相違していてもよい。例えば、磁性層を上層から下層に強磁性粉末の平均粒径を徐々に増大するように構成してもよい。
【0022】本発明において、磁性層の上層及び下層に含まれる強磁性粉末の平均粒径とは、粒子の最大径の平均を意味し、電子顕微鏡により測定した値である。本発明では、該上層含有強磁性粉末は、該下層含有強磁性粉末に比べその平均粒径が小さくなるように各層における存在分布が制御されている。本発明の磁気記録媒体において、磁性層に含まれる強磁性粉末は、酸化鉄系強磁性粉末、強磁性金属粉末もしくは強磁性六方晶系フェライト粉末等が使用できるが、中でも強磁性金属粉末または強磁性六方晶系フェライト粉末が好ましい。
【0023】特に、下層に飽和磁化( σS ) が大きい強磁性金属粉末を使用すると、高出力を得ることができる。更に、その上に下層で使用した強磁性金属粉末より平均粒径の小さな強磁性金属粉末または強磁性六方晶系フェライト粉末を使用すると、さらに短波長での記録/再生特性に優れ、幅広い記録波長帯域での高出力、高S/Nが得られる。
【0024】強磁性粉末が強磁性金属粉末で磁性層の下層に使用する場合、その平均粒径(長軸長)は、0.1〜0.4μm、好ましくは0.12〜0.35μmの範囲であり、針状比(長軸長/短軸長)は、5〜20、好ましくは6〜15の範囲であり、BET法による比表面積は30〜80m2 /g、好ましくは35〜70m2/gであって、X線回折法から求められる結晶子サイズが100〜450、好ましくは150〜350Åである。
【0025】強磁性粉末が強磁性金属粉末で磁性層の上層に使用する場合、その平均粒径(長軸長)は、0.1〜0.35μm、好ましくは0.12〜0.30μmの範囲であり、針状比(長軸長/短軸長)は、5〜20、好ましくは6〜15の範囲であり、BET法による比表面積は30〜80m2 /g、好ましくは40〜70m2 /gであって、X線回折法から求められる結晶子サイズが100〜400Å、好ましくは120〜330Åである。ここで、結晶子サイズは、(1,1,0)面と(2,2,0)面の回折線の半値巾の広がりから求められる。
【0026】強磁性粉末が強磁性六方晶系フェライト粉末で磁性層の下層に使用する場合、その平均粒径(板径)は、0.01〜0.2μm、好ましくは0.03〜0.1μmの範囲であり、板状比(板径/板厚)は、2〜20、好ましくは3〜15の範囲であり、BET法による比表面積は20〜100m2 /g、好ましくは25〜80m2 /gである。
【0027】強磁性粉末が強磁性六方晶系フェライト粉末で磁性層の上層に使用する場合、その平均粒径(板径)は、0.01〜0.15μm、好ましくは0.02〜0.12μmの範囲であり、板状比(板径/板厚)は、2〜20、好ましくは3〜15の範囲であり、比表面積は20〜100m2 /g、好ましくは25〜80m2/gである。
【0028】上層の強磁性粉末の平均粒径が上記より小さいと分散性が悪くなり、表面性が劣るので好ましくない。下層の強磁性粉末の平均粒径が上記より大きいと表面性が悪くなりかつ出力が低下するので好ましくない。下層の強磁性粉末の平均粒径より上層に使用した強磁性粉末の平均粒径が大きいと高密度記録には適さなくなる。
【0029】上層と下層に使用される各強磁性粉末の種類は、特に制限なく任意であり、上記平均粒径の大小関係を満足すれば、同種でも異種でも、あるいは各層で複数種使用してもかまわない。また、上層と下層で強磁性粉末の種類を選定することにより目的に応じた性能の磁気記録媒体を製造できる。例えば、■上層及び下層に強磁性金属粉末、■上層に強磁性六方晶系フェライト粉末、下層に強磁性金属粉末、■上層及び下層に強磁性六方晶系フェライト粉末等が挙げられる。また、磁性層が3層以上の場合、上層内または下層内の層構造において異種の強磁性粉末を混合あるいは層単位で複数使用してもかまわない。
【0030】前記強磁性金属粉末は、好ましくは少なくともFeを含む粉末が挙げられ、具体的には、Fe、Fe−Co、Fe−Ni又はFe−Ni−Coを主体とした金属単体あるいは合金がある。本発明の磁気記録媒体を高記録密度化するために、前記のような強磁性金属粉末の磁性層内での平均粒径に関する分布を制御することが必要であると同時に磁気特性としては、飽和磁化( σS ) は少なくとも110emu/g以上、望ましくは120emu/g以上である。又、抗磁力としては、800Oe(エルステッド)以上、望ましくは900Oe以上である。また、上層及び下層に強磁性金属粉末を使用した場合、上層の抗磁力は下層の抗磁力と同等かそれ以上であることが好ましい。
【0031】更に特性を改良するために、組成中にB、C、Al、Si、P等の非金属が添加されることもある。通常、前記金属粉末の粒子表面は、化学的に安定させるために酸化物の層が形成されている。酸化物の形成方法としては、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法等が挙げられ、いずれを施したものでも用いることができる。
【0032】前記強磁性六方晶系フェライト粉末としては、平板状でその平板面に垂直な方向に磁化容易軸がある強磁性粉末であって、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトあるいはそれらのコバルト置換体等があり、中でも特にバリウムフェライトのコバルト置換体、ストロンチウムフェライトのコバルト置換体が好ましい。更に必要に応じてその特性を改良するためにIn、Zn、Ge、Nb、V等の元素を添加してもよい。本発明の磁気記録媒体を高記録密度化するために、前記六方晶系フェライト粉末の磁性層における粒子サイズ分布を上層と下層において前記の関係に制御することが必要であると同時に磁気特性としては、飽和磁化( σS ) は少なくとも50emu/g以上、望ましくは53emu/g以上である。又抗磁力としては、500Oe以上、特に600Oe以上であることが望ましい。六方晶系フェライト粉末は、長波長記録の場合は出力は他の磁性粒子に比例して低めではあるが高周波帯域の記録波長が1.5μm以下、好ましくは1.0μm以下の短波長記録となると、他の磁性粒子よりもむしろ高出力が期待できるという特徴がある。
【0033】本発明の磁気記録媒体において、磁気記録ディスクのようなディスク形状の磁気記録媒体にあっては、円周方向の出力が均一で変動がないことが望まれ、そのためには面内配向度比ができるだけ高いことが必要となり、強磁性粉末の配向度比は好ましくは0.85以上である。配向度比を0.85以上にするためには磁性層が未乾燥の状態にあるところで特公平3−41895号公報の如く永久磁石を使用したランダム配向法もしくは特開昭63−148417号、特開平1−300427号、特開平1−300428号等の各公報の如く交流磁場を印加する方法が使用できる。
【0034】本発明においては、六方晶系フェライト粉末を使用すると0.9以上もの高い配向度比が実現できる。ここで、配向度比とは、円周方向の最小角型比を最大角形比で除した値である。尚、飽和磁化量及び抗磁力等の強磁性粉末の磁気特性、配向度比は、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて最大印加磁場5kOeで測定した。また比表面積の測定はカンターソープ(米国、カンタークロム社製)を用いたBET法によるものである。250℃、30分間窒素雰囲気で脱水後BET一点法(分圧0.30)で測定した値である。
