説明

磁気転写装置および磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体およびマスター情報担体を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付けることができ、歩留まりよく磁気記録媒体に磁気転写できる磁気転写装置を提供する。
【解決手段】情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体202の磁化を消磁する消磁手段15と、マスター情報担体202と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体1とを密着させて、マスター情報担体202側から外部磁界を印加することにより、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写手段14とを備える磁気転写装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写装置および磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、より詳しくは、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体を製造する際に好適に用いられる磁気転写装置およびこれを用いた磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体にサーボ信号等の情報信号の書き込みを行う方法として、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体を用い、このマスター情報担体に書き込まれた情報信号を磁気記録媒体に一括して磁気転写する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成され、この凹凸形状の少なくとも凸部表面が強磁性材料により構成されるマスター情報坦体表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させることにより、マスター情報坦体表面の凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録する技術が記載されている。
【0003】
マスター情報担体を用いて磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する場合、通常、磁気転写装置に、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付け、転写用のエネルギーとして外部から磁界を加え、マスター情報担体に書き込まれた情報信号を磁気記録媒体に磁気転写している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の磁気転写装置では、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付ける際に、磁気記録媒体および/またはマスター情報担体に傷が付いてしまう場合があった。
このため、磁気記録媒体およびマスター情報担体を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付けることができ、歩留まりよく磁気記録媒体に磁気転写できる磁気転写装置を提供することが要求されていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、磁気記録媒体およびマスター情報担体を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付けることができ、歩留まりよく磁気記録媒体に磁気転写できる磁気転写装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、磁気記録媒体およびマスター情報担体を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付けることができ、歩留まりよく製造できる磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付ける際に、磁気記録媒体および/またはマスター情報担体に傷が付く原因について、以下に示すように鋭意検討を行った。
磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付ける場合には、通常、マスター情報担体と磁気記録媒体とを対向配置させて、両者の間隔を徐々に近づけて密着させる。
【0008】
磁気転写装置に取り付けられるマスター情報担体が磁化されているものである場合、両者の間隔を徐々に近づけていくことにより、対向配置されたマスター情報担体と磁気記録媒体との間に磁力に起因する吸引力が働くようになる。この吸引力は、徐々に近づけられていく両者の間隔を不安定とさせるものであるため、磁気記録媒体および/またはマスター情報担体が所定外に動いて、両者の間隔が十分に近づく前に一部のみ密着されてしまったり、マスター情報担体の一部と磁気記録媒体の一部とが衝突したりして、磁気記録媒体および/またはマスター情報担体に傷が付く場合があることが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明者は、マスター情報担体の磁化に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて取り付ける前に、マスター情報担体の磁化を消磁して、マスター情報担体と磁気記録媒体との間に磁力に起因する吸引力が生じることを防止すればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下に関する。
【0010】
(1)情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁手段と、前記マスター情報担体と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体とを密着させて、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加することにより、前記磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する磁気転写手段とを備えることを特徴とする磁気転写装置。
