説明

移動体位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラム

【課題】繰り返し演算を行うことなく、磁界を利用して最接近位置を推定することができ、また、移動体による磁界が低減されている場合であっても、最接近位置を推定することができる移動体位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラムを得る。
【解決手段】磁界検知器11により、海面又は海中を航行する航走体2により生じる磁界を3軸方向の各成分で検知する磁界検知ステップと、少なくとも航走体2の移動方位の情報に基づき、検知磁界Bのうち、航走体2の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、検知磁界Bの大きさに対する横距離方向成分の割合(By’/Bt’)を求める磁界補正処理ステップと、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)に基づいて、航走体2と磁界検知器11との最接近位置を推定する横位置算出演算ステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面又は海中を航行する移動体の位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラムに関し、特に磁界を用いた移動体の位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、UEP(Underwater Electric Potential)センサなどの電界センサや、音響センサを利用せず、移動体からの磁界(磁束密度)を信号として検知して移動体の位置を検出する方法として、例えば、3軸磁気センサを用いて船舶が発生する磁気信号の直交3軸成分を検知し、3軸磁気センサと等速直線運動をする移動船舶との相対位置を、最小自乗法を用いて算出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、例えば、船舶が発する電界による信号の直交3軸成分に基づいて、移動目標の位置(偏奇量)を検出する方法もある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3395136号公報
【特許文献2】特開2000−304533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の移動体の位置を推定するものは、位置を推定する際、測定・集録された時系列データと理論式による値との残差式を用いて、最小自乗法により、実測により得られた値がこの式とできるだけ整合するようにパラメータを調整し、位置推定等を行っている。このため、パラメータの算出には、最小自乗法などによる繰り返し演算が必要となり、速やかに位置推定を行うことができないという問題点があった。
【0006】
また、磁界を利用した位置推定は、移動体が消磁装置などを装備している場合には、移動体による磁界は低減されてしまうため、位置推定の精度が低下するという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、繰り返し演算を行うことなく、磁界を利用して移動体の最接近位置を推定することができ、また、移動体による磁界が低減されている場合であっても、最接近位置を推定することができる移動体位置等推定検出方法、装置及び移動体位置等推定検出方法のプログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、磁界検知手段により、海面又は海中を航行する移動体により生じる磁界を3軸方向の各成分で検知する磁界検知ステップと、少なくとも前記移動体の移動方位の情報に基づき、前記検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、前記検知磁界の大きさに対する前記横距離方向成分の割合を求める磁界補正処理ステップと、前記横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定する横位置算出演算ステップとを有するものである。
【0009】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、前記磁界検知ステップの前に、前記磁界検知手段により、地磁気による磁界を3軸方向の各成分で検知するステップと、海面に対して鉛直な方向に対する前記磁界検知手段の傾きを計測するステップとを有し、前記磁界補正処理ステップは、前記磁界検知手段の傾きと、前記地磁気による磁界と、予め記録された地磁気による磁界の情報と、前記移動体の移動方位の情報とに基づき、前記検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求めるものである。
【0010】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法においては、前記横位置算出演算ステップは、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度と、前記横距離方向成分の割合の極値と、予め記録された、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度に応じた、前記横距離方向成分の割合の極値に対応する距離に関する情報とに基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定するものである。
