説明

神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖の誘導方法、分化及び増殖誘導用組成物、及び薬学的製剤

【課題】本発明の目的は臍帯血由来の間葉系幹細胞を含む組成物の、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖誘導のための用途を提供することである。
【解決手段】本発明の方法に従って臍帯血から分離・培養して得た間葉系幹細胞は神経前駆細胞又は神経幹細胞を神経細胞として分化及び増殖させるので、本発明の間葉系幹細胞及びこれを含む組成物は脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、外傷性中枢神経系疾患及び脊髄損傷疾患を含む神経損傷疾患に対する細胞治療に有効に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト臍帯血(human umbilical cord blood)由来間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)を含有する組成物の、神経前駆細胞(neural precursor cell)又は神経幹細胞(neural stem cell)の神経細胞への分化及び増殖誘導のための用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳卒中(stroke)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病(Pick’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、外傷性中枢神経系疾患(traumatic central nervous system diseases)及び脊髄損傷疾患(spinal cord injury disease)は、神経細胞損傷によって惹起される神経機能障害(dysneuria)を伴い、これらは一般的に正常細胞に深刻な損傷を与えうる薬物療法や外科的手術によって治療されてきた。
【0003】
最近は、正常細胞を移植し、破壊したり損傷した細胞を置換する細胞代替療法(cell replacement therapy)が上記疾病に効果的なものとして認識されていて、特に、所望する組織に分化及び増殖可能な幹細胞(stem cell)が脚光を浴びている。
【0004】
幹細胞は未分化状態で無限増殖が可能であり、特定の刺激によって多様な組織の細胞に分化することができる未分化細胞である。
【0005】
神経幹細胞もまたニューロン(neuron)及び/又は神経膠細胞(glia)、例えば、星状細胞(astrocyte)、乏突起膠細胞(oligodendrocyte)及び/又はシュワン細胞(Schwann cell)などに分化する多分化能力を有する未分化細胞である。神経幹細胞は神経前駆細胞や神経膠前駆細胞を経て神経細胞(neural cell)、例えば、ニューロンや神経膠細胞に分化する。
【0006】
間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪組織、筋肉、腱、靭帯、神経組織などに分化することが可能であり、細胞代替療法に適していることが知られてきた。間葉系幹細胞は、主に骨髄(bone marrow)から得られてきたが、骨髄に存在する間葉系幹細胞は制限的な分化能と増殖能力によってその応用範囲が限定されている。さらに、前記細胞代替療法のために、複雑で幾度にも及ぶ苦痛を伴う段階を経る施術が必要なだけではなく、骨髄を移植する間の移植片対宿主反応を排除するため、患者と同一の組織適合抗原を有するドナーを捜さなければならないという問題点がある。
【0007】
ここ数年間、臍帯血は多量の幹細胞を有するという理由で研究者達の標的とされてきた。患者に臍帯血を移植することによって血液関連の疾患を治療しようとする試みが多くなされていて、自家移植治療のために臍帯血を使用するまで冷凍状態で保存する臍帯血銀行が設立されてきた。
【0008】
骨髄とは異なり、臍帯血は帯血(umbilical cord)から簡単な施術によって得ることが可能で、移植片対宿主反応がほとんど現れない。このような理由で、臍帯血の臨床学的応用のための研究が世界的に行われている。
【0009】
