説明

神経障害又は病態を治療するためのシステム、装置及び方法

本開示は、てんかん及び他の発作性障害並びに運動及び他の関連障害を含む様々な神経障害又は病態の治療に、及び/又はそれからの回復を促進するために;急性又は慢性脳損傷(例えば、脳卒中、低酸素症/虚血、頭部外傷、くも膜下出血、及び他の形態の脳損傷)からの回復を促進するために(様々なレベルの昏睡、精神状態異常又は植物状態にある患者を覚醒させる、及び/又はその回復を促進するために);又は顔面及び前額の三叉神経の感覚分枝を外部(皮膚)刺激することによって慢性連日性頭痛並びに片頭痛及び関連障害からの回復を促進するために使用される方法、装置、及びシステムに関する。より具体的には、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、耳介側頭神経、頬骨側頭神経、頬骨眼窩神経、頬骨顔面神経、鼻神経及び滑車下神経を刺激するように構成された装置及び電極アセンブリが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)に基づき、以下の出願:2009年10月5日に出願された「Devices and Methods for Treatment of Psychiatric Disorders」と題される米国仮特許出願第61/248,827号;2009年12月23日に出願された「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neuropsychiatric Disorders」と題される米国仮特許出願第61/289,829号;2010年2月17日に出願された「Systems, Devices and Methods for Treatment of Neurological Disorders and Conditions」と題される米国仮特許出願第61/305,514号;及び2010年6月14日に出願された「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neurological Disorders」と題される米国仮特許出願第61/354,641号に対する優先権の利益を主張し、上記出願の各々は、本明細書に全て記載されたものとして本明細書によって参照により援用される。
【0002】
本願はまた、以下の同時係属出願:本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5007−USである「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neuropsychiatric Disorders」と題される米国出願第_______号[2010−396−2];本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5002−USである「Devices, Systems and Methods for Treatment of Neuropsychiatric Disorders」と題される米国出願第_______号[2010−003−2];本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5005−USである「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neurological Disorders」と題される米国出願第_______号[2010−588−2]にも関し、上記出願の各々は、本明細書に全て記載されたものとして本明細書によって参照により援用される。
【0003】
本開示は、概して皮膚神経刺激システム、装置及びその使用方法に関し、より詳細には、脳神経の表在感覚分枝を刺激することにより、神経障害又は病態、例えば、発作性障害、運動障害、頭痛、急性又は慢性脳損傷、精神状態異常/昏睡、及び他の脳に関連する障害及び病態を治療し、又はそれからの回復を促進するための皮膚神経刺激システム、装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
てんかん発作、急性又は慢性脳損傷、昏睡、慢性頭痛又は片頭痛、運動障害及び関連障害により特徴付けられる発作性障害などの神経障害又は病態は、薬物療法で、及び場合によっては脳手術で治療され得る。例えば、てんかん及び他の発作関連障害に現在利用可能な治療方法は、U.S. Food and Drug Administrationにより認可されている迷走神経刺激法(VNS)による神経系の刺激を含み得る。この方法では、刺激電極が頸部迷走神経に外科的に植え込まれる。麻酔に関連する合併症、感染症の可能性、費用、及び他のVNSに伴う有害イベントに加え、VNS治療を受ける対象者の多くはその発作の緩和を得ることがなく、植え込まれたVNS装置から良好な転帰を予測し得る信頼性のある要素はない。
【0005】
他の手法が、目下の研究の焦点である。例えば、植込み型の手法もまた、視床前部の脳深部刺激法(DBS)及び脳活動をモニタして刺激を送ることにより切迫発作波を止める装置によるてんかん領域の頭蓋内刺激法を含め、研究されている。しかしながら、これらの方法は高侵襲性であり、費用及び副作用が高くなり得る。さらに、医薬品又は手術による治療が多数試みられているものの、大部分の患者は神経病態又は障害から回復せず、又はその十分な緩和を得ることがない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の発明対象の一態様は、神経障害又は病態の治療方法、並びに三叉神経の1つ以上の眼分枝(眼窩上分枝)、眼窩下分枝、及びオトガイ分枝の表在性の(皮膚性の)側面を刺激するように構成されたシステム及び装置を提供することにより、具体的には三叉神経の皮膚刺激(TNS)を用いた神経障害又は病態の治療方法を提供することにより、前述の必要性に対処する。本開示のさらに別の態様において、開示される電極アセンブリを使用して神経障害又は病態を治療する方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、三叉神経刺激による神経障害又は病態の治療方法が提供される。この方法は、電極アセンブリを患者に取り付ける工程を含み得る。電極アセンブリは、患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対と;患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対と;第1の接触子対と第2の接触子対とを接続する絶縁接続領域とを含むことができ、第1の接触子対及び第2の接触子対は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。この方法は、神経障害又は病態を治療する特定の動作パラメータで電極アセンブリに電気信号を印加する工程をさらに含み得る。一実施形態では、電気信号を印加する動作は、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び/又は大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で信号を印加することを含み得る。一実施形態では、電極アセンブリは、眼神経又は眼窩上神経の少なくとも一方を覆う皮膚表面と接触するように患者に取り付けられる。一実施形態では、神経障害又は病態は、てんかん及び他の発作関連障害である。一実施形態では、神経障害又は病態は、急性又は慢性脳損傷である。一実施形態では、神経障害又は病態は、慢性連日性頭痛並びに片頭痛及び関連障害である。一実施形態では、神経障害は運動障害である。
【0008】