【0011】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法においては、前記横位置算出演算ステップは、前記距離に関する情報として、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離の情報を用いるものである。
【0012】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法においては、前記横位置算出演算ステップは、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度として、予め記録された相対深度の情報を用いるものである。
【0013】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、前記横位置算出演算ステップの前に、前記磁界検知手段の海面からの深度を計測する深度計測ステップを更に有し、前記横位置算出演算ステップは、前記磁界検知手段の海面からの深度を、海面を航行する前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度とするものである。
【0014】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出方法は、前記横位置算出演算ステップの前に、潮流計測手段により、海水の速度を3軸方向の各成分で計測するステップを更に備え、前記横位置算出演算ステップは、前記海水の速度に応じて補正した横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定するものである。
【0015】
また、本発明に係るプログラムは、上記移動体位置等推定検出方法をコンピュータに実行させるものである。
【0016】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、海面又は海中を航行する移動体により生じる磁界及び地磁気による磁界を3軸方向の各成分で検知する磁界検知手段と、少なくとも前記移動体の移動方位の情報が記録されるデータ記録手段と、少なくとも前記移動体の移動方位の情報に基づき、前記磁界検知手段が検知した検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、前記検知磁界の大きさに対する前記横距離方向成分の割合を求める磁界補正処理手段と、前記横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定する横位置算出演算手段とを備えたものである。
【0017】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、海面に対して鉛直な方向に対する前記磁界検知手段の傾きを計測する傾斜計測手段を更に備え、前記データ記録手段は、地磁気による磁界の情報が記録され、前記磁界補正処理手段は、前記傾斜計測手段が計測した傾きと、前記磁界検知手段が検知した地磁気による磁界と、前記データ記録手段に記録された地磁気による磁界の情報及び前記移動体の移動方位の情報とに基づき、前記磁界検知手段が検知した検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求めるものである。
【0018】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置においては、前記データ記録手段は、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度に応じた、前記横距離方向成分の割合の極値に対応する距離に関する情報が記録され、前記横位置算出演算手段は、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度と、前記磁界補正処理手段が求めた前記横距離方向成分の割合の極値と、前記データ記録手段に記録された距離に関する情報とに基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定するものである。
【0019】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置においては、前記データ記録手段は、前記距離に関する情報として、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離の情報が記録されるものである。
【0020】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置においては、前記データ記録手段は、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度の情報が予め記録されるものである。
【0021】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、海面からの深度を計測する深度計測手段を更に備え、前記横位置算出演算手段は、前記深度計測手段が計測した深度を、海面を航行する前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度とするものである。
【0022】