【0035】また、これら強磁性粉末の含水率は、0.01〜2重量%とするのが好ましい。含水率は結合剤樹脂の種類によって最適化するのが好ましい。強磁性粉末のpHも用いる結合剤樹脂との組み合わせにより最適化するのが好ましい。その範囲は4〜12であるが、好ましくは5〜10である。強磁性粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2 以下になり好ましい。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合があるが、500ppm以下であれば特に特性に影響を与えない。
【0036】強磁性粉末としては、所望により酸化鉄強磁性粉末を使用してもよく、BET法による比表面積で表せば、25〜80m2 /gであり、好ましくは35〜60m2 /gである。25m2 /g以下ではノイズが高くなり、80m2 /g以上では表面性が得にくく好ましくない。X線回折法により測定される結晶子サイズは450〜100オングストロームであり、好ましくは350〜100オングストロームである。σS は50emu/g以上、好ましくは70emu/g以上である。
【0037】これらの強磁性粉末にはあとで述べる分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号等に記載されている。本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とするものである。非磁性粉末は、無機質粉末及び有機質粉末を包含し、無機質粉末を少なくとも含むことが好ましく、かつ有機質粉末としてカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0038】非磁性層におけるカーボンブラックの含有量は、非磁性層に含まれる非磁性粉末全量の3〜20重量%が好ましい。3重量%以下では十分に表面固有抵抗値を低減できず、また20重量%以上では十分な表面固有抵抗値の低減はできるが、十分に平滑な磁性層の表面性を得ることが出来ない。比表面積は、5〜1500m2 /gが好ましく、更に好ましくは、700〜1400m2 /gの範囲である。
【0039】これにより磁性層中のカーボンブラックの添加量を低減することができる。該カーボンブラックは、ストラクチャーを形成するため低い表面電気抵抗を得る事ができる。このため磁性層の表面固有電気抵抗値も低く抑えることができ、走行耐久性におけるドロップアウトの発生を低減できる。特に好ましいカーボンブラックとしては、平均粒径が40mμ以下でかつDBP吸油量が300mL(ミリリットル)/100gのカーボンブラックが挙げられる。これにより、平均粒径が40mμ以下のため磁性層下層/上層の平滑な表面性が得られ記録/再生ヘッドとのスペーシングロスを少なくでき高い再生出力が得られる。さらにDBP吸油量が300mL/100g以上のカーボンブラックはストラクチャーを形成しやすく結果として低い表面電気抵抗を得ることができ、走行耐久性におけるドロップアウトの発生を特に低減でき好ましい。
【0040】カーボンブラックのDBP吸油量は、カーボンブラック粉末にジブチルフタレートを少しづつ加え、練り合わせながらカーボンブラックの状態を観察し、ばらばらに分散した状態から一つの塊をなす点を見出し、その時のジブチルフタレートの添加量(mL)をDBP吸油量とした。カーボンブラックは、磁気記録媒体に導電性を付与して磁気記録媒体の帯電を防止するために有効であると共に磁性層と非磁性層の物理的強度を調整するための素材としても使用される。また、カーボンブラックは、非磁性層用塗布液の粘弾性特性を調整する機能も有する。更に、カーボンブラックは、摩擦係数の調整、遮光性付与等種々の機能を有する非常に有用な素材である。従って、上記と同様の主旨でカーボンブラックは磁性層にも含ませることが好ましい。
【0041】また、本発明は非磁性層に使用することができるカーボンブラックとしては、あらゆる製法のものが使用できる。例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック等を使用することができる。具体的な例として、三菱化成工業社製#3950B、ライオンアクゾ社製ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ−500、ケッチェンブラックECDJ−600などが挙げられる。
【0042】カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても表面の一部をグラファイト化したものを使用しても構わない。また、カーボンブラックを非磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独、または組み合わせて使用することができる。
【0043】本発明で使用できるカーボンブラックは例えば(「カーボンブラック便覧」、カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。本発明の磁気記録媒体は、ウエット・オン・ウエット塗布方式、即ち、非磁性支持体上に非磁性層用塗布液を塗布して非磁性層用塗布層を形成し、該非磁性層用塗布層が湿潤状態にあるうちに磁性層の下層用塗布液を前記非磁性層用塗布層の上に塗布し、更に該下層用塗布層が湿潤状態にあるうちに磁性層の上層用塗布液を前記下層用塗布層の上に塗布することにより製造することが好ましい。
【0044】このウエット・オン・ウエット塗布方式は、各塗布液を時間的に実質的に同時に塗布しても、ことなる時間間隔で塗布しても各塗布液が湿潤状態であればよい。また、磁性層が3層以上から構成されたものであっても上記塗布の基本概念は同じである。ウエット・オン・ウエット塗布方式は、厚さが均一な極薄の磁性層が得られ且つ磁性層の厚さが薄いと問題となる非磁性層/磁性層の下層/磁性層の上層の密着性が改良される。この塗布方式は、磁性層全厚が0.8μm以下の磁性層の剥がれを防止し、ドロップアウトが生じにくい走行耐久性の優れた磁気記録媒体を得ることができる。非磁性層の塗布液を塗布、乾燥して非磁性層を形成してからその上に磁性層を塗布する方式では、磁性層が極めて薄いためか、非磁性層と磁性層との密着性が充分でなく非磁性支持体上に形成された層として、各層が一体的な構造になり難いのである。
【0045】ウエット・オン・ウエット方式で留意すべきこととして、塗布液の粘弾性特性(チクソトロピック性)がある。即ち、磁性層と非磁性層の各塗布液の粘弾性特性の差が大きいと塗布した際に、各層の界面で液の混じり合いが起こり、本発明のように磁性層の厚さが非常に薄い場合、磁性層の表面性が低下する等の問題を起こし易い。
【0046】塗布液の粘弾性特性をできるだけ近づけるためには、まず、磁性層と非磁性層の各塗布液の分散粒子を同一にすることが効果的であるが、本発明の場合は、それができないので、磁性層の塗布液中で強磁性粉末が磁性により形成されるストラクチャー構造がもたらす構造粘性と合わせるために、非磁性層塗布液の非磁性粒子としてカーボンブラックのように構造粘性を形成し易い粒子を使用することが望ましい。そのために本発明において、吸油量が大きく且つ粒子サイズの小さいカーボンブラックを使用することが有効であるが、同時にカーボンブラック以外の粒子サイズの小さい非磁性無機質粉末を使用することも有効である。例えば、1μm以下の酸化チタン、酸化アルミ等の粒子では、適度な凝集により粒子の構造粘性を有した塗布液となり易い。
