説明

磁気転写方法および磁気転写装置

【課題】転写磁界を印加する磁界発生部(磁石)の面積を減少させることにより磁石間の引力(あるいは斥力)を低減し、さらに、処理時間を短縮することができる磁気転写方法および磁気転写装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気転写装置は、プリフォーマット信号に対応したパターンを有するマスターディスク11と磁気記録媒体13とを密着させた密着体15に対して磁界を印加する、N(Nは2以上の整数)対の磁界発生部21を備える。磁界発生部21は、磁気記録媒体13における転写領域の外周半径をRo、内周半径をRiとすると、磁気記録媒体13の径方向に(Ro−Ri)/N以上、かつ(Ro−Ri)より短い長さを有する。回転駆動部25によって密着体15を回転させながら、所定の速度で磁界発生部21を外周方向に平行に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリフォーマット信号に対応した強磁性材料のパターンを有するマスターディスクを用いて、磁気記録媒体にプリフォーマット情報を転写する磁気転写方法および磁気転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なハードディスクドライブ装置では、磁気記録媒体上に磁気ヘッドを10nm程度浮上させて、データの記録再生を行う。磁気記録媒体上のビット情報は、同心円状に配置されているデータトラックに格納されている。磁気ヘッドは、データの記録・再生時に、そのデータトラック上に位置決めされる。磁気記録媒体上には、位置決めのためのサーボ情報が、データトラックと同心円上で一定の角度間隔で記録されている。このようなサーボ情報を含むプリフォーマット信号は、一般的には磁気ヘッドを用いて記録されるため、近年の記録トラックの増大に伴い、書込み時間が増大し、磁気記録媒体の生産効率を落とすという問題が生じている。そのため、磁気ヘッドによってプリフォーマット信号を書込む代わりに、プリフォーマット信号が記録されたマスターディスクを用いて、磁気転写技術によって磁気転写媒体にプリフォーマット信号を一括で記録する方法が提案されている。たとえば、プリフォーマット信号に対応した強磁性材料のパターンが形成されたマスターディスクを用いて、垂直記録媒体に対してマスターディスクのプリフォーマット信号を転写する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、図21を参照して、マスターディスクから被転写媒体への磁気転写の原理を説明する。転写用のマスターディスク101には強磁性体による凹凸パターン105が設けられており、被転写媒体102と密着している。被転写媒体102の記録面と平行な方向に外部磁界106を印加すると、漏れ磁束107が被転写媒体102側に進入する。そうすることで、被転写媒体102の磁性層108が磁化され(磁化方向を図中矢印109で示す)、マスターディスク101の強磁性体パターン105に沿った磁気信号が被転写媒体102に転写される。このような方式は、Edge転写方式と呼ばれている。マスターディスク101および被転写媒体102の上下に配置された1対の磁石103が同時に回転して、被転写媒体102の全体が一度に転写される。
【0004】
別の磁気転写方式として、Bit転写と呼ばれる方式もある。図22を参照して、Bit転写方式による磁気転写方法を説明する。まず、図22(1)に示すように、1対の磁石103を用いて、被転写媒体102の表面に対して略垂直方向の第1の磁界111を印加し、被転写媒体102を一方向に磁化する。次いで、図22(2)に示すように、転写用のマスターディスク101と被転写媒体102を密着させ、1対の磁石103を用いて第1の磁界111と逆向きの第2の磁界113を印加する。マスターディスク101上に形成された強磁性パターンの凹部では磁束115は少ししか通らず、第1の磁界111で磁化した向きが残る。強磁性パターンの凸部では多量の磁束115が通ることができるので第2の磁界113の向きに磁化される。その結果、マスターディスク101の表面に形成された凹凸に対応した磁化パターンが被転写媒体102に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−083421号公報