また、本発明に係る移動体位置等推定検出装置は、海水の速度を3軸方向の各成分で計測する潮流計測手段を更に備え、前記横位置算出演算手段は、前記海水の速度に応じて補正した横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、海面又は海中を航行する移動体により生じる磁界を3軸方向の各成分で検知し、移動体の移動方位の情報に基づき、検知磁界のうち、移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、検知磁界の大きさに対する横距離方向成分の割合を求め、横距離方向成分の割合に基づいて、移動体と磁界検知手段との最接近位置を推定することにより、繰り返し演算を行うことなく、移動体による磁界が低減されている場合であっても、磁界を利用して最接近位置を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。ここで、本実施の形態では、海面を移動する磁性体構造物である航走体2(例えば船舶など)を移動体と想定して説明する。そのため、移動体位置等検出装置1は海中(海底も含む)に設けられている。したがって、後述する磁界検知器11は海中の磁界強度を信号として検知する。また、航走体2は既知の方位に直線運動を行っているものとする。さらに本実施の形態では、航走体2と移動体位置等検出装置1(特に磁界検知器11)との深度の差(相対深度)は既知であるものとする。航走体2の航走速度は未知でも良い。
【0025】
尚、移動体位置等検出装置1(特に磁界検知器11)が設けられている場所については、特に限定するものではない。また、移動体位置等検出装置1は、海底に敷設しても良いし、例えば海底に沈んだアンカーとワイヤーにより接続して水面下の任意の深度に係留しても良い。この場合、移動体位置等検出装置1(特に磁界検知器11)が潮流等により回転しないよう敷設する必要がある。
【0026】
図1において、移動体位置等検出装置1は、磁界検知手段である磁界検知器11と、傾斜計測手段である傾斜計12と、A/D変換器13と、磁界補正処理手段である磁界補正処理部14と、データ記録手段であるデータ収集器15と、横位置算出演算手段である横位置算出演算部16とにより構成されている。
【0027】
磁界検知器(磁気センサ)11は、磁界(磁束密度)を信号として検知(受信)し、電気信号(以下、磁界信号という)に変換する(場合によっては、検知した他の磁気的物理量に基づく信号に基づいて磁束密度を算出した電気信号を磁界信号とすることもある)。ここで、磁界検知器11は、各々直交する3つの検知手段を有する検知器又は3軸センサを表す検知器であり、直交(相対)座標系の3軸方向(x、y、z)での検知ができるものとする。尚、以下の説明において、磁界検知器11が検知した座標系(以下、装置座標系という)における検知磁界Bの各成分をBx,By,Bzとする。
【0028】
傾斜計12は、例えば海面に対して鉛直な方向をz’軸としたときに、移動体位置等検出装置1(特に磁界検知器11)の傾斜の程度を計測し、計測に基づく電気信号(以下、傾斜信号という)に変換する。
【0029】
A/D変換器13A及び13Bは、例えばサンプリング等の処理を施して、それぞれ磁界信号及び傾斜信号をデジタルデータの信号に変換する(以下、各信号に基づくデータを磁界信号データ、傾斜データという)。ここで、磁界検知器11と傾斜計12との距離は、当該装置と航走体2との間の距離に比べ、無視できるほど小さいので、それぞれの座標系の原点が同じである(同位置にある)ものとする。
【0030】
磁界補正処理部14は、後述する動作により、傾斜データ、地磁気データ(後述)及び航行方位データ(後述)に基づいて、磁界信号データの座標系を、航走体2の航行方位と直交し、且つ、海面と水平な座標系(Bx’,By’,Bz’)に変換する。また、磁界補正処理部14は、検知磁界Bの大きさに対する横距離方向成分(By’)の割合(以下、横距離成分割合データともいう)を求めてデータ収集器15に記録させる。
【0031】
データ収集器15は、データ処理部15Aとデータ記録部15Bで構成される。データ処理部15Aは、いわゆるデータベース管理システム(DBMS)である。磁界補正処理部14から入力された、横距離成分割合データと時刻データとを関連づける処理を行う。また、データ記録部15Bは、例えばHDD(Hard Disk Drive)等の記録装置で構成されており、横距離成分割合データ及び時刻データを少なくとも一定時間分又は一定個数分記録する。このデータ収集器15はいわゆるデータベースの役割を果たす。
【0032】
そして、データ記録部15Bには、予め、当該移動体位置等検出装置1が敷設される位置での地磁気(地球による磁界)による磁界(磁束密度)のデータ(以下、地磁気データという)と、航走体2の航行方位を示すデータ(以下、航行方位データという)と、装置と航走体2との相対深度Dに応じた、横距離成分割合データの極値(後述)に対応する距離に関するデータとが記録されている。
【0033】
ここで、地磁気データは、大きさと方向を持つベクトル量であり、例えば、当該位置の全磁力、偏角(水平面内で真北となす角度)、伏角(水平面となす角度)の情報の組み合わせや、水平分力(水平面内での地磁気の大きさ)、鉛直分力(鉛直面内での地磁気の大きさ)、偏角の情報の組み合わせ、又は、北成分(南北方向軸上での地磁気の大きさ)、東成分(東西方向軸上での地磁気の大きさ)、鉛直分力の情報の組み合わせなどにより表されるデータである。また、航行方位データは、航走体2が航行する方向が磁北となす角度及び水平面となす角度により表されるデータである。尚、航走体2が海面を航走する場合は磁北となす角度のデータのみでもよい。
【0034】