【0047】本発明の非磁性層に使用できる非磁性無機質粉末は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。具体的にはTiO2 (ルチル、アナターゼ)、TiOX 、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2 、SiO2 、Cr2 3 、α化率90%以上のるαアルミナ、βアルミナ、γアルミナ、α酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化硼素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3 、CaCO3 、BaCO3 、SrCO3 、BaSO4 、CaSO4 、炭化珪素などが単独または組み合わせて使用される。これら無機質粉末の形状、サイズは針状、球状、サイコロ状等で任意であり、これらは必要に応じて異なる無機質粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布等を選択することもできる。粒子サイズとしては、0.01〜2μmから選択される。非磁性粉末としては、次のものが好ましい。
【0048】タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2 /gが好ましい。DBPを用いた吸油量は5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。上記の非磁性粉末は必ずしも100%純粋である必要はなく、目的に応じて表面を他の化合物、例えば、Al、Si、Ti、Zr、Sn、Sb、Zn等の各化合物で処理し、それらの酸化物を表面に形成してもよい。その際、純度は70%以上であれば効果を減ずることにはならない。強熱減量は20%以下であることが好ましい。
【0049】本発明に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、住友化学社製AKP−20、AKP−30、AKP−50、日本化学工業社製G5、G7、S−1、戸田工業社製TF−100、TF−120、TF−140などが挙げられる。本発明に使用される非磁性有機質粉末は、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂粉末が使用される。その製法は、特開昭62−18564号、同60−255827号の各公報に記載されているようなものが使用できる。
【0050】本発明の磁性層、非磁性層に使用される結合剤としては従来公知の熱可塑系樹脂、熱硬化系樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑系樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1000〜200000、好ましくは10000〜100000、重合度が約50〜1000程度のものである。
【0051】このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。
【0052】また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフエノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。
【0053】これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を下層、または上層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体の群から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組合せたものがあげられる。
【0054】ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、COOM、SO3 M、OSO3 M、P=O(OM)2 、O−P=O(OM)2 、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属)、OH、NR2 、N+ 3 、(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0055】本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカーバイト社製:VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製:MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製:1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製:MR105、MR110、MR100、400X110A、日本ポリウレタン社製:ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製:パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製:バイロンUR8200、UR8300、UR8600、UR5500、UR4300、RV530、RV280、大日精化社製:ダイフエラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製:MX5004、三洋化成社製:サンプレンSP−150、旭化成社製:サランF310、F210などがあげられる。
【0056】本発明の磁性層に用いられる結合剤は強磁性粉末に対し、また非磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末に対し、5〜50重量%の範囲、好ましくは10〜30重量%の範囲で用いられる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は、5〜100重量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜50重量%、ポリイソシアネートは2〜100重量%の範囲でこれらを組合せて用いるのが好ましい。
【0057】本発明において、ポリウレタン樹脂を用いる場合はガラス転移温度が−50〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10Kg/cm2 、降伏点は0.05〜10Kg/cm2 が好ましい。本発明の磁気記録媒体は基本的には非磁性層と磁性層の上層及び下層の三層以上からなる。非磁性層、上層及び下層を各々複数の層で形成してもかまわない。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂の量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ各層で変えることはもちろん可能である。
【0058】本発明に用いるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4−4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフエニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製:コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製:タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製:デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL等があり、これらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層に用いることができる。