【特許文献2】特許第3396476号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような転写磁界は、磁石を回転させて所定のパターンを転写した後、磁石をマスターディスクおよび被転写媒体から離間させる必要がある。磁石を離間させる際にその回転を止めると、磁石の離間位置では磁界が不均一となり、信号の劣化を引き起こしてしまう。このような信号の劣化を防ぐために、磁石の回転を維持したままマスターディスクおよび被転写媒体から離間させることで、離間位置での転写信号の劣化を防ぐ方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0007】
一方、近年の高保磁力の磁気記録媒体における磁気転写を考えた場合、磁気転写に必要な磁界は大きくなる傾向にある。また、特許文献2に開示されたような方法では、磁石が被転写媒体の転写すべき領域の内径から外径までをカバーする長さが必要となり、Bit転写の場合には被転写媒体の上下に配置された磁石間の引力が、Edge転写の場合には磁石間の斥力が大きくなってしまい、転写装置における磁石の保持部分の剛性を強くすることが必要となる。これは、転写装置の大型化につながってしまう。さらに、そのようなサイズの磁石を、全面に亘って均一に作成することは困難である。
【0008】
また、特許文献2に開示されたような磁界印加方法は、転写磁界の印加に1回転、磁石と被転写媒体との離間に1回転の計2回転を少なくとも必要とするため、処理時間の短縮の面においても改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、転写磁界を印加するための1対の磁界発生部(磁石)の面積を減少させることにより磁石間の引力、あるいは斥力を低減し、さらに、処理時間を短縮することができる磁気転写方法および磁気転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明は、プリフォーマット信号に対応した強磁性材料のパターンを有するマスターディスクと磁気記録媒体とを密着させた密着体に磁界を印加して、プリフォーマット信号を磁気記録媒体に転写する磁気転写において、密着体に対して磁界を印加する、密着体の回転中心を中心に均等な角度に配置されたN(Nは2以上の整数)対の磁界発生部であって、磁気記録媒体における転写領域の外周半径をRo、内周半径をRiとすると、磁気記録媒体の径方向に(Ro−Ri)/N以上、かつ(Ro−Ri)より短い長さを有する磁界発生部を、密着体を回転させながら、密着体が360度回転する間に磁気記録媒体の内周側から外周側に(Ro−Ri)以上の長さを移動する速度で、密着体の外周方向に平行に移動させることを特徴とする。
【0011】
すなわち、密着体を回転させながら、複数対の磁界発生部を、密着体における磁気記録媒体の内周側から外周側へ平行移動させ、磁気記録媒体上からみてスパイラルの軌跡を描きながら転写磁界を印加することで、転写磁界の印加および磁界発生部の離間の時間を短縮することができる。また、複数対の磁界発生部を配置することで、密着体を挟んで配置される1対の磁界発生部の面積を小さくすることができる。
【0012】
また、磁界発生部は、密着体に対して垂直方向に磁界を印加してもよいし(Bit転写)、密着体に対して水平方向に磁界を印加してもよい(Edge転写)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る転写装置を模式的に示した図である。
【図2】図1の転写装置において、磁界発生部からマスターディスクと磁気記録媒体との密着体が引き抜かれた状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図9】本発明の実施例1に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図11】本発明の実施例1に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図12】本発明の実施例2に係る転写装置を模式的に示した図である。
【図13】本発明の実施例2に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図14】本発明の実施例2に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図15】本発明の実施例2に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図16】本発明の実施例3に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図17】本発明の実施例3に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図18】本発明の実施例3に係る転写装置における、転写磁界の印加のされ方を示す図である。
