説明

神経変性の分別診断

【課題】神経変性の特異的検出および分別検査のための新たな方法を提供する。
【解決手段】本発明は、個体の1またはそれ以上の体液中の少なくとも3つの神経学的マーカーを検出する組み合わせアッセイを用いる、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のための新たな方法であって、神経変性のタイプおよび程度が対照試料と比較して該神経学的マーカーのすべてのレベルの量的変化により反映されるものである方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性の診断の分野に関する。本発明は、体液中の異なる神経学的マーカーを検出する組み合わせアッセイを使用する、神経変性の分別診断のための新たな方法に関する。また本発明は、脳脊髄液中のRab3a、SNAP25またはα−シヌクレイン(synuclein)を検出するための新たな方法ならびに神経変性の分別診断のための組み合わせアッセイにおけるこれらの方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性はいくつかの神経学的疾患の特徴となっている。神経変性は、軸索損傷、除々に広がるニューロンの死、神経伝達物質放出または受容体機能の異常、ミエリンの破壊、CNS血流の変化、血液/脳関門機能不全および/または変化した酸素代謝、他のCNS代謝経路における困難性および/またはCNSの機能不全を引き起こす可能性のある種々の他のしばしば不明な様相を包含しうる。今日では、異なる疾患は異なる神経機能不全の様相に関連している(概説としてはWilson et al., 1991参照)。例えば、アルツハイマー病は、大脳皮質中の神経細胞の死および消失が関与するすべての神経変性疾患のうち最も重要なものである。それは最も普通に起こる老人の痴呆であり、患者および家族の苦難ならびに当該疾病により完全に無能となった患者の長期のケアに必要なコストによる経済的損失を引き起こす。前頭側頭葉痴呆は初期の変性的痴呆の2番目にありふれたタイプであり、全痴呆患者の約3〜10%を占める(Brun, 1993; Knopman, 1993)。臨床的特徴は優勢な前頭葉症候群の存在により特徴づけられ(Sjogren, 1997)、それは情緒障害および精神分裂病のような他の障害においても観察される(Abbruzzese et al, 1997)。レービー小体疾患は、進行性の痴呆または精神病とともに存在する疾病である。発症時には不存在であるかまたは穏やかであるが最終的には通常の堅固なものとなるなパーキンソン病の徴候は、一般的には重症である。レービー小体は脳幹、基底核、視床下部核および新皮質に多く見られる。パーキンソン病は人生の半ば以降に起こるレービー小体疾患の1つのタイプであり、非常にゆっくりと進行し、長い経過をたどる。それは、主に黒質線状体ドパミン作動性系に関連したニューロン系の疾患の一例と考えられる。一方、脳血管性疾患は、脳血管に関連したいくつかの病理学的プロセスの1つにより引き起こされる。それは発展途上国における心臓疾患および癌の後の3番目に主要な死亡原因であり、100000人につき794人の割合である。65歳以上の人工のうち5%が卒中、すなわちこれらの病理学的プロセスの1つの結果として生じる急性の神経学的傷害にかかる。神経変性はある種の化合物(表1)、放射線照射、化学療法または低酸素−虚血イベントに曝露されることによっても起こる。小児白血病および脳腫瘍に対する長期の治療(または予防)により併発される病気は、行動の変化、学業不振、記憶力低下、知能減退、成長遅延、ホルモン混乱、および異常なCTスキャン(脳萎縮、脳室拡張、脳内石灰化)を包含する。白血病生存者における知恵遅れ(IQ、記憶力、注意力、視覚空間認識能の欠乏)(Fletcher et al., 1988)または認識機能低下(Ochus et al., 1991)は、それぞれ、放射線照射後あるいは頭蓋照射を行わない化学療法の後に観察された。さらに、4歳未満の小児は、頭蓋放射および/または化学療法の神経毒性効果に対して特に感受性がある(Moore et al., 1986; Jannoun et al., 1983)。大部分の薬剤に関しては、高用量治療、組み合わせ化学療法、当該照射併用、および頸動脈内または鞘内注射が、標準的な経口または静脈内治療よりも神経学的合併症を引き起こす可能性が高い。神経系のいずれかの部分が損傷を受ける可能性がある。癌患者はより攻撃的に治療を受け、化学療法剤をより多く投与され、長く生き、新しい化学療法剤が開発され、現存している薬剤がより意図的または新規な方法で使用されるので、癌の化学療法による神経学的合併症はよりありふれたものとなり、重症で複雑なものとなるであろう。
【0003】
患者が一般的な医学的ケアを必要とする大部分の神経学的症状は、容易に示される疾病のプロセスによる。疾患部位およびその原因に関する正しい診断を行うための神経学的分析方法を開発することが臨床研究者の任務である。正確な診断後にのみ、疾病の効果的な管理および治療が可能である。能の機能および構造の研究を可能にするポジトロン放出核種トモグラフィー(PET)、単一フォトン放出核種コンピューター計算トモグラフィー(SPECT)および核磁気共鳴スペクトル法(NMRS)のごとき患者における神経変性のいくつかの診断方法が開発されている。しかしながら、大部分の神経学的疾患は、疾患の他の形態の排除に基づいて臨床的に診断され、いくつかの場合には異なる神経学的疾患を区別することさえ不可能である。例えば、レービー小体タイプの痴呆あるいはレービー小体痴呆(LBD)は神経弛緩剤に対して感受性があり、アルツハイマー病と区別することが臨床的に非常に困難である(McKeith et al., 1996; Ballard et al., 1998)。大部分の患者(75%以上)は神経病理学的にアルツハイマー病であると決定されるが、臨床的にアルツハイマー病であると決定された患者の15ないし25%はレービー小体痴呆を有する(Hooten et al., 1998)。レービー小体痴呆はアセチルコリンエステラーゼでの治療により感受性があるので、アルツハイマー病からのレービー小体痴呆の分別は治療最適化にとり必須である(Levy et al., 1994; Perry et al., 1994; Wilcock et al., 1994)。
【0004】
前頭側頭葉痴呆は、その徴候が他の疾患においても観察されうるので、しばしば他のタイプの痴呆または他の精神病と誤診される。
【0005】
血管性疾患とアルツハイマー病との間に明確な相違はなく、誤診の危険性が明らかである。血管性疾患の薬理学的治療は可能なので、早期の正しい診断が重要である。
【0006】
ある種の化合物、放射線照射、化学療法または低酸素−虚血イベントのごとき誘発薬剤により引き起こされる脳の損傷に関する認識および治療は、大部分の神経学者に対して頻繁かつ重要な臨床的な問題を残す。臨床的診断が疑わしい場合、神経病理学的試験により最終的な診断を決定的に行うことができる。そのようなものとして、正確かつ分別的な神経変性に関する診断が死亡後にのみ可能となる。それゆえ、患者における神経学的疾患の早期検出ならびに異なる薬剤により誘導された神経学的変化のモニタリングのための方法は、誘発剤への曝露を継続できるかどうか、適当な用量および薬剤が個々の患者に使用され、正しい治療の開始のために使用されるかどうかを決定するための助けとなるであろう。
【0007】
最近になって、細胞死、軸索成長/再誘導、炎症および/または血液脳関門機能不全に関連した中枢神経系(CNS)の症状を反映する多くの神経学的マーカーが利用できるようになった。
【0008】
例えば、微小管関連蛋白タウ(tau)は対になった螺旋フィラメント(PHF)および神経原線維のもつれ(NFT)の主要蛋白成分である(Brion et al., 1985; Delacourte and Defossez, 1986; Grundke-Iqbal et al., 1986; Kosik et al., 1986; Wood et al., 1986; Kondo et al., 1988)。タウ蛋白は異なるイソ形態として存在し、それらのうち4ないし6種は成人脳に見られるが、1のイソ形態だけは胎児脳において検出される。イソ形態の多様性は、mRNAスプライシングによりヒト染色体17上の単一遺伝子から生じる(Himmler, 1989; Goedert et al., 1989; Andreadis et al., 1992)。分子クローニングから推定されるタウ蛋白の最も著しい特徴は分子のカルボキシ末端部分に存在する31または32個のアミノ酸の並びであり、3回または4回繰り返されることがある。さらなる多様性はタウ分子のNH末端における29ないし58個のアミノ酸の挿入により生じる(Goedert et al., 1989)。インビボにおいて、タウは、そのリピート領域(255〜381)中に局在化する微小管結合ドメインに関連する相互作用によって微小管アッセンブリーおよびニューロンの軸索コンパートメントの安定性を促進する(Lewis et al., 1988)。正常な環境において、成人脳はタウ1分子あたり2〜3分子のリン酸根を含む(Selden and Pollard, 1983; Ksiezak-Reding et al., 1992)。ラットおよびヒトにおいて研究された正常タウにおける異なる部位でのリン酸化は発達状態に依存している(Lee et al., 1991; Bramblett et al., 1993; Goedert et al., 1993)。リン酸化の結果として生じる60、64および68kDaのタウ変種が、神経原性線維のもつれを示す脳の領域において検出されている(Delacourte et al., 1990; Goedert et al., 1992; Flament et al., 1990; Greenberg and Davies, 1990)。これらの脳はタウ1分子あたり6〜8個のリン酸根を含む(Ksiezak-Reding et al., 1992)。PHFから単離されたタウ(PHF−タウ)において、リン酸化は数個の位置において起こっている(Iqbal et al., 1989; Lee et al., 1991; Hasegawa et al., 1992)。いままでのところ、脳抽出物中のホスホ−タウの検出は、抗体によって(Mab Alz50: Ghanbari et al., 1990; Mab Ab423: Harrington et al., 1991; Mab AT120: Vandermeeren et al., 1993; Mab AT180; Mab AT270: WO95/17429として公開された国際特許出願ならびにMab AT8: WO93/08302として公開された国際特許出願)あるいは分子量の変化によって(Flament et al., 1990)あるいは機能のアッセイ(Bramblett et al., 1992)による他の方法により行われており、その検出により、変化した細胞骨格特性に関連した痴呆対象と正常な老人対象とを、あるいは他のタイプの痴呆患者とが識別されている。リン酸化されていないタウのエピトープを認識する個々のモノクローナル抗体の組み合わせを用いて、脳脊髄液中のタウおよびPHF−タウの存在が検出されている(Van de Voorde et al., 1995)。
【0009】
ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)のガンマサブユニットはニューロン細胞質の主要構成成分である(Kato et al., 1981)。NSEは可溶性脳蛋白の3%を占める。成人において、それは虚血、感染または腫瘍起源の活性ニューロンのダメージを評価することにおいて有用であると考えられている(Garcia et al., 1994)。小児血清中のNSEについては研究されていない。Neraら(1988)は、脳脊髄液中または血清中の高レベルのNSEが昏睡状態の小児における効果の乏しさおよび死亡と関連性があることを示した。しかしながら、増加した血清NSEは必ずしもCNS起源ではない。末梢ニューロンを含むいくつかの組織、内分泌腺、リンパ球、赤血球、ならびに血小板はNSEを含み(Kaiser, 1989)、このマーカー単独での使用に対する妨げとなりうる。
【0010】
40〜43個のアミノ酸の長さのβ−アミロイドは、アミロイド前駆体蛋白またはAPPと呼ばれる大きな前駆体蛋白の蛋白分解的開裂により生じる。アミロイドは正常細胞の代謝の間に生成される。アミロイドペプチドは高度な異種性を示す。β−アミロイドの2つの主要な形態が同定されており、β−アミロイド(1−40)およびβ−アミロイド(1−42)である。β−アミロイド(1−42)はアルツハイマー病、ダウン症候群および正常な老人の脳の神経突起プラークの主要構成成分である。それは神経毒性であるかもしれず、他の損傷に対するニューロンの弱さを増すことが知られている。さらに、低濃度の可溶性アミロイドは、同時に生じる神経毒性に依存しないコリン作動性活性の低下を誘導しうる。アセチルコリンは認識プロセスにおいて重要な役割を果たしている(Auld et al., 1998)。十分に定義されたペプチドのエピトープを特異的に認識する高親和性モノクローナル抗体の開発により、未濃縮脳脊髄液中のβ−アミロイド(1−42)ペプチドに関する簡単な試験が可能となった(Citron et al., 1997; Johnson-Wood et al., 1997)。この試験は薬剤、放射線照射、またはAPPプロセッシングを妨害する化学物質のモニタリングにおいて価値を有することも証明されている。
【0011】
ニューロモジュリンまたはB−50とも呼ばれる成長関連蛋白−43(GAP−43)は神経組織特異的蛋白であり、主に軸索および前シナプス末端に局在化している。GAP−43は、ニューロン成長、神経突起形成、ならびに再生およびニューロン新芽形成において役割を果たしていると考えられている(Skene and Woillard, 1981; Basi, 1987; Benowitz et al., 1989; Mercken et al., 1992a)。シナプス蛋白はシナプス機能において異なった役割を有している。シナプシンのごとき蛋白は、融合に利用可能な小胞の量を決定することにおいて重要であるが、Rab3およびラブフィリンは膜に対して小胞を標的化することにおいて重要である。ドッキングのプロセスはシナプトブレビン、SNAP25、Secおよびシンタクシンの分子複合体によって決定されているが、CSPおよびシナプトタグミンは小胞内容物のCa2+依存性放出において重要な役割を果たすと考えられている。アルファ−シヌクレイン(synuclein)は黒質および基底核のシナプスにおいて豊富であり、α−シヌクレインおよびγ−シヌクレインを包含する蛋白のファミリーに属している。
【0012】
体液中に存在し、安定であり、中枢神経系におけるニューロンの代謝状態を反映するかかる細胞内マーカーは、臨床的徴候が存在する前でさえも、神経変性の早期認識において有用であるかもしれない。可能ならば他の診断方法と組み合わせて使用できるニューロン機能に関する生化学的指数は、神経変性の臨床的な診断の正確さおよび治療的モニタリングを改善することを大きく促進するであろう。
【0013】
アルツハイマー病は豊富な老人斑、細胞内のもつれおよびシナプスの損失により特徴づけられる。タウおよびβ−アミロイド(1−42)はこれらのもつれおよびプラークのそれぞれの必須成分であり、これらはADの神経病理学的試験における2つの診断構成要素である。タウおよびβ−アミロイド(1−42)は両方とも脳脊髄液(CSF)中において検出され、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)がアルツハイマー病の神経学的マーカーとして使用可能であるということは現在十分に確認されているが、CSFにおけるいかなる変化がアルツハイマー病の病理生理学に関係しているのかはまだ知られていない。CSF−タウは、同年齢の対象と比較するとアルツハイマー病患者において増加しており、脳におけるもつれの数に関連しているが、一方では、アルツハイマー病においてβ−アミロイド(1−42)は減少している。老人性の、散在性のプラークを伴わない痴呆、例えば前頭葉痴呆においてβ−アミロイド(1−42)が減少していることが見出されているので、おそらくβ−アミロイド(1−42)はプラーク形成には関連していないであろう。脳組織に関する研究は、プラークともつれが痴呆の程度に関連していることを示唆しているが、Mini-Mental Stateにより決定したところCSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)のレベルは一貫して痴呆の程度に関連しているわけではなく、同様に存在している他のタイプの痴呆と重複している。アルツハイマー病患者におけるベータ−アミロイド(1−40)のレベルは正常対照と比較して変わりがないので(Motter et al., 1995)、タウおよびβ−アミロイド(1−42)に加えてβ−アミロイド(1−40)を神経学的マーカーとして使用すること(Soji et al., 1998;非特許文献1)は、アルツハイマー病の診断アッセイを改善するものではない。
【0014】
脳のGAP−43に関する研究は、アルツハイマー病の前脳皮質においてそのレベルが低下するが、他の領域ではそのレベルが上昇することを示唆している(Coleman et al., 1992)。痴呆性疾患の患者の体液中のGAP−43に関する研究はまだ行われていない。
【0015】