本発明者達も、やはり、臍帯血由来間葉系幹細胞を広範囲に研究しており、前記間葉系幹細胞が神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖を誘導することができることを発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、臍帯血由来の間葉系幹細胞を含んでいる組成物の、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖誘導のための用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によると、臍帯血由来の間葉系幹細胞を神経前駆細胞又は神経幹細胞と共同培養することを含む、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖を誘導する方法が提供される。
【0012】
本発明の他の様態によると、臍帯血由来の間葉系幹細胞を有効成分として含む、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖誘導用の組成物が提供される。
【0013】
本発明のまた他の態様によると、神経損傷疾患の治療を必要とする対象の神経細胞損傷部位に前記組成物を投与することを含む神経損傷疾患の治療方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によって臍帯血から分離・培養して得た間葉系幹細胞は神経前駆細胞又は神経幹細胞を神経細胞に分化及び増殖させるので、本発明の間葉系幹細胞及びこれを含む組成物は脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、外傷性中枢神経系疾患及び脊髄損傷疾患を含む神経損傷疾患に対する細胞治療に有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】臍帯血由来間葉系幹細胞と神経前駆細胞の共同培養に用いられるトランスウェルチャンバー(transwell chamber)の模式図である。
【図2】NG108-15細胞を単独で培養又は臍帯血由来の間葉系幹細胞と共同培養して4日及び7日後、各々、位相差顕微鏡(×100)で観察したNG108-15(NG108)の分化及び増殖を示す写真である。
【図3】NG108-15細胞を単独で培養又は臍帯血由来間葉系幹細胞と共同培養して7日後の、ニューロン分化に対する初期マーカーであるチューブリンベータ-IIIに対する免疫染色(immunostaining)の結果を示す写真である。
【図4】NG108-15細胞を単独で培養又はcAMPを添加して培養するか、或いは他の2つの個体から得た臍帯血由来間葉系幹細胞(hUCB-MSC-1及びhUCB-MSC-2)と共同培養して7日後の、位相差顕微鏡(×100)を用いて観察したNG108-15の分化及び増殖を示す写真である。
【図5】幹細胞を、各々、多様な濃度のhUCB-MSC-1及びhUCB-MSC-2と共同培養して7日後の、位相差顕微鏡(×100)を用いて観察したマウス胎児の脳皮質由来神経幹細胞の分化及び増殖を示す写真である。
【図6】マウス胎児の脳皮質由来神経幹細胞を単独で培養又は臍帯血由来間葉系幹細胞と共同培養して7日後の、ニューロン分化の初期マーカーであるチューブリン-ベータIIIとMAP2(microtubule-associated protein 2)に対する免疫染色の結果を示す写真である。
【図7】NG108-15細胞と多様な濃度の臍帯血由来間葉系幹細胞を共同培養して7日後、トリパンブルー染色法(Trypan blue staining)を利用し測定した、生きている細胞の数を示すグラフである。
【図8】マウス胎児の脳皮質由来神経幹細胞と多様な濃度の臍帯血由来の間葉系幹細胞を共同培養して7日後、トリパンブルー染色法を利用し測定した、生きている細胞の数を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖誘導のための本発明の組成物は特徴的に臍帯血由来間葉系幹細胞を有効成分として含んでいる。
【0017】
本発明で使用された用語“臍帯血”は、哺乳動物の胎盤と新生児をつなぐ臍帯静脈から採取された血液を意味する。
【0018】
本発明で使用された用語“臍帯血由来間葉系幹細胞”は、哺乳動物、好ましくはヒトの臍帯血から分離された間葉系幹細胞を意味する。
【0019】
本発明で使用された用語“神経損傷疾患”は、運動又は感覚神経損傷による行動障害を伴う疾患を意味する。このような神経損傷疾患の例として、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、外傷性中枢神経系疾患及び脊髄損傷疾患が含まれる。
【0020】