本開示の別の態様において、電極アセンブリは皮膚的三叉神経刺激用に構成され得る。一実施形態では、電極アセンブリはシステム又はキットの構成要素であり得る。本開示の一態様によれば、三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリが提供される。この皮膚電極アセンブリは、患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対を有する第1の電極と;患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対を有する第2の電極と;第1の接触子対と第2の接触子対とを(電極を)接続する絶縁接続領域とを含むことができ、第1の接触子対及び第2の接触子対は、神経障害又は病態を治療するために三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される。三叉神経の少なくとも1つの分枝は、表在性の眼分枝、眼窩下分枝、及びオトガイ分枝からなる群から選択され得る。一実施形態では、電極アセンブリは、電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素をさらに含み得る。
【0009】
本開示の別の態様において、神経障害又は病態の治療用三叉神経刺激システムが開示される。一実施形態において、このシステムは、神経刺激器と、皮膚電極アセンブリであって、患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対を有する第1の電極と;患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対を有する第2の電極と;第1の接触子対と第2の接触子対とを接続する絶縁接続領域とを含む皮膚電極アセンブリとを含み、第1の接触子対及び第2の接触子対は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。このシステムは、神経刺激器と皮膚電極アセンブリとを動作可能に又は電気的に接続するケーブル及び/又はリードワイヤをさらに含み得る。一実施形態において、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、表在性の眼分枝、眼窩下分枝、及びオトガイ分枝からなる群から選択される。このシステムは、電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素をさらに含み得る。
【0010】
別の態様において、神経障害又は病態の治療用三叉神経刺激システムが開示される。一実施形態において、このシステムは、パルス発生器と;パルス発生器と電気的に連通している皮膚電極アセンブリとを含む。電極アセンブリは、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含むことができ、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、システムは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、アセンブリは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含むことができ、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の同じ分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。一実施形態では、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の異なる分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。このシステムは、パルス発生器と皮膚電極アセンブリとを動作可能に接続するワイヤをさらに含み得る。このシステムは、最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に調節するように構成された調節装置をさらに含み得る。神経障害又は病態は、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される。一実施形態では、パルス発生器は、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加するように構成される。
【0011】
別の態様において、神経障害又は病態を治療するための三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリが開示される。一実施形態において、このアセンブリは、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、アセンブリは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、このアセンブリは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含むことができ、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態において、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の同じ分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。一実施形態において、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の異なる分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成される。神経障害又は病態は、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される。
【0012】
別の態様において、三叉神経刺激による神経障害又は病態の治療方法が開示される。一実施形態において、この方法は、患者の顔面の第1の領域を皮膚電極アセンブリと接触させる工程であって、皮膚電極アセンブリが、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、アセンブリは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、工程と;神経障害又は病態を治療する特定の動作パラメータで電極アセンブリに電気信号を印加する工程とを含む。一実施形態において、アセンブリは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝上に重なる患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態において、電気信号を印加する工程は、周波数約20〜300ヘルツ、電流0.05〜5ミリアンペア(mA)及び500マイクロ秒以下のパルス持続時間で電気信号を印加することを含む。一実施形態において、電気信号を印加する工程は、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加することを含む。神経障害又は病態は、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される。
【0013】
別の態様において、神経障害又は病態の治療用三叉神経刺激キットが開示される。このキットは、本明細書に記載される皮膚電極アセンブリと、神経障害又は病態を治療するための患者に対する電極アセンブリの配置についての説明書とを含み得る。このキットは、神経刺激器と、神経障害又は病態を治療するための電極アセンブリへの電気信号の印加についての説明書とをさらに含み得る。
【0014】
本開示は、その構成及び動作方法の双方に関して、添付の図面との関連をふまえて以下の説明を参照することにより理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】三叉神経のいくつかの分枝(神経)の位置及び三叉神経の表在分枝についての主要な孔の位置を示す。
【図1B】三叉神経のいくつかの分枝(神経)の位置及び三叉神経の表在分枝についての主要な孔の位置を示す。
【図2】本開示の態様により提供されるTNSによる神経障害及び病態の治療方法に係る皮膚電極アセンブリの一実施形態を装着している対象者の例を示す。
【図3A】図2の皮膚電極アセンブリの拡大図である。
【図3B】図3Aの皮膚電極アセンブリの代表的な寸法を示す。
【図4A】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を図示する。
