説明

移乗支援装置及び駆動制御方法

【課題】被介護者への不快感を低減することができる移乗支援装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る移乗支援装置100は、車輪111を有する台車11と、車輪111の駆動手段14、15と、駆動手段14、15を制御する制御手段18と、制御手段18に対して操作信号を出力する操作手段17と、台車11に対して傾動自在に取り付けられたアーム12と、アーム12の他端部に設けられ、被介護者を保持する身体保持具13と、を備える移乗支援装置であって、制御手段18は、操作手段17から入力される操作信号から駆動手段14、15に出力させる目標出力トルクを算出し、目標出力トルクが閾値より大きいと、目標出力トルクを閾値以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自立歩行が困難な人がベッドから車椅子へ、また便座からベッド等へ乗り移るような動作を行う場合に、これらの乗り移りの動作を支援する移乗支援装置及び当該移乗支援装置の駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自立歩行が困難な被介護者にとって、ベッドから車椅子への移乗といった乗り移りの動作を一人で自立して行うことは容易でない。そのため、通常は介護者の手助けが必要となるが、移乗の手助けは介護者にとって肉体的な負担が大きく、また、被介護者にとっても精神的な負担が大きい。そのため、近年、自立歩行が困難な人の移乗動作を支援する装置が多く開発されている(例えば特許文献1〜5)。
【0003】
これらの移乗支援装置においては、被介護者は移乗支援装置の身体保持具に抱き付いた状態で吊り上げられ、又は吊り下げられて移乗されることになる。被介護者の移乗の際には、被介護者が良好に身体保持具に抱き付くことができるように、移乗支援装置、しいては身体保持具を被介護者に近付ける。
【0004】
ところで、特許文献6には、人がいる作業エリア内ではロボットアームの駆動手段の出力トルクを制限する移動ロボットシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−305092号公報
【特許文献2】特開2005−279199号公報
【特許文献3】特開2005−304735号公報
【特許文献4】特開平10−192346号公報
【特許文献5】特公平7−8287号公報
【特許文献6】特開2001−341086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の移乗支援装置は、被介護者の移乗の際に、介護者が移乗支援装置の操作を誤って、身体保持具を被介護者に接触させて被介護者に不快感を与えてしまう可能性がある。それは、従来の移乗支援装置は、介護者が例えばジョイスティック等の操作手段を操作した際に、操作量に比例した出力トルクが駆動手段から出力されるように構成されているためである。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、被介護者への不快感を低減することができる移乗支援装置及び駆動制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る移乗支援装置は、車輪を有する台車と、前記車輪の駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段と、前記制御手段に対して操作信号を出力する操作手段と、前記台車に対して傾動自在に取り付けられたアームと、前記アームの他端部に設けられ、被介護者を保持する身体保持具と、を備える移乗支援装置であって、前記制御手段は、前記操作手段から入力される操作信号から前記駆動手段に出力させる目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルクが閾値より大きいと、前記目標出力トルクを閾値以下にする。これにより、介護者が操作手段を操作した際に、介護者が意図した大きさより大きな出力トルクが駆動手段に発生し、被介護者を身体保持具で不意に強く押し込むことがない。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0009】
前記閾値は、前記車輪の回転速度が速くなるのに従って小さくなること、が好ましい。
【0010】
本発明に係る移乗支援装置の駆動制御方法は、移乗支援装置の駆動制御方法であって、車輪の駆動手段に出力させる目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルクが閾値より大きいと、前記目標出力トルクを閾値以下にする。これにより、介護者が操作手段を操作した際に、介護者が意図した大きさより大きな出力トルクが駆動手段に発生し、被介護者を身体保持具で不意に強く押し込むことがない。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0011】