横位置算出演算部16は、後述する動作により、データ記録部15Bに記録された横距離成分割合データに基づいて、航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との最接近位置(距離)を推定し、推定した位置(距離)の情報を他の装置に出力する。
【0035】
ここで、磁界補正処理部14、横位置算出演算部16は、例えば、回路デバイスのようなハードウェアで構成することもできるし、CPU(Central processing Unit)やマイコンのような演算装置により実行されるソフトウェアとして構成することもできる。ソフトウェアとして実現する場合は、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等にこれら各部の機能を実現するプログラムを格納しておき、CPUやマイコンなどの演算装置がそのプログラムを読み込んで、プログラムの指示に従って各部の機能に相当する処理を実行することにより、構成することができる。また、ここではそれぞれ別の構成部(手段)として構成しているが、例えば、各部が行うプログラムに基づく処理を1つの制御演算処理装置により行うようにしてもよい。
【0036】
このような構成により、本実施の形態における移動体位置等検出装置1は、検知した磁界の座標系を航走体2の航行方位に対応する座標系に変換し、航走体2による磁界を検出して横距離成分割合データを算出し、横距離成分割合データの極値に基づき航走体2との最接近距離を推定する。このような動作の詳細を図2〜図5を用いて、(1)検知磁界の座標軸補正、(2)航走体による磁界の検出、(3)最接近距離の算出、とに分けて以下に説明する。
【0037】
(1)検知磁界の座標軸補正
図2は本発明の実施の形態1に係る水平面での座標軸補正と航走体との横距離を説明する図、図3は本発明の実施の形態1に係る垂直面での座標軸補正と航走体との最接近距離を説明する図である。磁界補正処理部14は、磁界検知器11が航走体2による磁界を検知していない状態において、装置座標系を航走体2の航行方位に対応する座標系に変換する。尚、航走体2による磁界を検知していない状態は、例えば検知磁界Bの一定時間内での変動が一定範囲以下である場合などにより判断することができる。
【0038】
まず、磁界補正処理部14は、図3に示すように、傾斜データに基づき、装置座標系の垂直軸(z軸)を海面と垂直な方向(z’軸)に変換する。次に、航走体2による磁界を検知していない状態での磁界信号データ、即ち、地磁気による磁界信号データを取得して、データ記録部15Bに記録された地磁気データと地磁気による磁界信号データとを比較し、装置座標系における水平軸(x軸又はy軸)を磁北方向に変換する。
【0039】
次に、磁界補正処理部14は、データ記録部15Bに記録された航行方位データの磁北となす角度に基づき、図2に示すように、磁北方向に変換した水平軸(x軸又はy軸)を、航行方位(x’軸)と航行方位と直交する方位(y’軸)に変換する。このような動作により、磁界検知器11により検知された検知磁界Bの座標系が、航走体2の航行方位と直交し、且つ、海面と水平な座標系の補正磁界B’(Bx’,By’,Bz’)に変換される。
【0040】
(2)航走体による磁界の検出
図4は本発明の実施の形態1に係る横距離成分割合データの時系列データ例を示す図である。地磁気下で、磁性体構造物である航走体2が移動すると、磁界検知器11は、航走体2による磁界と地磁気による磁界とが重畳した検知磁界B(Bx,By,Bz)を検知する。尚、航走体2による磁界は、例えば、航走体内部に当該航走体から発する磁界を打ち消す為にコイルを有し、磁気の低減を図っている場合であっても、少なくとも1方向の磁界を検知できればよい。即ち、航走体2が発する磁界が1方向であっても、航走体2の移動により横距離方向成分の割合(後述)が変化するので、後述する最接近距離の算出が可能である。
【0041】
磁界補正処理部14は、磁界検知器11により検知された検知磁界Bを、上述した補正磁界B’(Bx’,By’,Bz’)に変換する。次に、変換した補正磁界B’に基づき検知磁界の大きさ(Bt’)に対する横距離方向成分(By’)の割合を以下により算出する。
【0042】
横距離方向成分の割合=By’/Bt’
Bt’=(Bx’2+By’2+Bz’21/2
【0043】
磁界補正処理部14は、算出した横距離方向成分の割合(By’/Bt’)を横距離成分割合データとしてデータ収集器15に記録させる。このような動作により、図4に示すような時系列データが得られる。尚、図4に示す横距離成分割合データは、航走体2の航行方位(x’軸)、航行方向と直交する方向(y’軸)及び海面と垂直な方向(z’軸)の全ての磁界を低減し、特に航行方向と直交する方向(y’軸)を顕著に低減した場合のデータ例である。
【0044】
このような、時系列の横距離成分割合データを、Bt’が最大値となる時刻、又は最大値を数秒過ぎた時刻まで記録する。
【0045】
(3)最接近距離の算出
図5は本発明の実施の形態1に係る横距離方向成分の割合の極値に対応する横距離のデータ例である。図5に示すように、データ記録部15Bには、航走体2と磁界検知器11との相対深度Dに応じた、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値に対応する横距離の情報(以下、横距離テーブルという)が記録されている。
【0046】