AD患者の脳におけるもう1つの重要な構造上の変化はシナプスの損失である。実際に、もつれ、プラークおよびシナプス損失を測定する最近の研究は、主にシナプス損失が痴呆の程度に関連していることを示唆している(Terry et al., 1991)。シナプス損失の研究において、シナプトフィシンの免疫反応性の低下が観察された。他のシナプス蛋白:シナプトタグミン、Rab3a、シナプトブレビンおよびシンタクシンについても同様の減少が報告されている(Blennow et al., 1996; Davidsson et al., 1996; Shimohama et al., 1997; Ferrer et al., 1998)。また、いくつかの形態のパーキンソン病に関して、シナプス蛋白が病理学的役割を果たしていることが強く示されている。2種のまれな形態の家族性パーキンソン病のα−シヌクレインにおいて2つの変異が検出され、α−シヌクレインはレービー小体中の主成分として特徴づけられた。インビボにおけるレービー小体の形成はシヌクレインの蓄積により生じる可能性があり、シヌクレイン蓄積は迅速な軸索輸送の減少またはシヌクレインの過剰発現に結果である可能性がある(Jensen et al., 1998)。シナプス蛋白は主に痴呆の程度と関連があるように思われる(Terry et al., 1991)ので、体液中のシナプス蛋白の検出および定量方法を提供することは有用であろう。CSF中のシナプス蛋白の存在および定量はまだ十分に開発されていない。クロモグラニンはCSF中のシナプス損失のマーカーとしてすでに使用されているが、減少は「純粋」なまたはタイプIのアルツハイマー病においてのみ示されている(Blennow et al., 1995)。その後まもなくシナプトタグミンIがCSF中に存在することが示された(Davidsson et al., 1996)。この研究において、アルツハイマー患者の左側の海馬体および前頭皮質のBrodmann領域9においてシナプトタグミンが選択的に減少することが示された。CSFの貯留物に基づいて、この減少がCSFにも存在する可能性が示唆されたが、定量されていない。Davidssonら(1996)はCSF中のRab3およびシナプトフォシンを検出することができなかった。
【0016】
また、ある種の化合物、放射線照射、化学療法または低酸素−虚血イベントへの曝露により誘発される神経変性に関しては、正確な診断ツールが使用できない。周産期仮死は神経学的後遺症に関連している可能性がある。しかしながら、低酸素−虚血イベント後の早期の正確な評価は新生児ケアにおける最も困難な問題の1つとなっている。現在に至るまで、脳の血流の研究と組み合わされた臨床的な脳電図による評価、および神経放射線学的評価が最も容易に利用できる方法である。変化した脳の代謝活性がCSF中の成分の変化に反映されるということが除々に明らかになってきたので、CSFの神経学的マーカーの検出は低酸素−虚血イベントの評価におけるデータを補うものとなる可能性がある(Garcia-Alix et al., 1994)。化学療法、放射線照射または低酸素−虚血イベント後のCSFの神経学的マーカーと行動の変化とのリンクについては全く調べられていない。
【非特許文献1】Soji M, Matsubara E, Kanai M, Watanabe M, Nakamura T, Tomidokoro Y, Shizuka M, Wakabayashi K, Igeta Y, Ikeda Y, Mizushima K, Amari M, Ishiguro K, Kawarabayashi T, Harigaya Y, Okamotot K, Hirai S (1998) J Neurol Sci 158: 134-140.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、個体における神経変性の特異的検出、定量、および/または分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体におけるアルツハイマー病の、より特異的な検出、定量および/または分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体におけるレービー小体疾患の、より特異的な検出、定量および/または分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体におけるパーキンソン病の、より特異的な検出、定量および/または分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体における前頭側頭葉痴呆の、より特異的な検出、定量および/または分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、パーキンソン病とアルツハイマー病との分別方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、レービー小体疾患とアルツハイマー病との分別方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、アルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のための方法、ならびに異なる形態のアルツハイマー病の分別診断のための方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、化学療法により、あるいは化合物または放射線照射に対する曝露により誘発された神経変性の診断方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、白血病または脳腫瘍の治療を受けた個体における、化学療法により誘発された神経変性の診断方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、周産期仮死により生じる神経変性の診断方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、脳脊髄液中のシナプス蛋白Rab3aの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体における神経変性の、より特異的検出、定量および/または分別診断を可能にする、脳脊髄液中のRab3aの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、アルツハイマー病の、より特異的検出、定量および/または分別診断を可能にする、脳脊髄液中のRab3aの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、脳脊髄液中のシナプス蛋白α−シヌクレインの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、個体におけるより特異的な検出、定量、および/または分別診断を可能にする、脳脊髄液中のα−シヌクレインの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、アルツハイマー病および/またはレービー小体疾患の、より特異的な検出または定量を可能にする、ならびに/あるいはレービー小体疾患とアルツハイマー病との分別診断を可能にする、脳脊髄液中のα−シヌクレインの新たな検出方法を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、上記方法を行うための診断キットを提供することである。
本発明のもう1つの目的は、特定の治療の有効性の治療モニタリングおよび/または決定のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を行い、体液中の特定の異なる神経学的マーカーを検出する組み合わせアッセイを用いると、正確かつ迅速な神経変性の特異的検出および分別検査ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、
(1)個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のための方法であって、下記工程:
神経学的マーカーを特異的に認識する抗体を用いることにより、個体から得た1またはそれ以上の体液試料中の少なくとも3種の神経学的マーカーのレベルを決定する
を特徴とし、さらに以下のことを特徴とする方法:
アルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のために、
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のホスホ−タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウおよびホスホ−タウのレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウ、ホスホ−タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;
(2)個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のためのキットであって、
少なくとも3種の抗体を含み、各抗体が異なる神経学的マーカーを認識するものであり、かつ、各抗体が下記の神経学的マーカー:
タウ、ホスホ−タウ、β−アミロイド(1−42)
の組み合わせを認識するものであるか;あるいは
少なくとも2種の抗体を含み、各抗体が異なる神経学的マーカーを認識するものであり、該抗体のうち1つが2つの異なる体液中の神経学的マーカーを認識するものであり、各抗体が下記の神経学的マーカーの組み合わせ:
−タウ、β−アミロイド(1−42);または
−ホスホ−タウ、β−アミロイド(1−42)
のいずれかを認識するものである、キット;
(3)個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のためのキットであって、下記のもの:
異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する少なくとも3種の抗体(一次抗体または捕捉抗体)を一緒にあるいは別個に含む支持体;
神経学的マーカー−一次抗体複合体の1つをそれぞれ認識する二次抗体(ディテクター抗体);
−可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付すかあるいはカップリングするマーカー;
−可能ならば、一次抗体と体液試料間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液
−可能ならば、標準化を目的として、神経学的マーカーの検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド
を含む、(2)に記載のキット;
(4)(1)に記載の方法を行うために特別に設計された(2)または(3)に記載のキット
を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、体液中の異なる神経学的マーカーを検出する組み合わせアッセイを使用する、神経変性の特異的検出および分別検査のための新たな方法が提供される。本発明により、正確かつ迅速な神経変性の特異的検出および分別検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、個体中の神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のための方法に関する。これらの方法は、該個体の1つまたはそれ以上の体液試料中の少なくとも3つの神経学的マーカーのレベルを決定することを包含するものであり、該方法により、神経変性のタイプおよび程度が、対照試料と比較した場合の該神経学的マーカーすべてのレベルの量的変化により反映される。
【0022】
本願の実施例からわかるように、少なくとも3つの神経学的マーカーの使用により、より特異的かつ高感度な神経変性的症状の検出が可能となった。少なくとも3つの神経学的マーカーの使用により、臨床診断を基礎としては分別できなかった多くの神経学的症状間の識別が可能となったことも明らかである。
【0023】
本明細書の用語「神経変性」および「神経変性的症状」は同じ意味であり、本明細書において混用される。これらの用語は、神経の機能不全に関連した脳症状を包含する。神経変性に関連した種々の疾病はWilson et al. (1991)において引用されている。それらはアルツハイマー病、卒中(集中性脳傷害)、散在性脳傷害、血管性疾患、パーキンソン病、レービー小体疾患、クロイツフェルド・ヤコブ(Creutzfeld Jacob)病、前頭側頭葉痴呆、ギラン・バレ(Guilain Barre)症候群、多発性硬化症、正常圧水頭、筋委縮性側索硬化症、分裂病、鬱病、神経ラチリズム、転換および仮死を包含する。しかしながら、このリストは完全なものではない。神経機能不全に関連していることが知られている他の疾患も包含される。神経変性は、神経機能不全に関連しており、薬剤を包含する特定の原因により引き起こされるいずれかの種類の脳のダメージまたは脳のいずれかの症状も包含する。本発明の好ましい具体例において、特に検出、定量および/または分別診断される神経変性的症状は、アルツハイマー病、レービー小体疾患、パーキンソン病および前頭側頭葉痴呆からなる群より選択される。「レービー小体疾患」は、脳幹、基底前脳、視床下部核および/または新皮質におけるレービー小体を示すいずれかの疾患について用いる。レービー小体疾患はパーキンソン病、多発性全身性萎縮症およびレービー小体痴呆を包含する。
【0024】
本発明のもう1つの好ましい具体例において、特に検出、定量および/または分別診断される神経変性的症状は、低酸素−虚血イベント、化学療法、放射線療法により、あるいは化合物または放射線に対する曝露により誘導されるものである。より詳細には、神経変性は、白血病または脳腫瘍の治療の間に化学療法または放射線療法により誘導されうる。
【0025】
しかしながら、この神経変性的症状のリストは不完全である。脳の機能不全が起こる他の症状も包含される。
【0026】
本明細書の「神経変性の特異的検出」なる表現は、3つ未満の神経学的マーカーを診断に使用した場合に得られるよりも、特定の神経変性的症状に対する関連性を有する特定の疾患または特定の神経学的疾患の原因に関して、より高い感度および特異性が得られることを意味する。
本明細書の表現「神経変性の定量」は、特定の神経変性的症状による神経の機能不全の程度が測定されることを意味する。
本明細書の表現「神経変性の分別診断」は、神経学的障害の特定の疾患または特定の原因が特定の神経変性的症状に関連している種々の神経変性的症状を識別することをいう。
【0027】
個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断は、下記工程を含むイムノアッセイを用いて、該個体の1またはそれ以上の体液試料中の少なくとも3つの異なる神経学的マーカーの検出により行われる:
該個体から1またはそれ以上の体液試料を得ること;および
抗原−抗体複合体の生成に適した条件下において、体液試料中の異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する少なくとも3種の抗体(一次抗体または捕捉抗体)に該体液試料を接触させること;および
該体液試料に対する該抗体の免疫学的結合を検出すること;
対照試料と比較して、該神経学的マーカーすべてのレベルの量的変化に反映される神経変性のタイプおよび程度を該体液中の該神経学的マーカーのレベルに基づいて推断すること。
【0028】
次いで、免疫学的結合の検出のための方法を行うことができ、該方法は、抗原および神経学的マーカーの1つを認識する抗体により形成された該抗原−抗体複合体を下記のものと混合することにより行われる:
a)二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体は、抗原−抗体複合体の特異的エピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
抗原−抗体複合体の特異的エピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないポリクローナル抗体であって、好ましくは固定化された神経学的マーカーまたは神経学的マーカー−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたポリクローナル抗体であってもよい
b)該二次抗体に特異的にタグを付する、あるいは特異的にカップリングするマーカーであって、当業者に知られたいずれかのマーカー
c)抗体と体液試料との間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応、を行うための適当な緩衝液;および
d)また可能ならば、標準化する目的で、神経学的マーカーの検出に使用する抗体と反応する精製蛋白または合成ペプチド。
【0029】
有利には、本発明に使用する抗体は適当な支持体上に固定化される。抗体は3つまでの(3つよりも多い神経学的マーカーを検出する場合には3つよりも多い)異なった支持体または同じ支持体上に存在していてもよい。抗体が同じ支持体上に(例えば、1のマイクロタイタープレートのウェル)に存在する場合、それらそれぞれの免疫学的結合を特異的マーカーにより検出してもよい。あるいはまた、抗体は同じ支持体の別々の位置に存在してもよい。その場合、これらの抗体のいずれかの免疫学的結合を検出する汎用マーカーを用いて検出を行ってもよい。有利には、ニ次抗体自身がマーカーとの直接または間接的カップリングのためのマーカーまたは基を担持しているものである。あるいはまた、当業者に知られた他のいずれかのイムノアッセイフォーマットを用いて本発明の方法を実施してもよい。
【0030】
用語「エピトープ」は、抗体結合部位により特異的に結合される抗原−抗体複合体の部分をいう。エピトープは当該分野で知られた方法により決定でき、あるいは当該分野で知られた種々のコンピューター推定モデルにより推定できる。
本明細書の表現「認識」、「〜と反応」、「免疫学的結合」または「抗原−抗体複合体」は、抗体および抗原の免疫学的特性を考慮したすべての条件下で抗原と抗体との間の結合が起こることと解釈すべきである。
用語「体液」は、血液、リンパ液、尿および脳脊髄液(CSF)(これらに限らない)を包含する人体に存在するすべての液体をいう。
【0031】
特別な具体例において、本発明は、体液試料が脳脊髄液試料および血液試料からなる群より選択されるものである上記方法に関する。血液試料は患者から採取される全血試料を包含する。より好ましくは、血液試料は血漿試料または血清試料を包含する。
【0032】
本発明の方法において、2つの異なる体液中の同じマーカーを検出すること(少なくとも他のマーカーの検出と組み合わせて)、あるいは3つの異なる体液試料中の同じマーカーを検出することも可能である。例えば、脳脊髄液中において2つの神経学的マーカーが検出され、これらの神経学的マーカーの一方が血漿中においても検出される。実施例に示すように、2つの異なる体液中の同じマーカーの検出は、1の体液中においてのみこのマーカーを検出する場合と比較して、より特異的かつ高感度な検出ならびに神経変性のより良い分別診断を可能にする。