前記閾値は、前記車輪の回転速度が速くなるのに従って小さくなること、が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上、説明したように、本発明によると、被介護者への不快感を低減することができる移乗支援装置及び駆動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る第1実施形態の移乗支援装置を示す前方斜視図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の移乗支援装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】ECUの処理フローを示す図である。
【図4】車輪の前進及び後進速度成分と操作信号との関係を示す図である。
【図5】車輪の旋回速度成分と操作信号との関係を示す図である。
【図6】アンプの処理フローを示す図である。
【図7】車輪の回転速度と駆動部の電流値との関係を示す図である。
【図8】本発明に係る第2実施形態の移乗支援装置における、制御部の処理フローを示す図である。
【図9】本発明に係る第5実施形態の移乗支援装置における、制御部に格納されている台車の速度変化と加速度との関係を示す図である。
【図10】本発明に係る第6実施形態の移乗支援装置における、制御部に格納されている台車の速度変化と加速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0015】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態の移乗支援装置を説明する。
移乗支援装置100は、図1及び2に示すように、台車11、アーム12、身体保持具13、第1駆動部14、第2駆動部15、第3駆動部16、操作部17、制御部18を備える。
【0016】
台車11は、例えば平面視がコの字形状の枠体である。台車11の後方には、左右両側にそれぞれ車輪111が回転可能に設けられている。右側の車輪111には、第1駆動部14から回転駆動力が伝達される。左側の車輪111には、第2駆動部15から回転駆動力が伝達される。また、台車11の任意の位置には、補助輪112が回転可能に設けられている。
【0017】
台車11の後方には、制御部18やバッテリ等の電源装置が格納されている格納部113が配置されている。格納部113の上端部には、第3の駆動部16を介して傾動可能にアーム12が設けられている。さらに格納部113の上端部には、操作部17が設けられている。操作部17は、後述するように第1及び第2駆動部14、15を操作するための台車操作部171と、第3駆動部16等を操作するためのアーム操作部172と、を備える。
【0018】
ちなみに、図1に示すように、台車11は被介護者が移乗の際に着座する着座部114や、移乗の際に被介護者の足を載置するステップ115を備えていることが好ましい。ここで、台車11の形状は特に限定されず、上述した構成要素を搭載することができる形状であれば良い。
【0019】
アーム12は、所謂ロボットアームである。アーム12の一端は第3駆動部16を介して格納部113に連結されている。その結果、アーム12は、第3駆動部16の駆動力によって台車11の前後方向に傾動する。アーム12の他端には身体保持具13が設けられている。但し、本実施形態では、説明を簡単にするためにアーム12と身体保持具13との連結部を固定しているが、当該連結部に駆動部を設けて傾動可能な構成としても良い。
【0020】
身体保持具13は、被介護者の上半身を保持することができる大きさ、形状とされている。すなわち、身体保持具13は、被介護者がその上半身を接触させ、両腕部で抱えた状態で保持できる程度の大きさ、形状の弾力部材である。ちなみに、図1に示すように、身体保持具13は、移乗の際に被介護者をより確実に保持するべく、被介護者の脇の下に通される支持具131や被介護者が手で握るハンドル132を備えることが好ましい。
【0021】
第1駆動部14は、右側の車輪111を駆動させるべく、台車11に設けられている。第2駆動部15は、左側の車輪111を駆動させるべく、台車11に設けられている。第1及び第2駆動部14、15は、例えば電動モータ、当該電動モータの出力トルクを増幅させる減速ギアなどを備える。第1及び第2駆動部14、15は、介護者(操作者)の台車操作部171及びアーム操作部172の操作に基づいて制御される。
【0022】
第3駆動部16は、アーム12を傾動させるべく、台車11の格納部113の上端部に設けられている。第3駆動部16も、例えば電動モータ、当該電動モータの出力トルクを増幅させる減速ギアなどを備える。そして、第3駆動部16は、介護者のアーム操作部172の操作に基づいて制御される。
【0023】