【図19】比較例に係る転写装置を模式的に示した図である。
【図20】1対の棒磁石間に働く力を説明する図である。
【図21】Edge転写方式による磁気転写方法を説明する図である。
【図22】Bit転写方式による磁気転写方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。なお、複数の図面において同一の符号は同一物を表し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る転写装置10を模式的に示した図である。図1(1)は転写装置10の上面模式図を示し、図1(2)は転写装置10の断面模式図を示す。
【0016】
本実施形態に係る転写装置10は、支持アーム23に支持された2対の磁界発生部21を有する。マスターディスク11と磁気記録媒体13との密着体15は、回転駆動部25に設置され、磁界発生部21の各対の間で上下に挟まれるように配置される。不図示の駆動機構によって、支持アーム23に支持された2対の磁界発生部21は、マスターディスク11と磁気記録媒体13との密着体15に対して平行方向(図中矢印の方向)に移動することができる。磁界発生部21の径方向の長さは、転写領域の外周19の半径をRo[mm]、内周17の半径をRi[mm]とすると、(Ro−Ri)/2[mm]である。
【0017】
磁界発生部21の外周側の端を、転写領域の内周17に位置するように配置した状態から、密着体15を回転速度A[rpm]で回転させながら、磁界発生部21を密着体15の外周方向へ平行(図中矢印方向)に移動させ、最終的に図2に示すように、磁界発生部21から密着体15が完全に引き抜かれた状態にする。磁界発生部21の平行方向への移動速度をA(Ro−Ri)/60[mm/s]とすると、これは、磁界発生部21の特定の点が1回転以内でRiからRoに移動する速度を表す。
また、磁気転写方式には、磁界発生部21が密着体15に対して垂直方向に磁界を印加するBit転写方式を採用してもよいし、磁界発生部21が密着体15に対して水平方向に磁界を印加するEdge転写方式を採用してもよい。
【0018】
ここで、2対の磁界発生部21による転写磁界の印加のされ方を、図3〜7を参照して説明する。図3〜7では、横軸が、磁気記録媒体における角度位置を示し、縦軸が、磁気記録媒体における半径位置を示す。
【0019】
図3は、転写装置10にマスターディスク11と磁気記録媒体13との密着体15を設置して転写処理を実施する直前の状態を示したもので、2対の磁界発生部21が0度と180度の位置で、転写領域の最内周に位置している状態を表す。この後、回転駆動部25によって密着体15を回転させながら、磁界発生部21を密着体15の外周方向に向けて移動させる。回転させた密着体15上での2対の磁界発生部21の軌跡は、それぞれ図中矢印のようになる。図において、角度位置0〜360度、内周半径Ri〜外周半径Roで囲まれた範囲が、転写磁界を印加する領域である。
【0020】
図4は、密着体15(磁気記録媒体13)が90度回転したときの状態を示したものである。図中網掛けされた部分が、それぞれの磁界発生部21により転写磁界が印加された領域である。図5は、密着体15(磁気記録媒体13)が180度回転したときの状態を示し、図6は、密着体15(磁気記録媒体13)が360度回転したときの状態を示す。最終的に、図7で示す状態で、転写領域すべてに磁界を印加することができ、ここまでに要した密着体15(磁気記録媒体13)の回転角度は、540度である。
【0021】
このように、本実施形態では、磁界発生部21の径方向の長さを(Ro−Ri)/2として密着体15(磁気記録媒体13)を回転させることで、磁気記録媒体13への転写磁界印加と、磁気記録媒体13からの磁界発生部21の離間とを、1回転半の回転で実施することができ、処理時間を短縮することができる。
【0022】
本実施形態では、密着体の回転中心を中心に180度で配置された2対の磁界発生部21を備える転写装置10について説明したが、本発明に係る磁気転写装置は、N(Nは2以上の整数)対の磁界発生部を備えることができる。また、磁界発生部の径方向の長さは、N対の磁界発生部を備えるとすると、(Ro−Ri)/N(Nは2以上の整数)以上、かつ(Ro−Ri)より短ければよく、磁界発生部が密着体の外周方向へ平行に移動する速度は、密着体が360度回転する間に密着体(磁気記録媒体)の内周側から外周側に(Ro−Ri)以上の長さを移動する速度とすることができる。
【0023】
(実施例1)
