説明

移動体用表示装置および移動体

【課題】タクシーなどの移動体を動く広告塔として活用し、運行会社にも、広告主にも、乗客にも歓迎されるとともに、公益に役立つ表示装置を提供する。
【解決手段】LED光源を用いて昼間でもよく見える表示灯とし、広告文を乗客が選択して走行することにした。広告を表示走行すれば広告主から乗客に対して走行距離に応じた恩典が提供される。
広告表示は非常時には乗務員の救難信号に切替え可能で、さらに天災やテロ対応時には公共的な警報を表示することも出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は動く広告塔すなわち、タクシーなど乗客から運賃を受け取る移動体を広告や広報の手段として活用する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
タクシーなどを動く広告塔として利用する方法はこれまでも多数提案されているが、みな旧来の慣習、固定概念に縛られており、広告主にとって魅力あるものではなく、あまり普及していない。その一つの要因として表示手段の性能がある。すなわち通り過ぎる移動体を見る数秒の間に歩行者や他の通行車両に明瞭なメッセージを伝達することは容易ではない。これを可能にする手段としては電光表示が有望であるが、車における電力の容量制限から十分な明るさの表示ができなかった。最近LEDの改良・実用化が進み、少ない電力で昼間でも明瞭な電光表示を行うことが可能となった。しかしながら、道路交通法その他の規制によって、電光表示装置の使用条件が厳しいので、いまだ実際に運行できる広告表示装置は実現していない。
【0003】
文献1では、定常走行時には広告を表示して、制動などの運転操作時には後続車への操作情報を表示している。また文献2では、速度検出器にもとづく制御を行って、表示形態を走行中は静止画とし、速度がゼロとなればスクロールさせて広告効果を高めている。同様に文献3では、停車中のみ広告を自動表示させている。また文献4では表示形態を流れ表示とするとともに、表示内容を外部から無線で供給している。
【0004】
広告タクシーを乗客の立場から見ると、市街を走る電光広告は非常に目立つものであり、乗客にとっては必ずしも気持ちのよいものではない。走行の当事者として何等かの見返りを期待する気持ちがある。ところが従来技術ではすべて、移動体が行う広告の対価である広告料は移動体の所有者または運行者が受け取る仕組みである。広告料の一部分は回り回って乗客の満足度向上に寄与すると推察されるが、乗客が実感できるやり方は未だ行われていない。すなわち、運賃の支払い者である乗客にとって納得の行く仕組みになっていないことが、これの普及を遅らせていると考えられる。なお、乗客に対して乗客が利用する可能性がある施設などの広告を見させて、ポイント付与や割引を行う方法が提案されているが、広告対象が乗客に限定されるので、広範な利用は期待できない(特許文献5、6参照)。
【特許文献1】特許2593725号公報
【特許文献2】特公平7−80435号公報
【特許文献3】実公平2−10143号公報
【特許文献4】特許2670017号公報
【特許文献5】特開2001−283089号公報
【特許文献6】特開2004−243106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、性能が向上した電光表示広告を活用し、関係する諸法規や規制に適合させることによって広告主にとって魅力的であるとともに、乗客にも満足を与え、タクシーなどの利用拡大をもたらす表示装置および移動手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明では、移動体の外に向けた室外表示部と、室外表示部の表示メニューを収録する記憶部または記録メディア再生部と、表示メニューを室外表示部に表示させる制御部と、移動体の運転状態検出部と、運転状態にもとづいて室外表示部の表示形態を静止表示または非静止表示のいづれかに選定して表示させる従来公知の移動体用表示装置に対して、次の改良を加えた。すなわち、広告の表示メニューを乗客に提示する室内表示部と、乗客の選択にもとづいて表示メニューを選択するメニュー選択部を装備して、乗客の選択した表示メニューを室外表示部に表示させるとともに、乗客の選択した表示メニューと走行記録をもとに、乗客に対する恩典を算出して出力するようにした。
【0007】
さらに、室外表示灯の表示面を移動体の前後方向にむけて装着し、表示灯を移動体の側方から見る視線と、移動体の軸線との成す角度が80度を超えると表示が視認不能であるようにした。すなわち移動体の真横からは表示灯の電光表示が見えず、真横から前後にそれぞれ10度を越える角度まで視線を振らなければ視認できない構造とした。
【発明の効果】
【0008】
上記の如く表示装置に改良を加えた結果、初めて乗客参加型の広告タクシーが実現した。乗客が直接恩典を受け取るので実質的に低料金となり、タクシーの利用拡大が期待される。高齢化社会となって自家用車を使用しない年金生活者が増える反面、地方都市では公共交通サービスが低下しており、より利用しやすいタクシーが望まれていた。本願発明はこれからの社会的ニーズに応えるものである。
【0009】