【0033】
本発明の方法において検出される神経学的マーカーは、特定のタイプの神経細胞または細胞機能に関連したいずれの蛋白であってもよく、神経変性の条件下において1またはそれ以上の体液中のそのレベルが疾病のプロセスまたは神経学的疾患の原因を示すものである。特定の神経学的条件下において、1またはそれ以上の体液中のある神経学的マーカーは増加し、またある神経学的マーカーは減少する。特定の神経学的条件下における特定の体液中において変化したレベルを有する3、4、5、6、7、8個またはそれ以上の神経学的マーカーの可能な組み合わせを、個体における該神経学的症状の特異的検出、定量および/または分別診断に使用することができる。神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断に使用可能な神経学的マーカーは:タウ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリン、シナプス蛋白(Rab3a、SNAP25、α−シヌクレイン、シナプシン、シナプトタグミン、シナプトブレビン、シンタキシン、ラブフィリン、n−sec、システインストリング蛋白および他の蛋白)、グリア細線維酸性蛋白(GFAP)、100、IL6、TNF、IL1、IL2、ニューロフィラメント(NF)、ミエリン塩基性蛋白(MBP)および14−3−3を包含する。しかしながら、これらに限らない。特定の疾病プロセスまたは神経学的疾患の原因を示す他の神経学的マーカーを使用することもできる。異なる神経学的疾病および脳損傷にかかっている患者体液中のこれらの神経学的マーカーのうちいくつかの挙動を表2に示す。
【0034】
調製された、あるいは当該分野において存在するモノクローナル抗体であって、上記神経学的マーカーの1つを認識するモノクローナル抗体を神経学的マーカーの検出に使用することができる。タウを特異的に認識する抗体はAlz50 (Ghanbari et al., 1990), Ab423 (Harrington et al., 1991), AT8 (WO 93/08302として公開された国際出願), AT120 (Vandermeeren et al., 1993); AT180 および AT270 (WO 95/17429として公開された国際出願) および AT100 (WO 96/04309として公開された国際出願)を包含する。しかしながら、タウを特異的に認識する、当該分野で知られた他の抗体を用いることもできる。NSEを特異的に認識する抗体は10C1および2E7ならびにInnogenetics (Gent, Belgium) から入手できる他のもの, Dako (Glostrup, Denmark; Cat No BBS/NC/VI-H14)から入手できるような市販されている抗体, Biogenex (San Ramon, CA, USA; Cat Nos MA055-5C and AM055-5M)、RDI (Flanders, NJ, USA; Cat No RDI-TRK4N6)、Diagnostic Systems (Basel, Switzerland; Cat No 07 34373)、Immunosource (Brussels, Belgium; Cat Nos CLA 73/5 and CR7041M)およびCortex Biochem (San Leandro, CA, USA; Cat No CR7047)から入手できるもの等を包含する。NSEを認識する抗体のリストは完全でなく、当該分野において利用または記載されている抗体であって、NSEを認識するものを用いることもできる。β−アミロイドを特異的に認識する抗体は2H3, 8E5 (Johnson-Wood et al., 1997), 10H3 (Majocha et al., 1992; Friedland et al., 1994), 2G3 (Citron et al., 1996), BA-27 and BC-05 (Suzuki et al., 1994), BNT77 (Asami-Odaka et al., 1995), 369.2B (Koenig et al., 1996), 22C11 (Lannfelt et al., 1995), 6E10 (Kim et al., 1990) および AMY-33 (Stern et al., 1990)を包含する。しかしながら、当該分野において知られた、β−アミロイドを特異的に認識する他の抗体を用いてもよい。ニューロモジュリンを特異的に認識する抗体は、NM2 (Oestreicher et al., 1994), NM4 (Six et al., 1992), NM1, NM3, NM6, NM7 および NM8 (Mercken et al., 1992a)を包含する。しかしながら、ニューロモジュリンを特異的に認識する、当該分野で知られた他の抗体を使用してもよい。Rab3aを特異的に認識する抗体は市販されている抗体を包含し、例えば、Transduction Labs (Lexington, KY, USA; カタログ番号R35520)から入手可能である。SNAP25を特異的に認識する抗体は市販抗体を包含し、例えば、Serotec (Oxford, UK; Cat No SP12)、Sternberger Monoclonals Inc. (Distributed by Affinity Research Products Lim., Mamhead, Exeter, UK; Cat No SMI-81)、Chemicon (Temecula, CA, USA; Cat No MAB331) および Transduction Labs (Lexington, KY, USA; Cat No S35020)から入手できる。SNAP25を認識する抗体のリストは完全でなく、市販されている、あるいはSNAP252を認識すると当該分野において記載されている他の抗体を用いてもよい。α−シヌクレインを特異的に認識する抗体は市販抗体を包含し、例えば、Transduction Labs (Lexington, KY, USA; カタログ番号S63320)から入手可能である。市販されている、あるいはα−シヌクレインを認識すると当該分野において記載されている他の抗体を用いてもよい。神経学的マーカーとして使用できる他のシナプス蛋白の特異的検出のために、種々の抗体が市販されており、そして/あるいは当該分野において知られている。S100を特異的に認識する抗体は市販されており、例えば、Biogenex (San Ramon, CA, USA; Cat Nos MA058-C および AM058-5M) および Innogenetics (Gent, Belgium; Cat No M-011)から得られるものである。S100を認識する抗体のこのリストは完全でなく、市販されている、あるいはS100を認識すると当該分野において記載されている他の抗体を用いてもよい。14−3−3を特異的に認識する抗体は市販抗体を包含し、例えば、Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA; Cat No sc-1657) および Transduction Labs (Lexington, KY, USA; Cat No F46820)から得ることができる。14−3−3を認識する抗体のこのリストは完全でなく、市販されている、あるいは14−3−3を認識すると当該分野において記載されている他の抗体を用いてもよい。ニューロフィラメントを特異的に認識する抗体は市販抗体を包含し、例えば、Innogenetics (Gent, Belgium; Cat Nos M-011 および M-005) および Alexis (Laeufelfingen, Switzerland; Cat Nos BC-4000-A-L001 および BC-4010-A-L001)から得ることができる。ニューロフィラメントを認識する抗体のこのリストは完全でなく、市販されている、あるいはニューロフィラメントを認識すると当該分野において記載されている他の抗体を用いてもよい。
【0035】
Fab、F(ab)2、ssFv(1本鎖可変フラグメント)のごときこれらのモノクローナル抗体に由来するフラグメント、ならびに抗体の可変領域を保持している構築物のような他の抗体であって、元の結合特性を保持しているものを本発明の方法に使用することもできる。一般的には、かかるフラグメントは、例えばパパイン、ペプシンまたは他のプロテアーゼのような酵素での消化により得られる。モノクローナル抗体、またはそのフラグメントを種々の用途のために修飾できることが、当業者によく知られている。ミニ抗体およびジアボディー、トリアボディー、4価抗体およびペプタボディーのごとき多価抗体を本発明の方法に使用することもできる。これらのフラグメントおよび多価抗体の調製は国際特許出願WO98/29442に詳述されている。
【0036】
本発明の方法に使用されるモノクローナル抗体は、HまたはL鎖をコードするマウスおよび/またはヒトゲノムDNA配列から、あるいはHまたはL鎖をコードするcDNAクローンから組み換えDNA法によって作成されるマウスモノクローナル抗体のヒト化バージョンであってもよい。あるいはまた、本発明の方法に使用されるモノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体であってもよい。用語「ヒト化抗体」は、免疫グロブリンのフレームワークの少なくとも一部分がヒト免疫グロブリン配列に由来することを意味する。
【0037】
本発明の方法に使用される抗体を、酵素、蛍光または放射活性タイプの適当な標識で標識してもよい。
【0038】
本発明の特別な具体例において、上記方法において検出される神経学的マーカーの少なくとも1つは、タウ、ホスホ−タウ、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリン、ニューロン特異的エノラーゼおよび/またはシナプス蛋白からなる群より選択される。上記群から1つが選択される3、4、5、6、7、8つまたはそれ以上のマーカーの可能な組み合わせを、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断に使用することができる。本発明の方法いおいて使用される1つよりも多い(すなわち、2、3、4、5、6、7つまたはそれ以上またはすべての神経学的マーカー)を上記群から選択することができる。
【0039】
本発明のより特別な具体例において、上記方法において検出される1つ、より好ましくは2つ、最も好ましくは3つの神経学的マーカーを下記群から選択する:
タウ、β−アミロイド(1−42)、およびニューロモジュリン;あるいは
タウ、ニューロン特異的エノラーゼおよびニューロモジュリン;あるいは
タウ、ホスホタウおよびβ−アミロイド(1−42)
【0040】
より特別な具体例において、体液中、好ましくはCSF中においてタウを検出し、2種の異なる体積、好ましくはCSFおよび血漿においてβ−アミロイド(1−42)を検出する。
【0041】
もう1つのより特別な具体例において、上記方法において検出される少なくとも1つの神経学的マーカーは、Rab3a、SNAP25およびα−シヌクレインからなる群より選択されるシナプス蛋白である。上記シナプス蛋白の群からそのうち1つが選択されている3、4、5、6、7、8またはそれ以上のマーカーを、個体の神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断に使用することができる。
【0042】
したがって、本発明は、脳脊髄液中のRab3aの検出方法にも関し、該方法は少なくとも下記工程を含む:
個体から脳脊髄液試料を得ること;次いで、
抗原−抗体複合体の生成に適した条件下で、Rab3aを認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)に該脳脊髄液試料を接触させること;次いで、
該脳脊髄液試料への該抗体の免疫学的結合を検出すること。
【0043】
Rab3aを特異的に認識する抗体を脳組織中のRab3aの検出に利用することができるが、脳脊髄液中のRab3aの検出の証拠はない。Davidssonら(1996年)は彼らの方法を用いることによっては脳脊髄液中のRab3aを検出することができなかった。脳脊髄液中のRab3aの特異的検出を可能にするいずれの抗体をこの新しい方法に使用してもよい。本発明の方法において使用する好ましいモノクローナル抗体を、Transduction Labs (Lexington, KY, USA; カタログ番号R35520)から得ることができる。
【0044】
有利には、本発明で使用するモノクローナル抗体は適当な支持体上に固定化された状態である。別法として、当業者に知られた他のいずれかのイムノアッセイフォーマットを用いることにより本発明方法を実施してもよい。
【0045】
次いで、抗原およびRab3a認識抗体により形成された該抗原−抗体複合体を、下記のものと一緒にすることにより免疫学的結合の検出方法を実行することができる:
a)二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、Rab3aまたはRab3a−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
b)該二次抗体に特異的にタグを付しあるいはカップリングするマーカーであって、当業者に知られたいずれかの使用可能なマーカー
c)抗体と脳脊髄液との間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液;および
d)さらに可能ならば、標準化を目的として、Rab3aを認識する抗体と反応する精製蛋白または合成ペプチド。
【0046】
本明細書の実施例に示すように、ポリクローナルRab3a血清をディテクター抗体として使用してもよい。
【0047】
有利には、二次抗体自体がマーカーを担持しているか、あるいはマーカーに直接または間接的にカップリングする基を担持している。
【0048】
本発明は、脳脊髄液中のSNAP25を検出するための新たな検出方法にも関し、該方法は少なくとも下記工程を含む:
個体から脳脊髄液試料を得ること;次いで、
抗原−抗体複合体の生成に適した条件下で、SNAP25を認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)に該脳脊髄液試料を接触させること;次いで、
該脳脊髄液試料への該抗体の免疫学的結合を検出すること。
【0049】
SNAP25を特異的に認識する抗体を脳組織中のSNAP25の検出に利用することができるが、脳脊髄液中のSNAP25の検出の証拠はなく、これまで検出が示されていない。
【0050】
脳脊髄液中のSNAP25の特異的検出を可能にするいずれの抗体をこの新しい方法に使用してもよい。本発明の方法において使用する好ましいモノクローナル抗体を、Serotec (Oxford, UK;カタログ番号SP12)、Sternberger Monoclonals Inc. (Affinity Research Products Lim., Mamhead, Exter, UK;カタログ番号SMI-81)、Chemicon (Temecula, CA, USA;カタログ番号MAB331)またはTransduction Labs (Lexington, KY, USA, カタログ番号S35020)から得ることができる。
【0051】
有利には、本発明で使用するモノクローナル抗体は適当な支持体上に固定化された状態である。別法として、当業者に知られた他のいずれかのイムノアッセイフォーマットを用いることにより本発明方法を実施してもよい。
【0052】
次いで、抗原およびSNAP25認識抗体により形成された該抗原−抗体複合体を、下記のものと一緒にすることにより免疫学的結合の検出方法を実行することができる:
a)二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、SNAP25またはSNAP25−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
b)該二次抗体に特異的にタグを付しあるいはカップリングするマーカーであって、当業者に知られたいずれかの使用可能なマーカー
c)抗体と脳脊髄液との間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液;および
d)さらに可能ならば、標準化を目的として、SNAP25を認識する抗体と反応する精製蛋白または合成ペプチド。
【0053】
本明細書の実施例に示すように、ポリクローナルSNAP25血清をディテクター抗体として使用してもよい。
【0054】
有利には、ニ次抗体自体がマーカーを担持しているか、あるいはマーカーに直接または間接的にカップリングする基を担持している。
【0055】
本発明は、脳脊髄液中のα−シヌクレインを検出するための新たな検出方法にも関し、該方法は少なくとも下記工程を含む:
個体から脳脊髄液試料を得ること;次いで、
抗原−抗体複合体の生成に適した条件下で、α−シヌクレインを認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)に該脳脊髄液試料を接触させること;次いで、
該脳脊髄液試料への該抗体の免疫学的結合を検出すること。
【0056】
α−シヌクレインを特異的に認識する抗体を脳組織中のα−シヌクレインの検出に利用することができるが、脳脊髄液中のα−シヌクレインの検出の証拠はない。脳脊髄液中のα−シヌクレインの存在はこれまで報告されていないので、α−シヌクレインがCSF中に存在するかどうかは疑わしいものであった。本発明は、はじめてα−シヌクレインが脳脊髄液中に存在することを示すことができた。さらに、脳脊髄液中のα−シヌクレインの定量的検出のための正確な方法が開発された。また本発明者は、レービー小体疾患(これに限らない)を包含するある種の神経変性条件下においてα−シヌクレインが変化することも示した。
【0057】