実施例1に係る転写装置は、図1に示した転写装置10と同様に2対の磁界発生部21を備え、磁界発生部21の径方向の長さを2(Ro−Ri)/3とした。特に、本実施例では、転写領域の外周半径Roを30mm、内周半径Riを15mmとして、磁界発生部21の径方向の長さを2(30−15)/3=10mmとした。この長さは、後述する比較例に比べて短い。また、密着体15を挟むように上下に配置された磁界発生部21の間の距離Lは3.5mmとし、磁界発生部21の幅は6mmとした。
【0024】
上述したように、密着体15を転写装置10に設置して、磁界発生部21の外周側の端を転写領域の内周17に位置するように配置した状態から、密着体15を回転速度15rpmで回転させながら、磁界発生部21を密着体15の外周側へ平行方向(図中矢印方向)に移動させ、最終的に図2に示すように、磁界発生部21から密着体15が完全に引き抜かれた状態にした。磁界発生部21の移動速度は、270度の回転で磁界発生部21がRiからRoに移動できる速度とし、15/(4×3/4)=5mm/sとした。
【0025】
ここで、本実施例における2対の磁界発生部21による転写磁界の印加のされ方を、図8〜11を参照して説明する。図8〜11では、横軸が、転写される磁気記録媒体における角度位置を示し、縦軸が、磁気記録媒体における半径位置を示す。図8は、転写実施直前の状態を示したもので、2対の磁界発生部21がそれぞれ、0度と180度の位置で、最内周に位置している状態を表す。この後、回転駆動部25によって密着体15を回転させながら、磁界発生部21を外周方向に向けて移動させた。回転させた密着体15上での磁界発生部21の軌跡は、それぞれ図中矢印のようになる。図において、角度位置0〜360度、内周半径Ri〜外周半径Roで囲まれた範囲が、転写磁界を印加する領域である。
【0026】
図9は、密着体15(磁気記録媒体13)が180度回転したときの状態を示したものであり、図10は、360度回転したときの状態を示す。最終的に、図11で示す状態で転写領域すべてに磁界を印加することができ、ここまでに要した密着体15(磁気記録媒体13)の回転角度は、450度であった。結果として、密着体15(磁気記録媒体13)への転写磁界の印加と、密着体15(磁気記録媒体13)からの磁界発生部21の離間にかかった時間は5秒となり、後述の比較例に対して処理時間を短くすることができた。
【0027】
(実施例2)
図12に、実施例2に係る転写装置20の上面模式図を示す。転写装置20は、4対の磁界発生部21を備え、上述した実施形態と同様に、それぞれ密着体15に対して平行に移動させることができる。また、磁界発生部21の径方向の長さは、(Ro−Ri)/4とした。特に、本実施例では外周半径Roを30mm、内周半径Riを15mmとして、磁界発生部21の径方向の長さを(30−15)/4=3.75mmとした。この長さは、後述する比較例に比べて短い。また、実施例1と同様に、磁界発生部の間の距離Lを3.5mmとし、磁界発生部21の幅は6mmとした。
【0028】
上述したように、密着体15を転写装置20に設置して、4対の磁界発生部21の外周側の端を転写領域の内周17に位置するように配置した状態から、密着体15を回転速度15rpmで回転させながら、磁界発生部21を密着体15の外周側へ移動させ、最終的に磁界発生部21から密着体15が完全に引き抜かれた状態にした。磁界発生部21の移動速度は、360度の回転で磁界発生部がRiからRoに移動できる速度とし、15(30−15)/60=3.75mm/sとした。
【0029】
ここで、本実施例における4対の磁界発生部21による転写磁界の印加のされ方を、図13〜15を参照して説明する。図13は、転写実施直前の状態を示したもので、4対の磁界発生部21がそれぞれ、0度、90度、180度、270度の位置で、最内周に位置している状態を表す。この後、密着体15を回転させながら磁界発生部21を外周方向に向けて移動させた。回転させた密着体15上での磁界発生部21の軌跡は、それぞれ図中矢印のようになる。図において、角度位置0〜360度、内周半径Ri〜外周半径Roで囲まれた範囲が、転写磁界を印加する領域である。
【0030】
図14は、密着体15(磁気記録媒体13)が180度回転したときの状態を示したものであり、最終的に、図15で示す状態で転写領域すべてに磁界を印加することができ、ここまでに要した密着体15(磁気記録媒体13)の回転角度は、450度であった。結果として、密着体15(磁気記録媒体13)への転写磁界の印加と、密着体15(磁気記録媒体13)からの磁界発生部21の離間にかかった時間は5秒となり、後述の比較例に対して処理時間を短くすることができた。
【0031】
(実施例3)