横位置算出演算部16は、上述した動作により、データ収集器15に記録された横距離成分割合データから、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値(極大値又は極小値)を取得する。次に横位置算出演算部16は、データ記録部15Bに記録されている横距離テーブル(図5)を参照し、取得した横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値に応じた横距離Yの値を得る。そして、この横距離Yの値と相対深度Dの値とにより、図3に示した当該移動体位置等検出装置1と航走体2との最接近距離Lを次式により算出し、算出した値を当該装置と接続される他の装置に出力する。
【0047】
最接近距離L=(Y2+D21/2
【0048】
尚、出力する情報は最接近距離Lに限らず、横距離Yの情報でも良い。また、最接近位置の情報を出力しても良く、横距離Y、相対深度Dの値及び航行方位の情報、又は航走体2の相対位置の情報、つまり補正後の座標軸における位置座標(x’,y’,z’)=(0,Y,D)の情報でも良い。
【0049】
尚、本実施の形態1においては、航走体2は海面を航行する船舶などの場合を説明したが、本発明はこれに限らず、海面又は海中を航走する磁性体構造物に対しても有効である。
【0050】
尚、本実施の形態1においては、横距離テーブル(図5)を参照して横距離Yの値を取得したが、本発明はこれに限らず、例えば所定の関数演算により横距離Yの値を求めても良い。
【0051】
以上のように本実施の形態1においては、海面又は海中を航行する航走体2により生じる磁界を3軸方向の各成分で検知し、検知磁界Bのうち、航走体2の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分(By’)を求め、検知磁界の大きさ(Bt’)に対する横距離方向成分(By’)の割合(By’/Bt’)求め、この横距離方向成分の割合(By’/Bt’)に基づいて、航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との最接近位置(距離)を推定することにより、最小自乗法などの繰り返し演算を行うことなく速やかに最接近位置(距離)を推定することができる。
【0052】
また、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)に基づいて横距離Yの値を求めているので、消磁コイルなどにより1又は複数方向の磁界が消磁されている場合であっても、少なくとも1方向の磁界を検出することができれば、航走体2の最接近距離を推定することができる。
【0053】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との相対深度Dは既知であるものとして、最接近位置(距離)の推定を行ったが、本実施の形態2においては、当該移動体位置等検出装置1が敷設された深度を検出し、検出した深度を相対深度Dとして、海面を航行する航走体2の最接近位置(距離)を推定する。
【0054】
図6は本発明の実施の形態2に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。図6に示すように、本実施の形態2においては、上記実施の形態1の構成に加え、移動体位置等検出装置1は、深度計17とA/D変換器13Cとを備えている。
【0055】
深度計17は、移動体位置等検出装置1(特に磁界検知器11)の、海面に対して鉛直な方向(z’軸)の距離である深度を計測し、計測に基づく電気信号(以下、深度信号という)に変換する。
【0056】
A/D変換器13Cは、例えばサンプリング等の処理を施して深度信号をデジタルデータの信号(深度信号データ)に変換する。ここで、磁界検知器11と深度計17との距離は、当該装置と航走体2との間の距離に比べ、無視できるほど小さいので、それぞれの座標系の原点が同じである(同位置にある)ものとする。
【0057】
さらに、本実施の形態2におけるデータ記録部15Bには、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値に対応する横距離の情報(以下、横距離テーブルという)が、複数の深度ごと、例えば所定深度範囲の所定間隔ごとに記録されている(例えば水深20m〜50mで1m間隔ごとの横距離テーブル情報)。
【0058】
このような構成により、本実施の形態2における移動体位置等検出装置1は、上述した実施の形態1と同様の動作により、(1)検知磁界の座標軸補正、(2)航走体による磁界の検出を行い、(3)最接近距離の算出において、横位置算出演算部16は、深度計17により検出された深度信号データに基づき、当該装置が敷設された深度に最も近い深度に対応した横距離テーブルを参照し、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値に応じた横距離Yの値を得る。そして、この横距離Yの値と深度データの値とにより、当該移動体位置等検出装置1と航走体2との最接近距離Lを算出し、算出した値を当該装置と接続される他の装置に出力する。
【0059】
以上のように本実施の形態2においては、上記実施の形態1の効果に加え、深度計17により海面からの深度を計測し、この海面からの深度を、海面を航行する航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との相対深度Dとしているので、移動体位置等検出装置1が、実際に海底又は海中に敷設された状態での深度における横距離テーブルを用いて、航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との最接近位置(距離)を推定することができ、より推定精度を向上させることができる。
【0060】
実施の形態3.