また移動体に装着する表示灯を第2発明の構成としたので、屋根の上にある表示灯の表示内容が通りに面した窓ガラスに映った反射像を、乗客が視認することが困難になった。これによって、乗客からの危害を察した乗務員が、乗客に気付かれることなく救難メッセージを表示して周囲に助けを求めることが出来るので、乗務員の安全確保に大きな効果が期待できる。また天災などの緊急時には広告表示を防災・避難の警報の広報にも利用できるので公益にも貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0010】
図1から図5は本発明をタクシーに適用した例である。図1において、1は移動体であるタクシー、2は乗務員が表示メニューの選択などを行うスイッチボックス、3は表示内容を収録したカードを読み取るカードリーダー、4は車両の運行状態を検出・表示して記録する車両メーター、5は本装置の制御をつかさどる制御盤、6は車室の外へ広告などを表示する室外表示灯、7は乗客と乗務員に対して室外表示灯と同じ内容を表示する表示画面、8は乗客に対する恩典を表示・出力するポイントカード発行機、9は基地局との連絡を行なう無線機である。図2は上記の機器構成を分かりやすく配列したものであり、機器の名称を機能的に表現してある。
【0011】
次にメニュー選択部2の構造と操作を図3によって説明する。21は起動スイッチであり、これを押下すると電源が入り電源灯22が点灯する。次に現在の車の状態に合わせてモード切替スイッチ23を操作する。すなわち、客待ちや駐車のときはOFFとし、走行状態に入るとスイッチを押下してONとする。このスイッチは押下するごとに走行と駐車のモードが切り替わる。なお、モード切替スイッチ23にかえて、駐車ブレーキの作動に連動する自動モード切替方式としてもよい。
【0012】
モード切替スイッチ23がONの状態で、24の表示切替スイッチが有効となり、これを1回押下するたびに室外表示灯の表示内容が、図4に示す順序で矢印1個分切替わる。図4は表示メニューの例であり、表示内容が矢印で示すように切替わって巡回し、同じプログラムで繰り返し表示する。この表示メニューは記録メディア再生部であるカードリーダーにカードを挿入することによって装填される。表示メニューは、広告主の立地するタクシー営業地域や、広告主の業種、広告を見る通行人の階層が異なる営業時間帯、などに合わせて必要数を用意して使いわける。
【0013】
図4に示す表示内容の切り替えは、走行中は乗務員が手動スイッチ24によって行なう。これは道路交通法ほかの規制に従うものであり、広告文を静止表示の状態としてタクシーが走行する。駐車中はモード切替スイッチ23を操作して駐車モードに切換える。駐車モードでは、表示内容がプログラムに従って自動的に切り替えられる。また、駐車モードでは表示を点滅あるいはスクロールさせるようにプログラムすることによって広告効果を高めることも出来る。
【0014】
図3において25はメニュー選択スイッチであり、押下するたびに表示メニューが切替わる。この切替スイッチを設けたことが本願の特徴であり、乗客の求めに応じて広告メニューを切り替えることができる。たとえば、昼食時に飲食店情報を必要とするときには飲食店を収録したプログラムを選ぶ。また、乗客にとって忌避したい広告を表示させない、あるいは積極的に宣伝に加担したい広告を選ぶなど、乗客の意向に沿った表示で走行することができる。なお、表示メニューを切替える機能を、運転手の手元スイッチボックスから記録メディア再生部であるカードリーダーに移してもよい。
【0015】
26は非常ボタンであり、これを押すことによって、どのような表示状態であっても室外表示灯に救難メッセージが表示される。この非常ボタンは主として、乗務員が乗客から危害を加えられる状態を察知したときに使用する。そのほかにも、運転手が発病して自分でボタン操作ができないときには他の同乗者が操作することもできる。また状況によっては乗客に気付かれないように非常ボタンを押さねばならない場合もあるので、別の非常ボタンを乗客から見えない所に配置するのがよい。
【0016】
運転状態検出部4は現在実用されている計測記録機器が利用できる。すなわち、走行・停止および駐車ブレーキの作動認識、走行時刻と距離の情報あるいはこれらによって算出された運賃情報を制御部へ提供できるものであればよい。
【0017】
室内表示部7は表示メニューを表示するとともに、走行後に運賃を表示し、運賃に応じて乗客に提供される恩典を表示する。8は7に並置されたポイントカード発行機であり、制御盤からの指令信号によってポイントカードを出力する。なお恩典の具体的な形は、この装置の運用者が自由に設定することができる。たとえば乗客ごとに乗客カードを発行して、これに加算記録する方法、ポイントシールを渡して台紙に貼着してもらう方法、あるいは直接に運賃の支払額を減額する方法その他運用地域における環境条件に合わせて種々選択できる。
【0018】
室外表示灯6は微小な発光素子を格子状に配列した公知の電光表示スクリーンである。発光素子は、昼間に少ない電力で鮮明に広告文を視認できるLEDが好適である。室外表示灯は車の真横からは見えないように配慮してある。すなわち表示面を車の前後方向に向けるとともに、図5に示すように発光素子61を収容する格子枠62を充分深くする。この構造によって車の真横から前後に10度を超えて視線を振らなければ、表示内容を視認できない。こうすることによって、タクシー強盗などが車内から、通りに面したガラス窓に映る救難メッセージを見る可能性が非常に低くなるので、乗務員に危害がおよぶ可能性が低くなる。