台車操作部171は、第1駆動部14を制御するために操作される第1台車操作部1711、第2駆動部15を制御するために操作される第2台車操作部1712を備える。第1及び第2台車操作部1711、1712は、比較的台車11が被介護者から離れており、長い距離移動する際に操作される。
【0024】
第1台車操作部1711は、所謂ジョイスティックであって、ハンドル1711a、当該ハンドル1711aに設けられた入力ボタン1711b、当該ハンドル1711aの操作量を電圧値(操作信号)に変換して制御部18に出力する検出手段(図示は省略)を備える。介護者が入力ボタン1711bを押した状態で、ハンドル1711aを操作した時のみ、当該操作信号が制御部18に出力される。
【0025】
第2台車操作部1712は、所謂ジョイスティックであって、ハンドル1712a、当該ハンドル1712aに設けられた入力ボタン1712b、当該ハンドル1712aの操作量を電圧値に変換して制御部18に出力する検出手段(図示は省略)を備える。介護者が入力ボタン1712bを押した状態で、ハンドル1712aを操作した時のみ、当該操作信号が制御部18に出力される。
【0026】
例えば、入力ボタン1711b、1712bを押した状態でハンドル1711a、1712aを矢印A方向に等しく押し込むと、台車11を前進させるべく、第1及び第2駆動部14、15が制御される。逆に入力ボタン1711b、1712bを押した状態でハンドル1711a、1712aを矢印B方向に等しく引き込むと、台車11を後進させるべく、第1及び第2駆動部14、15が制御される。そして、入力ボタン1711b、1712bを押した状態でハンドル1711aと1712aとの押込量又は引込量に変化を付けると、台車11を旋回させるべく、第1及び第2駆動部14、15が制御される。
【0027】
アーム操作部172は、第1及び第2駆動部14、15を同時に制御したり、アーム12を制御したりするために操作される。アーム操作部172は、台車11が被介護者近傍に配置された状態で、被介護者を身体保持具13で保持したり、被介護者を移乗したりする際に操作される。
【0028】
アーム操作部172は、所謂ジョイスティックであって、ハンドル1721a、当該ハンドル1721aに設けられた入力ボタン1721b、当該ハンドル1721aの操作量を電圧値に変換して制御部18に出力する検出手段(図示は省略)を備える。介護者が入力ボタン1721bを押した状態で、ハンドル1721aを操作した時のみ、当該操作信号が制御部18に入力される。
【0029】
例えば、入力ボタン1721bを押した状態でハンドル1721aを矢印A方向に移動させると、台車11を前進させるべく、第1及び第2駆動部14、15が制御される。逆に入力ボタン1721bを押した状態でハンドル1721aを矢印B方向に移動させると、台車11を後進させるべく、第1及び第2駆動部14、15が制御される。そして、入力ボタン1721bを押した状態でハンドル1721aを矢印C方向に押し込むと、アーム12を上方向に傾動させるべく、第3駆動部16が制御される。逆にハンドル1721aを矢印D方向に押し込むと、アーム12を下方向に傾動させるべく、第3駆動部16が制御される。
【0030】
制御部18は、第1乃至第3駆動部14、15、16を制御する。すなわち、制御部18は、図2に示すように、演算処理装置や所定の記憶領域を含むECU(Electronic Control Unit)181、第1駆動部14に所定の出力トルクを発生させるための電流値を算出する第1アンプ182、第2駆動部15に所定の出力トルクを発生させるための電流値を算出する第2アンプ183、第3駆動部16に所定の出力トルクを発生させるための電流値を算出する第3アンプ184を備える。
【0031】
ECU181には、台車操作部171及びアーム操作部172からの操作信号が入力される。但し、本実施形態では、説明を簡単にするために、アーム操作部172から第1及び第2駆動部14、15を操作するべく、入力される操作信号を無視することとする。
【0032】
すなわち、ECU181は図3に示すように動作する。ECU181は、第1台車操作部1711の検出手段からハンドル1711aの操作量を示す電圧値を取得する(S1)。また、ECU181は、第2台車操作部1712の検出手段からハンドル1712aの操作量を示す電圧値を取得する。
【0033】
ECU181には、予め電圧値と車輪111の目標回転速度との関係を示す電圧−速度情報が格納されている。ECU181は、当該電圧−速度情報を用いて、入力される電圧値から、左右の車輪111の前進及び後進速度成分、及び旋回速度成分を算出する(S2)。
【0034】
具体的に云うと、第1台車操作部1711の検出手段から入力される電圧値をV1とし、第2台車操作部1712の検出手段から入力される電圧値をV2とする。但し、第1台車操作部1711の検出手段から入力される電圧値をV2とし、第2台車操作部1712の検出手段から入力される電圧値をV1としても良い。