(2)前記消磁手段が、前記マスター情報担体に近接配置される電磁石と、前記電磁石に電圧を印加する手段とを備えていることを特徴とする(1)に記載の磁気転写装置。
【0011】
(3)情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁工程と、前記マスター情報担体と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体とを密着させて、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加することにより、前記磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する磁気転写工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(4)前記消磁工程が、前記マスター情報担体に電磁石を近接配置して、前記電磁石に電圧を印加することにより、前記マスター情報担体の磁化を消磁する工程であることを特徴とする(3)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気転写装置は、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁手段を備えるものであるので、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写するために、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させる前に、マスター情報担体の磁化を消磁することが可能なものとなる。したがって、本発明の磁気転写装置を用いて、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する場合、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させる際に、マスター情報担体と磁気記録媒体との間に磁力に起因する吸引力が生じることを防止することができる。
【0013】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写するために、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させる前に、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁工程を備えているので、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させる際に、マスター情報担体と磁気記録媒体との間に磁力に起因する吸引力が生じることを防止することができる。
【0014】
したがって、本発明の磁気転写装置および磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体およびマスター情報担体を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させて容易に取り付けることができ、歩留まりよく磁気記録媒体に情報信号を磁気転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の磁気転写装置の一例を説明するための断面模式図である。
【図2】本発明の磁気転写装置を用いる本発明の磁気記録媒体の製造方法において磁気転写される磁気記録媒体の一例を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の磁気転写装置および磁気記録媒体の製造方法を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
「磁気転写装置」
図1は、本発明の磁気転写装置の一例を説明するための断面模式図である。図1は、磁気記録媒体1の両面に磁気転写を行う装置の例であり、固定ホルダ30及び可動ホルダ40に、それぞれマスター情報担体200が取り付けられ、固定ホルダ30に取り付けられたマスター情報担体202の表面に、磁気記録媒体1が取り付けられた状態を示している。また、磁気記録媒体1の片面のみに磁気転写を行う装置の場合は、マスター情報担体200の一方を単なる押し板にし、または、稼働ホルダ40およびそれに取り付けたマスター情報担体200を省略することができる。
磁気記録媒体1は、非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成されたものである。また、マスター情報担体200は、情報信号に対応するサーボ・パターン、セルフサーボ・パターンなどの転写パターンが形成されたものである。なお、セルフサーボ・パターンとは、ハードディスク装置がサーボ・パターンを生成するのに用いるパターンである。
【0018】
図1に示す磁気転写装置は、消磁手段15と、磁気転写手段14とを備えている。
本実施形態の消磁手段15は、固定ホルダ30に取り付けられたマスター情報担体202の磁化を消磁するものである。なお、消磁手段15は、2枚のマスター情報担体200のうち、少なくとも磁気記録媒体1を保持する側のマスター情報担体202の磁化を消磁するものであればよく、本実施形態のように磁気記録媒体1を保持する側のマスター情報担体202の磁化のみを消磁するものであってもよいし、2枚のマスター情報担体200の両方の磁化を消磁するものであってもよい。
消磁手段15は、マスター情報担体200に近接配置される電磁石(図示略)と、電磁石に電圧を印加する配線などからなる手段とを備えている。
【0019】
また、本実施形態の磁気転写装置は、消磁手段15を移動させる移動手段(図示略)を備えている。そして、移動手段によって、マスター情報担体200の磁化を消磁する消磁工程を行う際に、マスター情報担体200の表面に磁気記録媒体1を保持しない状態で、磁気転写手段14の固定ホルダ30と、固定ホルダ30に対向して配置された可動ホルダ40との間に消磁手段15が移動されて、消磁手段15の電磁石がマスター情報担体200に近接配置できるようになっている。また、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写工程を行う際には、移動手段によって、消磁手段15が移動されて、磁気転写手段14から十分に離れた位置に消磁手段15が退避されるようになっている。したがって、本実施形態の磁気転写装置においては、消磁手段15が備えられていることによって磁気転写工程が妨げられないようになっている。