【0019】
ここで視認角度の限界値として真横から10度、すなわち車体の軸との交差角80度とした根拠はつぎの通りである。この限界値は、通常の運転における走行中の車と道路の交差角は数度以内であるというタクシーの運転操作実態に基づいている。これに少しの余裕を加えて限界角を10度とした。なおこの限界角を大きくすれば安全性は増すが、その反面で斜め側方からの視認範囲が狭くなるので広告効果は下がる。実用的には10〜15度が両者が均衡する好適な範囲である。
【0020】
上記のように構成した本願装置を搭載したタクシーにおける営業の代表的な例を説明する。乗客を迎えて、行き先を告げられると、モード切替えスイッチを押下して走行モードにして発車する。室内表示画面の表示を見てもらいながら、広告タクシーであることを告げ、広告主から乗客への恩典があることを説明する。乗客が広告の点灯を断れば広告なしの普通のタクシーとして運行し、恩典を提供しない。
【0021】
乗客が広告の点灯に同意すれば、次に表示メニューを示し、忌避する広告あるいは積極的に表示したい広告があれば選んでもらう。走行中の表示の切替えは乗務員が切替えスイッチ24を操作してプログラムに従って切替えられる。また、乗客の求めに応じて切替えなしで特定の広告文のみで走行することもできる。目的地に着くと室内表示画面に料金とともに広告主の店舗群で利用できるポイント数が表示され、料金が支払われるとポイントカードが発行され乗客に手渡される。客待ち状態になればモード切替スイッチ23を駐車モードに切替えて、当該地区の当該時間帯によってきめられたメニューを選択して表示する。
【0022】
次に室外表示灯を救難信号の発信に利用する手順を説明する。乗客の言葉や挙動から乗務員が危険を察知すれば、乗客から気付かれないように非常ボタンを押す。非常ボタンによって室外表示灯の表示は救難メッセージの点滅に切替わるが、室内表示画面は変化無くそれまでの広告表示を継続する。救難メッセージは後続車あるいは対向車、または斜め前後方の少し離れた位置にいる歩行者によって気付かれ110番通報が成される。
【0023】
この救難信号の発信は、室内からのボタン操作のみならず、異常を察知した基地局からの無線指令によっても起動できるようにしてある。すなわち、乗務員が受傷あるいは発病してボタン操作不能であると判断すれば、無線指令によって救難メッセージを表示して助けを求める。この無線指令の機能は、自治体からの指示によって天災やテロ攻撃などの警報を地域全体に、緊急に伝える広報手段としても利用できる。非常時広報においてはすべての広告タクシーが一斉に警報を表示して走行することになるので、外出中の人々には非常に有効な伝達手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 本発明実施例をタクシーに搭載した各部配置図
【図2】 本発明実施例の各部機能構成図
【図3】 本発明実施例のメニュー選択スイッチボックス
【図4】 本発明実施例における広告表示の切替えプログラム
【図5】 本発明実施例の表示灯光源の部分断面図
【符号の説明】
【0025】
1 タクシー(移動体)
2 スイッチボックス(メニュー選択部)
21 起動スイッチ
22 電源灯
23 切替スイッチ
24 表示切替スイッチ
25 メニュー選択スイッチ
26 非常ボタン
3 カードリーダー(記録メディア再生部)
4 車両メーター(運転状態検出部)
5 制御盤(制御部)
6 室外表示灯(室外表示部)
61 発光素子
62 格子枠
7 表示画面(室内表示部)
8 ポイントカード発行機(恩典出力部)
9 無線機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の外に向けた室外表示部と、室外表示部の表示メニューを収録する記憶部または記録メディア再生部と、表示メニューを室外表示部に表示させる制御部と、移動体の運転状態検出部と、運転状態にもとづいて室外表示部の表示形態を静止表示または非静止表示のいずれかに選定して表示させる移動体用表示装置において、
表示メニューを乗客に提示する室内表示部と、乗客の選択にもとづいて表示メニューを選択するメニュー選択部を備えるとともに、制御部は乗客の選択した表示メニューと走行記録をもとに、乗客に対する恩典を算出して出力する機能を有することを特徴とする移動体用表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の表示装置を装着して、乗客から走行の対価を受け取る移動体において、室外表示部は表示面を移動体の前後方向に向けて装着された表示灯であり、表示灯の表示面を見る視線と、移動体の軸線との成す角度が80度を超えると表示が視認不能であることを特徴とする移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−206658(P2007−206658A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51138(P2006−51138)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(506067121)有限会社サイベックス (1)
【Fターム(参考)】