説明

磁着支持具

【課題】さらなる構造工夫により、良好な取外し易さを備えながらも構造簡単で、かつ、さほどコストアップもしないで済むように改善される磁着支持具を開発して提供する。
【解決手段】壁面Wに磁着されるための磁石3と、被支持対象Mを支持するための支持部2とを備えて成る磁着支持具において、磁石3を保持し、かつ、支持部2を備える枠体1を設けるとともに、磁石3によって壁面Wに磁着されている使用状態では、枠体1における磁石3の横側方に位置する部分11と壁面Wとの間に手指yの差し入れを許容する間隙部13が形成されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の側壁、仕切り壁、天井壁などの磁力吸着可能な壁面に好適に使用される磁着支持具に係り、詳しくは、壁面に磁着されるための磁石と、被支持対象を支持するための支持部とを備えて成る磁着支持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の磁着支持具としては、特許文献1において開示される吊下具や、特許文献2において開示される吊り金具などが知られている。特許文献1の吊下具(1)は、吊り下げ用のフック(4)を設けるベース(2)の裏側にマグネット(3)が収容装備されており、滑り止めシート(5)が貼着されている裏面をマグネット(3)の磁力で壁面(W)に磁着させる構造のものである。
【0003】
特許文献2の吊り金具(8)は、磁石(1)の両側にL字形の鉄板(2),(3)が配され、各鉄板(2),(3)を一体的に繋ぐ橋部(5)を吊下げ用の構造部分とするものである。例えば、その図3にて示されるように、複数の吊り金具(8)を天井壁に磁着させ、生産性や施工性良く、かつ、支持強度十分に配管やダクト(12)を吊下げ支持することが可能である。
【0004】
これらの磁着支持具(吊下具、吊り金具などの総称)は、その強力な磁力により、衣服、カバン、時計といった結構な重さの被支持対象を簡単に壁面支持できる利点がある。ところで、その強い磁力故に、一旦壁面に磁着させたら取り外すのが意外と困難である。この磁着支持具の取り外しの困難性については、特許文献3の段落番号0004に記載されている通りである。
【0005】
それゆえ、特許文献3にて開示される磁性吊下具においては、容易に取外せるようにするための工夫が為されている。即ち、吊下具(3)を備える吊下具取付本体(2)を、マグネット(4)を備えるマグネット取付本体(1)に対して揺動可能に支持する構造とされている。つまり、吊下具(3)を手前に引上げ移動させることで支軸(12)を支点としたてこの原理が機能し、増幅された力によってマグネット取付本体(1)をその端において壁面から引き離すことができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−159683号公報
【特許文献2】特開平8−303651号公報
【特許文献3】特開2005−218487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、取り外しの利便性を良くするだけのために、吊下具取付本体(2)とマグネット取付本体(1)とを各別に設け、しかもそれら両者を互いに揺動可能に枢支させるというコストが嵩むものになっているとともに、構造も複雑化している。そして、重量物にも耐えるべく強力マグネットを用いる磁着支持具では、各構成要素や枢支構造も強度や剛性をさらに高める必要があり、コストパフォーマンスの点ではあまり芳しいものではなく、改善の余地があるように思える。
【0008】
本発明の目的は、さらなる構造工夫により、良好な取外し易さを備えながらも構造簡単で、かつ、さほどコストアップもしないで済むように改善される磁着支持具を開発して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、壁面Wに磁着されるための磁石3と、被支持対象Mを支持するための支持部2とを備えて成る磁着支持具において、