【0020】
磁気転写手段14は、マスター情報担体200と磁気記録媒体1とを密着させて、マスター情報担体200側から外部磁界を印加することにより、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写するものである。
【0021】
図1に示す磁気転写手段14は、図示しない基台に固定されている。磁気転写手段14は、固定ホルダ30と、固定ホルダ30に対向して配置された可動ホルダ40とを備えている。そして、図1に示すように、固定ホルダ30に取り付けられたマスター情報担体202と、可動ホルダ40に取り付けられたマスター情報担体201とは、互いに対向した状態で配置されている。
【0022】
固定ホルダ30は、マスター情報担体202を保持する記録体保持部30aと、記録体保持部30aを貫通して設けられた第1吸引路31および第2吸引路32とを備えている。また、固定ホルダ30に取り付けられたマスター情報担体202には、2つの開口200a、200bが設けられている。
【0023】
第1吸引路31は、記録体保持部30aに磁気記録媒体1を保持するためのものであり、記録体保持部30aのマスター情報担体202が取り付けられる保持面35におけるマスター情報担体202の取り付け位置に、開口を有するものである。図1に示すように、第1吸引路31の開口は、固定ホルダ30にマスター情報担体202が取り付けられた際に、マスター情報担体202の開口200a、200bと平面視で重なり合うように配置されている。
【0024】
第2吸引路32は、記録体保持部30aの保持面35におけるマスター情報担体202の取り付け位置の外側に開口を備えている。第2吸引路32は、磁気転写工程の際に固定ホルダ30と可動ホルダ40との間に形成される空間を真空にするためのものである。
また、固定ホルダ30は、図1に示すように、記録体保持部30aの保持面35の第2吸引路32の開口よりも外側に、周方向に沿って取り付けられたOリング33を備えている。
【0025】
可動ホルダ40は、固定ホルダ30と対向する側の面にマスター情報担体201を保持する記録体保持部40aと、記録体保持部40aの周縁を覆うように設けられた筒状体40bとを備えている。また、可動ホルダ40には、筒状体40bの内周面に周方向に沿って取り付けられ、周方向にわたって記録体保持部40aの外周面に接触するOリング41が備えられている。
【0026】
可動ホルダ40を構成する記録体保持部40aおよび筒状体40bは、互いに独立して固定ホルダ30に対して進退可能に取り付けられている。筒状体40bの固定ホルダ30と対向する側の端部は、筒状体40bを移動させることにより、固定ホルダ30に設けられたOリング33に一周にわたって対向し且つ接触できるようになっている。
なお、可動ホルダ40の記録体保持部40aには、固定ホルダ30の第1吸引路31のような吸引路は設けられていない。このため、記録体保持部40aに取り付けられたマスター情報担体201には、固定ホルダ30に取り付けられたマスター情報担体202のように、第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bを設けておく必要はない。
【0027】
また、固定ホルダ30の記録体保持部30aの保持面35と反対側(−Z方向側)の面34には、第1磁石部材50が配置されている。また、可動ホルダ40の記録体保持部40aのマスター情報担体201が取り付けられる保持面と反対側(Z方向側)の面には、第2磁石部材60が配置されている。
第1磁石部材50は、固定ホルダ30に対向して配置される第1磁石51と、第1磁石51を保持する第1磁石保持部52と、第1磁石保持部52の背面側から伸びる棒状の第1回転軸53とから構成されている。第1回転軸53は、第1磁石保持部52の中心部に接続されている。これにより、第1回転軸53の回転に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が回転するようになっている。
【0028】
また、本実施形態においては、第1磁石部材50の第1回転軸53は、Z方向に進退可能に支持されているものであることが好ましい。これにより、第1回転軸53の進退に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が進退するものとなる。その結果、後述する消磁工程を行う前に、第1磁石51がマスター情報担体202の消磁に支障をきたすことがなく、しかも、マスター情報担体202を消磁することにより第1磁石51に支障をきたすことがないように、図1に示すように、第1磁石部材50を磁気転写用マスター202から十分に離間して配置しておくことができる。さらに、後述する磁気転写工程を行う際に、第1磁石部材50をマスター情報担体202に十分に近づけることができる。
【0029】
第2磁石部材60は、可動ホルダ40に対向配置される第2磁石61と、第2磁石61を保持する第2磁石保持部62と、第2磁石保持部62の背面側から伸びる棒状の第2回転軸63とから構成されている。第2回転軸63は、Z方向に進退可能に支持されており、且つ第2磁石保持部62に接続されている。これにより、第2回転軸63の進退に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が進退するとともに、第2回転軸63の回転に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が回転するようになっている。なお、本実施形態では、第1磁石51および第2磁石61が、同期して回転する一対の磁石部材として機能している。また、第1磁石51および第2磁石61としては、NdFeB系焼結磁石を用いることが好ましい。
【0030】
また、第1磁石部材50において、第1磁石51は、第1磁石保持部52に対し、第1回転軸53の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第1磁石51は、固定ホルダ30と対向する側が一方の極性の磁極(例えばN極)となるように第1磁石保持部52に保持されている。
