説明

磁気転写用マスターディスクの製造方法

【課題】パターン形状の変化を起こすことがなく、かつ研磨工程を必要とするバリが発生しない、磁気転写用マスターディスクの製造方法の提供。
【解決手段】(a)非磁性体を準備する工程と、(b)非磁性体の表面にパターン状の凹部を形成する工程と、(c)前記凹部を形成した非磁性体の表面上に強磁性材料を堆積させ、強磁性体層を形成する工程と、(d)何らのマスクを使用することなしに強磁性体層の余剰分を除去して、前記凹部内にパターン状の強磁性体層を形成する工程とを含み、工程(d)における強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性体のエッチングレートを大きくすることを特徴とする磁気転写用マスターディスクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写用マスターディスクの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、パターン形状の変化を起こすことがなく、かつ研磨工程を必要とするバリが発生しない、磁気転写用マスターディスクの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般的なHDD装置は、磁気記録媒体上の10nm程度の高さに浮上させた磁気ヘッドを用いて、データの記録再生を行うものである。磁気記録媒体上のビット情報は、同心円状に配置されているデータトラックに格納されている。データの記録・再生時は、磁気ヘッドは、そのデータトラック上に位置決めされる。磁気記録媒体上には、位置決めのためのサーボデータが格納されている。サーボデータは、データトラックと同心円上で一定の角度間隔で記録されている。このサーボデータは、一般的には、磁気ヘッドを用いて記録されてきた。しかしながら、近年の記録トラックの増大に伴い、磁気ヘッドによるサーボデータの書込み時間が増大し、HDDの生産効率を低下させるという問題が生じていた。
【0003】
上記問題を鑑み、磁気ヘッドによるサーボデータの記録の代わりに、サーボデータを担持するマスターディスクから、磁気記録媒体(被転写媒体)にサーボデータを一括で記録する磁気転写方法が提案されている。たとえば、サーボデータに対応するパターン(サーボパターン)状に配置された強磁性材料を含むマスターディスクを用い、垂直記録媒体に対してマスターディスクのサーボデータを転写する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
垂直磁気記録媒体に適用される磁気転写方法の1つとして、図1(a)〜(c)に示すようなEdge転写方式がある。図1(b)に示すように転写用マスターディスク101には凹凸の強磁性体パターン105が設けられている。図1(a)に示すように、転写用マスターディスク101の強磁性体パターン105を被転写媒体102を密着させて、磁石103によって、被転写媒体102の記録面と平行な方向に外部磁界106を印加する。この際に、図1(b)に示すように、強磁性体パターン105の強磁性体の端部からの漏れ磁束107が被転写媒体102に侵入する。図1(c)に示すように、漏れ磁束107によって、被転写媒体102中の磁性層108が垂直方向に磁化され、強磁性体パターン105に沿った垂直方向の磁気信号(サーボデータ)109が磁性層108に記録される。図1(a)においては、2つの磁石103が転写用マスターディスク101および被転写媒体102の上下に配置され、それら磁石103が同時に回転して被転写媒体102の全体に磁気信号(サーボデータ)109が一括して転写される。
【0005】
垂直磁気記録媒体に適用される磁気転写方法の別法として、図2(a)〜(e)に示すようなBit転写方式がある。最初に、図2(a)に示すように、磁石103Aを用いて、被転写媒体102のみに略垂直方向の第1の磁界を印加する。その結果、図2(b)に示すように、被転写媒体102の磁性層108が一方向に磁化され、同一の方向を向いた磁気信号109が記録される。次いで、図2(c)に示すように、転写用マスターディスク101と被転写媒体102とを密着させて配置し、磁石103Bを用いて第1の磁界とは逆方向の略垂直方向の第2の磁界を印加する。図2(d)に示すように、第2の磁界の磁束110は、転写用マスターディスク101の強磁性体パターン105の存在する部分に集中し、強磁性体パターン105の存在しない部分の磁束密度は低下する。その結果、図2(e)に示すように、強磁性パターン105の存在する部分において磁性層108の記録信号(磁化)109は第2の磁界の方向に反転し、強磁性パターン105の存在しない部分において磁性層108の記録信号(磁化)109は第1の磁界の方向のまま維持される。このようにして、被転写媒体102の磁性層108に対して、転写用マスターディスク101の強磁性パターン105に対応した磁化パターンが転写される。