潮流の電磁誘導に起因するノイズの影響について説明する。地磁気を横切るように導電性媒質である海水が移動する(潮が流れる)と電磁誘導により誘導起電力が生じる。そして、磁界検知器11が地磁気下の海水中にあると、その周辺に発生した誘導起電力を要因とする浮遊ノイズが、磁界検知器11が検出する信号に重畳する。
【0061】
上述した実施の形態1及び2においては、横距離テーブルには、当該装置が敷設される位置(海域)における潮流の電磁誘導に起因するノイズも含んでいるので、潮流が一定又は潮流速が変動が少ない場合には、潮流の電磁誘導に起因するノイズの影響によって最接近位置(距離)の推定値の精度を低下させることはない。
【0062】
しかし、潮流の電磁誘導に起因するノイズは、潮流が速くなるほど多くなり、潮流速の変動は推定値の精度の低下を招くこととなる。
【0063】
そこで、本実施の形態3においては、当該移動体位置等検出装置1が敷設された位置における海水の速度を検出し、検出した海水の速度に応じて、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)を補正して、航走体2の最接近位置(距離)を推定する。
【0064】
図7は本発明の実施の形態3に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。図7に示すように、本実施の形態3においては、上記実施の形態1の構成に加え、移動体位置等検出装置1は、潮流計18とA/D変換器13Dとを備えている。
【0065】
潮流計18は、海水の移動速度(潮流の速度)を計測し、電気信号(以下、潮流信号という)に変換する。潮流計18についても、3軸方向における速度のそれぞれの成分を潮流信号として送信できるものとする。A/D変換器13Dは、例えばサンプリング等の処理を施して、潮流信号をデジタルデータの信号(潮流データ)に変換する。
【0066】
さらに、本実施の形態3におけるデータ記録部15Bには、潮流速度に対応する、横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値の補正値の情報(以下、補正テーブルという)が、予め記録されている。尚、本実施の形態3においては、補正テーブルを予め記憶する場合を説明するが、これに限らず、例えば潮流速を用いた所定の関数演算により補正値を算出しても良い。
【0067】
このような構成により、本実施の形態3における移動体位置等検出装置1は、上述した実施の形態1と同様の動作により、(1)検知磁界の座標軸補正、(2)航走体による磁界の検出を行い、(3)最接近距離の算出において、横位置算出演算部16は、潮流計18により検出された潮流信号データに基づき、検出された3軸方向の各成分をベクトル合成して潮流速度の大きさを求め、補正テーブルを参照して、この潮流速度の大きさに対応した横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値の補正値を得る。そして、この補正値を用いて横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値を補正する。
【0068】
次に、上述した実施の形態1と同様に、データ記録部15Bに記録されている横距離テーブル(図5)を参照し、補正した横距離方向成分の割合(By’/Bt’)の極値に応じた横距離Yの値を得る。そして、この横距離Yの値と相対深度Dの値とにより、当該移動体位置等検出装置1と航走体2との最接近距離Lを算出し、算出した値を当該装置と接続される他の装置に出力する。
【0069】
以上のように本実施の形態3においては、上記実施の形態1の効果に加え、潮流計18により海水の速度(潮流速度)を計測し、この海水の速度に応じて補正した横距離方向成分の割合(By’/Bt’)に基づいて、航走体2と移動体位置等検出装置1(磁界検知器11)との最接近位置(距離)を推定することにより、潮流速が変動して潮流の電磁誘導に起因するノイズが変動する場合であっても、推定値の精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る水平面での座標軸補正と航走体との横距離を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る垂直面での座標軸補正と航走体との最接近距離を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る横距離成分割合データの時系列データ例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る横距離方向成分の割合の極値に対応する横距離のデータ例である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る移動体位置等検出装置の構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0071】
1 移動体位置等検出装置、2 航走体、11 磁界検知器、12 傾斜計、13A A/D変換器、13B A/D変換器、13C A/D変換器、13D A/D変換器、14 磁界補正処理部、15 データ収集器、15A データ処理部、15B データ記録部、16 横位置算出演算部、17 深度計、18 潮流計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界検知手段により、海面又は海中を航行する移動体により生じる磁界を3軸方向の各成分で検知する磁界検知ステップと、
少なくとも前記移動体の移動方位の情報に基づき、前記検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、前記検知磁界の大きさに対する前記横距離方向成分の割合を求める磁界補正処理ステップと、
前記横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定する横位置算出演算ステップと
を有することを特徴とする移動体位置等推定検出方法。
【請求項2】
前記磁界検知ステップの前に、
前記磁界検知手段により、地磁気による磁界を3軸方向の各成分で検知するステップと、
海面に対して鉛直な方向に対する前記磁界検知手段の傾きを計測するステップと
を有し、
前記磁界補正処理ステップは、
前記磁界検知手段の傾きと、
前記地磁気による磁界と、
予め記録された地磁気による磁界の情報と、
前記移動体の移動方位の情報と