一方、第2磁石部材60において、第2磁石61は、第2磁石保持部62に対し、第2回転軸63の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第2磁石61は、可動ホルダ40と対向する側が他方の極性の磁極(例えばS極)となるように第2磁石保持部62に保持されている。
【0031】
「磁気記録媒体の製造方法」
次に、図1に示す磁気転写装置を用いて、マスター情報担体202の磁化を消磁する消磁工程と、2枚のマスター情報担体200を用いて磁気記録媒体1の両面に情報信号を磁気転写する磁気転写工程とを含む磁気記録媒体1の製造方法について説明する。
まず、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法において磁気転写される磁気記録媒体1について図面を用いて説明する。
【0032】
図2は、本発明の磁気転写装置を用いる本発明の磁気記録媒体の製造方法において磁気転写される磁気記録媒体1の一例を示した断面模式図である。図2においては、非磁性基板21の一方の面上に積層された構造のみを示し、非磁性基板21の他方の面上に積層された構造の記載を省略している。
図2に示す磁気記録媒体1は、非磁性基板21の両面に、スペーサ層22bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層22aを含む軟磁性下地層22と、配向制御層23と、垂直磁性層24と、保護層25と、潤滑剤膜26とを順次積層した構造を有している。
【0033】
垂直磁性層24は、下層の磁性層24aと、中層の磁性層24bと、上層の磁性層24cとの3層を含み、磁性層24aと磁性層24bとの間に非磁性層27a(27)を、磁性層24bと磁性層24cとの間に非磁性層27b(27)を挟み込むことにより、これら磁性層24a〜24cと非磁性層27a,27bとが交互に積層された構造を有している。
【0034】
非磁性基板21としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えば、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0035】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0036】
非磁性基板21は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高密度記録に適している点から好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0037】
また、非磁性基板21は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層22と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。この場合、非磁性基板21と軟磁性下地層22の間に密着層を設けることが好ましい。これにより、腐食の進行を抑制できる。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金などを適宜選択できる。また、密着層の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0038】
軟磁性層22a,22cとしては、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いることが好ましい。また、透磁率や耐食性を高めるために、Ta、Nb、Zr、Crの中から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有させることが好ましい。
スペーサ層22bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中で特にRuを用いることが好ましい。
【0039】
配向制御層23は、垂直磁性層24の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するためのものである。配向制御層23としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものを用いることが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金を用いることが好ましい。また、これらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0040】
ここで、配向制御層23直上の垂直磁性層24の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。この場合、配向制御層23と垂直磁性層24の間に非磁性下地層28を設けることが好ましい。この初期部の乱れた部分を非磁性下地層28に置き換えることで、ノイズの発生を抑制することができる。
【0041】
非磁性下地層28としては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料からなるものを用いることが好ましい。Crの含有量は、25原子%以上、50原子%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、18mol%以下とすることが好ましい。
【0042】
磁性層24a,24b,24cとしては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料を用いることが好ましく、この酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、下層の磁性層24aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0043】
磁性層24a、24b、24cに適した材料としては、具体的には、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの組成物を挙げることができる。
【0044】
また、本発明では、上記垂直磁性層24を4層以上の磁性層で構成することも可能である。例えば、上記磁性層24a、24bに加えて、グラニュラー構造の磁性層を3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層24cを設けた構成とし、また、酸化物を含まない磁性層24cを2層構造として、磁性層24a、24bの上に設けた構成とすることができる。