【0035】
本実施形態では、ECU181は車輪111の直進及び後進速度成分SPD1をV1+V2から算出する。このとき、ECU181には、図4に示すように、SPD1を導き出すための電圧―速度情報が格納されている。ECU181は、当該電圧−速度情報を用いて、V1+V2の値から、左右の車輪111それぞれの直進及び後進速度成分SPD1を算出する。
【0036】
また、ECU181は車輪111の旋回速度成分SPD2をV1−V2から算出する。このとき、ECU181には、図5に示すように、SPD2を導き出すための電圧―速度情報が格納されている。ECU181は、当該電圧−速度情報を用いて、V1−V2の値から、左右の車輪111それぞれの旋回速度成分SPD2を算出する。
【0037】
そして、ECU181は、右側の車輪111の目標回転速度SPD_RをSPD1+SPD2から算出する(S3)。一方、ECU181は、左側の車輪111の目標回転速度SPD_LをSPD1−SPD2から算出する(S3)。ECU181は、算出した右側の車輪111の目標回転速度SPD_Rを第1アンプ182に出力する。ECU181は、算出した左側の車輪111の目標回転速度SPD_Lを第2アンプ183に出力する。
【0038】
第1及び第2アンプ182、183は、第1及び第2駆動部14、15の目標出力トルクを算出する。すなわち、第1及び第2アンプ182、183は、図6に示すように動作する。第1及び第2アンプ182、183は、左右の車輪111の目標回転速度SPD_R、SPD_Lを取得する(S11)。第1及び第2アンプ182、183は、それぞれ左右の車輪111の目標回転速度SPD_R、SPD_Lに基づいて、目標出力トルクとして目標電流値I_R、I_Lを算出する(S12)。例えば、第1及び第2アンプ182、183には、左右の車輪111の目標回転速度SPD_R、SPD_Lと、当該目標回転速度SPD_R、SPD_Lを実現するために、第1及び第2駆動部14、15が必要とする電流値と、の関係を示す速度−電流情報が格納されている。第1及び第2アンプ182、183は、当該速度−電流情報を用いて、取得した目標回転速度SPD_R、SPD_Lから、目標電流値I_R、I_Lを算出する。
【0039】
第1及び第2アンプ182、183は、目標電流値I_R、I_Lが閾値より大きいか否かを判断する(S13)。すなわち、第1及び第2アンプ182、183には、第1台車操作部1711のハンドル1711aや第2台車操作部1712のハンドル1712aを操作した際に、介護者が意図した大きさより大きな出力トルクが第1及び第2駆動部14、15に発生し、被介護者を身体保持具13で不意に強く押し込むことがないように設定された、車輪111の回転速度と第1及び第2駆動部14、15の電流値との関係を示す速度−電流情報が格納されている。第1及び第2アンプ182、183は、当該速度−電流情報を用いて、車輪111の目標回転速度SPD_R、SPD_Lから、当該目標回転速度SPD_R、SPD_Lでの電流値を閾値として算出し、目標電流値I_R、I_Lが当該閾値より大きいか否かを判断する。つまり、第1及び第2アンプ182、183は、当該速度−電流情報を用いて、車輪111の目標回転速度SPD_R、SPD_Lから、当該目標回転速度SPD_R、SPD_Lでの出力トルクの上限値を閾値として算出するのである。
【0040】
そして、第1及び第2アンプ182、183は、目標電流値I_R、I_Lが当該閾値より大きいと判断すると、目標電流値I_R、I_Lを当該閾値以下に設定し、当該設定電流値で第1及び第2駆動部14、15を駆動させる。これにより、第1台車操作部1711のハンドル1711aや第2台車操作部1712のハンドル1712aを操作した際に、介護者が意図した大きさより大きな出力トルクが第1及び第2駆動部14、15に発生し、被介護者を身体保持具13で不意に強く押し込むことがない。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0041】
一方、第1及び第2アンプ182、183は、目標電流値I_R、I_Lが当該閾値以下であると判断すると、当該目標電流値I_R、I_Lで第1及び第2駆動部14、15を駆動させる。
【0042】
ちなみに、車輪111の回転速度と第1及び第2駆動部14、15の電流値との関係、即ち当該閾値は、図7に示すように、車輪111の回転速度が速くなるに従って小さくなるように設定されていることが好ましい。これは、低速では段差乗り越え能力を確保するために大きな出力トルクを確保するためであり、高速では大きな出力トルクがなくても慣性エネルギで段差を乗り越えることができるからである。これにより、被介護者への不快感を低減しつつも、どのような速度領域であっても良好に段差を乗り越えることができる移乗支援装置を実現できる。
なお、以下に示すような構成でも、被介護者への不快感を低減することができる。