【図4B】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を図示する。
【図4C】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を図示する。
【図5】外部三叉神経刺激(「TNS」)の予備試験の結果を示す。
【図6】眼窩上神経の皮膚刺激に曝露された対象者についての電流、電荷、電流密度及び電荷密度パラメータの一実施形態を要約する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、てんかん及び他の発作性障害並びに運動及び他の関連障害を含む様々な神経障害又は病態の治療に、及び/又はそれからの回復を促進するために;急性又は慢性脳損傷(例えば、脳卒中、低酸素症/虚血、頭部外傷、くも膜下出血、及び他の形態の脳損傷)からの回復を促進するために(様々なレベルの昏睡、精神状態異常又は植物状態にある患者を覚醒させる、及び/又はその回復を促進するために);又は顔面及び前額の三叉神経の感覚分枝を外部(皮膚)刺激することによって慢性連日性頭痛並びに片頭痛及び関連障害からの回復を促進するために使用される方法、装置、及びシステムに関する。より具体的には、眼神経及びその分枝、眼窩下神経及びその分枝、並びにオトガイ神経又はその分枝の感覚成分を、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、耳介側頭神経、頬骨側頭神経、頬骨眼窩神経、頬骨顔面神経、鼻神経及び滑車下神経を含め、刺激するように構成された装置及び電極アセンブリに関する。てんかんなどの発作性障害及び他の神経障害又は病態をeTNS(外部三叉神経刺激)により治療する方法もまた提供される。本明細書に記載される方法、システム及び装置は、非侵襲性又は最小侵襲性であり得る。
【0017】
本明細書に記載される方法、装置及びシステムはまた、様々な形態の脳損傷後、例えば、脳卒中、頭部損傷、低酸素性/虚血性脳損傷、及び/又は他の形態の急性及び慢性脳損傷後の、及び/又は運動及び他の関連障害に関連する、神経機能、アラートネス、注意、及び認知機能を亢進させ得る。本明細書に記載されるとおりの皮膚的装置を使用することで、脳損傷後直ちに迅速なインターベンションを行うことが可能となり得るため、従って三叉神経の皮膚分枝を刺激することにより神経な回復が亢進する可能性がある。三叉神経の特有の解剖学的構造と、感覚処理、注意、及び自律神経機能に関与する脳幹、視床及び皮質の主要な領域へのその直接的及び間接的な投射とにより、刺激が求められ得る様々な神経病態に対する外部刺激の使用が可能となり得る。
【0018】
臨床的状況によっては、脳刺激、例えば、精神医学的病態に対する電気痙攣療法(ECT)及び反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)が、US Food and Drug Administrationにより承認済みとなっているだけの十分な臨床的有用性があると認められている。一部の脳刺激法は、皮質の大きい容積、例えば、ECTでは全葉レベルで、及びrTMSでは大きい領域レベル(すなわち背外側前頭前皮質)で電流を発生させて脳をバルク導体として取り扱うことを目標としている。加えて、脳深部刺激は、概して、極めて多数の細胞の発火をもたらす小さいが局部的な容積の刺激に基礎を置いている。本開示のシステム、装置及び方法が脳に送る電流は、たとえあったとしても最小限である;代わりに信号が脳に送られることで、関連する神経解剖学的構造の活動が調節される。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、電気パルスは三叉神経の皮膚分枝に信号を生成し、電界は概して皮膚組織に閉じ込められ、脳への漏出は、たとえあったとしても最小限である。これらの電気パルスは、特定のニューロン網の極めて限定的で正確な動員を伴う神経細胞シグナリングイベントの変化のカスケードを引き起こす。このような神経解剖学的経路により、てんかん並びに他の神経病態及び障害に関与する領域(例えば、青斑核、前帯状回、島皮質)における活動を標的化して調節することが可能となる。従って、本明細書に開示されるとおりのシステム、装置及び方法は、脳の既存の基盤構造を利用して目的の標的に信号を伝達する。本開示との関連において、最小の電流浸透とは、(1)大脳皮質において約0uC/cm2の電荷密度、又は(2)以下の閾値未満の電荷密度計算値、実測値、又はモデル値を意味する:(a)錐体ニューロン及び軸索の活性化を引き起こす可能性が低い電流、電荷密度、又は位相当たりの電荷;及び(b)脳損傷を回避するため、一実施形態では10uC/cm2未満の電荷密度、及び他の実施形態では0.001〜0.1uC/cm2未満の電荷密度、及び脳損傷を引き起こさないことが分かっている電荷密度と位相当たり電荷との組み合わせ。一実施形態では、より低いレベルの刺激に対して個々の患者の中枢神経系の感度が十分に高く、その低いレベルであってもなお臨床的利益を生じることが可能なとき、より低い電荷密度が用いられ得る。
【0019】
以下の説明は、任意の当業者が本開示の発明対象を作製及び使用することを可能にするために提供され、本発明者らにより企図される本開示の様々な態様の最良の実施形態を示す。しかしながら、開示される発明対象の原理は本明細書に定義され、(1)皮膚三叉神経刺激用に構成されるシステム及び電極アセンブリ;及び(2)電極アセンブリを使用して表在三叉神経を刺激することによる、てんかん及び他の発作性障害を含めた神経障害又は病態の治療方法が具体的に説明されているため、当業者には依然として様々な変形例が容易に明らかであろう。
【0020】
三叉神経に関する考察のため、初めに図1A〜図1Bを参照し、これらの図は、いくつかの三叉神経分枝の位置及び三叉神経の表在分枝についての主要な孔の位置を示す。三叉神経は最大の脳神経であり、脳幹及び他の脳構造との広汎な接続を有する。三叉神経は顔面に3本の主要な感覚分枝を有し、そのいずれもが両側性で、且つ極めて到達し易い。眼窩上神経、又は眼神経は、第一枝(V1 division)と称されることが多い。眼窩下分枝、又は上顎神経は、一般に第二枝(V2 division)と称される。表在分枝、又は下顎神経(オトガイ分枝としても知られる)は、第三枝(V3 division)と称される。眼窩上神経は、前額の皮膚、上眼瞼、鼻の前部、及び眼に対する痛み、温度、及び軽い接触に関する感覚情報を支配する。眼窩下分枝は、下眼瞼、頬、及び上唇に対する痛覚、温度覚、及び軽い触覚に関する感覚情報を支配する。オトガイ分枝は、顎、舌、及び下唇に対する同様の感覚様相を支配する。
【0021】
図1A及び図1Bから理解され得るとおり、これらの分枝は3つの孔から頭蓋を出る。眼窩上神経又は眼神経は、鼻正中線から約2.1〜2.6cm(成人)の孔1(眼窩上孔又は切痕)より出て、眉毛の下側に位置する眼窩隆起の真上に位置する。鼻神経は眼神経の枝である。眼窩下分枝又は上顎神経は、鼻正中線から約2.4〜3.0cm(成人)の孔2(眼窩下孔)より出て、及びオトガイ神経は、鼻正中線から約2.0〜2.3cm(成人)の孔3(オトガイ孔)より出る。他の感覚分枝は、頬骨顔面枝、頬骨眼窩枝、頬骨側頭枝、及び耳介側頭枝を含め、他の孔から現れる。
【0022】
3本の主分枝からの線維は一体に合流して三叉神経節を形成する。そこから線維は脳幹に入って橋のレベルまで上行し、橋の主感覚核、Vの中脳核、並びにVの脊髄核及び神経路とシナプス結合する。痛覚線維はVの脊髄核及び神経路に下行し、次に視床後内側腹側核(VPM)まで上行し、次に大脳皮質に投射する。軽い触覚の線維は太い有髄線維であり、これは視床後外側腹側核(VPL)まで上行する。求心性感覚線維は三叉神経核から視床及び大脳皮質に投射する。
【0023】
三叉神経核は、孤束核(NTS)、青斑核、大脳皮質、及び迷走神経に投射を有する。NTSは迷走神経及び三叉神経からの求心性線維を受ける。NTSは複数の供給源からの入力を統合し、青斑核を含め、脳幹及び前脳の構造に投射する。
【0024】
青斑核は橋背側で対をなす核構造であり、第四脳室の底の真下に位置する。青斑核は脳幹、皮質下及び皮質の多数の構造への広汎な軸索投射を有し、網様体賦活系の重要な部分である。青斑核は脳幹のノルアドレナリン作動性経路の中心部分であり、神経伝達物質ノルエピネフリンを産生する。ノルエピネフリンは、注意、覚醒度(alertness)、血圧及び心拍数調節、不安及び気分において重要な役割を果たす。