実施例3に係る転写装置は、図12に示した実施例2に係る転写装置20と同様に、4対の磁界発生部21を備え、磁界発生部21の径方向の長さを(Ro−Ri)/2とした。特に、本実施例では、転写領域の外周半径Roを30mm、内周半径Riを15mmとして、磁界発生部21の径方向の長さを(30−15)/2=7.5mmとした。この長さは、後述する比較例に比べて短い。また、上述した実施例と同様に、磁界発生部21の間の距離Lは3.5mmとし、磁界発生部21の幅は6mmとした。
【0032】
上述したように、密着体15を転写装置20に配置した状態から、密着体15を回転速度15rpmで回転させながら、磁界発生部21を外周側へ移動させ、最終的に磁界発生部21から密着体15が完全に引き抜かれた状態にした。磁界発生部21の移動速度は、180度の回転で磁界発生部21がRiからRoに移動できる速度とし、15/2=7.5mm/sとした。
【0033】
ここで、本実施例における4対の磁界発生部21による転写磁界の印加のされ方を、図16〜18を参照して説明する。図16は、転写実施直前の状態を示したもので、4対の磁界発生部21がそれぞれ、0度、90度、180度、270度の位置で、最内周に位置している状態を表す。この後、密着体15を回転させながら磁界発生部21を外周方向に向けて移動させた。磁界発生部21の軌跡は、それぞれ図中矢印のようになる。図において、角度位置0〜360度、内周半径Ri〜外周半径Roで囲まれた範囲が、転写磁界を印加する領域である。
【0034】
図17は、密着体15(磁気記録媒体13)が180度回転したときの状態を示したものであり、最終的に、図18で示す状態で転写領域すべてに磁界を印加することができ、ここまでに要した密着体15(磁気記録媒体13)の回転角度は、270度であった。結果として、密着体15(磁気記録媒体13)への転写磁界の印加と、密着体15(磁気記録媒体13)からの磁界発生部21の離間にかかった時間は3秒となり、後述の比較例に対して処理時間を短くすることができた。
【0035】
(比較例)
図19に、比較例として転写装置30を示す。図19(1)は、転写装置30の上面模式図であり、図19(2)は、転写装置30の断面模式図である。転写装置30は、支持アーム23に支持された1対の磁界発生部21を備える。また、磁界発生部21は、不図示の駆動機構によって、マスターディスクと磁気記録媒体との密着体15に対して垂直方向に移動させることができる。また、磁界発生部21の回転中心は、密着体15の中心と同じである。磁界発生部21の径方向の長さは、(Ro−Ri)であり、特に、本比較例では、外周半径Roを30mm、内周半径Riを15mmとして、磁界発生部21の径方向の長さを15mmとした。また、上下に配置された磁界発生部21の間の距離Lは3.5mmとし、磁界発生部21の幅を6mmとした。また、密着体15と磁界発生部21の近接位置との距離は0.5mmとし、磁界発生部21の近接位置と離間位置との距離は30mmとした。
【0036】
次いで、転写装置30による磁気記録媒体への磁気転写方法を説明する。
【0037】
まず、磁界発生部21を、近接位置まで移動させた。次いで、磁界発生部21を、密着体15に対して平行方向に、360度回転させた。ここでは、磁界発生部21の回転速度は15rpmとした。その後、回転を維持したまま、磁界発生部21を垂直方向に離間位置まで移動させた。離間する際の垂直方向の移動速度は、5mm/sとした。離間動作を開始してから磁界発生部21をさらに360度回転させたところで、磁界発生部21の垂直方向の移動と回転を停止し、磁界印加および離間を完了した。
【0038】
比較例による磁気転写工程の処理時間は、転写時間が4秒、離間時間が4秒であり、合計で8秒であった。すなわち、比較例による磁気転写工程の処理時間は、上述した実施例に比べて長くなる結果となった。
【0039】
次に、1対の磁界発生部において上下の磁界発生部の間に働く力を見積もるため、図20のように、磁極の強さがそれぞれ±m1[Wb]、±m2[Wb]で、長さlの棒磁石27を間隔gで並べた場合に、棒磁石27間に働く力を測定した。
【0040】
真空・空気中で、距離r[m]離れた磁極±m1、±m2の間に働く力F[N]は、以下の式1で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
よって、図20に示された状態では、それぞれの磁極間に働く力を足し合わせることで、全体に働く力F0を見積もることができる。
(−m1と−m2の間に働く力F1
【0043】
【数2】

【0044】
(−m1と+m2間の間に働く力F2
【0045】
【数3】

【0046】
(+m1と−m2間の間に働く力F3
【0047】
【数4】

【0048】