また、本発明で使用された用語“治療”は、疾病又は障害を得やすい動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトからまだ診断されてない前記疾病又は障害が発生することの予防、又は神経損傷疾患の進展の抑制を意味する。
【0021】
さらに、本発明で使用された用語“神経細胞(neural cell)”は、中枢神経系又は末梢神経系のニューロン及び/又は神経膠細胞、例えば、星状細胞(astrocyte)、乏突起膠細胞(oligodendrocyte)及び/又はシュワン細胞(Schwann cell)を意味する。
【0022】
臍帯血から、間葉系幹細胞を含む単核球細胞を分離するためにはフィコール・ハイパック密度勾配分離法(Ficoll-Hypaque density gradient method)のような公知の方法を使用することができる。具体的に、前記の方法は、分娩後胎盤が剥離される前に臍静脈(umbilical vein)から臍帯血を採取する段階、前記臍帯血をフィコール・ハイパックグラディエント(Ficoll-Hypaque gradient)で遠心分離して単核球を得る段階、及びこれらから不純物を除去する段階を含む。収得した単核球細胞は間葉系幹細胞の分離に利用するか、使用するまで長期間安全に保管するために超低温冷凍することができる。
【0023】
臍帯血由来の単核球細胞から間葉系幹細胞を分離することはYang SEなどの方法によって行うことができる(Yang SE et al., Cytotherapy, 6(5):476-486, 2004)。具体的には、単核球細胞を5乃至30重量%、好ましくは5乃至15重量%のウシ胎児血清(FBS)を含む培地、例えばDMEM, α-DMEM、イーグルス基本培地(Eagle’s basal medium)又はRPMI 1640培地などに懸濁させる。然る後、前記懸濁液内の細胞を、前記と同じ組成の培地に分けて、5% CO2中に37℃で培養する。培養された細胞が単一層を形成すると、スピンドル(spindle)模様を有する間葉系幹細胞が観察される。以後、前記間葉系幹細胞を、細胞が充分に増殖されるまで繰り返して継代培養する。
【0024】
本発明によると、臍帯血由来間葉系幹細胞を神経前駆細胞又は神経幹細胞と共同培養することによって、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化と増殖を同時に誘導することができる。すなわち、前記臍帯血由来間葉系幹細胞は、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化を誘導するのに効果的なだけではなく、それと同時に、治療効果を増進させるために神経細胞の数を増やして前記効果を維持して強化するのに効果的である。
【0025】
したがって、本発明は神経前駆細胞又は神経幹細胞を神経細胞に分化及び増殖誘導するための臍帯血由来の間葉系幹細胞又は前記細胞を含む組成物の用途を提供する。
【0026】
臍帯血由来間葉系幹細胞又はこれを含む組成物は、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、外傷性中枢神経系疾患及び脊髄損傷疾患を含む神経損傷疾患、好ましくは脳卒中及び脊髄損傷疾患患者に対する細胞治療に使用できる。
【0027】
本発明の組成物は、薬学的に許容される添加剤をさらに含むことができる。
【0028】
本発明の組成物を、当分野における通常の方法に従って用い、単位投与型の薬学的製剤を調製することができる。注射剤又は局所投与形態のような非経口投与用製剤が好ましい。本発明の薬学的製剤は、薬学的に許容される添加剤、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤、及び他の賦形剤をさらに含むことができる。
【0029】
本発明の薬学的製剤は、当分野の通常の方法に従って非経口的に、例えば損傷部位への直接注射だけではなく、脳脊髄液を介した注射、例えば脊髄穿刺及び脳実質組織注射又は静脈や動脈を介して投与することもできる。好ましくは、脳又は脊髄の損傷部位の周辺或いは反対側の部位に直接投与することができる。さらに、本発明の薬学的製剤を損傷部位に投与するために、ダグラス・コンチオルカ(Douglas Kondziolka, ピッツバーグ(Pittsburgh), 1998)の臨床方法を用いることができる。具体的には、対象の頭蓋骨を直径約1cm程度の孔を有するように切開した後、長針の注射器と脳定位枠(stereotactic frame)を利用して、HBSS(Hank’s balanced salt solution)に懸濁された間葉系幹細胞懸濁液を前記の孔内に注入する。