【0006】
上記のような磁気転写方法に用いられる転写用マスターディスクの製造方法の1つとして、電鋳を用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法においては、最初に支持体にフォトレジストを塗布し、支持体を回転させながら電子ビームを照射して、転写する情報に対応したパターンをフォトレジストに描画し、現像を行ってフォトレジストによる凹凸パターンが形成された原盤を得る。次に、前記原盤の凹凸パターンに対してNi電鋳を行い、原盤を剥離して、凹凸パターンが転写されたNi製の金属盤を作成する。最後に、金属盤の凹凸パターン上に軟磁性膜を形成して、転写用マスターディスクを得る。
【0007】
また、転写用マスターディスクの製造方法の1つとして、リフトオフ法を用いる方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法においては、最初に支持体にフォトレジストを塗布し、フォトレジストに対して電子ビームなどによる露光および現像を伴う描画を行い、開口部パターンを有するレジスト膜を形成する。次いで、レジスト膜をマスクとするドライエッチングなどによって、支持体に、転写する情報に対応した凹部を形成する。続いて、スパッタリング法などを用いて、支持体の凹部およびレジスト膜の上に強磁性薄膜を積層する。続いて、リフトオフ法によって、レジスト膜およびレジスト膜上に形成された強磁性薄膜を除去して、支持体の凹部に強磁性薄膜が埋め込まれた構造を有する転写用マスターディスクを得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−083421号公報
【特許文献2】特開2001−256644号公報
【特許文献3】特開2001−034938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の電鋳法を用いる転写用マスターディスクの製造方法においては、図3に示すように、原盤の凹凸パターンを転写した金属盤220の凹凸パターンの側面にも軟磁性膜230が形成される。その結果として、軟磁性層230の凸部の幅Wfは、金属盤220の凸部の幅Wpよりも広くなる。言い換えると、電鋳法を用いる製造方法においては、得られる転写用マスターディスクのパターン形状(凹部および凸部の幅の比など)が変化してしまう問題点がある。また、特に高精細なパターンを形成する場合に、凸部側面に形成される軟磁性膜によって、凹部が完全に充填されてしまう問題点が発生する。
【0010】
一方、前述のリフトオフ法を用いる転写用マスターディスクの製造方法においては、リフトオフ工程後の強磁性薄膜のパターンエッジにバリが形成される恐れがある。バリが形成された場合、磁気転写工程において、バリがマスターディスクと被転写媒体との密着を阻害してしまう。この問題点を解消するために、バリを除去するための研磨工程を行う必要がある。しかしながら、研磨工程は、表面の清浄度が必要である磁気転写用マスターディスクの製造方法において望ましくない工程である。なぜなら、研磨工程においては研磨屑が発生し、表面の清浄度を低下させるからである。
【0011】
したがって、本発明は、パターン形状の変化を起こすことがなく、かつ研磨工程を必要とするバリが発生しない、磁気転写用マスターディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法は、
(a) 非磁性体を準備する工程と、
(b) 非磁性体の表面にパターン状の凹部を形成する工程と、
(c) 前記凹部を形成した非磁性体の表面上に強磁性材料を堆積させ、強磁性体層を形成する工程と、
(d) 何らのマスクを使用することなしに強磁性体層の余剰分を除去して、前記凹部内にパターン状の強磁性体層を形成する工程と
を含み、工程(d)における強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性体のエッチングレートを大きくすることを特徴とする。ここで、工程(d)を、マスクの使用を伴わないドライエッチング法を用いて実施してもよい。好ましくは、工程(d)において、形成される強磁性体層の上表面と非磁性体の上表面との段差を、非磁性体の表面粗さRpよりも大きくする。より詳細には、工程(d)において、形成される強磁性体層の上表面と非磁性体の上表面との段差を4nm以上とすることが望ましい。
【0013】