【0043】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。
本実施形態の移乗支援装置は、第1実施形態の移乗支援装置100と略同様の構成であるため、重複する説明は省略するが、制御部での処理が異なる。
【0044】
本実施形態の制御部は、台車操作部171を用いて第1及び第2駆動部14、15を操作するときを台車モードとし、アーム操作部172を用いて第1乃至第3駆動部14、15、16を操作するときを移乗モードとして認識する。そこで、制御部は、被介護者を身体保持具13で押し込んでしまう可能性が高い、移乗モード時に第1及び第2駆動部14、15の出力トルクを制限する。
【0045】
すなわち、制御部は、図8に示すように動作する。制御部は、入力ボタン1721bからの入力であると判断すると、移乗モードであると認識し、アーム操作部172からの電圧値を取得する(S101)。そして、制御部は、第1実施形態と略同様にアーム操作部172からの電圧値に基づいて、目標電流値(目標出力トルク)を算出する(S102)。制御部は、算出した目標出力トルクが被介護者に台車11を近付ける側に発生するものか否かを判断する(S103)。算出した目標出力トルクが被介護者に台車11を近付ける側に発生するものである場合、目標出力トルクが閾値として設定された出力トルクの上限値より大きいか否かを判断する(S104)。閾値としては、被介護者を身体保持具13で押し込んでも当該被介護者が不快を殆ど感じない程度の速度に第1及び第2駆動部14、15が制御されるように設定される。制御部は、目標出力トルクが閾値より大きい場合、目標出力トルクを閾値以下に設定し、当該設定値で第1及び第2駆動部14、15を制御する(S105)。
一方、制御部は、算出した目標出力トルクが被介護者に台車11を近付ける側に発生するものでない場合、目標出力トルクで第1及び第2駆動部14、15を制御する。
【0046】
このように、被介護者を身体保持具13で保持する際、最もアーム操作部172の操作が困難な場面において、介護者がアーム操作部172を操作した際に、介護者が意図した大きさより大きな出力トルクが第1及び第2駆動部14、15に発生し、被介護者を身体保持具13で不意に強く押し込むことがない。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0047】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態を説明する。
本実施形態の移乗支援装置は、第1実施形態の移乗支援装置100等と略同様の構成であるため、重複する説明は省略するが、制御部での処理が異なる。
【0048】
第1及び第2実施形態では、目標出力トルクが閾値を超えないように制御しているが、本実施形態の制御部は、目標出力トルクが閾値を超えると、停止指令信号を生成し、当該停止指令信号に基づいて第1及び第2駆動部14、15を停止させる。例えば、介護者が第1及び第2台車操作部1711、1712やアーム操作部172を操作しているにも関わらず、台車11が被介護者などに接触して停止すると、制御部は第1及び第2駆動部14、15の回転速度を上昇させるために、大きな目標出力トルクを算出する。そこで、本実施形態の制御部は急激に目標出力トルクが上昇し、閾値より大きくなると、台車11が被介護者などに接触したと判断し、停止指令信号を生成して第1及び第2駆動部14、15の駆動を停止させる。
【0049】
このように、目標出力トルクが閾値より大きくなったか否かを判断するだけで、容易に台車11が被介護者などに接触したか否かを判断することができ、当該判断に基づいて第1及び第2駆動部14、15を制御することができる。そのため、被介護者を身体保持具13で不意に強く押し込むことがない。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0050】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態を説明する。
本実施形態の移乗支援装置は、第1実施形態の移乗支援装置100等と略同様の構成であるため、重複する説明は省略するが、制御部での処理が異なる。
【0051】
本実施形態の制御部は、台車モードのときと、移乗モードのときと、で閾値である設定された出力トルクの上限値を変更している。すなわち、制御部は、台車モードでの閾値に比べて、移乗モードでの閾値を小さく設定している。これは、台車モードのときは場所を大きく移動したいため、移乗支援装置を速く移動させる必要があり、移乗モードのときは被介護者の近傍やベッド周辺、トイレ等の狭い空間で移乗支援装置を移動させるため、移乗支援装置を遅く移動させる必要があるからである。
【0052】
このように移乗モードでの閾値を、台車モードでの閾値に比べて小さくしたので、被介護者を身体保持具13で不意に押し込むことを、より確実に防ぐことができる。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0053】