【0025】
いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、特定の実施形態において、三叉神経、青斑核、孤束核、視床、及び大脳皮質の間の接続は、当業者には明らかであり得るとおり、昏睡及び脳損傷、発作性障害、頭痛、片頭痛、及び運動障害を含む数多くの神経障害における三叉神経の潜在的な役割に関連し得る。従って、三叉神経を所定の範囲内で個別的に調整した設定及びパラメータにより皮膚刺激することは、複数の神経障害の治療において有効であり得る。
【0026】
神経障害
昏睡及び植物状態。皮下神経刺激は、昏睡及び植物状態にある人の意識を改善し得る。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、脳幹網様体賦活系(青斑核を含む)及び視床は、覚醒度、覚醒(awakening)、及び高次皮質構造の活性化において役割を果たし得る。三叉神経及び核が投射するこれらの及び他の脳構造の刺激は、昏睡の覚醒促進、並びに様々な形態の脳損傷後における認知及び運動機能の回復を補助し得る。覚醒状態及び意識に関与する主要な脳幹、視床、及び皮質構造への三叉神経の投射をふまえれば、三叉神経はこれらの主要構造を活性化する一方法に相当する。
【0027】
頭痛及び片頭痛。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、頭痛及び片頭痛は三叉神経につながる経路を含む。特定の三叉神経構造及び経路の活性化は、頭痛において役割を果たし得る(Nature Medicine 2002; 8:136-142)。大脳皮質を覆う軟膜の血管構造からの求心性三叉神経線維が活性化され、三叉神経節及び尾側三叉神経核を活性化又は感作し、次にそれが上唾液核及び翼口蓋神経節を活性化する(Nature Medicine 2002; 8:136-142)。これらの構造から硬膜(脳の外側の保護内層)の血管に投射されることで、血管作動性ペプチドの放出、タンパク質溢出、及び硝酸経路の活性化がもたらされ、これらはいずれも硬膜血管の拡張を引き起こし、それが頭痛をもたらし得る。これはしばしば三叉神経−血管反射と称され、片頭痛発生の機構であり得る(Nature Medicine 2002; 8:136-142)。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、手術によって三叉神経を傷害又は遮断すると、この反応が抑制され、片頭痛及び他の頭痛症候群で関与するイベントのカスケードの低下がもたらされ得る。本明細書に開示されるとおり、三叉神経の急性的又は慢性的な電気刺激を、顔面にあるその皮膚分枝又は表在分枝を介して、上述の回路を阻害する周波数で行うことは、この三叉神経−血管反射反応を調節し、且つ三叉神経核及び三叉神経が役割を果たす頭痛又は片頭痛を低減又は抑制する一つの方法である。
【0028】
運動障害。運動障害は身体の不随意運動により特徴付けられ、限定はされないが、振戦、単収縮、及びスパスム、ジストニーなどの筋緊張の不随意的な増加、並びにジスキネジー及び舞踏病などの複雑運動を含む。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、本発明者らは、TNSが運動障害に関与する主要な構造、限定はされないが、視床、基底核、脳幹、及び大脳皮質における活動を調節し得るとともに、これらの不随意現象を生じさせる運動系におけるニューロン活動異常を求心性刺激によって抑制し得ることを仮定する。
【0029】
遅発性及び他のジスキネジー。脳のドパミン作動性ニューロンに作用する多くの薬物は、不随意運動の誘発に関与する。これはレボドパによるパーキンソン病治療について、精神病、双極性障害、及び他の病態における神経遮断薬物の使用について(Damier, Curr Opin Neurol 22:394-399, 2009)、及び胃腸症状に対処するために使用されるドパミン作動性薬物について(Rao and Camilleri, Ailment Pharmacol Ther 31:11-19. 2010)、報告されている。その他、遺伝的関連に基づくジスキネジーの罹患者があり得る(Coubes et al., Lancet 355:2220-1, 2000)。これらのジスキネジー症候群は、通常は口腔顔面的に舌、唇、口又は顔の筋肉から始まるが、重症度が増して他の身体部分も関わるようになり得る不随意運動からなる。これらのジスキネジーの正確な発症機構は不明だが、外科的治療手法では、脳深部刺激が改善をもたらし得る位置として視床及び淡蒼球が関係付けられている(Kupsch et al., J Neurol 250 Suppl 1:147-152 2003)。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、三叉神経、孤束核、及び視床の間の接続により、三叉神経刺激がこれらの主要な構造を活性化してジスキネジーの症状を寛解させ得る機構が提供され得る。
【0030】
発作性障害。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、三叉神経刺激は青斑核、脳幹、視床、及び大脳皮質における活動を調節することができ、及びニューロン興奮性に影響を及ぼす抑制機構及び経路を活性化することができる。三叉神経刺激はまた、興奮機構及び経路を抑制することもでき、それによりてんかん発射並びに皮質及び皮質下構造におけるその拡散の抑制が生じ得る。これらの過程は、てんかん病巣それ自体の活動に直接的又は間接的な影響を及ぼし得る。
【0031】
従って、本明細書に開示されるとおりの三叉神経の表在分枝又は皮膚分枝の刺激は、非侵襲性の神経調節手段を提供する。さらに、刺激パラメータを個別の病態に合わせて調整することができ、従ってその個別の病態に関与する脳幹、視床、又は皮質構造を、治療する病態の病態生理学に応じて活性化又は抑制することができる。
【0032】
本開示の態様に係る皮膚電極を使用する方法、システム及び装置の特定の実施形態を考察するため、図2〜図4Cを参照する。図2〜図4Cは、本開示の態様に係る皮膚電極アセンブリ及びシステムの様々な実施形態を示す。
【0033】
本開示の一つの例示的な実施形態は、三叉神経刺激(「TNS」)を用いたてんかん及び関連発作性障害並びに本明細書に記載されるとおりの他の神経障害又は病態の治療方法の形態をとる。概して言えば、この治療方法は、三叉神経の孔又は分枝(図1A〜図1B)の少なくとも1つの上又は近傍に外部電極を位置決めする工程と、刺激器又はパルス発生器を一定時間にわたり特定の動作パラメータで使用して電極を刺激する工程とを含む。一実施形態において、単一の又は別個の電極を患者の顔面の右側及び/又は左側に配置することにより(例えば電極アセンブリ、例えば、2つの別個の電極、単一の対をなす電極又は2対の電極を、前額又は患者の顔面の他の領域の上に配置することにより)三叉神経の片側性又は両側性の刺激を実現することができるため、外部電極は眼窩上神経又は眼神経の孔(図1A、孔1)の上に位置決めされる。一実施形態において、電極アセンブリは片側刺激用に構成される。一実施形態において、電極アセンブリは両側刺激用に刺激される。一実施形態では、種々の脳構造の機能は右と左とで同じでないこともあり得るため、両側刺激は片側刺激と同程度か、又はそれより優れた効力を提供することができる(例えば言語表現は最も一般的には左半球の言語中枢に局在し、そこでの損傷は話す能力の破局的な喪失をもたらすが、右半球の対応する領域の傷害はこの深刻な機能喪失をもたらさず、わずかに機能が変化し得るだけである)。また、両側刺激で生じる相乗効果もあり得る。図2は、電極アセンブリ10を眼神経の孔に対応して前額に装着している患者5の例を示す。代替的実施形態において、電極アセンブリ10は、上顎神経の孔(図1A、孔2)又は下顎神経の孔(図1B、孔3)の上に位置決めすることができる。さらに他の実施形態において、刺激は三叉神経の一つの孔に片側性で適用することができる。他の実施形態において、てんかん及び関連発作性障害並びに本明細書に記載されるとおりの他の神経障害又は病態の治療方法は、外部電極を複数の孔の上に位置決めする工程と、異なる三叉神経を同時に刺激する工程とを含む。他の実施形態において、電極は、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経及び/又は耳介側頭神経及び/又はそのそれぞれの孔に対応する患者の顔面の領域に(右側及び/又は左側で)位置決めされてもよい。