【0045】
また、本発明では、垂直磁性層24を構成する3層以上の磁性層間に非磁性層27を設けることが好ましい。非磁性層27を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。
【0046】
保護層25は、垂直磁性層24の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気記録媒体1に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのものである。保護層25には、従来公知の材料を用いることができ、例えばC、SiO、ZrOなどを含むものを用いることが可能である。保護層25の厚みは、1〜10nmとすることが磁気ヘッドと磁気記録媒体1との距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0047】
潤滑剤膜26としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を保護層25上に塗布することによって形成されたものなどが挙げられる。
【0048】
図2に示す磁気記録媒体1は、図1に示す本実施形態の磁気転写装置を用いる本実施形態の磁気記録媒体の製造方法を用いて磁気転写される前に、ワイピング工程、バーニッシュ工程が行われたものであることが好ましい。
【0049】
ワイピング工程は、布製のワイピングテープを磁気記録媒体1の表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロール又はパッドによってワイピングテープの表面を磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く拭く工程とすることができる。ワイピング工程を行うことにより、磁気記録媒体1の表面に付着したスパッタダスト等が除去されるので、磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0050】
ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物などが挙げられる。
【0051】
バーニッシュ工程は、磁気記録媒体1の表面にある突起物を除去するために、研磨テープを用いて表面を研磨する工程とすることができる。バーニッシュ工程を行うことにより、ハードディスクドライブでの磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることができるとともに、磁気転写工程において磁気記録媒体1とマスター情報担体201、202との間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明となり、マスター情報担体201、202が損傷を受けることを防止できる。
【0052】
バーニッシュ工程は、研磨テープをゴム製のコンタクトロールにより磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く研磨する工程とすることができる。
バーニッシュ工程で用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材からなる研磨材層を形成してなるテープを使用する。
【0053】
研磨材層を磁気記録媒体1の表面に接触させて摺動させることによって、媒体表面に付着した微小な塵埃が除去されると共に、媒体表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて、媒体表面が平滑化される。
研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が用いられる。
【0054】
本実施形態においては、図2に示す磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する前に、磁気転写される磁気記録媒体1の信号記録面に対して初期磁化を行う。初期磁化は、面内磁気記録媒体の場合は、トラック方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行い、垂直磁気記録媒体の場合は、媒体表面に対して垂直な方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行う。
【0055】
初期直流磁界は、永久磁石や電磁石を用いて印加することが可能である。また、永久磁石としては、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いることが好ましい。また、初期直流磁界の印加は、磁気記録媒体と非接触の状態で行うことが、磁気記録媒体の表面の清浄性を維持する上で好ましい。
【0056】
「消磁工程」
次に、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写工程を行うために、図1に示す磁気転写装置の固定ホルダ30の記録体保持部30aおよび可動ホルダ40の記録体保持部40aに、それぞれマスター情報担体200を保持させる。
次いで、磁気記録媒体1を保持する固定ホルダ30の記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202の磁化を消磁する消磁工程を行う。
【0057】
消磁工程においては、まず、マスター情報担体202に磁気記録媒体1が保持されていない状態で、移動手段(図示略)によって消磁手段15を、磁気転写手段14の固定ホルダ30と可動ホルダ40との間に移動し、消磁手段15の電磁石をマスター情報担体202に近接配置させる。
次いで、消磁手段15の電磁石に配線を介して例えば、50Hz程度の交流電圧を流し、その後、この交流電圧を徐々に下げる。このことにより、例えば、マスター情報担体202が、別の磁気記録媒体1の磁気転写に用いられたことによって磁化されたものであったとしても、マスター情報担体202の磁化が消磁される。消磁手段15の電磁石に交流電圧を流す時間である消磁時間は3秒程度であることが好ましい。
【0058】
なお、第1磁石部材50は、第1磁石51がマスター情報担体202の消磁に支障をきたすことがなく、しかも、マスター情報担体202を消磁することにより第1磁石51に支障をきたすことがないように、消磁工程を行う前に、磁気転写用マスター202から十分に離間して配置しておくことが好ましい。