脳脊髄液中のα−シヌクレインの特異的検出を可能にするいずれの抗体をこの新しい方法に使用してもよい。本発明の方法において使用する好ましいモノクローナル抗体を、Transduction Labs (Lexington, KY, USΑ, カタログ番号R35520)から得ることができる。
【0058】
有利には、本発明で使用するモノクローナル抗体は適当な支持体上に固定化された状態である。可能ならば、この固定化状態は抗IgGで被覆されたあるいは被覆されていないマイクロタイタープレートであってもよい。別法として、当業者に知られた他のいずれかのイムノアッセイフォーマットを用いることにより本発明方法を実施してもよい。
【0059】
次いで、抗原およびα−シヌクレイン認識抗体により形成された該抗原−抗体複合体を、下記のものと一緒にすることにより免疫学的結合の検出方法を実行することができる:
a)二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体(またはディテクター抗体)は、抗原−抗体複合体のエピトープを認識するが、単独の一次抗体を認識しないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、α−シヌクレインまたはα−シヌクレイン−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
b)該二次抗体に特異的にタグを付しあるいはカップリングするマーカーであって、当業者に知られたいずれかの使用可能なマーカー
c)抗体と脳脊髄液との間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液;および
d)さらに可能ならば、標準化を目的として、α−シヌクレインを認識する抗体と反応する精製蛋白または合成ペプチド。
【0060】
有利には、二次抗体自体がマーカーを担持しているか、あるいはマーカーに直接または間接的にカップリングする基を担持している。
【0061】
好ましい具体例において、Rab3a、SNAP25および/またはα−シヌクレインを検出するためのこれらの方法を、1またはそれ以上の他の神経学的マーカーの検出方法と組み合わせて使用して、個体における神経変性を特異的に検出、定量および/または分別診断することができる。
【0062】
さらに好ましい具体例において、Rab3a、SNAP25および/またはα−シヌクレインを検出するためのこれらの方法を、タウ、ホスホタウ、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリン、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)からなる群より選択される1またはそれ以上の神経学的マーカーの検出方法と組み合わせて使用することができる。
【0063】
より詳細には、神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断に使用されるマーカーを下記の群から選択することができる:
タウ、ホスホタウ、NSE、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリンまたはRab3a;あるいは
タウ、ホスホタウ、NSE、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリンまたはSNAP25;あるいは
タウ、ホスホタウ、NSE、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、ニューロモジュリンまたはα−シヌクレイン。
【0064】
上記群からの3、4、5、6または7つの可能なマーカーを、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断に使用することができる。
【0065】
もう1つの具体例において、Rab3a、SNAP25および/またはα−シヌクレインを検出する方法を組み合わせて使用して、神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断を行うことができる。したがって、本発明は、神経学的マーカーの2つまたは3つがRab3a、SNAP25およびα−シヌクレインからなる群より選択される方法に関する。
【0066】
非常に特別な具体例は、アルツハイマー病および/またはレービー小体疾患の特異的検出または定量のための、および/またはアルツハイマー病とレービー小体疾患との分別診断のための上記方法に関し、該方法において、
脳脊髄液試料中の少なくともα−シヌクレインのレベルが決定され;および/または
脳脊髄液試料中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびα−シヌクレインのレベルが決定される。
【0067】
もう1つの非常に特別な具体例は、アルツハイマー病の特異的検出または定量のための、および/またはアルツハイマー病と他の痴呆との分別診断のための方法に関し、該方法において、
脳脊髄液試料中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびRab3aのレベルが決定され;あるいは
脳脊髄液試料中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびSNAP25のレベルが決定される。
【0068】
もう1つの非常に特別な具体例は、アルツハイマー病および/またはパーキンソン病の特異的検出または定量のための、および/またはアルツハイマー病とパーキンソン病との分別診断のための方法に関し、該方法において、脳脊髄液試料中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリンのレベルが決定される。
【0069】
もう1つの非常に特別な具体例は、化学療法、化合物への曝露および/または放射線照射により誘導された神経変性の特異的検出または定量のための方法に関し、該方法において、脳脊髄液試料中のタウ、ニューロン特異的エノラーゼおよびニューロモジュリンのレベルが決定される。
【0070】
もう1つの非常に特別な具体例は、脳腫瘍または白血病の治療を受けた個体において化学療法、化合物への曝露および/または放射線照射により誘導された神経変性の特異的検出または定量のための方法に関し、該方法において、脳脊髄液試料中のタウ、ニューロン特異的エノラーゼおよびニューロモジュリンのレベルが決定される。
【0071】
もう1つの非常に特別な具体例は、周産期仮死により誘導された神経変性の特異的検出または定量のための方法に関し、該方法において、少なくとも3つの神経学的マーカーが検出される。
【0072】
もう1つの非常に特別な具体例は、前頭側頭葉痴呆の特異的検出または定量、および/または前頭側頭葉痴呆と他の痴呆との分別診断のための方法に関し、該方法において、脳脊髄液試料中のタウ、ホスホタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルが決定される。
【0073】
もう1つの非常に特別な具体例は、アルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のための、異なる形態のアルツハイマー病の分別診断のための、および/またはアルツハイマー病と他の痴呆との分別診断のための方法に関し、該方法において少なくとも:
脳脊髄液試料中のタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定され、血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定され;あるいは
脳脊髄液試料中のホスホタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定され、血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定され;あるいは
脳脊髄液試料中のタウおよびホスホタウのレベルが定量的に決定され、血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定され;あるいは
脳脊髄液中のタウ、ホスホタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルが定量的に決定される。
【0074】
個体の体液中の少なくとも3つの神経学的マーカーのレベルを決定することによる、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のための上記方法を単独で使用することができ、あるいは簡単にモニターされる神経学的終点(例えば、白血球カウント)と組み合わせて、あるいは血漿中の薬剤濃度の測定と組み合わせて使用することができる。
【0075】
また本発明は、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のための診断キットにも関し、該キットは該個体の1またはそれ以上の体液試料中の異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する少なくとも3つの抗体を含む。
【0076】
より詳細には、本発明は、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のためのキットに関し、該キットは少なくともマイクロタイタープレートのごとき支持体を含み、該支持体は該個体の1またはそれ以上の体液試料中の異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する、一緒にされたあるいは別個のウェル中にある少なくとも3つの抗体を有している。
【0077】
また本発明は、個体における神経変性の特異的検出、定量および/または分別診断のためのキットにも関し、該キットは下記のものを含む:
異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する、一緒にされたあるいは別個のウェル中にある少なくとも3つの抗体(一次抗体または捕捉抗体)を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体、
神経学的マーカー−一次抗体複合体の1つをそれぞれ認識する二次抗体(ディテクター抗体)
該二次抗体は神経学的マーカー−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体は神経学的マーカー−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、固定化された神経学的マーカーまたは神経学的マーカー−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付するあるいはカップリングするためのマーカー、
可能ならば、一次抗体と体液試料との間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液、
可能ならば、標準化を目的として、神経学的マーカーの検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド。
【0078】
特別な具体例において、本発明は、上記方法の1つまたはそれ以上を行うためにそれぞれ設計された上記診断キットに関する。
【0079】
より詳細には、本発明は、下記のものを特異的に認識する抗体を少なくとも含む上記診断キットに関する:
α−シヌクレイン;あるいは
タウ、β−アミロイド(1−42)およびα−シヌクレイン;あるいは
タウ、β−アミロイド(1−42)およびRab3a;あるいは
タウ、β−アミロイド(1−42)およびSNAP25;あるいは
タウ、β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリン;あるいは
タウ、ニューロン特異的エノラーゼおよびニューロモジュリン;あるいは
タウ、ホスホタウおよびβ−アミロイド(1−42);あるいは
タウおよびβ−アミロイド(1−42)
【0080】
また本発明は、脳脊髄液中のRab3aを検出するためのキットにも関し、該キットはRab3aを認識するモノクローナル抗体を少なくとも含む。
【0081】
また本発明は、脳脊髄液中のRab3aを検出するためのキットにも関し、該キットはRab3aを認識するモノクローナル抗体を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体を少なくとも含む。
【0082】
より詳細には、本発明は、脳脊髄液中のRab3aを検出するあめのキットに関し、該キットは下記のものを含む:
少なくとも、Rab3aを認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体
二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体はRab3a−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体はRab3a−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、固定化されたRab3aまたはRab3a−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付するあるいはカップリングするためのマーカー、
可能ならば、一次抗体と体液試料との間、ニ次抗体とRab3a−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液、
可能ならば、標準化を目的として、Rab3aの検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド。
【0083】
また本発明は、脳脊髄液中のSNAP25を検出するためのキットにも関し、該キットはSNAP25を認識するモノクローナル抗体を少なくとも含む。
【0084】
また本発明は、脳脊髄液中のSNAP25を検出するためのキットにも関し、該キットはSNAP25を認識するモノクローナル抗体を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体を少なくとも含む。
【0085】
より詳細には、本発明は、脳脊髄液中のSNAP25を検出するあめのキットに関し、該キットは下記のものを含む:
少なくとも、SNAP25を認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体
二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体はSNAP25−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体はSNAP25−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、固定化されたSNAP25またはSNAP25−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付するあるいはカップリングするためのマーカー、
可能ならば、一次抗体と体液試料との間、ニ次抗体とSNAP25−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液、
可能ならば、標準化を目的として、SNAP25の検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド。
【0086】
また本発明は、脳脊髄液中のα−シヌクレインを検出するためのキットにも関し、該キットはα−シヌクレインを認識するモノクローナル抗体を少なくとも含む。
【0087】
また本発明は、脳脊髄液中のα−シヌクレインを検出するためのキットにも関し、該キットはα−シヌクレインを認識するモノクローナル抗体を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体を少なくとも含む。
【0088】
より詳細には、本発明は、脳脊髄液中のα−シヌクレインを検出するあめのキットに関し、該キットは下記のものを含む:
少なくとも、α−シヌクレインを認識するモノクローナル抗体(一次抗体または捕捉抗体)を含むマイクロタイタープレートのごとき支持体
二次抗体(またはディテクター抗体)
該二次抗体はα−シヌクレイン−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないモノクローナル抗体であってもよく、あるいは
該二次抗体はα−シヌクレイン−一次抗体複合体のエピトープと免疫学的複合体を形成できるが、単独の一次抗体とは免疫学的複合体を形成できないポリクローナル抗体であってもよく、該ポリクローナル抗体は、好ましくは、固定化されたα−シヌクレインまたはα−シヌクレイン−一次抗体複合体を用いる免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製されたものである
可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付するあるいはカップリングするためのマーカー、
可能ならば、一次抗体と体液試料との間、二次抗体とα−シヌクレイン−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液、
可能ならば、標準化を目的として、α−シヌクレインの検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド。
【0089】
また本発明は、特定の治療の治療モニタリングおよび/または有効性の決定のための上記いずれかの方法またはキットの使用にも関する。開示したマーカーのいずれかに特異的な抗体を記載するすべての文献の内容を、参照により本明細書に一体化させる。
【0090】
以下の実施例は本発明を説明するためにだけ役立つ。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
【表11】

【0102】
【表12】

【0103】
【表13】

【0104】
【表14】

【実施例1】
【0105】
実施例1:CSF中のRab3aおよびSNAP25の検出
1.1 Rab3aおよびSNAP25のクローニング