【0034】
一実施形態において、図2〜図4Cから理解され得るとおり、TNSによる神経障害又は病態の治療用システム100は、電極アセンブリ10と、神経刺激器又はパルス発生器15と、電気ケーブル又はワイヤ20とを含む。電極アセンブリ10は、眼神経を両側性刺激で異時的に刺激するように構成されてもよい。他の実施形態において、電極アセンブリは、本明細書の別所に開示されるとおりの三叉神経の1つ又は複数の分枝を片側性又は両側性に刺激するように構成されてもよい。神経刺激器又はパルス発生器は、任意の種類の適切な、刺激を与え、信号を発生する装置であってよい。例示される実施形態において、刺激器15は携帯型で、患者5のベルトに取り付けられる。しかしながら、携帯型又は非携帯型のいずれの刺激器も使用することができる。一実施形態において、電気ケーブル又はワイヤ20は、刺激器15と電極アセンブリ10との間のリードワイヤを介した物理的且つ電気的連結を提供するように構成される。他の実施形態において、刺激器15と電極アセンブリ10とは無線通信し得る(すなわち、ワイヤ20及びリードワイヤは使用されない)。システム100及び/又は電極アセンブリ10はキットの一部であってもよい。一実施形態では、キットはまた、電極アセンブリ及び/又はシステムの配置についての説明書も含み得る。一実施形態では、キットはまた、本明細書に開示される方法による神経障害又は病態の治療についての説明書も含み得る。
【0035】
例示される実施形態に示される皮膚電極アセンブリ10は、両側性眼窩上電極とも称される。図3A及び図3Bに示されるとおり、電極アセンブリ10は、患者の顔面の第1の領域に配置される電極(接触子とも称される)12a、12bの第1の対と、患者の顔面の第2の領域に配置される電極(接触子とも称される)14a、14bの第2の対とを含む。一実施形態では、第1の領域は患者の顔面の右側であり、第2の領域は患者の顔面の左側である。第1の接触子対は第1の上側接触子12aと第1の下側接触子12bとを含み、一方、第2の接触子対は第2の上側接触子14aと第2の下側接触子14bとを含む。絶縁性接続領域16が第1の接触子対と第2の接触子対とを互いに接続する。電極アセンブリ10は患者の皮膚と4つの接触域で接触する内側接触面18を含み、各接触域が、4つの接触子12a、12b、14a、14bのうちの1つに対応する。4つの接触域を含む内側接触面18はまた、皮膚のかぶれを最小限に抑えながら良好な導電率を提供する緩衝ゲル様接着剤を含んでもよく、かかるゲルの例には、AmGel Technologies(AmGel Technologies, Fallbrook, California USA)から市販されているハイドロゲルが含まれる。
【0036】
任意選択により、電極アセンブリ10は、電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素24を含む。一実施形態において、保持要素24は弾性バンド又はストラップであってもよい。代替的実施形態において、電極アセンブリ10は、同時に電極アセンブリを見えないように隠す働きもし得るハット型帽子、バンド、若しくはキャップ型帽子、又は適切な接着剤により所定位置に固定することができる。
【0037】
一実施形態では、システム100は調節装置を含み得る。調節装置はパルス発生器15に取り付けられるように構成され、且つ最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に抑えることで脳への電流浸透を最小限にし、患者の耐容性を高めるように構成される。調節装置は、0.25〜5.0mA、0〜10mA、0〜15mAの範囲に内部でプログラムされてもよく、これは電極の表面積、配置、及び向き、並びに電極が頭蓋に近接若しくは隣接して刺激するか、又は頭蓋から離れて(オトガイで)刺激するかに依存し、電流範囲はより高くても、又はより低くてもよい。現在のTENSユニットは最大100mAの最大出力電流で刺激し、これによりもたらされる電流は頭蓋に浸透し得るとともに、十分に耐容されないこともあり得る。
【0038】
図3A及び図3Bに示されるとおりの電極アセンブリ10は左右双方の眼神経を、同時に、或いは異時的に刺激するように構成される。絶縁性接続領域16は、患者が電極アセンブリ10を鼻の正中線と整列させることを補助する働きをし、それにより成人患者の鼻正中線から平均約2.1〜2.6cmにある双方の眼神経の上に電極アセンブリ10が正しく配置されることが確実となる。従って電極アセンブリは、眼神経の位置に関する知識又は神経に対する重要な目印なしに(例えば患者が)正確に配置することができるため、電極を誤って位置決めすることに起因して不適切に刺激する可能性が低下する。図4A〜図4Cは電極アセンブリ10の他の実施形態を示し、この構成を用いることで、右及び/又は左眼神経及び/又は本明細書に開示されるとおりの三叉神経の他の分枝、例えば頬骨顔面神経及び/又は耳介側頭神経を刺激し得る。単一の電極が使用されても、又は複数の電極が使用されてもよいことは理解され得る。両側性眼窩上電極は両側性の眼窩上刺激用に構成される。これは、脳への電流浸透を無効にし、又は最小化し、又は安全にするため、使用位置、刺激パラメータ、及びコンピュータモデリングからの入力に基づき拡縮可能である。皮膚のかぶれが起こり得るときは、同様の構成を片側性で適用してもよく、それにより前額の一方の側に解放がもたらされ、皮膚耐容性が促進され、且つかぶれるリスクが低減される。サイズ及び電極間距離に関する他の構成を、限定はされないが図4A〜図4Cに示されるとおりのものを含め、三叉神経の異なる分枝に対して企図することができる。
【0039】
第1の接触子対12a、12b及び第2の接触子対14a、14bを鼻正中線の両側に配置すると、刺激電流が順方向性に又は求心性の眼神経若しくは眼窩上神経の方向に流れることが確実となる。さらに、刺激に対する反応は局在し、従って正中線の一方の側と他方の側とで異なり得るが、電極アセンブリ10のこの構成により、接触子対12a、12b及び14a、14bを独立に及び/又は片側性で刺激することが可能となる。すなわち、本開示の電極アセンブリにより、適用性に応じて第1の領域及び第2の領域又は右側及び左側に対する電流を個別に調整することが可能となり、従って非対称な刺激及び/又は知覚される非対称な刺激が低減される。
【0040】
単極性の電気パルスが生成される刺激については、上側接触子12a、14a及び下側接触子12b、14bは固定的な極性を有し得る。交番極性(alternating polarities)の電気パルスが生成される刺激については、上側接触子12a、14a及び下側接触子12b、14bは交番極性を有し得る。また、下方電極は、典型的には刺激パルスの進相(leading phase)のため陰極として働く。単相刺激の場合、下方電極が概して陰極となる。
【0041】
図3Bは、図2の皮膚又は眼窩上電極アセンブリの一実施形態の寸法を例示し、それにより電極の正中線からの、及び互いからの相対的な関係を示す。電極のサイズ及び電極間距離は、電流の皮膚及び神経への送達を促進する一方で、頭蓋(内部頭蓋骨)の内板(緻密層)を越える電流密度を低減し、及び/又は最小限にするサイズとされる。本開示に説明されるとおり、本開示のシステム、装置及び方法は、脳への電流浸透を最小限にするように構成される。
【0042】
電極アセンブリの一実施形態の寸法が図3Bに示される。表面積、電極接触子と正中線との関係、及び電極間距離は、各々が、皮膚又は神経を損傷する可能性を最小限にし、各神経の適切な刺激を確実とし、且つ頭蓋を通って脳組織に入り込む電流の流れ(浸透)を最小限にするために重要な要素である。電極への電流の流れ、オン/オフ時間、刺激の使用時間及び周波数もまた、適切な安全性及び効力を確実とするために重要である。電極寸法は、異なる出力電流及びパルス持続時間で使用するために拡縮可能である。