上記の方法において、支持体と非磁性層とを含む非磁性体を用い、工程(b)において非磁性層の表面にパターン状の凹部が形成されるようにしてもよい。この際には、工程(d)において、強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性層のエッチングレートを大きくすることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法は、(i)電鋳法を用いた場合に問題となるパターン形状の変化を起こすことがないこと、および(ii)リフトオフ法を用いた場合に問題となるバリの発生がなく、したがって研磨工程を必要としないことという利点を有し、高記録密度の磁気情報を転写することができる磁気転写用マスターディスクを効率的に製造することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術である磁気転写方法(Edge転写)を説明する図であり、(a)〜(c)は各工程を示す図である。
【図2】従来技術である磁気転写方法(Bit転写)を説明する図であり、(a)〜(e)は各工程を示す図である。
【図3】従来技術の電鋳法を用いた方法により製造される磁気転写用マスターディスクの断面図である。
【図4】本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法を説明する図であり、(a)〜(d)は各工程を説明する図である。
【図5】磁気転写用マスターディスクの断面を示す図であり、(a)は理想的なエッチングがなされた状態を示す図であり、(b)はエッチング不足の状態を示す図であり、(c)はエッチング過多であり、かつ強磁性体層のエッチングレートが非磁性体のエッチングレートよりも大きい状態を示す図であり、(d)はエッチング過多であり、かつ強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性体のエッチングレートが大きい状態を示す図である。
【図6】本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法によって得られる非磁性体の表面粗さRpを説明するグラフである。
【図7】本発明の製造方法で得られた磁気転写用マスターディスクを用いる磁気転写工程を説明する図であり、(a)は強磁性体層と非磁性体との段差が非磁性体の表面粗さRpよりも大きい場合を示す図であり、(b)は強磁性体層と非磁性体との段差が非磁性体の表面粗さRpよりも小さい場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図4を参照しながら、本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法を説明する。最初に、図4(a)に示すように非磁性体10を準備する。非磁性体10は、単一の材料から形成されていてもよいし、図4(a)に示すように支持体12と非磁性層14との積層構造を有してもよい。各層の機能分離を行う観点から、支持体12および非磁性層14の積層構造を有することが望ましい。この場合、支持体12が剛性、寸法安定性などの機械的特性を提供し、非磁性層14が後述する強磁性体層20のエッチングの際のエッチング特性を提供する。
【0017】
支持体12は、十分な剛性および高い寸法安定性を有する任意の材料を用いて形成することができる。また、支持体12は非磁性であることが望ましい。支持体12の形成に用いることができる材料は、ガラス、アルミニウム、Si、ポリカーボネートなどを含む。
【0018】
非磁性層14は、SOG、カーボンなどの非磁性材料を用いて形成することができる。非磁性層14の形成に用いられる材料は、後述する強磁性体層20の形成に用いられる材料、ならびに強磁性体層20のエッチング条件に依存して決定される。非磁性体10を単一の材料から形成する場合、上記の支持体にパターンを形成する。あるいはまた、図4(a)に示すように支持体12と非磁性層14との積層構造を有する非磁性体10を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法、塗布法などの手段を用いて上記の非磁性材料を支持体12の上に堆積させることによって、非磁性層14を形成する。非磁性層14の上表面は平滑であることが望ましい。
【0019】
次に、図4(b)に示すように、非磁性体10の上表面に凹部16をパターン状に形成する。図4(b)においては、支持体12と非磁性層14との積層構造において、非磁性層14を貫通しない凹部16を設けた例を示した。凹部16は、非磁性層14を貫通しても、貫通しなくてもよい。しかしながら、凹部16が非磁性体10そのものを貫通しないことが望ましい。凹部16は、以下の例示の方法を含む任意の方法で形成することができる。
【0020】
