説明

磁石埋め込み型回転子構造

【課題】本発明は、各磁石の各磁石体を二層として磁化方向を異ならせることにより、磁束の形状を山状として回転トルクを向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明による磁石埋め込み型回転子構造は、磁石(5)が互いに積層された第1、第2磁石(5A,5B)からなり、第1磁石(5A)は一方向に磁化方向(6)を有する1個の磁石体(5Aa)よりなり、第2磁石(5B)は互いに磁化方向(6)が異なる3個の第1〜第3磁石体(5Ba,5Bb,5Bc)よりなる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石埋め込み型回転子構造に関し、特に、各磁石の各磁石体を二層として磁化方向を異ならせることにより、磁束の形状を山状として回転トルクを向上させるための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種の磁石埋め込み型モータ(一般に、IPMモータと呼称される)としては、ここでは特に開示していないが、図3で示す構成が採用されている。
すなわち、図3において符号1で示されるものは、三相駆動用の三相巻線からなる固定子巻線2を有するステータであり、このステータ1の内側には回転子本体3が軸4を介して回転自在に設けられている。
【0003】
前記回転子本体3の周縁位置には、複数(ここでは8個)の磁石5が八角形状の環状に配設されており、各磁石5の磁化方向6は、回転子本体3の半径方向に沿って形成され、この磁化方向6は各磁石5に対して交互に逆極性となるように構成されている。
【0004】
前述の従来構成においては、各磁石5がN極とS極交互であるため、固定子巻線2との磁束の形成が形状の良い正弦波になりにくく、そのためにIPMモータのトルク向上を得ることが困難であった。
【0005】
次に、前述のような複数の磁石に対して一方向の磁化方向のみを形成した駆動方式として、前述の回転モータを直動モータとしたリニアアクチュエータについて、特許文献1の構成を図4として挙げることができる。
尚、図3と同一又は同等部分には同一符号を付して説明する。
すなわち、図4に示されるように、長手の円筒状ケース1Aの内壁1aには、例えば、三相巻線からなる固定子巻線2を有する円筒状固定子1が設けられている。
【0006】
前記円筒状固定子1の各固定子巻線2の内側の空隙7内には、長手形状の可動子3が軸方向Aに沿って往復移動自在に配設され、この可動子3の外周には、多数のリングマグネット体5が設けられ、各リングマグネット体5は、矢印にて表示されているように、ラジアル方向に磁化されたラジアル磁化方向6に着磁され、その磁化方向は交互に異なる方向となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−369492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の磁石埋め込み型の回転子及び可動子は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、前述の図3の従来構成の場合、各磁石がN極とS極の交互配設となっているだけであるため、これ以上のトルクアップを計ることは困難であった。
また、図4の従来構成の場合、前述の磁気回路における固定子巻線を有する円筒状固定子に対する各リングマグネット体からの磁束の流れは、図5で示されるように、円筒状固定子に流れると共に、可動子の内部に磁束が流れ、正常できれいな波形の正弦波にならず、部分的に磁束が少ない個所が発生し、トルクムラ及び推力リップルの発生となっていた。
前述の円筒状リニアモータの構成は、従来例の図3のIPMモータを展開すれば同一原理モータであり、図3及び図5で示されるように、各リングマグネットと固定子巻線による磁束の形状に乱れが生じ、正常な正弦波状にはならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による磁石埋め込み型回転子構造は、回転子本体内に複数の磁石を埋め込み、固定子巻線との磁気作用により前記回転子本体が回転するようにした磁石埋め込み型回転子構造において、前記磁石は、互いに積層された第1磁石及び第2磁石からなり、前記第1磁石は一方向に磁化方向を有する1個の磁石体よりなり、前記第2磁石は互いに磁化方向が異なる3個の第1〜第3磁石体よりなる構成であり、また、前記第1磁石の磁化方向と前記第2磁石の中央に位置する第2磁石体の磁化方向とは、互いに一致している構成であり、また、前記第2磁石の第2磁石体の磁化方向が前記回転子本体の半径方向外側に向いている時は、前記第1、第3磁石体の磁化方向は前記第2磁石体の方向を向き、前記第2磁石の第2磁石体の磁化方向が前記回転子本体の半径方向内側に向いている時は、前記第1、第3磁石体の磁化方向は前記第2磁石体から離れる方向を向いている構成であり、また、前記各第1磁石の磁化方向は、交互に逆方向である構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による磁石埋め込み型回転子構造は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、回転子本体内に複数の磁石を埋め込み、固定子巻線との磁気作用により前記回転子本体が回転するようにした磁石埋め込み型回転子構造において、
前記磁石は、互いに積層された第1磁石及び第2磁石からなり、前記第1磁石は一方向に磁化方向を有する1個の磁石体よりなり、前記第2磁石は互いに磁化方向が異なる3個の第1〜第3磁石体よりなることにより、各極の磁束の波形が正常な正弦波状となり、従来よりも大幅なトルクアップを得ることができる。
また、前記第1磁石の磁化方向と前記第2磁石の中央に位置する第2磁石体の磁化方向とは、互いに一致していることにより、従来の正弦波の凹凸部分をきれいな状態で形成することができる。