【0043】
図3Bから理解され得るとおり、各接触子12a、12b、14a、14bは、過度の電荷密度に起因する任意の皮膚損傷を最小限とし、且つ頭蓋骨の内表面を越える電流浸透を最小限とするのに十分に大きい表面積にわたり電気パルスを送達するサイズとされる。第1の接触子対12a、12bと第2の接触子対14a、14bとの間の距離は、眼神経を刺激する一方で脳の表面に対する任意の電流送達を最小限にするように構成される。一実施形態において、電極の各々の中点は、鼻正中線から約2.5cm(2.1〜2.6cmの範囲)である。電極サイズ及び電極間距離は、小児と成人とで、及び男性と女性とで異なり得る。一実施形態において、電極は約32.5mmの長さ×12.5mmの高さであり、及び例えば上側の電極対12aと14aとの間の電極間距離は17.5mmであり、及び例えば上側の電極12aと下側の電極12bとの間の電極間距離は20mmである。他の実施形態において、電極の長さは32.5mmより大きくても、又はそれより小さくてもよく、及び12.5mmの高さより大きくても、又はそれより小さくてもよい。さらに他の実施形態において、電極間距離は、20mmより大きく、及び/又は17.5mmより小さい範囲であり得る。当業者は、上記の距離の1つ又は複数を距離の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0044】
当業者は、電極アセンブリ10の上述の実施形態の様々な適応例及び変形例が本開示の範囲及び趣旨に含まれることを理解するであろう。例えば、本装置の一実施形態は、眼神経の片側刺激用に構成された片側性電極アセンブリを含む。また、本電極アセンブリはまた、上顎神経又は下顎神経又は本明細書に開示されるとおりの他の神経の刺激用にも構成することができる。さらに別の例として、複数の三叉神経分枝の同時刺激用に構成された電極アセンブリもまた、本開示の範囲に含まれる。
【0045】
使用時、電極アセンブリ10は患者5の前額上で、絶縁性接続領域16が患者5の鼻の正中線と整列するように位置決めされる。一実施形態では、電極アセンブリ10は、眼窩隆起上で鼻正中線の約2.1〜2.6cm外側に位置する眼窩上孔の上に配置される。一実施形態において、電極アセンブリ10は、次に電気ケーブル20によってパルス発生器15に接続される。他の実施形態において、電極アセンブリはパルス発生器15に無線接続で接続される。次に、本明細書に記載される方法により決定されるとおりの患者特異的動作パラメータに従う刺激が加えられる。
【0046】
本開示の一態様によれば、上記に記載したとおりの電極アセンブリ10を使用したてんかん及び関連発作性障害並びに他の神経障害又は病態の治療方法が記載される。一実施形態において、これらの神経障害又は病態の治療方法は、電極アセンブリ10を患者の前額に位置決めする工程と、電極アセンブリ10を刺激器に接続する工程と、脳内/頭蓋骨下への電流浸透を最小限にするための本明細書に開示されるとおりの所定の動作パラメータ値で電極アセンブリ10を刺激する工程とを含む。一実施形態では、電極アセンブリはワイヤ20及び/又はリードワイヤによって刺激器に接続される。一実施形態では、電極アセンブリは刺激器に無線で接続される。
【0047】
一実施形態において、図2〜図3Bに例示される両側性眼窩上電極10は、刺激周波数約20Hz〜約300Hz、パルス持続時間50マイクロ秒(μ秒)〜250μ秒、約25mA/cm未満の出力電流密度で、及び大脳皮質における電荷密度はなし、若しくは無視し得るほど僅かで、又は脳損傷のリスクを低減する10Uc/cm未満の大脳皮質における電荷密度計算値若しくは実測値、及び1.0uC/cm2未満、さらには一実施形態では0.001〜0.01uC/cmで、及び脳損傷を引き起こさないことが分かっている電荷密度と位相当たり電荷との組み合わせで、少なくとも1日30分〜1時間にわたり刺激されるか、又は1日24時間にわたり提供されてもよい。さらに低い電荷密度が求められ得る可能性もある。当業者は、上記のパラメータの1つ又は複数をパラメータの範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0048】
本開示の一態様によれば、TNSによりてんかん及び関連発作性障害並びに他の神経障害又は病態を治療する方法は、各個別の患者の刺激に最適な動作パラメータ値を選択する工程を含む。一実施形態において、神経刺激は、電気刺激器を以下の例示的設定で使用して提供される:周波数20〜150Hz、電流5〜15mA、50〜250マイクロ秒のパルス持続時間、10%〜50%のデューティサイクル、少なくとも1日1時間。別の実施形態において、神経刺激は、電気刺激器を以下の例示的設定で使用して提供される:周波数20〜150Hz、電流1〜10mA、50〜250マイクロ秒のパルス持続時間、10%〜50%のデューティサイクル、少なくとも1日1時間。
【0049】
様々な実施形態において、刺激は特定のパルス幅又はパルス幅範囲(又はパルス持続時間)で送達される。刺激は、50μs、60μs、70μs、80μs、90μs、100μs、125μs、150μs、175μs、200μs、225μs、250μs、最大500μsの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲のパルス幅を送達するように設定することができる。当業者は、上記の時間の1つ又は複数をパルス幅の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0050】
一実施形態では、刺激振幅は、電圧又は電流制御された刺激として送達される。他の実施形態において、刺激振幅は容量放電として送達することができる。様々な実施形態において、電流振幅は、上記に記載したとおり、電極の表面積、電極間距離、刺激される1つ又は複数の分枝、及びモデリングデータに応じて、約300μAの下限と約30mA〜35mAの上限との範囲内にある任意の範囲であってよい。様々な実施形態において、振幅は、50μA、75μA、100μA、125μA、150μA、175μA、200μA、225μA、250μA、275μA、300μA、325μA、350μA、375μA、400μA、425μA、450μA、475μA、500μA、525μA、550μA、575μA、600μA、625μA、650μA、675μA、700μA、725μA、850μA、875μA、900μA、925μA、950μA、975μA、1mA、2mA、3mA、4mA、5mA、6mA、7mA、8mA、9mA、10mA、11mA、12mA、13mA、14mA、15mA、16mA、17mA、18mA、19mA及び20mAの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲であってもよい。当業者は、上記の振幅の1つ又は複数を振幅の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0051】
様々な実施形態において、刺激は1つ又は複数の周波数又は周波数範囲内で送達することができる。刺激は、50Hz、45Hz、40Hz、35Hz、30Hz、25Hz、20Hz、15Hz、又は10Hzの1つ又は複数より小さい、及び/又はそれより大きい周波数で送達されるように設定することができる。様々な実施形態において、刺激は、20Hz、30Hz、40Hz、50Hz、60Hz、70Hz、80Hz、90Hz、100Hz、125Hz、150Hz、最大300Hzの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい周波数で送達されるように設定することができる。当業者は、上記の周波数の1つ又は複数を周波数の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0052】
様々な実施形態において、刺激は特定のデューティサイクル又はデューティサイクル範囲で送達される。刺激は、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲のデューティサイクルで送達するように設定することができる。一実施形態では、神経を確実に温存するため、10%〜50%のデューティサイクルが好ましいとし得る。一実施形態では、特定の状況で最大100%のデューティサイクルが有用であり得る。当業者は、上記のパーセンテージの1つ又は複数をデューティサイクルの範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0053】