前記磁石3を保持し、かつ、前記支持部2を備える枠体1を設けるとともに、前記磁石3によって壁面Wに磁着されている使用状態では、前記枠体1における前記磁石3の横側方に位置する部分11と壁面Wとの間に手指yの差し入れを許容する間隙部13が形成されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の磁着支持具において、前記磁石3がその壁面Wへの磁着方向視で矩形を呈する形状に構成されるとともに、前記間隙部13が前記磁着方向視において前記磁石3の長手方向と交差する横方向に位置する状態に設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の磁着支持具において、前記支持部2が、被支持対象Mを吊下げ支持可能な棒状体6を前記枠体1から立設するために前記枠体1に形成される孔2Aを有して構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて述べるが、壁面への磁着部位の一端を中心としての揺動移動によって磁着支持具を引き離すように、即ちてこの原理でもって枠体を壁面から引き離して取り外すことができる。つまり、手指による比較的軽い力でもって磁着支持具を無理移動させることなく軽快に外すことが可能になる。その結果、さらなる構造工夫により、良好な取外し易さを備えながらも構造簡単で、かつ、さほどコストアップもしないで済むように改善される磁着支持具を開発して提供する
【0013】
請求項2の発明によれば、これも実施形態の項にて詳しく述べるが、磁着方向視で磁石の長手方向に間隙部がある構成の場合より、磁着方向視で磁石の長手方向と交差する横方向に間隙部が位置する構成の場合の方が、壁面からの引き離し力を小さくすることができる。故に、磁石の形状を考慮して間隙部の配置場所を設定することにより、より軽快に枠体の壁面からの引き離しが行え、請求項1の発明による前記効果が強化されるという利点が得られる。
【0014】
請求項3の発明によれば、枠体に形成される孔にハンガーやフックを引掛けるとか、その孔を使って棒状のフックや金具を螺着することができるなど、構造簡単で追加部品もない経済的な構造としながらも使い勝手に優れる磁着支持具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】吊り用磁着支持具の一部切欠きの側面図(実施例1)
【図2】図1の磁着支持具の背面図
【図3】(a)図1の磁着支持具の平面図、(b)図1の磁着支持具の正面図
【図4】磁着支持具の取外し方を示し、(a)は手指挿入状態を示す平面図、(b)は外し操作を示す平面図
【図5】雑誌置き用磁着支持具を示す側面図(実施例2)
【図6】図5の磁着支持具の支持部を示す要部の平面図
【図7】引離し操作時の力学を示し、(a)は横向きの場合、(b)は縦向きの場合
【図8】別構造の磁着支持具を示す平面図(別実施例)
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明による磁着支持具の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図4は実施例1の磁着支持具であり、図5,6は実施例2の磁着支持具である。図8は別実施例の磁着支持具である。
【0017】
〔実施例1〕
吊り用としての実施例1による磁着支持具Aは、図1〜図3に示すように、アクリル材製の枠体1と、枠体1に設けられる支持部2と、枠体1に装備される複数の磁石3とを有して構成されている。つまり、壁面Wに磁着されるための磁石3と、カバンなどの被支持対象Mを支持するための支持部2と、磁石3を保持し、かつ、支持部2を備える枠体1とを設けて磁着支持具Aが構成されている。
【0018】
枠体1は、正面視で直方体を為す平板部1Aと、磁石3を収容配備すべく平板部1Aの裏側に形成される囲み部1Bとを有するとともに、平板部1Aの左右中央で上に寄った箇所に前後に貫通する一箇所の孔2Aが形成されており、この孔2でもって支持部2が構成されている。実施例1の磁着支持具Aでは、孔2Aを平板部1Aの裏側から表側に通されるビス4と一対のワッシャ5,5とを用いて金属棒6を螺着しており、その平板部1Aの表面1aから立設される金属棒6にポリ袋、カバン、ハンガーなどの被支持対象Mを吊下げることができる。なお、金属棒6の先端部にははずれ防止用のゴム輪7が強制外嵌装着されている。つまり、支持部2が、被支持対象Mを吊下げ支持可能な棒状体(金属棒)6を枠体1から立設するために枠体1に形成される孔2Aを有して構成されている。