また、本実施形態においては、消磁工程の終了後、後述する磁気転写工程を行う前に、消磁手段15を移動手段によって移動させて、消磁手段15を磁気転写手段14から十分に離れた位置に退避させ、消磁手段15が備えられていることによって磁気転写工程に支障をきたすことがないようにする。
【0059】
「磁気転写工程」
次いで、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写工程を行う。
磁気転写工程においては、まず、固定ホルダ30の記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202上に、第1吸引路31を用いて吸引することにより、初期磁化された磁気記録媒体1を真空チャッキングする。
【0060】
本実施形態においては、マスター情報担体202と磁気記録媒体1とを密着させる前に、消磁工程を行ってマスター情報担体202の磁化を消磁しているので、マスター情報担体202と磁気記録媒体1との間に磁力に起因する吸引力が生じにくいものとなっている。したがって、本実施形態においては、磁気記録媒体1を真空チャッキングするに際して、徐々に近づけられていく両者の間隔が安定したものとなり、両者の間隔が十分に近づく前に一部のみ密着されてしまったり、マスター情報担体の一部と磁気記録媒体の一部とが衝突したりして、磁気記録媒体1および/またはマスター情報担体202に傷が付くことが防止される。
【0061】
その後、可動ホルダ40の記録体保持部40aおよび筒状体40bを固定ホルダ30に近づく方向へと移動させる。
筒状体40bは、筒状体40bの周部端面が固定ホルダ30に設けられたオーリング33と接する位置まで移動されることにより停止される。このことにより、固定ホルダ30と可動ホルダ40との間には、固定ホルダ30に設けられたOリング33と筒状体40bに設けられたOリング41とを用いて、閉じられた空間が形成される。
【0062】
また、可動ホルダ40の記録体保持部40aは、筒状体40bの移動が停止された後も固定ホルダ30に近づく方向へと移動し続け、記録体保持部40aに保持されたマスター情報担体201が磁気記録媒体1と接する位置まで移動されることにより停止される。なお、記録体保持部40aの移動停止位置は、予め決められている。その結果、磁気記録媒体1と、その両面を挟むように配置された2枚のマスター情報担体201、202とには、予め設定された軽い荷重が加えられるようになっている。
【0063】
次いで、第2吸引路32を用いて吸引することにより、固定ホルダ30と可動ホルダ40との間の空間を減圧し、空間と大気圧との差圧により、マスター情報担体201、202と磁気記録媒体1とを所定の圧力で密着させる。
【0064】
その後、第2磁石部材60を移動させてマスター情報担体201に近づけるとともに、第1磁石部材50を移動させてマスター情報担体202に近づける。
なお、第2磁石部材60は、磁気記録媒体1の両面を挟むようにマスター情報担体201、202を配置した後に、マスター情報担体201に近づけてもよいが、可動ホルダ40の記録体保持部40aとの間の間隔を所定の間隔に維持した状態で、第2磁石部材60を記録体保持部40aとともに移動させてもよい。この場合、第2磁石部材60と記録体保持部40aとの間の間隔は、磁気記録媒体1の両面を挟むようにマスター情報担体201、202を配置した段階で、第2磁石部材60と磁気記録媒体1との間隔が磁気転写可能な間隔となるようにされていることが好ましい。
【0065】
次いで、第1回転軸53および第2回転軸63を軸とし、第1磁石51と第2磁石61とを対向させた状態を維持しながら、第1磁石部材50および第2磁石部材60を少なくとも1回転以上同期回転させる。このことにより、マスター情報担体201、202側からマスター情報担体201、202および磁気記録媒体1に外部磁界を印加し、マスター情報担体201、202に形成されている情報信号を磁気記録媒体1の両面に磁気転写する。
【0066】
より詳細には、第1磁石51および第2磁石61が1回転する間、2枚のマスター情報担体201、202に挟まれた磁気記録媒体1には、第1磁石51および第2磁石61により、初期磁化における磁界とは逆向きの直流磁界が周方向に順次印加される。
このことにより、磁気記録媒体1の固定ホルダ30側のマスター情報担体202と接する側では、マスター情報担体202の凹部と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化後の状態が維持されるものの、凸部と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。
【0067】
また、磁気記録媒体1の可動ホルダ40側のマスター情報担体201と接する側では、マスター情報担体201の凹部と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化後の状態が維持されるものの、凸部と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。
このようにして、磁気記録媒体1の両面には、それぞれ、マスター情報担体201、202に設けられた凹凸の配列からなるサーボ・パターンが、磁化の向きの配列からなる情報信号として転写される。その結果、磁気記録媒体1は、位置決めデータ記憶領域にサーボ・パターンが記憶されたものとなる。
【0068】
その後、第1磁石部材50および第2磁石部材60を移動させて、第1磁石部材50および第2磁石部材60をマスター情報担体201、202から離す。また、第2吸引路32を介した吸引を停止して固定ホルダ30と可動ホルダ40との間の空間を大気圧とする。次いで、可動ホルダ40の記録体保持部40aおよび筒状体40bを移動させて、磁気記録媒体1と記録体保持部40aに保持されたマスター情報担体201とを離間させる。これにより、固定ホルダ30に保持された磁気記録媒体1は、外部に露出した状態となる。その後、第1吸引路31を用いて、記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202上への磁気記録媒体1の真空チャッキングを解除し、磁気記録媒体1を取り出す。
【0069】