製造者の増幅プロトコルに従ってQuick-ScreenTMヒトcDNAライブラリー(Clontech, Palo Alto, CA, USA;カタログ番号K1003-1)からRab3aおよびSNAP25コーディング配列を増幅するために特別なプライマーを使用した。簡単に説明すると、94℃で45秒、60℃で45秒アニーリング、次いでTaqポリメラーゼ(Stratagene, Amsterdam, The Netherlands;カタログ番号600131)を用いて72℃で2分伸長からなるサイクルを35サイクル行った。72℃で7分間のポリメラーゼ伸長反応にてプログラムを終了した。Perkin-Elmer(Ueberlingen, Germany)DNAサーマルサイクラー(480型)にて反応を行った。Rab3aを増幅するためのプライマーの配列はヒトRab3a配列(Zahraoui et al., 1989)に基づくものであった:ATGプライマーとしてATG GCA TCG GCC ACA GAC TCG CGC TAT GGG (Tm=76℃)および逆プライマーとしてCGCG TCTAG AGG CTC TCA GCA GGC GCA GTC CTG GTG CGG (Tm=77℃)。SNAP25を増幅するためのプライマーの配列はヒトSNAP25配列(Zhao et al., 1994)に基づくものであった:ATGプライマーとしてATG GCC GAA GAC GCA GAC ATG CGC AAT GAG (Tm=75℃)および逆プライマーとしてCGCG CTAG ACA CTT AAC CAC TTC CCA GCA TCT TTG TTG (Tm=59℃)。
PCR生成物を再増幅して十分な量のPCR生成物を得て、T4 DNAポリメラーゼで仕上げを行い、XbaIで切断し、NcoIで平滑末端化され、XbaIで切断されたpIGRHISA(Innogenetics, Gent, Belgium;カタログ番号2075)中に連結した。これにより、Rab3aに関してpIGRHISARab3a(Innogenetics, Gent, Belgium;カタログ番号3008)を、SNAP25に関してpIGRH6SNAP25a(Innogenetics, Gent, Belgium;カタログ番号2941)を得た。連結生成物をDH1(λ)(Bachmann, 1987)中に形質転換し、テトラサイクリン耐性コロニーをインサートの存在について分析した。インサートを配列決定し、正しい配列(Zahraoui et al., 1989; Zhao et al., 1994)を含むプラスミドをさらに使用した。Rab3aに関しては、PCRによるいくつかの人工的要因が存在した。2つのクローンから正しい配列を組み立てた。
【0106】
1.2 Rab3aおよびSNAP25の発現および精製
PLに基づく発現系pIGRHISARab3aおよびpIGRH6SNAP25aを用いてRab3aおよびSNAP25をそれぞれイー・コリにおいて発現させた。温度感受性cIリプレッサーを有するMC1061 pACI(Wertman et al., 1986)中に正しいプラスミドを形質転換した。約25kDaのクーマシー染色可能なバンドが12.5%アクリルアミドゲル上に可視化され、合理的な発現レベルが示された。組み換え蛋白は、NiIMACカラムでの精製を迅速ならしめる6個の付加ヒスチジン残基を含む融合蛋白として得られた。3リットルの熱誘導イー・コリ(Houchi, 1988; Van Gelder et al., 1993)を用いて、10mgよりも多い組み換えRab3aおよびSNAP25を精製し、少なくとも95%の均質性であった。
【0107】
1.3 Rab3aおよびSNAP25に特異的な抗体の取得および特徴付け
Rab3aおよびSNAP25に対する抗体をウサギにおいて生成させた。50μgの精製蛋白を2匹のウサギに腹腔内注射した(100μg/ウサギ1匹)。4週間ごとに注射を行い、ELISAで力価を測定した。抗体は脳抽出物により特徴づけられた。Rab3a免疫反応性に関する結果を図1に示す。アルツハイマー病患者および対照患者からの組織試料を、5倍体積の1% SDS、1% バナジン酸ナトリウム、10mM Tris pH7.4中で迅速にホモジナイズし、次いで、水浴にて5分間煮沸することにより調製した。ホモジネートを5分間遠心分離(12000g、室温)して不溶性物質を除去した。少量の上清を用いてBCA法(Pierce, Rockford, Illinois, USA)により蛋白濃度を測定した。上清を水で希釈して蛋白濃度を2mg/mlとし、同体積の2x試料緩衝液(250mM Tris pH6.8、3% SDS、10%グリセロール、0.006%ブロモフェノールブルーおよび2% β−メルカプトエタノール)を添加した。10〜12.5%ゲルのLaemmli系によりゲル電気泳動を行った。半乾燥ブロッティング法により蛋白をニトロセルロース(Schleicher and Schull, Dassel, Germany;カタログ番号401196)に移行させた。10mM Tris pH7.5,150mM NaCl中の1% BSAでニトロセルロースフィルターをブロックした。1% BSA中適当濃度(±1μg/ml)の一次抗体およびニ次抗体を添加した。
【0108】
1.4 Rab3aおよびSNAP25に特異的な抗体の免疫アフィニティー精製
0.3M NaHCO,pH8.6中で精製組み換え抗原を透析した。透析前後においてOD280値を測定して蛋白量を評価した。Mini-Leak-Medium(KEM-EN-TEC Biozyme, Vancouver, BC, Canada;カタログ番号10127、ロット番号60232-5)を用い、製造者の指示に従って免疫精製を行った。抗体の一部をビオチン化させた(Amersham, Place Little Chalfont ]Buckinghamshire, UK;カタログ番号RPN 2202)。銀染色およびウエスタンブロットにより精製および標識化をモニターした(データ示さず)。
【0109】
1.5 CSF中のRab3aおよびSNAP25の安定性および存在の評価
特異的モノクローナル抗体(Transduction Labs, Lexington, KY, USA; R35520およびS35020)を捕捉抗体として用い、免疫精製されたポリクローナルウサギ抗血清をディテクター抗体として用いて、CSF中に添加したシナプス蛋白Rab3aおよびSNAP25の安定性を、37℃で一晩インキュベーションした後に評価した。濃度500pg/mlにおいて、SNAP25およびRab3aに対する組み換え体の免疫反応性は試験したCSF中で一晩置いても変化しなかった(図2)。
50mlのCSFからのアルブミンおよびIgGの抽出ならびにカラムでの分画により、両蛋白がCSF中に存在するという直接的証拠を得た。フラクションを乾燥させ、試料緩衝液に溶解し、12%アクリルアミドゲルで泳動し、ブロッテイングした。Rab3aおよびSNAP25モノクローナル抗体を用いてPVDF膜をプローブした。予想分子量およびpIの免疫反応性バンドが検出された。
【0110】
1.6 Rab3aおよびSNAP25の検出およびCSFレベルの定量的測定のためのELISAの開発
モノクローナルRab3aまたはSNAP25抗体を捕捉抗体とし、免疫アフィニティー精製されたビオチン化ポリクローナル抗体をディテクター抗体とするサンドイッチELISAを開発した。MaxisporpマイクロタイタープレートをAffini Pureヤギ抗マウスIgG(Jackson Immuno Research Laboratories, Inc., West Grove, Pennsylvania, USA; カタログ番号115-035-144)で被覆した。PBS中1% BSA(臨床用グレード 98% 脂肪酸不含; ICN, Biomedical Research Products, Costa Mesa, CA, USA; カタログ番号 105033, ロット番号 6p384)をブロッキング緩衝液として使用した。ブロッキング緩衝液で1/1000に希釈したマウス抗Rab3a(Transduction Labs, Lexington, KY, USA; カタログ番号 R35520, IgG2a, クローン 9, ロット番号 606-259-1550 ロット 2)または抗SNAP25(Transduction Labs, Lexington, KY, USA; カタログ番号 S35020, IgG1, クローン 20)を添加した。インキュベーション後、組み換え抗原を異なる濃度で添加した(濃度範囲40000〜2.56pg/ml)。同時に、アフィニティー精製されたウサギ抗Rab3aまたは抗SNAP25抗血清を最適バックグラウンドシグナル比となるように選択した濃度で添加した。次いで、1/2000に希釈したセイヨウワサビ標識ストレプトアビジン(Immuno Research Laboratories, Inc., West Grove, Pennsylvania, USA; カタログ番号 016-030-084)によりビオチン化ウサギ抗体を検出した。カップリングしたペルオキシダーゼを、TMB H基質溶液により検出した。30分後に2N HSOで反応を停止し、吸光度を450nmで測定した。このELISAに基づいて10pg/ml程度のRab3aを検出することができた。SNAP25のアッセイは同じ原理に基づくものであった。
【実施例2】
【0111】
実施例2:脳脊髄液中のα−シヌクレインの存在および検出
2.1 α−シヌクレインに対する特異性に関する市販抗体の評価
異なるシヌクレインのイソ形態(isoform)に対する市販モノクローナル抗体(Transduction Labs, Lexington, KY, USA; カタログ番号 S63320, IgG1)の特異性を評価した。公表された配列のデータ(α-synuclein: accession number L08850; β-synuclein: accession number S69965; γ-synuclein: accession number AF010126)に基づくプライマーを用いて、α−シヌクレイン、β−シヌクレイン、γ−シヌクレインのオープンリーディングフレーム(ATGから停止コドンまで)をヒト脳cDNAライブラリー(HL5018; Clontech, Palo Alto, CA, USA)から増幅した。報告されたように、いくつかの重要なアミノ酸変化がγ−シヌクレインのオリジナル配列に存在した:このクローンにはK12EおよびK68Eがあり、このクローンのアミノ酸109の多型性はE109Vであった。アミノ末端に6個のさらなるヒスチジンを付加するPLベースの発現系(ICCG 3307; Innogenetics, Gent, Belgium)中にインサートをサブクローンした。Hisタグを付したシヌクレイン融合蛋白をイー・コリにおいて発現させた。次いで、イー・コリ蛋白をSDS−PAGEで泳動し、Transduction Labs (Lexington, KY, USA)から市販されているモノクローナル抗体を用いてイムノブロッテイングした。このモノクローナル抗体はα−シヌクレインに対して特異性を示し、シヌクレイン蛋白のカルボキシ末端半分をマッピングしている(図3)。
【0112】
2.2 脳脊髄液中のα−シヌクレインの存在についての評価
数人の患者からのCSFをプールした。Rotophorを用いて200mlのプールしたCSFを等電点により分離した。次いで、得られたフラクションをSDS−PAGEで泳動し、Transduction Labs (Lexington, KY, USA)から市販されているモノクローナル抗体を用いてイムノブロッテイングした。2つの免疫反応性バンドが19kDaの範囲に検出され、pIは4ないし6の範囲であった(図4)。いくつかの負に荷電したアミノ酸(最後の20個のアミノ酸中に6つのE)はpIをより塩基性のほうへシフトさせるので、低い方のバンドはC末端切断形態である可能性があった。この免疫反応性に基づいて、α−シヌクレインの濃度範囲をpg/mlの範囲で評価した。
【0113】
2.3 α−シヌクレイン特異的抗体の取得および特徴づけ
3リットルの誘導イー・コリ培養からα−シヌクレインを精製したところ、10mgよりも多いα−シヌクレインが精製された(クーマシーおよび銀染色ゲルから評価すると純度は90%より高い)。いくつかの免疫スキーム(表3)に従って蛋白をマウスに注射した。4回注射後、コーティングELISAにおいてα−シヌクレインに対する力価を評価した。6匹のマウスは100000以上の力価を有していた(バックグラウンドの2倍のODが得られる血清の希釈率として力価を定義)。
最後の注射から3日後、動物312(m3)から脾臓細胞を取り、Koehler and Milstein (1975)により記載された方法に大まかに準じて細胞融合に使用した。最初のスクリーニングラウンドでは、直接コーティングアッセイにおいて特異的抗体の存在についてハイブリドーマを試験した。次いで、α−、β−、γ−シヌクレインおよびα−シヌクレイン由来の欠失変異体を含有するイー・コリ溶解物のドットブロットによりそれらを再試験して、シヌクレイン蛋白上の異なるエピトープを認識する抗体を生成するハイブリドーマを選択した。
【0114】
2.4 α−シヌクレイン特異的抗体の特徴づけ
ドットブロットにおいてα−シヌクレインに特異的であった2つのハイブリドーマ3B5(IgG2a)および9B6(IgG1)を単離した。その正確なエピトープを決定するために、カルボキシ末端部分(位置64から140まで)を、10個の重複するペプチドとして合成した(図5)。それらのペプチドはアミノ酸14個の長さで、7個のアミノ酸が重複していた。ビオチン化ペプチドを、1μg/mlの濃度でストレプトアビジン被覆プレート上に捕捉した。これらのペプチド上でα−シヌクレイン特異的抗体をインキュベーションし、次いで、抗マウス酵素結合抗体を用いて検出した。トリメチルベンジジンを基質として用いて酵素セイヨウワサビペルオキシダーゼを定量した。3B5および9B6は両方とも、配列LEDMPVDPDNEAYE(位置113〜126)を含むペプチドを認識し、このモノクローナル抗体に対する直鎖状エピトープが示唆された(図6)。同じセットの実験において、α−シヌクレインを認識することがすでに示されている市販抗体(Clone 42, IgG1, Transduction Labs, Lexington, KY, USA; カタログ番号 S63320)もまた、直鎖状エピトープ(配列AGSIAAATGFVKKD)(図6)にマップできた。
【0115】
2.5 α−シヌクレイン特異的抗体の精製およびビオチン化
第2および第3ラウンドのサブクローニング後、10〜20mgの抗体を精製するために抗体の生成を1〜2リットルまでスケールアップする。Mini-Leak-Medium(KEM-EN-TEC Biozyme, Vancouver, BC, Canada; カタログ番号 10127, ロット番号 60232-5)を用いて、製造者により提供される説明に従って抗体を免疫精製する。
十分に確立された方法(Bonhard et al., 1984)に従って、D−ビオチニル−エタ−アミノカプロン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステル(Boehringer-Mannheim, Brussels, Belgium; カタログ番号 1008960)を用いてビオチン化を行う。
【0116】
2.6 脳脊髄液中のα−シヌクレイン検出および定量的測定のためのサンドイッチELISAの開発
α−シヌクレイン抗体を捕捉抗体とし、ビオチン化モノクローナル抗体の1つをディテクター抗体とするサンドイッチELISAを開発する。MaxisporpマイクロタイタープレートをAffini Pureヤギ抗マウスIgG(Jackson Immuno Research Laboratories, Inc., West Grove, Pennsylvania, USA; カタログ番号115-035-144)で被覆する。PBS中1% BSA(臨床用グレード 98% 脂肪酸不含; ICN, Biomedical Research Products, Costa Mesa, CA, USA; カタログ番号 105033, ロット番号 6p384)+1%マウス血清をブロッキング緩衝液として使用する。ブロッキング緩衝液で1/1000に希釈した抗α−シヌクレイン(Transduction Labs, Lexington, KY, USA)を添加する。インキュベーション後、組み換え抗原を異なる濃度で添加する(濃度範囲1000〜2pg/ml)。同時に、1%マウス抗体の存在下においてビオチン化抗α−シヌクレインモノクローナル抗体を最適バックグラウンドシグナル比となるように選択した濃度で添加する。次いで、1/2000に希釈したセイヨウワサビ標識ストレプトアビジン(Immuno Research Laboratories, Inc., West Grove, Pennsylvania, USA; カタログ番号 016-030-084)によりビオチン化ウサギ抗体を検出する。カップリングしたペルオキシダーゼを、TMB H基質溶液により検出する。30分後に2N HSOで反応を停止し、吸光度を450nmで測定する。
【実施例3】
【0117】
実施例3:脳脊髄液中の他の神経学的マーカーの検出
3.1 タウおよびホスホタウ
AT120を捕捉抗体とし、ビオチン化HT7−BT2をディテクター抗体として用いて、タウ抗原試験(INNOTEST hTau antigen, Innogenetics, Gent, Belgium)により全タウを測定した。モノクローナル抗体AT120は、正常ヒトタウ蛋白および過剰にリン酸化されたヒトタウ蛋白の両方と等しく十分に反応し(Vandermeeren et al., 1993)、モノクローナル抗体HT7もまた、正常ヒトタウ蛋白および過剰にリン酸化されたヒトタウ蛋白の両方と等しく十分に反応するが、モノクローナル抗体BT2は優先的に正常タウを認識する(Goedert et al., 1994)。すでに記載されたようにして(Mercken et al., 1992b)調製された、アフィニティー精製されたタウ蛋白を標準物質として使用した。
HT7を捕捉抗体とし、ビオチン化AT270をディテクター抗体として用いるサンドイッチELISA(INNOTEST phospho-tau(181), Innogenetics, Gent, Belgium)を用いてホスホタウを測定した。AT270はホスホタウを特異的に認識する(国際公開 WO 95/17429)。