【0059】本発明の磁性層に使用されるカーボンブラックはゴム用フアーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。比表面積は5〜500m2 /g、DBP吸油量は10〜1500ml/100g、粒子径は5mμ〜300mμ、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/ccが好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製:BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製:♯80、♯60、♯55、♯50、♯35、三菱化成工業社製:♯3950B、♯2400B、♯2300、♯900、♯1000、♯30、♯40、♯10B、コンロンビアカーボン社製:CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50,40,15、ライオンオクゾ社製:ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ−500、ケッチェンブラックECDJ−600などが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラフアイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合は強磁性粉末に対する量の0.1〜30%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って本発明に使用されるこれらのカーボンブラックは下層、上層でその種類、量、組合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能である。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0060】本発明の磁性層あるいは非磁性層に用いられる研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度5以上の公知の材料が単独または組合せで使用される。また、これらの研磨剤どうしの複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。
【0061】これら研磨剤の平均粒径は0.05〜5μmび大きさのものが効果があり、好ましくは0.2〜1.0μmである。必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組合せたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2 /g、が好ましい。本発明に用いられる研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、のいずれでも良い。
【0062】これら研磨剤は非磁性層、磁性層の各結合剤樹脂100重量部に対して3〜20重量部の範囲で添加される。3重量部より少ないと十分な耐久性が得られず、又20重量部より多すぎると充填度が減少し、十分な出力が得られない。これら研磨剤は、非磁性層においては、含有する非磁性粉末の量、種類、磁性層のおいては上層及び下層の強磁性粉末の量、種類に応じてその組合せを変え、目的に応じて使い分けることはもちろん可能である。例えば、磁性層表面の耐久性を向上させる場合は、非磁性層の研磨剤量を、磁性層端面の耐久性を向上させる場合は磁性層の研磨剤量を多くするなどの工夫を行うことができる。これらの研磨剤はあらかじめ結合剤で分散処理したのち磁性塗料、非磁性塗料中に添加してもかまわない。本発明の磁気記録媒体の磁性層表面および磁性層端面に存在する研磨剤は5個/100μm2 以上が好ましい。
【0063】本発明に用いられる研磨剤の具体的な例としては、住友化学社製:AKP−20,AKP−30,AKP−50,HIT−50、日本化学工業社製:G5,G7,S−1、戸田工業社製:TF−100、TF−140、100ED、140EDなどがあげられる。本発明に使用する分散剤(顔料湿潤剤)としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(R1 COOH、R1 は炭素数11〜17個のアルキルまたはアルケニル基);前記の脂肪酸のアルカリ金属(Li、Na、K等)またはアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)からなる金属石鹸;前記の脂肪酸エステルの弗素を含有した化合物;前記脂肪酸のアミド;ポリアリキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第4級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンはエチレン、プロピレン等);等が使用される。この他に炭素数12以上の高級アルコール、及びこれらの他に硫酸エステル等も使用可能である。これらの分散剤は縮合剤樹脂100重量部に対して0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0064】潤滑剤としては、ジアルキルポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個)、ジアルコキシポリシロキサン(アルコキシ基は炭素数1〜4個)、モノアルキルモノアルコキシポリシロキサン(アルキルは炭素数1〜5個、アルコキシ基は炭素数1〜4個)、フェニルポリシロキサン、フロロアルキルポリシロキサン(アルキル基は炭素数1〜5個)などのシリコンオイル;グラファイト等の導電性微粉末;二硫化モリブデン、二硫化タングステン等の無機粉末;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン塩化ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック微粉末;α−オレフィン重合物;常温で液状の不飽和脂肪族炭化水素(n−オレフィン二重結合が末端の炭素に結合した化合物、炭素数約20);炭素数12〜20個の一塩基性脂肪酸と炭素数3〜12個の一価のアルコールから成る脂肪酸エステル類、フルオロカーボン類等は使用できる。
【0065】中でも脂肪酸エステルが最も好ましい。脂肪酸エステルの原料となるアルコールとしては、エタノール、ブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、2−メチルブチルアルコール、2−ヘキシルデシルアルコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、s−ブチルアルコール等のモノアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ソルビタン誘導体等の多価アルコールが挙げられる。
【0066】同じく脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、パルミトレイン酸等の脂肪族カルボン酸またはこれらの混合物が挙げられる。脂肪酸エステルとしての具体例は、ブチルステアレート、s−ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエ−テルをステアリン酸でアシル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジエステルとしたもの、グリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。