(+m1と+m2間の間に働く力F4
【0049】
【数5】

【0050】
(全体に働く力F0
【0051】
【数6】

【0052】
さて、実施例1〜3と比較例では、磁界発生部にネオジム磁石を使用しており、表面磁束密度は1[T]である。また、棒磁石27の間隔gは3.5mmである。
【0053】
磁極の強さ[Wb]は、表面磁束密度[T]×面積[m2]で見積もることができる。以上より計算した磁界発生部にかかる力を以下の表1に示す。負の数値は引力であることを表す。なお、u0=4π×10-7である。
【0054】
【表1】

【0055】
以上より、上下の磁界発生部間に働く力に関して、実施例1〜3は比較例に比べて小さくなることがわかる。すなわち、表1より、磁界発生部にかかる力F0は、実施例1では比較例に対して約2分の1、実施例3では比較例に対して約4分の1、実施例2では比較例に対して約20分の1とすることができる。したがってその分、磁界発生部の機械剛性を下げることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0056】
以上説明したように、本発明によると、転写磁界を印加するための1対の磁界発生部(磁石)の面積を減少させることにより磁界発生部間の引力、あるいは斥力を低減し、装置の小型化を図ることができる。また、本発明によると、磁界発生部による磁界の印加工程と、密着体(磁気記録媒体)からの磁界発生部の離間工程とを同時に実施することができ、当該離間工程を別途設ける必要が無く、処理時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0057】
10、20、30 転写装置
11 マスターディスク
13 磁気記録媒体
15 密着体
17 転写領域内周
19 転写領域外周
21 磁界発生部
23 支持アーム
25 回転駆動部
27 棒磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリフォーマット信号に対応した強磁性材料のパターンを有するマスターディスクと磁気記録媒体とを密着させた密着体に磁界を印加して、前記プリフォーマット信号を前記磁気記録媒体に転写する磁気転写方法において、
前記密着体に対して磁界を印加する、前記密着体の回転中心を中心に均等な角度に配置されたN(Nは2以上の整数)対の磁界発生部であって、前記磁気記録媒体における転写領域の外周半径をRo、内周半径をRiとすると、前記磁気記録媒体の径方向に(Ro−Ri)/N以上、かつ(Ro−Ri)より短い長さを有する磁界発生部を、前記密着体を回転させながら、前記密着体が360度回転する間に前記磁気記録媒体の内周側から外周側に(Ro−Ri)以上の長さを移動する速度で、前記密着体の外周方向に平行に移動させることを特徴とする磁気転写方法。
【請求項2】
前記磁界発生部が、前記密着体に対して垂直方向に磁界を印加することを特徴とする請求項1に記載の磁気転写方法。
【請求項3】
前記磁界発生部が、前記密着体に対して水平方向に磁界を印加することを特徴とする請求項1に記載の磁気転写方法。
【請求項4】
プリフォーマット信号に対応した強磁性材料のパターンを有するマスターディスクと磁気記録媒体とを密着させた密着体に磁界を印加して、前記プリフォーマット信号を前記磁気記録媒体に転写する磁気転写装置であって、
前記密着体を回転させる回転駆動部と、
前記密着体に対して磁界を印加する、前記密着体の回転中心を中心に均等な角度に配置されたN(Nは2以上の整数)対の磁界発生部であって、前記磁気記録媒体における転写領域の外周半径をRo、内周半径をRiとすると、前記磁気記録媒体の径方向に(Ro−Ri)/N以上、かつ(Ro−Ri)より短い長さを有し、前記密着体が360度回転する間に前記磁気記録媒体の内周側から外周側に(Ro−Ri)以上の長さを移動する速度で、前記密着体の外周方向に平行に移動する磁界発生部と
を備えたことを特徴とする磁気転写装置。
【請求項5】
前記磁界発生部が、前記密着体に対して垂直方向に磁界を印加することを特徴とする請求項4に記載の磁気転写装置。
【請求項6】
前記磁界発生部が、前記密着体に対して水平方向に磁界を印加することを特徴とする請求項4に記載の磁気転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−210328(P2011−210328A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78637(P2010−78637)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)