【0118】
3.2 β−アミロイド(1−42)
Innotest β-amyloid(1-42)(Innogenetics, Gent, Belgium)を用いてβ−アミロイド(1−42)濃度を測定した。アッセイはサンドイッチ型ELISAであり、該アッセイにおいて第1のモノクローナル抗体21F12(アミロイドのカルボキシ末端に特異的)を捕捉抗体として使用し、ビオチン化抗体3D6(アミノ末端に特異的)をディテクター抗体として使用する。21F12/3D6の組み合わせはアミロイド(1−42)ペプチドの特異的検出を可能にする。いくぶんかの交差反応性がアミロイド(1−42)に関して観察されるが、短いペプチドに関しては観察されない(Citron et al., 1997; Johnson-Wood et al., 1997)。簡単に説明すると、21F12抗体を10mM Tris−10mM NaClに懸濁し、4℃で一晩かけてNunc Maxisorbsマイクロタイタープレートを被覆した。1回洗浄工程を行った後、25℃で2時間、PBS−0.1%カゼインでプレートをブロックした。75μlのビオチン化3D6および25μlのCSFまたは標準物質を同時インキュベーション(25℃で1時間)することにより試験を行った。数回洗浄工程を行った後、100μlのHRP−ストレプトアビジン(RDI, Flanders, New York, NY, USA)を添加することにより結合抗体量を調べた。インキュベーションを25℃で30分継続した。次いで、100μlの0.42mM 3,5,3’,5’−テトラメチルベンジジンをペルオキシダーゼ基質として添加した。30分後に50μlの0.9N HSOで反応を停止した。
【0119】
3.3 β−アミロイド(1−40)
Quality Controlled Biochemicals (QCB, Hopkinton, MA, USA)から得た、C末端に特異的な、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体を捕捉抗体として用い、3D6(Citron et al., 1997; Johnson-Wood et al., 1997)をディテクター抗体として用いて、β−アミロイド(1−40)濃度を測定した。10mM Tris−10mM NaCl緩衝液中で25℃で2時間かけてNunc Maxisorbsマイクロタイタープレートを5μg/mlのアフィニティー精製されたヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Jackson Immuno Research Laboratories, Inc., West Grove, Pennsylvania, USA; カタログ番号 111-005-144)で被覆した。その後、4℃で一晩、プレートをPBS−0.1%カゼインでブロックした。ウサギポリクローナル抗体(QCB, Hopkinton, MA, USA; カタログ番号 44-348-20)を0.5μg/mlの濃度で添加し、25℃で1時間置いた。数回洗浄工程を行った後、100μlのCSFまたは標準物質を25℃で2時間インキュベーションした。100μlのビオチン化3D6抗体を添加(抱合体希釈物中0.1μg/mlの濃度で添加)して25℃で1時間置くことにより結合アミロイド量を調べた。プレートをさらに5回洗浄した。100μlのSV−AP(Gibco, Rockville, MD, USA; カタログ番号 JK-4410)を添加することにより結合抗体量を調べた。インキュベーションを25℃で1時間継続した。最後の洗浄工程(5回)の後、基質緩衝液に溶解した100μlのTMBをペルオキシダーゼ基質として添加した。30分後に50μlの0.9N HSOで反応を停止した。
【0120】
3.4 ニューロモジュリン
2種のエピトープ特異的モノクローナル抗体(NM2、NM4;Oestreicher et al., 1994)を用いてニューロモジュリンについても測定した。捕捉抗体としてNM2を選択し、ディテクター抗体としてビオチン化NM4を選択した。組み換えニューロモジュリンを標準物質として使用した。
【0121】
3.5 ニューロン特異的エノラーゼ
NSEの測定は、抗NSEモノクローナル抗体2E7を捕捉抗体として用い、ペルオキシダーゼ標識抗NSEモノクローナル抗体10C1をディテクター抗体として用いるサンドイッチELISAの測定は、抗NSEモノクローナル抗体2E7を捕捉抗体として用い、ペルオキシダーゼ標識抗NSEモノクローナル抗体10C1をディテクター抗体として用いるサンドイッチELISAに基づくものであった。ヒト脳から精製したNSEを標準物質として使用した(Vanmechelen et al., 1997)。
BCA蛋白試薬(Pierce, Rockford, Illinois, USA)を用いて蛋白濃度を決定した。
【実施例4】
【0122】
実施例4:アルツハイマー病の特異的検出および年齢を合わせた対照に対するアルツハイマー病の分別のための神経学的マーカーとしてのCSF−Rab3a、CSF−SNAP25、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)を用いる組み合わせアッセイ
4.1 患者および対照患者
アルツハイマー病(AD)群は32人の患者からなり、男性15人、女性17人で、平均年齢±SDは75.0±6.6歳であった。血管性痴呆(VAD)群は20人の患者からなり、男性10人、女性10人で、平均年齢±SDは81.0±7.0歳であった。対照群は18個体を含み、男性7人、女性11人で、平均年齢±SDは67.5±5.5歳であった。NINCDS−ADRDA判断基準(McKhann et al., 1984)に従って排除を行うことにより可能性のあるADの診断を行った。痴呆の進展、および/または大規模な梗塞および/または多発性裂口のCT所見、および/または重症の血管性疾患の臨床的所見、例えば、合併症を伴う動脈高血圧または糖尿病に関連した一時的な虚血発作および/または卒中エピソードを有する患者においてVADを診断した。対照群は精神病または神経学的疾患、悪性疾患、または全身性疾患(例えば、リューマチ性関節炎、感染性疾患)の病歴、症状または徴候のない個体からなっていた。60歳以上の個体において、Multi-Mental state examination (Folstein et al., 1975)を用いて認識状態を試験した。28点以下のスコアを有する患者は参加させなかった。University of Goeteberg(Goeteberg, Swedec)のEthic Committeeにより当該研究は承認された。患者(または彼らに最も近い親類)および対照群の個体は研究に参加するためのインフォームドコンセントを受けた。
【0123】
4.2 脳に特異的な脳脊髄液の単離
手順はDavidsson et al., 1996に詳述されている。簡単に説明すると、5〜10mlのCSFをBlue Sepharoseカラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)に供してアルブミンを選択的に除去した。次いで、アルブミン不含フラクションを、Sepharose 4B(Pharmacia, Uppsala, Sweden)に共有結合したスタフィロコッカス蛋白Gのカラムに供してIgGを吸着させた。mRPC C/C18カラム(内径2.1x100mm、ゲル体積0.35ml、粒子サイズ3mm)を装備したSMARTシステム(Pharmacia LKB technology)を用いるmR−HPLCにより未吸着蛋白を分離した。2回のトリフルオロ酢酸のグラジエントにより蛋白を溶離した。全部で40個のフラクションをSavant Speed Vac Concentratorで乾燥させた。フラクションをSDS−PAGE試料緩衝液に溶解し、超音波処理し、15分煮沸して、12%ポリアクリルアミドゲルで分離した。
【0124】
4.3 アルツハイマー病の特異的検出のための組み合わせアッセイの評価
サンドイッチELISAを用いることにより、CSF−Rab3a、CSF−SNAP25、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)を32人のAD患者、20人のVAD患者および11人の対照のCSF試料中で測定した。すべてのマーカーの平均レベルを表4にまとめる。個体のタウおよびRab3a値を図7に示す。
AD患者に関する最高感度および対照患者に関する最高特異性により決定されたカットオフ値に基づいて、確度比を決定した(表5)。Rab3aレベルとSNAP25レベルとが相関関係を有しているので、Rab3aまたはSNAP25のいずれかをタウおよびβ−アミロイドと組み合わせるだけでよい(図8)。かくして、Rab3aとSNAP25の組み合わせに関する確度比を調べなかった。個々のマーカー1つだけあるいは2つだけの組み合わせに関する確度比と比較した場合の、3つの神経学的マーカーの組み合わせ、タウ−β−アミロイド(1−42)−Rab3aならびにタウ−β−アミロイド(1−42)−SNAP25の増加した確度比は、これらの3つのマーカーの組み合わせによりアルツハイマー病のより特異的かつ感度の良い検出が可能になることを示す。
依存的変数、因子としての性別、共分散としての年齢および最小精神的スコア(MMSE; Folstein et al., 1975)のようなすべてのマーカーを有する、十分に階乗的な変数の多数分析(ANOVA)は、異なる群において、これらのパラメーターが共分散しないことを示した。さらに、タウ、β−アミロイド(1−42)およびRab3a/SNAP25の間の有為な相関関係は、各群においても、全群を一緒にしても検出できなかった。
Rab3aおよびSNAP25に対するさらなる抗体を単離する。CSF−Rab3a、CSF−SNAP25、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)のレベルを、許容される試料のサイズにより統計学的に有意な比較が可能な十分に定義された臨床診断群において研究する。
【実施例5】
【0125】
実施例5:白血病の治療を受けた小児において化学療法により誘導された神経のダメージを診断するための、CSF−タウ、CSF−ニューロモジュリンおよびCSF−ニューロン特異的エノラーゼを用いる組み合わせアッセイ
5.1 患者および対照患者
1996年8月から1998年9月までの間、the Pediatric Hemato-oncology Department of the Catholic University of Leuven, Belgiumにおいて癌の治療を受けた83人の小児から448のCSF試料を得た。すべての患者は診断時点において完全に臨床的評価を受けていた。親のインフォームドコンセントが得られた。
悪性疾患の分類および治療のために、計画された腰椎せん刺(LP)のコースに試料を供した。血液学的悪性疾患を有する患者の異なる群を本研究に参加させた(表6)。第1群は、United Kingdom Children Cancers group (UKCCSG 9602) NHL protocolに従って治療された9人のB細胞非ホジキンリンパ腫患者(B−NHL)からなっていた(表7a)。この群において、4人の患者がB細胞リンパ腫を有し、3人の患者がBurkittリンパ腫を、2人の患者が未分化ラージ細胞リンパ腫(ALCL)を有していた。これらの患者のうち8人は長期にわたり研究された。第2および最後の群は、European Organization for Research and Treatment of Cancer' (EORTC) protocol 58881に従って治療された非B細胞急性リンパ芽球白血病/非ホジキンリンパ腫(NB ALL/NHL)の42人の患者からなっていた(表7b)。この第2群において、18人の小児はCD10(+)ブラストまたは通常のNB ALLを有し、2人の患者はダウン症候群(DS)を有し、1人の患者はBrachmann-de Lange症候群を有し、3人の患者は通常のB細胞ブラストを有し、1人の患者はT細胞ブラストを有し、2人の患者はプロB細胞ブラストを有し、9人の患者はプレB細胞ブラストを有し、8人の患者はT細胞ブラストを有していた。38人の小児が白血病を有し、5人の患者が非ホジキンリンパ腫段階II(1人)、段階III(3人)または段階(IV)(1人)であり、それらのうち1人の患者は、CSF中の悪性細胞に関する研究プロトコル、眼底検査およびコントラストカプテーション(contrast captation)により定義された明らかなCNSの疾病(CNS+)を有していた。5人の患者は、治療プロトコルにおいて定義された判断基準によれば非常に危険性の高い(VHR)患者であった(2人の患者はT細胞ブラスト、3人の患者はコルチコイド耐性)。この群中の患者のうち27人は長期にわたり追跡できた。第3の患者群は急性骨髄性白血病(AML)の6人の小児からなってお、そのうち1人の患者はCNSの疾病を有し、2人の患者はダウン症候群であった。M0表現型を有する3人の患者、およびM1、M2またはM7表現型が1人ずついた。これらすべての患者はEORTC 58921プロトコルにより治療され、長期にわたり追跡された。他の患者は異種の小児群(n=18)からなり、治療前後の感染の診断および段階分けのために臨床的理由により腰椎せん刺を行った。この群は5人の髄芽細胞腫の小児(3人が段階分け中、1人が治療中、1人がフォローアップ中)、3人のホジキン病の小児(段階分け中)、3人の横紋筋肉腫(2人が段階分け中、1人が治療中)、2人の脊髄形成異常(MDS)の小児(段階分け中)、2人のランゲルハンス細胞組織球炎(LCH/HLH、段階分け中)、1人の若年性慢性骨髄性白血病(CML)の小児(治療中)、絨毛癌(フォローアップ中)の小児、または胚細胞腫(段階分け中)の小児であった。健康な新生児の大きな群は利用できなかった。なぜなら、これらの患者から脳脊髄液を採取することは倫理に反するからである。対照として、髄膜炎を有する疑いがあるが陰性である小児(n=4)、局所的網膜芽細胞腫(n=1)の小児および家族性ヘモファゴサイティックリンパ組織炎球増多症(n=1)の小児を参加させた。親のインフォームドコンセンサスが得られた。
【0126】
5.2 研究計画
見込のある、かつ長期の単一中心研究計画を用いた。研究に入る前に患者は治療を受けなかった。今回の調査研究において、58人の小児から得たCSF試料を治療前に利用した(診断的腰椎せん刺またはLP1)(さらなる詳細は表7参照)。大部分の患者に関してすべての時点において残りの試料が利用できなかった。失われた値は小児の疾病の状態によるのではなく、サンプリングまたは試料の保存の間の人為的要因によるものであった。
診断ワークアップのためのベースラインまたは化学療法のIT投与直前のいずれかにおいて、ルーチンな分析のために腰椎せん刺を行った。別々のポリプロピレンチューブに5mlのCSFを集めた。1の試料を即座に1500rpmで2分間遠心分離して細胞および他の不溶性物質を除去した。引き続いて行う分析のために上清を−70℃で保存した。凍結/融解サイクルの数を最小限とした。ルーチンなCSF測定は、細胞学的項目、蛋白濃度、グルコース等を包含した。
診断群にかかわらずすべての神経学的マーカーのデータに関する正規化が拒否されたので、非パラメトリック統計を分析に使用した。Kruskal-Wallis検定を用いて、エフェクト変数(タウ、ニューロモジュリン、蛋白等)に関する群の差異を調べた。Wilcoxonサインドランクス検定、マッチド−ペアー(Wilcoxon signed ranks test, matched-pairs)を用いて、最初の診断LPとその後のLPとの間の相違をチェックした。Prismソフトウェアv2.01(Graphpad Software Inc., San Diego, CA, USA)、Systatバージョン7(SPSS, Chicago, IL, USA)を用いて分析を行った。
【0127】
5.3 化学療法により誘導された神経ダメージの診断のための組み合わせアッセイの評価
治療前の神経学的マーカーのレベル
まず、感染性疾患(しかしながら、ウイルスおよび細菌培養陰性)(n=4)の小児から得たCSF試料に関してタウの正常な上限を調べた。1人の患者は非常に局部的な網膜芽細胞腫を有し、1人の小児は家族性HLHに関してスクリーニングされた者であった。対照小児における平均タウ値は106.2pg/ml(95% CI=34.3〜178.0)であった。任意のカットオフ正常値は312pg/ml(平均+3SD)であり、それは成人において観察される値の範囲内である。正常成人対照の80%が352pg/ml未満のタウ値を有するが、425pg/ml(p25−p75:274−713,n=150)がアルツハイマー病患者のメジアンタウレベルである(Hulstaert et al.,1999)。まず、患者数に関係なく試料を分析し、その後、1の患者から得たすべての試料を1のイムノプレート上でさらに分析した。104個の試料のセットに関する第1のアプローチと第2のアプローチとの間の相関係数は0.901(95% CI:0.856−0.933)であった。
診断時のタウレベルを患者の各サブグループに関して分析した(図9)。診断時のタウレベルは66から1500pg/mlの範囲であった。タウ、ニューロモジュリン、β−アミロイド(1−42)、β−アミロイド(1−40)、血清LDHおよびCSF白血球カウントに関するデータ(図10)は、ダウン症候群を有するまたは有しない患者群において、あるいは診断群間において、明らかな相違を示さない。さらに、タウレベルとWBCまたはLDHレベルとの間にも相関関係が見出されなかった。タウ濃度と小児の年齢との間にも有意な相関関係が見出されなかった。2人のMDS患者、明らかなCNS侵襲(CNS+)であるがAMLでない小児は、診断時においてタウレベルが著しく上昇していた。また、後方窩における髄芽細胞腫のために頭蓋内圧が上昇して入院した3人の患者から、段階分けのためにCSFを取ったところ、非常に高いCSF−タウ濃度であった(823、1397、1500)。しかしながら、非B ALL/NHLを有する21人中7人の小児、非常に高い危険性を有する非B ALL/NHL患者4人のうち1人、AMLの患者4人のうち2人、およびB細胞NHLの患者8人のうち2人が312pg/ml以上のタウレベルを有していたが、古典的な診断手順を用いるとCNS侵襲は検出されなかった。