に基づき、前記検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求めることを特徴とする請求項1記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項3】
前記横位置算出演算ステップは、
前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度と、
前記横距離方向成分の割合の極値と、
予め記録された、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度に応じた、前記横距離方向成分の割合の極値に対応する距離に関する情報と
に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定することを特徴とする請求項1又は2記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項4】
前記横位置算出演算ステップは、
前記距離に関する情報として、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離の情報を用いることを特徴とする請求項3記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項5】
前記横位置算出演算ステップは、
前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度として、予め記録された相対深度の情報を用いることを特徴とする請求項3又は4記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項6】
前記横位置算出演算ステップの前に、
前記磁界検知手段の海面からの深度を計測する深度計測ステップを更に有し、
前記横位置算出演算ステップは、
前記磁界検知手段の海面からの深度を、海面を航行する前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度とすることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項7】
前記横位置算出演算ステップの前に、
潮流計測手段により、海水の速度を3軸方向の各成分で計測するステップを更に備え、
前記横位置算出演算ステップは、
前記海水の速度に応じて補正した横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の移動体位置等推定検出方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の移動体位置等推定検出方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
海面又は海中を航行する移動体により生じる磁界及び地磁気による磁界を3軸方向の各成分で検知する磁界検知手段と、
少なくとも前記移動体の移動方位の情報が記録されるデータ記録手段と、
少なくとも前記移動体の移動方位の情報に基づき、前記磁界検知手段が検知した検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求め、前記検知磁界の大きさに対する前記横距離方向成分の割合を求める磁界補正処理手段と、
前記横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定する横位置算出演算手段と
を備えたことを特徴とする移動体位置等推定検出装置。
【請求項10】
海面に対して鉛直な方向に対する前記磁界検知手段の傾きを計測する傾斜計測手段を更に備え、
前記データ記録手段は、地磁気による磁界の情報が記録され、
前記磁界補正処理手段は、
前記傾斜計測手段が計測した傾きと、
前記磁界検知手段が検知した地磁気による磁界と、
前記データ記録手段に記録された地磁気による磁界の情報及び前記移動体の移動方位の情報と
に基づき、前記磁界検知手段が検知した検知磁界のうち、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離方向成分を求めることを特徴とする請求項9記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項11】
前記データ記録手段は、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度に応じた、前記横距離方向成分の割合の極値に対応する距離に関する情報が記録され、
前記横位置算出演算手段は、
前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度と、
前記磁界補正処理手段が求めた前記横距離方向成分の割合の極値と、
前記データ記録手段に記録された距離に関する情報と
に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定することを特徴とする請求項9又は10記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項12】
前記データ記録手段は、前記距離に関する情報として、前記移動体の移動方位と直交し、且つ、海面と水平な横距離の情報が記録されることを特徴とする請求項11記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項13】
前記データ記録手段は、前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度の情報が予め記録されることを特徴とする請求項11又は12記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項14】
海面からの深度を計測する深度計測手段を更に備え、
前記横位置算出演算手段は、
前記深度計測手段が計測した深度を、海面を航行する前記移動体と前記磁界検知手段との相対深度とすることを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の移動体位置等推定検出装置。
【請求項15】
海水の速度を3軸方向の各成分で計測する潮流計測手段を更に備え、
前記横位置算出演算手段は、
前記海水の速度に応じて補正した横距離方向成分の割合に基づいて、前記移動体と前記磁界検知手段との最接近位置を推定することを特徴とする請求項9〜14の何れかに記載の移動体位置等推定検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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