本実施形態においては、1枚の磁気記録媒体1を製造する方法について説明したが、複数枚の磁気記録媒体を製造する場合には、上述した工程を繰り返し行えばよい。したがって、磁気転写工程を行う前に必ず消磁工程を行う。
【0070】
本実施形態においては、磁気転写装置として、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体201、202の磁化を消磁する消磁手段15と、マスター情報担体201、202と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体1とを密着させて、マスター情報担体201、202側から外部磁界を印加することにより、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写手段14とを備えるものを用いている。このため、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写するために、マスター情報担体201、202と磁気記録媒体1とを密着させる前に、マスター情報担体201、202の磁化を消磁する消磁工程を行うことができる。
【0071】
その結果、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写するために、マスター情報担体201、202と磁気記録媒体1とを密着させる際に、マスター情報担体201、202と磁気記録媒体1との間に磁力に起因する吸引力が生じることを防止することができる。
したがって、本実施形態によれば、磁気記録媒体1およびマスター情報担体201、202を傷つけずに、磁気転写装置にマスター情報担体201、202と磁気記録媒体1とを密着させて容易に取り付けることができ、歩留まりよく磁気記録媒体1に磁気転写できる。
なお、以上の本願発明の説明は磁気記録媒体の両面にサーボ・パターンを磁気転写する例によって行ったが、本願発明は磁気記録媒体の片面のみに磁気転写を行う場合、また転写パターンとしてセルフサーボ・パターンを用いる場合においても同様に用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
「実施例1」
以下に示す方法によって製造された磁気転写される磁気記録媒体に、以下に示す方法によって製造されたマスター情報担体を用いて、以下に示す方法により情報信号を磁気転写した。
【0073】
<磁気記録媒体の製造>
洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.76nmで成膜した後、さらに46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を層厚34nm成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0074】
次に、上記軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0075】
次に、配向制御層の上に、多層構造の磁性層として、Co12Cr16Pt−16TiO(膜厚3nm)、Co5Cr22Pt−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co(膜厚0.5nm)、Co15Cr16Pt6B(膜厚3nm)を積層した。
【0076】
次に、CVD法により層厚2.5nmの炭素保護層を成膜し、磁気記録媒体を得た。
次に、この磁気記録媒体の表面に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤膜を厚さ15オングストロームで形成した。
【0077】
次に、潤滑剤を塗布した磁気記録媒体に対して、ワイピング処理を施した。ワイピングテープには、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維を用いた。ワイピング処理は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、ワイピングテープの送り速度は10mm/秒、ワイピングテープを磁気記録媒体に押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。
【0078】
次に、ワイピング処理を施した磁気記録媒体に対してバーニッシュ加工を施した。バーニッシュテープには、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。バーニッシュ加工は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、研磨テープの送り速度を10mm/秒、研磨テープを磁気ディスクに押し当てる際の押圧力を98mN、処理時間を5秒間として行った。
【0079】
次に、バーニッシュ加工を施した磁気記録媒体の信号記録面に対して10kOeの磁界を加えながら初期磁化を行った。
【0080】
<マスター情報担体の製造>
マスター情報担体には、271kトラック/インチのサーボ信号等の転写パターンが形成されたものを用いた。なお、このマスター情報担体は、そのトラックが幅120nm、そのトラック間隔が60nm、セクター数は1周あたり255、転写パターンの段差が45nmである。
このマスター情報担体は、凸部及び凹部を有するNi基材の上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜と、磁性層として層厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜と、層厚15nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜とを順次積層した後、その上に、保護層として層厚20nmのCVD炭素膜を形成することで作製されたものである。
【0081】
<磁気転写の方法>
初期磁化された磁気記録媒体1に対して、図1に示す磁気転写装置を用いて、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写した。
まず、図1に示す磁気転写装置の固定ホルダ30の記録体保持部30aおよび可動ホルダ40の記録体保持部40aにそれぞれマスター情報担体200を保持させた。
【0082】
次に、第1磁石部材50を、磁気転写用マスター202から十分に離間して配置した。