非B ALL/NHLを有する27人の患者あるいはB細胞 NHLを有する9人の患者に関しては(データ示さず)、白血球カウント(p=0.935,n=40)または血清LDH(p=0.855,n=39)によって反映されるように、診断時のタウレベルは腫瘍負荷と相関関係がなかった。LP1において、タウとニューロモジュリンとの間の非常に有意な相関関係が存在し[r=0.793;95% CI:0.658−0.928,n=50]、両方の蛋白の分泌がある程度相互関係があることが示された。タウとβ−アミロイド(1−42)との間には相関関係が見られなかった(p=0.1032,n=52)。
【0128】
B−NHL患者の治療期間中における神経学的マーカーのレベル
化学療法により誘導されたCSF中のタウの増加に関する最も明確な相違がB細胞NHL患者において検出された。ベースライン試料および9日目のLP(=LP2)におけるフォローアップ試料の両方が利用可能であった3人の患者に関する結果を図11aに示す。9日目、すなわちIV MTXおよびビンクリスチンとともにMTXおよびヒドロコルチゾンをIT投与した後には、すでに最大タウ増加が測定可能であった。タウのさらなる増加はその後測定されなかった。ニューロモジュリン(図11b)およびニューロン特異的エノラーゼ(図11c)に関する同様の知見によっても、化学療法により誘導された神経代謝活性に対する効果が確認された。さらに、タウとニューロモジュリンとの間(r=0.722, 95% CI: 0.553-0.834, n=49)あるいはニューロモジュリンとニューロン特異的エノラーゼとの間(r=0.622, 95% CI: 0.247-0.835, n=20)に明確な相関関係があった。
【0129】
非B細胞ALL/NHL患者の治療期間中における神経学的マーカーのレベル
全治療期間にわたるデータ(前後試料)が、EORTCプロトコル58881により治療を受けた13人の非B細胞ALL患者に関して利用可能であった。個々の患者について、異なるフェーズまたは治療に関するメジアンタウ値を図12aに示す。治療前(LP1)と比較して(p=0.048)、あるいはメンテナンス期間と比較して(p=0.040)、誘導期間中にタウレベルが有意に増加した。1人の患者は治療開始前からすでにタウレベルが上昇しており(893pg/ml)、おそらく神経学的機能不全がすでに開始していたことを反映するものであろう。また、治療前と誘導期間との間のニューロモジュリンレベルの増加傾向もあった(図12b)。治療開始時に高いタウレベルが存在した患者もまた、化学療法開始時において高いニューロモジュリンレベルを示した。LP1およびLP2に関するNSEのデータが利用可能であった2人の患者において[LP1 (4.0 ng/ml, 3.4 ng/ml); LP2 (11.7 ng/ml, 9.6 ng/ml)]、NSEの明確な増加が観察された。
非B細胞ALL患者からのすべてのデータの分析により、誘導期間において最高タウ濃度が見られることが明らかとなった。誘導期間中、分析した試料の41%(28/68)が500pg/mlよりも高かった。その後、インターバル期間においてこのパーセンテージは18.9%(14/74)まで低下し、再誘導期間中に16.7%(3/18)となり、最後に、メンテナンス期間中に9.7%(7/72)となった(図13a)。治療開始前にすでに上昇したタウ(>500pg/ml)を有していた3人の患者におけるタウ値は化学療法後に正常化した。β−アミロイド(1−42)、非B ALL患者におけるニューロモジュリンおよびNSEレベルに関するデータを図13b、図13cおよび図13dにそれぞれ示す。ここでもやはりタウとニューロモジュリン(r=0.658, 95% CI = 0.580-0.725,n=251)またはNSE(r=0.589, 95% CI = 0.363-0.749, n=47)との間に明確な相関関係があった。
非常に高い危険性を有する5人の非B ALL小児を、本研究において長期にわたり試験した。最初の治療フェーズはEORTC 58881と同様であった。同様の化学療法により誘導されたタウレベルの変化が5人中4人の患者において観察され、タウとニューロモジュリンとの間の高く有意な相関関係も観察された(n=55; r=0.880, 95% CI: 0.802-0.929)。
1人のダウン症候群−非B ALL患者は診断時に70pg/mlのタウ濃度を有していた。すべての非B ALL患者における平均タウ増加は、長期研究の8日目で250%(95% CI = 130% 370%, n=13)、21日目で200%(95% CI = 150%-260%, n=8)であったが、ダウン症候群患者のタウ増加パーセンテージは8日目および21日目においてそれぞれ820%および1200%であった。
高い白血球負荷(610000WBC/mm)のため、1人の特別な患者を、1日目にIT MTXを使用せずにプレドニソロンで8日間治療した。治療8日後にタウレベルは低いまま、すなわち155pg/mlであった。その後、この患者は他の非B ALL患者と同様にEORTCプロトコル(次の週からMTXをIT注射することを含む)に入った。タウレベルは急激に増加し、12、15、18、22および44日目にはそれぞれ744、948、1120、861および1023pg/mlとなった。別のセンターで治療を受け、MTXでの治療後に明らかな神経毒性に苦しんでおり、しかも両側麻痺であった小児から1のCSF試料が利用可能であった。この小児のタウおよびミューロモジュリンのレベルは使用した最高標準値(タウについて1500pg/ml、ニューロモジュリンについて8000pg/ml)を超え、大規模な神経変性を反映していた。
【0130】
AMLの治療期間中における神経学的マーカーのレベル
図14aは、AMLを有する個々の患者におけるタウの消長を示す。患者11、12および23は治療期間中有意なタウの増加を示さなかった(表7c)。1日目および8日目にLPを取った患者12は激しい疾病を有しており、骨髄移植後間もなく死亡した。ダウン症候群の2人の患者のうち1人から、長期にわたるデータが利用可能であり、この患者は300pg/mlをわずかに上回るタウレベルを有しており、患者11および23のCSF中のタウレベルの消長とは対照的であった。診断時にCNS侵襲の証拠があった患者69はCSF中のタウおよびニューロモジュリンの劇的な増加を示した(図14b)。この小児はまだ治療中であり、現在完全に軽快している。
【0131】
結論
我々は、長期の研究において、体液中のタウ、ニューロモジュリンおよびNSEレベルの有意な増加を見出し、それは化学療法に関連した神経のダメージを反映している可能性が最も高く、主にIV コルチコステロイドおよび化学療法剤と組み合わせてIT MTXを投与した場合に誘導されたが、インターバル治療期間中の高用量のIVおよびIT MTX投与期間中には誘導されなかった。
【実施例6】
【0132】
実施例6:周産期仮死により生じた脳損傷の診断のための組み合わせアッセイ
周産期仮死は神経損傷に関連している可能性がある。電脳図および神経放射線学的データに加えて、CSF神経学的マーカーは低酸素−虚血イベントを評価する際の臨床データを補完しうるものである(Garcia-Alix, 1994)。変化した脳の代謝活性はCSF中の成分の変化を反映するものであるという証拠が増えつつある。CSFマーカーの周産期レベルおよび仮死による変化の分布を評価する。
【実施例7】
【0133】
実施例7:アルツハイマー病の特異的検出および対照患者とアルツハイマー患者との分別のための、神経学的マーカーとしてCSF−ニューロモジュリン、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)を用いる組み合わせアッセイ
7.1 患者および対照患者
10の個体からCSFを得た。個体を4群に分けた:(i)痴呆に関する神経学的対照と定義される群(n=70)。この群は、多発性硬化症、Guillan-Barre症候群、多発性ニューロパシーおよびてんかんの患者を含んでいた。他の群は、(ii)記憶障害の老人患者(n=7)、(iii)アルツハイマー病(AD)患者(n=27)、および(iv)血管性痴呆(VAD)の患者(n=5)からなっていた。International Classification of Diseases, version 9 (Manual of the international statistical classification of diseases, injuries, and causes of death: based on recommendations of the Ninth Revision Conference; 1975, and adopted by the Twenty-Ninth World Health Assembly. Geneva: World Health Organization, 1977)により決定された判断基準に従ってすべての患者を診断した。AD群において、2人の患者は1の家族からの者であり、プレセニリン変異により疾病の早期発症がわかっている。これらの患者のうち1人は徴候前であった。
神経学的試験の一環としてCSFをルーチンに採取した。CSFの残りについてすべての試験を行った。ポリプロピレンチューブ中に正しく保存され、1回だけ凍結されたCSF試料においてのみβ−アミロイド(1−42)を測定した。
【0134】
7.2 アルツハイマー病の特異的検出および対照患者とアルツハイマー患者との分別のための組み合わせアッセイの評価
これらの患者のCSF中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリン(GAP−43)を調べた。各群の平均CSFレベルを表8に示す。β−アミロイド(1−42)、タウおよびニューロモジュリンの個人レベルを図15a、15bおよび15cにそれぞれ示す。
AD患者においてCSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)が有意に変化していた。また、ADにおいてCSF−ニューロモジュリンが有意に増加していた。対照的に、老人性記憶障害患者においてはCSF−ニューロモジュリンにおける有意な影響は観察されなかったが、対照患者と比較してCSF−タウレベルが有意に増加していた。7人の記憶障害患者のうち3人が対照群により決定された最大レベル(280pg/ml)よりも高いCSF−タウレベルを有していた。正しくない保存のため、CSF−β−アミロイド(1−42)レベルは3人の記憶障害の患者においてしか調べることができなかった。3人の患者のうち2人において、300pg/ml未満のレベルがみられた。これらの患者のうち1人は上昇したCSF−タウレベルも有していた。他の患者は278pg/mlのCSF−タウレベルを有しており、すなわち、対照群により決定された最大レベルよりもわずかに低かった。徴候前の家族性AD患者において、327pg/mlのCSF−タウレベルにまで増加しており、β−アミロイド(1−42)レベルは300pg/ml未満であった。少ない記憶障害個体の試料についてのこの分析は、タウ、β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリンの組み合わせ使用はアルツハイマー病の存在に関するより良いインジケーターであることを示す。統計学的に有意であるように、1群あたりより多数の試料を分析中である(1の診断群あたり少なくとも50の試料)。
【実施例8】
【0135】
実施例8:アルツハイマー病の特異的検出、対照患者とアルツハイマー患者との分別、パーキンソン病の特異的検出、対照患者とパーキンソン病患者との分別のための、およびアルツハイマー患者とパーキンソン病患者の分別のために、神経学的マーカーとしてCSF−ニューロモジュリン、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)を用いる組み合わせアッセイ
8.1 患者および対照患者
60人のアルツハーマー病患者、23人のパーキンソン病患者および年齢の合った32人の対照患者からCSFを得た。これらの患者のCSF中のタウ、β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリン(GAP−43)を調べた。各群の平均CSFレベルを表9に示す。
【0136】
8.2 アルツハイマー病の特異的検出および対照患者とアルツハイマー病患者との分別のための組み合わせアッセイの評価
対照と比較すると、AD患者においてタウが有意に増加していたが、β−アミロイド(1−42)レベルが減少していた。NMレベルは両群間で有意には異ならなかった。しかしながら、NMとタウのレベルは有意に相関関係があった(図16)。図16は、AD患者に関する値が対照患者に関する値とは異なる可能性を示す。後退判別分析(backward discriminant analysis)(Marrisonら,1976年)を用いて、タウ、β−アミロイド(1−42)、ニューロモジュリンまたはタウ/ニューロモジュリンのいすれの変数が最も良くアルツハイマー病患者を対照患者から識別するものであるかを調べた。変数タウ/ニューロモジュリンおよびβ−アミロイド(1−42)を選択し、アルツハイマー患者58人中55人(感度94.8%、CI 85.6%〜98.9%)および対照患者31人中30人(特異性96.8%、CI 83.3%〜99.9%)を正しく分類した(図17)。より多くの試料をさらに分析すれば、これら3つのマーカーを用いることによるアルツハイマー病の診断の統計学的に有意な改善が可能になるであろう。
【0137】
8.3 パーキンソン病の特異的検出および対照患者とパーキンソン病患者との分別のための組み合わせアッセイの評価
後退判別分析(Morrison, 1976)を用いて、いずれの変数がパーキンソン病患者と対照患者とを最適に識別するものであるかを調べた。変数タウ/ニューロモジュリンおよびβ−アミロイド(1−42)を選択した。パーキンソン病患者23人中14人が正しく分類され(感度60.9%、CI 38.6%〜80.3%)、対照患者31人中27人が正しく分類された(特異性87.1%、CI 70.2%〜96.4%)(図17)。より多くの試料をさらに分析すれば、これら3つのマーカーを用いることによるパーキンソン病の診断の統計学的に有意な改善が可能になるであろう。
【0138】
8.4 アルツハイマー病患者とパーキンソン病患者とを分別するための組み合わせアッセイの評価
β−アミロイド(1−42)およびニューロモジュリンを選択して、アルツハイマー病患者をパーキンソン病患者から分別し、アルツハイマー病患者について感度94.8%(CI 85.6〜98.9%)、パーキンソン病患者について特異性78.3%(CI 56.3%〜92.5%)であった。より多くの試料をさらに分析すれば、これら3つのマーカーを用いることによるアルツハイマー病とパーキンソン病の分別の統計学的に有意な改善が可能になるであろう。
【実施例9】
【0139】
実施例9:レービー小体痴呆とアルツハイマー病との間の分別を行うための神経学的マーカーとしてのCSF−α−シヌクレインの使用
9.1 患者および対照患者
30〜40人のアルツハイマー患者、10〜20人のレービー小体痴呆患者および10〜20人の年齢の合った対照からCSFを得る。
【0140】
9.2 アルツハイマー病とレービー小体痴呆との分別診断のためのアッセイ
患者群および対照群からのCSF中のα−シヌクレイン濃度を定量する。レービー小体痴呆群のα−シヌクレインレベルに関する値の平均値とアルツハイマー病群のα−シヌクレインレベルに関する値の平均値との有意な相違により、両方のタイプの痴呆を分別することが可能である。α−シヌクレインの定量と少なくとも2種の他の神経学的マーカー(タウおよびβ−アミロイド(1−42)のごとき)の定量を組み合わせることにより、アルツハイマー病とレービー小体痴呆との分別がさらに改善される。
【実施例10】
【0141】
実施例10:前頭側頭葉痴呆の特異的検出および前頭側頭葉痴呆と他の痴呆との分別のためにCSF−β−アミロイド(1−42)、CSF−タウおよびCSF−ホスホタウを神経学的マーカーとして使用する組み合わせアッセイ
10.1 患者および対照患者
30〜40人の前頭側頭葉痴呆患者および10〜20人の年齢の合った対照からCSFを得る。
【0142】
10.2 前頭側頭葉痴呆患者と対照患者との分別診断のための組み合わせアッセイ
前頭側頭葉痴呆患者および対照患者のCSF中のβ−アミロイド(1−42)、タウおよびホスホ−タウのレベルを定量する。対照患者のタウおよびホスホ−タウのレベルの平均値と比較した場合、前頭側頭葉痴呆患者のタウおよびホスホ−タウのレベルの平均値が有意に増加している。前頭側頭葉痴呆患者は、対照患者と比較すると、β−アミロイド(1−42)のレベル低下を示す。
【実施例11】
【0143】
実施例11:アルツハイマー病における血管の問題の特異的検出および他の形態のアルツハイマー病と血管の問題との分別のためにCSF−β−アミロイド(1−42)、CSF−タウおよび血漿−ベータ−アミロイド(1−42)を神経学的マーカーとして使用する組み合わせアッセイ
11.1 患者および対照患者
アルツハイマー病の血管性疾患の患者30〜40人、他の形態のアルツハイマー病患者30〜40人および年齢の合った対照10〜20人からCSFおよび血漿を得る。
【0144】
11.2 血管性疾患と他の形態のアルツハイマー病との分別診断のための組み合わせアッセイ
血管性疾患の患者、他の形態のアルツハイマー病の患者、ならびに対照患者のCSF中のタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルならびに血漿中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量する。血漿−β−アミロイド(1−42)、CSF−タウおよびCSF−β−アミロイド(1−42)の定量的に異なったレベルは、血管性疾患の患者と他の形態のアルツハイマー病の患者との分別を可能にする。
【0145】