また、前記第2磁石の第2磁石体の磁化方向が前記回転子本体の半径方向外側に向いている時は、前記第1、第3磁石体の磁化方向は前記第2磁石体の方向を向き、前記第2磁石の第2磁石体の磁化方向が前記回転子本体の半径方向内側に向いている時は、前記第1、第3磁石体の磁化方向は前記第2磁石体から離れる方向を向いていることにより、前述の凹凸形状をきれいに形成できる。
また、前記各第1磁石の磁化方向は、交互に逆方向であることにより、磁束の正弦波形状の形成に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による磁石埋め込み型回転子構造を示す平面構成図である。
【図2】図1の要部を示す拡大平面図である。
【図3】従来の磁石埋め込み型回転子構造を示す平面構成図である。
【図4】他の従来構成を示す断面図である。
【図5】図3及び図4の従来構成の磁束発生状態を示す磁束図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、各磁石の各磁石体を二層として磁化方向を異ならせることにより、磁束の形状を山状として回転トルクを向上させるようにした磁石埋め込み型回転子構造を提供することを目的とする。
【実施例】
【0013】
以下、図面と共に本発明による磁石埋め込み型回転子構造の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を付して説明する。
図1において符号1で示されるものは、三相駆動用の三相巻線からなる固定子巻線2を有するステータであり、このステータ1の内側には回転子本体3が軸4を介して回転自在に設けられている。
【0014】
前記回転子本体3の周縁位置には、複数(ここでは8個)の磁石5が八角形状の環状に配設されており、各磁石5は、図2に示されるように、長手形状の互いに積層された第1、第2磁石5A,5Bからなり、前記第1磁石5Aは回転子本体3の半径方向に沿う一方向に磁化方向を有する1個のみの磁石体5Aaよりなり、前記第2磁石5Bは互いに磁化方向6が異なる3個の第1〜第3磁石体5Ba,5Bb,5Bcより構成されている。
【0015】
前記第1磁石5Aの磁化方向6と前記第2磁石5Bの中央に位置する第2磁石体5Bbの磁化方向6とは、互いに一致し、各磁石5の磁石体5Aaの磁化方向6と第2磁石体5Bbの磁化方向6は、前記回転子本体3の各磁石5毎に交互に異なる磁化方向6となるように構成されている。
【0016】
前記各磁石5における各第2磁石5Bの第2磁石体5Bbの磁化方向6が前記回転子本体3の半径方向外側に向いている時は、前記第2磁石体5Bbの両側に位置する第1、第3磁石体5Ba,5Bcの磁化方向6は前記第2磁石体5Bbの方向を向いている。
【0017】
前記各磁石5における各第2磁石5Bの第2磁石体5Bbの磁化方向6が前記回転子本体3の半径方向内側に向いている時は、前記第2磁石体5Bbの両側に位置する第1、第3磁石体5Ba,5Bcの磁化方向6は前記第2磁石体5Bbから離れる方向すなわち前述とは逆方向に向いている。
従って、前述のように、各第1磁石5Aの磁化方向6は、交互に逆方向であることにより、各磁石5における磁束の流れ形状は、磁化方向6で示されるように、山状又はピラミッド形及び逆山状又は逆ピラミッド形に形成されているため、回転子本体3全体としては、前述の図5の磁束の流れとは異なり、きれいな正弦波状となり、トルクリップルのないトルクアップを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明による磁石埋め込み型回転子構造は、回転型モータ及び直線型モータの何れにも適用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 ステータ
2 固定子巻線
3 回転子本体
4 軸
5 磁石
5A 第1磁石
5B 第2磁石
5Aa 磁石体
5Ba 第1磁石体
5Bb 第2磁石体
5Bc 第3磁石体
6 磁化方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子本体(3)内に複数の磁石(5)を埋め込み、固定子巻線(2)との磁気作用により前記回転子本体(3)が回転するようにした磁石埋め込み型回転子構造において、
前記磁石(5)は、互いに積層された第1磁石(5A)及び第2磁石(5B)からなり、前記第1磁石(5A)は一方向に磁化方向(6)を有する1個の磁石体(5Aa)よりなり、前記第2磁石(5B)は互いに磁化方向(6)が異なる3個の第1〜第3磁石体(5Ba,5Bb,5Bc)よりなることを特徴とする磁石埋め込み型回転子構造。
【請求項2】
前記第1磁石(5A)の磁化方向(6)と前記第2磁石(5B)の中央に位置する第2磁石体(5Bb)の磁化方向(6)とは、互いに一致していることを特徴とする請求項1記載の磁石埋め込み型回転子構造。
【請求項3】
前記第2磁石(5B)の第2磁石体(5Bb)の磁化方向(6)が前記回転子本体(3)の半径方向外側に向いている時は、前記第1、第3磁石体(5Ba,5Bc)の磁化方向(6)は前記第2磁石体(5Bb)の方向を向き、前記第2磁石(5B)の第2磁石体(5Bb)の磁化方向(6)が前記回転子本体(3)の半径方向内側に向いている時は、前記第1、第3磁石体(5Ba,5Bc)の磁化方向(6)は前記第2磁石体(5Bb)から離れる方向を向いていることを特徴とする請求項1又は2記載の磁石埋め込み型回転子構造。
【請求項4】
前記各第1磁石(5A)の磁化方向(6)は、交互に逆方向であることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の磁石埋め込み型回転子構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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