【0030】
前記間葉系幹細胞の通常投与量は1×105乃至1×107細胞/kg体重/注入、好ましくは5×105乃至5×106細胞/kg体重/注入であり、1回又は数回に分けて投与することができる。また、特定患者に対する有効成分の実際投与量は、分化及び増殖させようとする神経細胞の量、選択された投与経路、患者の体重、年齢及び性別など様々な関連因子を考慮して決定されなければならないことを理解しなければならない。
【0031】
また、本発明は、臍帯血由来の間葉系幹細胞を神経前駆細胞又は神経幹細胞と共同培養することを含む神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖を誘導する方法を提供する。前記共同培養時には、臍帯血由来間葉系幹細胞を、神経前駆細胞又は神経幹細胞と1:0.1乃至1:10、好ましくは1:1乃至1:2の細胞数比率で混合し、DMEM、α-DMEM、α-MEM、イーグルス基本培地及びRPMI 1640培地などの一般的な細胞培養用の培地で培養することができる。前記培養培地は、ゲンタマイシンなどの抗生剤及び/又は5乃至15重量%のFBSをさらに含むことができる。培養期間は5乃至10日の範囲でありうる。
また、本発明は、神経細胞損傷疾患の治療が必要な対象の神経細胞損傷部位に臍帯血由来間葉系幹細胞又はこれを含む組成物を投与する段階を含む、神経損傷疾患の治療方法を提供する。前記対象はヒトを含む哺乳動物でありうる。
【0032】
治療学的に有効な量で投与された時、前記臍帯血由来幹細胞は、中枢神経系又は末梢神経系の神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化を誘導するだけでなく、生成された神経細胞の増殖をも誘導し、神経機能を回復させて神経損傷疾患を治療する。前記臍帯血由来間葉系幹細胞の治療効果は、再生された神経細胞を増殖させる能力によって顕著に向上し、長期間持続する。
【0033】
以下の実施例及び試験例は、本発明を例示するためだけのものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【実施例1】
【0034】
臍帯血由来間葉系幹細胞の分離及び培養
ステップ1)臍帯血(umbilical cord blood, UCB)の収得
臍帯血のサンプルは、同意の下、産母の臍静脈から収得した。具体的には、44mlのCPDA-A抗凝固剤(ミドリ十字)を含んでいるUCB収集バック(collection bag)の16ゲージの注射針を臍静脈に挿入してUCBが収集バックに流れるようにした。収集された血液を48時間以内に処理し、細胞の生存率は90%以上であった。
【0035】
ステップ2)間葉系幹細胞の分離及び増殖
ステップ1で得た臍帯血をフィコール・ハイパックグラディエント(密度:1.077g/ml、シグマ(Sigma)社)で遠心分離して単球細胞を収得した。そうした後、前記単核球細胞を数回洗浄して不純物を除去し、5乃至15重量%のFBS(ハイクローン(HyClone)社)を含む最小基本培地(α-MEM、ギブコ(Gibco BRL)社)に懸濁した。その後、予め計量された量の懸濁液を上記と同じ培地に添加し、5%の二酸化炭素インキュベータに37℃で一週間に2回ずつ培地を交換しながら培養した。培養された細胞が単一層を形成すると、顕微鏡でスピンドル模様を有する間葉系幹細胞の生成を確認した。その後、前記形成された間葉系幹細胞を、細胞が充分に増殖されるまで繰り返して継代培養した(Yang SE et al., Cytotherapy, 6(5):476-486, 2004)。
【実施例2】
【0036】
NG108-15の培養
生理学的及び形態学的に神経前駆細胞と類似した特性を有するマウス脳由来のNG108-15細胞(Neuroblastoma X glioma hybrid)(ATCC, Cat. No. ATCC-CRL-HB-12317)を、DEME(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(4 mM/Lグルタミン、4.5g/Lグルコース、4.0mg/Lピリドキシン-HCl、0.1mMヒポキサンチン・グアニン、400nMアミノプテリン、0.016mMチミジン、5乃至15重量%ウシ胎児血清)で培養した。
【実施例3】
【0037】
神経幹細胞の培養
マウス胎児の脳皮質由来の神経幹細胞(Chemicon, Cat. No. SCR029)を神経幹細胞基本培地(Neural stem cell basal medium)(20ng/ml FGF-2、20ng/ml EGF及び2mg/mlヘパリン)で培養した。