【0067】さらに、磁気記録媒体を高湿度下で使用する時、しばしば生ずる脂肪酸エステルの加水分解を軽減すために、原料の脂肪酸及びアルコールの分岐/直鎖、シス/トランス等の異性構造、分岐位置を選択することがなされる。これらの潤滑剤は、結合剤樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部の範囲で添加される。
【0068】潤滑剤としては、更に以下の化合物を使用することもできる。即ち、シリコンオイル、、グラフアイト、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ素アルコール、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステル、二硫化タングステン等である。本発明で使用されるこれらの潤滑剤等は磁性層、非磁性層でその種類、量を必要に応じ使い分けることができる。例えば、各層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。
【0069】また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性塗料製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。本発明で使用されるこれら潤滑剤の商品例としては、日本油脂社製:NAA−102,NAA−415,NAA−312,NAA−160,NAA−180,NAA−174,NAA−175,NAA−222,NAA−34,NAA−35,NAA−171,NAA−122,NAA−142,NAA−160,NAA−173K,ヒマシ硬化脂肪酸,NAA−42,NAA−44,カチオンSA,カチオンMA,カチオンAB,カチオンBB,ナイミーンL−201,ナイミーンL−202,ナイミーンS−202,ノニオンE−208,ノニオンP−208,ノニオンS−207,ノニオンK−204,ノニオンNS−202,ノニオンNS−210,ノニオンHS−206,ノニオンL−2,ノニオンS−2,ノニオンS−4,ノニオンO−2,ノニオンLP−20R,ノニオンPP−40R,ノニオンSP−60R,ノニオンOP−80R,ノニオンOP−85R,ノニオンLT−221,ノニオンST−221,ノニオンOT−221,モノグリMB,ノニオンDS−60,アノンBF,アノンLG,ブチルステアレート,ブチルラウレート,エルカ酸、関東化学社製:オレイン酸、竹本油脂社製:FAL−205,FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブLO,エヌジョルブIPM,サンソサイザーE4030、信越化学社製:TA−3,KF−96,KF−96L,KF−96H,KF410,KF420,KF965,KF54,KF50,KF56,KF−907,KF−851,X−22−819,X−22−822,KF−905,KF−700,KF−393,KF−857,KF−860,KF−865,X−22−980,KF−101,KF−102,KF−103,X−22−3710,X−22−3715,KF−910,KF−3935、ライオンアーマー社製:アーマイドP,アーマイドC,アーモスリップCP、ライオン油脂社製:デュオミンTDO、日清製油社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E,ニューポールPE61,イオネットMS−400,イオネットMO−200,イオネットDL−200,イオネットDS−300,イオネットDS−1000,イオネットDO−200などがあげられる。
【0070】本発明で用いられる有機溶媒は任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール、などのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、などのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、などの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン、等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等のものが使用できる。これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分がふくまれてもかまわない。これらの不純分は30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0071】本発明で用いる有機溶媒は必要ならば非磁性層、磁性層の各層でその種類、量は変えてもかまわない。磁性層の上層に揮発性の高い溶媒を用い表面性を向上させる、磁性層の下層あるいは非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性をあげる、該下層あるいは非磁性層に溶解性パラメータの高い溶媒を用い充填度を上げるなどがその例として挙げられるが、これらの例に限られたものではないことは無論である。
【0072】本発明に用いられる非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフイン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの公知のフイルムが使用できる。非磁性支持体は、一般には1〜100μm、好ましくは25〜85μmの厚さのものが使用される。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などをおこなっても良い。
【0073】本発明の目的を達成するには、非磁性支持体として中心線平均表面粗さ(Ra)(カットオフ値 0.25mm)が0.03μm以下、好ましくは0.02μm以下、さらに好ましくは0.01μm以下のものを使用するのが望ましい。また、これらの非磁性支持体は単に中心線平均表面粗さが小さいだけではなく、1μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また、表面の粗さ形状は、必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。
【0074】本発明に用いられる非磁性支持体のウエブ走行方向(長手方向)のF−5値は好ましくは5〜50Kg/mm2 、ウエブ幅方向のF−5値は好ましくは3〜30Kg/mm2 であり、ウエブ長手方向のF−5値がウエブ幅方向のF−5値より高いのが、一般的であるが、特に幅方向の強度を高くする必要があるときはその限りでない。
【0075】また、非磁性支持体と非磁性層の間に密着性向上のためのポリエチレン樹脂等からなる下塗り層を設けてもかまわない。この厚みは0.01〜2μm、好ましくは0.05〜0.5μmである。また、非磁性支持体の磁性層側と反対側にバックコート層を設けてもかまわない。この厚みは0.1〜2μm、好ましくは0.3〜1.0μmである。これらの下塗り層、バックコート層は公知のものが使用できる。円盤状磁気記録媒体の場合、両面もしくは片面に磁性層を設けることができる。
【0076】また、非磁性支持体のウエブ走行方向および幅方向の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は両方向とも5〜100Kg/mm2 、弾性率は100〜2000Kg/mm2 が好ましい。