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【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、例えば、神経変性疾患の診断試薬の製造分野、神経変性の研究用試薬の製造分野などにおいて利よ可能である。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】実施例1.3に記載のウエスタンブロットであり、アルツハイマー病および対照の脳の側頭皮質におけるRab3a免疫反応性を示す。1は12.8μlの対照患者No.3;2は6.4μlの対照患者No.3;3は3.2μlの対照患者No.3;4は1.6μgの対照患者No.3;5は1.0μlの対照患者No.3;6は10μlの対照患者No.3;7は10μlの患者No.1;8は10μlのAD No.2;9は10μlの対照患者No.1;10は10μlの対照患者No.2;11は10μlのAD患者No.3;12は10μlの対照患者No.4。
【図2a】脳脊髄液におけるシナプス蛋白Rab3a(a)およびSNAP25(b)の安定性。実施例1.5に記載のようにシナプス蛋白に対して特異的なサンドイッチELISAによりシナプス蛋白の分解を定量した。精製シナプス蛋白をCSFのプールに添加し、37℃で一晩インキュベーションした(リジェンド:CSF中のRab3a)。対照として、シナプス蛋白を同じCSFのプールに添加し、直接定量した(リジェンド:Rab3a;SNAP25)。1% BSA中での安定性もアッセイした(結果示さず)。
【図2b】脳脊髄液におけるシナプス蛋白SNAP25(b)の安定性。実施例1.5に記載のようにシナプス蛋白に対して特異的なサンドイッチELISAによりシナプス蛋白の分解を定量した。精製シナプス蛋白をCSFのプールに添加し、37℃で一晩インキュベーションした(リジェンド:CSF中のSNAP25)。対照として、シナプス蛋白を同じCSFのプールに添加し、直接定量した(リジェンド:SNAP25)。1% BSA中での安定性もアッセイした(結果示さず)。
【図3】Transduction Labs(Lexington, KY, USA;カタログ番号S63320)から得た抗体のα−シヌクレインに対する特異性を示す。A:クーマシー染色ゲル;B:抗Hisモノクローナル抗体で発色させてすべての生成物の発現が明らかとなったウエスタンブロット;C:Transduction Labs(Lexington, KY, USA;カタログ番号S63320)から得たモノクローナル抗体で発色したウエスタンブロット。レーン1:α−シヌクレインを発現するイー・コリ;レーン2:β−シヌクレインを発現するイー・コリ;レーン3:γ−シヌクレインを発現するイー・コリ;レーン4:ニューロン特異的エノラーゼを発現するイー・コリを用いた対照レーンレーン5:分子量標準;レーン6:プラスミドを有しないイー・コリ株。
【図4】200μlのCSF中のα−シヌクレインの検出。実施例2.2に記載したように分子量ならびにRotophorにより等電点によってプールしたCSFを分離した。M:分子量マーカー;R1:pI3;R2:pI4;R3:pI4.5;R4:pI4.5;R5:pI5;R6:pI5;R7:pI5.5;R8:pI6;R9:pI6;R10:pI6.5;R11:pI6.5;R12:pI7;R13:pI7;R14:pI7.5。
【図5】α−シヌクレインならびにα−シヌクレインのカルボキシ末端に対するモノクローナル抗体3B5および9B6のマッピングに使用した重複ペプチドのアミノ酸配列。ペプチドの合成に使用したカルボキシ末端部分を太字で示す。モノクローナル抗体ならびに市販抗体(クローン42,IgG1,Transduction Labs, Lexington, KY, USA)により認識されるペプチドを示す。
【図6】異なるα−シヌクレインのカルボキシ末端ペプチドとモノクローナル抗体クローン42との反応後に得られた光学密度(OD)。実施例2.4に記載したイムノアッセイにおいて光学密度を測定した。X軸上の数(1〜12)は図5に示すペプチドの番号に対応する。
【図6−1】異なるα−シヌクレインのカルボキシ末端ペプチドとモノクローナル抗体3B5との反応後に得られた光学密度(OD)。実施例2.4に記載したイムノアッセイにおいて光学密度を測定した。X軸上の数(1〜12)は図5に示すペプチドの番号に対応する。
【図6−2】異なるα−シヌクレインのカルボキシ末端ペプチドとモノクローナル抗体9B6との反応後に得られた光学密度(OD)。実施例2.4に記載したイムノアッセイにおいて光学密度を測定した。X軸上の数(1〜12)は図5に示すペプチドの番号に対応する。
【図7】実施例1.6および3.1に記載のサンドイッチELISAを用いて測定した、32人のAD患者、20人の血管性痴呆(MID)患者、および11人の対照のCSF中のRab3aおよびタウのレベル。
【図8−1】実施例4.1に記載されたAD患者のCSFにおけるRab3aとSNAP25との間、Rab3aとβ−アミロイド(1−42)との間の関係。実施例1.6および3に記載しサンドイッチELISAを用いてRab3a、SNAP25、タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを測定した。
【図8−2】実施例4.1に記載されたAD患者のCSFにおけるRab3aとタウとの間の関係。実施例1.6および3に記載しサンドイッチELISAを用いてRab3a、SNAP25、タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを測定した。
【図9】治療前の診断におけるタウ値。1はAML(3);2はAML−CNS+(1);3はダウンAML(2);4は脊髄形成異常(2);5はその他[髄芽細胞腫(2)、横紋筋肉腫(2)、頭蓋内胚細胞腫(1)];6はB−NHL(8);7はホジキン病(3);8はダウンNB ALL(1);9はNB ALL(21);10はNB ALL−Brachman症候群(1)11はNB ALL−CNS+(1);12はNB ALL−VHR(4);13は対照(6)(カッコ内は患者数)。
【図10a】1日目のCSF神経学的マーカー(タウ)濃度を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図10b】1日目のCSF神経学的マーカー(ニューロモジュリン)濃度を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図10c】1日目のCSF神経学的マーカー(β−アミロイド(1−42))濃度を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図10d】1日目のCSF神経学的マーカー(NSE)濃度を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図10e】1日目のCSF神経学的マーカー(血清LDH)濃度を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図10f】1日目のCSF白血球数を示す。1はAML;2はAML−CNS+;3はダウンAML/MDS;4は脊髄形成異常;5は慢性骨髄性白血病;6はB−NHL;7はホジキン病;8はダウンNB ALL;9はNB ALL;10はNB ALL−Brachman症候群;11はNB ALL−CNS+;12はNB ALL−VHR;13はLCH、横紋筋肉腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、絨毛癌;14は対照、網膜芽細胞腫(健常者)、ヘモファゴサイトース(hemofagocytose)(gezond HLH)。測定方法は実施例3に記載されている。
【図11a】B細胞NHL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)回数の関数としてCSF神経学的マーカー(タウ)のレベルを示す。X軸上の数は表7aに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図11b】B細胞NHL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)回数の関数としてCSF神経学的マーカー(ニューロモジュリン)のレベルを示す。X軸上の数は表7aに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図11c】B細胞NHL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)回数の関数としてCSF神経学的マーカー(ニューロン特異的エノラーゼ)のレベルを示す。X軸上の数は表7aに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図12a】化学療法の異なるフェーズにおける13人の非B ALL患者のCSF神経学的マーカー(タウ)のレベルを示す。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図12b】化学療法の異なるフェーズにおける13人の非B ALL患者のCSF神経学的マーカー(ニューロモジュリン)のレベルを示す。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図13a】非B細胞ALL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)の回数の関数としてCSF神経学的マーカー(タウ)のレベルを示す。X軸上の数は表7bに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図13b】非B細胞ALL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)の回数の関数としてCSF神経学的マーカー(β−アミロイド(1−42))のレベルを示す。X軸上の数は表7bに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図13c】非B細胞ALL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)の回数の関数としてCSF神経学的マーカー(ニューロモジュリン)のレベルを示す。X軸上の数は表7bに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図13d】非B細胞ALL患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)の回数の関数としてCSF神経学的マーカー(ニューロン特異的エノラーゼ)のレベルを示す。X軸上の数は表7bに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図14a】AML患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)回数の関数としてのタウのレベル。X軸上の数は表7cに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図14b】AML患者の化学療法期間中の腰椎せん刺(LP)回数の関数としてのニューロモジュリンのレベル。X軸上の数は表7cに示すLP回数に対応する。マーカーの検出方法は実施例3に記載されている。
【図15a】実施例7に記載されたように、神経学的対照(Guilain-Barre症候群、多発性硬化症等)(1CONT)、記憶障害の人(2MEM)、症候前家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(3PFAD)、家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(4FAD)、アルツハイマー患者(5AD)および血管性痴呆患者(6VAD)に分類される個体におけるタウの個体レベル。データをpg/mlで表す。
【図15b】実施例7に記載されたように、神経学的対照(Guilain-Barre症候群、多発性硬化症等)(1CONT)、記憶障害の人(2MEM)、症候前家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(3PFAD)、家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(4FAD)、アルツハイマー患者(5AD)および血管性痴呆患者(6VAD)に分類される個体におけるβ−アミロイド(1−42)の個体レベル。実施例3に記載のごとくβ−アミロイド(1−42)のレベルを測定した。データをpg/mlで表す。
【図15c】実施例7に記載されたように、神経学的対照(Guilain-Barre症候群、多発性硬化症等)(1CONT)、記憶障害の人(2MEM)、症候前家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(3PFAD)、家族性アルツハイマー患者(PS1変異)(4FAD)、アルツハイマー患者(5AD)および血管性痴呆患者(6VAD)に分類される個体におけるニューロモジュリン(または成長関連蛋白43)の個体レベル。データをpg/mlで表す。
【図16】60人のアルツハイマー病(AD)患者および32人の年齢を合わせた対照におけるタウおよびニューロモジュリンの個体レベルの相関関係。実施例3に記載のごとくタウおよびニューロモジュリンのレベルを測定した。
【図17】アルツハイマー病(AD)患者、パーキンソン病(PARK)患者および対照患者(CONT)におけるタウ/nmおよびβ−アミロイド(1−42)の個体レベルの相関関係。実施例3に記載のごとくタウ、ニューロモジュリンおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のための方法であって、下記工程:
神経学的マーカーを特異的に認識する抗体を用いることにより、個体から得た1またはそれ以上の体液試料中の少なくとも3種の神経学的マーカーのレベルを決定する
を特徴とし、さらに以下のことを特徴とする方法:
アルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のために、
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のホスホ−タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウおよびホスホ−タウのレベルを定量的に測定し、該個体から得た血漿試料中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する;あるいは
該個体から得た脳脊髄液試料中のタウ、ホスホ−タウおよびβ−アミロイド(1−42)のレベルを定量的に測定する。
【請求項2】
個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のためのキットであって、
少なくとも3種の抗体を含み、各抗体が異なる神経学的マーカーを認識するものであり、かつ、各抗体が下記の神経学的マーカー:
タウ、ホスホ−タウ、β−アミロイド(1−42)
の組み合わせを認識するものであるか;あるいは
少なくとも2種の抗体を含み、各抗体が異なる神経学的マーカーを認識するものであり、該抗体のうち1つが2つの異なる体液中の神経学的マーカーを認識するものであり、各抗体が下記の神経学的マーカーの組み合わせ:
−タウ、β−アミロイド(1−42);または
−ホスホ−タウ、β−アミロイド(1−42)
のいずれかを認識するものである、キット。
【請求項3】
個体におけるアルツハイマー病における血管の問題の特異的検出または定量のため、異なる形態のアルツハイマー病の分別検査のため、ならびに/あるいはアルツハイマー病と他の痴呆との分別検査のためのキットであって、下記のもの:
異なる神経学的マーカーをそれぞれ認識する少なくとも3種の抗体(一次抗体または捕捉抗体)を一緒にあるいは別個に含む支持体;
神経学的マーカー−一次抗体複合体の1つをそれぞれ認識する二次抗体(ディテクター抗体);
−可能ならば、該二次抗体に特異的にタグを付すかあるいはカップリングするマーカー;
−可能ならば、一次抗体と体液試料間、二次抗体と神経学的マーカー−一次抗体複合体との間、および/または結合二次抗体とマーカーとの間の免疫学的反応を行うための適当な緩衝液
−可能ならば、標準化を目的として、神経学的マーカーの検出に使用されるキットの抗体により特異的に認識される精製蛋白または合成ペプチド
を含む、請求項2記載のキット。
【請求項4】
請求項1記載の方法を行うために特別に設計された請求項2または3に記載のキット。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図10e】
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【図10f】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図13d】
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【図14a】
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【図14b】
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【図15a】
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【図15b】
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【図15c】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−91025(P2006−91025A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326503(P2005−326503)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【分割の表示】特願2000−558397(P2000−558397)の分割
【原出願日】平成11年6月29日(1999.6.29)
【出願人】(399044160)イノジェネティックス・ナムローゼ・フェンノートシャップ (17)
【氏名又は名称原語表記】INNOGENETICS N.V.