凹部16を形成する第1の方法は、感光性レジスト材料を用いるフォトリソグラフィ法である。最初に、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の表面に感光性レジスト材料を塗布して、レジスト膜を形成する。本法で用いることができる感光性レジスト材料は、慣用の感光性樹脂材料を含む。次いで、レジスト膜をプリフォーマット信号(転写する情報)に対応させてパターニングする。レジスト膜のパターニングは、たとえば、慣用の電子ビームによる露光およびそれに引き続く現像によって実施することができる。そして得られたパターン状のレジスト膜をマスクとするドライエッチングによって、非磁性体10(非磁性層14)をエッチングして、凹部16を形成することができる。使用する非磁性体10(非磁性層14)の種類に依存して、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンビームエッチングなどのドライエッチング法、ならびにそれらに用いるプラズマ生成ガス種およびイオン種を選択することができる。
【0021】
凹部16を形成する第2の方法は、非磁性体10に対する直接的なナノインプリントリソグラフィ法である。この方法は、塑性変形が容易な非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)を用いる場合に、特に有効である。この方法においては、プリフォーマット信号(転写する情報)に対応した凹凸パターンを有する原盤を、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)に押圧して非磁性体10(非磁性層14)を変形させ、次いで原盤を除去することによって、原盤の凸部に相当する位置に形成される凹部16を形成することができる。
【0022】
凹部16を形成する第3の方法は、レジストを併用するナノインプリントリソグラフィ法である。この方法は、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の塑性変形が容易ではなく、非磁性体10(非磁性層14)にナノインプリントリソグラフィ法を直接適用できない場合に有効である。最初に、非磁性体10の表面(積層構造を用いる場合は非磁性層14の表面)にレジスト材料を塗布して、レジスト膜を形成する。本方法においては、慣用の感光性樹脂材料に加えて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のような熱可塑性樹脂、あるいはSOGなどの材料をレジスト材料として用いることができる。次いで、プリフォーマット信号(転写する情報)に対応した凹凸パターンを有する原盤をレジスト膜に押圧して、レジスト膜に反転した凹凸パターンを転写する。この際に、レジスト膜に形成された凹部の底面にレジスト材料が残存していてもよい。レジスト膜の凹部の底面にレジスト材料が残存している場合は、残存するレジスト材料を除去して、非磁性体10の表面を露出させる。この際に、引き続く非磁性体10のパターニングのためのマスクとして用いるのに十分な膜厚が最終的に得られることを条件として、レジスト膜の凸部の除去も併せて行われる条件で残存するレジスト材料の除去を実施してもよい。残存レジスト材料の除去は、たとえば、レジスト材料がSOGであれば、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチング法を用いて実施することができる。また、レジスト材料が感光性樹脂材料または熱可塑性樹脂材料のような樹脂材料であれば、レジスト材料の除去は、O2ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチング法を用いて実施することができる。
【0023】
次に、レジスト膜の凹凸パターンをマスクとして、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)のパターニングを行う。非磁性体10(非磁性層14)のパターニングは、使用する材料に依存する。たとえば、非磁性体がカーボンまたは樹脂材料であれが、O2ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチング法などを用いてパターニングを行うことができる。あるいはまた、非磁性体がSiであれば、CF4ガスまたはSF6ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチング法を用いてパターニングを行うことができる。
【0024】
最後に、マスクとして用いたレジスト膜の除去を行う。レジスト膜の除去は、前述のようにレジスト材料がSOGであれば、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)などを用いて実施することができる。あるいはまた、レジスト材が樹脂材料であれば、O2ガスを用いた反応性イオンエッチングなどのドライエッチング法を用いて、レジスト膜の除去を行うことができる。