【0077】本発明の磁気記録媒体の磁性塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する強磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。
【0078】磁性塗料の混練分散に当たっては、各種の混練機が使用される。例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、ゼグバリ(Szegvari)、アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速衝撃ミル、ディスパー、ニーダー、高速ミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機などを用いることができる。
【0079】本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができることはもちろんであるが、混練工程では連続ニーダや加圧ニーダなど強い混練力をもつものを使用することにより本発明の磁気記録媒体の高いBrを得ることができる。連続ニーダまたは加圧ニーダを用いる場合は強磁性粉末と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30重量%以上が好ましい)および強磁性粉末100部に対し15〜500部の範囲で混練処理される。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号、特開昭64−79274号に記載されている。また、非磁性層液を調製する場合には高比重の分散メディアを用いることが望ましく、ジルコニアビーズ、金属ビーズが好適である。
【0080】本発明では、特開昭62−212933号に示されるような同時重層塗布方式を用いることにより、より効率的に生産することができる。本発明のような重層構成の磁気記録媒体を塗布する装置、方法の例として以下のような構成が挙げられる。
1.磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、まず第1層を塗布し、第1層がウエット状態のうちに特公平1−46186号や特開昭60−238179号、特開平2−265672号の各公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により第2層を塗布する方法。
2.特開昭63−88080号、特開平2−17921号、特開平2−265672号の各公報に開示されているような塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより第1層及び第2層をほぼ同時に塗布する方法。
3.特開平2−174965号公報に開示されているバックアップロール付きエキストルージョン塗布装置により第1層及び第2層をほぼ同時に塗布する方法。
【0081】なお、強磁性粉末の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号や特開平1−236968号に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液に剪断を付与することが望ましい。さらに、カレンダ処理ロールとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールを使用する。また、金属ロール同志で処理することもできる。処理温度は、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。線圧力は好ましくは200kg/cm、さらに好ましくは300kg/cm以上である。
【0082】本発明の磁気記録媒体の磁性層面の表面固有抵抗は、好ましくは105 〜5×109 オーム/sqが好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は走行方向、幅方向とも好ましくは100〜2000Kg/mm2 、破断強度は好ましくは1〜30Kg/cm2 、磁気記録媒体の弾性率は走行方向、幅方向とも好ましくは100〜1500Kg/mm2、残留のびは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、もっとも好ましくは0.1%以下である。
【0083】磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2 以下、さらに好ましくは10mg/m2 以下であり、磁性層に含まれる残留溶媒が非磁性層に含まれる残留溶媒より少ないほうが好ましい。磁性層、非磁性層が有する空隙率は、ともに好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。非磁性層の空隙率が磁性層の空隙率より大きいほうが好ましいが、非磁性層の空隙率が5%以上であれば小さくてもかまわない。
【0084】本発明の磁気記録媒体は、複数層を有するが、目的に応じ各層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の下層の弾性率を高くし、走行耐久性を向上させると同時に磁性層の上層の弾性率を該下層よりも低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりを良くするなどである。
【0085】ウエット・オン・ウエット塗布方式により、支持体上に塗布された磁性層は、必要により層中の強磁性粉末を配向させる処理を施したのち、形成した磁性層を乾燥する。又、必要により表面平滑化加工を施したり、所望の形状に裁断したりして、本発明の磁気記録媒体を製造する。本発明の磁気記録媒体は、ビデオ用途、オーディオ用途などのテープであってもデータ記録用途のフロッピーディスクや磁気ディスクであってもよいが、高記録密度でドロップアウトの発生による信号の欠落が致命的となるデータ記録用途のディスク状媒体に対しては特に有効である。
【0086】即ち、本発明の磁気記録媒体を磁気記録ディスクとして使用することにより、高密度の磁気記録が可能であり、特に、コンピューター情報を保存・読み出しに使用されるディジタルデータ記録媒体に必須の重ね書き特性が、例えば、最短記録波長が1.5μm以下であるような高密度記録になっても低下せず且つ走行耐久性も低下しないという利点を有する。
【0087】また、記録波長が短波長化した場合だけでなく、トラック密度が高くなった場合にも本発明の磁気記録ディスクを使用することにより、信号のクロストークが少なく、ピークシフトの分離性に優れた記録ができる。そのため、記録トラック幅が50μm以下、トラック密度14トラック/mm以上の条件で、最短記録波長が1.5μm以下の記録をしても重ね書き適性に優れ、走行耐久性も良好な記録・再生が可能である。
【0088】
【実施例】以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ここに示す成分、割合、操作順序等は、本発明の精神から逸脱しない範囲において変更しうるものであることは本業界に携わるものにとっては容易に理解されることである。従って、本発明は下記の実施例に制限されるべきではない。尚、「部」とあるのは全て「重量部」のことである。
【0089】実施例1以下の処方で非磁性層用塗布液及び磁性層の下層用磁性塗布液、及び磁性層の上層用磁性塗布液を調製した。
【0090】