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態を説明する。
本実施形態の移乗支援装置は、第1実施形態の移乗支援装置100等と略同様の構成であるため、重複する説明は省略するが、制御部での処理が異なる。
【0054】
本実施形態の制御部は、台車11の前進時と後進時とで加速度を変更している。すなわち、制御部には、予め第1及び第2駆動部14、15の所定の回転速度を実現するべく、当該回転速度に到達させるための加速度が設定されている。ここで、本実施形態では、図9に示すように、台車11を前進させるときの第1及び第2駆動部14、15の加速度(A_acc)を、台車11を後進させるときの第1及び第2駆動部14、15の加速度(A_dec)に比べて、小さく設定している。
【0055】
このように台車11を前進させるときの加速度を、台車11を後進させるときの加速度に比べて小さくしたので、台車11の前進時に所定の速度に到達するのが遅く、被介護者を身体保持具13で不意に押し込み難くなる。そのため、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0056】
<第6実施形態>
本発明の第6実施形態を説明する。
本実施形態の移乗支援装置は、第1実施形態の移乗支援装置100等と略同様の構成であるため、重複する説明は省略するが、制御部での処理が異なる。
【0057】
本実施形態の制御部は、図10に示すように、第5実施形態の制御に加えて、介護者が入力ボタン1711b、1712b、1721bの押し込みを解除すると、台車11の前進方向への速度が0になるように、台車11の後進方向へ大きな加速度(A_max)で減速させる。つまり、介護者が入力ボタン1711b、1712b、1721bの押し込みを解除するときは、被介護者に身体保持具13が近付き過ぎて、緊急に台車11の被介護者側への移動(前進)を停止させたい場合などであるので、このような場合に迅速に台車11の移動を停止させることができる。そのため、被介護者を身体保持具13で不意に押し込み難くなり、被介護者への不快感を低減することができる。しかも、介護者の操作性が向上し、介護の負担を低減することができる。
【0058】
以上、本発明に係る移乗支援装置及び駆動制御方法の実施形態を説明したが、上記の構成に限らず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
I_R、I_L 目標電流値
SPD_R、SPD_L 目標回転速度
SPD1 前進及び後進速度成分
SPD2 旋回速度成分
100 移乗支援装置
11 台車
12 アーム
13 身体保持具
14 第1駆動部、15 第2駆動部、16 第3駆動部
17 操作部
171 台車操作部、1711 第1台車操作部、1711a ハンドル、1711b 入力ボタン、1712 第2台車操作部、1712a ハンドル、1712b 入力ボタン
172 アーム操作部、1721a ハンドル、1721b 入力ボタン
18 制御部
181 ECU
182 第1アンプ、183 第2アンプ、184 第3アンプ
111 車輪
112 補助輪
113 格納部
114 着座部
115 ステップ
131 支持具
132 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する台車と、
前記車輪の駆動手段と、
前記駆動手段を制御する制御手段と、
前記制御手段に対して操作信号を出力する操作手段と、
前記台車に対して傾動自在に取り付けられたアームと、
前記アームの他端部に設けられ、被介護者を保持する身体保持具と、
を備える移乗支援装置であって、
前記制御手段は、前記操作手段から入力される操作信号から前記駆動手段に出力させる目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルクが閾値より大きいと、前記目標出力トルクを閾値以下にする移乗支援装置。
【請求項2】
前記閾値は、前記車輪の回転速度が速くなるのに従って小さくなることを特徴とする請求項1に記載の移乗支援装置。
【請求項3】
移乗支援装置の駆動制御方法であって、
車輪の駆動手段に出力させる目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルクが閾値より大きいと、前記目標出力トルクを閾値以下にする移乗支援装置の駆動制御方法。
【請求項4】
前記閾値は、前記車輪の回転速度が速くなるのに従って小さくなることを特徴とする請求項3に記載の移乗支援装置の駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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