【実施例4】
【0038】
臍帯血由来間葉系幹細胞とNG108-15の共同培養I
実施例1のヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(hUCB-MSCs)をトランスウェルチャンバー(図1参照)及び実施例2の培養培地を用いて実施例2のNG108-15(hUCB-MSCs:NG108-15=1:1)と共同培養した。対照群として、NG108-15を単独で実施例2の培養培地で培養した。図1に示されたように、トランスウェルチャンバーは1μmの孔を有する微細孔膜(microporous membrane)によって互いに分離された下部(lower compartment)及び上部(upper compartment)で構成されている。hUCB-MSCは上部に、NG108-15は下部に配置した。
【0039】
培養4日及び7日後に位相差顕微鏡(×100)を用いてNG108-15の分化を観察した。図2に示されたように、臍帯血由来間葉系幹細胞と共同培養したNG108-15(NG108)は長く枝を張り、スピンドル形態で分化する典型的な成熟したニューロン様細胞(neuron-like cell)形態で分化された。
【0040】
また、培養7日後にニューロン発達段階の初期マーカーであるチューブリンベータ-IIIに対する免疫染色を行って分化した細胞がニューロン様細胞であることを確認した。具体的には、hUCB-MSCs、NG108-15及びこれらの混合細胞を各々カバースライドで培養した後、0.3%のトリトンX-100が含有された10%の正常ヤギ血清に加え、室温で1時間ブロッキングした。免疫染色時、一次抗体としてフィコエリトリン(Phycoerythrin)が付着している抗チューブリンベータ-IIIマウス単一クローン抗体(ケミコン(Chemicon)社)をヤギ血清と100倍に希釈し添加した。そうした後、上記混合物を4℃で一晩中反応させた後、0.01MのPBSで3回(5分ごと1回ずつ)洗浄した。
【0041】
図3に示されたように、実施例1の間葉系幹細胞とともに培養されたNG108-15(NG108)はチューブリンベータ-IIIに対する免疫染色について明確な反応を示し、分化された細胞がニューロン様細胞であることを立証した。
【実施例5】
【0042】
臍帯血由来の間葉系幹細胞とNG108-15の共同培養II
実施例1の方法で、他の2つの個体から間葉系幹細胞(hUCB-MSCs-1及びhUCB-MSCs-2)を収得した。実施例4と同じ方法で実施例2のNG108-15を単独で培養したり、hUCB-MSCs-1又はhUCB-MSCs-2と共同で7日間培養した。位相差顕微鏡(×100)で前記細胞の分化及び増殖を観察した。
【0043】
比較群として、NG108-15のニューロン様細胞への分化を誘導する1mMのcAMP(NeuroReport 9, 1261-1265, 1998)をNG108-15の培養培地に添加した。
【0044】
図4に示されたように、臍帯血由来間葉系幹細胞と共同培養したNG108-15は、成熟したニューロン様細胞の形態に分化された。hUCB-MSCs-1及びhUCB-MSCs-2の間に分化誘導活性の有意差はなかった。
【実施例6】
【0045】
臍帯血由来間葉系幹細胞と神経幹細胞の共同培養I
実施例3の神経幹細胞を、トランスウェルチャンバーを用いて実施例3の培地で単独で培養するか(対照群)、実施例5のhUCB-MSCs-1又はhUCB-MSCs-2と共同で培養した。hUCB-MSCsは上部に、神経幹細胞は下部に配置した。
【0046】
hUCB-MSCs-1及びhUCB-MSCs-2は、各々500、1000、2000、4000及び6000細胞/cm2の濃度で培地に添加し、神経幹細胞は各々2000細胞/cm2の濃度で共同培養した。7日後に、位相差顕微鏡(×100)を用いて前記細胞の分化及び増殖を観察した(図5参照)。
【0047】
図5に示されたように、間葉系幹細胞と共同培養した神経幹細胞は成熟したニューロン形態に分化された。hUCB-MSCs-1及びhUCB-MSCs-2の間に分化誘導活性の有意差はなかった。さらに、神経幹細胞の分化及び増殖の程度は、共同培養した間葉系幹細胞の濃度に正比例した。
【実施例7】
【0048】
臍帯血由来間葉系幹細胞と神経幹細胞の共同培養II
実施例3の神経幹細胞を、トランスウェルチャンバーを用いて実施例3の培地で単独で培養するか(対照群)、実施例1のhUCB-MSCsと共同で培養した(hUCB-MSCs:神経幹細胞=1:1)。hUCB-MSCsは上部に、前記神経幹細胞は下部に配置した。