【0019】
平板部1Aは所定の肉厚を有する長方形板であり、囲み部1Bは左右一対の縦条8,8と、上下一対の横条9,9とで囲まれた四角い空間部を有する部分である。囲み部1Bには、やや横長形状で厚さの薄い扁平形状の方形磁石3の6個が上下一列に並べて配置されている。平板部1Aの上下幅は横条9,9の全幅と同サイズであるが、横幅は縦条8,8の全幅よりも明確に広く、左右それぞれに張出し板部(「磁石の横側方に位置する部分」の一例)11が形成されている。図3(b)に示すように、装飾紙を貼るなどによって枠体1の表面に装飾部分19を形成しても良い。
【0020】
各磁石3は、コ字状を呈する金属板製のヨーク10に収容されており、各ヨーク10の一対の長尺状端面10a,10aは、磁石3より僅かに後方に突出しており、計12箇所の端面10aが壁面Wに対して磁着される部分となる。各条8,9は互いに同一高さであり、各ヨーク10の端面10aよりは低い。上端の磁石3と二段目の磁石3との上下間には間隙が空けられており、その間隙部分における平板部1Aに孔2が形成されている。従って、ドライバー(ねじ回し)によるビス4の締付や緩め操作はその間隙部分を用いて行われる。また、壁面Wを保護すべく、各磁石3(及び各端面10a)は接着などによって装備される保護用布12で覆われている。
【0021】
さて、磁着支持具Aが壁面Wに磁着されている使用状態においては、左右の張出し板部11と壁面Wとの間には、手指yが差し込み可能となる程度の隙間が存在するようになっている。具体的には、枠体1における磁石3の横側方に位置する部分、即ち張出し板部11と壁面Wとの間に手指yの差し入れを許容する間隙部13が形成されるように構成されている。つまり、磁石3が全体としてその壁面Wへの磁着方向(矢印イ方向)視で矩形を呈する形状に構成されるとともに、間隙部13が平面視において前記磁石の長手方向(矢印ロ方向)と交差する横方向(矢印ハ方向)に位置する状態に設定されている。従って、実施例1による縦長形の磁着支持具Aを壁面Wから引き離して取り外すには、次のような操作を行う。
【0022】
まず、図4(a)に示すように、壁面Wに磁着されている磁着支持具Aの横側方から手指yを近付けて行き、その指先を間隙部13に滑り込ませて張出し板部11の裏側に位置させる。次いで、図4(b)に示すように、張出し板部11を壁面Wから垂直に引離すべく手指yを手前に引き戻すように力を入れると、ヨーク10の端面10aにおける手指y存在側と反対側の端を支点P(上下向きの縦軸心)として枠体1が揺動移動し、引離すことができる。
【0023】
この場合、端面10aの左右幅を2d、端面10aの一方の端から反対側の枠体1の端までの間隔をDとし、磁着支持具Aを壁面Wから引離すに必要な手指yの力Fは、磁石3による磁着力をfとする〔図4(a)参照〕と、d×f=D×Fが成り立つことから、
(1)…F=d×f/D
となる。つまり、間隙部13に手指yが差し込めることで「てこの原理」が使え、しかも支点Pを中心とした揺動移動によって引き離せる状況が形成可能となっており、それにより磁着支持具を引き剥がすべく猛烈に引っ張らねばならないとか、その反動で磁着支持具や手指などが他物にぶつかる、或いは磁着支持具を引き摺って壁面を傷付けたりする、という従来の不都合を招くことなく、比較的軽い力で軽快にかつ容易に壁面Wから引き離して取外すことができる。
【0024】
比較参考として、図8に示すように、磁石3の上下に張出し板部(「磁石の横側方に位置する部分」の一例)11が形成される磁着支持具Atを壁面Wから引離して取外す場合について考察する。この場合、簡単のため、複数の磁石3による磁力ftは、磁石3の上下幅(2×dt)の中心にあるとし、また、上下の張出し板部11の張出し量(長さ)htは、実施例1による磁着支持具Aの張出し量hと同じ(h=ht)であるとする。
【0025】
例えば、下側の張出し板部11を使って引離す場合、手指yに必要とされる力Ftは、同様に、