非磁性層用塗布液 非磁性無機質粉末 90部 粒状TiO2 (石原産業社製 TY50)
平均粒径 0.34μm BET法による比表面積 5.9 m2 /g pH 5.9 カーボンブラック 10部 平均粒径 30mμ DBP吸油量 350ml/100g pH 9.5 BET法による比表面積 950m2 /g 揮発分 1.0% 塩化ビニル系共重合体 14部 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 ポリエステルポリウレタン樹脂 5部 ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI =0.9/2.6/1 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 sec−ブチルステアレート 5部 2−ブトキシ−1−エチルステアレート 5部 オレイン酸 1部 メチルエチルケトン 200部
【0091】
磁性層の下層用磁性塗布液 強磁性金属微粉末 100部 組成 Fe/Ni=96/4 Hc 1500Oe、BET法による比表面積 58m2 /g 結晶子サイズ 195Å 平均粒径(長軸長) 0.20μm、針状比 10 飽和磁化( σS ) 130emu/g 塩化ビニル系共重合体 14部 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 ポリエステルポリウレタン樹脂 3部 ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI =0.9/2.6/1 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 αアルミナ(平均粒径 0.3μm) 2部 カーボンブラック(平均粒径 0.10μm) 0.5部 sec−ブチルステアレート 5部 2−ブトキシ−1−エチルステアレート 5部 オレイン酸 1部 メチルエチルケトン 200部
【0092】
磁性層の上層用磁性塗布液 強磁性金属微粉末 100部 組成 Fe/Ni=97/3 Hc 1550Oe、BET法による比表面積 60m2 /g 結晶子サイズ 160Å 平均粒径(長軸長) 0.16μm、針状比 10 飽和磁化( σS ) 127emu/g 塩化ビニル系共重合体 14部 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 ポリエステルポリウレタン樹脂 3部 ネオペンチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI =0.9/2.6/1 −SO3 Na基 1×10-4eq/g含有 αアルミナ(平均粒径 0.3μm) 2部 カーボンブラック(平均粒径 0.10μm) 0.5部 sec−ブチルステアレート 5部 2−ブトキシ−1−エチルステアレート 5部 オレイン酸 1部 メチルエチルケトン 200部
【0093】上記3つの塗料のそれぞれについて、各成分を連続ニーダーで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製、「コロネートL」)を非磁性層用塗布液には10部、磁性層の上層用及び下層用磁性塗布液には各12部を加え、さらにそれぞれに酢酸ブチル40部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用塗布液並びに磁性層形成用の上層用及び下層用塗布液を夫々調製した。
【0094】得られた非磁性層形成用塗布液を乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層の乾燥後の厚さが0.25μmになるように、さらにその直後にその上に磁性層の上層の乾燥後の厚さが0.20μmになるように、厚さ62μmで中心平均表面粗さが0.01μmのポリエチレンテレフタレート支持体上に磁性層の下層及び上層形成用の各塗布液を使用して同時重層塗布を行い、各層がまだ湿潤状態にあるうちに周波数50Hz、磁場強度200ガウスまた周波数50Hz、120ガウスの2つの交流磁場発生装置中を通過され、ランダム配向処理を行い、乾燥後、7段のカレンダ装置(線圧 300Kg/cm、温度 90℃)にて処理を行い、3.5インチサイズに打ち抜き表面研磨処理を施した後、ライナーが内側に設置済みの3.5インチカートリッジに入れ、所定の機構部品を付加し、3.5インチフロッピーディスクを得た。。
【0095】実施例2実施例1での磁性層の上層に使用した強磁性金属粉末を以下のように変更した他は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
強磁性六方晶系フェライト粉末 100部 Hc 1520Oe、BET法による比表面積 45m2 /g 平均粒径(板径) 0.10μm、板状比 7 飽和磁化( σS ) 57emu/g
【0096】実施例3実施例1において非磁性層用塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層の厚さが0.40μmに、さらにその直後にその上に上層の厚さが0.30μmになるようにしたほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0097】実施例4実施例2において非磁性層用塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層の厚さが0.40μmに、さらにその直後にその上に上層の厚さが0.30μmになるようにしたほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0098】比較例1実施例1での磁性層の上層に使用した強磁性金属粉末を以下のように変更した他は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
強磁性金属微粉末 100部 組成 Fe/Ni=97/3 Hc 1550Oe、BET法による比表面積 44m2 /g 結晶子サイズ 250Å 平均粒径(長軸長) 0.27μm、針状比 11 飽和磁化( σS ) 133emu/g
【0099】比較例2実施例2での磁性層の上層に使用した強磁性金属粉末を以下のように変更した他は実施例2と同様にしてサンプルを作成した。
強磁性六方晶系フェライト粉末 100部 Hc 1540Oe、BET法による比表面積 40m2 /g 平均粒径(板径) 0.25μm、板状比 6 飽和磁化( σS ) 59emu/g
【0100】比較例3実施例1において非磁性層用塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層の厚さが0.60μmに、さらにその直後にその上に上層の厚さが0.40μmになるようにしたほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0101】比較例4実施例1での非磁性層用塗布液に使用した酸化チタン及びカーボンブラックの添加量を以下のように変更した他は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
TiO2 100部 カーボンブラック 0部(添加なし)