他の実施形態では、異なる動作パラメータ値が使用されてもよい。一実施形態において、動作パラメータ値は、患者が不快感又は痛みを覚えることなく前額及び頭皮にわたり軽い刺痛などの刺激感覚を受け得るように選択される。神経刺激パラメータはこの治療方法における重要な要素である。一実施形態において、動作パラメータ値は、皮膚のかぶれ、熱傷、脳及び/又は眼神経に対する望ましくない効果が最小限となるように選択される。一実施形態において、動作パラメータの選択方法は、電極の構成及びサイズ、パルス持続時間、電極電流、デューティサイクル並びに刺激周波数などの変数を評価する工程を含み、これらの変数の各々が、全電荷、電荷密度、及び位相当たりの電荷が十分に皮膚、神経及び脳に認められた安全限界の範囲内にあることを確実にするのに重要な要素である。例えば、皮膚のかぶれを最小限に抑えるには、単に全電流を考慮するだけでは不十分であり、電流密度を定義する必要がある。加えて、電気刺激パラメータ、電極設計、及び電極間距離を、電気刺激範囲が眼神経(約3〜4mm深さ)又は他の所望の神経分枝を含む一方、頭蓋骨下及び脳内への電流浸透を回避し、又は最小限にするように選択することが重要である。
【0054】
刺激は上述の動作パラメータ値で行われる。動作パラメータ値は有利には、患者に耐え難い不快感又は痛みを引き起こすことなく、患者が前額及び頭皮にわたり軽い刺痛などの刺激感覚を受け得るように、且つ脳への電流浸透が最小限となるように選択される。これらの値は目的とする治療によって異なり得る。
【0055】
一実施形態では、外部装置を使用することにより、個々の患者において植え込まれた電極アセンブリによる刺激の標的となり得る三叉神経の1つ又は複数の分枝の位置が特定されてもよい。この外部装置は、三叉神経の所望される1つ又は複数の分枝をマッピングして標的を定めるために、並びに効力及び安全性が最適な個別の刺激パラメータを特定するために使用されてもよい。一実施形態において、この装置は複数の外部(経皮的)TNS電極を含み得る。施術者が標的分枝の位置を概測し、標的位置の上方で患者の皮膚に電極を取り付ける。刺激が加えられてもよく、1つ又は複数の標的分枝の実際の位置又は好ましい(最適な)刺激位置が決定されてもよい。刺激パラメータもまた確立され得る。外部装置によって位置及び/又は刺激パラメータが確立されると、当該のデータを使用して個々の患者についての植え込み電極の配置の案内が促進され、及び当該の患者に合わせて個別化される刺激パラメータが確立され得る。
【0056】
加えて、三叉神経の刺激用外部電極を使用することにより、個人間変動に基づく最適な特定の刺激位置及びパラメータに加え、最小侵襲システムから治療利益を得る可能性が高い個人を特定し得る。様々な神経診断法、イメージング法、又は皮神経マッピング法により、個々の解剖学的構造の違いを描き出し、効力及び/又は安全性について刺激を最適化することが可能であり得る。さらに、最小侵襲システムの使用により、他の植込み型システム、例えば脳深部刺激から利益を得る可能性が高い個人のスクリーニング及び同定が可能となり得る。これは、第I段階(三叉神経の外部TNS)、第II段階(表在三叉神経の植込み型TNS)、及び第III段階(脳深部刺激)として、第I段階が第II段階のための、及び第II段階が第III段階のためのスクリーニングとなり得るように3つの手法が連関するものとして概念化することができる。症状の重症度の低減によるなど、有用な治療効果の徴候(evidence)について患者をモニタすることにより、ある段階における治療の結果を用いて、より高い段階の高侵襲性の治療で予想される治療効果を判断し得る。
【0057】
患者における神経障害を治療するための三叉神経刺激の使用を評価する方法が、本明細書に開示される。この方法は、患者に三叉神経刺激用皮膚システムを適用する工程と、TNS治療の有用な治療反応の徴候又は耐容性の徴候の少なくとも一方について患者をモニタする工程と、皮下電極アセンブリ又はシステムを提供する工程と、神経障害を治療するため患者に皮下電極アセンブリ又はシステムを植え込む工程とを含み得る。
【0058】
患者における神経障害を治療するための脳深部刺激の使用を評価する方法が、本明細書に開示される。この方法は、患者に三叉神経刺激用皮膚システムを適用する工程と、TNS治療の有用な治療反応の徴候又は耐容性の徴候の少なくとも一方について患者をモニタする工程であって、それにより外部測定基準を作成する工程と、皮下電極アセンブリ又はシステムを提供する工程と、神経障害を治療するため患者に皮下電極アセンブリ又はシステムを植え込む工程と、植え込まれた装置の有用な治療反応又は耐容性の少なくとも一方について患者をモニタする工程であって、それにより頭蓋外測定基準を作成する工程と、外部測定基準及び頭蓋外測定基準を分析して、患者が脳深部刺激から利益を受け得るかどうかを判定する工程とを含み得る。
【0059】
以下の例は、本開示の発明対象を、その範囲にいかなる限定も課すことなくより明確に説明するために、及び神経障害又は病態の治療に対する三叉神経刺激の臨床的利益を例示するために提供される。これらの例では、てんかん患者を、外部皮膚電極を用いたTNSにより処置した。
【実施例】
【0060】
実施例1
図5は、外部三叉神経刺激の予備試験からの結果を示す。外部三叉神経刺激の予備的実施可能性試験についての組入れ基準及び除外基準を満たしたてんかんを有する対象者が、最初に1ヶ月のベースライン期間に参加し、ここでは発作回数を数え、続いて三叉神経の眼窩下分枝又は眼分枝の能動的な刺激を行った。組入れ基準は以下とした:コントロール不良のてんかんを有する対象者;年齢18〜65歳;1ヶ月に少なくとも3回の複雑部分発作又は全身性強直−間代発作;重篤な又は進行性の医学的又は精神医学的病態なし;及び少なくとも2種の抗てんかん薬(AED)に曝露。迷走神経刺激器を有する対象者は本試験からは除外した。全ての対象者が非盲検TNS付加(補助)治療を少なくとも1日8〜12時間受けた。試験インテーク時及び1ヶ月ベースライン後の3ヶ月間にわたる月1回の定期外来時に評価を行った。次にこれらの初期評価を、最長3年間にわたる3〜6ヶ月毎のてんかんに精通した神経科医への来診で、又は地域の機関研究委員会(Institutional Research Committee)により承認されたとおり、追跡調査した。
【0061】
対象者は、TENS Products, Inc.(www.tensproducts.com)から市販されるEMS Model 7500などの電気刺激器を、120ヘルツの周波数、20mA未満の電流、250μ秒のパルス持続時間、並びに30秒間オン及び30秒間オフのデューティサイクルで、最低8時間使用して刺激を受けた。
【0062】
図5は、外部三叉神経刺激の有効性を示すこの予備試験からの結果を示す。12人の対象者のうち5人において、治療6ヶ月目及び12ヶ月目で50%を超える調整1日平均発作回数の減少が認められた。減少の平均は3ヶ月目で66%、及び12ヶ月目で59%であった。(DeGiorgio et al, Neurology 2009; 72: 936-938)。全体として、図5の表のデータは、記載される動作パラメータ値を使用した三叉神経刺激が有効で、且つ被験対象者により十分に耐容されたことを示している。重篤な有害イベントの報告はなかった。重要なことに、本装置の治療効果はいくつかの標準的な手段で認められたことから、様々な転帰尺度に対するこの治療の広範囲に及ぶ利益が示される。
【0063】
実施例2
図6は、眼窩上神経の皮膚刺激に曝露された対象者における電流、電荷、電流密度及び電荷密度を要約する。図6は、EMS 7500刺激器、120HZ、150〜250u秒、Tyco superior silver電極1.25”を、眉毛上方の正中線から1インチで使用する対象者において記録された両側性の眼窩上刺激についての代表的なパラメータを示す。データは、Flukeオシロスコープ、50mV/div、抵抗=10.1Ωで記録した。一般に、これらの知見から、パルス幅が増加するほど最大耐容可能電流が低下することが示される。