(2)…Ft=dt×ft/Dt
となる。ここで、磁着支持具A,Atの寸法例としてd=22.5、D=73、dt=100、Dt=228(単位:mm)を代入すると、F≒0.308f、Ft≒0.439ftとなる。f=ftであるから、F=0.702Ftとなる。即ち、手指yに必要な力(引離し力)は、横向きの場合には縦向きの場合の約70%で済むことになる。
【0026】
〔実施例2〕
実施例2による磁着支持具Aは、図5,図6に示すように、支持部2の使い方を変えたものである。即ち、単行本、雑誌、月刊誌などを置いて保持することができるマガジンラック仕様の磁着支持具Aであって、実施例1の場合と同様の構造で支持部2にビス止めされる棒状体6と、棒状体6の先端にビス止めされるベースプレート14と、ベースプレート14に回動可能に枢支される受プレート15とを有して成る置き台16を備える磁着支持具Aであり、それ以外の部分は実施例1の磁着支持具Aと同じである。
【0027】
ステンレス鋼板等の板材で成るベースプレート14は、棒状体6にビス17で固定される左右壁14aと、左右壁の左右端から伸びる状態で折り曲げ形成される左右一対の側壁14b,14bと、各側壁14bの基端から折り曲げ形成される左右一対の引掛け壁14c,14cとを備える略コ字状の部材である。ステンレス鋼板等の板材で成る受プレート15は、底板15a、背凭れ板15b、左右一対の支持板15c,15cを備えて成り、左右一対の蝶ボルト18,18を用いてベースプレート14に左右軸心X回りで角度変更可能に枢支連結されている。
【0028】
各側壁14bの先端側には蝶ボルト18を螺着するためのナット19及び挿通孔(図示及び符記省略)が設けられており、背凭れ板15bが壁面Wに対して所望の傾斜角θとなる状態で左右の蝶ボルト18を締め込み、受プレート15を姿勢決定状態でベースプレート14に螺着係止させるのである。これにより、図5に示すように、置き台16に雑誌mなどを傾けて置くことができる便利な磁着支持具Aが構築されている。
【0029】
〔別実施例〕
手指yの間隙部13への差し込みをし易くすべく、図7の紙面右側に示すように、張出し板部11を、その背面11aが横端に行くに従って前方に寄る角度αが付くように傾斜させた先窄まり形状とした構造の磁着支持具Aでも良い。また、同様の目的によりに、図7の紙面左側に示すように、張出し板部11をその付根部から壁面Wに対する前方に寄るように曲げ、開き角βが付くようにした構造の磁着支持具Aでも良い。
【0030】
支持部2としては、図示は省略するが、平板部1Aに形成された孔2Aのほか、枠体1に一体成形された引掛けフック部や、無蓋箱(袋)状の収容部など、種々の変更設定が可能である。また、図5,6に示す置き台17が枠体1に一体的に形成されている場合には、その置き台17の全体が支持部2と定義しても良い。
【符号の説明】
【0031】
1 枠体
2 支持部
2A 孔
3 磁石
6 棒状体
11 磁石の横側方に位置する部分
13 間隙部
M 被支持対象
W 壁面
y 手指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に磁着されるための磁石と、被支持対象を支持するための支持部とを備えて成る磁着支持具であって、
前記磁石を保持し、かつ、前記支持部を備える枠体を設けるとともに、前記磁石によって壁面に磁着されている使用状態では、前記枠体における前記磁石の横側方に位置する部分と壁面との間に手指の差し入れを許容する間隙部が形成されるように構成されている磁着支持具。
【請求項2】
前記磁石がその壁面への磁着方向視で矩形を呈する形状に構成されるとともに、前記間隙部が前記磁着方向視において前記磁石の長手方向と交差する横方向に位置する状態に設定されている請求項1に記載の磁着支持具。
【請求項3】
前記支持部が、被支持対象を吊下げ支持可能な棒状体を前記枠体から立設するために前記枠体に形成される孔を有して構成されている請求項1又は2に記載の磁着支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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