次いで、磁気記録媒体1を保持する固定ホルダ30の記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202の磁化を消磁する消磁工程を行った。
消磁工程においては、まず、移動手段によって消磁手段15を、磁気転写手段14の固定ホルダ30と可動ホルダ40との間に移動して、消磁手段15の電磁石をマスター情報担体202に近接配置させた。次いで、消磁手段15の電磁石に、配線を介して50Hz、200W程度の交流電圧を流し、この交流電圧を徐々に下げた。なお、消磁手段15の電磁石に交流電圧を流す時間である消磁時間は3秒であった。
【0083】
消磁工程の終了後、消磁手段15を移動手段によって移動させて、消磁手段15を磁気転写手段14から十分に離れた位置に退避させた。
次いで、磁気記録媒体1に情報信号を磁気転写する磁気転写工程を行った。まず、第1吸引路31を用いて吸引することにより、固定ホルダ30の記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202上に、初期磁化された磁気記録媒体1を真空チャッキングした。
【0084】
その後、可動ホルダ40の記録体保持部40aおよび筒状体40bを固定ホルダ30に近づく方向へと移動させて、筒状体40bの周部端面と固定ホルダ30に設けられたオーリング33とを接触させた。このことにより、固定ホルダ30と可動ホルダ40との間に、閉じられた空間を形成した。
その後、可動ホルダ40の記録体保持部40aを、さらに固定ホルダ30に近づく方向へと移動させ、記録体保持部40aに保持されたマスター情報担体201と磁気記録媒体1とを接触させた。
【0085】
次いで、第2吸引路32を用いて吸引し、マスター情報担体201、202と磁気記録媒体1とを98mNの圧力で密着させた。
その後、第2磁石部材60を移動させてマスター情報担体201に近づけるとともに、第1磁石部材50を移動させてマスター情報担体202に近づけた。次いで、第1回転軸53および第2回転軸63を軸とし、第1磁石51と第2磁石61とを対向させた状態を維持しながら、第1磁石部材50および第2磁石部材60を2秒間同期回転させた。
【0086】
このことにより、マスター情報担体201、202側からマスター情報担体201、202および磁気記録媒体1に7kOeの外部磁界を印加し、マスター情報担体201、202に形成されている情報信号を磁気記録媒体1の両面に磁気転写した。
【0087】
その後、第1磁石部材50および第2磁石部材60をマスター情報担体201、202から離し、第2吸引路32を介した吸引を停止して固定ホルダ30と可動ホルダ40との間の空間を大気圧とした。次いで、可動ホルダ40の記録体保持部40aおよび筒状体40bを移動させて、磁気記録媒体1と記録体保持部40aに保持されたマスター情報担体201とを離間させた。その後、第1吸引路31を用いて、記録体保持部30aに保持されたマスター情報担体202上への磁気記録媒体1の真空チャッキングを解除し、磁気記録媒体1を取り出した。
【0088】
「比較例1」
消磁工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を得た。
【0089】
実施例1の方法および比較例1の方法をそれぞれ繰り返し行うことにより、実施例および比較例の磁気記録媒体をそれぞれ10000枚製造し、マスター情報担体202上に磁気記録媒体1を真空チャッキングする際に生じた傷で磁気転写不良が生じた磁気記録媒体の枚数を調べた。その結果、実施例1では0枚であり、比較例1では35枚であった。
【0090】
このように本発明の実施例1では、比較例1と比較して、傷により磁気転写不良が生じた磁気記録媒体の数が少ないことが確認できた。
【符号の説明】
【0091】
1・・・磁気記録媒体、15・・・消磁手段、14・・・磁気転写手段、30・・・固定ホルダ、30a・・・記録体保持部、31・・・第1吸引路、32・・・第2吸引路、33、41・・・Oリング、35・・・保持面、40・・・可動ホルダ、40a・・・記録体保持部、40b・・・筒状体、50・・・第1磁石部材、60・・・第2磁石部材、200、201、202・・・マスター情報担体、200a、200b・・・開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁手段と、前記マスター情報担体と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体とを密着させて、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加することにより、前記磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する磁気転写手段とを備えることを特徴とする磁気転写装置。
【請求項2】
前記消磁手段が、前記マスター情報担体に近接配置される電磁石と、前記電磁石に電圧を印加する手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の磁気転写装置。
【請求項3】
情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体の磁化を消磁する消磁工程と、前記マスター情報担体と非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体とを密着させて、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加することにより、前記磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する磁気転写工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記消磁工程が、前記マスター情報担体に電磁石を近接配置して、前記電磁石に電圧を印加することにより、前記マスター情報担体の磁化を消磁する工程であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−104173(P2012−104173A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249989(P2010−249989)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)