【0025】
続いて、図4(c)に示すように、非磁性体10の凹部16を形成した表面の上に強磁性材料を堆積させて、強磁性体層20を形成する。本発明において用いることができる強磁性材料は、Fe、FeCo合金、NiFe合金などを含む。本発明に用いる強磁性体は、非磁性体10の透磁率の100倍以上の透磁率を有することが望ましい。強磁性材料の堆積は、スパッタ法、蒸着法、メッキ法などの方法を用いることができる。本工程において、強磁性体層20の上表面を略平坦にすることが必要である。なぜなら、最終的に得られる強磁性体層20の上表面の平坦性が、本工程に影響を受けるからである。メッキ法を用いて強磁性材料を堆積する場合、強磁性体層20の膜厚を、非磁性体10の凹部の幅の約2倍以上とすることが必要である。メッキ法の場合には、凹部の底面および側面の両方から強磁性体材料の堆積が起こるため、凹部の充填が速やかに行われるためである。なお、本発明における「強磁性体層20の膜厚」は、非磁性体10(非磁性層14)の凸部における膜厚を意味する。一方、スパッタ法を用いる場合には、強磁性体層20の膜厚を、非磁性体10の凹部の幅の約4倍以上とすることが必要である。これは、スパッタ法においては、凹部の底面、凸部の上表面、および凹部の側面における成膜速度を等しくするのが困難であるためである。また、蒸着法を用いる場合には、強磁性体層20の膜厚を、非磁性体10の凹部の幅の約6倍以上とすることが必要である。蒸着法においては、スパッタ法と比較しても凹部の側面における成膜速度が低くなるためである。
【0026】
最後に、図4(d)に示すように、何らのマスクを用いることなしに、強磁性体層20の余剰部分の除去を行い、凹部16内にパターン状の強磁性体層20を形成する。本工程は、マスクの使用を伴わないドライエッチング法を用いる強磁性体層20のエッチングにより実施することができる。図5(a)〜(d)に、本工程終了時の断面形状の例を示す。理想的には、図5(a)に示すように、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の表面でエッチングを停止し、非磁性体10(非磁性層14)の表面と強磁性体層20の表面とを一致させることである。しかしながら、実際上は、強磁性体層20の膜厚の誤差、エッチングレートの誤差などの要因によって、図5(a)の状態を実現することは困難であり、エッチング過多またはエッチング不足の状態になることが多い。エッチング不足の場合には、図5(b)に示すように、非磁性体10(非磁性層14)の凹部内のみならず、非磁性体10(非磁性層14)の凸部表面上にも薄い強磁性体層20が存在する転写用マスターディスクが得られる。図5(b)のような転写用マスターディスクを用いて磁気転写を行った場合、非磁性体10(非磁性層14)の凸部表面上に存在する強磁性体層20によって、効率的な磁界印加を行うことができず、また、凸部表面に残存する強磁性体層の膜厚を非破壊で把握することが困難であるため、安定したマスターディスク作製工程を構築することが難しい。したがって、実際上は、ややエッチング過多となるようにエッチング条件(オーバーエッチング条件)を設定し、強磁性体層20および非磁性体10(非磁性層14)のエッチングを行うことによって本工程を実施する。
【0027】
一方、エッチング過多であり、かつ非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の非磁性材料のエッチングレートよりも強磁性体層20の強磁性材料のエッチングレートが大きい場合には、図5(c)に示すように、非磁性体10(非磁性層14)の凹部に残存する強磁性体層20の上表面が、非磁性体(非磁性層14)の上表面よりも低くなった転写用マスターディスクが得られる。図5(c)のような転写用マスターディスクを用いて磁気転写を行った場合、強磁性体層20の上表面と非磁性体(非磁性層14)の上表面との段差により、強磁性体層20と被転写媒体とが密着しない。このことによって、いわゆる「スペーシングロス」が発生してしまい、効率的な磁界印加を行うことができない。
【0028】
以上のような問題を回避するため、本発明においては、強磁性体層20の強磁性材料のエッチングレートよりも非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の非磁性材料のエッチングレートが大きくなるように、強磁性材料、非磁性材料、ならびにエッチング方法を選択する。上記の設定によって、図5(d)に示すような、非磁性体10(非磁性層14)の凹部に残存する強磁性体層20の上表面が、非磁性体(非磁性層14)の上表面よりも高くなった転写用マスターディスクを得ることができる。
【0029】