【0049】
培養4日及び7日後に、実施例4に記載された方法を用いてニューロン発達段階の初期マーカーであるチューブリンベータ-IIIとMAP2(microtubule-associated protein 2)に対する免疫染色を行って分化された細胞が神経細胞であることを確認した。
【0050】
図6に示されたように、実施例1の間葉系幹細胞と共同培養された神経幹細胞は、チューブリンベータ-III及びMAP2に対する免疫染色について明確な反応を示して分化されたニューロンであることが立証された。
【実施例8】
【0051】
臍帯血由来間葉系幹細胞と神経前駆細胞又は神経幹細胞の共同培養
各々実施例4及び6の方法に従って、実施例2のNG108-15を単独で培養するか(対照群)、実施例1のhUCB-MSCsと共同で培養して、実施例3の神経幹細胞を単独で培養するか(対照群)、実施例5のhUCB-MSCs-1及びhUCB-MSCs-2と共同で培養した。7日後に、トリパンブルー染色法(trypan blue staining)を用い、生きている細胞の数を測定した(図7及び図8参照)。
図7及び図8に示したように、NG108-15及び神経幹細胞の数は、共同培養した間葉系幹細胞の濃度に従って増加し、これは、臍帯血由来間葉系幹細胞が神経前駆細胞の神経細胞への分化を誘導するのに効果的であるだけではなく、それと同時に、神経細胞の数を増加させ、前記効果を持続且つ向上させるのに効果的であるということを示している。
【0052】
本発明は前記特定の実施例の観点において記述したが、当業者による多様な変形及び変更が可能であり、添付された請求項によって定義されるように、本発明の範疇に属するものとして認識されなければならないであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血由来の間葉系幹細胞を有効成分として含む組成物の、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖を誘導するための用途。
【請求項2】
臍帯血由来の間葉系幹細胞を神経前駆細胞又は神経幹細胞と共同培養することを含む、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖の誘導方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記臍帯血由来間葉系幹細胞と神経前駆細胞又は神経幹細胞の比率が1:0.1乃至1:10であることを特徴とする方法。
【請求項4】
臍帯血由来間葉系幹細胞を神経損傷疾患の治療を必要とする対象の神経細胞損傷部位に投与することを含む、神経損傷疾患の治療方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記神経損傷疾患が、脳卒中(stroke)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病(Pick’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、外傷性中枢神経系疾患(traumatic central nervous system diseases)、及び脊髄損傷疾患(spinal cord injury disease)からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4において、
前記対象が、哺乳動物であることを特徴とする方法。
【請求項7】
臍帯血由来の間葉系幹細胞を有効成分として含む、神経前駆細胞又は神経幹細胞の神経細胞への分化及び増殖誘導用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−511381(P2010−511381A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539185(P2009−539185)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006084
【国際公開番号】WO2008/066330
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(504310412)メディポスト・カンパニー・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】MEDIPOST CO., LTD.
【Fターム(参考)】