【0064】
円形1.25インチTENSパッチ電極による三叉神経の眼窩上分枝の皮膚電気刺激は、十分に安全性の限度範囲内にある電流密度及び電荷密度/位相をもたらす。一般に、過去に試験したTNS患者が快適に耐容する最大電流は約25mAであり、患者は典型的には、25mAを十分に下回る振幅設定(6〜10mA)で刺激される。
【0065】
1.25インチTENS電極は半径1.59cmの円形電極である。表面積は、A=Πr=[Π]×[1.59cm]=7.92cmと計算することができる。これらの電極を使用すると、典型的な刺激電流は、150〜250u秒のパルス持続時間で6〜10mAの範囲である。
【0066】
電流密度:典型的な対象者において、6〜10mAの刺激電流は0.76〜1.3mA/cmの範囲の電流密度となる。McCreery et alは経頭蓋電気刺激用の刺激電極で25mA/cmの最大安全電流密度を確立している。表面積7.92cmの電極で最大25mAのさらに大きい電流を仮定すると、電流密度は最大3.16mA/cmの範囲となり得る。0.76mA/cmから3.16mA/cmまで、TNSは最大安全許容電流密度の8〜33分の1の電流密度を送達する。電荷密度(電荷密度/位相):Yuen et alは、大脳皮質に送達される電荷密度/位相について40uC/cmの安全限界を特定しており[Yuen et al 1981]、最近ではMcCreery et al.(McCreery et al 1990)が10uC/cmを安全限界として特定している。250u秒で10mAを仮定すると、電荷密度/位相は、刺激電極で[0.010A]×[250u秒]/7.92=0.32uC/cmである。さらに高い刺激レベルの、250u秒で25mAを仮定すると、位相当たりの最大電荷密度は0.79uC/cmである。このようなレベルでは、刺激電極における電荷密度は、概して大脳皮質で許容される最大値の12〜120分の1である。皮質は刺激電極から最小で10〜13mmにあるため、及び間にある皮膚、脂肪、骨、硬膜、及びCSFの層を考えると、実際の電荷密度は大幅に低くなり得る。これは、脳組織をバルク導体として電流が直接通過する望ましくない事態を回避するのに重要である。
【0067】
図6に示されるとおり、表面積7.92cm2の電極によるパルス持続時間150〜250u秒での対象者における刺激強度反応により、頭皮での電流密度は経頭蓋刺激に現在推奨されている電流密度を十分に下回って25mA/cmとなり、及び頭皮での電荷密度は大脳皮質での安全電荷密度を大きく下回る(0.15〜0.18uC/cm)。
【0068】
当業者は、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することなく上述の好ましい実施形態の様々な適応例及び変形例を構成し得ることを理解するであろう。標的神経の刺激は、磁気又は超音波など、エネルギーを多くの形態で皮膚に加えることにより達成され得る。従って、本開示の発明対象は本明細書に具体的に記載されるもの以外に従い実施され得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス発生器と、
前記パルス発生器と電気的に連通している皮膚電極アセンブリであって、前記患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含むアセンブリと、
を含む、神経障害又は病態の治療用三叉神経刺激システムであって、
前記第1の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記システムが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、システム。
【請求項2】
前記アセンブリが、前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記パルス発生器と前記皮膚電極アセンブリとを動作可能に接続するワイヤをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に調節するように構成された調節装置をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記神経障害又は病態が、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛、及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記パルス発生器が、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含む、神経障害又は病態を治療するための三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリであって、
前記第1の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記アセンブリが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、アセンブリ。
【請求項10】
前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記神経障害又は病態が、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項14】
三叉神経刺激による神経障害又は病態の治療方法であって、
患者の顔面の第1の領域を皮膚電極アセンブリと接触させる工程であって、
前記皮膚電極アセンブリが、前記患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、
前記第1の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記アセンブリが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、工程と、
神経障害又は病態を治療するための特定の動作パラメータで前記電極アセンブリに電気信号を印加する工程と、
を含む方法。
【請求項15】
前記アセンブリが、前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電気信号を印加する前記工程が、周波数約20〜300ヘルツ、0.05〜5ミリアンペア(mA)の電流及び500マイクロ秒以下のパルス持続時間で電気信号を印加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
電気信号を印加する前記工程が、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記神経障害又は病態が、てんかん、発作関連障害、急性脳損傷、慢性脳損傷、慢性連日性頭痛、片頭痛、片頭痛、及び頭痛に関連する障害並びに運動障害からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
神経障害又は病態の治療用三叉神経刺激キットであって、
請求項1に記載の皮膚電極アセンブリと、
神経障害又は病態を治療するための患者における前記電極アセンブリの配置についての説明書と、
を含むキット。
【請求項20】
パルス発生器と、
神経障害又は病態を治療するための前記電極アセンブリへの電気信号の印加についての説明書と、
をさらに含む、請求項19に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−506532(P2013−506532A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533255(P2012−533255)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/051539
【国際公開番号】WO2011/044173
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(508228061)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (10)
【Fターム(参考)】