図5(d)に示す断面形状を有する転写用マスターディスクにおいて考慮すべき事項として、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)の表面粗さである。本発明において、非磁性体10(非磁性層14)の表面粗さは、最大山高さRpにて評価される。最大山高さRpは、特定の基準長さにおける粗さ曲線を測定し、図6に示すように粗さ曲線の平均線から最も突出したピークの高さとして測定される。本発明においては、転写用マスターディスクの非磁性体10(非磁性層14)の表面から無作為に選択された9箇所において1000nmの基準長さにてRpを測定し、それら9箇所のRpの平均値Avおよび標準偏差σを算出し、Av+3σを非磁性体10(非磁性層14)全体のRpとする。
【0030】
もし、非磁性体10(積層構造を用いる場合は非磁性層14)のRpが強磁性体層20の上表面と非磁性体10(非磁性層14)の上表面との段差よりも小さい場合には、図7(a)に示すように強磁性体層20と被転写基板50(具体的には磁性層60)とを密着させることができ、良好な磁気転写を行うことができる。しかしながら、非磁性体10(非磁性層14)のRpが強磁性体層20の上表面と非磁性体10(非磁性層14)の上表面との段差よりも大きい場合には、図7(b)に示すように非磁性体10(非磁性層14)のRpによって強磁性体層と被転写基板50とが密着せず、距離Spだけ離間する。そして、この距離Spによって、図5(c)に関連して説明したようにスペーシングロスが発生し、効率的な磁気転写を行うことができない。したがって、本発明においては、非磁性体10(非磁性層14)のRpを、強磁性体層20の上表面と非磁性体10(非磁性層14)の上表面との段差よりも小さくする必要がある。一般的なドライエッチング条件においては、強磁性体層20の上表面と非磁性体10(非磁性層14)の上表面との段差を4nm以上とすることによって、上記のRpと段差との要件を満たすことが可能となる。
【0031】
本工程において用いることができるドライエッチング法は、イオンビームエッチング法である。イオンビームエッチング法に用いることができるイオンは、アルゴンなどの不活性ガスである。
【0032】
本発明において好ましい(非磁性材料、強磁性材料、ドライエッチング法)の組み合わせは、以下のものを含む:
(SOG、FeCo、アルゴンガスを用いるイオンビームエッチング法);
(カーボン、FeCo、アルゴンガスを用いるイオンビームエッチング法);
(Si、FeCo、アルゴンガスを用いるイオンビームエッチング法)。
【0033】
以上に説明した本発明の方法は、(i)電鋳法を用いた場合に問題となるパターン形状の変化を起こすことがないこと、および(ii)リフトオフ法を用いた場合に問題となるバリの発生がなく、したがって研磨工程を必要としないことという利点を有し、高記録密度の磁気情報を転写することができる転写用マスターディスクを効率的に製造することを可能とする。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
本実施例は、非磁性体10が支持体12と非磁性層14との積層構造を有し、非磁性層14における凹凸形成を直接的なナノインプリントリソグラフィ法にて実施する例である。
【0035】
最初に、支持体12であるSi基板に、スピンコート法でSOG(Spin On Glass)を塗布し、膜厚70nmの非磁性層14を形成した。
【0036】
続いて、非磁性層14の表面に、転写する情報に応じた凹凸パターンが形成されたNiスタンパを押圧してインプリントを行い、Niスタンパを除去して、非磁性層14の表面に凹凸パターンを形成した。非磁性層14の上に形成された凹部16は、50nmの深さおよび70nmの幅(パターン幅)を有した。凹凸パターンの形成後に、支持体12および非磁性層14からなる非磁性体10を60分間にわたって200℃に加熱し、非磁性層14を形成するSOGを固化させた。
【0037】
続いて、スパッタ法を用いて、非磁性層14の表面上にFeCo(Co含有量30原子(at)%)を堆積させ、膜厚300nmの強磁性体層20を形成した。
【0038】
続いて、アルゴンイオンを用いるイオンビームエッチングにより強磁性体層20をエッチングした。この条件において、非磁性層14を構成するSOGのエッチングレートは1.5nm/sであり、強磁性体層20を構成するFeCoのエッチングレートは0.5nm/sであった。エッチングの加工時間を、非磁性層14の上に形成された強磁性体層20を除去するための600sと、オーバーエッチング分の10sとを加えた610sとした。最終的に、支持体12と、膜厚35nmの非磁性層14と、非磁性層14の凹部16に形成され、45nmの膜厚を有する強磁性体層20とを含む転写用マスターディスクが得られた。非磁性体10(非磁性層14)の上表面と、強磁性体層20の上表面との段差は10nmであった。