【0102】比較例5実施例1の磁性層の下層用、上層用の各塗布液の処方で実施例1と同様のポリエチレンテレフタレート支持体上に非磁性層を設けず、磁性層の下層の厚さが0.40μmに、さらにその直後にその上に上層の厚さが0.30μmになるようにしたほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0103】比較例6実施例1において非磁性層用塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層を設けずに上層用塗布液のみ使用してその磁性層の厚さが0.20μmになるようにしたほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0104】比較例7実施例2において非磁性層用塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように、その直後にその上に磁性層の下層を設けずに上層用塗布液のみ使用してその磁性層の厚さが0.20μmになるようにしたほかは実施例2と同様にしてサンプルを作成した。
【0105】実施例5実施例1の非磁性層及び磁性層の各塗布液の処方でまず非磁性層用塗布液のみ実施例1と同様のポリエチレンテレフタレート支持体上に乾燥厚味2μmになるように塗布後、乾燥した。その後、その非磁性層の上に磁性層の下層を乾燥厚味が0.25μmになるように塗布後湿潤状態にあるうちに実施例1と同一の条件でランダム配向、乾燥、カレンダー処理を行った。さらにその後、該磁性層の下層の上に上層を乾燥後の厚味が0.20μmになるように塗布後湿潤状態にあるうちに実施例1と同一の条件でランダム配向、乾燥、カレンダー処理を行いサンプルを作成した。
【0106】実施例6実施例1での非磁性層に使用しているカーボンブラックの種類を以下のように変更した他は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
カーボンブラック(三菱カーボン社製 #50) 10部 平均粒径 80mμ DBP吸油量 63ml/100g pH 5.5 BET法による比表面積 23m2 /g 揮発分 1.0%このようにして得られたフロッピーディスクの各試料は、下記の評価方法で測定した。
【0107】表面電気抵抗(Ω/sq):タケダ理研社製、TR−8611A(デジタル超絶縁抵抗計)を使用し、JISX6101.9.4に記載されている方法にて測定した。
再生出力の測定:再生出力の測定は、東京エンジニアリング製ディスク試験装置SK606B型を用いギャップ長0.30μmのメタルインギャップヘッドを用い、それぞれ1f記録周波数を625kHzで2f記録周波数を1250kHzとし、半径24.6mmの位置において記録した後、ヘッド増幅機の再生出力をテクトロニクス社製のオシロスコープ7633型で測定した。再生出力は、実施例1の出力を100として相対値で示した。
【0108】重ね書き:重ね書き特性は上記の試験装置を用い半径39.5mmの位置で、交流消磁済みサンプルに312.5kHz記録し、アドバンテスト社製TR4171型スペクトラムアナライザで312.5kHz成分の出力01(dB)を測定した後、直ちに1MHzを重ね書きし、その時の312.5kHz成分の出力02(dB)から重ね書き 02−01(dB)を求めた。
【0109】中心線平均表面粗さ(Ra):三次元表面粗さ計(小坂研究製)を用いカットオフ0.25mmで測定した。
走行耐久性:日本電気社製フロッピーディスクドライブFD1331型を用い、記録周波数625kHzで全240トラックに記録した後、半径が中心から37.25mmの位置において表1に記載のサーモサイクルフローを1サイクルとするサーモサイクル試験を実施した。このサーモ条件下において、パス回数で1200万回まで走行させたときの走行状態をもって、走行耐久性を評価した。
【0110】
【表1】


【0111】以上の評価方法で得られた実施例、比較例のそれぞれの特性値の評価結果を表2に示した。
【0112】
【表2】


【0113】本発明の実施例1〜4は、1f再生出力、2f再生出力、オーバーライトの各電磁変換特性において優れた特性を示し、表面電気抵抗、サイクル走行耐久性においても安定した結果を示している。磁性層の下層で使用した強磁性金属粉末の平均粒径より大きいサイズの強磁性金属粉末を上層用に使用した比較例1と同様に強磁性六方晶系フェライト粉末を使用した比較例2は共に2f出力が劣った。
【0114】磁性層の塗布後乾燥厚味が厚いものは十分なオーバーライト特性が得られていない。通常、デジタル記録媒体においては、−30dB以下のオーバーライト特性が必要とされる(比較例3)。非磁性層を設けなかった比較例4、非磁性層のカーボンブラックを添加しなかった比較例5は、共に表面固有抵抗値が高くなり、耐久性においてドロップアウトが短時間で発生した。
【0115】非磁性層の上に磁性層の下層を設けずに磁性層の上層のみにした比較例6、7は共に1f再生出力が低下した。同時重層塗布でない実施例5は表面性、再生出力がやや低下した。さらに、カーボンブラックのDBP吸油量が低くさらに平均粒径の大きいものでは耐久性の他に、表面性、再生出力がやや低下している。(実施例6)。
【0116】
【発明の効果】本発明は、好ましくは、非磁性支持体上に非磁性粉末を結合剤中に分散させた非磁性層と本非磁性層が湿潤状態にあるうちにその上に強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層の下層を設け、さらに該下層が湿潤状態にあるうちに更にその上に強磁性粉末を結合剤中に分散した上層を設けてなる磁気記録媒体であって、これら磁性層の下層、磁性層の上層の磁性層全厚が0.8μm以下で、磁性層の下層に使用される強磁性粉末が強磁性金属粉末でさらにその上の上層に使用される強磁性粉末が下層で使用される強磁性金属粉末の平均粒径以下の強磁性金属粉末または強磁性六方晶系フェライト粉末であり、さらに下層の非磁性粉末として少なくともカーボンブラックを含有させることにより、走行耐久性に優れ、表面電気抵抗値を低くでき、高密度記録および走行耐久性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする非磁性層並びに強磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする磁性層が、この順で形成されてなる磁気記録媒体において、前記磁性層は、上層と下層の少なくとも2層からなり、前記下層の強磁性粉末の平均粒径は前記上層の強磁性粉末の平均粒径よりも大きく、該磁性層の全厚は0.8μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】 前記非磁性層及び磁性層は、ウエット・オン・ウエット塗布方式で形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 前記強磁性粉末が強磁性金属粉末である請求項1または請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 前記強磁性粉末が強磁性六方晶系フェライト粉末である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 前記非磁性粉末の少なくとも一部がカーボンブラックである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】 前記カーボンブラックは、平均粒径が40mμ以下であり、かつDBP吸油量が300mL/100g以上である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 前記磁気記録媒体が磁気記録ディスクである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。