【0039】
(実施例2)
本実施例は、非磁性体10が支持体12と非磁性層14との積層構造を有し、非磁性層14における凹凸形成をレジストを用いる間接的なナノインプリントリソグラフィ法にて実施する例である。
【0040】
最初に、支持体12であるSi基板に、スパッタ法でカーボンを堆積させ、膜厚70nmの非磁性層14を形成した。
【0041】
次に、非磁性層14の上表面に、スピンコート法でSOG(Spin On Glass)を塗布し、膜厚70nmのレジスト層を形成した。
【0042】
続いて、レジスト層の表面に、転写する情報に応じた凹凸パターンが形成されたNiスタンパを押圧してインプリントを行い、Niスタンパを除去して、レジスト層の表面に凹凸パターンを形成した。次いで、レジスト層の凹部の底面に残存するSOGを、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法によって除去して、複数の貫通孔を有するパターン状のレジスト層を得た。
【0043】
続いて、パターン状のレジスト層をマスクとして、O2ガスを用いる反応性イオンエッチング(RIE)法によって、カーボンからなる非磁性層14のエッチングを行った。非磁性層14のエッチング深さを70nmとし、非磁性層14を貫通させた。次いで、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法を再び実施して、マスクとして用いたパターン状のレジスト層(SOG)を除去した。
【0044】
以上の工程によって、支持体12と非磁性層14との積層構造からなり、非磁性層14を貫通する凹部16を有する非磁性体10が得られた。非磁性体10の凹部16は、70nmの深さおよび70nmの幅(パターン幅)を有した。
【0045】
続いて、スパッタ法を用いて、非磁性層14の表面上にFeCo(Co含有量30原子(at)%)を堆積させ、膜厚300nmの強磁性体層20を形成した。
【0046】
続いて、アルゴンイオンを用いるイオンビームエッチングにより強磁性体層20をエッチングした。この条件において、非磁性層14を構成するカーボンのエッチングレートは0.6nm/sであり、強磁性体層20を構成するFeCoのエッチングレートは0.5nm/sであった。エッチングの加工時間を、非磁性層14の上に形成された強磁性体層20を除去するための600sと、10%オーバーエッチング分の60sとを加えた660sとした。最終的に、膜厚34nmの非磁性層14と、非磁性層14の凹部16に形成され、40nmの膜厚を有する強磁性体層20とを含む転写用マスターディスクが得られた。非磁性体10(非磁性層14)の上表面と、強磁性体層20の上表面との段差は6nmであった。
【0047】
得られた転写用マスターディスクについて、露出した非磁性体10(非磁性層14)の上表面から無作為に9箇所を選択し、1000nmの基準長さにおいて粗さ曲線を測定し、最大山高さRpを求めた。結果を第1表に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
以上の結果から、非磁性体10(非磁性層14)全体の最大山高さRpは、Av+3σから3.7nmと計算された。このことから、強磁性体層20の上表面を非磁性体10(非磁性層14)の上表面よりも4nm以上高くすれば、非磁性体10(非磁性層14)の表面粗さに影響されることなく、磁気転写工程における強磁性体層20と被転写媒体50(磁性層60)との密着を達成できることが分かる。本実施例の転写用マスターディスクにおいては、強磁性体層20の上表面と非磁性体10(非磁性層14)の上表面との段差が6nmである。よって、本実施例の転写用マスターディスクを用いた磁気転写工程では、良好な磁気転写結果を得ることができた。なぜなら、磁気転写工程において被転写媒体50(磁性層60)に効率的に磁界を印加することができたためである。
【0050】
(比較例)
本比較例は、非磁性体10が支持体12と非磁性層との積層構造を有し、非磁性層14における凹凸形成を、レジストを用いる間接的なナノインプリントリソグラフィ法にて実施する例である。
【0051】
最初に、支持体12であるSi基板に、スパッタ法でカーボンを堆積させ、膜厚70nmの非磁性層14を形成した。
【0052】
次に、非磁性層14の上表面に、スピンコート法でSOG(Spin On Glass)を塗布し、膜厚70nmのレジスト層を形成した。
【0053】
続いて、レジスト層の表面に、転写する情報に応じた凹凸パターンが形成されたNiスタンパを押圧してインプリントを行い、Niスタンパを除去して、レジスト層の表面に凹凸パターンを形成した。次いで、レジスト層の凹部の底面に残存するSOGを、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法によって除去して、複数の貫通孔を有するパターン状のレジスト層を得た。
【0054】
続いて、パターン状のレジスト層をマスクとして、O2ガスを用いる反応性イオンエッチング(RIE)法によって、カーボンからなる非磁性層14のエッチングを行った。非磁性層14のエッチング深さを70nmとし、非磁性層14を貫通させた。次いで、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法を再び実施して、マスクとして用いたパターン状のレジスト層(SOG)を除去した。
【0055】
以上の工程によって、支持体12と非磁性層14との積層構造からなり、非磁性層14を貫通する凹部16を有する非磁性体10が得られた。非磁性体10の凹部16は、70nmの深さおよび70nmの幅(パターン幅)を有した。
【0056】
続いて、スパッタ法を用いて、非磁性層14の表面上にFeCo(Co含有量30原子(at)%)を堆積させ、膜厚300nmの強磁性体層20を形成した。
【0057】
続いて、CMP(Chemical Mechanical Polishing)を用いて、余剰な強磁性体層20を除去した。研磨レートがおよそ20nm/minであったので、非磁性体層の上の強磁性体層20を除去する時間15minに10%オーバーとする1.5minを加えた16.5minを加工時間とした。
【0058】
以上のようにして作製したマスターディスクは、強磁性体層20の上表面が非磁性体10(非磁性層14)の上表面より6nm低くなるような形状であった。
【0059】
この比較例でのマスターディスクと、実施例2で作製されたマスターディスクとを用いて、実際に磁気記録媒体に磁気転写を行った際の転写された信号の振幅値を比較した。転写法はEdge転写法を用いた。
【0060】
結果として、実施例2で作製したマスターディスクによる転写信号の信号振幅値を1としたとき、比較例で作製したマスターディスクによる転写信号の信号振幅値は、0.82であった。
【符号の説明】
【0061】
10 非磁性体
12 支持体
14 非磁性層
16 凹部
20 強磁性体層
50 被転写媒体
60 磁性層
101 転写用マスターディスク
102 被転写媒体
103(A,B) 磁石
105 強磁性体パターン
106 外部磁界
107 漏れ磁束
108 磁性層
109 磁気信号
110 第2の磁界の磁束
220 金属盤
230 軟磁性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 非磁性体を準備する工程と、
(b) 非磁性体の表面にパターン状の凹部を形成する工程と、
(c) 前記凹部を形成した非磁性体の表面上に強磁性材料を堆積させ、強磁性体層を形成する工程と、
(d) 何らのマスクを使用することなしに強磁性体層の余剰分を除去して、前記凹部内にパターン状の強磁性体層を形成する工程と
を含み、工程(d)における強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性体のエッチングレートを大きくすることを特徴とする磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項2】
工程(d)を、マスクの使用を伴わないドライエッチング法を用いて実施することを特徴とする請求項1に記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項3】
工程(d)において、形成される強磁性体層の上表面と非磁性体の上表面との段差を、非磁性体の表面粗さRpよりも大きくすることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項4】
工程(d)において、形成される強磁性体層の上表面と非磁性体の上表面との段差を4nm以上とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項5】
前記非磁性体が支持体と非磁性層とを含み、工程(b)において非磁性層の表面にパターン状の凹部が形成され、工程(d)において、強磁性体層のエッチングレートよりも非磁性層のエッチングレートを大きくすることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−150757(P2011−150757A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12035(P2010−12035)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)